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学 位 の 種 類 博士 (医学) 報 告 番 号 甲第1774号 学 位 記 番 号 第1253号 氏 名 加藤 大貴 授 与 年 月 日 令和 2 年 9 月 25 日 学位論文の題名
Disorganization of claudin-11 and dysfunction of the blood-testis barrier during puberty in a cryptorchid rat model
(停留精巣モデルラットの思春期における血液精巣関門の機能障害と Claudin-11 の構造変化)
Andrology. 2020 Mar 20. doi: 10.1111/andr.12788. Online ahead of print.
論文審査担当者 主査: 高橋 智
論 文 内 容 の 要 旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ <背景> 停留精巣は、精巣が本来の下降経路の途中で停留して陰嚢内に降りていない先天性疾患である。 停留精巣は造精機能障害をきたすことが問題であるが、その病態は未解明である。 精細管には様々な分化段階の精細胞(精原細胞、精母細胞、精子細胞、精子)と、それを支持する セルトリ細胞が存在する。思春期になると、セルトリ細胞は隣接する細胞との間に密着結合帯 (tight junction)で構成される血液精巣関門(blood-testis barrier; BTB)を形成し、BTB によって精 細胞は基底側と管腔側に分けられる。管腔側の精細胞は、BTB があるため血液由来の有害物質や 免疫細胞から保護され、成熟精子へ分化する。BTB は主に Claudin-11 (CLDN11), Occludin (OCLN), Zonula occludens-1 (ZO-1)で構成され、細胞接着分子である CLDN11 は哺乳類で広く 保存されている。BTB は正常の精子形成に必須であるが、停留精巣における状態は明らかでない。 そこで本研究では、停留精巣の造精機能障害の病態を明らかにするため、動物モデルを用いて BTB、特に CLDN11 の発現と局在変化を検討した。 <対象と方法> 妊娠SD ラットに抗アンドロゲン薬である flutamide を暴露させ、出生した停留精巣モデルラ ットを用いた。思春期にあたる生後4~6 週のモデルラットから、下降精巣(descended testis; DT) と停留精巣(undescended testis; UDT)を採取し、コントロールと合わせ 3 群で以下の項目につい て比較・検討を行った。(1) 精巣組織所見(PAS 染色) (2) BTB 構成タンパク(CLDN11,OCLN,ZO-1) の免疫組織化学染色 (3) CLDN11 の蛍光免疫染色 (4) BTB 構成蛋白質の Western-blotting (5) 精細胞の分化(減数分裂の開始・進行を示すタンパク(STRA8, SYCP3)の免疫組織化学染色) (6) 精 細胞のアポトーシス(TUNEL 法) (7) 硝酸ランタンの全身灌流を用いた透過型電子顕微鏡法 (Transmission Electron Microscopy; TEM)による BTB の機能評価。
<結果>
(1) 精巣組織の PAS 染色:コントロール群、DT 群では生後 6 週の精巣で精子細胞を認めたが、 UDT 群では精母細胞で精細胞分化が停止していた。(2) 免疫組織化学染色:生後 6 週のセルトリ 細胞で CLDN11 はコントロール群、DT 群とも基底膜に対して平行に発現していたが、UDT 群 では細胞表面に拡散するように発現していた。OCLN は CLDN11 と同様の分布を示したが、発
現は弱かった。ZO-1 は 3 群ともセルトリ細胞の細胞質にびまん性に弱く発現していた。 (3) CLDN11 の蛍光免疫染色:生後 4 週では CLDN11 はコントロール群、DT 群、UDT 群とも基底 膜に対して垂直に発現した。生後5 週以降、CLDN11 はコントロール群・DT 群で基底膜に平行 に局在が変化したのに対し、UDT 群では基底膜に垂直のまま変化がみられなかった。(4) BTB 構 成タンパクのWestern blotting:生後 4、5、6 週とも CLDN11、OCLN、ZO-1 の発現量に差を 認めなかった。(5) 精細胞の分化:3 群とも精細胞に STRA8, SYCP3 の発現がみられ、減数分裂 が進行していた。(6) 精細胞のアポトーシス:1 精細管あたりの TUNEL 陽性精細胞数は、生後 5 週以降 UDT で有意に増加し、管腔側の精細胞が陽性であった。(7) 透過型電子顕微鏡を用いた BTB の機能評価:生後 5 週でコントロール群、DT 群では硝酸ランタンの通過が BTB を通過し なかったのに対し、UDT 群では BTB を通過して精細管の管腔側まで至っていることを観察した。 <考察・結論> 本研究では、停留精巣の造精機能障害の病態を明らかにするために、BTB が形成される思春期 に着目した。BTB 構成タンパクのうち、停留精巣では CLDN11 の局在がコントロール群、DT 群 と異なり、思春期に血液精巣関門を適切に構成できず、BTB の機能が破綻することを私たちは見 出した。同時に、停留精巣ではコントロール群、DT 群と同様に精細胞の減数分裂は進行するが、 その分化は精母細胞で停止し、アポトーシスした。本研究は停留精巣におけるCLDN11 について の初めての報告である。CLDN11 は BTB の主要な構成要素となる膜貫通型タンパクであり、 CLDN11ノックアウトマウスで精細胞の分化が精母細胞で停止することが報告されている。本研 究では、停留精巣では思春期にCLDN11 の局在変化が生じるとともに、BTB の機能が失われ、 これが造精機能障害をきたす一因になると考えられた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1552 字) (注)和文で2,000字以内でまとめる
論文審査の結果の要旨 【背景】停留精巣は、精巣が本来の下降経路の途中で停留して陰嚢内に降りていない先天性疾患で ある。停留精巣は造精機能障害をきたすことが問題であるが、その病態は未解明である。精細管に は様々な分化段階の精細胞(精原細胞、精母細胞、精子細胞、精子)と、それを支持するセルトリ細 胞が存在する。思春期になると、セルトリ細胞は隣接する細胞との間に密着結合帯で構成される血 液精巣関門(blood-testis barrier; BTB)を形成し、BTB によって精細胞は基底側と管腔側に分けら れる。管腔側の精細胞は、BTB があるため血液由来の有害物質や免疫細胞から保護され、成熟精子 へ分化する。BTB は主に Claudin-11 (CLDN11), Occludin (OCLN), Zonula occludens-1 (ZO-1)で構 成され、細胞接着分子である CLDN11 は哺乳類で広く保存されている。BTB は正常の精子形成に必須 であるが、停留精巣における状態は明らかでない。そこで本研究では、停留精巣の造精機能障害の 病態を明らかにするため、動物モデルを用いて BTB、特に CLDN11 の発現と局在変化を検討した。 【対象と方法】妊娠 SD ラットに抗アンドロゲン薬である flutamide を暴露させ、出生した停留精巣 モデルラットを用いた。思春期にあたる生後 4~6 週のモデルラットから、下降精巣(descended testis; DT)と停留精巣(undescended testis; UDT)を採取し、コントロールと合わせ 3 群で以下の 項 目 に つ い て 比 較 ・ 検 討 を 行 っ た 。 (1) 精 巣 組 織 所 見 (PAS 染 色 ) (2) BTB 構 成 タ ン パ ク (CLDN11,OCLN,ZO-1)の免疫組織化学染色 (3) CLDN11 の蛍光免疫染色 (4) BTB 構成蛋白質の Western-blotting (5) 精細胞の分化(減数分裂の開始・進行を示すタンパク(STRA8, SYCP3)の免疫 組織化学染色) (6) 精細胞のアポトーシス(TUNEL 法) (7) 硝酸ランタンの全身灌流を用いた透過型 電子顕微鏡法(Transmission Electron Microscopy; TEM)による BTB の機能評価。
【結果】(1) 精巣組織の PAS 染色:コントロール群、DT 群では生後 6 週の精巣で精子細胞を認めた が、UDT 群では精母細胞で精細胞分化が停止していた。(2) 免疫組織化学染色:生後 6 週のセルト リ細胞で CLDN11 はコントロール群、DT 群とも基底膜に対して平行に発現していたが、UDT 群では細 胞表面に拡散するように発現していた。OCLN は CLDN11 と同様の分布を示したが、発現は弱かっ た。ZO-1 は 3 群ともセルトリ細胞の細胞質にびまん性に弱く発現していた。 (3) CLDN11 の蛍光免 疫染色:生後 4 週では CLDN11 はコントロール群、DT 群、UDT 群とも基底膜に対して垂直に発現し た。生後 5 週以降、CLDN11 はコントロール群・DT 群で基底膜に平行に局在が変化したのに対し、 UDT 群では基底膜に垂直のまま変化がみられなかった。(4) BTB 構成タンパクの Western blotting: 生後 4、5、6 週とも CLDN11、OCLN、ZO-1 の発現量に差を認めなかった。(5) 精細胞の分化:3 群と も精細胞に STRA8, SYCP3 の発現がみられ、減数分裂が進行していた。(6) 精細胞のアポトーシス: 1 精細管あたりの TUNEL 陽性精細胞数は、生後 5 週以降 UDT で有意に増加し、管腔側の精細胞が陽 性であった。(7) 透過型電子顕微鏡を用いた BTB の機能評価:生後 5 週でコントロール群、DT 群で は硝酸ランタンの通過が BTB を通過しなかったのに対し、UDT 群では BTB を通過して精細管の管腔 側まで至っていることを観察した。 【考察・結論】本研究では、停留精巣の造精機能障害の病態を明らかにするために、BTB が形成さ れる思春期に着目した。BTB 構成タンパクのうち、停留精巣では CLDN11 の局在がコントロール群、 DT 群と異なり、思春期に血液精巣関門を適切に構成できず、BTB の機能が破綻することを見出し た。同時に、停留精巣ではコントロール群、DT 群と同様に精細胞の減数分裂は進行するが、その分 化は精母細胞で停止し、アポトーシスを起こした。本研究は停留精巣における CLDN11 についての初 めての報告である。CLDN11 は BTB の主要な構成要素となる膜貫通型タンパクであり、CLDN11 ノック アウトマウスで精細胞の分化が精母細胞で停止することが報告されている。本研究では、停留精巣 では思春期に CLDN11 の局在変化が生じるとともに、BTB の機能が失われ、これが造精機能障害をき たす一因になると考えられた。 【審査内容】主査の高橋教授から、停留精巣モデルラット作成の理論、片側性に発生する理 由 、 精 子 形 成 の 詳 細 、 脳 血 管 関 門 と の 関 連 な ど 16 項 目 、 第 一 副 査 の 杉 浦 教 授 か ら は 、 flutamide 投与方法とモデルの関連、造精機能障害の原因、減数分裂について、モデルとヒト との関連、臨床所見との関連など 12 項目、第二副査の大石教授から、モデルにおける精巣導体 の形成、CLDN11 の局在異常の原因、BTB 形成など 8 項目の質問があった。これらの質問に対し て申請者から、概ね適切な回答が得られ、本論文の内容について十分に理解するとともに、専 攻分野 (腎・泌尿器科学)に関する知識を習得しているものと判断された。本研究は、停留精 巣においてCLDN11の構造変化が BTB の機能障害を起こし、造精機能障害に至る機序を示した。 よって、これらの新しい知見を報告している本論文の筆頭著者は博士(医学)の学位を授与す るに相応しいと判断した。 論文審査担当者 主査 高橋 智 副査 杉浦 真弓,大石 久史