<論説>放火罪に関する一考察
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(2) はじめに. 放火罪・失火罪は、火力によって建造物等を焼損する犯罪であり、典型的な公共危険罪である。放火罪における公. 共の危険とは公共の静誰のことだと解する判例もあるが、一般には、そのような抽象的かつ漠然としたものではなく、. 放火罪の性質を直視した実質的考察方法によって、より具体的かつ明確に建造物等の放火・焼損により生じる不特定. または多数の人の生命、身体、財産に対する抽象的・具体的な侵害可能性であると解されている。. 現住建造物放火罪(一 O八条)および非現住建造物放火罪(一 O九条一項)は、通説によれば、抽象的危険犯であり、. 放火・焼損行為があれば、その時点でつねに﹁公共の危険﹂が発生したと擬制される。これに対して、具体的な危険. の発生は不要であるが、抽象的にしても実質的な危険の発生は必要であるとする見解が示されるに至っている。ま. た、判例においても、物理的一体性ないしは機能的一体性を基準として、現住建造物に対する危険の発生についてこ れを実質的考察方法により判断してきているように思われる。. このように、放火罪については﹁公共の危険﹂概念を明確化・実質化する解釈論が展開されているが、現住建造物. の意義、焼損の意義、具体的危険犯における公共の危険の意義およびその認識などについて新たな問題が生じている。. 本稿では、 そのうちの現住建造物等放火罪における現住建造物の意義ならびに建造物等以外放火罪における﹁公共の 危険﹂の意義およびその認識について検討することとする。. 2. 第5 3巻第 3・ 4号. 近畿大学法学.
(3) 放火罪に関する一考察. 41E a E. 現住建造物の意義 ) 現住建造物の範囲 、. , ,. ω現行刑法一 O八条は、非現住建造物等放火罪に比べて、﹁現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物﹂等を. 焼損した者に対して死刑または無期もしくは五年以上の懲役という極めて重い刑による処罰を予定している。その根. 拠は、建造物等の内部にいる人に対する危険にあることは明らかである。その際、﹁現に人がいる建造物﹂等に対す. る放火罪については、このことが妥当するものの、﹁現に人が住居に使用﹂する建造物等も同様に解してよいかが問. 題となる。そこで、﹁現に人が住居に使用﹂する建造物とは何か、また、﹁現に人が住居に使用﹂するとはどのような 状態をいうのかが問われるのである。. ω現住建造物について、判例は、現に人の起居(起臥寝食)の場所として日常使用している建造物のことをいい、. 必ずしも昼夜間断なく使用している必要はないと解している。これは、学校の校舎内に宿直室などとして使用されて. いる場所があれば、このような生活の本拠ではなくても、学校の校舎が人の宿泊設備等を備えた部分との物理的・機. 能的一体性があれば現住建造物性を肯定できるとしたものである。この基準に従い、入浴客の休憩や食事する場所と. して使用されている建造物内の一室が住居として使用されている料理屈兼浴場、人の寝泊りする劇場、﹁待合業﹂を営. む家の離れ座敷になっている別棟の建物で、営業上客人が出入し、かつ起臥寝食の場所として使用している建物、勤. 務員の仮眠休憩施設があり、また、現に仮眠等に利用されていた派出所などについて、いずれも物理的・機能的一体. 3.
(4) 性を認めて現住建造物に当たると判一不されている。. ところで、放火した裁判所庁舎とは独立した建造物にある宿直室があり、執務時間以外も宿直員が庁舎内を巡視し. ている事案について、宿直員が庁舎を巡視することを理由として裁判所を現住建造物だとした裁判例がある。これは. 物理的一体性が認められない場合に、機能的一体性を認めて一個の現住建造物に当たると判断したものであるが、機 能的一体性のみで現住建造物性を認めている点で問題が残る。. 一個の. 複数の建物が廻廊等により接続されていた平安神宮社殿において、放火箇所の建物と人の現住する社務所・守衛詰. 所のある建物との距離が廻廊等の経由で二三一メートルある場合に、 その社殿は物理的一体性を有しており、. 4. 現住建造物に当たるかが問われた事件について、最高裁は、実質的考察方法により、①平安神宮社殿の各建物は、廻. 廊、歩廊づたいに一周しうる構造になっていたこと、②各建物は、すべて木造であり、廻廊等にも多量の木材が使用. されていたこと、③そのために、祭具庫、商翼舎等に放火された場合には、神職等が宿直していた社務所、守衛詰所. にも延焼する可能性を否定することができなかったとして、物理的一体性を認めるとともに、④昼間は外拝殿では一. 般参拝客の礼拝が行われ、内拝殿では特別参拝客を招じ入れて神職により祭事等が行われていたこと、⑤夜間には神. A切. 官、守衛等が宿直し、社殿の建物等を巡回し、神職とガードマンは社務所、守衛は守衛詰所でそれぞれ就寝していた ことにより、機能的一体性をも肯定したのである。. 一一一階建マンション内に設置されたエレベーターのかごの壁面を焼失させた事案について、最高裁は、. ションを構成していることおよびそのかごをその収納部分から取り外すには、四人がかりで一日の作業量を要するた. ベータ!がマンションの各居住空間の部分とともに、 それぞれ一体として住宅として機能し、現住建造物であるマン. また、. レ. ニ コ. 第5 3巻第 3・ 4号 近畿大学法学.
(5) 放火罪に関する一考察. め﹁投損しなければ取り外すことができない状態にある﹂場合に該当しているとして、物理的一体性を肯定し、さら. にエレベーターについて、 マンション居住者が各階聞の昇降に常時利用している共用部分であること、 それ故に、. こに人が居合わすなど存在し、また存在する可能性があることにより、機能的一体性を認めている。. 他方、放火した研修室がある研修棟と客室、 レストラン等が設けられており、夜間には研修棟をも巡回する従業員. が当直する宿泊棟とは一個の現住建造物にあたるかが問われた事件について、福岡地裁は、実質的考察方法により、. ﹁各建物が渡り廊下などの構造物によって相互に連結されていることを前提に、その構造上の接着性の程度、建物相互. 一個の現在建造物と評価すること﹂ができるか. 聞の機能的連結性の有無・強弱、相互の連絡、管理方法などに加えて、非現住・非現在の建物の火災が現在の建物に 延焼する蓋然性をも考慮要素とし、これらの諸事情を総合考慮して、. どうかという具体的かつ詳細な判断基準を示した上で、夜間には宿泊棟で当直勤務についている従業員により研修棟. への巡回も行われていることにより、機能的一体性は認められるが、防火設備およびその材質等に鑑みると二つの棟. を連結している﹁渡り廊下を経由して研修棟から宿泊棟へ延焼する蓋然性を認めるには合理的疑いが残る﹂として、. 一個の建造物には当たらないとしたものであり、 その. 物理的一体性を否定し、研修棟は、宿泊棟とは独立した、非現住・非現在建造物であると判示した。これは、機能的 一体性は認められても、物理的一体性が認められないために、 判断は妥当であると考える。. ω このようにして、現住建造物であると解しうるのは、実質的考察方法により、延焼の危険をその内実とする物理 師. 的一体性およびそこに存在し、存在する可能性のある人に対する危険を内容とする機能的一体性の双方が認められる. 範囲に限られると解すべきであろう。そして、このように解することが構成要件のいっそうの明確化に資するものと. そ.
(6) 考える。物理的一体性と機能的一体性は重畳的な関係ないしは前者の内実を後者が盛るという関係にあり、前者は現. 住建造物の範囲を画する必須的要件であり、後者はその十分要件であると考える。したがって、物理的一体性が認め. 一個の現住建造. られる場合には、機能的一体性も肯定されるのが通常であろう。しかし、物理的一体性が認められない場合に、機能. 的一体性のみで現住建造物との一体性を肯定するのは、罪刑法定主義の観点から疑義が生じよう。. 現住性の意義. ω放火した箇所がある建造物が現住建造物との物理的・機能的一体性を有していることによって、. 物に当たると解される場合でも、放火の時点で現に起臥侵食の場所として使用されていない場合には、現住性が失わ. れ、非現住建造物と評価されることになる。現住建造物については、現在建造物(一 O八条﹁現に人がいる建造物﹂)と. の対比からも、現に建造物等の中に現在することは要しないと解されている。留守等で一時の建造物に人が現在して. いなくても、建造物内部に存在する可能性のある人に対する危険の発生が認められれば、﹁現に人が住居に使用﹂す. る建造物等に対する放火罪は成立することは通説、判例が認めるところである。そして、 その場合でも、﹁住居﹂と. いう外延が画されており、住居に使用する建造物内部に存在する可能性のある人についても、単に建造物を訪れる(可. 能性のある)人に対する危険では足らず、建造物内部に立ち入る可能性が要求されると解するべきである。. そこで、﹁現に人が住居に使用﹂する建造物に対する放火罪の成立には、﹁住居に使用﹂する建造物であり、住居に 使用する建造物内部に立ち入る可能性のある人がいるかが問題となる。. この点に関して判例は、放火によって住居という使用形態に変更が生じたかどうかを判断枠とし、その具体的判断. 6. ( 2 ). 第5 3巻 第 3・ 4号. 近畿大学法学.
(7) 放火罪に関する一考察. その犯跡を蔽うために父母の死屍の横たわる家屋に放火し焼般した行為は、他に住居する者また. 要素(基準)の客観面として人の起居の場所としての日常使用性、 その主観面として居住者の意思を検討してきたも のと解される。. ω父母を殺害後、. 人の現在しない限り、非現住建造物放火罪に当たるとした判例は、殺害後の放火・焼般により人の起居の場所として. ω. 一時被告人から身を隠. の日常使用性および居住者の意思が消滅した結果、住居という使用形態に変更が生じたと判断して、現住性の喪失を 認めたものである。. しかし、放火当時は被告人からの無心、暴行等を避けるため、家財を隣家に預けて他泊し、. した場合について、放火された本件家屋には単に一時の不在となったにすぎないとし、放火当時は利用されていな. かったものの、炭焼きの山仕事に従事するときに一週間ないし一 O 日 ほ ど 継 続 し て 泊 り 込 み 、 年 間 を 通 じ て 半 分 以 上. 宿泊しており、 日常生活用品等の設備もある家屋について、夫婦関係の破綻により、放火の前日から、寝食の場所を. ω. 異にするほど険悪な状態になっていたものの、妻にはなお被告人との共同生活の意思を有しており、放火が家財道具. 搬出の数時間後であった場合について、被告人の暴力等により、妻は被告人との離婚を相当に固く決意して家出した. ことは認められるが、着の身着のままの状態での家出であり、本件家屋に衣類等日常の生活品を残したままであるこ. と、過去にも三度家出しているものの、 いずれも短期間で本件家屋に戻っていること、放火当時は妻が家出してから. ω. 半日も経過しておらず、妻にはなお被告人との生活をもう一度やり直す気持ちもなかったわけではなく、本件家展は. 自分の住居であるとの意思を有していたことなどの事実関係がある場合について、いずれの事案においても、その判. 断要素にかかる比重は異なってはいるものの、 日常使用性および居住者の意思の存在が認められ、現住性が肯定され. 7.
(8) ている。また、被告人の二男(当時中学一年)および長女(当時小学五年)は、被告人の放火の意図を知らず、親戚訪問. の名目で自宅を連れ出されたものである場合に、二人の子供には﹁居住の意思を放棄していたものとは到底認められ. ない﹂として、主観的要素に比重をかけて居住者としての意思の存在を認めているが、放火当時本件家屋における日. ω. 常生活性は当然前提にされていよう。. 他方、殺害された夫婦がその生前預かっていた幼女(当時五歳)を、被告人が被害夫婦殺害の翌日にその生家に連れ. て行き、 その両親の監護の下に復させた場合には、本件家屋の焼慨は幼女の住居に使用する家屋ではなく、被告人以. 外の者が居住しない家屋に対する放火であるとして、本件家屋の現住性は否定されているし、被告人が妻を刺殺し、. 瀕死の重傷を与えた次女も死亡したものと考え、自殺しようとして妻子と居住していた家屋に放火したが、被告人の. 長女(当時三歳三月余)は祖母方に預けられていたため殺害を免れたという事案について、裁判所は、被告人は放火直. 前本件家屋を住居とすることを放棄して放火したものであることおよび三歳三月余の長女については、 その住居は母. 的. 亡き後は、父である被告人の意思に従って定まるものであるから、被告人が放火直前本件家屋をその住居とすること. を放棄した以上、長女は本件家屋に居住するものではないとして、現住建造物放火未遂罪の成立を否定した。. ω これらの裁判例は、現住建造物であるか否かを判断するにあたり、放火当時、被害家屋の住居としての日常使用. 性を客観的基準とし、居住者の意思を主観的基準としたものである。 そして、後二者は、 いずれも居住者が幼女の場. 合に現住性は被告人の意思に従って定まるとして、居住の意思の存在を否定したものと解することができよう。ここ. で注目すべきは、家屋の住居としての日常使用性はあるものの、居住者の意思が被告人の意思に従って定まる場合が あることであろう。. 8-. 第5 3巻第 3・4号 近畿大学法学.
(9) 放火罪に関する一考察. 平成九年最高裁決定. ω現住性の意義を考える上で重要な判例が平成九年一 O月二一日最高裁第二小法廷から決定として出されたω。事実 の概要は以下のようなものである。. 被告人は共謀の上、火災保険金を編し取る目的で、被告人所有家屋に放火してこれを全焼させた。本件家屋および. その敷地は、被告人が転売目的で取得したものであるが、風目、洗面所、トイレ、台所等の設備があり、水道、電気、. ガスが供給されていて、 日常生活に最低限度必要なベッド、布団等の寝具のほか、テーブル、椅子、冷蔵庫、テレビ. 等の家財道具が持ち込まれていたところ、被告人は、本件家屋および敷地に対する競売手続の進行を妨げるため、人. がそこで生活しているように装うとともに、防犯の意味もかねて、自己の経営する会社の従業員五名に指示して、休. 日以外は毎日交替で本件家屋に宿泊させることとし、本件家屋の鍵を従業員二名にそれぞれ所持させたほか、会社の. 鍵置き場に鍵一個を掛けて、他の従業員らはこれを用いて本件家屋に自由に出入りできるようにした。その結果、平. 成三年一 O 月 上 旬 こ ろ か ら 同 年 一 一 月 一 六 日 夜 ま で の 聞 に 十 数 回 に わ た り 、 従 業 員 五 名 が 交 替 で 本 件 家 屋 に 宿 泊 し. て、近隣の住民の目から見ても本件家屋に人が住み着いたと感じ取れる状態になった。他方、被告人は、本件家屋お. よびこれに持ち込んだ家財道具を焼般して火災保険金を編取しようとして、放火予定日の同年一一月一九日から従業. 員五名を二泊三日の沖縄旅行に連れ出すとともに、 そ の 出 発 前 夜 に 宿 泊 予 定 の 従 業 員 に は 宿 泊 し な く て も よ い と 伝. え、留守番役の別の従業員には、被告人らの留守中の宿泊は不要であると伝えた。なお、被告人は、従業員らに対し、. 沖縄旅行から帰った後は本件家屋に宿泊しなくてもよいとは指示しておらず、従業員らは、旅行から帰れば再び本件. 家屋への交替の宿泊が継続されるものと認識していた。また、被告人は、旅行に出発する前に本件家屋の鍵を回収し. - 9. ( 3 ).
(10) ておらず、 その一本は従業員が旅行に持参していた。被告人らが沖縄旅行中の同月二一日午前O時四O 分ころ、共犯 者が本件家屋に放火してこれを全焼させた。. 第一審は、﹁現住性が認められるためには、当該建造物が特定人の生活の本拠として使用されていることまでは必要. ではなく、 日夜人が出入りし、寝起きの場所として用いられていることをもって足りる﹂と判示して、本件家屋が現. ω. 住建造物に当たることを認めた上、従業員らが沖縄旅行の前後を通じて本件家屋に寝泊りする意思を継続的に有して いたことを理由に、本件放火時においてその現住性は失われていなかったとした。. 控訴審は、現住建造物放火罪を特に重く処罰しているのは、公共財としての住居を保護すると同時に、住居はその. 性質上人が出入りする可能性が高いことから人の生命・身体に危険を生ぜしめるおそれが少なくない点を考慮したも. のと考えられ、したがって一 O八条にいう﹁現に人が住居に使用し﹂とは、現に人の起臥寝食の場所として日常使用. されているという客観的状況が存在すれば足り、 その使用が継続的であると断続的であるとを問わず、 いわんやその. 家屋等が人の生活の本拠として使用されているとか昼夜間断なく人が現在することまでは必要としないと解するのが. 相当であり、すでにみてきたような本件家屋の日常の客観的使用形態に即してみるならば、本件家屋はまさしく同条. にいう現住建造物にあたるといえるものである旨判示した上で、放火予定日の周年一一月一九日から従業員五名を二. 泊三日の沖縄旅行に連れ出すとともに、 その出発前夜に宿泊予定の従業員には宿泊しなくてもよいと伝え、留守番役. の別の従業員には、被告人らの留守中の宿泊は不要であると伝えたにとどまり、従業員全員に対しこれ以後は本件家. 屋に宿泊しなくてもよい旨を明示した事情はまったく存在せず、従業員らは、旅行から帰れば再び本件家屋への交替. の宿泊が継続されるものと認識していたのであって、沖縄旅行出発前夜に本件家屋に宿泊予定の従業員の宿泊を解除. 1 0. 一. 第5 3巻第 3・4号 近畿大学法学.
(11) 放火罪に関する一考察. し、留守番役の別の従業員には留守中の宿泊は不要である旨を伝えたからといって、これにより本件家屋の従前の客 州側. 観的使用形態まで変化したとみることはできないと判示した。. ω第一審、第二審ともに、﹁現に人が住居に使用﹂する建造物に対する放火罪の成立について、判例の立場を形式. 論理的にトレースし、人の起居の場所としての日常使用性および居住者の意思の存在を認めている。たしかに、現住. 性に関する客観的判断要素である住居としての日常使用性ついては、実質的考察方法により詳細に検討し、 日常生活. に必要な寝具、炊事用具、風日等の設備があり、被告人の指示により一定期間従業員らが交替して宿泊し、近隣の住. 民の目からみても本件家屋を住居として使用しているようにみられる状態に至っていたことが明らかであるとして、. これを認めてはいる。しかしながら、 その主観的判断要素である居住の意思の存在については、旅行出発前夜に宿泊. 予定の従業員には宿泊しなくてもよいと伝え、留守番役の別の従業員には留守中の宿泊は不要と伝えるなどにより、. 旅行中本件家屋に人が出入りする実質的な可能性はないにもかかわらず、本件家屋に出入りすることがまったく不可. 能である旅行中の従業員らは旅行後も本件家屋に寝泊りするであろうとの認識を有していたとし、さらに、被告人に. ついても、旅行中は宿泊不要である旨指示したにとどまるから、従業員らが旅行後も本件家屋に寝泊りすることにな. ると考えているであろうとの認識を持っていたと認められる以上、被告人には本件家屋の現住性の認識があるものと. いうべきであると判示したものであるが、この点は、実質的考察方法によらずに形式的抽象的考察方法により居住者 の意思の存在を認定したものとして、論理一貫性を欠くものといわざるをえない。. そこで、被告人側は、本件放火の実行を予定していた一一月一九日ないし一二日より前の遅くとも一一月一八日の. 段階においては、本件家屋には宿泊の実態が完全に失われており、定型的な意味での現住性は主観的にも客観的にも. 1 1.
(12) 喪失していたことは明らかであり、被告人においても本件家屋の現住性についての故意はなかったと主張して上告し た 。. ω最高裁は上告棄却の決定をした上で、本件における現住建造物等放火罪の成否について、職権で判断をした。そ の要旨は以下である。. 以上の事実関係に照らすと、本件家屋は、人の起居の場所として日常使用されていたものであり、右沖縄旅行中の. 本件犯行時においても、 その使用形態に変更はなかったものと認められる。 そうすると、本件家屋は、本件犯行時に. おいても、平成七年法律第九一号にいう﹁現一一人ノ住居ニ使用﹂する建造物に当たると認めるのが相当であるから、 これと同旨の見解に基づき現住建造物等放火罪の成立を認めた原判決の判断は正当である。. ω ﹁現に人が住居に使用﹂する建造物に対する放火罪の成否について、判例は、放火によって住居という使用形態. に変更が生じたかどうかを判断枠とし、 その具体的判断要素(基準) の客観面として人の起居の場所としての日常使. 日常使用性という客観面はともかくも、居住者の意思の有無という主. 用性の有無、 そ の 主 観 面 と し て 居 住 者 の 意 思 の 有 無 を 検 討 し て き て お り 、 本 件 の 最 高 裁 も 従 来 の 判 例 の 判 断 方 法 に 従ったものと解される。. ω において検討したように、. しかし、すでに. 観面に対する判断には疑問を感じざるを得ない。 それは、本件においては居住者の意思は被告人の意思によって定ま. るものと解するのが相当であるからである。旅行中の放火を指示した被告人の意思に左右される旅行中の従業員らに. はむろんこと、たとえ放火の準備・実行が従業員らに気づかれないようにするためであったとしても、旅行中宿泊予. 定の従業員には宿泊しなくてもよいと伝え、留守番役の別の従業員には留守中の宿泊は不要と伝えたことにより、こ. -1 2. 第5 3巻 第 3・ 4号. 近畿大学法学.
(13) 放火罪に関する一考察. れらの従業員にも居住の意思はありえず、 したがって旅行中本件家屋に人が出入りする実質的な可能性はなく、本件. における抽象的危険はその実質的内容を喪失していると解さざるを得ない。それにもかかわらず、旅行に出かけた従. 業員らが旅行後再び本件家屋への宿泊が継続されるものと認識していたとして、居住者の意思を形式的抽象的に認定. したのは、これまで現住性の意義について実質的考察方法によって検討してきたことに矛盾するものではなかろう , 刀. このようにして、居住者の意思という主観面を実質的に考察するとき、これによっては現住性を肯定することの妥. 当性を見出しがたいので、最高裁は、控訴審が説示もするように、居住者の意思は、人の起居の場所として日常使用. するという建造物の使用形態の変更・喪失の有無を認定するための一事情であり、 そ の 決 定 的 要 素 で は な い と 捉 え て いるようにも解される。. この点に関して、本決定が現住建造物性を判断するにあたり、 それが居住意思のみで決せられるものでなく、住居. としての﹁使用形態の変更﹂を一般的抽象的基準としたことは妥当であるとしつつも、被告人から宿泊指示の撤回が. なく、居住者も旅行後再び交替の宿泊が継続されるものと認識していたという事情は、住居としての使用に重要な変. 更がなかったことを示す本質的な事情であるとした上で、現住性が失われないとした本決定の論理と結論は強い説得. ω. 力をもっ、とする見解がある。しかし、これは、抽象的危険犯としての現住建造物放火罪の危険を形式的抽象的に捉. えたときの帰結であると思われるし、使用形態の変更の有無を居住意思から離れて形式的に判断する手法も、結局は. 日常使用性ではなく、居住意思の存在を使用形態の変更の有無を判断するための本質的事情とせざるを得ないことに なり、 かえって、 その結論の妥当性を失うことになろう。. 1 3~.
(14) ﹁現に人が住居に使用﹂する建造物に対する放火罪の成否について、放火によって住居という使用形態に変更が生じ. たかどうかを判断枠とし、 その具体的判断要素(基準)の客観面として人の起居の場所としての日常使用性の有無、. その主観面として居住者の意思の有無を実質的考察方法により検討するならば、居住者の意思が被告人の意思により 左右される限り、本件において現住性の意義は喪失していると思われる。. このことに関連して、本件の事案において、現住建造物の成立を肯定しうるとすれば、 それは、家屋の鍵は会社の. 鍵置き場にあり、従業員はそれを用いて家屋に自由に出入り可能な状態にあり、また留守番役の従業員には留守中の. 一見すると妥当な論理であるように思われるが、人が建造. 宿泊は不要であると伝えたのみであるため、会社の鍵を利用して、家屋内に立ち入る可能性があったという点に求め. ω. 1 4. るほかないように思われる、とする見解がある。これは、. 物の内部に立ち入るわずかな可能性にしか危険を認めることができないほどに、本件における抽象的危険はその実質 的内容を喪失していると解さざるをえない。. まとめ. そこに存在し、存在する可能性のある人に対する危険を内容とする機能的一体性の双方が認められるものに限られる. そこで、現住建造物の範囲については、実質的考察方法により、延焼の危険をその内実とする物理的一体性および. あったかどうかにより判断されるべきであるとするものであり、妥当な方向であると思われる。. 共の危険の発生の解釈は、これを形式的抽象的に捉えるべきではなく、実質的考察方法により実質的な危険の発生が. 現住建造物等放火罪は公共危険罪であり、抽象的危険犯として位置づけされている。しかし、学説・判例による公. ( 4 ). 第5 3巻第 3・ 4号 近畿大学法学.
(15) 放火罪に関する一考察. と解すべきであり、機能的一体性のみで現住建造物性を肯定すべきではない。また、﹁現に人が住居に使用﹂する建. 造物に対する放火罪については、﹁住居に使用﹂する建造物であり、住居に使用する建造物内部に立ち入る可能性の. ある人がいるかが問題となるが、 その判断に当たっては、実質的考察方法により、放火によって住居という使用形態. に変更が生じたかどうかを判断枠とし、 その具体的判断要素(基準)の客観面として人の起居の場所としての日常使. 用性、 その主観面として居住者の意思を検討すべきであるが、居住者の意思が被告人の意思により定まる場合には現. 具体的危険犯の放火罪における﹁公共の危険﹂の意義. 住性は喪失すると解すべきである。. 噌. .. 、,,, (, 判例・学説. 公共の危険が建造物等への延焼の危険に限定されるかどうかについて、限定説と非限定説とがある。. 限定説の代表的な判例は、明治四四年大審院判決である。それは、刑法一一 O条にいう公共の危険とは刑法一 O八. 一般不特定の多数人が一 O八. 条および一 O九条一項の建造物等に延焼する危険のことである旨説示した上で、藁ぐろを焼慨した事案について放火 当時人家なき水田の方面に風が吹いていた場合でも気象は瞬時に変化するものであり、. ω. 倒. 条・一 O九条の物件に延焼する結果を発生すべきおそれがあると思料しうる状態であるから、人家に延焼する(具体. 的)危険の発生はある旨判示しており、これを踏襲する裁判例もある。また、この基準に従い、人家から遠く離れた. 山腹の炭焼き小屋に放火したが、小雨が降っていた上に付近の雑木は取り払われ、被告人も延焼がないよう監視して. 1 5.
(16) 聞. いるなどにより、延焼の危険がなかった事案や付近のアパートとの距離が約0 ・五メートルしかない駐車場に駐車し. 一 一 O条 一 項 の 成 立 が 否 定 さ れ て い る 。 さ ら に 、 公 共 の 危 険. 2. ている他人の自動車のボディカバ 1 にライターで放火したが、火力の程度や延焼状況か りして、付近の建造物への延 側. 焼の危険がなかった事案では、いずれも一 O九条二項、. とは建造物等への延焼により不特定多数人の生命・身体または財産の安全が侵害されるおそれがあると感ぜしめるに. 相当な状態をいうとして、橋梁を放火・焼慨した事案について、他に延焼の危険がないとして刑法一一 O条 の 罪 は 成 立せず、往来危険罪のみが成立するとしたものもある。. ここでは、判例は、具体的危険犯の放火罪の成立には、公共の危険の発生、すなわち一 O 八条・一 O九条一項にい. う建造物等に延焼し、 そこに現住・現在する不特定または多数の人の生命、身体、財産に対する侵害可能性が発生す. るおそれがあると一般不特定の多数人が思料しうる状態が必要であると解しているが、危険の発生を否定した下級審. においては、公共の危険の発生は一般不特定の多数人の不安感ではなく、客観的に判断によって判断されていること に注意を払うべきである。. それゆえに、この判例を意識してか、検察官が、建造物等への延焼の危険の認められる事案については刑法一一 O. 条の放火罪として起訴し、 その危険が認められない場合には器物損壊罪として起訴するにとどめ、裁判所もこのよう な基準に沿って判断をするのが実務の大勢を占めていた旨の指摘があるのである。. 学説においても、この判例を直視して、公共の危険の重大性は、﹁燃え広がり﹂の危険、すなわち、建造物等への. 延焼により、不特定・多数人の生命・身体・財産に対する危険が生じるところにあるが、 そ れ は 判 例 の ご と く 一 般 人. の不安感を基準とすべきではなく、物理的・経験的な蓋然性を基準として客観的に判断される必要があると指摘され. 1 6. 第5 3巻 第 3・ 4号. 近畿大学法学.
(17) 放火罪に関する一考察. A. ず﹄、. カ、l. J 1L. 一条とは異なり一一 O条は延焼対象物を具体的に特定していないが、抽象的危険犯である現住建造. 駐車場にとめられていた被害車両に、ガソリン約一・四五リットルを車体のほぼ全体にかけこれにライターで点火し. 被告人は、妻と共謀の上、長女が通学する小学校の担任教諭の所有にかかる自動車(被害車両)に放火しようと企て、. 重要な判例である。その事実の概要は以下のようなものである。. ω最高裁決定平成一五・四・一ω 四は、公共の危険の意義について非限定説の立場に立つことを明らかにした極めて. 平成一五年最高裁決定. 不特定または多数人の生命・身体・財産に対する危険であると解すべきであろう。. ω. 一一条との整合性を考慮に入れるならば、ここでの公共の危険の意義も建造物等への延焼の危険であり、これによる. 物等放火罪および非現住建造物等放火罪における公共の危険が実質的考察方法により延焼の危険と解されることや一. 式. 人の生命・身体・財産に対する危険でもあると解している。. ω. 学説の多数は、公共の危険とは、現住建造物等ないし非現住建造物等への延焼の危険に限らず、不特定または多数. ものがある。. おいて、パスの焼般により乗客らの生命に危険を生じさせたとして、刑法一一 O条一項の放火罪の成立が認められた. が乗車していたパス車内の床上に、火の点いた新聞紙を投げ入れ、 そ の 上 に ガ ソ リ ン を 振 り ま い て 炎 上 さ せ た 事 案 に. 非限定説に立ち、建造物等以外に対する延焼等の危険により公共の危険の発生を認めた裁判例としては、乗客多数. るOω. ( 2 ). 1 7. て.
(18) て放火した。被害車両は、市街地にあって、公園および他の駐車場に隣接し、道路を挟んで小学校や農協の建物に隣. 接する駐車場に駐車されており、北向きにとめられていた被害車両から西側へ三・八メートルの位置に一台の自動車. (第一車両)が、さらに西側へ0 ・九メートルの位置に別の自動車(第二車両)がそれぞれ無人でとめられていた。さら. に、被害車両から東側へ二一・四メートルの位置には周囲を金網等で囲んだゴミ集積場があって、本件当時約三O Oキ ロの可燃性のゴミが置かれていた。. ω. 第一審判決は、駐車中の他の自動車等に延焼するおそれのある状態を発生させたことにより公共の危険を生じさせ. た 旨 判 示 し 、 第 二 審 判 決 も 、 限 定 説 に 立 っ た 控 訴 に 対 し 、 刑 法 一 一 O条 一 項 の 公 共 の 危 険 の 発 生 が 建 造 物 等 へ の 延 焼. の危険に限定されるわけではなく、 そ れ 以 外 の 財 産 に 対 し て 延 焼 の 危 険 が 発 生 し た 場 合 も 含 ま れ る 旨 説 示 し 、 被 害 車. 両 へ の 放 火 に よ る 第 二 第 二 車 両 へ の 延 焼 の 危 険 の 発 生 を も っ て 、 いずれも建造物等以外放火罪の成立を認めた。こ. れに対して、被告人側が上告し、限定説に立った上で、原判決は大判明治四四・四・二四の判例等に違反し、法令の 解釈を誤っているなどの主張をした。. ω最高裁は上告棄却の決定をした上で、本件における現住建造物等放火罪の成否について、職権で判断をした。そ の要旨は以下である。. 刑法一一 O条にいう公共の危険は、同法一 O八条および一 O九 条 一 項 に 規 定 す る 建 造 物 等 に 対 す る 延 焼 の 危 険 に 限. られるものではなく、不特定または多数の人の生命、身体または建造物等以外の財産に対する危険も含まれると解す. るのが相当である。 そ し て 、 市 街 地 の 駐 車 場 に お い て 、 被 害 車 両 か ら の 出 火 に よ り 、 第 一 、 第 二 車 両 に 延 焼 の 危 険 が. 及 ん だ こ と な ど の 事 実 関 係 の も と で は 、 刑 法 一 一 O条 一 項 に い う ﹁ 公 共 の 危 険 ﹂ の 発 生 を 肯 定 す る こ と が で き る と い. 1 8. 第5 3巻第 3・4号 近畿大学法学.
(19) 放火罪に関する一考察. うべきである。本件について同項の建造物等以外放火罪の成立を認めた原判決の判断は、正当である。. ωすでに検討したように、建造物以外放火罪は具体的危険犯として規定され、公共の危険の発生が明定されている。. 明治四四年大審院判決によれば、刑法一一 O条にいう公共の危険とは刑法一 O 八条および一 O九条一項の建造物等に. 延焼する危険のことであるが、 それは、延焼の危険が発生することにより、不特定または多数の人の生命・身体・財 産に対して危険が及ぶおそれがあるからである。. 本判決は、刑法一一 O条一項の公共の危険には、刑法一 O 八条および一 O九条一項の建造物等に延焼する危険およ. びその延焼により生じた不特定・多数人の生命・身体・財産に対する危険のみならず、 そ の よ う な 延 焼 を 介 さ ず に 被. 害物件自体の延焼から生じた不特定または多数人の生命・身体・財産に対する危険をも含まれるとの立場を前提にし. て、駐車中の被害車両への放火・焼損により、これに隣接して駐車中の車両二台および隣接するゴミ集積場に延焼の 危険を生じさせた場合にも建造物等以外放火罪の成立を認めたものである。. 非限定説の立場からは、公共の危険の発生と延焼の危険の発生とは必ずしも同じではなく、火力による火傷の危険. 川糊. ω. や消火行為に出た者が火傷を負う危険などのように延焼の危険と無関係に生じる危険までも公共の危険に含まれると. 主張されるが、本判決の立場はこのような論理と軌を一にするものと考えられる。ここでは公共の危険の実質的意義. の希薄化と拡散によって建造物等以外放火罪の成立範囲が不必要に拡張されていることが憂慮される。. 刑法の謙抑性や建造物等放火罪の体系的位置か=りして、具体的危険犯における公共の危険は、前述のように、建造. 物等への延焼の危険とこれにより生じた不特定または多数の人の生命・身体・財産に対する危険に限定すべきであろ う。そうするとき、本件について一一 O条一項の罪は成立しないものと解する。. 1 9.
(20) ω 一一 O条一項の公共の危険の意義については、公共の危険発生の認識との関係で論議されてきた経緯があるω。. 判例は、刑法一一 O条一項の罪は﹁因って公共の危険を生ぜしめた﹂場合に成立するものにして、公共の危険を生. ぜしめたることをもって当該犯罪構成の要件となせども、火を放ち同条所定の物を焼慨する認識があれば足り、公共. の危険を生ぜしめる認識は必要でない旨判示して、認識不要説の立場を明らかにしている。学説にも不要説はあり、. 一 O八条・一 O九条一項の故意があり未遂が成立することとなって一一 O. 判例と同様に、 その罪を結果加重犯として捉え、公共の危険が一 O 八条・一 O九条一項にいう建造物等に対する延焼 の危険と解する場合、 その認識があれば、 条一項を空虚なものにするというのがその理由である。 帥. 一 O八条・一 O九条一項の放火罪の故意や器物損壊罪(二六一条)と区別する意味においても、公共の危険の認. 一般人の. 2 0. これに対して、学説の多数は認識必要説に立っている。 一 一 O条一項については、責任主義の原則から考えても、 また、. 識は、これを必要とすると解するべきであろう。ただ、 それは、建造物等への延焼の危険の認識ではなく、. ω. 抱く延焼の危慎感といった微妙なものにならざるをえない。. まとめ. 含むとする非限定説とがある。後者の非限定説は、公共の危険の実質的意義を希薄化し、建造物等以外放火罪の成立. この危険とは別個に被害物件自体の放火・焼損から生じた不特定または多数の人の生命・身体・財産に対する危険を. 特定または多数の人の生命・身体・財産に対して生じた危険を含むとする限定説と、建造物等への延焼の危険および. 具体的危険犯である建造物等放火罪における公共の危険については、建造物等への延焼の危険およびそれによる不. ( 3 ). 第5 3巻 第 3・ 4号. 近畿大学法学.
(21) 放火罪に関する一考察. 要件を緩めて処罰の不必要な拡大となるおそれがあり、刑法の謙抑性や建造物等以外放火罪の体系的位置および刑法. 一一条との整合性などから、限定説が妥当である。平成一五年最高裁決定は、非限定説に立つことを明らかにした が、叙上の批判が妥当する。. また、公共の危険発生の認識は、 それが一般人の抱く延焼の危慎感程度のものであるとしても、責任主義の原則や. 団藤重光・向上一八七頁。 山口厚﹃刑法各論︹補訂版︺﹄三六八頁。. 団藤重光﹃刑法綱要各論︹第三版︺﹄一八七頁。. 大判大正一一・一二・一一二刑集一巻七五四頁。. 一 定. 故意犯処罰の見地、器物損壊罪との区別の趣旨から考えて、 これを必要とすると解すべきである。. ω ω ω ω. 。山口厚﹃危険犯の研究﹄二一二頁以下、同﹃問題探求刑法各論﹄二二七頁。. 制 大 判 大 正 二 ・ 一 二 ・ 二 四 刑 録 一 九 輯 一 五 一 七 頁 は 、 刑 法 一 O 八条にいわゆる現に人の住居に使用する建造物とは現に人の起 臥寝食の場所として日常使用されている建造物をいうものであり、昼夜間断なく人の現在することを必要としないのであって、. 学校の校舎の一室を宿直室にあて宿直員に夜間宿泊させている場合にはその校舎は現に宿直員の起臥寝食の場所として日常使. 用されているものであるから、現に人の住居に使用する建造物であるということができ、原判決の証拠に依れば校舎階下の一室. は学校の新築落成後九月頃より M の 宿 直 室 に あ て ら れ 同 人 は 夜 間 そ の 所 に 宿 泊 し て い る こ と か ら 右 校 舎 は 現 に 同 人 の 住 居 に 使 用する建造物であると認めることができる旨判示したものである。. 的大判明治四五・三・二一刑録一八輯二六六頁も、同様に、学校の宿直室は宿直員の起臥侵食にあてられた場所であり、寄宿. D. 舎もまた寄宿学生の同様の用に供せられた場所であって、学校が閉鎖されない以上、反対の明示のない限り、当然宿直員の勤. 務、在寮生の存在あるべきものといえるから、両者いずれも現に人の住居に使用する建造物である旨判示している. 制 大 判 昭 和 九 ・ 一 一 ・ 一 五 刑 集 一 三 巻 一 五O 二頁。これは、保険金詐欺目的で飽屑にマッチで火をつけて新館を全焼させたが、. 2 1.
(22) 最判昭和二四・二・一一二刑集三巻二号一九八頁。これは、泥酔して劇場内で寝込んでしまい、見廻りの者に怪しまれて場外. の要件ではない旨判示したものである。. いて、建造物は現に人の住居に使用し、または人の現在するものであれば足り、その建造物使用の主な目的がどうであるかはそ. 新館の主たる使用目的は入浴客の休憩や食事などに使うことであったが、その一室は現に被告人の妾が使用していた事案につ. ω. に突き出されたことに憤慨し、劇場東側に接着する便所の傍らにあった炭俵にライターで点火したが、便所の羽目板の一部(高. さ五尺九寸ないし一尺五寸、深さ一分ないし三分に及ぶ範囲)を焼慨したのみで、劇団員に発見され消し止められた事案につ. いて、被告人が本件劇場に放火しようと考えていたことを認定した上で、﹁右劇場には、人が寝泊りしていることを被告人が. 知っていたこと、及び、放火の結果、既に独立燃焼の程度に達する焼般のあったことも、右証拠に照らして明らかであるから、. 原判決が、被告人の右の所為に対して、刑法一 O 八 条 の 既 遂 罪 を も っ て 、 問 擬 し た の は 正 当 ﹂ で あ る 旨 判 示 し た も の で あ る 。. MW 最 判 昭 和 二 四 ・ 六 ・ 二 八 刑 集 三 巻 七 号 一 一 二 九 頁 。 こ れ は 、 待 合 業 を 営 む 被 害 者 か ら 娘 と の 離 別 を 申 し 出 ら れ た こ と を 契 機. として、日ごろの仕打ちへの仕返しをしようとして、離れ座敷内の座布団に穴をあけそこに火のついた煙草を押し込んで放火し. 最決平成一・七・七判タ七一 O号一二五頁。. 最決平成一・七・一四刑集四三一巻七号六四一頁。. 山口厚﹃問題探求刑法各論﹄一三二頁。. 大判大正二一・六・九刑録二O輯一一四七頁。. 札幌地判平成六・二・七判タ八七三号二八八頁。. くても、刑法一 O 八条にいわゆる﹁現ニ人ノ使用スル建造物﹂にあたる旨判示したものである。. いる別棟の建物で、営業上客人が出入し、かつ起臥寝食の場所として使用している建物は、昼夜間断なく人が使用するものでな. 家屋一棟の中押入れの上段及び天井ならびに屋根を焼般した事案について、いわゆる﹁待合業﹂を営む家の離れ座敷になって. ω ω ω ω ω. MW 福岡地判平成一四・一・一七判タ一 O九七号二一O 五頁。. 間山口厚・前掲書側二三一一頁は、﹁物理的一体性を補完する要素としては機能的一体性にも意義があ﹂るとするが、現住建造物 といえるためには双方が共に認められる必要があろう。. 制 中 森 喜 彦 ﹃ 刑 法 各 論 ﹄ 二O 四 頁 、 井 田 良 ﹁ 放 火 罪 を め ぐ る 最 近 の 論 点 ﹂ 阿 部 純 二 ほ か 編 ・ 刑 法 基 本 講 座 ( 六 ) 一 九 四 頁 、 山 山口厚・前掲書. ω 二二九頁。. 中 敬 一 ﹁ 刑 法 各 論E﹄四九一頁などは、いずれも機能的一体性のみで現住建造物との一体性を認めることに消極的である。. ω. 2 2. 第5 3巻第 3・ 4号. 近畿大学法学.
(23) 放火罪に関する一考察. 最決昭和三七・一二・四裁判集刑事一四五号四三一頁。. 横浜地判昭和五八・七・二O判時一一 O 八号一一二八頁。. 東京高判昭和五四・一二・二二東高刑時報二一O巻一二号一九二頁。. 東京高判昭和三一八・一二・二三高検速報一一七三号。. 高松高判昭和一三・一・二五高刑裁特一二巻一九号八九七頁。. 側大判大正六・四・一三刑録二三輯三一二頁。. ω ω ω ω ω 。 側松江地判昭和三一二・一・二一第一審刑集一巻一号五O頁 的 福 岡 高 判 昭 和 三 八 ・ 一 二 ・ 二O下刑集五巻一一一二号一 O九三頁。. 最決平成九・一 0 ・一二刑集五一巻九号七五五頁。最高裁判所判例解説では、﹁本決定は、現住建造物に当たるかどうかやや. 刑集五一巻九号七九一頁。. なる判例ということができよう﹂と評されている(中谷雄二郎・法曹時報五O巻六号一七七一頁)。. 微妙な事例についてこれを肯定したものであって、先例的価値があるとともに、現住建造物等放火罪の性質を考える上で参考に. MW. ω. 井田良・平成九年度重要判例解説(ジュリスト一一三五号一六四頁)。. 側 刑 集 五 一 巻 九 号 八O 四頁。. ω ω ω. 大 判 明 治 四 四 ・ 四 ・ 二 四 刑 録 一 七 輯 六 五 五 頁 は 、 具 体 的 に は 、 刑 法 一 一 O条 に い わ ゆ る 公 共 の 危 険 と は 、 同 条 所 定 の 物 件 の. 倒山口厚・前掲書. ω二三O頁。. 。 中谷雄二郎・法曹時報五O巻六号一七七O頁. 武田誠﹃放火罪の研究﹄七頁以下参照。. ω. 放火行局によりて一般不特定の多数人をして刑法一 O 八条および一 O九 条 の 物 件 に 延 焼 す る 結 果 を 護 生 す べ き お そ れ あ り と 思 料せしむるに相当な状態を指称するものに外ならない旨判示している。. 側仙台高秋田支判昭和三一一・一二・一 O高裁刑判特四巻二四号六五四頁は、明治四四年大審院判決を踏襲して、刑法一一 O条. に﹁公共ノ危険﹂とは、放火行為によって一般不特定の多数人をして、同法一 O 八条および一 O九 条 の 物 件 に 延 焼 す る 結 果 を. 発 生 す る 虞 が あ る と 思 わ せ る に 相 当 な 状 態 を い う と 判 示 し て い る 。 ま た 、 東 京 高 判 昭 和 五 七 ・ 五 ・ 二O 刑 集 三 八 巻 六 号 二 一 四. 四頁も、刑法一一 O条にいう公共の危険とは、一般不特定の多数人をして同法一 O 八条、一 O九条一項の物件に延焼する虞れが. あると危慎させるに相当する状態を指称するとして、放火行為者らが、ポンコツ車が置かれていた鉄骨トタン葺平家建作業場兼. 2 3.
(24) 車庫から約五・三メートル離れた位置に置いた普通乗用車に放火し焼慨した際、その作業場は火焔がその内部に及びやすい構. 造であり、その乗用車炎上の際の火力もその炎が地上から三メートルの高さに及ぶほどの強いものであり、作業場に隣接してト. タン葺平家立住宅などがある場合に、放火行為者は付近の建造物に延焼する危険を強く感じていたが、通常人をしてそれらの建. 造物に延焼する危険を強く感じさせることが明らかであり、放火行為者らの所為によって通常人をして前記各建造物に延焼す る虞があると危慎させるに足りる状況がつくり出されたことは否定できない旨判示している。 的広島高岡山支判昭和二一0 ・一一・一五高裁刑事裁判特報二巻二二号一一七三一頁。. 側 浦 和 地 判 平 成 二 ・ 一 一 ・ 二 二 判 時 二 二 七 四 号 一 四 一 頁 は 、 公 共 の 危 険 に つ い て は 、 刑 法 一 O八条・一 O九条一項の物件に延. 焼する危険、その他不特定多数人の生命・身体・財産を侵害する危険をいうのであり、その危険が発生したというためには、. 一般通常人をして延焼のおそれがあると危慎させるに相当する状態に至ったことをいい、その判断は発火当時の諸般の事情を. 基礎にした合理的判断による旨判示するが、公共危険の発生否定の内実は人家への延焼の危険がないということである。. 倒 名 古 屋 地 判 昭 和 三 五 ・ 七 ・ 一 九 下 刑 集 二 巻 七 / 八 号 一 O七 二 頁 は 、 非 限 定 説 に 立 っ て い る よ う に も 思 わ れ る が 、 建 造 物 等 へ. の延焼の危険発生の有無がその判断の実質的内容であると解することができる。同様のものとして、松江地判昭和四八・三・ 二七刑裁月報五巻三号三四一頁がある。 側 芹 津 政 治 ・ ジ ュ リ ス ト 二O O四年一月号一六八頁。. ω 山中敬一・前掲書側四九八頁、山口厚・前掲書ω二一八四頁。なお、西田典之﹃刑法各論﹄二八七頁も、公共の危険の実態を O 八条・一 O九条物件への延焼の危険であると解し、これを一一一条との整合性により補強している。 一 ω 東京地判昭和五九・四・二四刑月一六巻三・四号三一三頁。その他に、建造物等への延焼のほか、人の生命・身体・財産に. 対する危険の発生を含む旨の判示がなされているものに、名古屋地判昭和三五・七・一九や松江地判昭和四八・三・二七側、. 浦和地判平成二・一一・二二判時一三七四号一四一頁側があるが、これらの危険発生の有無の判断対象は建造物等への延焼で ある。. ω 藤木英雄・注釈刑法三巻一七七頁、林幹人﹃刑法各論﹄三二八頁、山口厚・前掲書凶コ一八三頁、山中敬一・前掲書側四九八 頁など。 書 二八七頁、山口厚・前掲ω ω 西国典之・前掲ω 書 二三九頁、同・前掲ω 書 コ一八四頁。 ω 刑集五七巻四号四四五頁。 働大津地判平一二・一一・一二刑集五七巻四号四五二頁。. 2 4. 第5 3巻第 3・4号 近畿大学法学.
(25) 放火罪に関する一考察. 的大阪高判平一三・七・一七刑集五七巻四号四五二頁。 倒井田良・前掲書側一八五頁以下。. 働本判決は、特に二台の自動車に延焼の危険が及んだことを重要視しているように思われるが、そのように解するとき、消火行. 為に出た者が火傷を負う危険と比較的高い財産的価値のある自動車二台への延焼の危険とは同じ論理であると思われる。大塚. ω 三八三頁は、本判決につい. 裕史・平成一五年度重要判例解説ジュリスト二O O四年六月号一七五頁。なお、山口厚・前掲書. ては﹁市街地にある駐車場で発生し、他人の財産等に延焼の危険が生じた事案であるとして、限定的に理解されるべきであろう﹂ とされ、その限りで非限定説に理解を示している。. ω二OO頁。一 O九条二項においても、同様に議論されている。. 側団藤重光・前掲書. 一 二O 一二頁。最判昭和六0 ・二一・二八刑集三九巻二号七五頁も、被告人が、その配下の者数名 側 大 判 昭 和 六 ・ 七 ・ 二 刑 集 一 O巻. に被害単車の焼損を命じ、庭でその単車に放火したところ建造物に延焼した事案において、一一 O条一項の放火罪が成立するた. めには、火を放って同条所定の物を焼慨する認識のあることが必要であるが、焼般の結果公共の危険を発生させることまでを認. 識する必要はない旨判示した。ただし、一 O 九 条 二 項 に つ い て 、 非 現 住 建 造 物 で あ る 物 置 小 屋 の 放 火 ・ 焼 損 の 事 案 に お い て 、. 公共の危険発生の認識(未必的認識)が必要である旨判示した裁判例がある(名古屋高判昭和三九・四・二七高刑集一七巻二一号二六二. 団藤重光・前掲書. ω 一九八頁以下など。. 藤木英雄﹃刑法講義各論﹄九二頁など。. 頁一自己の所有物の焼損行為自体は原則として適法行為であるから、公共の危険発生の認識が必要である旨判示している)。. ω ω. 倒最判昭和五九・四・一二刑集三八巻六号二一 O七頁における谷口正孝裁判官の意見(公共の危険の﹁具体的内容としては、﹃公共の. 危険発生の予見はあるが、延焼を予見することのない心理状態﹂すなわち、放火行為により﹁一般人をして延焼の危慎感を与えることの認識﹂と. ω三八三頁など。. 考えてよいと思う(中教授・刑法講座五巻二一五頁以下参照)﹂)。中森喜彦・前掲書側二O五頁、山口厚・前掲書. なお、平成一五年最高裁決定について、その判示内容を客観的に分析すれば、公共の危険の認識と一 O 八条・一 O九条一項. の故意とは区別されうるし、公共の危険の認識の具体的内容は、建造物等への延焼の危険以外の、不特定または多数の人の生. 命、身体、または財産(自動車二台等)に対する延焼の危険ということであろう。しかし、このように解することはできない。. - 2 5.
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