金属造形の技法に関する一考察 : 技法の多様性とその教材化への可能性をさぐる
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(2) 金属造形の技法に関する一考察 一一技法の多様性とその教材化への可能性をさぐる一 目次 序一…一一……一…一…一…一一一………一一一一一一………一一…一一…一一……一一………一一…一一……P1. 第一章. 学校教育と金属工作. 第一節. 金属教材の教育的意義. 第二節. 手工・工作・工芸教育の中の金属工作. 第三節. 環境教育的視点から見た教材選択. 第四節. アルミ缶とリサイクル問題. 第二章. P3. 鋳造技法の教材化 …一一一…一……一一一一一……………一一一一一一……一………P41. 第一面. 鋳造技法の概要. 出二節. アルミニウム. 第三漏. 鋳型. 話四節. 製作の実際. 参考文献…一一一一……一一一……一一一一……一一……一一…………一……一…一…一一……一PlO5. 結一一……一一一一…一一一……一一一…一一一一一……一一一一一…一一……一一一一一……P107.
(3) 序 義務教育としての小学校中学校教育は、本来人間としての調和のとれた育成を目指し、 国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視するとともに、個性の伸長を図って なされるものである。しかし現実はどうであろう。勉強という言葉の意味するところは進. 学戦争と呼ばれる上級学校への入学試験のための学習となり、過度の知育偏重の状況を呈 している。従って現代の子供たちは知識量は豊富であるが実体験に乏しく、テレビをはじ めとする情報源による疑似体験や聞きかじりの知識によってものごとを理解しようとする. 傾向にあるといわれている。また流行に敏感で恰好のよさにこだわり、手を汚すこと・苦 しいこと・危険なことを特に嫌がり、それは彼らの職業観にも表れているともいう。我が 国では工業立国を標榜しながらそれを底辺で支えているブルーカラーの職種への無理解と 偏見が特に若者に強く、最近ではこれらの職域で外国人労働者の存在が不可欠とも聞く。 いったい何がこのような現状を生みだしてきたのだろうか。. また「自らの手を煩わせてものを作る工夫をするより買ってきたほうが早い」、美術科 や技術科の製作の場面で、時折り生徒たちの口からこのような言葉が漏れ聞こえる。今や コンビニエンスストアは殆どの町に一軒はあり、24時間買い物のできない時はない。大量. 生産大量消費の現代社会では金と時間が最大の価値を持つこと、そしてその価値観にそぐ わぬものは切り捨てていくことを、彼ら現代の子供たちは知らず知らずのうちに身につけ ていくようにも見える。. このような状況下で造形教育の現場に身を置く者としては、ただ手をこまねいて時数削 減などの動きを甘受するのではなく、より魅力ある教材を生徒たちに提供してますます授 業内容の充実を計らねばならないと考える。. 工作・工芸などの造形教育の目的は「ものを作る」活動を通して得られる「体験」を人 間形成に役立てることにあり、この活動は子供たちにとって他の教科では得られない特別 な経験である。. ここで先ず明確にすべきことは「何」を使い、「何を体験」させるのか、そしてそこに どんな「教育的価値」があるのかと言うことであり、個々の「素材」とそれによる「体 験」とは不可分の関係にある、ということである。. ところが、現在その「個々の素材と体験」の関係が不明確・不明瞭なままに放置されて いるのではないか、との思いを私は常々抱いていた。そして自らの手でものを創ることの. 1.
(4) 楽しみや喜びと、その基本となる材料体験の大切さがもっと認識され、そのような観点か ら教材の選択もなされるべきであると考えるに至った。. さて現在、教育現場の小学校図画工作科や中学校美術科においては様々な材料が造形教 育の教材に供されているが、その主流を占めているのは粘土・木材・紙・プラスチック等 であることは大方の認める所である。それにひきかえ、金属材料はと言うと、金工分野と. 言う何か特別な設備や技術を要する取っ付きにくいもの、あるいは技術科で扱うもの、と いうイメージで捉えられがちである。また所謂教材メーカーが市販する商品としての金工 教材は種類も少なく画一的で比較的高価な物が多い。結果として造形教育の中で児童・生 徒たちが金属の造形材料に出会う機会は少ないと言えよう。私は学生時代金工を学び、美 術科と技術科の教科担任として過ごす中で、金属による造形教材の内容の充実が是非とも 必要だと常々感じていた。. 本論文は以上のような工作・工芸教育の現状がどのような理由から形成されたのか、と 言う疑問を出発点にして、第一章では金属材料による造形教材(金工教材)の意義を歴史 的経緯をたどりながら考察し、第二章では鋳造技法の教材化を通して金工教材の新たな可 能性を求めたものである。. 2.
(5) 第一章学校教育と金属工作 第一節 金属教材の教育的意義 我々は日常多くの金属製品に囲まれて生活している。身近かなところでは食器に始まり、. 自動車や電車等の交通機関から建築物、そして日進月歩のコンピューターに至るまで枚挙 に暇がない。このように我々の社会生活は種々様々な金属製品の利用抜きには存立しえな いことは明白である。. 人と金属の関わりの歴史は極あて長い。金属の発見、加工技術とその利用の歩みは言わ ば人類文明の進歩の申核であり、青銅器時代や鉄器時代などとA類史上の時代区分の名称 としてもその名を残している。また人類は、武具としての剣や甲冑をつくる一方で貴金属 で装身具をつくり、宗教の対象としての神仏の姿を銅像として鋳込んだりもしてきた。こ れらの金属製の遺物に接する時、私たちは遙か祖先の時代から金属の持つ機能的な面のみ ならず、金属特有の美を愛して来たことがわかる。そして現在もなお多くの工芸家たちが、. 彫金、鍛金、鋳金などの技法を駆使しながら美しく力強い作品を生み出し、世の美術を愛 好する人々を楽しませているのである。. 一方、私たちの日常会話の中にも、鍛治や鋳物師などの金属加工に携わった職人達の言 葉が数多く残されている。會田富康の「鋳金・彫金・鍛金」及び「広辞苑」などで見ると 「腕がなまる一金属を焼鈍すると柔らかくなることから、技量が落ちること」、 「焼き. が回る一望の刃物を焼き入れする時、熱し過ぎて切れ味を落とすことから、年をとり衰 えたり鈍くなること」、 「焼きを入れる一回の刃を焼い撹総令して鍛えることから、. 刺激を与えて、弛んだものをしゃんとさせること」、「相槌を打つ一鍛冶屋の弟子が師 匠と交互に金槌を振り下ろして金物を鍛えることから、人の話をうなづきながら聞くこ と」、 「筋金入り一鋳物の鋳型に金属線を入れて丈夫にすることから、精神・体などが. しつかりしていること」、「鍍金一鉄、銅などに貴金属を被覆して美しく見せ、また酸 化・腐食の作用を防いだことから、中身の悪さを隠して外面だけを飾り繕うこと」、「お. しゃか一鋳物の失敗作をそう呼んだことから、不良品の意」、rけれん味一鋳物の中 子(内割)を支持するための金属片をけれんと呼んだことから、早替り・宙乗り・水芸な どの仕掛けを使った俗受けする演出をそう呼ぶようになり、転じてはったり、ごまかし、. の意」などとある。まだ他にもあろうが、以上取り上げてみたものだけを見ても、金属が 私たちの生活、文化の中に深く関わってきた歴史を思い起こさせるのに十分と言える。. 3.
(6) それでは学校教育における造形教育活動の中で、金属を扱った教材は他の素材を含む全 体の中で、一体どのように位置づけられているのかを見ていくことにしよう。現行の指導 要領の中に記された小・中学校や高等学校における工作・工芸教育の教育目標及び内容を 造形素材との関わりで見ると次のようになる。. 小学校学習指導要領第2章第7節図画工作より抜粋. (下線筆者). 〔第1学年及び第2学年〕. 1 目標 (1)材料をもとにした浩舅動の楽しさを味わい、材料から豊かな発想をして、進んで 造形活動ができるようにする。. 2 内容. A表現 (1)材料をもとにして、楽しく造形活動ができるようにする。. ア 砂、土、粘土などの材料に親しみ一(後略)1年 イ 身近かな自然物や人工の材料の形や色などに関心をもち一(後略)1年 イ 身近かな自然物や人工の材料の形や色などの特徴に関心をもち(後略)2年 (2)感じたことや思ったことを絵や立体に表すことができるようにする。. イ粘土に親しみながら、手を働かせて一(後略)1年 忌イ 粘土に親しみながら、形などを考え、手を十分に働かせて一(後略)2年 (3)生活を楽しくする物や飾る物、想像したものをつくることができるようにする。. イ 紙などの身近かな扱いやすい材料、はさみやのりなどを使い(後略)1年 イ 厚紙、簡単な小刀類などや前学年までに経験した材料や用具を使い(後略)2年. 〔第3学年及び第4学年〕. 1 目標 (1)材料から豊かな発想をしそれを生かす体験を深め、材料に対する感覚などを高める. とともに、見方や表し方に闘O・を持って工夫して表し、進んで造形活動が出来るよう. にする。. 4.
(7) 2 内容. A表現 (1)材料をもとにして、造形活動を工夫することができるようにする。. ア 身近かな材料を形や色の面白さなどの特徴に関心をもって集め、その特徴の生か. し方を試しながら一(後略)3年 イ 木切れなどの身近かな材料の形や色などの特徴を考え切ったり組み合わせたりし. て一(後略)3年 イ 木切れなどの身近かな材料の形や色などの特徴を生かし、切ったり、組み合わせ. たり、結合させたりして新しい形をつくるとともに一(後略)4年 (2)見たこと、感じたこと、想像したことを絵や立体に表すことができるようにする。. イ 表したい感じをいろいろな角度から見て、粘土などで立体に表すこと。3年 イ 表したい感じをいろいろな角度から見て、粘土などの特性を生かし、用具なども. 使って立体に表すこと。4年 (3)生活を楽しくするもの、飾るもの、伝え合うものをつくることができるようにする. ウ つくりたいものに合わせて、板切れ、小刀、使いやすいのこぎりなどや、前学年 までに経験した材料や用具を使って作るとともに、それらの適切な扱いができるよ. うにすること。3年 ウ つくりたいものに合わせて、板材や前学年までに経験した材料や用具などを適切. に使うとともに、それらの扱いに慣れること。4年. 〔第5学年及び第6学年〕. 1 目標 (2)生活を楽しく豊かにするものなどを、用途や美しさを考え構想を練ってっくり、デ. ザインの能力や創造的な工作の能力を高める。. 2 内容. A表現 (2)見たこと、感じたこと、想像したことを立体に表すことができるようにする。. イ 表したい感じが表れるように、粘土や身近かな材料の特性を考えて表したり、材. 料の特徴から発想したことを立体に表したりすること。5年. 5.
(8) イ表したい感じが表れるように、粘土や身近かな材料の特性を生かして表したり、. 材料の特徴から発想したことを立体に表したりすること。6年 (3)生活を楽しく豊かにするものをつくったり、身近かな環境などを造形的に構成した り、伝え合うものをつくったりすることができるようにする。 イ つくるものを絵や図にかいたり、必要に応じて試作したりするなどして、形や丈. 夫な組み立て方、動く面白さの生かし方などの構想を練り、計画的につくったり、. 材料の特徴から発想してつくったりすること。5年 イ つくるものを絵や図にかいたり、必要に応じて試作したりするなどして、形や構. 造、動く面白さの生かし方などについて構想を練り、計画的につくったり、材料の. 特徴から発想してっくったりすること。6年 ウ つくるものにあわせて、焼成に適した粘土、糸のこぎりや、前学年までに経験し た材料や用具などから適切なものを選んで使うとともに、それらの扱いに慣れるこ. と。5年 ウ つくるものにあわせて、前学年までに経験した材料や用具などから適切なものを 選び、工作の技法を総合的に生かしながら使うこと。6年. 中学校学習指導要領第2章第6節美術より抜粋 1 目標 (2)目的や条件に応じて豊かな発想をし、構想を練り、デザインし制作する能力と態度 を育てる。 〔第1学年〕. (2)目的や条件に応じて豊かな発想をし、用と美の調和を理解し、構想を深め、デザイ. ンし制作する能力と態度を育てる。 〔第2・第3学年〕. 2 内容. A表現 (4)工芸の表現を通して、次の事項を指導する。 〔第1学年〕. ア用途や材料を基に発想し、図などに表して工芸のデザインの構想を練ること。 イ 制作の条件や意図を生かした制作の計画を立てること。. 6.
(9) ウ 制作意図に応じて、材料や用具の特性を生かし、工夫してっくること。 (4)工芸の表現を通して、次の事項を指導する。 〔第2・第3学年〕. ア 用途や材料を基に発想し、制作の条件について理解し、機能と美の調和のとれた 工芸のデザインの構想を練ること。. イ 材料の生かし方、制作の順序や方法などを総合的に考えて、制作の計画をたてる こと。. ウ 制作意図に応じて、材料や用具の特性を生かし、制作の方法を選び、工夫してっ くること。. 指導計画の作成と内容の取扱い. 2第2の各学年の内容のAの指導については、次の事項に配慮するものとする。 (1)表現のための材料などについては、地域にある身近かな材料なども取り上げるよ うにすること。. 高等学校学習指導要領第2章第7節芸術第2款第7・8・9より抜粋 第7 工芸 1 1 目標 工芸の活動を通して、美的体験を豊かにし、表現と鑑賞の能力を伸ばすと共に、生 活を豊かにするたあに工夫する態度を育て、工芸を愛好する心情を養う。. 2 内容. A表現 表現に関して、次の事項を指導する。. (D工芸のデザイン ウ 材料、技法、構造及び手順を考えた構想。 (2)工芸の制作. ア 材料の特性を基にした制作の構想 イ 伝統的な工芸のよさを生かした制作の工夫 ウ 材料や用具の活用. 3 内容の取扱い. 7.
(10) (2)内容のAの材料などについては、地域の材料などを取り上げることにも配慮する ものとする。. 第8 工芸 III. 1 目標 工芸の創造活動を通して、造形感覚を洗練し、表現と鑑賞の能力を高めるとともに 、工芸についての理解を深め、工芸を愛好する心晴を育てる。. 2 内容. A表現 表現に関して、次の事項を指導する。 (2)工芸の制作. ア 材料の特性を生かした構想 イ 材料や用具の選択と活用. 3 内容の取扱い (2)内容のAの指導に当たっては、生徒の特性、地域や学校の実態を考慮し、特定の 用途や材料によって指導することができる。. 第9 工芸皿 1 目標 工芸の創造活動を通して、表現と鑑賞の能力を一層高めるとともに、工芸について の理解を深め、美術文化を愛好する態度を育てる。. 2 内容. A表現 表現に関して、次の事項を指導する。 (1)工芸のデザイン. ァ 機能、形態、素材の追求 (2)工芸の制作. イ 材料や用具の選択と活用. 3 内容の取扱い 「工芸巫」の「3 内容の取扱い」と同様に取り扱うものとする。. 8.
(11) 以上のように、素材についての記述を概観すると、ノ」\学校図画工作科においては、発達. 段階に応じた素材選沢、用具選択の指針がある程度示されていることがわかる。素材とし ては、低学年から順に、「砂」、「土」、「粘土」、「紙」、「厚紙」、「木切れ」、 「板切れ」、 「板材」、 「焼成に適した粘土」などをあげ、特に第3学年以降、立体表現. の内容に伴って粘土が中心的な造形材料として据えられている。また、第5学年では「焼 成に適した粘土」の記述が見え、「焼き物」という具体的な工芸技法1との関わりで素材名 を取り扱っている。. ところが、これが第6学年以降、中学校、高等学校と上級学年では、素材についての記 述は、「身近かな材料」、「前学年までに経験した材料」、r地域にある身近かな材料」、 地域や学校の実態を考慮した「特定の材料」などと述べられているが、具体性に乏しい。. そもそも第6学年の表現学習の内容には、「材料の特徴から発想すること」、や「工作 の技法を総合的に生かしながら使うこと」、があげられており、これにはそれまでの段階 でのある程度幅広い材料体験とそれに伴う基礎技法の学習が前提となろう。. また中学校、高等学校において具体的な素材選定の指針がないのは何故だろう。これだ け教育現場の教材選択に関する自由裁量を認めたら、結果的にそれぞれの学校、担当教師 による指導内容はまちまちとなり、「各学年相互間の関連を図り、系統的、発展的な指導. ができるようにする」一 (中学校学習指導要領総則 第6 指導計画の作成に当たっ て配慮すべき事項、より)ことや、 「中学校美術との関連を十分考慮する」一(高等学校. 指導要領第2章第7節芸術第2書斎7工芸1・1[[ 3内容の取扱、より)ことは困 難になろう。それがひいては教科に対する信頼感1や価値評価を落とす結果に繋がりはしま いか。. およそ全ての造形芸術は「もの」を媒体としなければ生まれ得ない。そしてその造形は それぞれの「もめ」の持つ性質によって何らかの拘束を受けていて、それが「らしさ」や 「あじわい」に繋がっている。従ってそれを鑑賞する側にとって、その「もの=素材」の. 体験の有無、浅深は造形芸術に対する理解力や鑑賞力に大きく影響すると考える。「自然. や㍑作品を罪し、その良さや美しさなどを深く味わい、類と燗とのかかわりに関 心をもち、主体的に鑑賞する能力と態度を育てる(中学校学習指導要領第2章第6節 美術第2学年及び第3学年の目標より)。」ためには、ただ漫然と眺めたり知識を詰め 込むことは役に立たない。児童生徒たちになるべく多様な材料体験の機会を与え、その体. 9.
(12) 験を深めていく援助をすることが造形教育の指導者たる者の責務である。 言うまでもなく教育の目的や方法は、その時代その時代の状況や要請によって変化して いくものではあるが、工作・工芸教育の場合は戦前の手工教育の時代から戦後の技術科分. 離そして数度の学習指導要領の改定など、常に大きな変動の歴史を経てきた。これを教科 教育の指導的立場にある人々達のセクト主義や先見性のなさ、監督省庁の場当たり的な施 策の結果と見る向きもある。ともあれそのような経緯が他ならぬ教育現場の教師達自身の. 工作・工芸教育に対する定見や熱意を失わしめ、指導観や教材髭肋確立しにくい状況を生 み出した、と言うのは言い過ぎであろうか。これは同じ造形教育の中でも描画や彫塑領域 とは事情を異にする点である。わが国における工作・工芸教育の歴史的経緯については後 の章で改めて触れてみたいので、次に工作・工芸教育の中で用いられる様々な素材につい て考えてみたい。. 紙 工悪材料や描画材料として幼い子どもたちが先ず初めに触れるのは、紙であろう。フレ ーベル(F.F robe1, 1782−1852)が1837年、ドイツのブランケンブルグにつくった幼児. のための学校(Kinder garten)において遊戯や手仕事に使うものとして考案したのが、. 恩物(Gift)と手技(Occupation)であったが、その中に第11割物「刺紙一琶摸避紙に針 で突いて形をつくる」や第14据物「勇り紙一紙を勢で切る」、また第15恩物「織り紙一紙 に「定の切れ目を入れ、紙のテープで折る手仕事」や第18恩物「畳紙一鞭の折り紙」など、 幾つかの紙を使った「手技」が入っている。(1). このように紙という素材は教育教材としての歴史も古く、「折る」「切るjr貼る」 「綴じる」「組む」「穴を空ける」「編む」「丸める」「彩色する」などの加工が極めて 簡単かっ安全にできるため、特に低年齢の幼児、児童のための造形素材として広く用いら. れている。一般的に安価で入手しやすく、毒性もなく後唄末も簡単にできることは教育現 場においては好ましい点である。. 現在市販されている紙の種類は非常に多い。共通して言えることは、「植物性の繊維 を漉いて作る薄い物」というところであろうが、最近では紙と同様に造形した後焼成する と硬化して焼き物となるセラミック・ペーパーというものも現れた。これなどは紙素材で. 10.
(13) ありながら窯芸材料でもあるという特異な例である。また容器パックをパルプ状に戻した ものを素材とした紙漉きの教材化や日本独特の和紙を用いた「ちぎり絵」なども、植物性 繊維からなる紙の特性が生かされた好例といえるであろう。. 紙という素材はこのように造形教材として他にない多くの美点を持づが問題点もいくつ か持っている。. (1)面材であることによって発想に制約が生じる. 材料の形態によって母材、線材、獅噛という区別をすることがあるが、紙は基本的に面 材であり(水引、紙粘土は原材料は同じでも紙とは別物と考える)、製作しようとする作 品の形には自ずと限界がある。. (2)三次曲面を作るのが難しい. 立体造形を行う場合、平面二次曲面を主とした構成とせざるを得ず、基本的に三次曲面 は作れない。つまり自動車のボデイのような形を→枚の紙から作ることは困難である。紙 は繊維の集合であり部分的に伸び縮みさせられないからである。 (3)他の素材に比べ弱い. 紙は引っ張り強さは大変大きいが、圧縮強さ、曲げ強さ、勢断離さ等は極めて弱い。ま た、火気や湿気に弱く、作品の用途や管理に制限がある。 (4)年長者にとって物足りなさがある. これは長所の裏返しであるが、幼少時から身近かで扱い易い素材として慣れ親しんでき た紙は上級学年の子どもにとっては新鮮味がなく、製作に特に困難が伴わないので、手応 えが感じられず作る喜びにつながりにくい。. 米占土 紙に次いで→般的な教材としては粘土があげられよう。紙が描画材料の主役であるのに 対して、粘土は立体造形の主役であるといってもよいであろう。先に述べたフレーベルの 手技の第20番にも粘土細工が取り上げられている。(2)さほどに教材としての歴史は古く、. 特に道具がなくても扱えることから幼児の段階から教材というより遊び道具として子ども たちに親しまれているものである。そもそも粘土とは人類が最も古くから手にしていた造 形材料の一つであり、日本最古の土器である縄文式土器は、9000年以上前の物まで確認さ れているという。(3). 11.
(14) 粘土の造形的特徴の第一はその比類のない可塑性である。具体的に見てみると、塊を叩 いて板のようにのばせる性質を展性といい、紐のように引き延ばせる性質を延性、粘り気. があり、くっついてまとまろうとする性質を粘性というが、粘土はその全てにわたって優 れている。しかも粘土では中に含まれる水分や油分の量の調節によってその硬さを変化さ せることができ、幼い子どもでも容易に扱える。また粘土は工作・工芸領域だけでなく、 彫塑領域においても塑像制作の中心材料である。ブロンズ製の彫刻もその原型は粘土によ って作られたものが多い。. 次に大きな特徴は、粘土はその組成によっては焼成して硬い性質に変1ヒさせられること である。焼き物はこの性質があればこそ出来るのである。焼き塵藻の粘土を使ったテラコ ッタの技法も魅力的な教材である。焼き物教材は粘土の状態での柔らかい手触り、焼成後 の暖か味のあるざらっとした手触り、粕薬をかけた後のひんやりとした滑らかな手触り等、. 他に例のないほど触覚の変化を味わうことのできる教材である。そもそも粘土という素材 そのものが触覚の楽しみや訓練に適当な性質を備えているということができる。視覚障害 を持り子どもたちに対する造形教材に粘土が多用される理由もこの点にあるといえる。 この様に粘土は造形教材として理想酌な特質を備えており、大きな問題点もないが以下の 事項についての配慮は必要である。. (1)色々の種類の粘土があり、自硬性の物もあるが(紙粘土など)一般的な土粘土など の作品は石膏や樹脂などに置き換えないと保存に難がある。 (2)焼き物の場合焼成前に十分な乾燥が必要である。 (3)焼き物の焼成には当然それなりの設備が必要である。 (4)粘土の管理、特に事後の整頓にはしっかりとした指導が必要である。. (5)紙の項でも述べたことであるが、幼少時から身近かで扱い易い素材として慣れ親し. んできた粘土は上級学年の子どもにとっては新鮮味がなく、製作に特に困難が伴わ ないので手応えが感じられず作る喜びにつながりにくい。■級者や経験者にはそれ なりの技術の応用や高い造形的な至1健目標を設定する必要がある。. 木 工作・工芸教育の歴史の中で伝統的に重観されてきた素材が木である。日本は高温多湿. 12.
(15) で山がちなため国土の70%が森林である。豊富な森林資源を背景に、日本人は山や樹木を 敬い大切に守り育てながら独特の木の文化を作り上げてきた。建築材料から調度品、食器 そして燃料としての薪炭にいたるまで、生活のあらゆる場面で木を利用し尽くしながらも 森林資源を枯渇させることがなかったのは、日本人の自然に対する敬意があったからでは なかろうか。西欧人は食器にもナイフ、フォーク、皿など金属を多用する。アジアの中で も隣の韓国では金属の碗や箸を使用している。しかし日本人はやはり木製漆塗りの食器を 使用する方がしっくりと皮膚や舌に馴染むものを感じる。日本人は木が好きなのである。. 木の香り、温かい手触り、美しい木目やその軽さなど、その要素は幾つか上げられるが理 屈以前の生理的な好悪の感情のようにも思える。 わが国の百年以上の工作・工芸教育のなかで木工教材は常に大きな位置を占めてきた。. その理由としては、我が国の風土的事情とともに、後述する後藤牧太や上原六四郎らの 「木工第一主義」の教育、思想の影響が大であった。. 木という素材は工作材料・造形材料として見た場合、多くの美点と共にそり、ねじれ、 割れ、等の「狂い」や繊維方向による割裂性、強度の不均一、含水率の変化による収縮、 膨張等の欠点も持っている。しかしこれらの性質は数十年、数百年かけて成長してきた、. それぞれの木々の「生命」の証、個性、と考えたい。また、近年、世界的な森林資源の減 少傾向によって木は必ずしも一概に安価な素材とは言えなくなっている。教材として児童 ・生徒に供する場合も、それらの点に言及しつつ、他の粘土、プラスティック、金属など. とは違う視点から木という物を捉えさせ、地域の間伐材の活用などにも目を向けたいもの である。. プラスチック プラスチック(Plastics)はギリシャ語のPlastikos(塑像の)に由来する言葉で、可塑. 性物質、特に合成樹脂またはその成形品のことであり、現代科学が生んだ新しい素材であ るが、その加工性の良さから日常生活のいたるところに使用されている。造形教育の中の 造形素材・工作材料としても多種多様なプラスチック製品が比較的安価で概ね無害である こともあってよく使われている。. プラスチックは、熱を加えると軟らかくなる「熱可塑性樹脂」と熱を加えると逆に固く. 13.
(16) なる「熱硬化性樹脂」に大別できる。. 「熱可塑性樹脂」は熱を加えることによって軟化、更には溶解し冷却すると再び硬化し これを繰り返すことができる。つまり、加熱による造形が可能なプラスチックである。こ の中には、メタクリル酸メチル樹脂(アクリル)、塩化ビニル樹脂(塩ビ)、ポリエチレ ン樹脂、発泡スチロール樹指などの種類がある。加工はパイプヒーター、電熱器、真空成. 形機、ヒートカッター等で比較的簡単に行うことができる。また最近では人の体温程度の 温度で可塑性を示すプラスチック素材も市販されている。. 「熱硬化性樹脂」は加熱によって化学反応を起こし硬化するが、一度硬化すると再加熱 しても軟化溶解はしない、という不可逆的な硬化反応を起こすプラスチックである。この 中には、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの種類がある。これらは. 一般に液体の不飽和樹脂の形で販売されており、専用の触媒を混入することによって、短 時間で発熱硬化するので雌型を使った型取りに適しており、顔料・染料によって簡単に着 色もできる。薄い板状のものや中空のものはガラス繊維で補強することが多い。. プラスチックは優れた造形素材・工作材料であるが、教材として用いる場合注意すべき 点も幾つかある。. (1)どのプラスチックも接着剤で接着することができるが、専用の物でないと接着でき ないこともあるので注意を要する。 (2)プラチックそのものは無害であるが、接着材や触媒、使用後の容器や器具を洗浄す. るためのラッカーシンナー等には有機溶剤が含まれており、有毒であるばかりでな りでなく、引火性が強いので換気をすることと火気には十分な注意を要する。 (3)プラスチックは燃える時、有毒ガスを発生するものが多く、また高い燃馳温度で焼. 却炉をいためるから、製作後のゴミや残りの材料などを燃やしてはならない。また 、半永久的に腐敗・風化することもないので捨てる時もしかるべき場所を選んで捨 てる。. (4)ある意味で1撮も問題となるのがその質感である。軽く、比較的柔軟で透明感を帯 びているプラスチックには、どことなく安っぽい軽薄なイメージがついてまわる。. 塗装の技術によって見た目の迫真性は得られても、手に持った時の重蜀感のなさは 如何ともしがたい。また木のような温かみのある感触も得られない。. 14.
(17) しかしながら、この問題については、一慨に否定的に捉えるべきものとは、決めつけら れない。現代の子どもたちは乳児期のころから、食器、玩具などによってこのプラスチッ クの質感によく馴染んでおり違和感をいだくことはないであろう。これからの社会生活の 中でプラスチック素材は、さらに多様で大きな位置を占めていくと思われる。未来を担う. 子どもたちに、素材としての長短両面と将来の可能性を示しながら、プラスチック素材と 自然素材の両者をバランス良く経験させることが大切ではないだろうか。. 竹 日本人が古来、竹や笹に親しんできたことは「万葉集」や「竹取物語」を例に挙げる迄 もなくよく知られている。竹は食用に、鑑賞用に、そして生活用具の工作材料や建築用材 として、衣・食・住のすべてに利用され、我々の生活と切り離すことのできないものであ った。竹の材質的特徴としては以下の各点に要約できよう。 (1)円筒形の樟の中は空洞になっており、節が一定の間隔を空けて存在する。 (2)軽くて丈夫である。. (3)繊維方向が一定で弾力性に富み折れにくい。また、細く割ったり剥いだりし易い。 (4)乾燥後の伸縮性は殆どなく、高い張力を持つ。 (5)加熱により軟化し曲げることができる。冷やせばそのままの形で固定できる。. 日本の手工教育の先駆者の一人である後藤牧太も彼の、手工教授の「木工及び竹の標準 教材40ilgJの中において、12の竹工教材を取り上げている。また、後藤に続く岡山秀吉は 彼の著書「初等中等手工科教材」(1929)の中で次の様に述べている。r竹は、我が国の特. 産物として我等の誇る所である。又竹工は、手工教材として木工・金工と共に主要な一種 として、広く採用する所である。然しながら竹の産地は、我が国以外に少ないこと、又斜 材の利用法には、まだ研究の余地の甚だ多いことを知らねばならぬ。本章は、米国ハスラ ック氏の著書竹細工(Bamboo Work)を抄訳したものであるが、竹材に関し興味ある事項 及びその加工法上有益な事項を多々掲げて居る。竹の産出なき彼の地にありて而もこれあ り、手工教育研究の進歩せる一兆候として、我等の大に敬服する所である。」と述べ、続. いて、「. 以上述べた所に依り、工作材料としての竹の用途は、殆ど無限なることが. 知られるであろう。また竹材の供給は殆ど無尽蔵である。何となれば竹の産地は、木材用. 15.
(18) 樹木の産地よりも広くして且つ竹の成長が極めて速なるが故である。」「竹の力旺法は比 較的簡単であって、鋸・粗鐘・螺旋廻及び馨の用法を知れば何人もこれをなし得べきであ る。初めて竹細工を試みる者は、概ねその術の困難なるを嘆く。蓋し竹は割れ易く又打ち. たる釘は保ち難きものである。然しながら如上少しの困難ありとも、敢えて気を挫くに足 らぬ。少しく忍耐して実習を積あば、比較的早く熟練の域に達し得るものである。」と、. 工作材料としての竹材の可能性を称揚している。そして彼は同書の中で106ページを割い て竹の種類、竹工作の技法、主な工具とその使用法、数十点にのぼる作品例と製作法を解 説している。岡山秀吉の手工教育界における影響力を考えると明治・大正・昭和初期まで は竹教材はよく取り上げられていたと思われる。. しかし、現在の教育現場において、竹教材はどの程度扱われているのだろうか。先ず、. 地域差はあるにせよ、社会環境の変化によって竹材そのものが手に入り難くなっている現 実がある。そして竹材の特徴を見る時、工作材・構造材としては優れていても、造形の自 由さ、という点ではなかなか難しい材料であることがわかる。造形学習において芸術性、 倉1四生を主体とした指導を押し進ある過程で、くせが強く力旺も容易ではない陶材は次第 に他の素材に取って代わられてきたと思われる。. 今後、竹教材は衰微し続けるのであろうか。例えば昔から使われ続けている工作材料と して、竹ひごがある。凧、模型飛行機等の製作の部材としてこれ以上の物はなく、紙工作 の骨材、芯材として今後も使用されることであろう。また、我が国の伝統的な竹工芸品や. 生活用具の良さに気づかせるためにも竹素材を体験させることの意味がある。人工的な素 材に囲まれて育つ今の子ども達だからこそ自然素材に触れる機会を少しでも多く持たせた いものである。. さて、以上各素材が持つ特質や教材としての歴史的経緯について概観してきたのである. が、各々の素材の造形教材としての価値には当然ながら違いがあること、そしてそれには 重複する部分力沙ないこと、が分かる。また特定の素材に関する偏重傾向にも歴史的、社 会的理由があることが察せられる。このような点を考慮しっっ、その中で金属教材の占め るべき位置を探ってみたい。. 16.
(19) 金属 序文の中で、金属材料に対する否定的イメージについて述べた。「金工分野と言う何か 特別な設備や技術を要する取っ付きにくいもの、というイメージ」は確かに存在する。し かしこれは敢えて言うならば無知から生まれたイメージである。. 金工に道具がいらないと言っているのではない。道具のいらない工作・工芸は無い、と いうことを言いたいのである。技術がいらないと言うのではなく、技術のいらない工作・ 工芸があるのか、と問いたいのである。. 施設・備品について言うならば、窯芸には粘土貯蔵庫、土練り機もしくは土練り板、ろ. くろ、焼成窯などは最低限必要である。木工作でも、鋸、籔鉋、彫刻刀、糸鋸盤、など はどこの学校にもある。これらは決して安価な物ばかりではないにも関わらず、備品とし ての充足率は高い方である。. それならば、金属素材を扱うためには何が必要であろうか。例えば、銅や真鍮をレリー フ状に打ち出しするためには、極端にいえば金槌と塾が一本あれば済む。塾は5ミリから 10ミリ径で8センチ程度長の鉄の棒の先端を削ればできる。砂袋や金床があればよいが、 他で代用はきく。絞りカ[圧をするなら当て金が必要になるがこれも決して高価というほど. ではない。金工が他の工作・工芸に比べ不当に施設・備品を要するものでないことは明ら かである。. また学校教材備品の基準品目及び基準数量というものがあるが、いかなる意味での基準 なのか、全く理解に苦しむ。学校規模によって基準数量が定められているのだが、本来、. 工作・工芸教育の実施にあたっては児童・生徒一人一人にいきわたるべき道具さえ共同使 用を前提とした数量しか明記されず、あまっさえ「金工用具一式」とか「彫金用具r式」 などの表記のしかたに至っては、その基準数量や内容の実態とともに、不適当極まる。こ. の基準を決定した人物なり機関なりは、造形教育のなんたるかについて不明であるか無理 解であるかのどちらかである、と断じざるを得ない。. 諸外国、特にイギリス、スウェーデンなどの工作・工芸教育の施設・設備の充実度は素 晴らしく、イギリスの小学校では何でもできる「図画工作室」や「創造活動室」が用意さ. れ、中等学校では美術教室(平面造形室、陶芸室)、木工室(1乃至2)、炉の設備のあ る金工室、図法・製図室の設備をもっており、スウェーデンでは小学校から木工、金工室. が完備されているというω。日本の中学校には技術室があるのだが、授業配当や管理責. 17.
(20) 任の問題もあり、何より施設・備品の不備は技術科とて事情は似たようなものなのである。. 彼我の差は大きいと言わざるをえない。経済大国と自負するなら教育行政にも十分な投資 をしてしかるべきと考える。. 金属教材の技術的な側面に視点を移せば、極めて熟練を要するという意味で「彫金」技 法の教材化には困難があると言える。ただ、ここでいう「彫金」とはr般的に使われてい る、線材を使ったアクセサリーや七宝焼きの制作のことではなく、彫り蓼と金槌を使って. 金属の上に図柄を彫ったり、異種金属を象嵌したりする、日本伝統の高度な技法のことで ある。西洋式の彫金では、銅板画にも使うビュランという握りの付いた切り錘を使うが、 こちらの方は努力次第で何とかなるかもしれない。しかし日本式の彫金のように深く彫れ. ないので、力強い表現は望むべくもない。彫金の技法の中でも、打ち出し塾を使って板材 を打ち出すことは比較的簡単に行うことができる。また、板材を打ち絞ったり、太めの線 材や厚めの板材を打ち延ばしてゆく鍛金の技法は素材が銅、アルミニウム等であればさほ と難しくはない。確かに金属素材にはその硬さから来る加工上の難点があるが裏を返ぜば、. 強度、耐久性に優れているのであって、その重量感や金属特有の光沢ともあいまって、他 の素材、例えばプラスチックや石膏等に比べれば、作品とした時の存在感や重厚感ははる. かに上回っていると言えよう。また、彫金や打ち出し等、いわゆる切削加工や鍛造加工を おこなう時には、適度な抵抗感が「てこたえ」として制作の意欲をかきたてる一面もある。. そして意外に知られていないことは、焼き鈍しという熱処理によって塑性加工の自由度が 操作できると言うことや、薬品処理によって金属表面に凹凸をつくる腐食の技法等もある ことである。加えて、最近では強固な接着剤が市販されているので、とかく問題になる金. 属の接合もりベット接合、ネジ止め、はんだ付け、鐵付け、溶接などの各種の技法と共に 適宜選べばよい。. 金属を彫ったり絞ったりする技法とは別に、溶解した金属を鋳型に流し込んで作る鋳造 の技法がある。金属加工史の上でもまた現代産業界においても重要な力旺法であるが、造 形教育の教材としても、金属の物質的特性の神秘さと自由な造形の面白さを同時に味わえ るという点で極めて魅力的な技法であると考える。. しかしながら現行の小・中・高等学校の図画工作、美術、工芸各科の学習指導要領にお いて鋳造教材は言及されていない。それどころか中学校技術科の指導要領の中でさえ板金 加工や鍛造といった、金属の塑性や被削性を利用した加工については取り上げているが、. 18.
(21) 金属のもう一つの大きな特徴である可溶性を利用した鋳造については特に触れていないの が現状である。現在、大学教育以前の段階で鋳造学習を行っているのは、工業高校や工業 高等専門学校ぐらいなものであろう。これは既に実業教育であり工業的生産手段の学習と しての扱いであって、一般教育の中の造形教育とはかけ離れたものである。 私見であるが、 「金属を溶かし型に流し込む鋳造は大変な手間と大がかりな設備が必要 であり、しかも大きな危険が伴うので、とても小中学校の教育の現場には持ち込めない」 という既成概念が定着している。だがこのような固定された考え方をもう一度洗いなおし. てみることも必要である。現にイギリスやスウェーデンの中学校ではこの鋳造学習を実施 している(5)のだから、我が国とて鋳造教材といえども実施不可能ではないはずである。. 〔引用文献〕. (D工作・工芸教育の新展開石原英雄 ぎょうせい 1986 (2)同上 (3)同上 (4)同上 (5)同上. 19.
(22) 第二節 手工・工作・工芸教育の中の金属工作 本節では我が国の近代以降の工作・工芸教育史における金属教材の取扱いを、文献資料 によって探ってみたい。なおこの対象となるものは、あくまでも学制以後の初等・中等教. 育であり、伝統的な徒弟制度の中に於ける訓練や専門学校における実業教育、職業教育は 対象としていない。. 明治19年(1886)「手工」は高等小学校で加設科目として、師範学校では必修として始あ. られた。また明治23年には小学校令が改正され、尋常小学校でも手工が加設科目として設. 置されて義務教育のなかに位置を占めるようになった。しかし当時手工を出動した小学校 は殆どなく、師範学校にもこれを教授できる人材はなかった。そこで文部省は明治20、21 、22年にわたり上原六四郎らを講師として手工科教員養成のための講習会を開いた。その. 第一回講習会の開会式で、文部大臣森有礼は訓示を述べ、その中で次のように手工科設立 の趣旨を語っている。(1). 「手工、農業ノ学科バー一…一之全ク児童二勤労ノ習慣ヲ養成シ、懸鼻ズルニ及ンデハ、以. テ独り其一己人ノ自校自ヲ得ル為ノミナラズ、其家族・親戚・朋友・同郷及国民ノ基本ヲ. 得セシムルニアリテ、即能ク、国民教育ノ趣旨ヲ達センが為ナリ。……此ノ農商工ノ三科 ハ、皆大二人生ヲ利スル処ノモノナルが故二、各小学児童ヲシテ、各々歩ヲ得シムルハ十 六ハシキコトナリ。殊二農業・手工忠良二属スル実地訓練ハ別段頭脳ヲ苦シムルモノニア ラズシテ、反テ其筋骨ヲ強クシ、其感官ヲ快クスルヲ得ルモノナレバ、一日五時間ノ科業 ノ外二於イテ、此ノ訓練ヲ課スルコト潮解妨ゲナカルベシ。」これによって手工科は手工 業学習という実業教育として始まったことがわかる。 それに先立っ明治19年(1886)、高等師範学校の理化学科に手工科が設置されていたが、 明治23年(1890)4月から授業を開始した。この高等師範学校理化学科の手工では、第一、. 二学年に毎週2時を課して木工とともに金工を教授し、第三学年には凡そ5時間、手工教 授法を講じた。歯科の卒業生には、手工科の免許状が与えられた。 また明治23年(1890)東京工業学校に修業年限二年の機械特別科が設置され、手工及び図 画の教員の養成を図った。ここでは図画は第一、第二学年を通じて毎週10時間、工具使用. 法が第一学年毎週3時間、実習は第一、第二学年を通じて毎週13時間半乃至20時間半を課 し、また手工教授法も課した。実習は指物及び元物、軸轄:、木型、鋳造、板金工、仕上げ 、鑛工、鍛工、製図を課した。. 20.
(23) 翌明治24年(1891)の小学校教則大綱では初めて手工科の目的とともに使用する具体的な 教材についても示されることになった。. 「(前略)尋常小学校ノ教科二手工ヲ加フルトキハ紙、糸、粘土、麦藁等ヲ用イテ簡易 ナル細工ヲ授クベシ。高等小学校ノ教科二手工ヲ加フルトキハ紙、粘土、木、竹、銅線、 鉄葉,鉛等ヲ用ヒテ簡易ナル細工ヲ授クベシ。(後略)」(2) 当時の手工科の実施状況を明治26年(1893)の大日本教育会の調査報告(3)でみてみると 、次のようである。. 明治二十六年大日本教育会手工科調査報告(抜粋). 師範学校 「一 手工ノ種類及ビ区分」. 「各府県師範学校二於イテ施ス所ノ手工ノ種類ハ木工ヲ主トシ、金工・竹工之二次グ又粘 土細工・紙細工ヲ課シ、或イ山畑納金工科ノ講義ノミヲ課スルモノアリ左二之ヲ示サン」 「木工 指物 報薩細工 鋳型(至テ少シ)」. 「金工 鉄葉細工 針金細工鐡付真鍮同細工 鋳物 仕上 鍛冶 施盤細工(至テ少 シ)」. 「但シ金工ヲ課スル所出凡テ少数トス」 (中略). 「一生徒ノ製作成績物ノ名称及ビ種類」 「金工」. 「金網 漏斗 手ランプ 石鹸入 火起シ 匙手燭 筆入筒 石油壺 茶筒 如露酒 精燈 火箸 水注ギ 水差 ピンセット 五徳 文鎮 簡単ナル理化学器械 ランプ傘 魚災網 灰節 灰均シ 十能 蝶番 錠前 抽出取手類 ワサビ卸シ 其他簡単ナル金具 類」. 小学校 「小学校二品スベキ手工ノ種類及ビ区分」 「高等科」. 「金工(未ダ課シタル所ナシ)」 「尋常科」. 金工についての記述なし(筆者). 21.
(24) 上記のようにノ」\学校においては尋常科・高等科共に金工教材が実践された形跡はなく、. 師範学校においても極めて僅かであったことが窺い知れる。しかしながらこれと同じ頃、 明治25年(1892)に出版された一戸清方(1859−1912)の「理論実際手工書」には、石川県. 師範学校附属小学校や同県下の幾つかの小学校での実践に基づいた教授細目が書かれてお り、創設当時の手工科の内容を窺い知ることができるがその中の「高等小学校手工教授細 目」・「第四学年」に金工についての記述が見られる。(4) 「金細工」. 「一霜葉ヲ面白切噴、木槌、烙銀等ヲ使用シテ以テ漏斗、胡麻熱ヲ製ラシム」 「二 真鍮板ヲ与工皮ムキ、包丁ノ柄及ビ引手ヲ製ラシム」. 「三亜鉛、鉛ヲ与へ生型ニヨリテ文鎮、置物ヲ製ラシム」 「四 製リタル十二色止セシム」. このように例外的ながら金工教材を試みた記録も残っている。この中で三の内容(下線 部)は鋳造教材の記述として珍しいものである。明治26年の手工科調査報告では小学校で の金工の実践例は無いことになっているので矛盾を感じなくもないが、一戸が実践可能な 教材案として書き記した可能性もあろう。. 黎明期の手工教育界を代表する教育学者としては後藤牧太、上原六四郎、手島精一の三 人があげられるが、彼等は木工第一主義を唱えた点で共通している。この木工中心主義の 手工はスウェーデンのスロイドシステムに影響を受けたものであったが、これが長く我が 国の手工・工作教育の主流となり、後々まで大きな影響を与え続けることとなった。この スロイドシステムとはオットー・サロモン(Otto Salo皿on,1849一一1907)が北欧の伝統 的手工:芸を調査、検討して、教育的手段として組織だてしたもので、ネースシステムとも いわれるものである。. サロモンは1877年フィンランドに手工教育の先駆者ウノ・シグネウス(Uno Cyg皿aeus. 1810−1888)を訪ね、彼の教育理念に傾倒したが、その手工教育における組織法や教授法 には改善の余地があると考えた。帰国後面は教育的意義を持つ手工の科学的研究を始め、 所謂〔教育的手工〕を完成させたが、その目的について次のように主張した。(5). (教育的手工の形式的目的) (1)一般的に労作に対する趣味と愛を浸潤させる。 (2)自愛で真面目な肉体労働に対する尊敬を教え込む。 (3)自主と独立の気風を発達させる。. 22.
(25) (4)秩序・精密及び清潔の習慣を養う。 (5)形に対する目と感覚を訓練する。 (6)注意・勤勉及び忍耐の習慣を養う。 (7)体力の発達を促進する。. (教育的手工の実際的目的) (8)道具を使う器用さを直接的に与える。 (9)正確な仕事をする。. サロモンは彼の〔教育的手工〕を実施する上で、北欧の伝統的な家内手工芸(スロイド )について、教材としての適性を比較調査し、学校の授業時数と教師の負担を考慮して、 「木工」一種に教材を絞るべきであるとした。. (サロモンが実施した手工の教育的適性調査に於ける10条件) (1)児童の能力に一致するか? (2)児童の興味をそそり、それが持続するか? (3)有用な物を作れるか? (4)順序と正確さを教えられるか? (5)清潔で明瞭な作業か? (6)形の感覚を養えるか?. (7)衛生的観点から有益か(身体を害せずに発達出来るか)? (8)机に座す悪い結果を解消できるか(体育上)?. (9)方法的に配列できるか(仕事が多く易より難に進めることができるもの)? (10)手の器用さを教えられるか(多くの道具、多くの操作がある方が良い)?. サロモンはスウェーデンのネースにネース手工師範学校を設立し、大勢の工作・工芸専 門の教師を世に送ったが、後藤牧太(1853−1930)は明治21年手工科取調としてスウェー デン・ネース手工師範学校に出張して親しくサロモンの教えを受け明治23年帰国した。同 年後藤は東京工業学校機械特別科において手工教授法を担当する傍ら、翌年高等師範学校 理化学科教授に就任し手工科を新設してスロイドシステムによる手工教育を講じた。後藤 は手工教授の「木工及び竹工の標準教材40選」を選定し、番号順に易より難へと進めるよ う配慮したが、標題の示すとうり素材は全て木と竹であり、これはサロモンがネースで実 施した「縮小された基本的な系列」と呼ばれる一連の教材の系列の日本版とも言うべきも. 23.
(26) のであった。(6>. 上原六四郎(1848−1912)は日本手工教育の開祖と呼ばれる人物であるが著書「手工講 義書」の中で彼の手工教育における教材観を次のように述べている。(7). 「手工科ヲ実施スルニ際シ最モ必要ナルコトハ手工科ノ種類ヲ選択スルコトトス。何ト ナレバ其ノ種類ノ選ビ方ハ実二手工科ノ本旨二関スレバナリ。(中略)以上ノ旨趣ニヨリ テ手工ノ目的二最モ適当ナル工芸ヲ考フルニ木工ナリ。此ノ工芸タルや清潔ニシテ応用ノ 途広ク、各自が日用二便スベキ、体ノ運動ヲ助クベク、手指ノ運動ヲ自在ニシ、製作物ノ. 種類多ク且美術ノ思想ヲ養フノ便アリテ教育上ニモ工芸上ニモ最モ適切ナルモノナリ。( 中略)又鍛工ハ経済的主義ヲ取ルモノハ小学校二此ノ科ヲ設クルモノアレド児童ノ体力ニ. ハ余リアル業ニシテ且ツ煩ル難キ業ナルが故二之ヲ設クル所自己ダ二審ラザルが如シ。( 後略)」このように明快に木工第一主義の立場をとっている。. 手島精一(1849−1918)は東京職工学校が東京工業学校となり、次いで東京高等工業学 校となるまで二十六年間校長として在職し工業教育に尽くした人だが手工教育の功労者の 一人でもある。彼の手工教育における教材観を次に引用してみる。㈹ 「手工二心テ課スベキ者ハ文部省小学校学科程度二掲ゲラレタル木工、鉄工見優ル者アラ ザルベシ。(中略)サテ木工、鉄工ノ優レル所以ノ者ハ、教育及ビ実業上ノ応用拡大ナリ. 。即チー片ノ木材ハ方円ノ形体ヲ作為スベシ。一塊ノ鉄ハ鋳鍛ニヨリソノ強弱ヲ異ニスル 等児童考案ノ材料トナリ、又実業二応用スベキモノ少ナカラズ。 (後略)」手島説におい. ても木工教材の優位は動かないものの、工業の専門家らしく金属素材の特質についても言 及している点は注目される。. 手工教育に関する図書で文部省が出版したものとしては、明治32年(1899)発行の「普通 木工術」執筆者一戸清方、や明治32年(1900)発行の「普通金工術」執筆者木戸伝・仙石正. 良、などがあったが、その実体は工業科の参考書であり、手工科の実際指導の書ではなか った。. 明治36年の小学校令において小学校の教科書は国定となったが、手工は検定制を維持し 、児童には教科書を使用させず教師用指導書の形を取った。翌明治37年(1904)、大日本図. 書株式会社から発行された「小学校教師用手工教科書(甲・乙・丙・丁)がそれである。 著者は上原六四郎と岡山秀吉であった。これはその後長く使用され、明治、大正期を通し. て唯一の指導書となった。この中には「課業配当表」として各学年の教材の種類と配当記 聞が示されているが、金工については高等小学校の第4学年のみに80時間中46時聞として. 24.
(27) いる。因みに竹細工と木工は高等2・3・4年で計135時間と、より重視されている。 明治40年(1907)にノ」、学校令が改正ぎれ義務教育年限が延長されるとともに図画が初あて. 尋常小学校の必修科目となったが、手工科は依然として加設科目のままであった。しかし 同明治40年の文部省訓令第一号は「(前略)而シテ教科目中手工ハ従来教育上ノ効果顕著 ニシテ将来ハ必設ノ科目ト為スノ期至ルベキヲ以テ務メテ其ノ加設ヲ奨励センコトヲ望ム 」と述べており、手工教育に携わる人々を大いに鼓舞したようである。 その翌年、明治41年に岡山はノjx学校教師用、男女師範学校の手工教授法研究のための書. として「小学校における手工教授の理論及び実際」を出版し、これを教科書として各地で 講演会を開いた。この本も大正中期まで広く読まれたが、この書には教材排列の具体例と して「教授細目」を載せており、その中に男女別に各学年の「教材配当一覧表」が示され ている。. この中で、金工は高等科第3学年において男子148時間中52時間、女子74時間中14時間 を配当している。高等科三か年で木工は男子が72時間、女子が13時間であるから前記の教 科書に比べ金工をより重視した形になっている。. また、男子にはこれとは別に「粘土石膏及易溶鋳物」という教材が28時間配当されてい るが、これは石膏細工のことだと思われる。岡山は彼の晩年の著書「初等中等手工科教材 」(1929)の中で「石膏細工は、焼石膏を水に混じて泥状となし、これを粘土・寒天若しく. は石膏の型内に凝固せしめて、種々の物体を製作するものである。(中略)尚又この細工 は彼の金属鋳物の方法に酷似するから、鋳金法に就いての一般的観念を与えることができ る。」と述べている。(g)明治24年(1891)の小学校教則大綱の中に手工科教材の具体的な. 名称として鉛が出てくるが、おそらくは石膏による型取りから発展的に錫、鉛等の乱心金 属による鋳造技法へと進める意図があったのではないかと推測する。 しかしながら岡山が鋳造教材に造詣が深く特にこれを推進しようとしたとは思えない。. と言うのも、この「初等中等手工科教材」には著者自らがその「序」と「凡例」において 「本教材発刊の企函は数年前のことに属し、その動機は我が手工教育の内容を一層豊富に し、該科向上の一助たらしめんとするにあった。爾来予は苛も公務に余暇あれば、在来の. 諸種の教材の整理、及び未だ我が国に文献なき彼我新教材の蒐集に努力した。」とか「本 書は初等及び中等諸学校に於ける手工科教授の参考書となし、兼ねて一般手工研究家の参 考に資せんとして編述したるが故に、一方に於いて教授材料の豊富ならんことを勉むると 共に、一方教授者の研究に資すべき材料の蒐集に努め、(後略)」と並々ならぬ自信と自. 25.
(28) 負を示しているように、金工教材一つとってみても六章174ページを割いて膨大な作品例 や工具、技法の詳細を述べているにもかかわらず、鋳造技法については一言も語られてい ないからである。. 1同年、明治41年(1908)には師範学校の手工教科書として、上原六四郎、岡山秀吉、阿部 七五三吉共著の「師範学校手工教科書」が発行されている。(1。)六章からなり第1章・竹. 細工、第2章・木工、第3章・色板並べ、豆細工、紙細工、糸紐細工、第4章・手工教授 法、第5章・粘土細工、石膏細工、第6章・金工、という構成であった。この教科書は明 治末から昭和初期にかけて長く使われた唯一のものであった。. その後、幾つかの紆余曲折を経た工作・工芸教育だが、大正15年には高等小学校の教科 目の改正によって、手工科は遂に完全必修の教科となった。しかし昭和12年春日華事変が. 始まり、戦時色は次第に強まっていった。この頃は戦時供出として、金属製品の回収が盛 んだった頃である。供出は梵鐘や銅像などの文化財にも及び、それらはやがて軍需産業に 回されて兵器や砲弾に形を変えていった。造形教育の世界でも、金工教材を供給すべくも ない時期であったと思われる。. やがて終戦をむかえ日本の教育界は根本的な変化を余儀なくされた。昭和22年には学習 指導要領の改定に伴い、アメリカの「アート,アンド,ハンディクラフト」の影響を受け た「図画工作科」が小中一貫した形で示された。当時の「図画工作教材単元一覧表」を見. ると、小学校5、6年の金工教材として「針金、板金製の実用品・遊び道具・模型の設計 、製作」が、また8年の金工教材として「金属製品の設計・製作」、9年忌は「金属製品 の設計・製作・修理」があげられている。金属教材では工業的趣味の養成をねらっていた ようであるが特に「金属製品の修理」というのは、はなはだ「工」的な教材である。時代. の要請であろうか。この事の是非はともかく、戦後の混乱期の中で、実際にどれほどの学 校で実施されたものか、は疑問無しとしない。. 昭和33年の指導要領の改定では中学校図画工作科は「美術科」と「技術」に分離される 。前者が「芸術性、創造性を主体とした表現や鑑賞活動に関すること」を扱い、後者は「. 生産技術に関すること」を扱うこととされたが、山形寛は「日本美術教育史」の中でに の改定によって美術科の教育は大変やりにくくなり、工作教育は事実上消滅したに等しい 。」と述べている。(、D. その後、金属工作は男子の技術科の中において金属加工と言う名称で30年以上も旧態然 とした姿のまま細々と永らえることになる。ここでは金属を板材と塊材に分け、「金工1. 26.
(29) 」では状差しやブックエンドを、 「金工∬」では文鎮やペンスタンドなどを製作すること. によって、折り曲げ加工と切断、リベットまたは半田付けと切削加工、掘削加工の技術を 学ぶのである。これは同じ金属と言う素材を使って物を作るにしても、あくまで主眼は技 術の理解、習得であり美術・工芸的な造形との関わりはもはやない。因みに中学校男子技 術科では教室の施設、備品もオットー・サロモンが100年前にネースで使用させたスロイ ドベンチに酷似した作業台をはじめとして、木工向きに整備されているところが多い。こ こにも手工科以来の木工優位の思想は連綿と引き継がれているように思う。 以上、限られた資料の中から金属教材に関する記述を拾い集めた。私見を述べるなら、 戦前の「手工」時代の先達の方が現在よりも見識を備えていたと言うことである。少なく とも「造形と材質との関わり」、(それは「目と手の関わり」と言い換えてもよいと思う. )について定見を持った人が教育界を牽引していたという印象である。金属教材に関して 言えば、戦前戦中は経済的理由から、戦後は「工」的領域として排除された、という感が ある。. 引用文献 (1). 「実践造形教育体系6」 村上陽通 開隆堂1982. (2). 「日本美術教育史」山形 寛黎明書房 1967. (3). 同上. (4). 同上. (5). 〈6). (7). (8). 「工作・工芸教育の新展開」石原秀夫・:橋本泰幸ぎょうせい1988. 同上 「日本美術教育面」山形 寛 黎明書房 1967. 同上. (8). 「初等中等手工科教材」. (1 O). 「日本美術教育史」山形 寛 黎明書房 1967. (1 1). 岡山秀吉藍田書店 1929. 同上. 27.
(30) 第三節 環境教育的視点からの教材選択 近年、科学技術の進歩と産業活動、経済活動の活発化、発展途上国を中心とした世界人 口の急増、さらに、国際的相互依存関係の進展によって、人類は地球の温暖化、オゾン層. の破壊、熱帯林の減少などの地球的規模の環境問題と、ゴミ処理問題、水質汚濁、大気汚 染等の都市・生活型公害問題とに直面した。これに伴い人間の諸活動が環境に与える影響 と環境保全との調和をいかにして図るかが世界各国共通の重要課題となってきている。こ の環境問題は今世紀も数年を残すのみとなった今日の緊急課題であると同時に次代を担う 子供たちに語り継ぐべき教育上の問題でもある。. さて、いわゆる環境教育の定義としては「環境や環境問題に関心・知識を持ち、人間活 動と環境とのかかわりについての総合的な理解と認識の上にたって、環境の保全に配慮し た望ましい働き掛けのできる技能や思考力、判断力を身に付け、より良い環境の創造に主 体的に参加し環境への責任ある行動がとれる態度を育成すること。」(、)や「人間を取り. 巻く自然及び人為的環境と人間との関係を取り上げ、その中で人口、汚染、資源の配分と 枯渇、自然保護、運輸、技術、都市と田舎の開発計画が、人間環境に対してどのようなか かわりをもっかを理解させる教育のプロセスである。」(2)などがあげられる。. このような環境教育の理念は1972年のストックホルム国連人間環境会議をきっかけとし て国際的に広がり、1975年のベオグラード国際環境教育会議において「ベオグラード憲章 」(3)として明確化された。この中では環境教育の拠り所となるべき6項目の具体的目標 を以下のようにあげている。. 1「関心」「全環境とそれにかかわる問題に対する関心と感受性を身に付けること。 2「知識」:全環境とそれにかかわる問題及び人間の環境に対する厳しい責任や使命に ついての基本的な理解を身に付けること。. 3「態度」:社会的価値や環境に対する強い感受性、環境の保護と改善に積極的に参加. する意欲などを身に付けること。 4「技能」:環境問題を解決するための技能を身に付けること。 5「評価能力」:環境状況の測定や教育のプログラムを生態学的・政治的・経済的・社 会的・美的、その他の教育的見地にたって評価できること。 6「参加」:環境問題を解決するための行動を確実にするために、環境問題に関する責. 任と事態の緊急性についての認識を深あること。. 28.
(31) その後1982年のナイロビ宣言(4)では「広報、教育及び訓練を通じての環境の重要性に. 対する一般的及び政治的認識を高めること」が、そして1987年の環境と開発に関する世界 委員会(5)では、環境教育は「あらゆるレベルの公式の教育カリキュラムの中に位置付け ること」 「成人教育、仕事上の研修、テレビあるいは非公式的な方式による広範囲の人々 への普及」が緊要であることとされた。. このような環境教育に対する意識の高まりを受けて、我が国においても官民にわたって その教育内容や教育方法の具体的な検討の必要性が叫ばれている。文部省発刊の環境教育 指導資料㈹によればその基本的な考え方は次のようになる。 (1)環境教育の目的は、環境問題に関心をもち、環境に対する人間の責任と役割を理解 し環境保全に参加する態度及び環境問題解決のための能力を育成することにあると考 えられるので、環境教育は家庭、学校、地域それぞれにおいて行われなければならな い。. (2)環境教育は、幼児から高齢者までのあらゆる年齢層にたいしてそれぞれの段階に応 じて体系的に行われなければならない。特に、次の世代を担う幼児児童生徒について は、人間と環境の関わりについての関心と理解を深めるための自然体験と生活体験な どの積み重ねが重要である。幼児期児童期においては、自然との触れ合いの機会を多 くもたせ、子供のみずみずしい感受性を刺激し、様々な発見の中から好奇心を育て、 創造力育成の基礎をつくることが必要であろう。そして発達に伴って、子供の関心と 生活体験を軸にして、問題解決のための課題や方法を見いだす能力を育て、環境の改 善や保全、創造に主体的に働き掛ける態度や参加のための行動力を育てていくことが 必要である。 (3)環境教育は、知識の習得だけにとどまらず、技能の習得や態度の育成をも目指すも. のであり、科学に根ざした総合的、相互関連的なアプローチが必要である。さらに生 涯学習として学校教育と家庭教育、社会教育の連携の中で継続して展開されなければ ならない。. (4)環境教育は、消費者教育の視点も併せもつものである。日常生活は様々な商品を消 費することで成り立っている。それらの商品は、生産、流通、消費というプロセスを 経て廃棄されており、それらの各過程において不要物や汚染物を出して、環境に負荷 を与えている。したがって、環境保全に対して人間が責任を果たすたあには、生産過. 29.
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