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まとめと今後の課題

ドキュメント内 数学教育における「読み」に関する研究 (ページ 49-53)

 本研究では,第1章でも述べたように「読者がただテキストを読むのではなく,

「読み」方略を用いてテキストを読み,その効果を明らかにする」ことを目的と

してきた。

 本章では,各章の内容をまとめ,次に,全体のまとめを行い,最後に今後の課 題を述べる。

 第1章では,本研究の目的を述べ,PISA調査から日本の読解力低下が判明 し,筆者は読解を調べていくと,言葉の力に辿り着いた。そのカには話す力・聞 く力・書く力・読む力があり,数学教育ではあまり注目されていない読む力を中 心に研究を始めた。読むということは読むための対象(テキスト)が存在する。

テキストに関してはBorasi(1998)の文献から数学の特定の側面についての歴史 的エッセイや哲学的エッセイ,数学的概念や数学的トピックスの応用についての 論説といった数学に関連したテキストを対象とした。読者はただそのテキストを 読むだけでは何も得ることができないので,文学教育者であるロ一心ンブラット の提唱したthe transactional theory(交流理論)からの「読み」を参考にした。

この「読み」をBorasiたちは数学教育に統合させようとした。 Borasiたちの「読 み」には4つの「読み」方略に注目した。

 第2章では,RLMプロジェクトが実践した4っの「読み」方略の例を述べた。

  ◆ 「何かを言う」(Say Something)

  数学に関連したテキストを読んだ後や途中に,パートナーやグループで,お   互いの感情や意見を共有するため,テキストの内容と自分の経験を結びつける   ようなことを話し合う。

  《効果》

 初めは明確でなかった考えを明確にして,共有したり,お互いの質問や疑問の  答えを得て,テキストの意味づけを確かなものにしたりすることができる。実  践では,生徒たちは積極的にテキストとく交流〉したり,グループメンバーと  意見を交換したりすることで,自分の疑問を解決し,新たな意見を作り出して

◆ 「広げるためにスケッチする」(Sketch to Stretch)

 生徒がテキストを読んで,そこから学んだことをスケッチする。または,

 テキストの意味づけを助けるためにスケッチする。その後,スケッチをク  ラス全員に提示し,個人的解釈を共有したり練り上げたりすることもでき

 る。

《効果》

RLMの実践例より,ヴァンとシェリーのスケッチ(図2)は数学の類似物を描 き,チャーのスケッチ(図3)はテキストに関して分析的な考えを描いた。これ らのスケッチの内容は,テキストの意味づけを越えた〈探究〉である。

◆ 「カードを使う」(Using the Cards)

 生徒はいろいろな思考やアイデアなどをカードに綴ることができる。このカ ードには書く内容に制限を与えていない。また,生徒はこれらのカードを分類

し「マップ」を作成することもできる。

《効果》

生徒たちは他のグループのカードを見る機会もあり,他者の考えや意見を見る ことで山元(2005)のいう「反応・刺激」を与えられた。

◆ 「実行する」(Enact)

生徒がテキストを読んだ後に,テキストに書かれていたことを実行する。

《効果》

何人かの生徒はテキストに関連した問題を〈探究〉した。実践例では,幾何学 に関わったテキストを使用したので,生徒たちは円と楕円の特徴を知ることが

できた。

 第3章では,前節の4つの読み方略を通して,生徒たちが複雑な数学的アイデ アや問題の探究に従事し,数学に関わる経験をすることができ,これはローゼン ブラットの交流的読みの特徴であったことを述べ,次に,筆者が高校で行った実 践とその結果について述べた。実践で使った「読み」方略は「何かを言う」(Say Something)と「カードを使う」(Using the Cards)である。話し合いを行ったり,

グループ発表を行うことで,生徒たちは同じテキストを読んでいても,互いに感 じていることが異なることを知り,新しい考え方を学ぶことができる。

 第4章では,実践の考察を行った。まとめると,まず,一つ目は生徒から疑問・

質問等が出てきて,他の生徒たちがそれらについて考え答えることができた。普 段だと,教師から疑問・質問等を出し,生徒に答えさせる授業だったが,実践で は,生徒同士で互いの疑問等を意見を出し合いながら,解決していく授業であっ た。生徒が積極的にく交流〉したり,他者と意見交換したりすることができた。

次に,二つ目は生徒は他の生徒の意見や発表を聞くことで,刺激が与えられ,考 えるきっかけが与えられたことが分かった。三つ目は生徒が新しい単元である微 分積分への興味・関心をもったことである。

 全体のまとめとして,生徒はテキストを読み,自分の感情,疑問等を作り出し,

話し合いを行うが,話し合いには疑問など,曖昧さが必要である。曖昧さがある ことで生徒たちは自分の意見を他者と交流すること(他生徒の意見や感想などを 得ること)で自分の疑問を修正したり,改良したりすることで自分の意見を練り 上げていくことができた。

 今後の課題としては,「読み」から出てきた生徒の意見「円を細かく切って並べ ていくと本当に長方形になるのか,やってみたい」を実行したい。これは「読み」

方略の1つ「実行する」につながる。

 数学の授業では話し合う機会が少ないことが問題点である。生徒たちは数学の 授業で話し合う機会が少ないので,他の生徒の意見を聞く機会がほぼなかったと 言える。実践校の数学の教師も「親しい友人とは答えの教え合いはするが,少し 改まって教科の学習内容について討論するようなことは,めったにしないもので ある」と話し合う機会が少ない実状を指摘している。話し合う機会を与えたとし ても,どうやって問題を解くのか,答えはこれで合っているのかという内容にな ってしまう。実践校の教師の言葉を借りると,「限られた時間内で,教科書の内容 を理解させていかなければならない現実を考えれば(特に進学校と言われるとこ ろでは),そうそうこういう授業はやってられないという現実もある」とのことで ある。生徒たちは通常の授業に慣れているので,話し合いを行っても,テキスト

分からないという生徒がいた。確かに,「読み」の実践は理解度をはかるすべが今 のところない。実践回数が少ないということもあるので,今後の課題である。そ

して,環境やテキストなどによっても効果が変わると考えられるので,環境やテ キスト等の変化についても考察する必要がある。

おわりに

 「数学教育における「読み」に関する研究」をテーマにして研究を行った結果,

読者は数学に関連したテキストに出会い(出来:事),読者が仲介者なしにテキスト を読み(交流),自身の中にイメージや感情などを創造し(喚起),「読み」方略を 用いて読者はテキストの内容を深めていく(探求)ことについての考察を行って きた。そこで「読み」の意義と「読み」方略について考察することができ,日本 で初めての「読み」の実践を行い,「読み」の効果について検証することができた。

実践の効果は生徒たちには新しい単元の導入時に「読み」を行ったので,新しい 単元への苦手意識は薄れ,興味・関心を持つことができた。

 最後に本研究を完成させるにあたり,多くの方にご協力をいただきました。親 身になって親切丁寧なご指導をしてくださいました崎谷眞也先生には,心からお 礼申し上げます。また,國岡高宏先生,加藤久恵先生をはじめ数学教室の先生方 に深く感謝いたします。実践にあたり島田敏寿氏には授業者として協力いただき,

また,院生の方々の暖かいご協力に感謝の意を表したいと思います。

 また,ご多忙のなか,実践にご協力してくださいました兵庫県立西脇高等学校 の校長先生をはじめ先生方や生徒のみなさんに心から感謝申し上げます。

 この2年間という短い作成期間にもかかわらず,さまざまなご指示とご協力を 賜り,多くの方々に支えられ,無事修士論文の完成に至りました。本当にありが

とうございます。

ドキュメント内 数学教育における「読み」に関する研究 (ページ 49-53)

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