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教育財政における政策過程の計量分析 : 比較制度論からの考察

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(1)Title. 教育財政における政策過程の計量分析 : 比較制度論からの考察. Author(s). 橋野, 晶寛. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 64(2): 261-275. Issue Date. 2014-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7336. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第64巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.64,No.2. 平成26年2 月 February,2014. 教育財政における政策過程の計量分析 一比較制度論からの考察−. 橋 野 晶 寛. 北海道教育大学旭川枚数青学教室. AQuantitativeAnalysisonPolicyProcessofEducationFinance FromtheViewPointoftheComparativeInstitutions. HASHINO Akihiro. DepartmentofEducation,AsahikawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 本稿では,時系列横断面データの計量分析に基づいて,教育財政をめぐる政策過程について 鳥轍的な視点から考察を試みる。従来,教育政策・財政に関する政策過程を対象とした研究の 多くは事例分析によって行われてきたが,本研究ではそれらのSmalトNの事例分析では明ら かにしえない非時変的な制度的要因の作用に着目し,分析を行う。1970年以降の先進国の教育 財政支出を対象として分析を行った結果,権力の集中を促す民主幸義制度の下では,過去の支 出実績への依存度が低くなるとともに,政権政党の政策選好の支出への反映度が高くなること が明らかになった。. 1.はじめに. 本稿は,教育財政をめぐる政策過程について,比較政治制度論の枠組みに基づいて鳥轍的に考察すること を企図するものである。. 教育財政をめぐる意思決定過程を予算政治の産物と解するならば,その民主的統制の存否を問うことは教 育政策過程研究における重要な研究課題である。そのような教育財政に関する政策過程の分析には,大きく 分けて2つのアプローチが存在してきた。1つはSmalトNの事例分析である。日本における国政レベルの 教育政策過程を対象とする研究は,Schoppa(1991)などに代表されるように事例研究に基づいて行われて きた。このような単一ないし少数ケースに基づく研究は,政策過程に関する態様の説明を時変的要因に求め,. 専ら政策形成・執行の場面におけるアクターの選好や行動に焦点を当ててきた。具体的には,日本の教育政 策過程に関する事例分析の多くは,1960年代から1980年代の時期を対象としたものであり,自民党文教関係. 261.

(3) 橋 野 晶 寛. 議員,文部省官僚,関係団体の結束・活動量に着目した知見を提示している。しかし,そこで示された政治 の専門分化という政策過程像について,民主主義政治の病理と解釈するか生理と解釈するかはともかくとし て,記述の解釈の基盤をなす理論的な枠組を欠くために,現象の記述が空間・時間的にどこまで敷術できる という点について自覚的であったとは言い難い。. もう1つはLarge−Nの計量分析である。教育財政支出水準を被説明変数とした横断面データないし時系 列横断面データによる政策過程分析では,漸増主義や教育財政における政治一政治アクターの政策選好が 教育財政支出を規定する−を見出している(Verner1989,Castles1989,Saeki2005,Iversons&Stephens 2008)。これらの既存の計量分析の多くは,政治の発見に重きが置かれているゆえ政治変数の作用が状況に 関わらず一様であると仮定されており,政治の異質性およびその異質性をもたらす要因の考察は等閑視され ている。. これらの行動論的な研究の知見は,政策形成・執行が安定した環境下で行われている限りにおいては有用 であるが,その環境について変動が起こりうる時には再考・相対化の余地が生じる。無論,環境変数はその 環境内におけるアクターの選好・行動変数よりも時間的変動が少ないため,量的手法であれ,質的手法であ れ,空間的変動を持つデータの分析に基づく考察が必要となる。本稿ではIJarge−Nのデータの計量分析と いう戦略を採用するが,その際に,既存研究の多くが注力した政治の発見ではなく,政治の異質性の説明に 重きを置き,考察を進めてゆく。すなわち,政治アクターの政策選好などの政治的要因が教育財政という政 策出力を左右するかという問題を程度問題として捉え,その程度は状況に関わらず一定なのか,一定でない ならばその違いは何によってもたらされているのか,という点を問うこととする。 その政策過程の異質性をもたらしうる環境要因として,特に,民主主義政治に関わる制度に着目する。比 較政治学の分野においては,新制度論的な視点から財政や社会保障などの公共政策を時系列横断面データに よって分析する実証研究が蓄積されてきた。本研究においても,その枠組を議論の出発点として実証分析を 行う。本研究の意義は,そうした比較政治制度論的な枠組を教育政策過程分析にも応用し,既存研究におけ るアクター中心主義的な政策過程像を相対化することにある。また,日本においては1990年代以降の一連の 政治・行政制度改革によって,地方分権と並んでイギリス型の政治主導が志向されてきた。各々の制度改革 は途上にあるが,その制度改革が教育政策にもたらす影響を予測する上でも,本研究の試みは資するところ があると期待できる。. 本稿の構成は以下のとおりである。続く2節では,比較政治制度論の理論的・実証的文献の知見を整理・ 検討し,実証分析の仮説を提示する。3節では,項目反応理論によって制度変数の情報縮約を経た上で,時 系列横断面データを用いて,教育財政に関する政策過程の計量分析を行う。4節では実証分析の知見をふま えて,日本の教育政策・財政への示唆を述べる。. 2.分析枠組 2.1.比較政治制度論における視座. 代議制民主主義では様々な政治的・非政治的アクターが存在し,政策形成・決定の場におけるそれらのア クセスの可否や程度は一様ではない。仮に政権政党が中心的なアクターであるとしてもその政策選好が政策. 出力として反映するまでには多くの過程があり,その反映度あるいは他のアクター(野党,官僚,与党内の 議員,利益団体)などの関与の機会は各国の政治制度に応じて構造的に制約されている。すなわち,政策過 程の異質性は制度的制約の相違によってもたらされる。Lijphart(1984,1999,2012),Tsebelis(2002), Strometal.(2003)は,こうした比較政治制度論において包括的・傭轍的な視座を与えるものである。. 262.

(4) 教育財政における政策過程の計量分析. Lijphart(1984,1999,2012)は,権力の中心であるアクターに対して,他のアクターがどの程度抑制的 勢力として関与するかという点から,民主主義の類型化と各国の民主主義制度の位置づけを行っている。民. 主主義制度のモデルには「多数主義的民主主義(majoritariandemocracy)」と「合意主義的民主主義 (consensusdemocracy)」とがあり,この2つの理念型の極の間に各国は位置づけられる。 多数主義的民主主義とは,権力の核となるアクターが,野党,利益団体,司法府,地方政府の干渉を受け ることなく,立法,政策決定を行うことができるような,権力の集中を促す民主主義制度である。一方で合 意主義的民主主義とは権力の制限及び多くの参加者による共有を促す民主主義制度である。Lijphartは10 の政治制度変数に関する因子分析を行うことによって,執政府一政党に関する次元と単一国家一連邦制に関 する次元という2つの次元を析出し,民主主義を位置づけている1。また,Lijphart(1999,2012)では,多 数主義的民主主義と合意主義的民主主義の相違によってもたらされる帰結−マクロ経済的パフォーマン ス,民主主義政治の質,社会政策−を分析し,合意主義型民主主義の優位性を主張している。Lijphart (1999)の因子分析について,政治変数の選択の根拠や個別の指標,因子分析の解釈,制度の帰結に関する 議論について疑問なしとしないが,民主主義政治制度を鳥撤する見取り図を与えた点で非常に有用である2。 Tsebelis(2002)は,政策転換の際に同意が必要とされる個人または集合的アクターである「拒否権プレー ヤー(vetoplayer)」に着目した比較政治制度論である。Tsebelis(2002)は,従来の政治制度研究が,体 制(議院内閣制/大統領制),政党システム(二大政党制/多党制)というように要素ごとの比較を行って いるため,各要素の相互作用について考慮していない点を指摘しており,拒否権プレーヤーの観点から政治 制度の比較,政策過程における帰結の説明を試みている。言い換えれば,拒否権プレーヤー論は,前述の Lijphart(1999)の制度の因子分析とは異なった形で民主主義政治制度の情報を縮約するものであり,各国 の政治制度の相違は拒否権プレーヤーの配置に翻訳されることになる。 Tsebelis(2002)の拒否権プレーヤー論における説明の対象は,政策の安定性(現状の変更の難しさ)で あり,拒否権プレーヤーの配置によってこの政策安定性が規定されることを理論化している。具体的には, 拒否権プレーヤーの数,拒否権プレーヤー間のイデオロギー的距離が大きくなるに従い,この政策安定性は 高まるという仮説を提示している。 Strometal.(2003)は,プリンシパルーエージェント論による民主主義政治制度の包括的な理解であり, 民主主義政治の過程を委任の連鎖の過程として把握する。すなわち,制度的な相違はプリンシパルがエージェ ントを統制するメカニズムの相違として解釈され,制度のもたらす帰結はアカウンタビリティの観点から考 察される。Strom(2000),Strometal.(2003)によれば,プリンシパルがエージェントを統制するメカニ ズムは事前的なものと事後的なものとに大別される。事前的メカニズムとは,エージェントとの契約あるい はエージェントの選抜・選択によって,違背的選好や無能といったエージェントに関する「隠された情報」 (hiddeninformation)に対処し,逆選択を抑止するメカニズムである。政治制度においては選挙(議員選 挙,大統領選挙,党首・総裁選挙)が該当する。一方,事後的メカニズムとは,監視,チェックによって, エージェントの違背行動など「隠された行動」(hiddenaction)を矯正し,モラルハザードを抑止するメカ ニズムである。Strometal.(2003:Ch3)は,事後的メカニズムをさらに「分割(partition)」と「外的チェッ ク(check)」の2つの形態に大別しており,前者には連邦制やコーポラティズムなどが,後者には司法に よる違憲審査,大統領による拒否権やレファレンダムなどの議会外制度などが該当する。 Str81Tletal.(2003:Ch3,23)は民主主義政治制度の相違のもたらす帰結について,過程としてのアカウ ンタビリティと結果としてのアカウンタビリティの観点から,以下のような理論的な予測を与えている。ま ず過程としてのアカウンタビリティに関して,事前的メカニズムは,効率性,政策の一貫性の点で長けてい るが,透明性に欠け,事後的メカニズムはこの事前的メカニズムと表裏の関係にある。結果としてのアカウ. 263.

(5) 橋 野 晶 寛. ンタビリティに関して,事前的メカニズム(凝集的な政党による競争),事後的メカニズム(議会外の制度 的制約)はともに一般的にエージェンシーロスを抑制する。後者に比較して前者は,エージェントの不作為 や政策間の矛盾・非一貫性という点でのエージェンシーロスを小さくするが,一方でプリンシパルの選好と エージェントによって達成された政策の差,エージェントの違背による私益追求が大きくなるという点で エージェンシーロスが生じる。. これらの3つの理論に共通するのは,ウェストミンスターモデルあるいはその発祥であるイギリスをベン チマークとしていることである。すなわち,Lijphart(1984,1999,2012)における多数主義型民主主義, Tsebelis(2002)における拒否権プレーヤー数および拒否権プレーヤー間の選好の相違が最も小さい状態, Strometal.(2003)における議院内閣制の理念型(凝集性の高い政党による事前的統制に基くアカウンタビ リティシステム)として,ウェス1、ミンスターモデルが想定されている。それぞれの理論において,権力融 合型のイギリスを一方の極に,対極には権力分立型のアメリカを置き,各民主主義政体はその間に位置づけ られる。. 3つの理論の相違は理論的な視点と帰結の予測に現れる。Lijphart(1999)の「多数主義」「合意主義」 という区分,あるいは後者が前者よりも優れているという規範的な主張は代表性を問題としている。すなわ ち,「合意主義」の方が様々な政策過程の段階で異なる利害を持つアクターが関与する機会が多く,与野党 関係,政府議会関係,中央地方関係などにおいて執政府の権力を抑制するという点で,代表性が高く,また この代表性の高さゆえに一般的な国民の厚生に結びつくと予測するのである。これに対し,Strometal. (2003)は,政治過程を委任過程として把握し,アカウンタビリテイ(委任関係におけるエージェンシーロ スの少なさ)を問題にする。アカウンタビリティシステムとしては,凝集性の高い政党間の競争による事前 的メカニズムと議会内外における権力分散やチェックによる事後的メカニズムがあり,この2つのメカニズ ムの配分として各民主主義政体の制度配置の情報を縮約し,帰結を予測する。Tsebelis(2002)の拒否権プ レーヤー論は,民主主義政治制度に関する情報は拒否権プレーヤー間の政策選好の相違として翻訳され,政 策変化が予測の対象となる点でLijphart(1999)のような政策の方向性の予測と性質を異にしている。. 2.2.政治制度の政策的帰結. 上記の理論に関して,民主主義政治制度の政策的帰結に関する実証分析は一定の蓄積がなされている。 Tavits(2004)は,Lijphart(1984,1999)の分類に沿って,その帰結について実証分析を行い,合意主義 的民主主義では社会的弱者や多様な利益団体の利害を代表しやすいがゆえ,政府支出の規模は多数主義民主 主義よりも大きくなるという仮説を計量分析で立証している。Tsebelis(2002)の拒否権プレーヤー論に関 する実証分析としては,先進国の予算構成の変動について分析したTsebelis&Chang(2004),労働政策に おける新規立法について分析したTsebelis(1999)などがあり,いずれも拒否権プレーヤー論の予測を支持 している。. 個別の政治制度に焦点を当てた実証分析については,財政的な帰結を説明の対象としたものに限ってもか なりの数が存在する。説明変数として取り上げられる変数は,体制(大統領制/議員内閣制),選挙制度, 権力分散的制度(二院制や地方分権,司法の違憲審査など)などであり,被説明変数として議論となること が多いのは,政府総支出(政府の規模)および財政赤字,社会保障関係支出である。政府支出(政府の規模). および財政赤字を対象として政治制度の作用を分析したものとしては,Persson&Tabellini(2003), Milesi−Ferettietal.(2002),Bawn&Rosenbluth(2006),Woo(2003),Franzese(2002),Kontopoulos& Perotti(1999),Perotti&Kontopoulos(2002)などが,社会保障関係支出に関する分析としては,Huber etal.(1993),Crepaz(1998,2002),Crepaz&Moser(2004),Swank(2002),Iversen(2005),. ?64.

(6) 教育財政における政策過程の計量分析. Iversen&Soskice(2006)などがある。 財政や社会保障政策と比較すれば,比較政治制度論の文脈で教育政策を対象とした研究は非常に限られる が,近年では少ないながらも実証分析が見られるようになった。Busemeyer(2007)は,先進国のパネルデー タを用いて,拒否権構造および財政的分権に関わる政治的制度と教育財政支出(対GDP比)との関係を分 析し,拒否権構造は教育財政支出に対して負の影響を,財政的分権は正の影響を及ぼしていることを明らか. にしている3。一方,先進18カ国のパネルデータを用いて分析を行ったIversen&Stephens(2008)では, 拒否権ポイントに関わる憲法構造は教育財政支出(対GDP比)などの人的資本関係支出に統計的に有意な 影響をもたらしていないと報告されている。Ansell(2010)は,選挙制度に焦点を当て教育財政支出への作 用を分析し,比例的選挙制度の下では政権の党派性の影響が嬢和されることを示している。 既存の多くの実証分析における政治制度の考察の焦点は,政策出力の変動に対する主効果にあり,代表性 と拒否権構造の点から制度変数に関する仮説が立てられる傾向がある。しかし,これには,理論と実証にお けるモデルの対応関係を曖昧にし,一貫しない実証分析の結果に対してアドホックな解釈が施されるという 点で難点がある。例えば,社会保障政策に関する政策出力(=財政支出)を被説明変数とした実証研究に関 して,Lijphart(1999,2012)では,ウェストミンスター型の対極にある合意主義的民主主義制度の下で社 会保障政策が充実するという結果が得られている一方で,Huberetal.(1993)では,同様の少数派が多数 派の権力を抑制する制度(連邦制,大統領制,比例代表選挙制度,二院制)の下では社会保障は抑制される ことが示されており,一貫した解釈が難しい。また理論的に考えれば,政権を構成する政党を含め多くの拒 否権プレーヤーを包含するということは社会保障政策であれ他の政策であれ,政策転換を困難にするのであ り,その制度構造自体が政策出力の水準を左右するとは予測し難い。 こうした制度変数に関する知見の非一貫性や解釈の不定性を乗り越えるために,実証分析に際して明示化 しておくべきは,政治制度の作用の経路に関する想定である。すなわち,多くの先行研究が想定しているよ うに政治制度自体が直接的に政策出力に作用するのか(主効果としての作用),他の変数の状態に依存して 作用するのか(交互作用),という点である。後者について考えられる例は,予算政治において当年度の支 出が前年度の実績に依存する度合いは政策決定の環境をなす政治制度によって異なるという予測である。す. なわち,権力分散的で多くの拒否権ポイントを包含する制度の下では前年度実績からかけ離れた政策決定を 行うことは困難となる可能性がある。本稿のスタンスとしては,こうした交互作用を検証の中心に置くとい う立場を取る。というのは,それが理論的にも一貫した解釈を与えるモデリングであり,初期の教育財政の 計量分析に関する文献の知見(インクリメンタリズムおよび政治アクターの政策選好の反映)および事例分 析によって得られた教育政策過程分析の知見(専門分化による民主的統制の後退)を相対化できる点で極め て有用だからである。. 教育財政の計量分析に関する文献の中では,上述のAnsell(2010:Ch4)はこのような制度の交互作用を 分析の対象としている。すなわち,比例代表的な選挙制度の下では,内閣の一元的な党派性の教育財政支出 (対GDP比および対一般政府支出比)への反映度が横和される一方,政権公約における教育政策個別の政 策選好の反映度がより大きくなるという結果を得ている。Ansell(2010)の分析は選挙制度に焦点化したも のであるが,本稿ではより包括的な政治制度の特質が教育財政の政策過程に及ぼす作用を考察する。. 265.

(7) 橋 野 晶 賓. 3.教育財政の政策過程の計量分析 3.1.政治制度における権力の集中度一項目反応理論による情報縮約− 2節で見たように比較政治制度論において,権力の集中・分散の度合いは単一の制度ではなく複数の政治 制度の組み合わせから考察がなされてきた。本研究では政権政党が関与する2つの局面,すなわち,与野党 間関係と政府内関係における権力の集中・分散を制度変数として考える。まずこの2つの面における制度的 な権力の集中度について情報縮約を行う。. 3.1.1.与野党間関係における権力の集中・分散. Powell(2000)は,権力の集中・分散について,憲法構造における多数派選出ルールである選挙制度とと もに意思決定ルールである議会制度に焦点を当てている。この場合の権力の集中・分散は主として政権政党. と野党との間における関係を指しており,政策決定において与党がどれだけ野党の影響力を排除することが できるか,あるいは野党が与党の意思を修正できるかということを意味する4。. Powell(2000:34)は20ケ国を対象として,1)常任委員会制度の存在,2)委員長ポストの配分,3) 与党の議事運営権,4)委員会における政府案の修正の制限,という4点から与野党間における権力の集中 度を評価している。1点目の政策分野ごとの常任委員会の有無は,野党と与党一般議員による政府の監視の 能力を示しており,細分化・専門化された常任委員会の存在は政府案に対する監視・修正能力を高めるもの であると解釈できる。2点目の委員長ポストの野党配分は委員会における委員長ポストが専ら与党によって 占められるか否かというものであり,委員会における野党の影響力を意味する。つまり,これらの委員会に 関わる要素は多数主義的な意思決定とは反目することになる。3点目の政府与党の議事運営権,4点目の委 員会の政府案修正の制限は,本会議における政府与党の権限の大きさに関するものと解釈できる。政府与党 の議事運営権について,Powell(2000:34−35)はD8ring(1995)の議事運営権に関する7段階のランク(1 =与党が単独で議事運営∼7=議院による議事運営)のデータを3段階に再コード化している。本節の分析 もこのPowell(2000:34)の評価によるデータに基づくが,対象となった20ケ国に加えて,アイスランド, ルクセンブルク,ポルトガルの3国についても同一のデータ出典から同様にフォローし,日本の備について は増山(2003:62)を参考に再コード化して用いる。Powell(2000)は4つの項目を勘案して各国を3つの クラスに分けているが,本研究では項目反応理論を用いて4つの質的変数から与野党間における権力の集 中・分散に関する一元的な潜在変数を得ることとする。. 3.1.2.政府内関係における権力の集中・分散 戦後日本の首相の制度的権力に関して,1946年成立の内閣法は新憲法体制の下で制定されたが5,戦前の 各省体制が行政事務の分担管理原則として戦後にも温存され,内閣が合議体として規定され,内閣総理大臣 の権限については憲法における規定(72条)よりも弱い権限しか与えられなかった(岡田1994,川人2005)。 この内開法による規定は,1999年の内閣法改正によって閣議における内閣総理大臣の発議権の明示化および スタッフの強化が図られたものの,戦後に渡って維持されてきた。日本の内閣総理大臣の権力は理念的な権 力集中的な議院内閣制よりも弱いものとして規定されてきたことになるが,以下ではStr8metal.(2003: Ch4)に従って,改めて比較制度論的視点から首相の権力について相対的に位置づけることとしたい。 Strometal.(2003:Ch4)は,議院内閣制を委任の連鎖として分節化した上で西ヨーロッパの議会制度の 記述・比較を行い,1)建設的不信任,2)首相を通じた大臣のアカウンタビリテイ,3)大臣の任命,4) 大臣の罷免,5)各省庁の管轄の決定,6)大臣への指揮,7)閣議における議事の統制,8)閣議におけ. ?66.

(8) 教育財政における政策過程の計量分析. る意思決定ルール,9)首相直属のスタッフ,の9項. 表1 項目反応理論による権力集中度8の推定値. 目から総合的な「首相の制度的権力」を評価している。. 国名. Strometal.(2003:Ch4)は9項目について各項目に. オーストラリア. ウェイトづけした上で加算した総合的なスコアを算出. オーストリア ベルギー. しているが6,本研究では,このような合算方法では. カナダ. なく,前項同様に項目反応理論によって首相の制度的. 与野党間関係 政府内関係 1.080 −0.180. −0.420. −1.128. −1.253. 0.172. チェコ デンマーク. −0.268. 0.091. 権力に関する潜在変数を推定する。Strometal.. フィンランド. −0.202. −1.653. (2003:Ch4)のデータは西ヨーロッパ諸国に限定さ. フランス. れているため,日本については内閣法による規定から 筆者が各項目に値を割り当てた上で,与野党間関係と 同様に項目反応理論を適用する。. 表1は,各国の与野党間における与党への権力集中. 1.720. ドイツ. −1.128. 1.720. 0.558. アイスランド. 0.120. −0.004. アイルランド. 1.720. イタリア. −0.614. 0.154. −0.328. −0.899. −0.185. −1.808. て,項目反応理論によって得られた点推定値(事後平. 韓国 ルクセンブルグ. 均)を示している。推定値から,イギリスおいて与野. メキシコ. 党間関係,政府内関係双方で権力が集中しており,議. オランダ ニュージーランド. −0.268. ノルウェー ポーランド. −1.128. ポルトガル. −0.899. ることが確認できる。日本は与野党間関係においては. 0.558. −0.202. 日本. 各下位政府が影響を与える機会が制度上制限されてい. 1.153. ギリシャ ハンガリー. 度および政府内における首相への権力集中度につい. 会多数派によって形成される内閣に対して野党および. 0.477. 1.080 −0.535. 1.017. スロヴァキア. やや権力集中的である一方,政府内関係ではやや権力. スペイン. −1.128. 分散的であり,総合的には平均的なポジションに近い。. スウェーデン. −0.984. スイス. −0.899. 1.727 −0.511. トルコ. 3.2.教育財政の政策過程の計量分析. 1.720. イギリス アメリカ. 1.727. −0.171. 3.2.1.分析モデル. 前項で推定した制度変数を基にして,政治制度における権力集中度との関係に着日して分析する。計 量分析のモデルは式(1)によって表される。 1ny…±=桝1m‡完ト1+わ1i+毎童1nβit+む封書ト1+Ⅹi曇β+J(f)+句曇. (1). 亡i∼〟(0,ポ). lpl<1 Yitは国iの年度tにおける教育財政支出対GDP比,Sは在学者人口の全人口比,Pは政権政党の教育 政策に関する政策選好である。教育財政に関する初期の実証分析ではインクリメンタリズムおよび政権政党 の党派性の影響が指摘されているが,上記のモデルはそれらの知見に対応している。先行研究における政権 政党の党派性の影響の発見は,いわば,政治の存在を立証するものであったが,本研究では包括的な左右イ デオロギーではなく,教育政策に特化した政策選好を変数化して用いる。Ⅹは統制変数であり,経済成長率 およびインフレ率を含める。f(t)の部分は全ての国に共通のトレンド効果であり,スプライン関数によっ て近似する。 式(1)では,係数bが国ごとに異なることを仮定している。特に,先行研究の知見に対応して,政策過程の. 267.

(9) 橋 野 晶 寛. 態様を示すβ(現状維持の程度)およびb3(政権政党の選好の反映度)の異質性が本研究の焦点となる。そ の異質性は式(2)のように階層モデルとしてモデル化される。. 桝=Ⅶ0+Ⅶ1Ji+叫i む1i=710+TllJi+叫i. (2). 転=竹0+叫加 わ3i=竹0+T81J去+叫i. u∼ルⅣ〟(0,∑) 吋2−g∬ア(㌦〕. Ⅰは政治制度変数(与党および首相への権力集中度)である。教育財政支出が前年度実績や支出拡充に関 する政策選好の関数であるとしても,その作用の大きさには国間で大きな相違が存在しており,それらは各 国の政治制度に条件づけられているというのが本分析の仮説である。すなわち,. 伊h11f ∂hi与ト1∂ム. 伊h鴇. <0. >0. (3). (4). ∂昂t_1∂烏. と定式化される。式(3)は,権力集中度の高い政治制度の下では漸変主義が弱まるという関係,式(4)は権力集 中度の高い政治制度の下では政権政党の政策選好の反映度が強まるという関係を意味している。式(3)および 式(4)は,上記モデルにおいてγ01<0及びγ31>0となることを意味する。これらのパラメータが非ゼロで あれば,政治制度の相違によって政策過程の異質性がもたらされると考えることができる。 なお,制度変数の主効果に関するパラメータであるγ11については,陽表的な仮説は設定しない。比較政 治学の実証分析ではLijphart(1999,2012)のように制度変数と社会政策や政府規模との関係を主張するも のもあるが,制度自体が政策の方向性をどのように規定するかは論理的には自明ではない7。. 3.2.2.データ 分析の対象となるのは,1970年から2010年までのOECD加盟国(民主制を採っていない場合はその時期 を除外)の初等中等教育および高等教育財政支出である。教育財政支出データは,1970年から1988年までの デーツは、()Lし、1)山凸Jん〃(・ム/肋V/J′川′//ムソ〃〃′/J/JJハ.(−′バ/∫J/JJ′/八■JJ′/肋イノ吋∴1〃_1JJJ/小Yふ′l/一丁’ハJJ心ノ〃㌻/ノー. J9ββ,以降のデータはOECDの且血cα′わ〝α′αGJα〝Cβ各年版のものである。在学者人口比,経済成長率 およびインフレ率についてはOECD統計データベースから得た。 政権政党の教育政策に関する政策選好については,ManifestoProjectDatabaseによる政党公約に基づい. たデータを用いる8。ManifestoProjectDatabaseは1945年以降の先進国の主要政党および1990年以降の OECD加盟国および東欧諸国の主要政党の各選挙における公約の情報に基づいて,様々な政策分野の選好 のデータを収録している。具体的には各選挙の各政党の公約を内容分析(contentsanalysis)により,各政 策分野への言及の割合(全擬似センテンスにしめる当該政策の擬似センテンスの割合)をデータ化している。. 数値の大きさは政策分野間での優先順位として解釈できる。対象となる政策分野は,外交,安全保障,経済, 社会保障,教育などである。教育分野は教育の拡充(全ての段階における条件整備“per506”)と教育の抑. 268.

(10) 教育財政における政策過程の計量分析. 制(支出削減“per507’’)という2項目のデータがあり,これらは教育支出に関する政策選好に対応してい ると言える。この2項目の差を教育政策に関する政策選好とする。 尚,先行研究では政治変数として政権政党の左右イデオロギーに基づく党派性が用いられているが,本研 究の分析ではこのような包括的な党派性を政策選好に関する変数として採用しない。これは,教育政策が社 会保障政策のように左右イデオロギーと密接な対応関係を有しているとは限らないためである。試みに, ManifestoProjectDatabaseのデータに基づいて各国の政党レベルで教育政策に関する政策選好と左右ポジ ション(左派であるほど値が大きい)9との相関係数を算出すると,平均0.253,最小値−0.058,最大値0.716. となり,教育財政拡充は左派政党にやや親和的な傾向があるといえるが,包括的な党派性が教育政策に関す る政策選好を表しているとは言い難い。. 分析に用いるデータの記述統計量は表2に示す通りである。 表2 記述統計量 平均値. 標準偏差. 最小値. 最大値. 教育財政支出/GT)P(初等中等教育). 0.037. 0.008. 0.013. 0.067. 教育財政支出/GDP(高等教育). 0.011. 0.005. 0.000. 0.030. 在学者/全人口(初等中等教育). 0.177. 0.032. 0.113. 0.290. 在学者/全人口(高等教育). 0.028. 0.015. 0.000. 0.172. 実質経済成長率. 0.015. 0.011. −0.014. 0.046. インフレ率. 0.089. 0.212. −0.045. 5.679. 3.3.分析 式(1)のモデルのパラメータ推定は,式(5)の事前分布の下でマルコフ連鎖モンテカルロ法によって行い,発. 生させた2万組の各パラメータのうち,後半の1万組を事後分布統計量の計算に用いた10。 β∼ノ吊Ⅴ〟(0,10002J). (5). 7∼ルル〟(0,10002Jl ∑∼nV(Ⅰ,6) ¢2∼引1,1). 3.3.1.与野党間関係における権力集中の作用 表3は与党への権力集中度を制度変数として用いた分析の推定結果である。表から,初等中等教育支出と 高等教育支出の双方において,権力集中的な制度によって政権政党の選好の反映度は増幅されていること, また高等教育については権力集中的な制度によって前年度実績への依存度が低くなることが分かる。 初等中等教育支出に関する推定のうち,仮説に関わるγ。1,γ31の備について見ると,前者に関しては90% 推定区間が正負に大きく跨っており,制度の作用については明らかであるとは言い難い。後者に関しては事 後分布の下で正の値を取る確率(=Pr(γ31>OD))は96%であり,仮説を支持していると言える。制度 変数の主効果に関するパラメータγ11について見ると区間推定値は正負に跨っており,権力集中に関わる制 度変数の主効果を見出すことは難しい。すなわち,権力の集中・分散自体は教育財政支出を直接規定してい ない。政策選好と制度変数の支出への作用に関して,例えば,Ⅰ=+1を権力集中的な制度,Ⅰ=−1を権 力分散的な制度として考えると,教育政策に関する選好の値が0から0.1へと変化した時,教育財政支出は,. 269.

(11) 橋 野 晶 寛. 前者において1.04倍となるのに対し,後者においてほとんど変動しない。この結果からも制度的な権力集中 が政策選好の反映度を高めていることがわかる。. 一方で高等教育支出に関しては,まず,前年度実績依存度に対する交互作用のパラメータγ01に着目する と,点推定値(事後平均)は負の値であり,負の値となる事後確率(=1−Pr(γ11>OD))はほぼ100% である。このことは権力集中的な制度の下では漸変主義が横和されることを意味しており,仮説に合致する。. またその値は−0.08となっており,前年度依存の主効果に関するパラメータγ00が0.626であるから,比較 的大きな影響を示していると言えよう。また権力の集中・分散は,政権政党の政策選好の支出への反映度も 強く規定している。政策選好の反映度に対する交互作用のパラメータγ31の値は正の点推定値,区間推定値 を示しており,また正値を取る事後確率(=Pr(γ31>OD))は96%であり,仮説を支持している。権力 集中的な制度(Ⅰ=+1),権力分散的な制度(Ⅰ=−1)の下で,教育政策に関する選好の値が0から0.1 へと変化した時,教育財政支出は,前者において1.04倍となるが,後者においては政策選好の変動の方向と は異なった政策出力の変動となる。. 表3 階層モデルのパラメータ推定値(制度変数=与野党間関係) 初等中等教育. 高等教育. β. 事後平均 90%CI下限 90%CI上限Pr(0〉OD) 事後平均 90%CI下限 90%CI上限Pr(0〉OD) −1.284. −0.378. 0.001. −1.102. −1.970. −0.223. 0.020. −0.029. −0.194. 0.134. 0.385. −0.476. −0.781. −0.172. 0.005. γ. 0.623. 0.537. 0.702. 1.000. 0.626. 0.559. 0.695. 1.000. γ. −0.020. −0.099. 0.058. 0.337. −0.080. −0.133. −0.028. 0.007. γ. −1.064. −1.345. −0.804. 0.000. −1.543. −1.868. −1.240. 0.000. −0.102. −0.359. 0.146. 0.248. −0.404. −0.613. −0.191. 0.001. 0.072. 0.000. 0.144. 0.951. 0.031. −0.052. 0.112. 0.731. γ. 0.201. 0.041. 0.374. 0.983. 0.090. −0.158. 0.345. 0.711. γ. 0.192. 0.021. 0.361. 0.967. 0.268. 0.014. 0.527. 0.960. 0.021. 0.000. 0.068. 0.999. 0.037. 0.000. 0.126. 0.999. 0.037. 0.013. 0.072. 1.000. 0.014. 0.007. 0.024. 1.000. 0.091. 0.023. 0.195. 1.000. −0.008. −0.026. 0.010. 0.205. −0.009. −0.024. 0.003. 0.122. −0.013. −0.027. −0.004. 0.008. −0.015. −0.051. 0.011. 0.191. −0.004. −0.020. 0.008. 0.296. 0.293. 0.084. 0.626. 1.000. 0.102. 0.020. 0.258. 1.000. −0.009. −0.048. 0.027. 0.331. 0.039. 0.005. 0.092. 0.979. −0.055. −0.168. 0.025. 0.142. 0.017. −0.032. 0.084. 0.700. 0.016. 0.007. 0.031. 1.000. 0.034. 0.017. 0.059. 1.000. −0.001. −0.017. 0.014. 0.456. 0.011. −0.014. 0.043. 0.752. 0.044. 0.012. 0.107. 1.000. 0.037. 0.011. 0.092. 1.000. 1. −0.828. 2. β. 00 01 10 1. γ 0 0 1. γ 1. ′め丁 ∑ ∑ ∑ ∑ ∑ ∑ ∑ ∑ ∑ ∑. 観測数=773. 観測数=763. 国数=23. 国数=23. 3.3.2.政府内における権力集中の作用. 表4は,政府内における権力の集中度を制度変数として用いた分析の推定結果である。分析結果は初等中 等教育支出と高等教育支出の分析の双方について同様の傾向を示していることが分かる。 第1に,権力集中度の前年度実績依存度に対する作用は不明確であるか,または小さいということができ る。焦点となるパラメータγ01の点推定値について見れば,初等中等教育支出の分析においては正の値を, 高等教育支出の分析においては負の値を示しているが,いずれも0に近い値であり,制度的な権力集中は仮 説に反して漸変主義の程度にほとんど影響を与えていない。. ?70.

(12) 教育財政における政策過程の計量分析. 第2に,権力集中度の主効果γ11について,初等中等教育支出の推定では点推定値は負の値であるが,推 定区間が正負に大きく跨っており,明確ではない。一方で,高等教育支出について点推定値は負の値であり, 事後分布において負の値となる確率は89%となっており,権力分散的な制度の下で支出は拡充される。. そして,第3に,初等中等教育財政支出,高等教育財政支出ともに政府内の権力集中の度合いが政権政党 の政策選好の政策出力への反映度を規定していることが指摘できる。すなわち,初等中等教育支出の分析に おけるパラメータγ31の値は正の点推定値を示し,正値を取る事後確率(=Pr(γ31>OD))は98%と非 常に高い値をとっており,仮説を支持している。高等教育支出の分析におけるパラメータも同様であり,γ31 の点推定値は正の値を示し,正値を取る事後確率(=Pr(γ31>OD))は95%と非常に高い値となってお り,同様に仮説を支持する結果が得られている。 政策選好と制度変数の作用に関しても,やはり与野党間の権力集中に関する変数を用いた場合と同様のこ とが指摘できる。初等中等教育に関して,教育政策に関する選好の値が0から0.1へと変化した時,権力集 中的な制度(Ⅰ=+1)の下では支出は1.04倍となるが,権力分散的な制度(Ⅰ=−1)の下ではほとんど 変動しない。一方,高等教育に関して,教育政策に関する選好の値が0から0.1へと変化した時,権力集中 的な制度(Ⅰ=+1)の下では1.02倍となるのに対し,権力分散的な制度(Ⅰ=−1)の下では政策選好の 変化の方向に対応した政策出力の変動とはなっていない。. 表4 階層モデルのパラメータ推定値(制度変数=政府内の権力集中) 初等中等教育 高等教育 事後平均 90%CI下限 90%CI上限Pr(0〉OD) 事後平均 90%CI下限 90%CI上限Pr(0〉OD) 1. −1.540. −0.307. −1.363. −2.495. −0.253. 0.021. −0.133. −0.332. 0.070. −0.528. −0.884. −0.176. 0.006. 0.571. 0.462. 0.674. 0.647. 0.564. 0.726. 1.000. 0.014. −0.079. 0.108. −0.022. −0.076. 0.031. 0.252. −1.161. −1.530. −0.817. −1.598. −2.029. −1.186. 0.000. 0.002. −0.294. 0.297. −0.148. −0.351. 0.050. 0.109. 0.102. 0.017. 0.186. −0.004. −0.103. 0.094. 0.478. 0.166. −0.022. 0.363. −0.118. −0.468. 0.241. 0.287. 0.203. 0.049. 0.358. 0.282. −0.007. 0.550. 0.947. 0.025. 0.000. 0.080. 0.043. 0.000. 0.142. 0.999. 0.052. 0.018. 0.104. 0.016. 0.008. 0.030. 1.000. 0.138. 0.033. 0.299. −0.007. −0.030. 0.013. 0.243. −0.008. −0.029. 0.009. −0.014. −0.030. −0.004. 0.006. −0.010. −0.052. 0.022. 0.000. −0.017. 0.016. 0.497. 0.448. 0.102. 0.988. 0.086. 0.017. 0.233. 1.000. −0.010. −0.064. 0.044. 0.030. −0.001. 0.082. 0.943. −0.036. −0.170. 0.064. −0.011. −0.080. 0.039. 0.402. 0.016. 0.007. 0.033. 0.032. 0.014. 0.059. 1.000. 0.001. −0.012. 0.015. −0.002. −0.033. 0.025. 0.453. 0.031. 0.010. 0.075. 0.040. 0.011. 0.104. 1.000. 2. −0.914. 10. 00. 1. 01 0 0 1. 観測数=594. 観測数=584. 国数=18. 国数=18. 4.考 察 本稿では教育財政支出を教育政策過程の出力として措定し,比較制度論的な視点からその政策過程の考察 を行った。予算政治の文献に拠るまでもなく,支出変動の多くは前年度実績や自然増減支出によって説明さ. 271.

(13) 橋 野 晶 覚. れるが,このことは必ずしも政治による意図的な変動の存在を否定するものではない。実際に本稿の分析で は,政権政党の教育条件整備に関する政策選好が教育財政支出に反映されるという「政治」を見出した。た だし本稿の企図は,民主主義政治を通じた意図的な教育財政支出の変動という政治の発見ではなく,その相 違の説明であり,また,その相違を規定する要因としての制度的環境の作用の分析である。議院内閣制の場 合では,権力の核となるのは自▲相であり,権力の集中は,与野党関係における与党(自▲相の選出母体)への. 権力集中,政府内関係(首相一大臣一官庁関係)における首相への権力集中,与党内部における党首=首相 への権力集中が前碇となる。権力集中的な政治制度の下では,(1)漸変主義的な政策過程は横和され,(2)政権. 政党の政策選好がより強く反映される,という仮説について,与野党間関係における与党への権力集中,議 院内閣制下での政府内における首相への権力集中に関わる政治制度に分けて分析を行った。 漸変主義に関する仮説については部分的に支持されたに過ぎないが,政権政党の選好の反映度については 仮説を支持するものであったと言える。これらから制度変数は政策決定の中心となる政治アクターの行動の. 文脈として作用していると言えよう。冒頭でも述べたように1990年代以降の日本において,衆議院における 小選挙区制導入,公認と政党助成金の配分を司る党執行部への権力集中,内閣官房の強化,自民党政権期の 経済財政諮問会議などの補佐機能の強化といった政治制度改革によってイギリス型の統治機構への転換が目 指された。この方向性は民主党においても共有されていたのであり,それは2009年9月から3年間の政権期 に行われた国家戦略室・国家戦略会議,閣僚委員会設置,党内政調会の廃止(後に復活)といった改革に見 出せる。また現象的には自民党小泉政権期に象徴的であったように,官邸主導によるトップダウン型とも見. られる政策過程が観察された11。分析結果を素直に外挿するならば,こうした政治環境の変容によって,権 力集中型の「政治主導」の政策過程を通じて教育政策・財政が大きな変動に晒される可能性が高まるという ことになる。ただし,この理論的予測について次の3点において留保が必要である。. 第1に,本稿の分析結果の示すところでは,このような政治制度の作用から予測される政策過程に照らす と,日本の教育財政をめぐる政策過程はより漸変主義的であり,政権政党の政策選好を政策出力に反映し難 くする要素が残されている点である。それは,本稿の実証分析における政権政党の政策選好の反映度のパラ メータb3に関する日本の値が,その期待値E(b3I)=γ3。+γ31Ⅰよりも低い値となっていることから判 断でき,本稿で考慮した制度的な権力集中以外の要因の考慮も必要となろう。 第2に,高等教育財政支出に関しては,政治制度の直接的な作用(主効果)が検出されており,その効果 は小さくない点である。社会保障政策に関する先行研究と同様に解釈するならば,権力分散的で包含的な政 治制度のもとで高等教育支出が拡充されることになり,政権政党の政策選好の変動による影響は小さくなる。. この高等教育と初等中等教育の非対称性についての妥当な解釈を与えるだけの定見はなく,考察が待たれる。 第3に,初等中等教育財政に関しては,教育財政の実質的な意思決定が行われるレベル自体が議論の盤上 にある点である。日本の90年代以降の政治行政改革の文脈において,政治主導と地方分権という2つの方向. 性が並列されてきたが12,地方分権という方向性自体は中央における政府・与党の権力を分散させるという 意味で議院内閣制の理念形(ウェストミンスターモデル)とは方向を異にする。戦後日本の初等中等教育財 政の水準を実質的に規定してきたのは国の標準法であり,それゆえ国政のレベルでのイシューであった13。 しかし,地方分権改革というアジェンダが引き続き存在し,義務教育費国庫負担金などの国庫補助負担金制 度とともに義務付け・枠づけも廃止の議論の対象とされてきた経緯がある以上,実質的な教育財政支出の決 定の重心が地方レベルに移る可能性がある。地方分権改革における今後の具体的展開は不透明だが,地方分 権自体が教育財政支出全体の方向性と変動にどのような影響を与えるか14という点に関する理論的・実証的 考察は今後の重要な課題である。. 272.

(14) 教育財政における政策過程の計量分析. 注 1 その結果によれば日本は2つの次元において権力が分有されている第3象限にあり,合意主義型民主主義に位置づけられ る。. 2 Lijphart(1999)に対する批判として,Anderson(2001),Bormann(2010),Tavits(2004)など。 3 財政的分権が教育財政支出増に働くという作用を「頂点への競争」の結果として解釈している。. 4 西ヨーロッパの議会制度に関するより詳細な比較分析はD8ring(1995)に見られる。Powell(2000)もD8ring(1995) のデータによるところが大きい。またD8hng(1995)の分析をふまえた日本の国会制度の位置づけについては増山(2003). を参照。 5 戦後の新憲法体制における内閣法制定の経緯については,天川(1982),岡田(1994),大石(2001)など。 6 「建設的不信任」と「首相を通じた大臣のアカウンタビリテイ」の項目はそれぞれ満たしている場合は+3,「大臣の任命」, 「大臣の罷免」,「各省庁の管轄の決定」,「大臣への指揮」,「閣議における議事の続制」の各項目を満たしている場合は+1, 「閣議における意思決定ルール」について多数決の場合は+1,首相への一任の場合は+2,「首相直属のスタッフ」につ いては政治的任命と官僚のそれぞれ+1の値を割り当てており,各国の首相の制度的権力は0∼15ポイントで評価される。 7 例えば,権力分散的な制度が多くのアクターの意思を包摂するとしても,社会政策を相対的に重視しない右派政権政党の 意思を左派アクターが抑制する場合と,それとは反対に左派政権の意思を右派アクターが抑制する場合とでは,制度変動. によってもたらされる政策変化の方向が同一であるとは考えにくい。 8 「政権政党」は政権を構成する政党であり,連立政権の場合の政策選好は第1院の議席数に応じた加重平均として定義す. る。 9 左右ポジションに関するデータは,Budgeetal.(2001),Klingemannetal.(2006)で定義されたものであり,複数の政 策分野の政策選好について正負の符号をつけて合算したものである。Budgeetal.(2001)およびKlingemannetal.(2006) では右派の方が高い数値となっているが,本稿の分析では反転値を用いる。. 10 式(1)は計量経済学の文献では,ダイナミックパネルモデルと呼ばれる。ダイナミックパネルモデルにはユニットごとの係 数について均一性を仮定するものと本章の分析のように異質性を仮定するものとがある。前者のモデルにおける推定法と しては,GMM推定,固定効果モデルで推定した上で標準誤差を修正するものがある。後者についてはmeangroup推定, 階層ベイズモデルによるものがある。本研究の推定法は後者の階層ベイズモデルによるHsiaoetal.(1999)の派生である。 11「/ト泉政治」が属人的な要因によるものなのか,制度的要因によるものかについては論者について意見が分かれる。後者の 代表的なものとしては竹中(2006)がある。竹中(2006)は小泉政権を境に旧来の「1955年体制」から「2001年体制」への大 きな政治的変化が起こったと指摘し,その中でも首相への権力の一元化が進んだことを最大の特徴として挙げている。た だし,一連の政治改革,行政改革による変化が大きなものだったかは異論もある。山口(2007)は潜在的には首相の権力. は弱くはなく,むしろ運用上抑制されてきたことを主張する。また清水(2005,2007,2009)は,小泉首相が内閣法に定 められた議会解散権,大臣の任免・指揮監督権という既存の首相の権限を最大限活用した点を強調している。 12 日本の文脈において地方分権改革は政治改革(選挙制度改革,政党助成金制度改革)を補完するものとして議論された(西 尾2007)。すなわち,小選挙区制によって二大政党制が導入されたとしても中央に権限と財源がある限り,族議員による地 元選挙区への利益誘導によって,政策政党本位の選挙が実現されないとされたのである。 13 例えば,初等中等教育財政の多くを占める教員人件費に関して言えば,教職員の定数および給与は都道府県の条例によっ て定められる(地方教育行政法41条,地方公務員法25条)。しかし,教職員の人件費に関わる国庫負担金および地方交付税 の支出根拠は,義務標準法,高校標準法といった定数に関する標準法にある。. 14 Busemeyer(2007)は,連邦・分権的国家において教育財政支出が高いという分析結果を得ており,それを「頂点への競 争」(自治体間競争)として解釈している。この知見と解釈が安当なのかは検討の余地が残されており,それは分権的制度. をどのように変数化するかに依存する。. 文 献 天川晃,1982,「新憲法体制の整備一内閣法制局と民政局の対応を中心にして−」,『年報近代日本研究4 太平洋戦争一問戦 から講和まで−¶,山川出版社. Anderson,Liam,2001,‘‘TheImplicationsofInstitutionalDesignforMacroeconomicPerformance:ReassessingtheClaims. ofConsensusDemocracy”,Co〝ゆa77divePoliticalStudies,34(4):429−452.. 273.

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