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より精度を緩めた近似的なアプローチにより、約 1000 原子程度の第一原理分子構造計算を 目指している。さらに、光化学では精密な電子相関が求められるが、せいぜい 50 原子程度 まで、さらに素粒子では色量子力学として精度の良い格子量子場理論計算として、1 ハドロ ン程度が必要である。これらの計算にはテラフロップス級の計算能力が必要である。精度、

サイズへの要求のいずれに関しても、ハイエンドコンピューティングが必要であり、新ア ーキテクチャ、ツールの最適化や並列化、アルゴリズム改良が必要となっている。これら を一連にわたり支援することが、NIC(ZAM)のミッションである。 

 

4) 応用例 

①  多粒子物理 

原子構造からコンデンスマターの巨視的な構造や動力学を扱う多粒子物理では、大きく 分けて2つのアプローチがある。その一つは、厳密な力学を解く第一原理法であり他方は 単純化された経験的方法である。NIC では、後者の場合、たんぱく質や RNA の畳み込み、分 子モーターの構造、機能などのバイオ問題を扱う複雑なシステムには、計算量の問題から、

経験的方法の適用が難しい現在、第一原理法が有効であるとして研究を進めている。また メソスケール、マクロスケールの原子構成を取り扱う例も同様としている。さらに、マク ロ的には統計物理的手法を使って、流砂、交通渋滞問題を取り扱う例もある。こうした経 験的な多粒子物理を適用する例として、NIC では分子構造の特性を求める場合や経験的な力 を使う粗粒度モデルを用いる場合、経験的な分子動力学法を使っている。例えば、このよ うな方法で、アモルファスガラス(SiO2)に Li、Na、K などのアルカリイオンを混ぜ込んで、

SiO2 の四面体構造を崩し、イオン導体にするシミュレーション、またディスプレイ等で用 いる円柱状結晶分子で、10 万分子の規則性配列と不規則性配列層との相互干渉を領域分割 型分子動力学でシミュレーションした例がある。 

一方、フェルミオンなどが強相関する超伝導のようなシミュレーション例では、量子力 学の大規模計算が必要となる。ここでは高温超伝導理論計算で Tc(超伝導転移温度)を求 めている。また、原子位置関数として分子エネルギーを計算する密度汎関数法(DFT)によ り、水と細胞におけるエネルギー代謝で搬送をつかさどるアデニシン(ATP)との反応をシ ミュレーションしている例、さらに量子モンテカルロ、金表面のエピキタシ成長などのシ ミュレーション例、金原子ワイヤーにおける伝道特性に関して、電流を決める原子特性、

ワイヤーとしての設計等を求める分子動力学シミュレーションの例がある。 

 

②  ポリマー(ソフトマテリアル) 

DNA、たんぱく質、脂質などからプラスチック、光学レンズまで応用範囲がとても広い高 分子は 1000 から数 100 万の原子から構成されるため、構造的な自由度、すなわち分子形状 の強揺らぎを起こすなど非常に複雑な現象となる。揺らぎは熱エネルギーによるもので結 合エネルギーよりはるかに小さいが、相互干渉エネルギー密度が非常に小さく、揺らぎが

支配し、ゆえに物質は柔軟(ソフト)になる。これが理論及び計算モデルの難しさとなる。

このため、化学結合スケールからメソスケールまでの形状揺らぎまでの莫大な特性スケー ル、さらに 10 もしくはそれ以上の指数にわたる時間スケールにより、大規模なシミュレー ションとなる。 

NIC はこの分野においても、応用は限られるが、基礎科学的な理解のために計算科学的な 活動を進めている。例えば、1 万のモノマーのモンテカルロシミュレーションによるポリマ ーの運動シミュレーションなどの例がある。また生体膜の挙動としては、全原子構造の規 模が小さいシステムでは、限定的に局所相互作用などの研究は可能である。しかし、タン パク質膜との相互作用に関しては、グローバルな膜組織の性質と同様に巨視的な相互作用 も同等に重要になる。その例として、脂質の親水性と疎水性のある理想的な膜モデルにお いて大規模な組織を扱いつつ二層(液状、ゲル状)のたんぱく質膜の相互作用のシミュレ ーションを行い、今後の大規模なタンパク質膜組織の挙動解析の基礎としている。さらに ポリマーによるコーティングの表面特性、高分子的な液晶の表面性の制御問題等のシミュ レーションの例がある。 

高分子シミュレーションでは、精緻な理論モデル不足やシミュレーションの計算規模等、

多くの問題を残すが、シミュレーションによる実験家への洞察の提供はますます重要にな ってきている。 

 

③  化学 

計算化学は新物質創製において中心的なツールである。特に、未知の分子の構造や安定性 を予測し、また適切な合成設計の戦略立案に役に立つため、ナノマテリアルの研究や設計 に不可欠である。 

代表的な手法は、密度汎関数法などを用いた量子論の第一原理量子化学計算法(DFT)か ら、経験的にまたは量子力学的(QM/Quantum Mechanics)に求められる運動と力の古典的 な力学を用いる、分子力学(MM/Molecular Mechanics)または分子動力学(MD/Molecular  Dynamics)のような近似法などがある。分子システムのサイズと計算機能力との関係から、

一般的な QM/MM、DFT/MD などのハイブリッド法を用いる。 

こうした方法では、高密度光データ格納、分子スイッチのような応用目的で、電気的、光 学的特性などを解明する上で非常に重要な手法である。特に、近年、電子デバイスは単分 子レベルに近づいており、有機単分子の電流を求めること、最適設計のための分子配置等 の計算には量子化学的な取り扱いがなされる。 

一方、化学反応は最小エネルギー経路の計算によって研究される。反応過程では、その遷 移状態、再結合また短寿命の中間生成物を実験的に求めることは難しいため、計算化学が 中心的な役割を果たす。触媒や酵素の研究では、いろいろな生体分子構造のエネルギー差 は数 KJ/mol と小さく、またそこには弱い水素、溶媒との反応があり複雑であるが、生体分 子の多様な化学反応を起こす理由やその過程が大規模な計算資源を使って調べられる。 

このほか、天文宇宙、素粒子、地球科学等の分野で優れたシミュレーション研究か展開さ れている。 

 

5) 欧州の 2010 年計算機構想 

欧州全体において、日米のハイエンドコンピューティングの動きを睨み、2010 年を稼動 目標として、欧州のハイエンド計算機構想が進む。目標性能は約数ペタフッロプス級とし、

2010 年で最も実効性能が高い計算機を導入する計画である。現在、欧州では IBM が優勢だ が、2010 年構想では IBM 独占を望まないため、日本メーカへの期待が高い。検討される設 置場所は欧州全体で3箇所であり、英、仏、独のコンピュータセンターに配置される計画 である。ドイツでは、ジョン・フォン・ノイマン計算センター(NIC、ユーリッヒ)、ライ プニッツ計算センター(LRZ、ミュンヘン)もしくはシュトゥットガルト大学(RUS、シュ トゥットガルト)のいずれか一つといわれるが、実力から NIC が最も可能性が高いといわ れる。 

 

(2)ライプニッツ計算センター18(LRZ / The Leibniz Computing Centre) 

ドイツの3大センターの一つでミュンヘン地区の大学等をサポートするライプニッツ計 算センター(LRZ)において、ナノサイエンス関係の活動を、訪問調査した。 

理論モデリング研究自体は LRZ では行わないが、基礎研究支援に重点を置いている。大 規模シミュレーションによるナノサイエンス研究の重要性は十分認識しているが、地方政 府の計算資源拡充への予算配慮は少ないようだ。したがって、日米等で検討されている大 規模シミュレーションには余り手が付けられていない。 

 

1) ライプニッツ計算センター 

LRZ は、電子データ処理技術に注目が集まり 始めた初期の時代、厳密に言えば 1962 年に設 立された。当時、バイエルン科学・人文科学 アカデミー(Bavarian Academy of Sciencesand  Humanities(BAdW))のメンバーであった Hans  Piloty 教授と Robert Sauer 教授の両者は、

電子計算処理のための委員会を設立した。現 計算科学委員会(Commission for Computer  Science)の先駆けとなった組織として、今日 でも BAdW の監督下の機関に位置づけられてい る。バイエルン州からの援助の下で、本委員

18 http://www.lrz‑muenchen.de/ 

図 22. ライブニッツ計算センター概観 

http://www.lrz‑muenchen.de/wir/intyori より 

会は、ミュンヘン市に在する全ての大学向けの研究・教育施設として、共同計算センター を設立することに至った。その施設は、今日では Leibniz‑Rechenzentrum または LRZ とい う名称で広く知られているが、その名は 2 進法の研究を推し進め、世界初の四則演算計算 機の稼動実現に成功した、哲学者で普遍言語学者のゴットフリート・ヴィルヘルム・ライ プニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz(1646〜1716))にちなんで付けられた。 

現在、LRZ は、具体的には以下のサービスを提供する。 

• ミュンヘン市に在する大学及び BAdW のための科学計算センター 

• 科 学 技 術 分 野 に お け る 高 精 度 ス ー パ ー コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ セ ン タ ー

(Supercomputing Centre) 

• 大容量データアーカイブ用中核施設;ミュンヘン学術ネットワーク(Münchner  Wissenschaftnetz / MWN)コンピュータのデータ自動バックアップも行う 

• ミュンヘン学術ネットワークの企画、拡張、運営、及び一般的なデータ通信ネット ワーク向け能力センター 

 

2) 大学計算センターとしての LRZ 

計算が、大学施設内の センター においてのみ行われていた時代はもう遠い過去となり、

現在では、科学者や学生達はワークステーションで作業する。この裏側には、 分散、共 有データ処理 の概念がある。この概念はワールドワイドなインターネット接続だけでな く、データと情報へのコンスタントな相互アクセス、スタンドアローンでインストールさ れていないソフトウエアもしくはコスト高でかつ使用頻度の低い共有マシンへのアクセス、

などなど、その意味するところは幅広い。しかし、ユーザー間調整や伝達等、LRZ が セン ター として果たすべき役割がまだまだ残されているので、そうした役割を果たしている。

以下にその例を示す; 

• 技術的なレベル;プロキシサーバー、ネームサーバー、メールサーバー、ウエブサ ーバー、及びビデオやマルチメディアラボ、大容量フォーマットプロッターなどの 高価な特殊機材等、データネットワーク及び共有サービスの運営による センタ ー としての役割 

• 人的レベル;計算クラスター、トレーニング、ソフトウエア調達やキャンパスライ センス取得の調整、セキュリティ課題に関するヘルプ、コンピュータに関する一般 的問題へのサポート、新たなアプリケーション分野の開発そしてオンサイトでの IT インフラストラクチャ構築などによる センター としての役割 

 

3) ミュンヘン学術ネットワーク 

分散コンピュータ間の接続部として、またワールドワイドネットワークへのアクセスポイ ントとして機能する通信インフラストラクチャは、LRZ が提供する様々なサービスの中でも、

重要な課題である。ミュンヘン学術ネットワーク(Münchner Wissenschaftnetz / MWN)は

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