• 検索結果がありません。

JNB,No.099,2005年10月19日発行/H16年度「ナノテクノロジー分野における科学技術シミュレーション動向調査」 報告書

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "JNB,No.099,2005年10月19日発行/H16年度「ナノテクノロジー分野における科学技術シミュレーション動向調査」 報告書"

Copied!
116
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

「ナノテクノロジー分野における科学

技術シミュレーション動向調査」

報告書

平成 17 年 3 月

文部科学省

ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター

(2)

本報告書は、文部科学省の委託調査研究として、 文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェク トセンター事業の一つとして実施した平成 16 年度 「ナノテクノロジー分野における科学技術シミュレー ション動向調査」の成果を取りまとめたものです。 したがって、本報告書の複製、転載、引用等には 文部科学省の承認手続きが必要です。

(3)

要 約 ナノテクノロジー分野における科学技術シミュレーション動向調査業務の一環として、 ドイツを中心とした欧州の動向について、その理論モデルの状況及びシミュレーションを 支える計算機状況、計算機センターの活動を調査した。その結果、ドイツ等では理論モデ ルの開発が着実に進んでいること、日米におけるハイエンド計算機の資源の進展と、2010 年頃までの高性能計算機の導入を見据えて、近似モデル等を有効に利用した現実的な応用 モデルの展開が始まっていることが分かった。さらに、計算機センターではハイエンドコ ンピューティングによる大規模シミュレーション利用がまだその一部に留まっている。ま た欧州ではグリッドコンピューティングも盛んであり、一般的なグリッド向け応用ソフト ウエアは充実が図られているが、ナノテクノロジーシミュレーションに関する支援はまだ 数少ない。一方、米国では、ハイエンドコンピューティング再活性化政策が始動し、これ に連動して国家ナノテクノロジー戦略体制も強化されている。この下で大学等の研究者グ ループのネットワーキング化が進むとともに、国立研究所のナノサイエンス研究センター が拠点化され、計算ナノテクノロジーがその政策の主要な軸となった。また、各拠点には、 リーダーシップクラスの高性能計算機が順次導入されている。さらに国立研究所の中性子 光源などの実験施設を活用し、理論、実験、シミュレーションを組み合わせた統合的な研 究が始動している。 地球シミュレータなど大型計算機資源を利用した日本のナノテクノロジーシミュレーシ ョンは米国や欧州のナノテクノロジー研究を刺激し、米欧にシミュレーションの可能性と 戦略的重要性を認識させた。今後は我が国も計算機能力を活用した有効な戦略、特に理論 モデリング及びシミュレーション技術策、さらには産業への支援策等を早急に立てる必要 があろう。

(4)
(5)

目次 1.はじめに ... 1 2.欧州の動向調査 ... 2 2.1 理論モデリングの動向... 2 2.1.1 ドイツにおける状況... 2 2.1.2 欧州における量子シミュレーションモデルの状況 ... 5 2.1.3 モデリング及びシミュレーション研究例... 16 2.2 計算資源の対応... 24 2.2.1 計算施設調査... 24 (1)ジョン・フォン・ノイマン計算センター(ユーリッヒ研究所) ... 24

(2)ライプニッツ計算センター(LRZ / The Leibniz Computing Centre) .... 28

2.3 ソフトウエアの対応... 32 (1)フラウンホーファー研究所(SCAI)... 32 2.4 その他:スイスの動向(概要) ... 34 3 米国の動向 ... 35 3.1 米国のナノテクノロジー戦略... 35 3.2 米国の計算機戦略... 37 (1)概況 ... 37 (2)ハイエンドコンピューティング再活性タスクフォース(HECRTF) ... 38

(3)HPCS(High Productivity Computing System)の状況 ... 43

(4)TOP50 から窺える傾向 ... 44 3.3 ナノテクノロジー研究センターの状況... 47 (1)5大ナノテクノロジーセンター... 47 (2)オークリッジ国立研究所(ORNL):ナノフェーズ材料科学研究センター ... 47 3.4 米国におけるナノテク研究の推進方策の具体例... 51 (1)オークリッジ国立研究所における例(www.cnms.ornl.gov を参照引用) .. 51 3.5 計算科学からのナノテク研究支援策... 56 3.6 採択された課題例... 57 4.まとめ ... 59 5.付録

(6)
(7)

1.はじめに 平成 15 年度において、ナノテクノロジー分野における科学技術シミュレーションに関す る動向調査を行った。その結果、超高速大型計算機を用いた第一原理シミュレーションが 着実に進歩し、材料、プロセス、デバイス設計やプロトタイプ作りに利用できる段階に近 づいていること、超高速大型計算機や高性能 PC を用いた材料、デバイス設計、さらには MEMS1 (NEMS2)、バイオ、化学などの分野で近似法を開発しつつ多様な発展をしていることなどが 明らかになった。一方、シミュレーションに用いる超高速大型計算機としては、日本の地 球シミュレータが世界一の性能(実効性能 35.86Tera Flops(以下 TFlops))を実現したが、 平成 16 年 11 月に発表されたスーパーコンピュータの世界トップ 500 のランキングでは3 位に後退し、1位を IBM の Blue Gene/L(実効性能 70.72TFlops)、2位を SGI の Columbia (実効性能 51.87TFlops)に譲ることとなり、超高速大型計算機の開発競争は日米間で激化 している。本年度はこのように急速に変化しているナノテクノロジーシミュレーション技 術についてその動向を昨年に引き続き調査するとともに、ナノテクノロジーシミュレーシ ョンに用いる計算機技術についても調査を行い、今後のナノテクノロジー研究開発推進方 策に資することを目的とする。 以上の調査目的のもと、本年度のナノテクノロジーシミュレーションの動向を以下の観 点から調査することとする。 素材、バイオ、化学、NEMS などの各分野における共通的な課題として、原子、分子レベ ルの特性を表現する計算モデルの動向を調査する。特に近年、伝統的な理論物理が盛んな 欧州においても、高速並列計算機の普及もあいまって、ナノテクノロジーシミュレーショ ンが盛んになっており、ナノサイエンス側の精度の良い理論モデリングへの期待が高まっ ている。そこで、 • 欧州等における理論モデリング、ソフトウエアの動向は何か • それを支える計算機環境 • さらに米国における動向は昨年度以来どう変わっているか 等を調査する。以上の観点から、EU 統合で欧州一体感の様相を呈するヨーロッパが、科学 技術においては国ごとに温度差があることに着目し、先端科学の先進国であるドイツ等に 重点を置きその状況を調査する。また、米国動向も継続して調査することとした。 1

Micro Electro Mechanical System

2 Nano Electro Mechanical Systems

(8)

2.欧州の動向調査 2.1 理論モデリングの動向 2.1.1 ドイツにおける状況 欧州におけるナノマテリアルの理論モデリング動向として、ドイツにおける活動に着目 した。欧州においても、世界半導体会議(ITR 報告)の動向から明らかなように、ポストシ リコンテクノロジがナノマテリアル研究のターゲットに推されており、分子素子への挑戦 が盛んである。これに伴い、理論モデル研究が活発化している。デバイスシミュレーショ ンでは実用性が問われるため、必ずしも第一原理計算にはこだわらず、近似モデルを用い て分子の挙動(デバイスに近いスケール)を把握すべく、DFT 計算(Density Functional Theory /密度汎関数法)の大規模化、さらに密結合モデル(TB: Tight-Binding/タイトバインデ ィング)研究も盛んに行われ、多元素化への展開がある。それら研究には、大規模な計算 資源が必要であるが、昨今の日米におけるハイエンドコンピューティングへの急速な傾斜 の影響から、大規模シミュレーションへの期待がかなり高くなっている。このため、欧州 の伝統的な厳密理論系とともに現実的・応用に使えるモデルへと研究拡張が進んでいる。 しかし欧州の全般的傾向として超高速大型計算機の資源不足から来る制約で、小さな系の 振る舞いしか分らない状況にあるようだ。そこで日本との共同研究を進めるなどして、大 規模計算によるブレークスルーを図り、革新的機能・性質の発見を期待している面もある。 ドイツにおける具体的なモデリング動向を調べるために、ドレスデン工科大学3とレーゲ ンスブルク大学4の研究活動を調査した。 (1)ドレンスデン工科大学 ドレスデン地区では、ナノエレクトロニクスの将来を睨む EU プロジェクトの一つ、45nm 研究チーム(TUD)の影響もあり、分子デバイスの見通しに期待を持っているようである。 このため、電子輸送のモデリング、シミュレーションへの傾斜が顕著であり、地域的には、 マックスプランク研究者ネットワークが中心的牽引役となって、ドレスデン工科大学など と連動した研究を展開している。ドレスデン地区は旧東独時代にあって、電子機器研究の 拠点であったため、現在も集中的に拠点化が続き、東西統合時にはマックスプランク研究 所5が真っ先に設置された。 Seifert 教授6との情報交換では、彼らが現在試みている研究の概要説明がなされた。具 体的には、単なる密度汎関数法 DFT からその応用性を高めるために、DFT ベースのシミュレ ーションを拡張し、密度汎関数モデル(DFT)と密結合モデル(TB)とを融合した連携モデ ルで高精度と高速化を目指していること、また、さらなる応用性を追求するためにその多 原子版への展開を図っている、が紹介された。また、DNA ワイヤーなどの多元素クラスター 3 http://tu-dresden.de/ 4 http://www.uni-regensburg.de/ 5 http://www.mpg.de/portal/index.html 6 http://www.chm.tu-dresden.de/pc/seifert/seifert.html

(9)

による輸送現象はシステム挙動が重要だとの指摘もあった。 図 1. ドレスデンの町並みと工科大学 http://tu-dresden.de/die_tu_dresden.html より (2)レーゲンスブルク大学 レーゲンスブルク大学はナノ、バイオに焦点をあてたドイツにおける3大拠点大学の一 つであり、マックスプランク研究所のネットワーク機関でもある。この大学においても、 分子デバイスをテーマにした理論モデリング研究会、またカーボンナノチューブ(CNT)の 電子輸送現象研究会が開催されている。具体的には、研究材料としては CNT 及び DNA ワイ ヤー電子輸送モデリングをターゲットにしているが、TranSIESTA7、モンテカルロ法などの 小規模シミュレーションに留まっている。基本的課題が扱える原子の個数が少なく、系と しての全体特性が把握できていないこと、基底状態計算に留まることから、モデリングの 高度化とシミュレーションの大規模化を狙っている。当然、我が国との共同研究を望む声 は大きい。 G. Cuniberti 教授8(物理学)との情報交換よると、現在のテーマとして、輸送モデルを 中心に、分子デバイスの研究を展開しているとのことである。 • 乱れた系のトランスポート(カーボンナノチューブ) • ワイヤー・バルク表面間 → 系全体の振る舞いシミュレーション • DNA ワイヤーのシミュレーション 等の研究を約 10 人程度の研究者チーム(マックスプランクのネットワーク系統)で進めて いる。 7 http://www.transiesta.com/transiesta.html 8 http://www-mcg.uni-r.de/welcome/

(10)

図 2. レーゲンスブルグ大学 http://www.uni-regensburg.de/より

図 3.レーゲンスブルグの町並み

(11)

2.1.2 欧州における量子シミュレーションモデルの状況 欧州ではドイツ、ウイーン、デンマークなどの大学を中心に量子シミュレーションコード が公開されている。これらのコードは全世界に配布され、新しい理論がフィードバックさ れ、常にコードの改良が加えられ続けている。これらの動向を以下のとおり分析・報告す る。 調査対象コード: 1) Wien2k: Lapw(補強した平面波法)法を使った電子構造計算コード。非常に厳密で複雑。並列版あ り。WEB 上からプログラムを起動でき、グラフィック機能をもつ。 2) DEMOCRITOS: 電子構造計算コード。グラフィック機能あり。並列版あり。 3) CPMD: 電子構造計算コード。カー・パリネロ(この分野のノーベル賞受賞者)がオリジナルを開 発。並列版あり。 4) TranSIESTA: SIESTA を結合してつくられた分子の電子伝導コード。シリアル版のみ。 以下にそれぞれのコードの詳細を記す。 ① Wien2k Wien 工科大学9の P. Blaha10らによって開発されてきたフルポテンシャル補強平面波法に 基づいた、固体の電子構造の第一原理計算法プログラムである。計算精度が非常に高く、 信頼性のある電子構造を得ることができる。その一方で、コードは非常に複雑である。 有料で、アカデミックライセンスは数万円、商業ライセンスは数十万円。プログラム使用 言語は Fortran だが、C シェルスクリプトによって幾つかの Fortran プログラムを連続的に 繰り返し実行する点が特徴である。C シェルスクリプトは入出力ファイルの生成、結合など 9 http://www.tuwien.ac.at/ 10 http://info.tuwien.ac.at/theochem/ 図 4.Wien2k のロゴ http://www.wien2k.at/index.html より

(12)

非常に複雑な処理を要する。 並列計算は二段階に分かれている。一段目は C シェルスクリプトによって、シリアルコー ドを複数起動させることによる並列である。異なる k 点の計算を独立に計算して、終了後 にシェルが出力データの和をとる処理をする。そのためデータはファイル共有されていれ ば MPI 環境がない計算機でも並列計算が可能である。 二段階目の並列は1つの k 点に対して、MPI 並列を行いさらに高速計算を行っている。こ の並列計算では MPI 環境が必要である。 ライブラリ利用はヨーロッパの計算プログラムの特徴であるが、このコードでもライブラ リが利用されている。シリアル版では LAPACK、並列版では LAPACK の MPI 並列版の ScaLAPACK を利用して行列要素の生成と行列の対角化の並列を行っている。 電子計算プログラムの構造は、①電荷密度からポテンシャルをつくる部分、②行列要素を 作って対角化し固有値と固有ベクトルを作る部分、③固有値、固有ベクトルから電荷密度 を作る部分、である。②において、行列やベクトルの演算に行列計算ライブラリ LAPACK(フ リーなプログラム)を用いている。 MPI 版プログラムは IBM-SP 上で開発されており、各種の計算機で使用させた実績が少な い。 また、この Wien2k コードは WEB 上からシェルの起動が可能で、一段目の並列、さらに、 計算で得られた電子構造を図で表示することもできる(Gnuplot を使用している)。 その他の特徴として、lapw1 の部分のベンチマークが PC 計算機で得られている。

Compaq-Alpha 666 1092 sec Dec compiler Compaq-Alpha 666 1092 sec Dec compiler Compaq-Alpha EV68, 1GHz 574 sec -ldxml

G4 877 sec /-O Absoft compiler

G5(dual CPU64bits 2GHz) 690 sec Absoft/-O

G5 350 sec /xlf compiler /G5 64bits libraries /-O5 -qhot -arch=g5

Athlon XP3000+ (2.17 GHz) 1444 sec (PGI, PGI compiled BLAS) Athlon XP3000+ (2.17 GHz) 705 sec ifc, mkl

Athlon XP3000+ (2.17 GHz) 541 sec ifc, ifc compiled LAPACK, Athlon ATLAS) Athlon XP3000+ (2.17 GHz) 515 sec PGI, PGI compiled LAPACK, Athlon ATLAS)

(13)

P4, 2.5 GHz, dual channel mem. 347 sec ifc7, mkl6

P4, 2.5 GHz, dual channel mem. 328 sec ifc7, goto-library P4 dual-Xeon, 2.4 GHz 341 sec ifc7, mkl6

P4 dual-Xeon, 2.4 GHz 304 sec ifc7, goto-library P4, 3.0 GHz, dual channel mem. 288 sec ifc7, mkl6

P4, 3.2 GHz, dual channel mem. 258 sec ifc7, mkl6 P4 dual-Xeon, 3.0 GHz 253 sec ifc7.1, mkl6.1

P4 dual-Xeon, 2.8 GHz 226 sec ifort 8.1 + mkl 7.2.1 EM64T P4, 3.2 GHz, 400MHz dual ch.mem. 228 sec ifort8.0, mkl6.1

P4, 3.4 GHz, 400MHz dual ch.mem. 212 sec ifort8.0, mkl6.1

P4 dual-Xeon, 3.6 GHz 211 sec pgf90 + libgoto_p4-64_1024-r0.97 (2 jobs in parallel)

P4 dual-Xeon, 3.6 GHz 184 sec pgf90 + libgoto_p4-64_1024-r0.97 (1 job)

P4 dual-Xeon, 3.6 GHz 152 sec pgf90 + libgoto_p4-64_1024p-r0.97 (1 job with pthreads!)

AMD-Opteron, dual cpu, 1.8 Ghz 696 sec ifc7, mkl

AMD-Opteron, dual cpu, 1.8 Ghz 430 sec pgf90, ACML-library AMD-Opteron, dual cpu, 1.8 Ghz 401 sec ifc7, goto-library AMD-Opteron, 1.6 Ghz 360 sec ifc7, goto_opt32-library AMD-Opteron, dual cpu, 2.0 Ghz 270 sec ifc7, goto_opt32-r0.92-library AMD-Opteron, dual cpu, 2.2 Ghz 282 sec pgf90, ACML2.0-library

IBM p630 1.45GHz Power4+ 241 sec xlf 8.1.1,-q64 -O5,ESSL4.1 IBM p655 1.50GHz Power4+ 206 sec xlf 8.1.1,-q64 -O5,ESSL4.1

Itanium2(1.3GHz,SGI Altix 3700) 298 sec ifc7.1 + mkl6.0 Itanium2(1.5GHz 6Mb cache, HP) 190 sec HP f90 + mlib (2004) Itanium2(1.5GHz 6Mb cache, HP) 168 sec HP f90 + mlib (Mai 2005)

Itanium2(1.3GHz,SGI Altix 3700) 189 sec ifc7.1 +SCSL 1.5, libgoto_it2-r0.94 Itanium2(1.5GHz,SGI Altix 3700) 165 sec ifc7.1 +SCSL 1.5, libgoto_it2-r0.94

上記のマシンの中で、Itanium が最速である。

Wien2k は、スパコンで動作させた実績を公開していないのでその結果等は不明である。 RIST でこのプログラムを NEC-SX6 で動作させた実績があるのでその結果を以下に簡単に述

(14)

べる。lapw0、lapw1、lapw2 が並列化されている。固有値計算の lapw1 では計算量が多い。 この部分の計算は、ベクトル機で 1CPU で起動させた結果、ピークの 30%、ベクトル化率 97% を達成することができ、高速である。しかし、4CPU 並列ではベクトル化率は 90%と低下し て、並列の効果が得られない。コードがベクトルに最適化されていないためである。 ② DEMOCRITOS DEMOCRITOS は、科学ソフトウエアをフリーで提供している組織で、以下のコードを公開 している。 電子構造計算コードとしては、量子計算コード、古典分子動力学コード、グラフィックコ ードの3つからなるパッケージソフトが公開されている。

量子計算コード(ESPRESSO) ・PWscf ・FPMD ・CP ・PWgui ・atomic 古典分子動力学コード ・DLPROTEIN

分子グラフィックス ・XCrySDen

このパッケージソフトのメンテナンスと開発は、DEMOCRITOS11(National Simulation

Center of the Italian INFM)が行っている。Carlo Cavazzoni(Scuola Normale Superiore, Pisa ) が 中 心 と な り 、 CINECA National Supercomputing Center in Bologna12の Paolo

Giannozzi(Scuola Normale Superiore, Pisa)が強く援助している。主な開発者は、Gerardo Ballabio(CINECA)、 Stefano Fabris、Adriano Mosca Conte、Carlo Sbraccia(SISSA, Trieste)、 Anton Kokalj(Jozef Stefan Institute, Ljubljana)らである。

以下に個々のコードの目的と開発者を記す。

②-1 Quantum-ESPRESSO

②-1-1 PWscf(Plane-Wave Self-Consistent Field=平面波自己撞着場) • 電子構造、構造最適化、分子動力学、振動・誘電性の計算

• オリジナルコードの開発者:Stefano Baroni、Stefano de Gironcoli、Andrea Dal Corso(SISSA, Trieste)、Paolo Giannozzi(Scuola Normale, Pisa)、等

• http://www.pwscf.org/

②-1-2 FPMD(First Principles Molecular Dynamics=第一原理分子動力学) • オリジナルコードの開発者:Roberto Car and Michele Parrinello

• 開発者:Carlo Cavazzoni、Gerardo Ballabio(CINECA)、Sandro Scandolo(ICTP,

11

http://www.democritos.it/

(15)

Trieste)、Guido Chiarotti(SISSA)、Paolo Focher、等

②-1-3 CP(Car-Parrinello:Car-Parrinello variable-cell 分子動力学)

• 開発者:Alfredo Pasquarello(IRRMA, Lausanne)、Kari Laasonen(Oulu)、Andrea Trave(LLNL)、Roberto Car(Princeton)、Nicola Marzari(MIT)、Paolo Giannozzi、 等

②-1-4 PWgui(Graphical User Interface for PWscf): PWscf のユーザーインターフェ イス

• 開発者:Anton Kokalj(IJS, Ljubljana) • http://www-k3.ijs.si/kokalj/guib/

②-1-5 Atomic(a program for atomic calculations and generation of pseudopotentials)

• 開発者:Andrea Dal Corso、Paolo Giannozzi ②-2 DLPROTEIN

• 複雑な分子環境をシミュレーションするためのパッケージ • オリジナルコードの開発者:S. Melchionna and S. Cozzini

• 開発者: Daresbury Lab(UK)by Willian Smith and Tim R. Forester • http://www.sissa.it/cm/DLPROTEIN

ESPRESSO(opEn-Source Package for Research in Electronic Structure, Simulation, and Optimization=電子構造、シミュレーション、最適化に関する研究のためのオープンソー スパッケージ)は GNU General Public License によるフリーソフトフエアで、平面波基底 と擬ポテンシャルを使った密度汎関数理論(DFT)を基礎にしたパッケージである。

PWscf は、基底状態エネルギーと1電子(コーン・ジャム)軌道、原子に働く、圧力、構

図 5. PWgui スクリーンショット

(16)

造の最適化、基底状態のボルン・オッペンハイマー表面上の分子動力学などで、数種類の 独立したコードが含まれている。

最新 version は 2.1.3 で、http://www.pwscf.org からソースコード、マニュアルがダウ ンロードできる。PWscf に加え、CP(Car-Parrinello)、FPMD(First Principles Molecular Dynamics)、GUI など擬ポテンシャル等を含んだシステム全体を Quantum−ESPRESSO と呼ん でいる。

電子構造計算プログラムの GUI となる PWgui も開発されている。PWgui により PWscf の入 力データが生成・編集可能となり、PWscf プログラムを起動することもできる。PWgui は原 子 構 造 や 、 計 算 さ れ た 性 質 の 可 視 化 に 対 し 、 XCrySDen プ ロ グ ラ ム (http://www.xcrysden.org/)を使っている。最新バーションは 2.1.3.で、MacOSX、Linux-86、 Windows 上で使うことができ、プログラミング言語は Tcl/TK で、やはり GPL ライセンスで ある。プログラムに関してのメーリングリストも閲覧することができる。

プログラムを起動させるための環境設定を行う Configure は、Linux 32-、64-bit(Itanium and Opteron)PC、IBM SP、SGI Origin、HP-Compaq Alpha、Cray X1、Mac OS X のマシンに 対し用意されている。

以下の計算機アーキテクチャの最適化オプションが考慮されている。

linux 64

: Linux 64-bit machines(Itanium, Opteron)

linux 32

: Linux PCs

aix

: IBM AIX machines

mips

: SGI MIPS machines

alpha

: HP-Compaq alpha machines

sparc

: Sun SPARC machines cray X1: Cray X1 machines

mac

: Apple PowerPC running Mac OS X PWscf は MPI 並列化がなされている。プログラムが利用可能なライブラリは、以下である。 行列計算 BLAS (http://www.netlib.org/blas/) 線形代数 LAPACK (http://www.netlib.org/lapack/) 高速フーリエ変換 FFTW (http://www.fftw.org/) 上記のライブラリは各種メーカーの計算機向けにそれぞれカスタマイズされており、以下 にそのライブラリ例をリストアップする。

essl for IBM machines

(17)

scilib for Cray/T3e sunperf for Sun

MKL for Intel Linux PCs ACML for AMD Linux PCs cxml for HP-Compaq Alphas

計算機のアーキテクチャ、コンパイラに関する Make ファイルはユーザーのメールによる 情報提供が多く、以下が用意されている。

alpha: HP-Compaq alpha workstations alphaMPI: HP-Compaq alpha parallel machines

altix: SGI Altix 350/3000 with Linux, Intel compiler cygwin: Windows PC, Intel compiler(see below) fujitsu: Fujitsu vector machines

hitachi: Hitachi SR8000

hp: HP PA-RISC workstations hpMPI: HP PA-RISC parallel machines ia64: HP Itanium workstations irix: SGI workstations

pc_abs: Linux PCs, Absoft compiler pc_lahey: Linux PCs, Lahey compiler pc_pgi: Linux PCs, Portland compiler sun: Sun workstations

sunmpi: Sun parallel machines sxcross: NEC SX-6

t3e: Cray T3E

上記は、ユーザーに広く提供されているため、多くの計算機上での動作実績がある。 ③ CPMD http://www.cpmd.org/ CPMD は第一原理分子動力学のためにデザインされた、密度汎関数理論を基に平面波・擬 ポテンシャル法を取り入れた並列化された計算コードで、Car-Parrinello Molecular Dynamics と呼ばれる。 最新バージョン 3.9 の著作権は IBM とシュトゥットガルドのマックスプランク研究所に属 し、非営利組織ならば無料で使用できる。営利団体は [email protected] <[email protected]>に連

(18)

絡しなければならない。ユーザーは全世界に 5,000 人あまりいる。CPMD は多くの異なった アーキテクチャの計算機(IBM AIX, Linux, SGI Irix, SUN Solaris, HP HP-UX and Tru64 UNIX, NEC Super-UX, and Hitachi HI-UX/MPP)で起動し、並列化(MPI と Mixed MPI/SMP) されている。

CPMD は 2001 年に、このコードの開発と配布のために設立され、世界中にそのコード開発 者がいる。この組織の責任者は Michele Parrinello 教授(コンピュータ科学講座、ETH13

ューリッヒ(Eidgenössische Technische Hochschule Zürich))と Dr. Wanda Andreoni (コンピュータ生化学と材料科学グループ、IBM チューリッヒ研究所14) である。

コードのバージョン 1 は Car-Parrinello のコードをもとに、IBM チューリッヒ研究所の Jurg Hutter により開発されたものである。その後、世界中でこのコードの改良・開発が続 けられ、また擬ポテンシャルのライブラリも整備された。主な開発者は Michele Parrinello、 Jurg Hutter、D. Marx、P. Focher、M. Tuckerman、W. Andreoni、A. Curioni、E. Fois、 U. Roetlisberger、P. Giannozzi、T. Deutsch、A. Alavi、D. Sebastiani、A. Laio、J. VandeVondele、A. Seitsonen、S. Billeter らである。

コードの特徴 • 構造最適化:局所的最適化とシミュレーテッドアニーリング • 分子動力学:エネルギー一定、温度一定、圧力一定のいずれかの条件下 • 経路積分 MD • 応答関数 • 励起状態 • 多電子の性質 • 時間依存の DFT(励起状態、励起状態の分子動力学) • 粗視化した non-Markovian 過程 前述の通り、理論、コードともに充実している。 13 http://www.ethz.ch/ 14 http://www.zurich.ibm.com/ 図 6. CPMD http://www.cpmd.org/ より

(19)

④ SIESTA(Spanish Initiative for Electronic Simulations with Thousands of Atoms) http://www.uam.es/departamentos/ciencias/fismateriac/siesta/ SIESTA では電子構造計算、分子、固体の第一原理分子動力学シミュレーションに関する 方法とコンピュータプログラムの開発を行っている。 主な特徴を以下に記す。 • 密度汎関数法 • ノルム保存の擬ポテンシャル法 • 局所軌道の線形結合を使ったオプションでは、計算時間、メモリ消費量は原子に比 例するオーダーN 法 • Fortran90 で書かれているため、系のサイズが変わった場合のメモリの書き換えは 不要 • 並列(MPI)、非並列で起動可能 計算可能な量 • 全部エネルギーと部分的エネルギー • 原子に及ぼす力 • ストレステンソル • ダイポールモーメント • 原子、起動、結合分布 • 電子密度 • 安定原子配置 • 温度一定分子動力学(Nose サーモスタッド) • スピン偏極計算 • 電子軌道の状態密度 • バンド構造 開発者 • Emilio Artacho (地球科学、ケンブリッジ大学)

• Julian Gale(ナノ化学研究機構、応用化学、Curtin University of Technology) • Alberto Garcia(Universidad del Pais Vasco)

• Javier Junquera(Universidad de Cantabria)

• Richard M. Martin(University of Illinois at Urbana-Champaign) • Pablo Ordejon(ICSIC - Universidad Autónoma de Barcelona) • Daniel Sanchez-Portal(Universidad del País Vasco)

(20)

• Jose M. Soler(Universidad Autónoma de Madrid)

並列計算には Blacs と Scalapack のライブラリが必要である。SIESTA は学術利用にたい しては無料で提供され、[email protected]. に連絡してパスワードを入手しダウンロードする。 学術利用以外は Nanotec(http://www.nanotec.es/)を通じで入手が可能である。

④−1 TranSIESTA

http://www.transiesta.com/transiesta.html

開発者 Atomistix inc.15 デンマーク、ボーア研究所の Kurt Stokbro

TranSIESTA は SIESTA プログラムと非平衡グリーン関数法を結合したコードで、バリステ ィック伝導計算が可能なプログラムである。他の多くのプログラムが電子構造のみを扱う のに対し、このコードはさらに進んだ分子伝導計算ができる。 この方法により、散乱系を2つの電極でサンドイッチにした構造の電子構造のモデリング が可能である。2つの電極はそれぞれ異なる化学ポテンシャルをもつため散乱領域にバイ アスがかかった状態になる。 2つの電極では SIESTA から得られるバルクのパラメータを用い、散乱領域での電子状態 を非平衡グリーン関数で計算して、この結果を2つの電極部分にフィードバックする。こ の操作を電子状態が収束するまで反復する。 15 http://www.atomistix.com/ 図 7. TranSIESTA http://www.transiesta.com/the_program.html より

(21)

図 9 左. 分子ワイヤー 図 9 右. ナノチューブ http://www.transiesta.com/transiesta.html より www.atomistix.com で販売していて、値段は数十万と高価である。 欧州の量子シミュレーションコードの傾向は以下の3つにまとめることができる。 1) Wien2k にみられるように厳密化を追求するコード:密度汎関数法を可能な限り厳密 に解き、DFT 計算の信頼性そのものを評価できるコードである。理論面に力をいれ ているため、数学的に非常に複雑で、計算量が多いコードである。欧州のコードに 共通して言えることだが、固有値計算、行列計算にはライブラリを使い、大規模計 算のための並列 MPI 版も開発している。 2) DEMOCRITOS、CPMD のように、近似法の開発、時間依存の DFT 計算、基底状態を超え た励起状態の計算法など、従来の DFT 法に他の理論を付け加えて、応用範囲を広げ るコード:これらの分野の計算需要はナノテクノロジーの進歩と伴に年々増してお り、計算機でシミュレーションが可能な分野が広がっている。 3) TRANSIESTA のようにまったく新しい分子伝導の計算が可能なコード:最近の分子テ クノロジーの発展が開拓したこの分野では、このコードを利用した電子デバイスシ ミュレーション理論実験と、実験との比較が可能になったために注目を浴びている。 現在はシリアル版のみが提供され、計算能力不足のために簡易的に済ましている計 図 8. TranSIESTA http://www.transiesta.com/the_program.html より

(22)

算部分を含むが、最近の日米のスーパーコンピューティグの開発に注目して、並列 版を開発しており、大規模計算によって多粒子版へと移行する動きがある。

2.1.3 モデリング及びシミュレーション研究例

訪問先のレーゲンスブルグ大学物理学科 Molecular Computing の G. Cuniberti 教授の研 究内容を以下に紹介する。テーマすべてが実用・応用に関するもので、最先端の研究分野 である。 1) 分子システムにおける非平衡非弾性量子伝導 分子スケールにおける電子伝導の物理機構を理解することは、分子電子デバイスの実装 を実現する上で本質的に重要である。非弾性輸送は、室温、有限ポテンシャルの変化の過 程の分子運動で起こる。ここでは、分子システムに対し非弾性輸送を記述するために、電 子・格子相互作用が存在する Keldysh グリーン関数法と密度汎関数を組み合わせて研究を 進めている。この方法は最初にオリゴ鎖でテストされて、DNA 分子鎖にも適用可能と考えて いる。このような大規模な計算は DNA デバイスのポーラロン形成の様な分析的モデルと統 合されると考えられる 図 10. 分子システムにおける非平衡非弾性量子伝導 (画像:Eric J. Heller) http://www-mcg.uni-r.de/research/ より

(23)

2) DNA ワイヤー:SPM(走査型プローブ顕微鏡)イメージの構造モデリングとシミュレーシ ョン 金の基盤の上の DNA 分子の STM(走査型トンネル顕微鏡)イメージは、電流設定の間や、 設定時でなくても自発的に、逆のコントラストになることがある。そのような特徴はトン ネル距離分光学における長距離な性質に関係しているが、STM 画像設定に広く使われる半古 典的な理論である WKB 法(半古典的近似法)では説明不可能である。ここでは、マクロの 電荷を帯びた多電解質のような DNA によって形成される共鳴トンネルのモデルを示唆する ことにより、実験の観察と矛盾しない映像を書き上げた。 3) 強磁性的に接触した多層カーボンナノチューブのスピン依存輸送 カーボンナノチューブのコヒーレントなスピン輸送は物理的性質に豊かなスペクトルを 有し、それは、分子スピンデバイスの応用に役立つと考え、単一・多層カーボンナノチュ ーブに接触した強磁性電極を通した輸送の数値モデルとグリーン関数法とによって研究を 進めている。特に、電極と分子接触の詳細のみならず、チューブのトポロジーに依存した 輸送を理解することを目指している。以前に実施された常磁性線間のフラーレンの研究で は、接触部分の構造が電子輸送特性に大きく依存していることが明らかになった。 図 11. DNA ワイヤー

(画像:Danny Porath, The Hebrew University of Jerusalem) http://www-mcg.uni-r.de/research/ より

図 12. スピン輸送

(24)

4) 分子ブリッジによる電荷輸送への振動効果 室温で分子デバイスが動作するために、伝導に関する分子振動の役割を理解することは非 常に重要である。物理化学において、このような概念は孤立した分子系に沿う電子輸送を 理解するためによく研究されている。我々は振動分子ブリッジを通して、この知識を電荷 の輸送の新しい考え方と融合することを試みている。複雑振動ブリッジのための理論を作 るために、我々はプラチナ電極の間の水素分子の系などの非平衡伝導の研究を行い、さら に、振動するカーボンナノチューブのような大規模系の輸送特性を研究している。 5) カーボンナノジャンクション:表面/欠陥状態と時間依存電子輸送 カーボンナノチューブはユニークな電子特性をもち、発見直後から、ナノ電子の応用に 目標が持たれた。そのため、分子電子回路の部品としてのカーボンナノチューブには非常 に期待が持たれ、現在、チューブ、Y、T ジャンクションやチューブと単分子との接続のよ うなカーボンナノ構造の電子特性が研究されている。一定電場内に置かれた場合の電子特 性を解明するため、カーボンナノジャンクションの交流応答に関する研究もまた行われて いる。 図 13. 分子ブリッジによる電荷輸送への振動効果 http://www-mcg.uni-r.de/research/ より 図 14. 表面/欠陥状態と時間依存電子輸送 http://www-mcg.uni-r.de/research/ より

(25)

6) 分子モーターによるフィラメント脱重合 組み立ての対策は、分子スケールの電子回路の設計の際に考慮すべき重要な課題である。 自然界ではマクロスケールに至る分子組み立ての問題を、いわゆる分子モーターで解決し ている。後者は細胞の内部の荷物を運ぶ乗り物の様に機能する。我々はマイクロチューブ の 端 の 再 重 合 化 を サ ポ ー ト す る 特 別 な 分 子 モ ー タ ー 、 い わ ゆ る MCAK ( Mitotic Centromere-Assoociated Kinesin)を研究している。拡散モデルを用いて、マイクロチュ ーブと続いて起こるポリマー化へと結合する MCAK のプロセスを研究している。一次元ポッ ピングのコンピュータシミュレーションを離散モデルの平均場近似と比べている。この理 論はどのように分子が重合の端に蓄積していくかを説明することができる。 7) 現実の分子システムの量子輸送を扱うための計算法の開発 現実の分子系において量子伝導を正確に記 述するために電子構造を特徴付けるための信 頼性のある方法が必要である。我々は密度汎 関数理論とグリーン関数形式を使った数値計 算法を開発している。この方法は、二つの金 属電極にサンドイッチされたカーボンナノチ ューブの様な分子ブリッジを通した非平衡電 流の計算に応用される。 図 15. 分子モーターによるフィラメント脱重合 http://www-mcg.uni-r.de/research/ より 図 16. http://www-mcg.uni-r.de/research/ より

(26)

8) 高精度量子計算モデルの開発 Regensburg 大学で開催された分子モデリングセミナーから最近の傾向を示すモデルリン グを紹介する。 量子計算モデルは、近年、従来の手法を超えた計算量の多い高精度の手法を用いて、い ままで扱えなかった領域の研究に着手している。 ① 光励起 例えば従来の密度汎関数法(DFT)では、多くの電子がお互い複雑に相互作用する多体 問題の解法を避けて、電子はあたかも外場扱いの平均電荷と相互作用する1電子近似に書 き直し、計算を容易にした。しかし、この方法は電子の基底状態に限定される。よって、 熱、光、電磁場などの外からの刺激による励起状態の現象には使うことができなかった。 ナノテクノロジーでは、CNTなどの新しい材料からの発光が見つかり、光や電磁場を 扱うことができるシミュレーションが非常に重要になっている。光が関わる現象では、直 接光子が放出する場合や、2つのフォトンが介在する(Two-Photon)場合などがある。時 間依存 DFT により、光、電磁場を扱うシミュレーションが現れており、今後この手法が重 要な分野になると考えられる。 図 17. 光の放出、吸収に伴うフォトンのエネルギー遷移過程 http://www-mcg.uni-r.de/seminars/ より ② GW 近似 光反応などでは、緩和するまでの時間や、応答の時間などの時間に依存する現象となるの で、時間依存する近似法の開発が行われている。このように励起状態が関わると、この影 響と基底状態が直接、間接的に相互作用する。この効果を取り入れ、精度を高めるために GW近似(摂動論により Green 関数形式で電子相互作用の高次の寄与を取り込む方法)が 有効と考えられている。

(27)

図 18. 基底状態と励起状態を関係づける GW 近似の概念図 http://www-mcg.uni-r.de/seminars/ より

③ 時間依存 DFT

上記のような光、電磁場の反応、励起状態を扱う GW 近時などを扱う手法として、時間依 存のDFTで励起状態を考慮しながら原子が動き回り安定構造を形成するという第一原理 手法の開発が TDDFT.org の octopus project で行われている。

図 19. 時間依存 DFT 法を開発中の OCTOPUS プロジェクト http://www-mcg.uni-r.de/seminars/ より

④ 低次元モデル

従来のマクロの材料などでは3次元的に構造が広がっていたが、ナノスケールで数個の電 子からなる場合は、1、2次元的に構造を作る場合がある。そこでは低次元物性という奇

(28)

妙な性質が現れる。例えば、カーボンナノチューブ(CNT)の熱伝導がチューブの長さ に依存して高くなる現象である。低次元性の性質の朝永-ラッテンジャー液体(1電子のス ピンと電荷の属性が、電子から分離されて独立に振舞う様に見れる現象)やパイエルス転 移(1次元構造が不安定になる現象)なども、CNTなどで生じると考えられており、こ の分野のシミュレーションも精力的に行われている。 ⑤ 分子伝導 デバイスの配線やゲート長が微細化されて細線がナノスケールになり、分子数個を1次元 に並べた分子デバイスを流れる電流の特性をシミュレーションする研究も盛んである。電 子の閉じ込められている領域が狭く散乱が無い場合(バリステック伝導)には、ランダウ アーの公式により、電子伝導は電子波の透過率から得ることができる。この方法では、電 子構造を求めるためにDFTを用いると計算量が非常に多くなり、扱える原子数はPCで は数十個が限界である。よって、この領域では大規模計算の導入が必須である。前述した Transiseta では計算量に少ない Tight-binding(強結合)法とDFT法を使っているが、 計算量を抑える方法にくわえ、並列による大規模計算コードの開発も進めている。また、 結合の度合いにより、様々なモデル計算が進められている。 図 20. 単一分子による量子輸送 http://www-mcg.uni-r.de/seminars/ より

(29)

図 21. 量子輸送モデル http://www-mcg.uni-r.de/seminars/ より ⑥ DFT を基礎にした TB モデル DFT モデルは、基底状態のバルク、クラスターの電子構造を精度良く求めることができる。 しかし、電子構造のみならず原子を移動させた構造最適化計算や、分子伝導計算(電圧を かけて安定状態を探してからこの計算は行われる)をする場合、解に到達するまでに多数 の DFT 計算が必要となるために、現実的な粒子数でシミュレーションするには計算量が膨 大となる。モデルの面からこの問題を解決するアプローチのひとつは、DFT の一部を計算量 が少ない TB で置き換えることである。最近の傾向として、計算量を減らした TB による大 規模システムの計算が盛んになっているが、高精度な DFT を計算の一部で用いる手法も開 発されている。

(30)

2.2 計算資源の対応 2.2.1 計算施設調査

(1)ジョン・フォン・ノイマン計算センター(ユーリッヒ研究所)

ジョン・フォン・ノイマン計算センター16(John von Neuman Institute for Computing:

NIC)は、ドイツの原子力研究センターの一部門として、研究者の計算機利用支援をその主 な任務とする。このため、センター自身が抱える研究規模は少ないが、ハイエンドコンピ ューティングへの期待は大きく、将来的には日米へのキャッチアップを狙う。計算科学、 計算機科学に関して着実な実力を蓄えており、原子、分子の多体問題における理論シミュ レーションモデルの普及と人材育成では、重要なスクールを開催している。今後 2007 年ま でに、理論値で数百テラレベルのシミュレーション規模に達する見込みとのことである。 また、量子シミュレーション研究例が多くナノサイエンスの拠点となっている。以下、詳 しくその活動を示す。 第3の科学としての計算科学は、ドイツにおいても重要な科学政策であり、理論モデル 研究や科学技術シミュレーションにおいては、特にその大規模施設整備とそのトップ性能 が不可欠であると認識されている。この必要性を鑑み、ユーリッヒ研究所(Research Center Julich:FZI)とヘルムホルツ協会のドイツ電子シンクロトロン財団(The German Electron Synchrotoron Foundation: DESY)とが共同で開設したのがジョン・フォン・ノイマン計算 センターである。 研究所はドイツ原子力研究センターとしても名高いユーリッヒ研究所内の一角にあり、 ユーリッヒ研究所の計算需要もまかなっている。このセンターは自身の研究もさることな がら大型計算機及びグリッドコンピューティング、さらにネットワーク計算網の計算資源 供給も行っている。また国内、欧州内、国際的なスーパーコンピューティングセンターと の連携を行いながら欧州、ドイツの計算科学の代表的役割を演じている。組織内では、ス ーパーコンピュータの運用(データ格納、ソフトウエア、可視化、ネットワークを含む) は応用数学中央研究所(ユーリッヒ研究所)と並列計算センター(DESY)の部隊によって 行われている。また高エネルギー物理、複雑システム、計算バイオ物理などの研究グルー プが存在し、さらに、教育、トレーニングシンポジウム、ワークショップ、夏季スクール、 セミナー、ゲストプログラムなどのサービス提供を行っている。 1) 科学計算環境 ユーリッヒ研究所がスーパーコンピューティングの時代に入ったのは 1983 年の CRAY X-MP (欧州始めてのベクトル機)であった。それ以来、ハイエンドコンピューティング、シミ ュレーションモデリングを新アルゴリズムや計算法を開発しながら行ってきている。 現在の主力計算機は ・IBMp690,41 ノード、32Power4+、1.7Ghz 16 http://www.fz-juelich.de/nic/

(31)

・ピーク速度:8.9TFlops ・共有メモリ:128GByte

他に、理論高エネルギー素粒子物理向けに、SIMD((Single Instruction Multiple Data /シムド)ベースの 1104 プロセッサー、三次元コネクション、ピーク速度は 583GFlops を 誇る超並列計算機 APEmille がある。この研究領域では、さらに 10TFlops が要求され、2005 年完成予定の apeNEXT では、1.6TFlops 演算速度が期待されており、いよいよテラ時代には いる模様である。 2) グリッドコンピューティング バンド幅の拡大など、現在の高度な通信技術の進展を見込んで、NIC では革新的ネットワ ー ク 技 術 と グ リ ッ ド 応 用 の た め の テ ス ト ベ ッ ド プ ロ ジ ェ ク ト VIOLA ( Vertically Integrated Optical testbed for Large-Applications)、10Gbit/s Ethernet に参加してい る。これはドイツの次世代ネットワーク X-win の先導的なもので、現在、アーヘン、ユー リッヒ、ケルン、ボン、サンクトアウグスチンの各研究拠点を結ぶものである。NIC(ZAM17

はこのプロジェクトで、土壌汚染シミュレーション、気象の大規模分散データの協調的可 視化ツール等のグリッド応用プログラムを開発し、提供している。利用されているミドル ウエアは UNICORE(Uniform Interface to Computing Resources)で、異機種コンピュータ 同士の結合環境における仮想的な統合計算機環境を作り出しているもので、ユーザーは計 算を、機種の同異や、複雑な手続きに煩わされることなく、ユーザーの作業サイトからも 使えるようにしたミドルウエアである。NIC はこの開発を指導した。最近の応用例として新 薬開発向けの OpenMolGRID がある。この例では、各サイトのいろいろなデータベースにあ る化学結合の性質を基に計算機上で合成し、その特性を計算した。こうした最も可能性の ある実験を行うというシステムがグリッドコンピューティングである。こうした緘口令を 基に NIC(ZAM)は、UNICORE を世界統一グリッドアーキテクチャ(OSGA:The Open Grid Services Architecture)としてその採用を働きかけている。 3) 計算科学技術 NIC では量子化学、固体物理、分子動力学などにおける異分野間協力として、HPC システ ムへの手法開発を主に行っている。 多体問題の動力学の例として、比較的精度には欠けるが、大規模な粒子数や時間スケール の問題では、100 万粒子にもなる多体システムで時間発展に関心を寄せている。その物理過 程の記述には 10-15秒、全体シミュレーションで 10-3秒を要し、計算ステップは約 1012ステ ップも必要となるため、精度はある程度無視される。また固体の触媒反応では、量子化学 で厳密にシュレジンガー方程式を解かねばならないが、幸いにも密度汎関数法によって、

(32)

より精度を緩めた近似的なアプローチにより、約 1000 原子程度の第一原理分子構造計算を 目指している。さらに、光化学では精密な電子相関が求められるが、せいぜい 50 原子程度 まで、さらに素粒子では色量子力学として精度の良い格子量子場理論計算として、1 ハドロ ン程度が必要である。これらの計算にはテラフロップス級の計算能力が必要である。精度、 サイズへの要求のいずれに関しても、ハイエンドコンピューティングが必要であり、新ア ーキテクチャ、ツールの最適化や並列化、アルゴリズム改良が必要となっている。これら を一連にわたり支援することが、NIC(ZAM)のミッションである。 4) 応用例 ① 多粒子物理 原子構造からコンデンスマターの巨視的な構造や動力学を扱う多粒子物理では、大きく 分けて2つのアプローチがある。その一つは、厳密な力学を解く第一原理法であり他方は 単純化された経験的方法である。NIC では、後者の場合、たんぱく質や RNA の畳み込み、分 子モーターの構造、機能などのバイオ問題を扱う複雑なシステムには、計算量の問題から、 経験的方法の適用が難しい現在、第一原理法が有効であるとして研究を進めている。また メソスケール、マクロスケールの原子構成を取り扱う例も同様としている。さらに、マク ロ的には統計物理的手法を使って、流砂、交通渋滞問題を取り扱う例もある。こうした経 験的な多粒子物理を適用する例として、NIC では分子構造の特性を求める場合や経験的な力 を使う粗粒度モデルを用いる場合、経験的な分子動力学法を使っている。例えば、このよ うな方法で、アモルファスガラス(SiO2)に Li、Na、K などのアルカリイオンを混ぜ込んで、 SiO2 の四面体構造を崩し、イオン導体にするシミュレーション、またディスプレイ等で用 いる円柱状結晶分子で、10 万分子の規則性配列と不規則性配列層との相互干渉を領域分割 型分子動力学でシミュレーションした例がある。 一方、フェルミオンなどが強相関する超伝導のようなシミュレーション例では、量子力 学の大規模計算が必要となる。ここでは高温超伝導理論計算で Tc(超伝導転移温度)を求 めている。また、原子位置関数として分子エネルギーを計算する密度汎関数法(DFT)によ り、水と細胞におけるエネルギー代謝で搬送をつかさどるアデニシン(ATP)との反応をシ ミュレーションしている例、さらに量子モンテカルロ、金表面のエピキタシ成長などのシ ミュレーション例、金原子ワイヤーにおける伝道特性に関して、電流を決める原子特性、 ワイヤーとしての設計等を求める分子動力学シミュレーションの例がある。 ② ポリマー(ソフトマテリアル) DNA、たんぱく質、脂質などからプラスチック、光学レンズまで応用範囲がとても広い高 分子は 1000 から数 100 万の原子から構成されるため、構造的な自由度、すなわち分子形状 の強揺らぎを起こすなど非常に複雑な現象となる。揺らぎは熱エネルギーによるもので結 合エネルギーよりはるかに小さいが、相互干渉エネルギー密度が非常に小さく、揺らぎが

(33)

支配し、ゆえに物質は柔軟(ソフト)になる。これが理論及び計算モデルの難しさとなる。 このため、化学結合スケールからメソスケールまでの形状揺らぎまでの莫大な特性スケー ル、さらに 10 もしくはそれ以上の指数にわたる時間スケールにより、大規模なシミュレー ションとなる。 NIC はこの分野においても、応用は限られるが、基礎科学的な理解のために計算科学的な 活動を進めている。例えば、1 万のモノマーのモンテカルロシミュレーションによるポリマ ーの運動シミュレーションなどの例がある。また生体膜の挙動としては、全原子構造の規 模が小さいシステムでは、限定的に局所相互作用などの研究は可能である。しかし、タン パク質膜との相互作用に関しては、グローバルな膜組織の性質と同様に巨視的な相互作用 も同等に重要になる。その例として、脂質の親水性と疎水性のある理想的な膜モデルにお いて大規模な組織を扱いつつ二層(液状、ゲル状)のたんぱく質膜の相互作用のシミュレ ーションを行い、今後の大規模なタンパク質膜組織の挙動解析の基礎としている。さらに ポリマーによるコーティングの表面特性、高分子的な液晶の表面性の制御問題等のシミュ レーションの例がある。 高分子シミュレーションでは、精緻な理論モデル不足やシミュレーションの計算規模等、 多くの問題を残すが、シミュレーションによる実験家への洞察の提供はますます重要にな ってきている。 ③ 化学 計算化学は新物質創製において中心的なツールである。特に、未知の分子の構造や安定性 を予測し、また適切な合成設計の戦略立案に役に立つため、ナノマテリアルの研究や設計 に不可欠である。 代表的な手法は、密度汎関数法などを用いた量子論の第一原理量子化学計算法(DFT)か ら、経験的にまたは量子力学的(QM/Quantum Mechanics)に求められる運動と力の古典的 な力学を用いる、分子力学(MM/Molecular Mechanics)または分子動力学(MD/Molecular Dynamics)のような近似法などがある。分子システムのサイズと計算機能力との関係から、 一般的な QM/MM、DFT/MD などのハイブリッド法を用いる。 こうした方法では、高密度光データ格納、分子スイッチのような応用目的で、電気的、光 学的特性などを解明する上で非常に重要な手法である。特に、近年、電子デバイスは単分 子レベルに近づいており、有機単分子の電流を求めること、最適設計のための分子配置等 の計算には量子化学的な取り扱いがなされる。 一方、化学反応は最小エネルギー経路の計算によって研究される。反応過程では、その遷 移状態、再結合また短寿命の中間生成物を実験的に求めることは難しいため、計算化学が 中心的な役割を果たす。触媒や酵素の研究では、いろいろな生体分子構造のエネルギー差 は数 KJ/mol と小さく、またそこには弱い水素、溶媒との反応があり複雑であるが、生体分 子の多様な化学反応を起こす理由やその過程が大規模な計算資源を使って調べられる。

(34)

このほか、天文宇宙、素粒子、地球科学等の分野で優れたシミュレーション研究か展開さ れている。 5) 欧州の 2010 年計算機構想 欧州全体において、日米のハイエンドコンピューティングの動きを睨み、2010 年を稼動 目標として、欧州のハイエンド計算機構想が進む。目標性能は約数ペタフッロプス級とし、 2010 年で最も実効性能が高い計算機を導入する計画である。現在、欧州では IBM が優勢だ が、2010 年構想では IBM 独占を望まないため、日本メーカへの期待が高い。検討される設 置場所は欧州全体で3箇所であり、英、仏、独のコンピュータセンターに配置される計画 である。ドイツでは、ジョン・フォン・ノイマン計算センター(NIC、ユーリッヒ)、ライ プニッツ計算センター(LRZ、ミュンヘン)もしくはシュトゥットガルト大学(RUS、シュ トゥットガルト)のいずれか一つといわれるが、実力から NIC が最も可能性が高いといわ れる。

(2)ライプニッツ計算センター18(LRZ / The Leibniz Computing Centre)

ドイツの3大センターの一つでミュンヘン地区の大学等をサポートするライプニッツ計 算センター(LRZ)において、ナノサイエンス関係の活動を、訪問調査した。 理論モデリング研究自体は LRZ では行わないが、基礎研究支援に重点を置いている。大 規模シミュレーションによるナノサイエンス研究の重要性は十分認識しているが、地方政 府の計算資源拡充への予算配慮は少ないようだ。したがって、日米等で検討されている大 規模シミュレーションには余り手が付けられていない。 1) ライプニッツ計算センター LRZ は、電子データ処理技術に注目が集まり 始めた初期の時代、厳密に言えば 1962 年に設 立された。当時、バイエルン科学・人文科学 アカデミー(Bavarian Academy of Sciencesand Humanities(BAdW))のメンバーであった Hans Piloty 教授と Robert Sauer 教授の両者は、 電子計算処理のための委員会を設立した。現 計算科学委員会(Commission for Computer Science)の先駆けとなった組織として、今日 でも BAdW の監督下の機関に位置づけられてい る。バイエルン州からの援助の下で、本委員 18 http://www.lrz-muenchen.de/ 図 22. ライブニッツ計算センター概観 http://www.lrz-muenchen.de/wir/intyori より

(35)

会は、ミュンヘン市に在する全ての大学向けの研究・教育施設として、共同計算センター を設立することに至った。その施設は、今日では Leibniz-Rechenzentrum または LRZ とい う名称で広く知られているが、その名は 2 進法の研究を推し進め、世界初の四則演算計算 機の稼動実現に成功した、哲学者で普遍言語学者のゴットフリート・ヴィルヘルム・ライ プニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz(1646∼1716))にちなんで付けられた。

現在、LRZ は、具体的には以下のサービスを提供する。 • ミュンヘン市に在する大学及び BAdW のための科学計算センター • 科 学 技 術 分 野 に お け る 高 精 度 ス ー パ ー コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ セ ン タ ー (Supercomputing Centre) • 大容量データアーカイブ用中核施設;ミュンヘン学術ネットワーク(Münchner Wissenschaftnetz / MWN)コンピュータのデータ自動バックアップも行う • ミュンヘン学術ネットワークの企画、拡張、運営、及び一般的なデータ通信ネット ワーク向け能力センター 2) 大学計算センターとしての LRZ 計算が、大学施設内の“センター”においてのみ行われていた時代はもう遠い過去となり、 現在では、科学者や学生達はワークステーションで作業する。この裏側には、“分散、共 有データ処理”の概念がある。この概念はワールドワイドなインターネット接続だけでな く、データと情報へのコンスタントな相互アクセス、スタンドアローンでインストールさ れていないソフトウエアもしくはコスト高でかつ使用頻度の低い共有マシンへのアクセス、 などなど、その意味するところは幅広い。しかし、ユーザー間調整や伝達等、LRZ が“セン ター”として果たすべき役割がまだまだ残されているので、そうした役割を果たしている。 以下にその例を示す; • 技術的なレベル;プロキシサーバー、ネームサーバー、メールサーバー、ウエブサ ーバー、及びビデオやマルチメディアラボ、大容量フォーマットプロッターなどの 高価な特殊機材等、データネットワーク及び共有サービスの運営による“センタ ー”としての役割 • 人的レベル;計算クラスター、トレーニング、ソフトウエア調達やキャンパスライ センス取得の調整、セキュリティ課題に関するヘルプ、コンピュータに関する一般 的問題へのサポート、新たなアプリケーション分野の開発そしてオンサイトでの IT インフラストラクチャ構築などによる“センター”としての役割 3) ミュンヘン学術ネットワーク 分散コンピュータ間の接続部として、またワールドワイドネットワークへのアクセスポイ ントとして機能する通信インフラストラクチャは、LRZ が提供する様々なサービスの中でも、 重要な課題である。ミュンヘン学術ネットワーク(Münchner Wissenschaftnetz / MWN)は

(36)

高性能通信ネットワークを通じて、学生居住区、中核となるサーバーシステムとミュンヘ ン 市 在 中 の 大 学 シ ス テ ム 、 及 び そ の 他 科 学 研 究 施 設 ( Max-Planck Institutes 、 Fraunhofer-Gesellschaft 等)間を結ぶネットワークを形成している。 4) LRZ の中核システム LRZ は、分散操作ではコストパフォーマンスがよくないシステム(例えば、データサーバ ー、高性能アーカイブシステム)をセンター操作する。 5) コンサルタントとサポート 多くのユーザーがこの施設を利用しているため、この能力センターは、継続して、あらゆ る情報技術課題に関する技術力を向上している。この能力センターのサービス統合により、 個人ユーザーへの技術相談の提供と同様に、様々なコースが提供されている。LRZ のサービ スは、ミュンヘン市在中の大学とその全ての関連組織が利用することが出来る。(その数、 学生約 8 万人、科学者 9 千人、その他 1 万 6 千人にも及ぶ。) 6) スーパーコンピューティングセンターとしての LRZ 科学技術向け高性能スーパーコンピューティングの重要性は年々高まっている。新たな科 学理論が発見されるにつれ、計算時間が長く、コスト高で、時には環境に危険を及ぼしか ねない実験に取って代わる手法として、高性能コンピュータの利用は、より良いコストパ フォーマンス、より効率的なシステム、より高速な手法を実現している。このため、高性 能スーパーコンピュータは、科学技術開発において国際的競争力を維持するための調査研 究にとっては大前提条件となっている。 LRZ では以下の様々なレベルにおいて計算資源を 提供している。具体的な運営内容は以下に要約する; • ドイツ全土の研究者に利用される国家スーパーコンピュータ日立 SR8000-F1:ヨーロ ッパ最速高性能コンピュータの一つに挙げられる • バイエルン州のスーパーコンピュータ Siemens-Fujitsu VPP700/52:バイエルン州の 全大学の研究者がアクセス可能

• IBM 8-processor p690 HPC マシン及び Linux クラスター:ミュンヘン市在中の大学 研究者がアクセス可能。以下の項目向けプラットフォームとして機能する; ¾ 幅広い多様なアプリケーションスペクトルの実行 ¾ 非ベクトル直列(non-vectorizing serial)と並列プログラムの処理 ¾ 直列(serial)と並列プログラムの開発と検証 図は、LRZ における高性能計算資源がピラミッド型に広く提供されていることを指し示し ている。LRZ の広範囲にわたるタスクを実行する過程において、相乗作用の効果が期待でき るのである。 更に、LRZ は既存のスーパーコンピュータアーキテクチャに適切なアルゴリズムへの変換

(37)

サポートも行っている。他のセンターや研究グループ、特に技術分野における高度および 超高度学術計算のためのバイエルン集約ネットワーク(Kompetenznetzwerk für Technisch

-Wissenschaftliches Hoch- und Höchstleistungsrechnen / KONWIHR)との協力体制のも とで、このサポートは実現する。 州全体の仮想能力センターとして統合された LRZ は、全国規模の高性能センター開発のノ ウハウを提供するに至っている。 7) ネットワーク向け能力センターとしての LRZ LRZ はその初期段階で既にネットワークの中核ポイントの重要性を認識し、この分野にお ける国家規模のノウハウセンターとして発展を遂げて来ている。最新通信技術が試験的試 み と し て 最 初 に 導 入 さ れ た の は LRZ で あ る が 、 そ の 例 と し て 、 X.25-2Mb/s-line 、 ATM-34Mb/s-line、155Mb/s-connection、DQDB、及び後に世界的に普及した 2.5Gb/s-ATM-line (波長分割多重方式(WDM)のギガビット技術を利用)も、全てそれらの初期モデルが LRZ で試験的に導入された。これらのパイロットプロジェクトは、ドイツの学術研究ネットワ ークである DFN(Deutsches Forschungsnetz)、もしくはエルランゲン所在の計算センター との連携体制のもとで概ね行われて来ているが、一部、Telekom や産業界のパートナー企業 との共同事業としても実施されている。この目的の下、LRZ はかなりの額の資金を外部から 調達している。 図 23. LRZ の高性能計算資源構成図 http://www.lrz-muenchen.de/wir/intro/en/ より

(38)

2.3 ソフトウエアの対応 (1)フラウンフォーファー研究所(SCAI19 本研究所は、欧州におけるナノテクノロジーシミュレーションの計算科学的基盤を支え るドイツの代表的な拠点であるため、訪問調査を行い、ナノテクノロジーを含めた計算科 学的なアプローチの動向を探った。 本研究所における最近の大きな特徴は、計算資源の高性能化に伴うマルチフィジクスエ ンジニヤリングへの傾斜である。それは、ナノ、バイオレベルから自動車などのマクロ工 学までを連続的にカバーしてシミュレーションする計算科学技術への傾向である。しかし、 欧州の基本問題はハイエンド計算向きの高性能計算資源の不足であり、日米に水を空けら れた状況が続いている。そこで各地に点在する計算資源を有効に利用するためにグリッド コンピューティングを発達させようとしている。本研究所はそうした状況に対応したソフ トウエア主体の研究を進めている。 一方、ドイツ国内の経済改革に伴い、これまでの研究所運営への国の支援が細り、かな りの部分を民間の資金に頼ることになったため、民間企業のニーズを捉えた実問題対応に その研究対象をシフトしているが、その反動として、研究内容に長期戦略的展開が細り始 めている。 本研究所はフラウンホーファー協会に属し、ボン市の近郊のサンクトアウグスチンに 拠点を構えている。研究所はフラウンホーファー協会アルゴリズム科学計算研究所 (Algorithms and Scientific Computing: SCAI)と称し、所長の Trottenberg 博士のもと 約 100 名の研究者が活動し、年間予算は約 10 億円である。研究所の基本的な方向として、 産業界における計算科学支援を目指しており、この活動を通じて応用シミュレーションソ フトウエアの設計開発、最適化技術を提供している。それらの目標を掲げ、計算科学によ る開発期間の短縮化、実験コストの低減、さらに生産プロセスの最適化を実現する。最近 では、バイオインフォマティクス、診療ゲノム研究、統計学、セマンティックデータなど の IT 化を進めている。 主な研究分野として、 • シミュレーション工学 • 数値ソフトウエア • バイオインフォマティクス • 最適化 があげられる。 19 http://www.scai.fraunhofer.de/

図 24. THE CSCS PRODUCTION HPCN INFRASTRUCTURE  http://www.cscs.ch/b‑display.php?id=7 より 
図 32. 性能向上のトレンド  http://www.top500.org/ より   
表 2  PCAs と NNI 事業に参加する機関のミッション、専門分野、ニーズとの関連性
表 3  横断的アプリケーション分野への NNI 参画機関の取り組み状況
+2

参照

関連したドキュメント

[r]

2020年 2月 3日 国立大学法人長岡技術科学大学と、 防災・減災に関する共同研究プロジェクトの 設立に向けた包括連携協定を締結. 2020年

東京都船舶調査(H19 推計):東京都環境局委託 平成 19 年度船舶排ガス対策効果の解析調査報告書 いであ(株) (平成 20 年3月).. OPRF 調査(H12

「1 つでも、2 つでも、世界を変えるような 事柄について考えましょう。素晴らしいアイデ

<第2回> 他事例(伴走型支援士)から考える 日時 :2019年8月5日18:30~21:00 場所 :大阪弁護士会館

③ 大阪商工信金社会貢献賞受賞団体ネットワーク交流会への参加 日時 2018年11月14日(水)15:00〜18:30 場所 大阪商工信用金庫本店2階 商工信金ホール

TEPCO 統合報告書 2019.. TEPCO INTEGRATED REPORT 20199. 「EXPLORING OZE

その対策として、図 4.5.3‑1 に示すように、整流器出力と減流回路との間に Zener Diode として、Zener Voltage 100V