ミツバチ科学22(3):113-120 HoneybeeScience(2001)
ミツバチの高次行動 を支え る脳 の分子機構 の解析
竹内 秀明 ・上川内
あづさ ・
鹿毛 枝里子 ・久保 健雄
ミツバチは社会性昆虫であ り,個体問分業や 個体間 コ ミュニケー ションなどの精微で多彩 な 本能行動 を行 う.例えば,花の蜜を見つけて巣 に戻 った働 き蜂 は記憶 した花の位置をダンス言 語を用いて仲間に伝え る. このよ うな象徴的言 語 を用いて,個体間 コ ミュニケー ションを行 う 動物 は, ヒ トを含む高等霊長類, クジラとイル カの他 はほとんど知 られていない. しか しなが ら ミツバチの高次行動 に関わる脳の分子機構 は 全 く不明であ った. さて, キノコ体 は昆虫の脳 の高次中枢であ り,感覚情報 を処理 ・統合 し, 学習 ・記憶の中枢 として機能す ると考え られて いる. ミツバチのキノコ体 は他の昆虫 と比較 し て格段 に発達 してお り, キノコ体の神経回路の 複雑化 ・高度化が ミツバチの高度 な社会性行動 を可能 に したと考え られ る.私 たちはキノコ体 の機能 に関わる遺伝子群 が ミツバチの高次行動 を支える脳機能 に関わる遺伝子 の候補 になるの ではないか と考え, Differentialdisplay法に より脳内でキノコ体 に選択的に発現す る遺伝子 を検索 した.今回 はこれ らの遺伝子 クローニ ン グの結果 について最新 の知見を紹介す る.ミツバチの行動 と脳の特徴
ミツバチの行動で特 に面 白いのは, フ リッシ ュの研究でよ く知 られている 「ダンス言語」で ある (Yon Frisch,1967).花の蜜 を採集 して 巣 に戻 った採餌蜂 は,記憶 した花の位置を ダン ス言語 を用 いて仲間 に伝え る. ダンス言語 には 餌場 までの距離 と方向の情報が含まれ る.方向 を伝えるには太陽の位置を利用 し, 自分の体内 時計 と連動 させて太陽の運行の分だけ補正 して ダンスを行 う (Winston,1987). しか しなか ら ミツパテのようにコンパ ク トで 単純 な脳を持つ昆虫が, どうして このよ うな高 次行動 を行 うことがで きるのか不明である.ち なみ に ヒ トの大脳皮質 の神経細胞 は約140億 個であるが, ミツバチの脳の神経細胞の数 は約 100万個 と桁違 いに少 ない (Mobbs,1982). また,社会性昆虫の中で も, ダンス言語を用い るのは ミツバチだけであ る.例えばマル-ナパ テは餌場の記憶 はで きて も,仲間にその位置を 伝えることは しない (松浦, 1988;Helnrich, 1978).一方, ショウジ ョウバェなどの単独性 の昆虫では摂食や配偶行動などの単純 な本能行 動 しか観察 されない. したが って, ミツ/ヾチに おける脳機能 と行動 の進化 は,比較生物学的な 観点か らも興味深い課題である. そこで,私 たちは ミツバチの多彩 な高次行動 を支える脳機能 を分子 レベルで解析を しようと キノコ体 視菓 触角 触 角薬 図1 ミツバチの頭部と脳の模式図 キノコ体は左右一対の構造体であり,視覚情報,喚覚 情報などの感覚情報を統合 ・処理する高次中枢であ ると考えられている.視葉は複眼からの視覚情報を 処理 し,触角葉は触角からの嘆覚情報を処理する感 覚中枢である.考 え,脳の中でキノコ体 と呼ばれ る構造体 に着 目 した (図
1
)
.
ミツバチの脳では,他の昆虫 と 比較 してキノコ体が容積的に も構造的に も,特 徴的に発達 している. ミツパテではキノコ体 の 体積 は脳全体 の体積 は約12% も占め るのに対 し,イエバエやバ ッタではほんの数%にす ぎな い (Mobbs,1982). 様 々な昆虫を用 いた実験か ら, キノコ体 は感 覚情報 を処理 ・統合す る中枢であ り,学習,記 憶 の成立 に必要 な領域 で あ ると考 え られて い る.例えば, ショウジョウバェでは,キノコ体 を 欠 損 し た 変 異 体 (mushroom bodies deranged,mushroom bodiesminiature)は匂いと電気 ショックを連合 させ る回避学習が成立 しな くなる (Heisenberg eta1.,1985). この 回 避 学 習 に 必 要 な 遺 伝 子 と して,dunce (cAMPホスホ ジェステ ラーゼ遺伝子),ru
t
a
-baga (Ca2+/カルモ ジュ リン依存性 アデニル酸 シクラーゼ遺伝子),PCO (cAMP依存性 プロ テイ ンキナーゼ遺伝子PKA遺伝子) が同定 さ れているが, これ らの遺伝子 はキノコ体 の神経 回路 に強 く発現 している(Davis,1993).また ミツバチにおいては冷却 した細 い金属針でキノ コ体の電気的活動を抑制す ると,匂 いと砂糖水 とを 連 合 す る条 件 反 射 が 成 立 しな くな る (Eber,1980). 小型ケニヨン細胞 図2 キノコ体の模式図 傘部 (ケニヨン細胞の樹状突起が集合);柄部 (ケニ ヨン細胞の軸索が集合);○はケニヨン神経の細胞体 を示す. 一方で ミツパテでは, キノコ体の構造が ミツ パ テの行動 に従 って変化す ることも報告 されて いる.例えば,働 き蜂では,加齢 に従 い育児蜂 か ら採餌蜂へ役割が変化す るとき,神経細胞体 が集合 して いるキ ノ コ体 の皮層 の容積 が30
%
も減少 し, シナプスが集合 しているニューロパ イルの容積が15%増大す る (Wither,1993). さらに働 き蜂のキノコ体の容積 は女王蜂や雄蜂 と比 較 して 大 きい (Mobbs,1982;佐 々木 , 1993). この ことか ら, ミツパテのキノコ体 の 神経回路 は性差, カース トおよび働 き蜂の分業 によって異 な ってお り, ミツパテの本能行動 に 関連す る可能性が考え られ る. そこで,私 たちは ミツパテの脳でキノコ体選 択 的 に発現 す る遺伝子群 を単離 す ることによ り, ミツバチの社会性行動 を制御す る遺伝子 の 候補 を同定す ることを試みた. キノコ体 は2
種類のケニヨン細胞 (介 在 神 経 ) か ら構 成 され る まず, ミツバチのキノコ体の構造 と神経回路 について述べてみたい.図2には ミツパテの左 側 のキノコ体の拡大図を示 しているが,一つの キノコ体 は2つのカ ップ型 の構造 (傘部)を含 み, ケニ ヨン細胞の細胞体 は傘部 の内側 とその 表層部 に集合 している, ケ二 ヨン細胞 は傘部で 感覚中枢か らの出力神経 と シナプスを形成 し, 柄部 に集合 している軸索を経由 Lで情報 を出力 す る.また傘部 は上部か ら順 に唇部 (lip),襟部 (collar),基底環 (basalring)の 3つに領域分 けされている (図3).唇部 には触角葉か らの出 力神経が投射 されてお り,嘆覚情報が この領域 -入力 され る. また襟部で は視葉か らの情報が ≡ 二 二 図3 キノコ体の傘部における神経接続の模式図 L,唇部(llp);Co,襟郡 (collar);B,基底環 (basal rlng).入力 される.基底環 は様 々な感覚情報が入力 さ れ るが, その経路 については詳 しく分か ってい ない. また ミツバチのケニ ヨン細胞 は神経細胞 体の大 きさによって,大型 と小型 の2種類 に分 類 され る.大型 ケニ ヨン細胞 はカ ップの唇部で 嘆覚情報 を受 け取 るタイプと,襟部で視覚情報 を受 け取 るタイプの二つに分 け られ る.小型 の ケニ ヨン細胞 はカップの基底環で シナプスを形 成す るため (Mobbs,1982),様 々な感覚情報 を受 け取 り, これ らの連絡,統合を していると 予想 され る. Differentialdisplay(DD)
法による
キ ノコ体 に選 択 的 に発 現 す る遺 伝 子 の検 索 私 たちはDD法を用 いて, キノコ体 と視葉の 遺伝子発現パ ター ンを比較す ることによ りキノ コ体 に選択的に発現す る遺伝子の候補 を検索す ることに した. ここで視葉 は一般的な神経組織 としての対照 として用 いた.DD法 はい くつか の異 なる組織やステージの間で発現量の異 なる 遺 伝 子 を検 索 す る方 法 で あ り,polymerase chainreaction (PCR)を用 いるためわずかな 組織 を材料 として実験 をスター トで きるとい う 利点がある (LiangandPardee,1992). ミツ ′ . ∼ ′ ′ . 十 ㍍ 路 笹 ■■ヽ - .忘 豆 甘 ..√ ヽL /\ltl. ・ ・ 、 ヽ' ▲ ・′才 も tさ を ▲ J F . ( . ) + } パテはキノコ体が大 きいため,顕微鏡下で解剖 によ りキノコ体 と視葉 を摘出す ることが可能で ある. まず約1000匹分 の働 き蜂のキノコ体 と 視葉か らRNA を抽出 し, 逆転写反応を行 い, cDNA を合成 した.次 に この cDNAを鋳型 と し,放射標識 した ヌク レオチ ド存在下 でPCR 反応を行 い, その産物 を シークエ ンスゲルで電 気泳動する。 この結果,視葉 と比較 してキノコ 体 に強 く発現 す るmRNA由来 に増 幅 され た PCR産物 をオー トラジオ グラム上 でバ ン ドと して検出す ることがで きる.同定 したバ ン ドに 含 まれ るPCR産物 をサ ブクローニ ング し,塩 基配列 を決定す る ことによ り,当該 のcDNA 断片の塩基配列 を知 ることがで きる. ミツパ テで は カル シウム シグ ナ ル伝 達 系 に 関わ る遺 伝 子 群 はキ ノ コ体 に強 く発現 す る DD法を行 った結果, カル シウムシグナル伝 達系に関わ る遺伝子のひとつであるイノシ トー ル三 リン酸(
IP
3)受容体遺伝子がキノコ体 に強 く発 現 す る こ とが 明 らか に な った (図4A; Kamikouchieta1.,1998).insituhybridi -zationにより解析 した結果を図 4に示すが,ミ ツバ チ のIP。受 容 体 遺 伝 子 の mRNA は視 葉 詔 ty (i -., ヽI\
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二言 、\葦 ,
)
図4 ミツバチ脳におけるカルシウムシグナル伝達系に関わる造伝子群の発現パターン 脳全体の切片を用いてinsiEuhybridizationを行った.ジゴキシゲニン標識 したRNAプローブをアルカリフォスファタ-ゼの発色反応により検出した. (A)IP.,受容体退伝子,(B)CaMKIl遺伝子,(C)PKC遺伝子, (D)脳切片の模式図 MB,キノコ体 ,AL,触角葉 ;OL,視薬MB,キノコ体 ;AL,触角葉 ;OL,視葉
116 や触角葉 と比較 してキノコ体で強 く検 出されて いる.IP3受容体 は細胞 内 カル シウム シグナル 伝達系 に機能す る,小胞体 の膜 タンパ ク質であ る.細胞外か らの シグナルを受 けて放 出された IP3に応答 して,小胞体 内 に蓄積 されていたカ ル シウムイオ ンを細胞内に遊離 させ ることによ り,細胞内のカル シウムイオ ン濃度を上昇 させ る働 きを持っ (Furuichieta1.,1995).マウス で はIP。受容体 の1つのサ ブタイプは小脳 のプ ルキ ンエ細胞 に強 く発現 してお り,IP3はLTD (long-term depression)の成立 に関係がある ことか ら,神経の可塑性 に関わることが示唆 さ れている (FlnChandAugustine,1998).ま たマウスや ショウジョウバ エの神経系では細胞 内 カル シウムシグナル伝達系 に関わる遺伝子群 は,記憶 の成立や シナプスの可塑性 に関わるこ と が 示 さ れ て い る (Griffith etal" 1993; Silvaeta1.,1992).この ことか ら,私 たちは ミツバチのキノコ体では他 の神経組織 と比較 し てカル シウムシグナル伝達系の機能が元進 して いる可能性を考 えた. そこで, カル シウム シグ ナル伝達系 に関わる他の因子 としてプロテイ ン キナーゼC (PKC)とCa2ソ カルモ ジュ リン依 存性 プロテイ ンキナーゼⅠⅠ (CaMKII) 遺伝子 に着 目し, これ らの遺伝子がキノコ体 に強 く発 現す るかどうか解析す ることに した. マウスに お いて はPKCとCaMKIIは海 馬 で強 く発 現 し,LTP (long-term potentiation)の成立 に 機能す ることが示 されている (Abeliovich et a1.,1993;Silvaeta1.,1992).
PKCとCaMKIIcDNAは ミツバチでは同定 60 20 80 40 和川川川 ‖リ uTa )d o l d ∽l] J J ttI T1 6 2 8 4 l l t t (a ) d o .l d S T Tr J t t ≡ されていなか ったので, シ ョウジョウバェと晴 乳 類 の問 で保 存 され た ア ミノ酸 配 列 を元 に PCRプ ライマーを設計 し,RT-PCRを行 うこ と に よ り,そ れ ぞ れ の ミツパ テ ホ モ ロ グの cDNA断片を得 た.その後,そのcDNA断片を プ ローブと してinsituhybridizationを行 い, これ らの遺伝子の発現パ ター ンを解析 した.そ の結 果,PKCやCaMKIIの遺 伝 子 もIP。受 容 体遺伝子同様 にキノコ体 に強 く発現す ることが 明 らかにな った (図4B,C;Kamikouchieta1.,
2000).しか しなが ら ミツバ チにおいてPKC とCaMKIIには複数 のサ ブタイプが存在 し, 各 々が領野特異 的 に発現 して いる可能性 が あ る. よってキノコ体で カル シウムシグナル伝達 系 の機能が冗進 していることを示すためには, PKCやCaMKIIの酵素 の比活性がキ ノコ体で は他の領域 と比較 して高 い ことを確認す る必要 がある. そこで,働 き蜂か ら, キノコ体 を含む 脳上部,視葉,および触角葉 を含む脳下部 を摘 出 して粗抽出液を調製 し, これ らの酵素の比活 性 を測定 した. その結果, キノコ体 の粗抽出液 のCaMKIIの比活性 は視葉,触角葉 と比較 して 1.5倍,2倍であった.一方,キノコ体 における PKCの比活性 は視葉,触角葉のそれぞれ6倍, 2.5倍 で あ る こ と が 分 か っ た (図5; Kamikouchieta1.,2000).このよ うに,キノ
コ体 を含む脳領野 におけるCaMKIIとPKCは 酵素の比活性 として も他の領野 と比較 して高 い ことが分か った. よって ミツパテのキノコ体で は, カル シウムシグナル伝達系の機能が元進 し てお り,神経回路の可塑性が向上 している可能 図5 働 き蜂の各脳領野におけ るCaMKII(A),PKC(ち)の比 活性の測定.各々の脳領野を摘 出 して粗抽出液を調製 し,それ ぞれの酵素に特異的な合成基質 を用いて活性を測定 した.
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ま -/ 11 ノ 図6 Mblk-1遺伝子の発現パターン 矢印で発現領域を示す(A)成虫脳全体の切片を用いたm situhybridizationの結見 (B)Aのキノコ体の拡 大図.(C)桶脳全体の切片を用いたinsitullybridizationの結果.(D)Cのキノコ体の拡大図.MB,キノコ体 ; AL,触角葉 ;OL,視葉 ;C,キノコ体の傘部 ,P,キノコ体の柄部;N,将来ケニヨン細胞に分化する神経芽細胞群 性がある. このことか ら,キノコ体の神経回路 は他の神経回路 と比較 して シナプスの接続強度 の変化や再構築が起 こりやすい可能性が考え ら れる. 興 味 深 い こ と に シ ョ ウ ジ ョ ウバ ェ で は CaMKII遺伝子 は ショウジョウバ ェでは脳の皮 質全体 にわた って発現す る (上川内,未発表). この ことは, カル シウム シグナル伝達系 に関わ る遺伝子群 のキノコ体 における発現増強が, ミ ツバ チに固有 な現象 で あ る ことを示唆 して い る. ミツパテの脳進化の過程 において,キノコ 体の機能が発達す るためには,神経細胞の数の 増大 という量的な変化だけでな く,単一の神経 細胞 においてカル シウムシグナル伝達系の機能 が冗進す るという質的な変化が必要であった可 能性が考え られ る. 大 型 ケ 二 ヨ ン 細 胞 特 異 的 に 発 現 す る Mblk-1遺 伝 子 は転 写 因 子 を コー ドす る さらに私たちはキノコ体 に特異的に発現す る 新規 な遺伝子 としてMblk-1遺伝子 (些 JShroo-m 旦ody 旦arge-typeEenyon cell-specifi
'
cpro -tein一旦) を同定 し, この遺伝子がキノコ体 の中 で も大型 ケニヨン細胞特異的に発現す ることを 明 らか に した (図6A,B;Takeuchietalリ 2001} Mblk-1転写産物 は大型 ケニ ヨン細胞 の神経細胞体が集中す るカ ップの内側 に密着 し た領域 に限局 して検 出された. また,働 き蜂の 身体全体 を用 いてin situhybridlZationを行 ったが,胸部や腹部 には有意 な発現 は検出され なか った. これ らの結果か ら, Mblk-1遺伝子 が働 き蜂の脳で大型 ケニ ヨン細胞 に限局 して発 現す ることが明 らかにな った. 女王峰 と雄蜂 の脳 で も同様 に,Mblk-1遺伝 子の発現 を解析 したが, カース トおよび性差 に 伴 う発現パ ター ンに変化 は見 られなか った. さ らに,Mblk-1遺伝子 の変態期 での発現 を解析 す る 目的 で,桶初 期 の脳 の切 片 を用 いてin situhybridization法を行 った.桶期 には,将 莱,大型 ケニ ヨン細胞 になる細胞群が, カ ップ 型構造の中央部 に位置す る神経芽細胞群か ら発 生 し, キノコ体 の柄の部分 の先端 に移動 し,集合 して存在 す る. その結果
,Mbl
k-
1転写産物 は,将来大型 ケニ ヨンに分 化 す る細胞群 に限局 して発現 し,神経芽細胞群 を含 めた脳 の他 の領 野 で は発現 して いなか った (図6C,D).以上 の 結 果 は,Mbl
k-
1遺 伝子 産 物 は大型 ケ ニ ヨ ン細 胞 の分化 お よびその細胞機 能 の維持 に関 わ るこ とを示唆 して い る.DD
法 で は 目的 の 遺 伝 子 の 数 百bp
程 度 のc
DNA
断片 しか得 られ ない. よ ってMbl
k-
1遺 伝子 が コー ドす る タ ンパ ク質 の構造 を明 らか に す るた め に はc
DNA
ク ロー ニ ングを行 って全 長c
DNA
の配 列 を決 定 す る必要 が あ る. そ こ で キ ノ コ体 のmRNA
を鋳 型 に して ラ ンダムプ ラ イ マ ー を用 い て逆 転 写 してc
DNA l
i
br
a
r
y
を作 成 した.次 にDD法 で単 離 したPCR断 片 を プ ロー ブ と してc
DNA
ク ローニ ングを行 っ た.c
DNA
の平均 サイズは数kbp
で あ るので, これ以 上長 い転 写産 物 の全 長 のc
DNA
塩 基 配 列 を決定す るためには,一 回 の クローニ ングでA
5'非紬
.)く触城 流札沢傾城 (oLiド) は終 わ らな い. そ こで クローニ ングによ り得 ら れ たc
DNA
の5
'
末端部 の配列 を元 にプ ロー ブ を作成 し,繰 り返 しスク リーニ ングを行 い,50
個 以 上 のc
DNA
ク ロー ンを単 離 した. そ の結 果,1
4400
bp
に及ぶc
DNA
の配列 を決定 し,Mbl
k-
1遺 伝子 は1
59
8
ア ミノ酸 か らな る タ ン パ ク質 を コー ドす ることを明 らか に した (図6A;Ta
ke
uc
hie
ta
1
.
,20
0
1). この ア ミノ酸配列 と相 同性 の あ る タ ンパ ク質 を デ ー ターベ ー ス(
PASTA)
で検索 した結 果, シ ョウジ ョウ/ヾェ の転写 因子E93
の ア ミノ酸 配列 と最 も高 い相 同性 を示 た (図6B)
.
この ことか ら,Mbl
k-
1
はE93
の ミツバ チ ホモ ロ グで あ り転 写 因子 と して機能 す る と考 え られ た.E9
3
は シ ョウジ ョ ウバ エの変態期 の唾液腺 の アポ トー シスに関わ る ことが示 されて い るが,神経 系 にお ける役割 は全 く分 か って いない(
Le
ee
ta
1
.
,2000
)
.
ミ ツバ チの成虫 の脳 で はアポ トー シス は起 きて い な い ことか ら,Mbl
k-
1お よびE93
は多機能性 3'非 翻訳領域B
セイヨウミツバチ Mblk-1 1TQ
T
て
H
P
l
T ショウジョウバェ E
9
3
1C
L'イ ヨrl/ミツパ +∼/1bLk一日(HITL シ コ■ンジ ー1ウパェ E93RHFl セイ ヨrンミツバナ Mblk-1RllF2 ン ヨウ ブ ヨr)パェ E93EIHl72 線虫 ゲ /ムー
r
L
O
C
l
3 ヒ トゲ ノム RPll_173t)23一一111-I- GRRAYこEE IJごAL DVIJlthlXIJ,J<R■.ASt二11 1JりRS_LへN・くu
K---KGTRPKR-GKYRNYDRDSLVEAVRAVQRGEMSVHRAGSYYGVPHSTL玉
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人朋 Iilリ=Z/ LJナ 一 一L'
GXRPKR .I lA/†T rSLVAV・\lAVQRGEMSVHRAGN E・GVPIISTLEYXVKERHL
-図
7 Mb
l
k
-
1遺伝子のc
DNA
クローニング(
A)
単離 したc
I
)
NA
クローンの位置関係DD
法で単離 したPCR
断片(
DDp
r
o
d
u
c
t)か らスター トしてc
DNA
ウォーキングを行い,合計5
4
個のc
DNA
クローンを単離 した結果,1
4
k
b
p
におよぶKL1c
DNA
の塩基配列 を決定 した.上のバーがMb
l
k
11のコンセンサスc
DNA
を示 し,下の細い横縁は各c
DNA
クロ-ンを示す.(
B)
セイヨウミツバチのMb
l
く
-
1とショウジョウバェのE9
3
の構造の比較,T,スレオニンに富む領域 ,Q,グル タミン酸に富む領域 ;RHF
,ミツパテとショウジョウバエで特に相同生の高い領域(
C)
様々な種から見つかっ たRHF
ドメインと既知のDNA
結合 ドメインの比較. 太字 はセイヨウミツパテのRHFl
またはRHF2
と一致 したア ミノ酸を示す.タンパ ク質であり,神経系では別の生体機能を 持っ ことが予想 される.
さ らに,Mblk-1とE93はRHFl (王egiOn conserved between honeybee and fruit
fly)1-2と命名 した領域では,特 に高い相同性 を示す ことが分か った (図6C).61ア ミノ酸か らなるRHF2の領域では相同性 は98%に達 し た.次 にRHF1,2の領域 の機能 を推定す る目 的で, この領域 と相同性を示す機能 ドメイ ンの 検索 を行 った.その結果,RHFlと2は とも に, ショウジョウバェのPipsqueakタンパ ク質 のPsq motifと有意 な相 同性 を示 した.Pi p-squeakは,GAGAG consensusmotifを認識
して結合す るDNA結合蛋白で, 転写因子 とし て ショウジョウバェの卵形成や複眼形成などの 局 面 で 機 能 す る (Weber et a1., 1995; HorowitzetalH1996).Psq motifはDNA
結合 ドメイ ンであり,原核生物のrecombinase
のDNA 結 合 モ チ ー フ に 相 同 性 を 持 っ
(Lehmanneta1.,1998).従 って,Mblk-1と
E93のRHFlと2は と もにDNA結合motif
と考え られる.さらに,RHF2と相同性を示す ア ミノ酸配列 は,線虫, ウニ,マウス, ヒトの ゲノムデーターベース中で も見つか った.マウ スの脊髄のEST (Expressionsequencetag)
のデータベースにも登録 されていることか ら, 晴乳類で も中枢神経系 に発現 す ると考 え られ る. よって, M也lk-1の構造 と神経系における 機能 は動物一般に広 く保存 されている可能性が ある.Mblk-1の生体内機能 としては, その他 の大型ケニ ヨン細胞に強 く発現す る遺伝子群 と 関わ って機能す ると予想 される.私 たちはIP。 受容体 とCaMKIIはキ ノコ体 の中で も大型 ケ ニヨン細胞により強 く発現す ることを見出 して いる (図4A,B;Kamikouchieta1.,2000).
さ らに ミツバチではcAMP依存性 プロテイ ン キナーゼ遺伝子(PKA遺伝子)は大型 ケニ ヨン 細胞に強 く発現 し,嘆覚連合記憶学習に関わる こ と が 示 さ れ て い る (Mller, 2000; Eisenhardt2001). 以上のように大型 ケニ ヨ ン細胞では,神経系の可塑性に関わる因子群が 協調的に発現増強 している傾向がある.私たち 119 は,Mblk-1が転写因子 として これ らの遺伝子 群の発現を元進 してお り,キノコ体に脳の高次 中枢 としての地位を賦与する中心的な役割を果 た しているのではないか と予想 している. ミツバ チの脳 研 究 の意 義 と今 後 の展望 ここで, ミツバチの脳研究の意義 と今後の研 究の展望 について考察 してみたい.私たちはカ ルシウムシグナル伝達系 に関わる遺伝子群およ び転写因子であるMblk-1がキノコ体選択的に 発現することを示 した.今後, これ らの遺伝子 群 と ミツバチの行動 との関わ りを明 らかにす る ことが重要である.昨年, ミツバチにおいて遺 伝子導入法が確立 し,外来の遺伝子を発現 させ る こ とが 可 能 に な っ た (Robinson eta1., 2000).私 たちはCaMKIIやPKCの活性 を阻 害するペプチ ドを脳で強制発現することによっ て,キノコ体の神経回路においてカル シウムシ グナル伝達系 の機能 の阻害 で きると考 えてい る. これにより,キノコ体での神経回路の可塑 性が低下す るのか ?その時に ミツバチの社会性 行動 にどのような影響が出るのか ?といった問 いに答え ることが可能 になる.また,Mblk-1 を強制発現す ることによ って,M也lk-1が本当 に神経系の可塑性に関わる因子群の転写を元進 するのか否かが明 らかになると考え られる.ま たMblk-1は線虫か らヒ トに至 るまで広 く保存 されてお り,脳機能 に関わる新規な遺伝子であ る可能性があ る.私 たちは ミツバ チだ けでな く,Mblk-1の相同遺伝子 の機能解析 をマウス および線虫 を用 いて行 うことにより,Mblk-1 の動物間で保存 された機能の解明 も目指 してい る. ミツバチのキノコ体か らは脳機能に関与する 多 くの新規の遺伝子が見つかる可能性があり, 私 たちはDifferentialdisplay法 およびDNA マイクロア レイ法を用いて ミツバチのキノコ体 に選択的に発現する遺伝子や この小文では触れ なか ったが, ミツバチの行動特異的に発現する 遺伝子の網羅的な検索を進めている.何年か後 には, ミツパ テ脳 の詳細 な分子解剖図が完成 し,同定 した遺伝子群 と ミツバチの高次な社会
120 性 行 動 と の 関 わ りが 明 らか に な る こ と と期 待 し て いる. (〒113-0033東京都文京区本郷7-3-1 東京大学大学院理学 系研究科生物科学専攻) 謝 辞 本研究 は一部,生物 系特定産業技術研究推 進機構 (坐 研機構)の事業 と して行 ってい る. 引用文献
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Mushroom bodies(MBs)areInvolvedlnhi gh-er-order sensory processlng and olfactory memoryintheinsectbraln.Toidentifycandi -dategenesinvolvedintheintrinsicfunctionof thehoneybeeMBs,wesearchedforgenespre -ferentiallyexpressedtherein,usingthediffere n-tialdisplaymethod.He‡-eWereporttheexpres -sionofsomeofthegenesforp1-0teinsinvolved intheintraceHularCa-'-slgnaltl・anSduction(i n-ositol1,4,5-trlSPhosphatereceptor(IP:,R),Ca2/ Calmodulin-dependent protein klnaSe II
(CaMKII)and proteln kinaseC (PKC))isc on-centratedinthemushroom bodiesoft hehoney-beebraln.TheCaMKIIandIP3R genewereexI pressed preferentiallyinthelarge-typeKenyon cellsofthemushroom bodies,whereasthatfor PKC wasexpressedinboththelargeandsmall types of Kenyon cells.Furthermore,the en-zymatic activities ofCaMKII and PKC were found to behlgherin the mushroom bodies/ centralbodleSthan in theopticand antennal lobes ofthe workerbee brain.These results suggestthatthe function ofthe intracellular Ca2 slgnaltransduction lS enhanced ln the Kenyon cellsin comparlSOn tO Otherneuronal celltypeslnthehoneybeebrain.
Wealso identified a novelgeneencodlng a putativetranscript10nfactor(Mblk-1)expressed preferentially in oneoftwo typesofintl-insic MB neurons,thelarge-typeKenyoncells.A pu-tativeDNA bindingmotifofMblk-1hadsignif -icantsequence homology with those encoded bygenesfrom variousanimalspecies,suggest -1ng that the functions of these proteins in neuralcells are conserved among the animal kingdom.OurfindingsuggeststhatMblk-Ihas arolein thetransactivatlOnOfgenesinvolved in the intrinsIC function of the large-type Kenyon cellsofhoney bee MBs.Itmightbe possible that Mblk-i participates in trans -cript10nalactivationofsomegenesinvolvedin synaptlC Plasticity,such asIP。R,CaMKII,and
PKA,andthel'eby responsibleforthestatusof MBs as the main association and memory centersofthehoneybeebraln,