数学教育における「読み」に関する研究
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(2) 数学教育における「読み」に関する研究 はじめに.____.__..______..____..__._____.._._.____._...1. 第1章 数学教育における「読み」_____..______..._.___.._..__・2 第1節. 本研究の主題__..___..______....______.__..____.__.2. 第2節 ローゼンブラットの交流理論._____._._.._____._.____._...3 第1項 読解__..____..______..._____._。_____._.__.・………4 第2項 R五Mプロジェクト.....,.......。......_.........................._............_......_.5. 第3項 鈴木によるロ田臭ンブラットの交流理論_._____..______...6 第4項 山元によるローゼンブラットの交流理論.____.._...___.___..8. 第2章 数学に関連したテキストの「読み」方略_____._.______.10 第1節. 何かを言う(Say Something)__..______._.._____...___11. 第2節 広げるためにスケッチする(Ske七ch加Stretch)..,__..____..___15 第3節. カードを使う(Using the Cards).._.._.___.__...______..__.18. 第4節. 実行する(Enact)____.___._.__._____._.._____._._...21. 第3章. 「読み」の実践______..___.__._.._∴_._.__._.____23. 第1節. 数学教育における「読み」の意義______.______.._.23. 第2節. 実践の目的______...._._____.___.___..__._.___._...26. 第3節. 実践の概要.___.___.__.____....___・…・.…・…・……………・・……27. 第4節. 実践の流れ______..__..___...______..._____._.._.28. 第5節. 実践結果______..._____.._.____・…・…・・…………・……・……….29. 第1項. 授業前の個人の意見.______.___.__._._____.._.___..29. 第2項. グループ発表.______...______.______...______.31. 第3項. 授業後の感想______._____._..____._._.__.___...38. 実践考察_____._._..___._..._____._..___.___..._..40 第4章. まとめと今後の課題.______...______.__._.___.__.47 第5章 ................._.._....__.__....__...................。............................_51 おわりに. 〈参考文献〉______.______..______.______.__..52 資料1____.,__...______.__.._.__...__._.___.______i 資料n:__.___.______...__._.___.____..__.____._._..iv.
(3) はじめに 中央教育審議会の審議経過報告書から,学力に関する調査結果で日本の子ども. たちの読解力低下(PISA調査では,2000年から2003年で8位から14位となる) が判明し,文部科学省は「読解力向上のためのプログラム」をまとめた。このプ ログラムでは,PISA(Programme for International S七udent Assessment)型読. 解力を向上させるために,以下の3つが求められている。 ①テキストを理解・評価しながら「読む力」を高める取り組みの充実 ②テキストに基づいて自分の考えを「書く力」を高める取り組みの充実. ③様々な文章や資料を読む機会や自分の意見を述べたり,書いたりする機会の 充実. 子どもの社会的自立のために必要な力として,国語科を中核としながら,国語 科以外の教科等と連携して,全ての教育的活動を通じて,読む力・書く力などを 育成していくことが今後新学習指導要領の改訂で重視されるだろう。. 数学教育の分野でも書く力の研究はいくつかなされている。日本では埼玉大学 の二宮の「Writing」の研究がよく知られている。しかし,読む力の研究は日本で. はほとんどなされていない。数学教育で「読む」といえば,文章題や教科書など を読むことが考えられる。そこで,「読み」の文献を探していると,外国の文献を. 見つけた。最近,外国では数学についての歴史や哲学,数学的な物語,数学を用 いた新聞記事の読みについての研究がなされている。. 例えば,新聞記事の中にも数学が多く含まれている。新聞は多くの人々に読ま れているが,その中には数値で表されている表やグラフがあるが,それをしっか りと読み取っている人は何人いるだろうか。新聞は時にはニュースでも取り上げ られているが,ニュースキャスターのように専門分野において優れた人が独自の 感想や意見を述べてしまうため,視聴者である一般の人々は彼らの感想や意見を 鵜呑みにしてしまう。特に,スポーツの解説がそうである。例えば,野球の解説 では,解説者が試合内容を広く理解してもらうために中継の解説を行うし,試合 の詳細な事後解説も行うが,解説者が「○○選手,今日は調子が悪いですね」と 言えば,視聴者は「この選手は調子が悪いから打てないのか」と思い込む。その 選手の打率を見るとそうでもないのだ。. 筆者は数学における「読み」の中でも外国で研究されている数学についての歴 史や哲学,数学的な物語,数学を用いた新聞記事の読みについて考えていく。. 2006年12月20日 1. 加藤ゆみ.
(4) 第1章. 数学教育における「読み」. 本章では,「読み」といっても従来の数学教育で行われてきた専門用語や記号,. 数式,グラフ表現や図表奴等を含んだ,教科書や文章題といった特殊な数学的テ キストの「読み」ではなく,数学についての歴史的エッセイや哲学的エッセイ,数. 学的概念や数学的トピックスの応用についての論説といった数学に関連したテキ スト(物語)の「読み」について考察する。そこで,「読み」の基盤となっているロ. ーゼンブラットの交流理論を踏まえて,数学教育における「読み」について述べ る。. 第1節. 本研究の主題. 兵庫県小野市教育委員会と兵庫教育大学,附属中学校との連携・協力による『「確. かな学力」が育つ学習指導の研究』の中に教科の基盤となる「言葉の力」につい てのアンケート調査の結果が記されている。この結果の中で教師用アンケートの 結果を見る。. PISA型の読解力が求められている現在,「言葉の力」という表現でこのPISA 型「読解力」を扱っている場合もある。上記のアンケート調査では,中央教育審 議会が国語力について「聞く力・話す力・読む力・書く力」の具体的な目標とし て掲げているものを参考にアンケートを作成している。アンケートの中でも,数 学の教師が答えたアンケート結果を見てみる。 「言葉のカ」とは,どのような力を想定されますかという質問に答えた数学の教師 の意見を見てみると,自分の考えを他人に伝えたり説明したりする力である「話す力」 や,他人の意見を「聞くカ」,証明を「書くカ」が挙げられているが,「読む力」に関. して答えている教師はいなかった。つまり,数学の授業では「読む力」に注目してい る教師がいないことが分かる。. そこで,筆者は数学教育における「読み」について研究を行うことにした。まず, 「読み」について述べておく。数学教育で「読む」といえば,文章題や教科書などを. 読むことが考えられるが,筆者が研究対象とする「読み」は,最近,外国で研究され ている数学についての歴史や哲学,数学的な物語,数学を用いた新聞記事の「読み」 である。. 読者がただテキストを読むのではなく,「読み」方略を用いてテキストを読む。本研. 2.
(5) 究ではその効果を明らかにする。. 本論文は,以下の5つの章からなる。. 本章では,主に「読み」の基盤となっているローゼンブラットの交流理論につい. て述べる。第2章では,数学教育研究者と「読み」教育研究者の共同研究プロジ ェクトであるRLM(Reading to Learn Mathematics for Critical Thinking)プロジ. ェクトの研究成果の一端を紹介したBorasiら(1998)が捉えた4っの「読み」方略. の概要を述べる。第3章では4つの「読み」方略をまとめ,数学教育における「読 み」の意義について述べる。そして,「読み」方略を用いて,実際に行った実践に. ついて述べる。第4章ではその実践の考察を行い,最後の第5章では本研究をま とめ,今後の課題を述べる。. 第2節. ロ一霞ンブラットの交流理論. 本節では,「読み」の基となっているローゼンブラットの交流理論について述べ. る。ローゼンブラットは大学でフランス文学に関する卒論をまとめ,後に様々な 本を出版している。その中で,文学教育に強い影響力を与え,二度にわたり『探 究としての文学』が再版された。山元(2005)は「ロ割合ンブラットはリチャー ズとともに現代英米の〈読者反応理論〉の先駆者とされている。」と述べている。. 以下では,第1項は,PISA調査の読解について,第2項では数学教育研究者と 「読み」教育研究者の共同研究プロジェクトであるRLMプロジェクトについて述 べ,このプロジェクトが実践の基盤としたローゼンブラットの「交流理論」を第3 項と第4項に記す。. 3.
(6) 第1項. 読解. はじめにも述べたようにPISA調査で読解力低下が判明している。まず, PISA 調査とは,義務教育終了段階の15歳児が,既有の知識や技能を実生活のさまざま な場面で直面する課題に活用して解決できる力を評価しようとするものである。 そして,そのために主要なリテラシーとして位置づけられるのがリーディング・. リテラシー(読解力)である。PISA調査における読解力とは「自らの目標を達成 し,自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社会に参加するために,書かれた. テキストを理解し,利用し,熟考する能力及びそれをもとに自分の考えを効果的 に表現する力」と定義される。ここに「書かれたテキスト」とあるが,大きく分 けると二種類(図1)ある。. 連続型テキスト. 非連続型テキスト. 物語 解説 記録. 図 地図 グラフ. など. 広告 など. 図1書かれたテキスト. 一つは,文章で表現された物語,解説,記録等の「連続型テキスト」,もう一つ. は図や地図,グラフ等のデータを視覚的に表現した「非連続型テキスト」と呼ば れるものである。. 数学教育でよく用いられるのは非連続型テキストであり,これらのテキストに ついての研究は古くからなされている。筆者は国語教育で用いられる連続型テキ ストの中から数学に関するテキストを選択し,数学に関連する「読み」について 述べていく。. 4.
(7) 第2項. RLMプロジェクト. RLM(Reading to hearn Mathematics for Critical Thinking)は数学教育研究者. と「読み」教育研究者の共同研究プロジェクトであり,交流的「読み」方略 (transactional reading strategies)と数学に関連したテキストを数学教育に統合 するために企画された(Borasi,et al,1998)。従来,数学教育で「読み」の研究といえ. ば,専門用語や記号,数式,グラフ表現や図表現等を含んだ,教科書や文章題と いった特殊な数学的テキストの「読み」を対象としていた。しかしRLMは,数学の. 特定の側面についての歴史的エッセイや哲学的エッセイ,数学的概念や数学的ト ピックスの応用についての論説といった数学に関連したテキスト(物語)の「読み」 を研究対象とし,交流的「読み」という視点からその実践指導を行っている。. そこでまず,このプロジェクトの理論的基盤である,テキストと読者との間の動 的関係を論じ,読むという行為を読者とテキストとの〈交流transaction>として 分析したルイーズ・ローゼンブラット(Rosenblatt, Louise M.)のく交流理論(the 七ransactional theory)〉を見る。. 5.
(8) 第3項. 鈴木によるローゼンブラットの交流理論. 鈴木(1987)は英文学研究の立場から読者の役割と読みの活性化の条件を論じる 中で「交流理論」の特色を詳しく考察し,文学教育に果たす役割を論じている。 そこで,鈴木が述べているローゼンブラットの交流理論を述べていく。. ルイーズ・M・ローゼンブラットが1978年に出版した『読者,テキスト,詩』 (7乃θ丑θ∂ゴθ乃孟ゐθ%xち孟ゐθ%θ加)は1964年から学術雑誌等に発表してきた彼. 女の考えを広げ充実させたものであり,発展させたものでもある。特に本書では 「交流理論」(the transactional theory)なるものが提唱されている。. 鈴木は彼女が書いていた“七he transactional theory”を日本語で何と訳すべき. か長い間迷っていたが,研究社発行の『リーダーズ英和辞典』で“transaction” の項で調べてみると,「交流」の訳語があり,さらに小川明断の書かれたマーケテ ィング関係の著書の題『感性時代の交流発想』(MG出版)にもヒントを得て,「交 流理論」と訳語を当てた。筆者はこれにならい“the transactional theory”を交 流理論と訳す。ロ川前ンブラット自身は“transactionalism”「交流主義」という. 語は用いていないが,鈴木は“transactiona1”という形容詞が“theory”以外の. 語にかかる場合,日本語としては「交流理論的」と訳すよりも,むしろ「交流主 義的」と訳す方が適切であると考えている。それは “transac七ional theory”自. 体が理論ばかりでなく,実践をも視野の中に収めていることに由来するからであ ろう。. 「交流」という用語は,読者とテキストとの問の相互作用(interaction)から 線的(linear)なイメージを払拭したいというっもりで用いられている。「交流」 という言葉を用いることで,読書過程の動的性質が強調されることになる。「交流」 は必ず読者とテキストとの間で行われる。. ロ田図ンブラットが『読者,テキスト,詩』を出版した目的は,「作者・テキス. ト・読者」の読者行為を成立させる三要素を舞台に登場させ,全てにスポットラ イトを当てるためだった。従来までは作者とテキストにライトを当てたアンバラ ンスな状態だったが,ローゼンブラットはそのアンバランス状態を正し,読者に もライトを当て,読者も必要不可欠な要素であることをアピールしたいという思 いがあった。. ローゼンブラットの理論は,読みという行為の考察に「人間的要素」を入れる ことである。交流理論は,文学批評がテキストに焦点を当てた「遠心的関心」に 6.
(9) ばかり向けられ,作者と読者を軽視したテキスト中心の読みになっていたので, 彼女は「遠心的」(efferent)という言葉と対になる「内部に焦点を当てた」(inwardly. focused)という言葉を考え,「読者側の活動」にスポットを当て,その活動を考 察しようとする。彼女にとっては読者による作品の〈喚起〉(evocation)という. ことが最大の要点である。〈喚起〉とは,読者がテキストを読むく読みの行為〉 というパフォーマンスの中心を成すものである。しかし,テキストの存在を忘れ,. 読者だけを見るような傾向に陥ってはならない。彼女がしたいのは三要素のアン バランス状態から読者の位置をバランスのとれた位置にまで戻すことである。. ローゼンブラットは読者が「仲介者」なしにテキストに向かい合うことを読書 行為の試みとしている。「仲介者」とは専門に優れた者を指しており,具体的に批 評家・学者・教師などのことである。読者を重要視している交流理論であるから,. 「仲介者」が存在すると読者が軽視される。読者は積極的に読書というくイベン ト〉に参加しなければならない。そうでなければ,「読み」が始まらない。. 読者の主な役割はテキストからイメージ・意味・感情等を喚起することである。. 読者はテキストをただ読むだけでは何も得ることはできない。テキストはヒン ト・鍵・出発点・枠組みを与えるためのものであり,読者は読書行為の最中に,. テキストに書かれた要素をつなげ枠組みをつくり,テキストで述べられていない 要素を補っていくことで一つの構造に仕立てあげていく。. 7.
(10) 第4項. 山元によるローゼンブラットの交流理論. 山元(2005)によれば,ローゼンブラットのく交流理論〉はいくつかの著書・ 論文を通して構成されている(山元(2005)pp.212−213)。山元はこれらの著書・論. 文を通して構成された穴馬ゼンブラットの交流理論のキーコンセプトとして,下 記の4つに注目した。. 山元によるローゼンブラットの交流理論のコンセプト ・探究(exploration). ・出来事(eVent). ・交流(transaction). ・喚起(eVOCatiOn). 読むという行為は読者によるく探究〉の過程であり,それはその読者にとって かけがえのない〈出来事〉であるこということや,読者はテキストと〈交流〉す るなかで自らの内に何ものかを〈喚起〉するということが,ローゼンブラットの 読みの理論の中心思想となっている。. 山元(2005)はローゼンブラットの「書物を通して,読者は自らが何者であるか ということを探究し,自分の内面での思考や感情の可能性を意識化し,… (中. 略)…. 自らの外界や,他者の人格,自分とは違った生き方を探究する」(山元. (2005)pp.214・215)という言葉を引用し,書物を〈探究のための媒体〉と捉えるこ. とが彼女の基本的な考え方であると述べている。. また,山元はローゼンブラットの「教師の役目とは,個々の読者と個々の作品 との豊かな相互作用一より正確に言えば,交流一を補佐していくことにある」(山 元(2005)p.216)という言葉をもとに,教師は,テキストとの〈交流〉を促していく. 媒介者的なものとならざるをえないと述べている。数学に関連したテキストとの 交流の促し方については次章で述べたい。. 山元が引用したローゼンブラットの言葉の中に「交流とは,結局,読者とテキ ストとの間で生じる意味のことなのである」(山元(2005)p.218)という表現がある. が,これも次章での考察に大いに関わりがある。. 次章との関わりということで言えば,ローゼンブラットは読むスタンスを問題に. 8.
(11) しており,山元の言葉を借りると,同一テキストに対する複数の読みが,それぞ れのスタンスによって違いがあらわれるということである。. 9.
(12) 第2章. 数学に関連したテキストの「読み」方略. RLMプロジェクトの研究成果の一端を紹介したBorasiら(1998)が,数学に関 連したテキストの「読み」方略としてローゼンブラットの交流理論によって紹介 された読みの文献から下記の3つの方略を抽出した。. ①何かを言う. ①何かを言う. (Say Something)’. (Say Something). ②広げるためにスケッチをする. ②広げるためにスケッチをする. (Ske七ch−to−Stretch). (Sketch−to−Stretch). ③カードを使用する. ③作者をクローンする. (Using Cards). (Cloning an Author). ④テキストを実行する (Enacting the TEXT). RLMプロジェクトの初期の実践指導を行った結果,「読み」方略の内の1つで ある「作者をクローンする」という方略は範疇に入る方略があまりにも広いため,. それを「カードを使用する」という方略に改作・改名した。そして,Borasiらは新 たな方略として,「テキストを実行する」という方略を考えた。本章では,これら4 つの方略の概要を述べる。. 10.
(13) 第1節 何かを言う(Say Something) 本節では,数学に関連したテキストの「読み」方略の1つである「何かを言う」 (Say Something)について,具体例を用いて述べる。. まず,「何かを言う」(Say Something)方略とは,数学に関連したテキストを読. んだ後で,級友とペアで,また,小集団で,お互いの感情や意見を共有するため,. テキストの背景的知識と自分の経験を結びつけるようなことを話し合う方略であ る。この方略を使用すると,互いに自分の感情や意見を伝え合う機会が与えられ る。この方略はアイデアを出すための共鳴板として,混乱した点などを対処する ためのサポート・システムとして使われる。. そこで,R:LMは高校生にいろいろな数学に関連したテキストを与え,「何かを. 言う」方略の有効性を検証している。RLMの実践例を挙げる。下記のテキストは 『The Mathematical Experience』(Davis&Hersh,1981)の一節“Mathematics and War”の中の一段落である。. 「数学と戦争」より. テキスト:日本上空の原子爆弾の炸裂およびその後のより強力な爆弾の発達で,それ まで象牙の塔の学者生活をしてきた原子物理学者は,1つの罪悪感を経験した。この罪. の意識は同時に数学界に広がった。個々の数学者は,めいめいどんなふうに世の中に 怪物を解き放したか,そしてもし彼らがそれを行ったのならば,そのことを自分の抱く人生 への哲学的見解というものとどう調和できるのか,と自問した。かつては遠く離れたオリン. パス山の教義と思われていた数学が,物理学的,社会学的,そして心理学的損害を与 えることができるものとして突如として現れ出た。数学者のある者は彼らの主題を良い部. 分と悪い部分に区分し始めた。良い部分:純粋数学,抽象的であればある程良い。悪い 部分:あらゆる種類の応用数学,ある数学者およびこれからという学生が永遠に応用か ら離れた。ノーバート・ウィーナーは,予測とフィードバックコントロールの理論の開発に従. 事していたが,彼の研究への政府援助を断わり,彼の後半生を生物物理学において“良. 11.
(14) い研究”を行うこと,および人類を非人間的に使用することへの反対を唱えることに捧げ た。. (訳;『数学的経験(The Mathematical Experience)』訳者柴垣和三雄・清水邦夫・ 田中裕 pp.85・86). 「数学と戦争」を読み終えた後,2人の生徒(ヴァンとシェリー)は「何かを言う」 (Say Something)を実行し,上記の段落に関わって,以下の対話を行った。. 「数学と戦争」読んだ後のヴァンとシェリーの対話 ヴァン. OK,さて,彼らがいつ原子爆弾を作ったか・・… 第二次世界 大戦を思い出して。彼らが広島に原子爆弾を投下したのはいつだっ たかな? 他の都市は忘れた(シェリーがうなずく)。それを作るの. を手伝った数学者は悪いことをしたと思ったんだよね。多くの人を 殺したのだから。では,数学は悪いの,それとも数学は良いの? 私. の言ってること分かる? 今では,数学を何か悪いことに使うこと ができるということを彼らは知っているんだよね。 シェリー. そう,彼らは,爆弾を作るのは悪いことだと言っていたわ。. ヴァン. でも,数学は誰かを傷つけるようなものではなかったんだよ。. シェリー. それでは,良い数学の例が何かある?. (中断). ヴァン. 気象学とか,何か。天気の学習。でも私が言いたいのは,爆弾が人々. を傷つけ,人々を殺したということに関してだよ。この数学クラス のようだったら,それは良い。私たちがここにいても誰も傷つけな いし,何もしない,私の言ってること分かるよね。 シェリー. はい,はい,でも,学校は悪いとは思われていないわ。. ヴァン. 多くの数学と関わってきだコンピュータのようにね。. シェリー. そして科学もよ。. 12.
(15) ヴァン. そうだね,それは誰も殺していないね。爆弾と比べると,誰も殺し ていない。まだ続ける?. シェリー. 私,質問があるの。「個々の数学者は,めいめいどんなふうに世の中. に怪物を解き放したか,そしてもし彼らがそれを行ったのならば,. そのことを自分の抱く人生への哲学的見解というものとどう調和で きるのか,と自問した」と言っているが,私には意味が分からなか った。これ,どういう意味? ヴァン. OK。彼らが爆弾を作ったのは彼らの過失だったのだろうか? 怪 物は爆弾のことだよ,いいかい?(シェリーがうなずく) 「自分 の抱く人生への哲学的見解というものとどう調和できるのか」の「調 和させる」は「修正する」または「変える」の意味だよ。. シェリー. はい。でも,その後の「以前は縁遠い,天上の学問と見られていた 数学が,突然,物理的,社会的,心理的ダメージを与え得るものと して現れた」というのはどういう意味? 人々は,数学者がそんな ことができると思ったのかしら?. ヴァン. チョットまって,チョットまって。数学であって,数学者じゃない んだよ。数学,それ自身であって,それを教えている人々ではない んだよ。. シェリー. あ一,そうか。. 上に掲げた2人の対話から分かるように,彼らは原爆の話から数学の良し悪し について話し始めた。初めは2人ともその良し悪しの判断ができなかったが,2 人の対話や中断中の思考を経て,数学が悪いのではなく,爆弾が悪いということ を共有するようになる。その後,シェリーが数学者の倫理観を述べた一文や数学 と自分たちとの関係を述べた一文の意味をヴァンに問い,ヴァンがそれに答えて いる。. 上掲のテキストは節名が示すように,数学と戦争の関わりを述べた段落であり,. 13.
(16) 上記の対話から分かるように,2人は,数学や倫理,原子爆弾の製造を介して,数 学と日常生活の関わりに気づき始めている。 またヴァンとシェリーは,対話を通して,爆弾に対する善悪の判断を共有したり,シ ェリーの質問にヴァンが答えることによって,シェリーのテキストの意味づけを助け ている。このように,「何かを言う」方略の使用によって,初めは明確でなかった考え. やアイデアを明確にして共有したり,質問や疑問の答えを得てテキストの意味づけを 確かなものにしたりすることができる。. 14.
(17) 第2節 広げるためにスケッチする(Sketch to Stretch) 本節では,数学に関連したテキストの「読み」方略の1つである「広げるため にスケッチする」(Sketch to Streもch)について,具体例を用いて述べる。. この方略はテキストの意味づけを広げるためにスケッチをするという方略であ り,テキストを視覚的に表現する方略である。この方略の目的は,視覚表現を使 用し,新しい観点からテキストを振り返ることである。また,スケッチをクラス に提示し,個人的解釈を共有したり練り上げたりすることもできる。. 下図は前節で掲げたテキスト“Mathematics and War”を読んで,ヴァンとシ ェリーが描いたスケッチである。. i. 繍噌岬. ・鰍“赦しi. 欝◎;急醗. L. i i. i.. .{,. 7」. 燃. 1.、、. 霊轟ξ. 1. ⑧…もJ19輔越i⑧ 図2 「戦争と数学」のヴァンとシェリーのスケッチ. このスケッチは「数学と戦争」の最後の段落の一文である[我々は第一次世界大 戦は化学者の戦争であり,第二次世界大戦は物理学者の戦争であり,(それは決して来 ないかもしれないが)第三次世界大戦は数学者の戦争になるだろうと言われているのを. 15.
(18) 耳にし始めた】に焦点を合わせたスケッチである。ヴァンの説明によると,数学の利. 用によって兵器が歴史を通してどのように改良されたかを車に例えており,左か ら順に1番目の絵は数学の始まりであり,当時の数学の兵器への利用は,最初に 手に入れた車に例えると,車体も車内も茶色であり,タイヤはベアタイヤ,ホイ ールは普通のホイールであった。2番目の絵は数学の兵器へのさらなる利用で,車. で言えば,以前の車にいくらかお金を投資して,車体を黒色に塗装し,タイヤを スポークタイヤに変え,1部の窓には黒いシートを貼った車である。3番目の絵は 将来の数学の兵器への利用で,さらに多くのお金を投資して,車内も黒くし,自 動車電話を取り付け,すべての窓に黒いシートを貼り,タイヤをすごいリムに変 え,シフトを取り付けた車である。. 満,瞬輔需. x∼憂. 一. 鍮 傷. ンた磁 ケ. 繭奪{緬靴鍔鯛軸もL. ⑫ αひiκ馬 ゆ. q高P認‘臨藁. 鱗璽醸・. @ 鬼. 軸 [=ヨコ国筍. P臼. 一. “. シ勘晦恥}. o. ョ…犠・. ・■螺1. 糎. る//ン ドド秘 ”. @. 茸響. ワ. 艦贈. ㌔齢}齢 “. 無・. や k骸犠. @ @. ぜ. 謙、. も、 ム.. 駕. 6 O .蝋、貞闘 @ 帥縛◎ @ 」の謬. 繍賦轟』曝. W. い霞. 6. ’. り“. 図3「数学と戦争」のチャーのスケッチ. 上図はチャーが描いた“Mathematics and War”のスケッチである。図の1段 目は左からカタパルト(石弓)の絵,中央は数学者がカタパルトの角度を計算し ている絵。右はプラカードに「その調子だ。殺せ。」と戦争に賛成であることが. 16.
(19) 描かれた絵である。次の2段目は左から中国を爆破した絵,中央の斜線上部は多 くの科学者が「これをしたらいくらお金がもらえるだろうか」と考えながら実験 をしている絵,斜線下部は少数の科学者は「本当はこんなことしたくない」と思 っている絵である。斜線によって分割された一マスの面積比が,それぞれの絵に よって示された人数比になっている。以下も同様である。右の斜線上部はいくつ かのプラカードに「戦争に勝て」「(爆弾を)もう一つ落とせ」「社会のためにもつ. とお金を」という戦争賛成派が多く,斜線下部は「戦争を失くそう。」 「私たち. の赤ん坊を殺すな。」という少数の反対派もいる絵である。3段目は左からロシア. とアメリカにはミサイルの格納庫が存在する絵である。中央の斜線上部はお金を 得るために実験をしている科学者が半分,斜線下部は人々を殺すために実験をし たくない科学者が半分いる絵である。右の斜線上部はプラカードに「ロシアを殺 せ」という少数の戦争賛成派,斜線下部は「金はこれ以上払わん」 「核戦争を止 めろ」という多数の反対派の絵である。. これら2つのスケッチを比較してみると,2つの異なる特徴がある。1つは,2 つのスケッチは異なるテーマを強調していることである。ヴァンとシェリーのス ケッチ(図2)は数学が絶えず成長しているという考えをテーマとし,チャーのスケ. ッチ(図3)は数学者によって経験された道徳的ジレンマ(戦争に賛成派か反対派. か)に焦点を当てたテーマとしている。今1っは,テキストから構成した意味づ けを表現したり,それを拡張したりするためのスケッチの使われ方である。ヴァ. ンとシェリーのスケッチ(図2)は,前節で述べた「何かを言う」方略から得た 主な洞察を自動車の発達と対応させて描いている。一方,チャーのスケッチは,. 吹き出しやプラカードを使い,正方形のます目を斜線で区切って二分したときの 面積の大小(人物の数やプラカードの本数)で彼が伝えたかったことを描いてい る。. いずれのスケッチもテキストの意味を拡張していることに変わりはないが,前 章で述べたように,同じテキストを読んでも,その解釈や意味づけは読者によっ て異なることが分かる。. 17.
(20) 第3節 カードを使う(Using the Cards). 本節では,数学に関連したテキストの「読み」方略の1っである「カードを使 う」(Using the Cards)について,具体例を用いて述べる。. 本節で取り上げるテキストは,数学が実生活で演じる役割についての生徒の意識 を広げるだけでなく,いくつかの特定の幾何学の概念とアイデアを学ぶという教 授目標のために計画された。以下にその使用方法を示す。 ● テキストを読み,10枚のカード(3×5インチ)に疑問・感想などを記入。 〈課題1> ●. 学校で,教師がカードを集め,確認。. ●. 生徒を小グループに分けて,他グループのカードを見る。. ●. 他のグループのカードから興味あるカードを4,5枚選ぶ。. ●. 各グループで選んだカードを使ってディスカッション。. ●. 最後,興味あるカードの中から最も興味あるカードを1枚選び,適切 な回答を考える。〈課題2>. 使用したテキストは「エッグ男の冒険」(Hoffman,1988)である。このテキスト には,一人の数学者(レッシュ)が卵の形の巨大記念碑を創作するという問題をいか. に解決したかが説明してある。このテキストは問題を解決するために必要とする 努力と創造力を言葉で描写したものである。つまり,彼が2000以上の正三角形と 500以上の3つ尖った星形から成り立つ「卵の表面」を構…成する以前に,彼が試 みて,結局は諦めた様々なアプローチ(「理想的鶏卵」(数学者が以前研究したこ との無い形)の特徴的な特性の基礎構造の方法を思いつこうと試みるようなもの). が説明されており,様々な幾何学の図とそれらの構造の特性に関する豊富な情報 が提示されている。. このテキストを読んだ生徒が書いたカードは合計118枚あり,そのうち96枚には 質問形態で生徒の様々な反応が書かれていた。カードに書かれていた内容を分類 すると以下の5つに分けることができる。. 1.生徒がテキストで理解できなかったポイント 例…. 「どのようにすれば3っ先の尖った星が六角形になるのか?」. 18.
(21) 2.テキストについて討論した一般の問題についての質問 例…. 「タイリングはなぜ卵の形でなければならないのか?」. 3.生徒が読みから学んだこと 例…. 「球の接触。私はそれがどういうことであるかを少し学んだ。」. 4.読みについての印象 例…. 「私は糸,画鋲,鉛筆を使って卵の形を構成する方法が好きだ。」. 5.テキストを超えたような新しい挑戦的な質問 例…. 「楕円の目的は何か?」「もし数学者が偉大なら,なぜ卵の形を作るため. の策を見つけようとしないのか?」. 教師は生徒が書いたカードを使用する活動を計画した。テキストへの反応や書 かれたカードについてのクラスディスカッションの後,教師は生徒をグループに 分け,他のグループのメンバーによって書かれたカードを読ませ,よく似た内容 のカードを分類させ,最も興味深いと感じた4,5枚のカードを特定させ,最後に この選んだカードについて討論させた。しかし,ほとんどのグループが機械的な 作業に従事していたので,この活動はより深い理解をもたらすように思えなかっ たけれども,他の人のカードを共有して,他の人が書いたものを見る機会を生徒 に与えることができた。. 教師は生徒たちのカードを読むことで,彼らがテキストを読んでいる間どんな. 困難に出会ったかという情報を得ることができる6この情報は,いくつかの重要 なテキストのより深い理解を得るのを助けるため,そして価値ある数学の経験を 刺激するために,生徒のカードを基礎とする2っの追加活動を教師は計画した。. その1つの活動は,カードのグループから生徒が「最も興味ある」と同定した1 枚のカードを選び,そこに書かれたことについて出来る限り適切な回答を出すと いう課題を出した。以下はその例である。. 19.
(22) 例1 質問:卵に似た形はどのような使用ができるか?…卵の形の利用方法 答え:似た形は楕円であり,それは,例えば惑星の軌道である。. 例2 質問:誰もなぜ幾何学で卵を使用しなかったのか? 答え:多分,私はそれが形であると考えた人は多分誰もいなかったので,幾何学 で卵を使用しなかった,またはそれのために公式を見つけなかったと思う。多分,. 彼らはただ食べる卵として考えた。あるいは赤ん坊のひよこからかえる何かだと。. 今1つの活動は,先に述べた活動よりも重要であり,テキストの主要な要点を理 解するために2人の生徒のカードを使用するという活動である。これらのカード には次節で述べる「活動」に関わる記述があり,そのカードを読んでそれを実行 することは他人のアイデアを聞いて,確認し,何人かの生徒が他の生徒と共有し た困難や疑問を理解することができると共に,新たな疑問の探究へと導く。 カードの内容を実行することに関する詳しいことは次節で述べていく。. 20.
(23) 第4節 実行する(Enact) 本節では,数学に関連したテキストの「読み」方略の1つである「実行する」 (Enact)について,具体例を用いて述べる。. 前節の最後で,2人の生徒によって選ばれた2枚のカードには「もしあなたが間 違って鉛筆を傾けた場合,円は出来るだろうか」と「円の作図は卵についての神. 話とどんな関わりがあるか」と書かれていた。この2つの質問に関わりがあるの が「タマゴ男の冒険」の下記の段落である。. 「タマゴ男の冒険」より. テキスト;レッシュはすぐに,理想的な卵形の公式について書いた本などないことに気が. ついた。名前がついている図形については,代数公式だけではなく,作製方法も本に載 っている。円はたんに,ある平面上の任意の点から等距離にある,同一平面上のすべて の点の集合である。円を作るためには,まず糸の一方の端を鉛筆のまわりに結びつけ, もう一方の端を画鋲で紙にとめる。糸をピンと張り,鉛筆の先を紙につけ,画鋲のまわり を一回転させれば,円ができる[円を描く鉛筆の図]。あるとき,ある変わり者がこの単純 な作図法を気持ち悪いジョークにした。数学者マーチィン・ガードナーから聞いたものだ。 「お母さん,お母さん,どうして“円のまわりをまわる”って言うの?」「うるさいわね。そんな. ことを言っていると,片方の足を釘で打ちつけるわよ。」円から球へのステップは簡単だ。. 三次元空間のある点に釘で打ちつけられた子供の足(または糸の端)を考え,子供の体 (またはぴんと張った糸のもう一つの端の鉛筆)をあらゆる方向に振り回し,子供の頭(ま. たは鉛筆の先端)が描く形を観察すればよい。別の方法としては,つま先立ちで回転する 円の形として球を考えることもできる。もちろん,ニワトリの卵は,球というよりは楕円体. 楕円をつま先立ちで回転させたときの形一に近い。どんなに頭のおかしな数学者でも, 子供をくるくるまわして楕円を作ることはできないが,鉛筆と,2本の画鋲に引っかけた糸 の輪の助けを借りれば,簡単に作図できる。(ポール・ホッフマン(1994)). 21.
(24) この段落を読んで,生徒は円と楕円の 作図の個人的感覚を得る。教師はこの作 図の実演に必要な掲示板,いくつかの画 びょう,糸,鉛筆を準備した。生徒たち は教師が準備したものを使って円(図4). を描き始めたが,円を描いている途中で 鉛筆を傾け描き続けた。これはカードに 書かれていた「もし間違って鉛筆を傾け. たらどうなる?」という質問に動機付け. 図4 円の作図. られ,行われた実践であった。このよう に円を書くことで生徒は,円の特徴であ る全ての点が中心から等距離にあるとい うことを知った。. 次に,生徒たちは楕円に関してよく知 っていなかったが,テキストに描かれた 楕円の作図(図5)を見て,2個の画びょう. を使って楕円を描く。生徒たちは先ほど 円の特徴を知ったので,楕円にも同じ特. 徴があると考え,いくつかの点と焦点の 図5楕円の作図 間の距離を測定する。この活動は生徒に とってとても魅力的であった。このようにテキストには明確に書かれていない楕 円を作図することで,楕円に関する理解を得ることができた。この活動を終えて,. 生徒は,教科書での楕円の作図手順の学習よりも忘れられない活動を行った。今 後,生徒がこれらの図に出くわした時,これらの図に関する事実をどれくらい覚 えていたかに深く感動するだろう。. この活動で生徒たちは数学と実生活への応用に関し,形の特性を探究する良さ を知った。そして,この活動は生徒がテキストの内容を実行し,ギャップを埋め,. そして新しい質問を出して追究することを含んでいたから,著者の説明や例を簡 単に再現すること以上のものを意味した。. 22.
(25) 第3章. 「障み」の実践. 本章では,第1節に第2章で述べた方略をまとめる。そして,第2章第1節で 述べた「何かを言う」方略と第2節の「カードを使用する」方略を用いて,数学 に関連したテキスト(微分積分のアイデア)の「読み」の実践を行い,その実践 の流れや結果等を述べていく。. 第1節. 数学教育における「読み」の意義. RLMプロジェクトに参加した生徒たちは宿題のためだけにテキストを読んだ のなら,前章で述べたような活動をする機会はなかったと思う。Borasiらによっ て提唱された4つの交流的読み方略は「数学と戦争」や「タマゴ男の冒険」のよ うな挑戦的なテキストを使って,数学の授業において読みの認知と生徒の感情に 立ち向かうためにテキストに従事する具体的な方法を生徒に提供した。. 何を読むか,どのように読むか,なぜ読むかの結果として,生徒たちは最初の2. つの例(何かを言う方略と広げるためのスケッチ方略)においては数学の道徳的 ジレンマ(数学が戦争にかかわっており,それに関して賛成か反対か),後の2つ. の例(カードを使用する方略と実行する方略)においては作図方法と各々の形の. 特性の関係を探究した。要するに,前章で述べた4つの読み方略を通して,生徒 たちが複雑な数学的アイデアや問題の探究に従事し,数学に関わる経験をするこ とができたのである。これが,ローゼンブラットの交流的読みの特徴である。. 以下にRLMプロジェクトによって実践された4つの読み方略をまとめる。 ・ 「何かを言う」. 生徒は数学に関連したテキストを読むために,この方略を使用したが,今 回この方略を使用するために読まれたテキストはほとんどがエッセイである。. この方略は基本的に読者がテキストに知的・情緒的な意味を吹き込み,読者 の思考と感情を導く(山元,2005)という文学の読みと共通している。実際,. R:LMプロジェクトは読んだテキストや生徒,使用時間によって多少対話は変 化したが,生徒が読み経験をより積極的に〈交流〉するのに効果的であり, 生徒の意味づけをサポートするのにも効果的であったことを示している。. 23.
(26) ・ 「(意味づけを)広げるためにスケッチをする」. この方略には2つの方法がある。1つは生徒がテキストから学んだことを描 く方法,今1つはテキストの意味づけを助けるために描く方法である。生徒 が混乱したテキストのより個人的理解を獲得するために,この方略を使用し た結果,ヴァンとシェリーのスケッチ(図2)は数学の類似物を描き,チャーの スケッチ(図3)はテキストに関して分析的な考えを描いた。これらのスケッチ の内容は,テキストの意味づけを越えた〈探究〉である。 ・ 「カードを使用する」. この方略は「作者をクローンする」から主要な要素を引き出した方略であ る。この方略はカードに書く内容に制限を与えていないので,生徒はいろい ろな思考やアイデアなどを綴ることができる。また,生徒はこれらのカード を分類し「マップ」を作成することもできる。 この方略の使用手順は以下の通りである。 や 教師は生徒が書いたカードの意味を得るためにカードを回収し読む。 や 他の生徒が書いたカードの意味を得るために共有する。. や そのカードはさらに追及する価値があるテーマまたは質問かを選択 する。. や クラス全体のディスカッションを刺激するためにカードを読む際は 声に出して読む。. や いくつかのカードはテキストの理解を高めるためさらに追究する。 や 各々のカードをつながりがあるように分類した「マップ」を個人的解 釈を共有するためにクラス全体に説明し,その後ディスカッションを 行う。. 生徒のカードを集めたり,読んだりする活動は特別な評価に値し,教師は それがかなり価値あるものだとわかった。. ・ 「実行する」. 生徒がテキストを読んだ後に,テキストに書かれていたことを実行すると いうこの方略は,作者の解答を読むことより重要である。何人かの生徒はテ キストに関連した問題を〈探究〉した。その結果,さらなる数学的活動のた. 24.
(27) めに刺激あるテキストを使用した。この方略の使用はたぶん数学に関連した テキストを読んだ人にとって最も驚くべき経験であろう。. 4つの読み方略を簡単にまとめてみたが,明確な教育目標を達成するためにそれ. ぞれの読み方略を組み合わせると,補足的な力があったことをRLMの調査結果は 示している。. 最後に,交流的読み方略の使用をサポートする教育的実践とその重要性につい て簡単に述べる。まず,生徒たちはテキストを読むこととその意味づけに集中す るための時間を十分にとること,そして,生徒の理解や意味づけをサポートし,. 他の生徒と共有するために,クラス全体でディスカッションを行うことが必要で ある。そして,各方略の使用理由を生徒たちに明確に述べ,経験後の分析や振り 返りは生徒自身が行う(自己評価する)ことである。. それぞれの方略を通して,つまり,様々な口頭表現,言語,視覚的イメージ,. 活動を通して,読んだテキストの探究を生徒自身が行った。テキストを読み,方 略を使用することで生徒たちは自らの解釈を得て,他の生徒と解釈を共有し,そ して修正し,新たな疑問や考えを生み出しながら,テキストの内容を越えて数学 についての理解を深めていくのである。. 25.
(28) 第2節. 実践の目的. 本実践では高校数学Hの「微分法・積分法」の導入段階で微分積分に関連した テキストを探し,そのテキストを生徒が読みやすいように短く編集した。高校の 授業では,時間がないという理由で導入をさっと流して,計算に入っていくとい う形になってしまっている。そこで,微分法・積分法の導入に微分積分のテキス トを生徒に読ませるという「読み」の実践を行った。生徒にとっては「読み」を. 用いた実践は初めての経験と思えるので,どのような効果が出るか見当がつかな いので不安な面もあった。. 実践で使用するテキストは,数学Hの「微分法・積分法」の導入段階で,生徒 に「微分とはなにか?積分とはなにか?」をつかんでもらうため,遠山啓の『コ ペルニクスからニュートンまで』の一部を用いた。. 実践は第2章で述べた方略のうち「何かを言う」方略と「カードを使用する」 方略を使って,数学に関連したテキスト(微分積分のアイデア)の「読み」を通し. て,微分積分に関する興味・感心を喚起するとともに微分積分のイメージを生徒 にもたせることを目的とした。. 本実践を通して,生徒はいきなり微分積分の計算に突入するのではなく,まず, 新しく習う言葉「微分」「積分」「△(デルタ)」などを文章から知ることから始め. る。また,生徒たちは文章を読み進んでいくうちに,今まで習ってきた事の中に 微分積分を使ったものが存在することを知り,微分積分を身近に感じてくれるこ とを筆者は期待する。. 26.
(29) 第3節 ①時期. 実践の概要 平成19年10,月. ②対象. 微分積分未習の高校2年生の理系73名 ・1組(A∼Fグループ);物理履修注(男子36名). ・2組(G∼Lグループ);それ以外(男子25名,女子12名) ③テキスト. 「微分積分のアイデア」(資料1). 内容;微分積分とは何か?やそれがいつできたのか?,小学校で. 習った円の面積の求め方も微分積分を使っているという ような話が描かれている。. 注理系クラスはニクラスあり,そのうちの一クラスは物理履修クラスである。グループ分けした後に,振り 分けたものではない。. 27.
(30) 第4節. 実践の流れ. 生徒たちには事前にテキスト「微分積分のアイデア」(資料1)と下記のプリン. ト(図6)を配布する。そして,実践授業の前に生徒たちはそのテキストを読ん でプリントに記してある①読んで分かったこと,②読んで疑問に思ったこと(分 からなかったこと,不思議に思ったこと など),③その他(読んで感じたこと,. 印象に残ったこと など)の3っの項目に答えさせておく。実践授業ではテキス トとそのプリントを使用し,授業の初めに生徒に授業の流れを説明する。まず,. 生徒たちはペアになり,プリントに書いたことを交換し,それに対しどのように. 思ったかなどを話し合う。次に,5∼7人からなるグループを作り,役割(司会1 名,書記1・名,発表者1∼2名,短冊作成2∼3・名)を決める。その時に各グループ. に書記がメモをする為の記録用紙(A4)一枚,マジックー本,短冊三枚を配布す る。そして,グループで話し合 いを始める。グループでは興味 ‘二 }隼( のある項目から話し合い,書記. 瑚. 蜘燃. 、. ). 」覇西.で分熱っだ宕∼:. はどんな疑問が出たのか,どん な内容で盛り上がったのかを記 録する。グループでの話し合い がまとまってきたら,各グルー プに配布した短冊に話し合った. 麟で疑傭雛つたこと嬢勲ら蘇か瞬こ鵡猫蜘薦麓とな燈. 概要を書き,仕上がった短冊は 黒板に貼る。この短冊は後に発 表するために使用する。発表の 準備ができたら各グループごと こζなど》. に発表者がグループで話し合っ たことを発表する。最後に授業 感想(数学に関したテキストを 読んで話し合うという授業をし ましたが,どうでしたか?)を 書く。. 図6 生徒に配布したプリント. 28.
(31) 第5節. 実践結果. 本節では,実践で得た結果をまとめる。なお,全生徒の意見・感想等は資料H を参照。. 第1項. 授業前の個人の意見. テキストを読み,プリント(図6)の項目に記述された内容のうち,比較的多 くの生徒が記述していた内容は以下のようなものであった。. ①読んで分かったこと ・微分とは細かく分けること。積分とは分けたものを積み重ねること。 ・ △=difference=差(△というのは差を表している). ・微分積分を使ったら,曲線を使った図形も限りなく近い面積を出すことが できる。. ・ ノミの例え。ノミはすごい。小さいものをバカにできない。. ・微分積分は予想以上に簡単だということが分かった。. ・1つの円を扇形に切って,さらにそれを並べ,これを細かく分けると長方 形になる。. ・ 小学生の時,当たり前のように習った円の公式も微分積分が原理だと知っ て驚いた。. ・昔の人は発想力が豊かだなあと思った。. ②読んで疑問に思ったこと(分からなかったこと,不思議に思ったことなど ・ 変化の割合とは結局はっきりとした答えは出てくるのか。. .. △x→0のとき亙→0 勘. ・. △はどのようなコトに使われているのか。. ・. 昔の人の発見した原因(いつ,どのように?). ・ 分子も分母も小さい時,その答えが小さいとはかぎらず,大きいという こと。. 29.
(32) ・. 円を細かく切って並べていくと本当に長方形になるのか,やってみたい。. ・. 0でないものを限りなく0に近づけるという考えは,社会ではどのよう. な面で役に立っているのだろうかと思いました。 ・ 球体も面積の求め方で求められるのか。 ・. デルタという記号が普段使わないので分かりにくかった。. ・ 人とノミが跳んでいる変化率のところがよくわからなかった。. ③その他(読んで感じたこと,印象に残ったこと など). ・小さなことでも,大きなものになるということが,なんかいい感じだと思 つた。 ・ こんなことを考えた人はえらいと思います。. ・円も完壁ではないけれども,直線として考えられるということ。 ・ まだ学んでいないけど,分かりにくくなりそうで心配である。でも,実際 学んでみると,楽しいかもしれないと思った。 ・円を細かく切って並べていくと長方形になると知って驚きました。. ・人間の跳び上がった高さと,ノミが跳び上がった高さをそれぞれ別々に比 を出して「小さいものをバカにできない」という結果が書いてあったので,. すごいと思うと同時に納得させられました。 ・ この文章を読んで,微分積分の考え方はよくわかったのですが,実際計算. となると,難しいだろうなと思います。初め円だったものが,長方形にな る。これは,普通に考えれば本当に不思議なことだと思います。でも実際 はとても単純なこと。どうしてそれをまた学問にしてしまったのかと思っ てしまいますが,ニュートンやその他の数学者が生み出した計算じゃその 単純なことにこだわり抜いたものなんだなと感じました。. 30.
(33) 第2項 グループ発表 次に各グループの発表と発表の際使用したカード(短冊)を記載する。カードに は各グループで話し合ったことを簡単にまとめたことを書いてもらい,各グルー プの代表者に発表をしてもらった。 文章内にある①∼③とは以下の項目のことである。 ①読んで分かったこと. ②読んで疑問に思ったこと(分からなかったこと,不思議に思ったこと など) ③その他(読んで感じたこと,印象に残ったこと など). 《Aグループ》 「微分っていうのは,細かく分けることができるという考えですけど,微分って. いうのは,色々な人に影響を与える。また微分っていうのは小さいものを小さい もので割っても小さくなるとは限りません。. 数式は違う…. 微分積分という考え方は昔はとても難しいものだったけど,今. では高校生でも理解できるようなものになってます。」. 31.
(34) 《Bグループ》 「微分とかのその計算とかの過程で色々小さい値とか出るけれど,そういう小さ い値が色々大きな変化をもたらすことがあるということを話し合って分かって,. 微分というのは細かく分けることでその細かい値でも大きな変化をもたらすこと ができるということが分かって,その細かく分けた値を色々と組みかえたり,積 み重ねたりすることができるんで,そこから普段分からないことが分かるように なるということが分かりました。」. ζ丹垂軽. 撫㌔亨. 《Cグループ》 「デルタはdifference。理由はデルタは・… だから。(発表者交代)Cグルー. プでは微分とはものを細かく分ける。どんな意味があるのか話し合っていたんす けどモノを分けて分ける……モノを分けるという意味について話し合っていたん スけど,え一…. 答えは結局出ていません。」. ,纏轟渥轟雛蝦妻. 32.
(35) 《Dグループ》 「Dグループではまず「微分とは」ということで微分とは細かく分けるというこ. とで,限りなく0に近づくけど,決して0にはならないということが改めて分か って,また積分というのは細かく分けたやつをまとめたということが話し合って 分かりました。図形を細かく分けるのが微分でその分けたやつを組み立てるのが 積分で微分は絶対に0にはなりません。」. 嚢謙蝦1田園,. 《Eグループ》 「微分とは細かくって最終的には0になること… いや,ならないことです。. 積分はその細かく分けたものを復元することです。自分は… 微分積分の計算 の意味がよくわからなかった。」. 33.
(36) 《Fグループ》 「微分とは分母と分子が小さくても,変化率まで小さいとは限らないということ. が分かりました。え一つと,円をたくさんの扇形にして,分解して並べると扇形 が長方形ができることが分かりました。」. ,騨羅;繋. 《Gグループ》 「微分は細かく分けること。積分は細かく分けたものを積み重ねることです。微. 分と積分は2つで1つです。分けるだけでは意味はないけど,積み重ねることに よって,円の面積とか求めれるようになります。昔の人が偉いというのは,円の ような面積を計算しにくい図形でも細かく分けて長方形にして面積を求めるとい う発想の転換に心奪われました。」. 34.
(37) 《Hグループ》 「①はGグループと一緒でかぎりなく細かくて0に近づけるのが微分で,細かく 分けたものを積み重ねるのができ分だということで。②は球体も面積?球体も面. 積の求め方で求められるのか!とういうことで,話し合って… 話し合った結 果が…. 何か…. 細かく分けていって積み重ねたら直方体みたいになるんじ. ゃないかなあ∼みたいな感じになりました。③は僕らはこんな… こんな資料 とか読んでも理解できないのにニュートンはなんもないところがらこんなことを 考えたのはすごいと思いました。」. 《1グループ》 「①は微分積分というと難しく思えるけど,考え方は簡単だったということ。」 教師:「波打っている部分が直線になってるということが不思議だった?」 生徒:「はい。」. 轟嚢、. 35.
(38) 《Jグループ》 「①は微分積分学を学問として完成させたのはニュートン達だけど,前からとい. うことと,もっともっと今まで習った円周率や円の面積に微分積分の考え方があ るということが分かりました。②は変化率と△という記号です。③は今まで習っ てきた中に微積分は関わっていること。微分積分の考え方が小学生の教科書に載 っているということです。」. 《Kグループ》 「①は2,3年前に書かれた『限りなく透明に近いブルー』は微分積分をもとにし. て考えられた作品ということと,微分は細かく分けることで,積分は分けたコト. を積み重ねることで,デルタはdifferenceのDギリシャ語でDということが分か りました。. ②はこの「0で約分するのはおかしい」はテキスト(資料1)の3ページ目の. 聖一2x・血+血●血=厘(2κ+△κ)=2κ{ 勘. △κ. △κ. はその下の△x=0の時,△y1△x=2となることはおかしいということです。 △xニ0の時,0で割るのはおかしいからです。. ③ノミのジャンプカスゲー!!時間が進むにつれて理解しやすくなったり,あ の…. 」. 36.
(39) 《Lグループ》 「①は円の面積と関数には細かくしていうことが微分で円の面積と関数には,微 分の考えが使われていることが分かりました。②は曲線を細かく区切っていたら,. 直線になるのが分からない。読んで感じたことはニュートンの時代に微分積分を 考えたのはすごいと思いました。」. 37.
(40) 第3項 授業後の感想 【授業後の感想】他グループの発表を聞いて,授業後に書いたもの。 《授業について》. ・いつもとは違った形の授業で新鮮で良かったと思います。. ・今まではただ単に教科書の内容を教師が前でしゃべってそれを覚えて理解 するという形だったけど,この授業にみたいに原理を文章や絵で理解する のも,面白いなあと思いました。. ・今回この数学のプリントを他の班の考えたことを聞けてこれから学んでい くことが何なのか,より詳しく分かることができました。 《話し合いについて》. ・自分の分からないところを友達と意見を交換できてよかったです。 ・人の発表を聞くのはためにもなるし,面白くてよかったです。. ・一人で考えて疑問に思ったことでも,班のみんなの意見や考え方を聞いて みると理解できたんでよかったです。. ・皆で考えることによって微分と積分のことについて理解を深めることがで きてよかったです。. ・同じ事を読んだのに人によって感想が違うのは不思議だと思いました。. ・自分で読んで気づけなかった事に違う班の子が発表してくれて自分もそれ に気づくことができたので良かったと思います。. ・他人の意見を聞いて,納得する部分もあったし,また,疑問に思う部分も 出てきた。(いろんな形で考えれるのか等). ・数学について話し合うのは,初め不思議な感じがしたけれど,各班の話を 聞いて,自分たちにはなかった見方とか考え方で,聞けてよかったと思い ました。. ・自分だけの考えだけでは微分積分に対する考えがあまり広がらなかったが, 他の子の意見を聞いてそんな考えもあるんだなあと感じた。 《その他》. ・微分や積分について,興味を持つことができ,今後の授業に生かしたいで す。. 38.
(41) ・微分積分を授業でする前にこういうことをしたので,これからの授業に取 り組みやすそうで,よかったと思う。. ・班のみんなで協力して微分積分について深く考えることができました。. ・円の面積の計算なんて,機械的にπr2でやっていたけど,円を扇形にして 長方形にするなんて考え方だったなんて知りビックリしました。面白そう です。. ・自分の意見をうまく伝えることは難しいけど,大切なことだと思った。 《他のグループの発表を聞いて》. ・Dグループの「図形→微分→積分」というので図形を考えやすく形を変化 させるというのが分かった。. ・他の班の発表の中で,球体も平面の円の面積のように細かく分けていった ら,直方体のようになって体積が求まるのではないかというのを聞いて, 実際はよく分からないけれど,考え方は凄く面白いなと思いました。 ・球体のことを発表した班の意見を聞いたとき,なるほどと思いました。. 39.
(42) 第4章. 実践考察. 第3章の実験結果をまとめる。まず,【授業前の個人の意見】から項目①をまと めると, 初めて習う「微分積分」であるが,生徒たちはテキストから「微分」「積. 分」「△(デルタ)」などキーワードとなる言葉を見つけ,その意味を探したり,. テキストに載っている例を読んで,それに納得や驚きを見せていた。また,過去 に習った知識がこれから習う微分積分と関わっていることを知ることができた生 徒もいた。これは今までなら教師が生徒に「小学校で習った円の面積の公式の原 理は微分積分なんだぞ」と教えていたのだが,生徒自身がテキストに書かれてあ る文字をたどって自らそれを発見することこそが生徒(参加者)が読書行為(イ ベント)に参加していることにつながるのである。つまり,〈仲介者〉=教師が いないことで,生徒はテキストと向き合うことができる。そうすると,生徒はテ キストを読んで分かった所を自分自身ではっきりとさせることができる。. 項目②では,その項目の記述を見ると,生徒たちは分からなかったことを主に 書いている。「私はここが分からない」というように疑問点がはっきりしていると,. 後の話し合いでそれを他者に聞くことができる。また,この項目では,生徒の興 味・関心をうかがうことができる。例えば,微積を発見した経緯まではテキスト には書かれていなかったが,生徒たちはそれを発見するまでのエピソードにも興 味があったと思われる。. ③の項目はほぼ感想という感じである。しかし,数学の授業ということで,物 語から直ぐ計算へと頭が切り替わっていた生徒もいた。また,「これから習うこと. は分かった。じゃあ,計算になるとどうだろう」と考える生徒が生徒の感想を見 るとちらほらといた。. この用に,プリント(図6)の3っの項目に答えるという活動を通して,まず, 生徒はテキスト『微分積分のアイデア』に出会い,そのテキストを「読む」とい うイベントに参加する。そこで生徒は「読み」の参加者となり,テキストと交流 を始め出す。. 40.
(43) グループ発表では,他のグループの意見を聞く機会でもあり,自分のグループ. の意見を他グループに伝える機会でもあった。Eグループは発表しているDグル ープの意見を聞いて,次に自分たちが発表する内容について再度話し合い行って. いた。その内容は「微分は細かく分けていくと0に近づくのか,それとも0にな るのか」である。この話し合いはDグループの発表者が「微分は細かく分けてい くと0に近づくが,0にはならない」と発表したことから,Eグループは自分たち が発表する内容である「0になる」と書いたカードについて,グループ内で話し出. した。話し合った結果,発表時には「0になるのではなく,0にならない」と結論 が出た。山元(2005)の言葉を用いるとこれは「刺激一反応」である。つまり,. EグループはDグループの発表を聞き,刺激を与えられた。そして,グループ内 で自分たちが持っている意見と他者の意見を反応させ,新たな意見を作り出した。. Dグループは発表内容を言葉だけではなく,下記の図(図7)も使って発表を 行った。分かりやすく発表しようというグループの発表の工夫が見られた。. 図7 Dグループの図形. Kグループの発表中には,ある生徒が隣の生徒に「△κって変化されるんじゃな い?増えた面積の量っておかしくない?」と質問していた。隣の生徒は理解して いたので,その生徒に説明を始めた。最終的に質問した生徒は増えた面積の量が ムヴであることを理解した。. どのグループもテキストを読んで既習の内容(円周率・面積・体積など)が微 分・積分と関わりがあることを知ることができた。. 41.
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