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将来を担う日本の技術者教育のあり方

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Academic year: 2021

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将来を担う日本の技術者教育のあり方

宇都宮大学工学研究科教授 工学部長 工学博士 西田 靖 最近の若年者による犯罪の凶悪化は憂うべき状況ですが、犯罪の形態を見ていると大き な特徴があることに気がつく。社会心理学者はこれらの現象をどのように理解するのか分 かりませんが、工学者の立場で感ずる事を書いてみたい。青少年犯罪の形態は、私の世代 から見ると、いずれも“遊びの感覚”です。実行した内容が正に「ゲーム」である。すな わち、人や動物を傷つけたり、殺す事に何の抵抗感も無いように見える。勿論、事を起こ した後には大きな後悔を伴なっているのでしょうが・・・。これは何故であろうか?子供の 成長にとって一番大切な就学前から小・中学生時代に、“本物を知らない”で育った結果と 言えるのではないでしょうか。最近は現実と錯覚するゲーム、ビデオやテレビ等々が発達 し、子供は外に出て実物に触る経験も無く、あるいはものを作らないでも知識は大量に得 られる。揚げ句の果てにそれらの知識を全て“本物”と錯覚する。なぜなら、自分が経験 した事象が本物であるからです。一例を示そう。ある大学生は蝉の一生を事細かく知って いた。しかし、地中から出て一晩かけて羽化する事を実感としては知らなかった。ビデオ ではほんの数十秒でこの事象は終わる。この学生が私の家の庭で羽化中の蝉を夜中に初め てみたとき、驚嘆した。「蝉はうねうね動きグロテスクで気持ちの悪いものですね」と・・・。 ビデオでは知ることの出来なかった本物の感覚を知った瞬間である。 最近は携帯電話が発達し、事件となる犯罪を除いても、あまりにも多くの被害が目に付 く。例えば、自宅で普通に生活し学校へ通っている女子高校生数名から携帯電話のみ取り 上げてどのような反応を示すかのテストを行った例では2ー3日後には睡眠も十分に出来 なくなり、全員情緒不安定になったとのことである。現在、米国社会では、子供(大人も 同様であるが)のゲーム症候群の対策に頭を痛めているとのことである。あるいは、若年 者教育にコンピューターを多用すると本来持っている知能や創造性が十分に育たなくなる との主張が米国で行われている。 このような事柄を引くまでも無く、最近の社会は「バーチャル」に頼りすぎ、「リアル」を 体験できなくなり、何でも「シミュレーション」で終わらせてしまう風潮がある。この原 因の多くは、技術者(経営者を含めて)の責任とも言えるのではないでしょうか。現在、企業 はものを作り、売る事で利益を上げ、結果として企業人やその家族を養う。当然のことで はある。しかし、売れるものであれば何でも良いと言う思想に問題があると感じます。「デ ィズニーワールド社のマイク・アイズナー氏が「子供に夢を与えることがディズニー社の使 命と考えている」とのコメントを新聞紙上で読んだことがある。ディズニーの世界はリァリ ティー感の無い、夢のある物語が多く、私は子供の頃から大好きであったが、「さもありな ん」と同感した次第です。

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原子爆弾を製造し、第2次世界大戦を終結させた。我が日本はその原爆の初の犠牲者と して、核兵器廃絶を訴えている。一部の科学者は「パグウォシュ会議」を立ち上げ、科学 者の良心を問う事に力を注いだ。しかし、原爆でないゲーム器は良いのか?ビデオで育て るのは良いのか?私には原爆と異なるのは単なる時間差であり、人類への影響はもっと深 刻ではないかと考える。原爆は瞬間的・局所的であるが、こちらは全日本的・全世界的であ り、しかも長期に亘りじわじわ襲ってくる。技術者は自分が作り出すものに責任を持ち、 その社会への影響を真剣に考えるべきであろう。 本学では、「創造工学実践」として、工学部の学生全員に創造性を育成し、最低限度の技 術者の倫理観を養う教育を必修科目として始めた。その成果が出るには十数年は掛かるで あろうが、これらの行動を今から始めなければ日本の将来は極めて危ういと言うのが最近 の実感である。子供には、本物に触れさせ、怪我を体験させ、動物をいじめることの惨め さを体得させることを心掛けるべきでなかろうか。そのためには大人の自己改革が必須で ある。温故知新とはこのことではないであろうか?

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