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昭和初期の子ども漫画

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Academic year: 2021

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の子

1 は し が き わが 国 の 子 ども 漫 画 の原 流 は明 治 の中 頃 ま でさ か のぼ れ る 。 当 時 さ か ん に出 版 さ れ 始 めた 少 年 雑 誌 に ﹁ ポ ンチ 絵 ﹂ が 掲 載 さ れ 始 め、 ま た 小 型 の絵 本 にも ﹁ ポ ンチ 絵 ﹂ が 特 集 さ れ た も のが あ っ た 。 し か し 日 本 人 で は ﹃ 時 事 新 報 ﹄ に 入 社 し た ( 明 三 十 二 ) 北 沢 楽 天 が、 日 曜版 に ﹁ 茶 目 ・ 凸 坊 漫 画 ﹂ を 描 いた のが 最 初 で 、 そ れ ま では筆 者 名 は 公表 さ れ な か っ た 。 次 い で明 治 四十 三 年 ご ろ ﹃ 日 本 少 年 ﹄ に 川 端竜 子 ( り ゅ う し ) が 起 用 さ れ、 ﹁ 四 五 六ポ ンチ﹂ ( よ ご ろ く を 主 役 と す る ポ ンチ) を 描 き ま た 大 正 六 年 に 岡 本 一 平 が ﹃ 良 友 ﹄ に ﹁ 珍 助絵 物 語﹂ 等 を 描 い て い る 。 こ の三 人 が 子 ど も 漫 画 の 草 分 け であ っ た が( 13 )、 竜 子 は漫 画家 に は な ら な か っ た 。 さ て 一 平 の門 下 、 宮 尾 し げ を が 大 正 十 一 年 に ﹃ 団 子 串助 漫 遊 記 ﹄ を 描 いた のが 成 功 し (17 )、翌年 に織 田小 星 文 、 東 風 人 ( 樺 島 勝 一 の. ヘ ンネ ー ム ) 画 の ﹃ 正 ち ゃん の冒 険﹄ 、 十 四年 に巌 谷 小 波 文 、 岡 本帰 一 画 の ﹃ ズ ク 小僧 一 代 記 ﹄ を描 いた ( 16 ) こ ろ か ら、 日 刊新 聞 に連 載 さ れ始 め た 。麻 生 豊 の ﹃ ノ ンキ ナ ト ウ サ ン﹄ つ づ いて ﹃ 只 野 凡児 ﹄ 、 長 崎 抜 天 の ﹃ ひと り娘 のひ ね 子 さ ん ﹄ ﹃ ソ コヌ ケド ンチ ャ ン ﹄ な ど は 四 コ マ も の で紙聞 のべ ージ の左 上 段 に 固定 し た の が そ の頃 で あ る。 し か し巌 谷 小 波 以 下 に掲 げ た も のは、 純 粋 な 子 ど も漫 画 で は な か っ た。 ま た 少年 少女 雑誌 も毎 号 二∼ 三編 の漫 画 を 掲 げ て い たが 、 あ まり 重 視 さ れ て は いな か った。 目 次 の片 隅 に 名 前 を 小 さ く 載 せ て いる と い っ た程 度 で あ った。 こ の時 期 ( 昭 和 三 年 ) に ﹃ 現 代 漫 画 大 観 ﹄ ( 全 十 巻 、 中 央美 術 社 四 六版 各 三 〇 〇 頁 ) の中 の第 四 巻 と し て ﹃ コ ド モ漫 画 ﹄ が 出 版 さ れ て いる。 つい で北 沢 楽 天 と 岡 本 一 平 と が 個 人 の全 集 を 出 し た のが 昭 和 五 年 で、 そ の中 に は ﹃ 子 ど も 漫 画 ﹄ が そ れ ぞ れ 一 巻 ず つあ る。 ま た 同年 と九 年 と に、 牧 野 大 誓 文 ・ 井 本 水 明 の ﹃ 長 靴 の三 銃 士 ﹄ ﹃ 無 敵 三 銃 士 ﹄ が 出 て い る( 12 ) 。な お ﹃ 現 代 連 続漫 画 全 集 ﹄ 全 八 巻、 ア ト リ エ 社 五 六 版 各 一 五 〇 頁 ) が 出 版 さ れ た のは 昭 和 十 年 か ら 十 一 年 に か け て であ って、 そ の中 に は子 ど も 漫 画 が 六 編 は い つて いる 。 ま た、 田河 水 泡 の ﹃ のら く ろ﹄ シリ ー ズ が 始 ま っ た のは 昭 和 六 年 (10 )、 島 田啓 三 の ﹃ 冒 険 ダ ン吉 ﹄ は 昭 和 九 年 (11 )で 、 と も に ﹃ 少年 倶 楽 部 ﹄ に連 載 さ れ た 。 そ の後 は 太 政 翼 賛 思 想 が 滲 透 し は じ め る。 さ て こ こ で とり あ げ よう と す る のは 、 ﹃ 現 代 漫 画 大 観 ﹄ と ﹃ 現 代 連 続漫 画 全 集 ﹄ の中 で採 ら れ て い る子 ど も 漫 画 であ る。 2 昭和初期 の 成人漫画 大 正 末 期 か ら 昭 和 初 期 に か け て の日 本 は 、 比較 的 平 和 な 時 期 であ っ た が 、 昭 和 四 年 か ら 始 ま る 世 界 恐 慌 の影 響 を 受 け て、 不 景 気 と 失業 旋 風 が 全 国 を 襲 っ た 。 ま た 昭 和 六 年 に満 洲事 変、 翌年 に 上海 事 変 、 八年 に国 際 連 盟 脱 退 と 続 き 、 い わゆ る 非 常 時 局 が 始 ま っ た 。 と こ ろ が他 方 (17) 厂

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研究紀要 第20集 で は 都 市 に カ フ ェー や バ ー が 氾 濫 し 、 若 者 は エ ロ ・ グ ロ ・ナ ン セ ン ス に 夢 中 に な る と い う 時 代 で も あ った 。 ﹃ 現 代 漫 画 大 観 ﹄ の第 一 巻 は ﹃ 現 代 世 相 漫 画 ﹄ で あ る が 、 そ の 内 容 を 概 観 す る と 、 次 の よ う な 話 題 の漫 画 が 並 ん で い る 。 ( 1 ) 活 動 写 真 ( ク ラ ラ ・ ボ i 、 鈴 木 伝 明 ) ( 2 ) デ パ ー ト ( 大 正 十 三 年 に 松 阪 屋 が 銀 座 に 進 出 、 松 屋 ・三 越 が つづ く 。 万 引 、 特 価 品 ) ( 3 ) 経 済 ( 労 資 抗 争 、 産 業 衰 微 、 思 想 悪 化 ) ( 4 ) モ ダ ン ガ ー ル と モ ダ ン ボ ー イ ( 断 髪 し た モ ガ 、 セ ー ラ ー ズ ボ ン の モボ ) ( 5 ) 婦 人 問 題 ( 公 娼 廃 止 、 参 政 権 ) ( 6 ) 住 宅 問 題 ( 借 家 難 ) ( 7 ) 銀 ブ ラ と 浅 草 ( 洋 傘 屋 、 万 年 筆 売 り 、 安 来 節 ) ( 8 ) 学 生 ( 苦 学 生 の樟 脳 売 り 、 就 職 難 ) ( 9 ) ス ポ ー ツ ( 10 ) 交 通 ( ラ ッシ ュア ワ ー 、 人 力 車 ) ( 11 ) 郊 外 生 活 ( 12 ) 金 ( 13 ) 失 業 問 題 ( 乞 食 以 下 、 菓 子 折 の 蛆 虫 ) ( 14 ) 家 庭 ( ハネ ム ー ン、 ラジ オ ) ( 15 ) 科 学 ( 人 造 食 料 、 火 星 飛 行 後 援 会 ) ( 16 ) 独 身 生 活 ( 17 ) ブ ルジ ョア と プ ロ レ タ リ ア ( 資 本 家 気 質 、 労 働 者 根 性 ) ( 18 ) 青 年 団 と 軍 事 教 育 ( 不 動 の姿 勢 、 社 会 奉 仕 ) ( 19 ) カ フ ェi ( 支 那 服 の 女 、 島 田 髷 に エ プ ロ ン の ウ ェー ト レ ス、 辻 占 売 り ) ( 20 ) サ ラ リ ー マ ン ( 入 社 挨 拶 、 蒸 気 暖 房 器 、 タ イ ピ ス ト ) ( 21 ) 音 楽 ( 耳 隠 -髪 形 、 自 動 ピ ア ノ 、 ジ ャズ ) ( 22 ) 政 治 ( 西 園 寺 詣 、 高 橋 是 清 、 犬養 木 堂、 尾崎 行 雄 な ど のほ か政 党 政 治 の 弊 、 普 選 規 則 批 判 ) ( 23) 劇 場 ( 花 柳 章 太 郎、 左 団 次) ( 24 ) 恋 愛 ( 25 ) 普 選 。 こ れ に よ っ て当 時 の世 相 を 推 察 す る こと が でき る。 な お 昭 和 七 年 に 五 ・ 一 五事 件 が あ り、 海 軍 の 革 新 将 校 に よ る テ ロリ ズ ム のた め 当 時 の首 相 犬 養 木 堂 は銃 殺 さ れ、 ま た十 年 に は 二 ・ 二 六事 件 が あ って、 陸 軍 の青 年 将 校 に よ る ク ーデ タ ー で 当 時 の 蔵 相 高 橋 是 清 ら 数 名 が 殺 さ れ ると いう 始 末 だ っ た が、 結 果的 に は軍 部 の 力 を いち じ る しく 増 大 さ せた 。 な お第 二巻 以 下 は次 の よう な 構 成 に な って いる 。 二 巻 文 芸 名作 漫 画ー ﹃ 坊 ち ゃ ん﹄ ﹃ 恩 讐 の彼 方 に﹄ ﹃ 金 色 夜 叉 ﹄ 等 。 三巻 漫画明治大正史 -主だ っ た 事 件 の 漫 画化 。 四 巻 コ ド モ漫 画 五 巻 滑 稽 文 学漫 画ー 川 柳 、 民 謡、 小 咄等 。 六 巻 東 西 漫 画 集i 東 洋 と 西 洋 の 漫 画。 七 巻 日 本 巡 り1 紀 行漫 画 。 八 巻 職 業 づ く し 九 巻 女 の世 界i 東 西 の女 の生 態 。 十 巻 近 代 日本 漫 画 集 これ ら を 通 読 す る と 、 当 時 の 漫 画 の特 徴 を 次 のよ う に捕 え る こ とが でき よ う 。 ω スト リ ー 漫 画 が 全 盛 であ る こと 。 一 枚 も ので あ っ て も、 か な らず と言 っても よ い ほど 、 文 章 が 付 い て い て 、 文 と 絵 と で主 題 を表 現 し て いる。 と く に 長 い文 章 では ﹁ 挿 絵 ﹂ の機能 を 持 っ た漫 画 に な っ て いる。 ② 漫 画 特 有 の ﹁ 吹 き 出 し ﹂ ( 発 言 者 の 口か ら セリ フが 吹 き 出 し て い る よう に描 く も の) が ほと ん ど 用 いら れ て いな い。 だ が 西洋 の 漫 画 に は活 字 体 で書 いた ﹁ 吹 き 出 し ﹂ だ け で スト ー リ を 物 語 る も のが 収 録 さ れ て いる。 圖 サ イ レン トも の、 つ ま り 標 題 ( キ ャプ シ ョン ) は 文 字 で示 す が、 あ と は絵 ば か り の スト ーリ 漫 画 は ほと ん ど な い。 し か し 一コ マ も の に は サ イ レン ト漫 画 が あ る。 3 ﹃ コ ド モ漫 画 ﹄ の漫 画 さ て ﹃ コ ド モ漫 画 ﹄ に は、 十 八 画 家 の漫 画 が 七 十 点 収 録 さ れ て い る。 これ を表 現 形 式 に よ っ て分 け る と 一コ マ も の十 八 点 、 四 コ マ も の

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昭和初期 の子 ども漫画 三 種 二 九 点 、 ス ト ー リ も の 二 十 三 点 と な る 。 た だ し 四 コ マも の は 三 人 の 画 家 が 描 い た も の で 、 同 じ 種 類 の 形 式 が 並 べ て あ る の で点 数 が 多 く な っ て い る 。 し た が っ て ス ト ー リ も の が 、 こ こ で も 全 盛 の観 が あ る 。 ω 一コ マも の 一コ マも の は 、 一ぺ ー ジ も し く は 見 開 き の 一 面 で ま と め あ げ た 作 品 で、 そ の う ち 子 ど も の 生 活 を 描 い た も のが 三 点 で 、 も っ と も 少 い。 岡 本 一 平 の ﹃ 陸 戦 隊 上 陸 ﹄ は 子 ど も の戦 争 ご っ こ を 描 き 、 た ら い か ら 軍 艦 旗 を 持 った 少 年 が 上 陸 す る と こ ろ を 、 二 人 の 敵 が 銃 を 構 え て 待 ち 構 え て い る 場 面 を 描 い て い る 。 ま だ そ の 頃 は 戦 争 が 始 ま っ て い な か った の だ が 、 満 洲 事 変 の前 提 と し て 山 東 出 兵 の こ と が あ っ た 。 ま た 宮 尾 し げ を が ﹃ お 線 香 の 灰 ﹄ を 描 い て い る 。 兄 と 妹 と が 煙 草 盆 に 立 て た 蚊 取 線 香 を ﹁ み て ゐ て ご ら ん 。 ま た は え て く る か ら 。 ﹂ と 見 つめ て い る 情 景 で 、 こ の セ リ フ が 利 い て い る 。 ま た 安 本 亮 一は ﹃ 三 振 し た と こ ろ ﹄ で、 野 球 の打 者 が 空 振 り を し て キ リ キ リ 振 い を し た と こ ろ を 、 分 解 写 真 の重 ね 燥 き の よ う に 描 い て み せ て 、 漫 画 の新 し い技 法 を 紹 介 し て い る 。 こ の 重 ね 焼 き 技 法 は 、 の ち に さ か ん に 用 いら れ て く る の で あ る が 、 こ の 頃 す で に 案 出 さ れ て い た も の ら し 図1『 三 振 した とこ ろ』 安本 亮 一 画 い。 つ ぎ に 多 い のが ﹁ 描 き ま ぜ﹂ 方 式 の 一コ マ も ので あ る。 一つの主 題 か ら着 想 し た いく つか の 個 々 の 話 題 を 、 相 互 に関 連 さ せず 、 同 じ画 面 の 中 に納 め た も の で 、 そ の 演 繹 的 思 考 に ま つわ る ユ ー モ アを 楽 しま せ る も の であ る。 こ れ は専 門 的 に は ﹁ 分 間 ( ぶ ん ま) ﹂ 方 式 と 呼 ば れ る も の で 、 分 間 図 と は む か し旅 行 者 の便 利 のた め に 道 中 の道 しる べ ・ 名 所 旧跡 な どを 一 見 し て わ か る よう に 地 図 と 絵 図 と を 組 みあ わ せ て描 いた 旅 行 案 内 図 で あ って、 岡 本 一 平 の解 説 に よ ると 、 ﹁ 散 在 し て い る 幾 つか の 生 活 な り幾 つか の情 景 な り を 都 合 のよ いよ う に 一 図 の中 に 取 り 入 れ て面 白 味 に連 絡 を つけ、 か た が た そ の綜 合 し た と こ ろ に 別 種 の 味 を 出 そう と い う ﹂ も の だと いう 。 全 体 と し ては そ の画 材 を斜 に 空 中 か ら 見 た 心 持 ち に し、 説 明 のた め に 遠 近 に 拘 泥 せ ず、 建 物 の屋根 や壁 も 省 い て しま う 。 これ を も っ と 上 空 か ら見 た も のは ﹁ 鳥 瞰 図﹂ に な る。 (-)こ の方 式 を 漫 画 の技 術 に 取 り 入 れ た も のが 九 セ ッ ト あ る。 服 部 亮 英 の﹃ 動 物 運 動 会 ﹄ 、 牛 島 一 水 の ﹃ コ ド モ の 世 界 ﹄ 他 、 前 川 千 帆 の ﹃ 天 文 見物 ﹄ 他、 代 田収 一の ﹃ 太郎 の 世 界 乗 物 旅 行 ﹂ 他 、 安 本 亮 一の ﹃ 武者 オ リ ンピ ッ ク﹄ が そ れ ら で あ る。 これ ら に は漫 画 だ け のも の 、 ﹁ 吹 き 出 し﹂ を 使 っ た も の、 セ リ フや 説 明 文 を 添 え た も のな ど が 混 っ て いる。 次 に、 今 は あ ま り見 ら れ なく な っ た 抒 情 漫 画 の 一コ マ も のが あ る 。 こ の 頃 は明 治 末 期 に流 行 し た ﹁ 小 間 絵 ﹂ ( 中 村 不 折 ・ 小 川 芋 銭 ・ 平福 百穂 ・ 竹 久 夢 二 な どが 描 いて いた ) の名 残 が 残 って いた こと と、 ﹃ 赤 い 鳥 ﹄ ( 児 童 文 芸 雑 誌 、 大 正 六 年 初 刊 ) な ど の童 謡 の 発 表 形 式 に影 響 さ れた こ とな どが 考 え ら れ る。 後 者 は 見 開 き の上 段 に 童謡 を、 下 段 に それ に ふさ わ し い抒 情 画 を 配 す る と いう 定 型 が でき て いた。 そ こ で 漫 画 家 は こ の形 式 を 借 り て 、 童 謡 ま が い の ﹁ 漫 謡 ﹂ を 書 き 、 そ れ に ム ー ド 漫 画 を 添 え たも の と思 われ る。 <19)

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研究紀要 第20集 前 川 千 帆 の ﹃ 葡 萄 ﹄ 他 、 阪 本 牙 城 の ﹃ 草 笛 ﹄ 他 、 田中 比 佐 良 の ﹃ 舞 妓 は ん ﹄ な ど の六点 が あげ ら れ る。 図2r葡 萄 』前川 千帆画 図3r乾 草車』阪本牙城画 ② 四 コ マも の 日 刊 紙 上 で は 、 四 コ マ も のが 定 型 と な っ て いた 。 池 部 釣 の ﹃ ヌ i 坊 と テ ー 坊 ﹄ も 、 一 .ヘ ー ジ を 縦 横 に 四 コ マ に 切 っ て、 や や 縦 長 の コ マ の 中 に 七 分 身 の 登 場 人 物 を 描 い て い る 。 幼 年 児 を 主 役 に し た も の で、 ﹁ 吹 き 出 し ﹂ を 使 っ て い る 。 a ヌ i 坊 が 飛 行 機 凧 を 作 る 。 テ ー 坊 は ﹁ イ イ ピ コウ キ ダ コダ ネ ﹂ と ほ め る 。 b ヌ ー 坊 ﹁ ボ ク コ シ ラ ヘタ ノ 。 ジ ョウ ズ ダ ロウ 。 ﹂ c ヌ ー 坊 ﹁ イ マ ア ゲ テ ミ セ ル ヨ。 ﹂ d ヌ ー 坊 ﹁ ナ ー ニ チ ュウ ガ エ リ シ テ イ ル ン ダ ヨ 。 ﹂ テ i 坊 ﹁ メ ン ク ラ ッ テ バ カ リ ヰ ルジ ャ ナ イ カ 。 ﹂ の よ う に ﹁ 起 承 転 詰 ﹂ を ふ ん で お り 、 弟 の幼 稚 さ を 兄 が う ま く 言 い抜 け る の が モ チ ー フ に な っ て い る 。 た だ し d の よ う に ﹁ 吹 き 出 し ﹂ の 配 置 が 逆 に な っ て い る と こ ろ が あ っ て、 画 面 の整 頓 は ま ず い。 同 じ 主 題 の 作 品 が 二 十 点 収 録 さ れ て い る 。 も う 一 つは 前 川 千 帆 の ﹃ 上 天 失 敗 先 生 ﹄ の 四 点 。 こ れ は 前 と 同 じ コ マ の 取 り か た で、 影 絵 の サ イ レ ン ト も の。 す べ て 全 身 像 を 描 き 、 シ ル ク ハ ッ ト の 上 天 先 生 が 空 へ飛 び 上 る く ふ う を し て は 失 敗 す る 話 。 飛 跡 や 衝 突 星 ( い ず れ も 漫 画 独 特 の 表 現 技 術 ) を 用 い て あ る 。 ほ か に 三 コ マも の の 動 物 漫 画 を 服 部 亮 英 が 五 点 描 い て い る 。 ぺ ー ジ を 三 段 に 区 切 っ て 、 ﹁ 吹 き 出 し ﹂ を 用 い た も の、 文 に セ リ フを 置 い た も の が 混 っ て い て 、 主 題 は た あ い が な い。 ﹃ イ タ チ ﹄ で は 悪 戯 小 僧 に ﹁ 最 後 っ屁 ﹂ を 放 つ話 で 、 品 が よ く な い 。 圈 ス ト ー リ も の す で に 新 聞 連 載 の 長 編 ス ト ー リ も の ﹃ 団 子 串 助 ﹄ で定 評 の あ る 宮 尾 し げ を の 作 品 が 四 編 採 ら れ て い る 。 一 つは マ ル シ ャ ー ク の童 話 ( 八 ぺ ー ジ ) に 漫 画 の 挿 絵 を 入 れ た も の 、 一 つは 手 品 の 種 明 か し の文 ( 四 .へ

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昭和初期の子 ども漫 画 図4r上 天失敗先生』前川千帆画 i ジ ) を 漫 画 で 解 説 し た も の で 、 こ の 二 つ は 、 な く も が な の 作 品 。 彼 の 本 領 で あ る ス ー パ ー マ ン 漫 画 の 一 つ は ﹃ 猿 飛 佐 助 漫 遊 ﹄ で、 み ず か ら ﹁ 漫 画 講 談 ﹂ と 称 し て い る 。 全 体 で 二 十 ぺ ー ジ 、 各 .へー ジ に 漫 画 を ニ コ マず つを 入 れ 、 文 は の べ つ幕 な し の 立 川 文 庫 ば り の 講 談 で あ る 。 a 佐 助 を ね た む 三 好 清 海 入 道 た ち が 、 彼 を 痛 い め に 合 わ せ よ う と し て 失 敗 す る 話 。 b 佐 助 と 清 海 と が 諸 国 漫 遊 に 出 て、 関 所 破 り を す る 話 。 c 徳 川 に 寝 返 った 武 将 を こ ら し め る 話 。 d に せ の 猿 飛 を 捕 え る 話 。 e 自 分 の 家 来 の 子 に 面 会 す る 話 。 も う 一 つ は ﹃ 花 忍 異 国 忍 術 仕 合 、 忍 曽 ( し の ぶ ぞ ) 太 郎 助 ﹄ で全 編 四 八 ぺ ー ジ 、 毎 ぺ ー ジ に ニ コ マ の 漫 画 を 入 れ て い る が 、 こ の ほ う は 文 が 一 コ マ毎 に 切 れ て い る の が 違 う 。 ﹃ 佐 助 ﹄ が 挿 絵 漫 画 だ った の に 対 し て 、 こ こ で は 絵 と 文 と の 対 応 が 考 慮 さ れ て い る 。 a 太 郎 助 は 世 界 忍 術 家 名 鑑 に よ っ て外 国 の忍 術 家 を 知 り 、 修 業 の た め 洋 行 す る 。 b ろ く ろ 首 の ト ン チ ン カ ン氏 を 計 略 で 負 か す 。 c 奇 術 家 の ポ ン カ ン 氏 と 腕 比 べ を し て 勝 つ。 d 飛 行 術 の デ コボ ー コ 氏 と の 腕 比 べ で勝 つ 。 e ア マカ ラ i氏 や 忍 術 ク ラブ の連 中 を や っつけ る。 f 英 国 の ア ンチ ピ リ ン氏 と の他 流 試 合 で勝 つ 。 9欧 州 諸 国 を 巡 って エ ジ プ ト の忍 術 大 会 で 一 等 賞 を 取 り、 帰 国 す る。 主 人 公 は団 子 串 助 そ っ く り の前 髪 小 姓 の出 でた ち で 大 小 を腰 に さ し て い る。 あ いか わら ず の講 談 調 に 駄 洒落 ・ 地 口 の 連 続 であ る。 講 談 調 と 言 えば 水島 尓 保 市 の ﹃ コ ン ニヤ ク退 治 ﹄ も そう で、 これ は コン ニャク 恐 怖 症 の馬鹿 殿様 の 話 。 十 六 ぺ ージ に わ た る スト ー リ で、 一 ぺ ージ お き に 日本 画 ふう の 挿 絵 漫 画 が は い って いる。 清 水 対 岳 坊 の ﹃ 爆 弾 豪 兵 衛 ﹄ も ﹁ 身 の 丈 一 丈 三尺 上 か ら下 ま でお 蚕 ぐ る み、 朱 鞘 の 大 小ぼ っ こ ん で カ ンラ カ ンラ と笑 い な が ら 、 全 国 漫 遊 の 途 に 上 る﹂ 話 。 一 ぺ ージ ニ コ マの漫 画 と 文 、 四 十 五 ぺ ージ に わた る 長 編 で、 絵 と 文 と は対 応 し て いる。 豪 兵 衛 は次 々に 剣 豪 家 に 勝 ち 、 妖 術 師 と の出 合 で は妖 怪 を しり ぞ け る。 チ ャンバ ラ の連 続 を 武 者 絵 ふう に 描 いて飽 き さ せな い 。 ち な み に歩 跡 と 風 跡 と 衝 突 星 と が 使 ってあ る 。 出食 わ す敵 の名 は、 天 下 の 義 賊 石川 三 衛 門 忠 鳥 ( た だと り ) 、 プ ロペ ラ 野彦 吉 、 円 田久 ( え ん た く ) 円 助 、 円 本 ( え んぽ ん) 安 造、 ラジ オ 野 餡 手 名 ( あ ん てな ) 、 空鉄 砲 の 頓 助 、 蛸 野 足 八 郎 、 泥 田野 蓮 五 郎 、 無 茶 尾 騎 河 ( す るが ) の守 、 韜 中 餅 衛 門 原春 、 名 和 名 伊造 ( な わ な いぞう ) な ど の地 口で笑 わ せ る。 こ のよ う に 講 談 調 が 全盛 であ る が、 し か し童 話 調 の スト ー リ も あ る に は あ る 。 既述 の宮 尾 し げ を が外 国童 話 に挿 絵 を 入 れ て いる のも それ で 、 服 部 亮 英 の ﹃ ふ る のも る物 語 ﹄ ( 三 ぺ ージ ) は 日本 民 話 を 、 阪 本 牙 城 の ﹃ 煙 火 ( は な び) の金 太 ﹄ ( 八 ぺ ージ ) は花 火 好 き の金 太 が 河 童 と 遊 ぶ 話 を、 細 木 原青 起 の ﹃ か も し か﹄ ( 八 ぺ ージ ) は脱 走 した カ モ シカ を捕 え る 話 を物 語 って いる。 ま た中 島 六郎 の ﹃ 伝 吉 の功 名 ﹄ ( 十 ぺ ージ ) は 活 弁 口調 で追 跡 活 劇 を C21)

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研究紀要 第20集 説 明 し、 同 人 の ﹃ キ ン 坊 の 蕃 地 探 険 ﹄ ( 十六 ぺ ージ ) はジ ャ ング ル映 画 を 思 わ せ る。 こ の二作 は い ず れも 各 ぺ ー ジ に 二枚 の漫 画 と そ の説 明 文 を対 応 さ せ て いる。 ほ か に短 編 も のが 数 編 あ る。 スト ー リ も の が 全部 で 二 十 一 編 のう ち 、 ﹁ 吹 き 出 し﹂ を 使 って いる も のが わず か 二編 で 、 し か も短 編 も ので あ る。 四 ま と め a 昭 和 三年 に編 集 さ れ た ﹃ コ ド モ漫 画 ﹄ に は、 スト ーリ も のが、 圧 倒 的 に多 く て、 短 く て 四ぺ ージ 、 最 長 は四 十 八 ぺ ー ジ のも のが 収 蔵 さ れ て いる。 大 体 に お いて講 談 ダ ネ が 多 く 、 童 話 も のや 活 劇 映 画 も どき のも の が 混 って いる。 これ ら は漫 画 を 挿 絵 と し て入 れ て いる も の で 、 中 に は絵 の 一コ マと文 の 一 区 切 り と を 対 応 さ せる 形 式 のも の も あ るが 、 絵 を 主 軸 に し て物 語 る技 法 はま だ開 発 さ れ て いな い。 b 四 コ マ も のは み な ﹁ 吹 き 出 し﹂ を 用 い、 文 を 添 え な い形 式 を と っ て いて、 新 聞 漫 画 の技 法 を 取 り 入 れ て い る。 こと に 影 絵 のパ ント マ イ ム の四 コ マ も の が 見 ら れ る の は、 絵 に よ って物 語 る方 向 への 一 歩 前 進 を 示 し て いる と言 え よう 。 取 材 も スト ーリ 漫 画 と ち が って 、 子 ど も に わ か る情 景 を 描 いて いる。 c 一コ マも のは漫 画 の 正 統 を 継 ぐ も の で あ って、 口 絵 の八 点 は そ の 健 在 ぶ りを 示 し て いる。 だが 時 間 空 間 の 一 断 面 だけ で風 刺 や 滑 稽 を 訴 え る こ と は、 子 ども 相 手 で は無 理 な こと で あ る。 そ こ で ﹁ か き ま ぜ﹂ や ﹁ 分 間 ﹂ の技 法 を 生 ん で いる。 一 皿 に盛 っ た お 子 様 ラ ンチ の よ う に、 あ れ こ れ と選 り食 い を す る楽 し み の中 に 、 テー マ を 感 得 さ せ よ う と す る の であ る。 変 り種 は ﹁ 漫 謡 ﹂ 方 式 で、 感 傷 詩 の ムー ド を 漫 画 に 表 現 し た も の であ る。 し か し こ れ は ま も なく 消 滅 す る こ と にな る。 f 漫 画 の 描 法 と し て、 今 日 で は ほと んど 見 ら れ な く な っ た 日 本 画 系 のタ ッ チ の 絵 が 少 く な い 。 しか し、 歩 行 を 示 す 土 煙 や 、 風 跡 、 衝 突 星 、 重 ね焼 き の技 法 な ど、 漫 画 独 得 の表 現 技 術 が と ころ ど ころ に 用 いら れ て いる。 こう い う 特 殊 な 技 法 が こ の頃 か ら 普 及 し は じ め た も のと見 え る。 4 ﹃ 現 代 連 続 漫 画 全 集 ﹄ の中 の子 ど も 漫 画 こ の ﹃ 全集 ﹄ が 出 版 さ れ た のは 昭 和 十 年 か ら 翌 年 に か け て で あ る が 、 そ の 中 に収 録 さ れ て いる漫 画 はす でに 日刊 新 聞 に 昭 和 五 年 ご ろ か ら掲 載 さ れ て いた も の が 混 って い る。 した が って前 掲 の﹃ コ ド モ漫 画 ﹄ よ り 三 ∼ 四年 後 に描 か れ たも のと推 定 さ れ る。 ω ﹃ 特 急 無 敵 三郎 ﹄ 宍 戸 左 行 同 じ作 者 の ﹃ スピ ード 太 郎 ﹄ は、 昭 和 五 年 末 か ら ﹃ 読 売 サ ン デ ー 漫 画 ﹄ に登 場 、 世 界 を 股 に か け て、 悪 玉 を や っ け てま わる 闘 魂 た く ま し い日本 少 年 で、 昭 和 八 年 ま で続 いた。 こ の ﹃ 三 郎 ﹄ は そ のダ イ ジ ェス ト版 み た いで、 全 編 三 百 コ マの スト ーリ 漫 画 。 す べ て 絵 と ﹁ 吹 き 出 し﹂ で 物 語 って いる。 前 半 は未 開 地 で の 野 獣 や 黒 人 を 相 手 の冒 険 談 、 後 半 は白 人 国 で のギ ャ ン グ を 相 手 の 活 劇 に な って いる。 " 特 急 " ぶ り を 発 揮 しだ す のは 中 盤 か ら で、 オ ー トジ ャイ ロ ・ 特 急 列 車 ・ 客 船 ・ カタ パ ル ト発 射 の飛 行 機 ・ 旅 客 機 ・ 自 動 車 ・ 潜 水 兼 用 飛 行 機 な ど 、 当 時 の スピ ー ド 化 さ れ た 乗 物 が ふ ん だ ん に出 てく る。 道 具立 てが スピ ード 用 具 で あ る の み でな く 、 物 語 の転 換 も 非 常 に 速 い 。 一 カ ット ( 同 じ シ ー ン で の事 件 ) が 四 コ マ 以 上 は 続 か な い。 そ し て ﹁ 吹 き 出 し﹂ の 中 に説 明 文 が は い つて いるな ど 、 未 分 化 で は あ る が 、 絵 を 主 軸 に物 語 る技 法 に近 付 いて い る こと が 知 ら れ る 。 ② ﹃ ど ん ぐ り太 郎 ﹄ 宮 尾 しげ を あ いか わ らず の小 姓 姿 の少 年 を 主 人 公 に した カ タ カ す の物 語 文 つき 漫 遊 形 式 の スあ ー リ漫 画 。

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昭 和初期 の子 ども漫画 体 が 小 さ い の で 、 ど ん ぐ り 太郎 。 殿 様 の 使 いに出 て、 途 中 蛇 に呑 ま れ た り、 化物 を 降参 さ せ た り、 助 け た雷 に 雨を 降 ら し ても ら って水 飢 饉 の百 姓 を救 っ た り す る 百 五 十 コ マの物 語 。 ㈲ ﹃ ハ ツ メ イ ハ ッ チ ャ ン ﹄ 武 井 武雄 武 井 武 雄 は 早 く か ら幼 年 絵 雑 誌 ﹃ コ ド モ ノ ク ニ ﹄ 等 で独 得 の画 風 を 示 し て いた童 画 家 で あ る。 同 じ く童 画 家 で ﹃ ズ ク小 僧 一 代 記 ﹄ を 描 い た 岡 本 帰 一 が 写実 的 な のに対 し て、 彼 の絵 はデ ホ ルメ を 用 い て図 案 的 であ る。 朝 日新 聞 は こ の 画 家 を 起 用 し て連 載 漫 画 を 描 か せた 。 最 初 は 昭 和九 年 の ﹃ 赤 ノ ッ ポ 青 ノ ッ ポ ﹄ で、 鬼 が 島 の鬼 の子 孫 赤 鬼 と青 鬼 と を 昭 和 の日本 に つれ てき て、 文 明 の中 で生 活 さ せ て教 育 す ると いう 設 定 で、 二人 の いな か者 が 都 会 生 活 に適 応 し よう と し て失 敗 を 重 ね る 善 良 さ に ユ ー モアを 調 味 し た も の で あ っ だ 。 続 いて こ の ﹃ ハ ッ チ ャン﹄ が 昭 和 十 年 の三 月 から 六 月 に か け て連 載 さ れ た。 四 コ マ ず つ五 十 回。 絵 に ﹁ 吹 き 出 し﹂ を 入れ ず 、 コ マの外 に カ タ カ ナ の文 を 添 え る形 式 で あ っ た 。 あ ら 筋 は、 発 明 家 の八 郎 く ん が ロ ボ ットを 製 作 し、 そ の試 運 転 を す る。 人 間 と 同 じ性 能 を 持 って いる だ け で なく 、 飛 行 、 煙 幕 と笑 いのガ ス の放 射 、 望 みど お り の食 物 を 吐 き 出 す こ と、 透 視 、 若 返 り 光 線 など 、 ハ ッ チ ャ ン の命 ず る ま ま に 働 く の を 確 め て い よ いよ冒 険 に出 発 す る。 出 合 う のが 金 太 郎 、 一 寸 法 師、 牛 若 丸 と弁 慶 、 文 福 茶 釜 な ど 日本 の昔 話 の人 物 た ち 、 そ れ か ら 朝 鮮 、 中 国、 イ タ リ ー な どを 経 て、 日本 に 帰 る。 物 語 に は山 が なく 、 漫 遊 記 の形 式 で、 子 ど も に な じみ 深 い昔 話 の世 界 を 次 々 に歴 訪 し て、 合 理 主 義 的 修 正 (2 ) を し て ま わ る と いう 仕 組 で あ る。 最 後 に ア ラジ ン の魔 法 使 が 言 う 。 ﹁ た く さ ん お 話 の国 を 回 っ てき た が 、 それ が みな 発 明 の種 じや 。 ﹂ そ し て ﹁ 空 想 は発 明 の 父﹂ と 書 い た紙 を も ら う 。 むず か し い の でお 父 様 に 闢 く こと に し て 日本 へ 帰 る。 ち ょう ど戦 時 態 勢 が 高 ま り、 科 学 の振 興 に世 の関 心 を あ お り た てる べき 時 期 であ った か ら、 ﹃ ハ ッ チ ャン﹄ は そ の開 発 に 一 役 買 っ た と も 言 え よ う。 表 現 形 式 の上 で特 筆 す べき は、 コ マの外 に置 かれ て い る文 が、 絵 の 説 明 では な く て、 す べ て画 中 の人 物 の セ リ フ で あ る こと であ る 。 作 者 は そ の 独 得 の画風 を 乱 す お そ れ の あ る ﹁ 吹 き 出 し﹂ を 嫌 っ た と も 思 わ れ る。 こ う し て スト ー リ漫 画 は、 絵 と セ リ フと で物 語 る方 向 への進 路 を 固 め て いく ので あ る。 四 ﹃ ガ ンガ ラ ガ ン 太 ﹄ 阪 本 牙 城 阪 本 牙城 の 代 表 作 は ﹃ タ ン ク ・ タ ン ク ロー﹄ ( 幼 年 倶 楽 部、 昭 九 ∼ 十 一 年 ) と す べき だが 、 こ の作 品 も ほぼ 同 じ時 期 の作 品 と 思 われ る。 解 説 文 を 用 い ず 、 セ リ フ の ﹁ 吹 き 出 し﹂ と絵 だけ で物 語 る ユ ー モ ア本 位 の連 続 漫 画 の形 式 を と って い る。 全 編 二百 四 十 コ マ 。 主 人公 ガ ン ガ ラガ ン太 は旅 人 ( たび に ん) 姿 で 、 ル ン。 ヘン小僧 が 親 の仇 と ね らう 丹 下 左 膳 と の試 合 に 助 太 刀 を す る話 。 や はり ﹃ 団 子 串 助 ﹄ の 流 れを 汲 む講 談 ダ ネ で あ るが 、 そ れ が す っ か り 絵 と ﹁ 吹 き 出 し﹂ の 表 現 形 式 に移 行 し て い て、 セ リ フ で情 況 解 説 め いた こと を 言 わ な く な って い る。 つま り絵 が 挿 絵 の位 置 か ら 脱 し て 、 表 現 上 の主体 性 を 持 ち は じ め て い る の で あ る。 ﹃ のら く ろ﹄ や ﹃ ダ ン吉 ﹄ は す でに そ れ を実 験 し てお り、 そ の影 響 が 普 及 し てき た の だと 見 ら れ る 。 ちな み に同 名 の漫 画 が 少 年 少 女 雑 誌 ﹃ 譚 海 ﹄ ( 昭 十 三 年 ) に 一年 間 連 載 さ れ て い るが 、 こ の作 者 は 帷 子 進 ( か た び ら す す む) であ って別 人 で あ る。 ㈲ ﹃ キ ヤ ベ子 の冒 険 ﹄ 小 野 佐 世 男 こ の作 者 は ﹃ 東 京 パ ック﹄ の 表 紙 に モダ ンガ ー ル の エ ロ テ ィ ック な 姿 態 を 描 い て いた 風 俗 漫 画 家 であ る。 彼 が ここ に 三 百 コ マ の 連 続 も の を 描 い て い る。 主 人 公 は キ ャベ 子 と いう 色 気 のな い 少 女 で 、 何 に で も (23)

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研究紀要 第20集 化 け る狸 、 煙 幕 の特 技 を 持 つ蝋、 ギ タ ー 弾 き の 電 気魚 を 連 れ て、 海 底 に沈 んだ 宝 物 を 探 し に 行 く 。薩 摩 芋 の 臭 いガ スや、 ヒ ョ ウ タ ンに つめ た 小 便 を 飲 ま せ て酔 っ ぱ ら わ せる な ど し て、 グ ロ テ スク な怪 物 を し り ぞ け、 首 尾 よく 帰 国 し て勲 章 が お く ら れ る と いう 筋 。 カ タ カ ナ文 を活 字 で組 ん で ﹁ 吹 き 出 し﹂ に入 れ た も の で筋 を 運 ぶ方 式 。 こ こ で女 児 専 門 の連 続 漫 画 が 育 って いる こと に 注 意 し た い。 し か し テ ー マは あ りき た り の宝 探 し で、 作 者 の得 意 の エ ロ .テ ィ シズ ム は ほ と ん ど匂 って いな い 。 む し ろ故 意 に グ ロ ・ ナ ン セ ン スに 置 き 換 え て いる よう で、 デ カダ ン ス が 匂 ってく る のが 難 で あ ろう 。 図 が ら は 新 鮮 で 、 人 物 を 遠 景 にお いた り近 景 に ク ローズ ア ッ プ す る な ど 変 化 を 見 せ て い るが 、 視 角 は ま だ水 平 で あ る。 ﹁ 吹 き 出 し﹂ の こと ば も 、 セリ フと 状 況 解 説 とが 未 分 化 の 段 階 に あ る。 ㈲ ﹃ 突 飛 鳶 太 郎 ﹄ 宮 尾 しげ を こ の 全 集 の 各 巻 に は、 別 冊 付 録 と し て三 十 六 ぺ ージ の色 刷 り の ﹃ 突 飛 鳶 太 郎 ﹄ が 付 いて いて、 全 部 で 二百 六 十四 ぺ ージ の長 編 。 初 め の二 冊 が 私 の 所 蔵 で は欠 け て いる ので、 鳶 太 郎 の素 姓 は判 ら な いが 、 主 人 公 は詰 襟金 ボ タ ン の 学 生 服 に リ ュック サ ックを 背 負 い 、 黒 のゲ ー ト ル を 着 け た 少年 であ る。 し たが って 舞 台 は現 代 だが 、 や は り こ の主 人 公 も 諸 国 漫 遊 の途 上 に あ る と い う 点 、 ﹃ 団 子 串 助 ﹄ の現 代 版 と 見 てよ い。 し か し こ の作 者 に と っては表 現 形式 に 大 き な変 革 が見 ら れ る。 そ れ は得 意 の講 談 調 の解 説 文 を 用 いず、 絵 と ﹁ 吹 き 出 し﹂ と で 物 語 って い る こと で あ る。 だ が 漫 遊 記方 式 だ か ら、 エ ピ ソー ド の 羅 列 であ る。 そ れ も彼 の 旧作 に見 られ る よう な 江 戸 小 咄 の類 で 、 頓 知 と 地 口 の 連 続 で、 依 然 と し て古 め か し い。 の ま と め a 昭 和十 年 に編 集 さ れ た ﹃ 現 代 連 続 漫 画 全 集 ﹄ 八 巻 に は、 成 人漫 画 と し て次 の 作 品 が 収 録 さ れ て いる。 ○前 川 千 帆 ﹃ あ わ て者 の 熊 さ ん﹄ ( 昭 五 ∼八 年 、 読 売 新 聞 サ ン デ ー 漫画連載)1 江戸 っ 子気質 の 下町職人 の 屈託 の な い 楽天的な生 活 。 ○ 下 川 凹 天 ﹃ 男 や も め の 巌 さ ん﹄ ( 昭 五 ∼八 年 、 同 上 紙 連 載 ) i も と 官吏 で 今 は落 魄 し て いる豪 傑 肌 の 男 の 、 近 代 化 さ れ た社 会 に 適 応 でき な い苦 悶 。 ○ 麻 生 豊 ﹃ 春 青 時 代 ﹄ー 気 の小 さ い阿井 植 雄 が モ ダ ン ガ ー ルの加 木 く け子 に 求 愛 しよ う と し ては 彼 女 の 飼 犬 に邪 魔 さ れ る話 。 ○ 長 崎 抜 天 ﹃ 風 船 玉 行 進 曲﹄ 新 家庭 を持 っ た超 特 急 氏 夫 妻 を め ぐ る甘 辛 新 婚 風 景 。 ○ 市 川 十 士 ﹃ 人 生 五 十 か ら ﹄ー 事 業 に 失 敗 し破 産 し た 是 柄 矢 郎 ( これ か ら や ろう) 氏 が 妻 子 を郷 里 に 帰 し て 労 働 者 か ら出 な おす 話 。 ○ 近 藤 日出 造 ﹃ ミ ス ・ パ ン子 ﹄ー 職 業 婦 人 を志 し て東 京 に来 たが 純 情 娘 の適 職 はな い。 田舎 の両 親 も 不 況 で上 京 し、 煙 草 屋 を 始 め、 や っと婿 捜 し に成 功 す るま で。 ○ 松 下井 知 夫 ﹃ 串差 お で ん﹄1 女 スリ 串 差 お でん は 恋 人 のあ と を 追 っ て上 京 し た 田舎 娘 の なれ の果 。 や っ と 会 って みれ ば 彼 は与 太 者 に な っ て いる。 大 臣 は汚 職 を し、 街 に は凶 作 救 済 の呼 び 声。 ○ 横 山隆 一 ﹃ ト ッ プ く ん と ラ ストく ん﹄i 二人 の掛 合 漫 才 。 話 題 に 求 職 、 満 洲 帰 り 、 戦 争 、 ヒ ッ ト ラ ー な ど が 出 る が 深 刻 な 風 刺 は な い。 ○ 田 河 水泡 ﹃ ミ スタ ー ・ チ ャン チ ャラ﹄1 失 業 し て家 賃 が 払 え な い 男 。 筋 肉 労働 を体 験 し た いと家 出を し た社 長 の せが れを 捜 し あ て て、 社 員 に な れ る ま で 。 ○ 河 盛 久 夫 ﹃ バ ー さ ん フー さ ん 小 母 さ ん ﹄ ( 昭 二 ∼ 五年 、 時 事 漫 画 連 載 )ー 学 生 の バ ー さ ん が 隣 の娘 フー さ ん に恋 を す る の を 下 宿

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昭和初期 の子 ども漫画 -の 小 母 さ ん が 取 り も つ自 由 恋 愛 の い き さ つ。 ○ 池 田永 一 治 ﹃ ぴ ち べ﹄1 い つ も ぴ ち ぴ ち し て いる か ら ぴ ち べ と 呼 ば れ る少 女 。 上 流 家 庭 の小 間 使 に な って 、 失 業 と 不 景 気 の社会 勉 強 を す る話 。 こ のよう に成 人 漫 画 は、 世 相 風 刺 と 生 活 難 と を 反 映 した 暗 いも の が多 く、 庶 民 は こ れ ら の 主 人 公 に同 一 化 し つ つ 一 抹 の希 望 の夢 に な ぐ さ め ら れ て いた。 ま た そ れ らを よ そ に青 春 を 享 楽 し て いる若 者 も あ っ た。 こう いう時 、 これ ら 十 一 編 に 同居 し て いる 子 ども 漫 画 六 編 は、 ま っ た く 時 代 を 越 超 し た 平 和 な 世界 に遊 ん で いる。 し か も申 し 合 わ せた よ う に 漫 遊 記 形式 であ る。 現 実 か ら遊 離 し て 空 想 の 世 界 を めぐ り 歩 く と いう のが、 子 ど も 向 き スト ー リ 漫 画 の 定 型 と さ え な っ て い る よう で あ る。 子 ど も を 大 人 の社 会 か ら 隔 離 し て 、 想 像 の 温 室 で育 て よう と い う 大 正 期 の児 童 中 心 主 義 が ま だ根 強 く 生 き て いる の で あ る。 そ れ に し ても も っと立 体 的 な 劇 構 成 が 可 能 な は ず で 、 成 人 漫 画 が そ れを や っ て い る のを 見 れば 、 子 ども 漫 画 はま だあ ま く 扱 わ れ て いた と 言 え よ う 。 b も と も と 世相 風刺 を 主題 と す る こ と は、 子 ど も漫 画 に は無 理 で あ っ た 。 風 刺 さ れ る べ き 対 象 が そ こに あ っ て も、 そ れを 直 接 に は描 か ず 、 類 似 の現 象 を 描 い てそ れ に想 到 さ せ る の が 風刺 の本領 で あ る。 だ が 世 相 を 反 映 し た 子 ど も 漫 画 は 、 ぼ つ ぼ つ 出 は じ め て いる。 ﹃ ス ピ ード 太 郎 ﹄ ﹃ 特 急 無 敵 三郎 ﹄ や ﹃ ハツ メ イ ハ ッチ ャン﹄ ﹃ 赤 ノ ッ ポ 青 ノ ッ ポ ﹄ な ど の よう に、 機 械 文 明 の進 歩 を 反 映 し、 科 学 的 興味 を 刺 激 し よう と す る意 図が 現 れ は じ め て い る。 これ は ﹃ 冒 険 ダ ン吉 ﹄ や ﹃ タ ンク タ ンク ロウ﹄ な ど に引 継 が れ るも の で、 大 げ さ に 言 えば 、 単 な る 興味 本位 か ら文 明 主義 に転 じ て く る徴 候 だ とも 言 え よう 。 こ の こと は 講 談 ダ ネ が少 く な っ て き て いる こ と と も符 合 す る。 当 時 ( 昭 和 五 年 以 後 ) 街 頭 紙 芝 居 で当 てた ﹃ 黄金 バ ッ ト﹄ に し て も、 筋 は講 談 系 で あ るが 、 科 学 者 の新 兵 器 発 明 比 べ を 取 り 入 れ、 火 星 ロ ケ ットを 発 射 す ると い う ふう に 文 明 主 義 化 さ れ て いる 。 c スト ー リ の展 開 に スピ ード が 出 てき た 。 そ れ に 関 連 し て 、 画 面 の 外 に解 説 文 を 添 え る形 式 が 後 退 し た。 そ の形 式 を 残 し て い る の は ﹃ ど ん ぐ り 太郎 ﹄ だ け で、 ﹃ 発 明 ハ ッ チ ャン﹄ は画 面 の外 に セリ フ だ け を 印刷 し て いる。 他 は み な画 面 の ﹁ 吹 き 出 し﹂ に セリ フを 入れ てお り、 ﹃ ど ん ぐ り 太郎 ﹄ の 作 者 も ﹃ 突 飛 鳶 太 郎 ﹄ で はや は り そう し て いる 。 これ は 漫 画 が物 語文 の 挿 絵 の 位 置 か ら、 主 体 的 な語 り手 の役 割 を 持 つ よ う に な っ た 役 割 転換 を 示 す も の であ る。 ち な みに こ の全 集 の成 人 漫 画 は 全 部 ﹁ 吹 き 出 し﹂ を 用 いる形 式 に な って いる。 5 総 括 ω ﹃ 現 代 漫 画 大 観 ﹄ の第 四 巻 ﹃ コ ド モ漫 画 ﹄ ( 昭 和 三 年 刊 ) と 、 ﹃ 現 代連 続 漫 画 全集 ﹄ の 中 の子 ど も漫 画 六編 ( 昭 和 十 ∼十 一 年 編 集 ) と を中 心 に し て、 昭 和初 期 の子 ど も漫 画 のあ り か たを 考 察 し てき た。 ② 一コ マ も のは、 風刺 に適 す る の で子 ど も漫 画 に は無 理 で あ る が、 子 ど も の生 活 に 取 材 し た も のが も っ と あ ってよ い ので は な いか。 当 時 の成 人 漫 画 か ら 推 し てそ ん な希 望的 観 測が 私 に は持 て る の で あ る。 た だ し ﹃ 楽 天 全 集 ﹄ や ﹃一 平 全 集 ﹄ を 開 い て 見 ても、 一 コ マ も の は ほ と ん ど見 当 ら な い から 、 当 時 の漫 画 家 に は 関 心 が な か っ た のか も し れ な い 。 一コ マも の と いえば ﹁ 描 き まぜ ﹂ 方 式 に走 る と いう安 易 さ に 馴 れ て いた のか も し れ な い 。 な お 抒情 画 ふ う の 発 想 は当 時 の 流 行 で あ ったと 思 われ る。 そ の後 は す た れ てし ま っ た のが惜 し ま れ る。 圖 四 コ マ も の の成 立 を跡 付 け る こ と は難 し い 。 大 正十 三年 ご ろ ま で に新 聞 に 連 載 さ れ る 漫 画 は スト ー リ も ので あ っ て も 四 コ マ ず つで あ (25)

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研究紀要 第2(喋 っ た し、 岡本 一 平 が 四 コ マの ﹃ 翻 案 ポ ンチ ﹄ を 描 き ( 年 不 詳 ) 、 ま た 四 コ マ 漫 画 の 理 論 ﹁ 起 承 山 結 ﹂ 論 を 説 いた の は昭 和 五 年 であ っ た 。 四 コ マ も のに は 二 つ の 方 式 が 見 ら れ る。 そ の 一 は ﹁ 吹 き 出 し﹂ を 用 いたも ので あ るが 、 当 時 は手 書 き であ っ た 。 こ の系 統 は後 の ﹃ フク ち ゃ ん﹄ や ﹃ サザ エ さ ん ﹄ な ど に 引 き 継 が れ 、 日 刊新 聞 の漫 画 の 定 型 と な っ た 。 そ の二 つ は サ イ レ ント方 式 で 、 キ ャプ シ ョン のほ か無 字 幕 の ﹃ ク リ ち ゃん ﹄ に 引 き 継 が れ る 。 ㈲ も っ と も 大き な変 動を 見 せ た のは スト ー リも の で あ る。 中 央 美 術社 の ﹃ コ ド モ漫 画 ﹄ で は、 講 談 ダ ネ が 多 か ったが 、 ア ト リ エ 社 の ﹃ 連 続 漫 画 ﹄ で は これ が 減 少 し て い る。 前 者 では 絵 は挿 絵 と し て 機 能 し て いたが 、 後 者 で は ﹁ 吹 き 出 し﹂ 方 式 を 取 り 入 れ、 絵 が独 立 し て物 語 る技 法 を 開 発 し て いる 。 こ の こと は、 映 画 のト ー キ ー 化 の 転 換 と同 時 期 で あ る こと に 意 味 が あ る のか も し れ な い 。 ( わが 国 の 最 初 のト ー キ ー 作 品 は 昭 和 二年。 ) な お 後 者 も ﹁ 吹 き 出 し﹂ を使 う と い って も、 み な手 書 き で あ る。 こ れ を 現 在 のよ う に 活字 で示す よう に な る のは、 ﹃ のら く ろ﹄ ﹃ 蛸 の八 ち ゃん﹄ 、 ﹃ 冒険 ダ ン 吉 ﹄ 、 ﹃ タ ンク ・ タ ンク ロー﹄ な ど主 に講 談 社 系 の 雑 誌 であ っ た 。 漫 画 が 物 語 を 語 る よう に な ると 、 静 的 な 絵 に 動 的 な 記 号 が 必 要 に な っ て く る。 そ の必要 から 漫 画 特 有 の歩 跡 ・ 風 跡 ・ 衝 突 星 ・ 重 ね焼 き な ど の 技 法 が 生 まれ た 。 当 時 ま だあ ま り これ ら を 使 っては い な い が、 ﹃ のら く ろ ﹄ 以後 の 作 品 に は欠 か す こ と のでき な い 技 法 と な って い る 。 な お こ の時 期 から スト ー リ の作 者 と 漫 画 の 筆 者 と が 同 一 入 に な っ た 。 む ろん 漫 画 家 が 自 分 で スト ー リ も 書 き 下 す よ う に な っ たが 、 こ の 傾 向 は ﹃ 劇 画 ﹄ の時 代 に 入 っ て、 昭 和 四 十年 頃 か ら ま た原 作 者 に スト ー リ を ゆ だ ね る も のが 出 てき た 。 ㈲ こ のよ う に 昭 和初 期 に は 一コ マ も の は 抵 と ん ど開 発 さ れ な いま ま で終 わ り、 四 コ マ も の は早 く 新 聞 紙 上 に 定着 し て人気 が あ っ た。 新 聞 の社 会 面 を 開 けば 、 大 人 も の でよ く は 判 ら な いに し て も ﹃ ノ ンキ ナ トウ サ ン﹄ や ﹃ ひと り 娘 の ひね 子 さ ん ﹄ ( と も に大 正十 三年 か ら) な ど の入 気 漫 画 が 見 ら れ る と いう の で 、 新 聞 紙 に魅 力 を 感 じ て いた子 ど も も 少 く は な か っ た であ ろう 。 次 いで ﹃ スピ ード 太 郎 ﹄ ( 昭 五 ∼八 ) 、 ﹃ 赤 ノ ッ ポ青 ノ ッ ポ ﹄ ( 昭九 ) 、 ﹃ ハツメ イ ハ ッ チ ャ ン ﹄ ( 昭 十 ) な ど が細 々と 子 ど も の 興 味 を 捕 え てき た が 、 や っ と 昭 和 十 一 年 に ﹃ フク ち ゃ ん﹄ の 前 身 ﹃ 江 戸 ッ 子 健 ち ゃ ん﹄ が 登 場 し て大 人 に も 子 ど も に も わ か る漫 画 が 現 わ れ た。 と こ ろが これ と 並 行 し て少 年 雑 誌 に は 子 ど も む き の スト ー リ も のが 掲 載 さ れ は じめ る。 ﹃ 少 年 倶 楽 部 ﹄ の ﹃ のら く ろ ﹄ シ リ ーズ ( 昭 六) と ﹃ 冒 険 ダ ン吉 ﹄ ( 昭九 ) 等 で、 こ れ ら の作 品 か ら は講 談 調 を 脱 し て、 純 粋 の子 ど も の ユ ー モ ア の開 発 に 向 か っ て いる。 た だ し後 者 は漫 画 と 物 語 と が 共 存 す る 古 い形式 であ っ た が、 文 明 主義 と と も に当 時 の国 策 であ っ た 南 進 論 が 盛 ら れ て いる 。 か く て昭 和 初 期 の子 ど も漫 画 は、 上 記 の よう な 過 渡 期 に あ っ た と 言 え る。 そ の 後 は安 定 し た上 昇 気 流 に乗 って、 子 ども の人 気 を さ ら う の で あ るが 、 す ぐ 敗 戦 が 迫 ってく る。 ︹ 注 ︺ ( -) 岡 本 一 平 ﹃新 ら し い漫 画 の 描 き方 ﹄先 進社 、 昭 五 ( 2) 代 田 収 一 編 ﹃ コ ド モ 漫 画 ﹄ ( 現代 漫 画大 観 嘸 4) 中 央 美 術 社 、 昭 三 ( 3) 前 川 千帆 他 ﹃ 現 代連 続 漫 画全 集 ﹄ ア ト リ エ 社 、 昭 十 ∼十 一 ( 4) 阪 本 一 郎 ﹃ 少 年 ケ ニヤ の 話 根 分 析 の試 み ﹄ ( 読 書 科 学 愾 1) 日本 読 書 学 会 、 昭 三 十 一 ( 5 ) 同右 ﹃漫 画 ﹁赤 銅 鈴 之 助 ﹂論 ﹄ ( 読 書 科 学 翫1 5 、 16 ) 同 右 、 昭 三十 五 ( 6) 同右 ﹃ 少 年 漫 画 の 一 断 層 1 ﹁月 光 仮 面 ﹂ と ﹁ 変 幻 三日 月 丸 ﹂ ﹄ ( 読書 科 学 配 18) 同右 、 昭 三 十 六 ( 7) 同 右 ﹃ 最 近 の児 童 漫 画 ﹁ 鉄 腕 アト ム﹂ と ﹁ サ スケ﹂ ﹄ ( 読書 科学 恥 32 、 33) 同 上 、 昭 四十

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昭和初期 の子 ども漫 画 ( 8) 作 田 啓 一 他 ﹃ マンガ の主 人 公 ﹄ 至誠 堂 、昭 四 十 ( 9) 須 山 計 一 ﹃ 日 本 漫 画 一 〇 〇 年 ﹄芳 賀 書 店 、 昭 四 十 三 ( 10 ) 阪 本 一 郎 ﹃ 児 童 漫 画 ﹁ のら く ろ ﹂ の 作 品分 析 ﹄ (読 書 科 学 翫4 1) 日本 読 書 学 会 、 昭 四 十 三 ( 11 ) 同 右 ﹃ 冒 険ダ ン 吉 ﹂ の 作 品分 析 ﹄ (読 書 科 学 恥 43) 同 右 昭 四 十 三 ( 12 ) 同 右 ﹃ 児 童 漫 画 ﹁ 長 靴 の三 銃 士 ﹄ (読 書 科学 恥 44) 同右 昭 四 十 四 ( 13 ) 同 右 ﹃ 子 ど も スト ー リ漫 画 略 史 ﹄ ( 読 書 科 学 恥 55 ) 同右 、 昭 四 十 六 ( 14 ) 同 右 ﹃ 魔 の救 援 者 た ち-児童 漫 画 の 一 研 究 ﹄ (読 書 科 学 嘸 60) 同 右 昭 四十 七 ( 15 ) 同 右 ﹃ 漫 画 の文 法 と 読 み の モ デ ル ﹄ ( 読書 科学 嘸 64) 同 右 、昭 四 十 八 ( 16 ) 同 右 ﹃ 正 ち ゃん ﹂ と ﹁ ズ ク 小僧 ﹄ ( 読書 学 会 嘸 69) 同右 、 昭 四 十 九 ( 17 ) 同 右 ﹃ 宮 尾 し げ を ﹁ 団 子 串 助漫 遊 記 ﹂ の 魅 力 ﹄ (保 育 論 叢 恥 9) 立 正 女 子 大 児 童 科 、 昭 四 十 九 (27)

参照

関連したドキュメント

1-1 睡眠習慣データの基礎集計 ……… p.4-p.9 1-2 学習習慣データの基礎集計 ……… p.10-p.12 1-3 デジタル機器の活用習慣データの基礎集計………

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1  ミャンマー(ビルマ)  570  2  スリランカ  233  3  トルコ(クルド)  94  4  パキスタン  91 . 5 

どんな分野の学習もつまずく時期がある。うちの

 親権者等の同意に関して COPPA 及び COPPA 規 則が定めるこうした仕組みに対しては、現実的に機

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土肥一雄は明治39年4月1日に生まれ 3) 、関西

□一時保護の利用が年間延べ 50 日以上の施設 (53.6%). □一時保護の利用が年間延べ 400 日以上の施設