症 例
爪楊枝の胃壁穿通による肝膿瘍の 1 例
済生会滋賀県病院救急集中治療科1),市立貝塚病院外科2),堺市立総合医療センター外科3), 同 病理診断科4),大阪府立成人病センター消化器外科5) 加 藤 文 崇1) 星 野 宏 光2) 山 本 為 義3) 小 林 省 吾5) 棟 方 哲4) 大 里 浩 樹3) 爪楊枝の胃壁穿通による肝膿瘍の 1 例を経験したので報告する.症例は53歳の男性. 心窩部痛を主訴に受診した.胆石発作が疑われ経過観察していたが,腹痛の改善を認め なかったため,腹部超音波検査・CT検査を施行したところ,肝外側区域に約3.5cm大 の膿瘍と内部に針状陰影を認めた.異物の胃壁から肝への穿通による肝膿瘍と診断した. 抗生剤による保存的治療を行い炎症の改善を得た後,異物除去を目的に腹腔鏡下肝外側 区域切除術を施行した.異物は爪楊枝であった.術後は特に合併症なく,術後10日目に 退院となった.異物の胃壁穿通による肝膿瘍の診断にはCT検査が有効であった.腹腔 鏡下手術は低侵襲で可能であり,異物除去に有効であった. 索引用語:爪楊枝,肝膿瘍,腹腔鏡下手術 緒 言 誤嚥した異物の多くは,自然に排泄されるが,まれ に消化管穿孔・穿通を起こし治療が必要となるものが ある.外科的治療を要する症例は約 1 %と言われてい る.今回われわれは,爪楊枝が胃壁を穿通し,肝膿瘍 を呈した症例を経験したので報告する. 症 例 症例:53歳,男性. 主訴:心窩部痛. 現病歴:飲酒翌日からの心窩部痛を主訴に救急搬送 された. 既往歴:高血圧,糖尿病. 身体所見:身長 164cm,体重 71.0kg,血圧 144/87 mmHg,脈拍89/分,呼吸回数17/分,SpO2 99%(room air),体温36.5度.腹部平坦,軟.圧痛はなかったが, 間欠痛を認めた. 血液検査:WBC 15,380/μl,CRP 2.31mg/dl,AST 36IU/l,ALT 51IU/l,ALP 160IU/l,T-Bil 1.51mg/ dlと炎症所見,ビリルビン上昇を認めた. 腹部単純CTを撮影されたが,明らかな所見はなく 胆石発作を疑われ,経過観察となっていた.しかし, 心窩部痛が継続するため,以下の検査を施行した. 画像検査 腹部(造影)CT検査(Fig. 1):肝外側区域に高吸 収な構造物があり,胃前庭部と肝外側区域下面が接し ていた.その周囲に低吸収域があり膿瘍を疑った.高 吸収域は異物と考えられた. 上部消化管内視鏡検査(Fig. 2):幽門前庭部の小 弯前壁に白色物が付着していた.洗浄すると中央に孔 がみられ,吸引すると内部から白色の膿汁排出を認め た.明らかな胆汁流出はなかった. 腹部超音波検査:肝外側区域に35mm大の内部エコ ーが均質なhypoechoic lesionを認め,その内部に約 30mm長の細長いhyperechoicな構造物を認めた.構 造物は,胃壁との連続性はなく,全体が肝内に入り込 んでいると考えられた.エコーガイド下に穿刺したと ころ,灰色の膿汁が 4 mm程度回収できた.肝内異物 に伴う肝膿瘍と診断した.培養結果は,Streptococcus mitis, Lactobacillus sppであった. 外来経過:飲酒後 1 日目に外来受診, 9 日目に上部 内視鏡検査,16日目に造影CT検査を施行した.19日 目に入院とした.同日,肝膿瘍に対し,エコーガイド 下に膿瘍ドレナージを施行した. 入院後経過:入院後,抗生剤による保存的加療によ 2016年 4 月21日受付 2016年 5 月17日採用 〈所属施設住所〉 〒520-3046 栗東市大橋 2 - 4 - 1り,超音波画像上の所見は著変なかったが,炎症所見 の改善を認めた.異物の胃壁穿通による肝膿瘍の診断 の下,異物除去のため,入院 7 日目に腹腔鏡下肝外側 区域切除術を施行した. 手術所見:術式;腹腔鏡下肝外側区域切除術,胆嚢 摘出術,胃大網被覆術. 5 ポートで手術を開始した.肝外側区域と胃小彎と の間に強固な癒着を認めた.同部を丁寧に剥離してい くと,胃穿孔部は確認できたが,異物の全体は確認で きなかった(Fig. 3).術中肝エコーでは肝臓内に異 物を確認できた.異物の先端は可視できたが,S3 Glissonに近く,同部の損傷が疑われた.単純抜去で は胆汁漏になるおそれがあり,外側区域切除を施行し た.また,胃穿孔部に大網を縫着し,被覆術を行った. 手術時間 6 時間53分,出血量50ml,切除肝170g,肝 遮断時間163分であった. 摘出標本(Fig. 4):異物は4.5cm程度の爪楊枝であ った. 術後経過:術後は特に合併症なく経過良好であり, 術後10日目に退院となった.3 カ月間外来フォローし, 特に明らかな問題がないため終診となった. 考 察 異物誤嚥をした場合,大半は自然排泄される.その ため,穿孔などを起こし,外科的治療が必要になる症 例は約 1 %と言われている1). 穿孔・穿通部位は271例の検討によると,食道から 胃が26.8%,十二指腸から小腸が28.6%,結腸・直腸 が34.1%であった2).その中でも,回腸・横行結腸・S 状結腸に穿孔が多い2). 異物が消化管を穿通し,肝膿瘍を呈した本邦報告例 は,医学中央雑誌(2000年~2015年)において「肝膿 Fig. 1 腹部造影CT検査 上段:軸位断,下段:冠状断.矢印は異物. Fig. 2 上部消化管内視鏡検査 左:矢印は白苔付着部,右:矢印は白苔除去後.
瘍」「異物」をキーワードとして検索し会議録を除くと, 自験例含め15例であった3)~16).穿通異物の種類では, 魚骨12例,爪楊枝 3 例であった.その他の報告でも, 日本においては魚骨が多く報告されている6). 異物の診断に関しては,腹部超音波・腹部CT検査 が有用である.さらに,解像度や正確性からはCT検 査が優れていると考えられた16)~18).上部消化管内視 鏡検査は,早期に実施できれば異物抜去が施行できる 可能性がある.しかし,十二指腸から肛門側の評価に は利用できない17).今回の症例では肝膿瘍を形成して から発見された.しかし,初診時のCT検査を見直し てみると異物を指摘することができた.初診時に診断 するためには,異物を鑑別診断に入れるとともに, CTスライスの角度を変え丁寧に読影することが必要 と考えられた. Fig. 3 手術所見:丸印(異物刺入部),矢印(穿孔部). Fig. 4 摘出異物(爪楊枝) Table 1 爪楊枝の胃壁穿通による肝膿瘍本邦報告例 症例 年 報告者 年齢 性別 主訴 穿通部位 肝膿瘍部位 治療 転帰 1 2003 Kanazawa 48 F 心窩部痛 胃前庭部小弯 左葉 開腹肝外側区域部分切除術 生存 2 2010 神谷 65 M 腹痛,発熱 十二指腸下行脚 S7, 8 抗生剤投与,膿瘍ドレナージによる膿瘍改善後,上部消化管内視鏡による異物除去 生存 3 自験例 53 M 心窩部痛 胃前庭部小弯 外側区域 抗生剤投与,膿瘍ドレナージによる膿瘍改善後,腹腔鏡下肝外側区域切除術 生存
治療に関しては,異物除去が主体である.異物除去 をしない場合の治癒率は9.5%と低い19).そのため,異 物除去が基本となり,可能であれば穿孔部の閉鎖が必 要となる.異物除去の方法としては,外科的除去(開 腹,腹腔鏡下含む)が70.5%,内視鏡的除去が11.4% であった20).さらに,膿瘍に関しては,開腹によるド レナージが43.5%,イメージガイド下のドレナージが 18.2%,肝切除が8.9%,腹腔鏡下でのドレナージが 5.5%,抗生剤治療のみが6.8%であった20).予後は概 ね良好であるが,診断が遅れ敗血症性ショックによっ て死亡した報告例もあり21),早期の診断治療が重要で ある.今回の症例においては,異物の単純除去では胆 汁漏の危険性があり,肝切除の方針とした. 爪楊枝により,肝膿瘍を形成した 3 例を検討した (Table 1)9)16).年齢・性別に特に偏りはなく,特異 的な主訴はなかった.穿孔場所により,肝膿瘍形成部 位が異なっていた.治療に関しては,爪楊枝が肝に対 し,どこまで刺さっているのかにより摘出方法が異な っていた. 結 語 今回,われわれは誤嚥爪楊枝が胃壁を穿通し肝膿瘍 を形成した 1 例に対して,腹腔鏡下に異物除去を施行 した症例を経験した.肝膿瘍の鑑別診断にはCT検査 が有用であるが,異物に関しては可能性を考慮してい ないと見逃す可能性があると考えられた.膿瘍形成し てから発見される症例が多く,膿瘍形成前に診断する ためには,CTスライスの角度を変え丁寧に読影する ことが重要と考えられた.また,腹腔鏡下手術は低侵 襲で可能であり,考慮すべき術式と考えられた. 文 献
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Rup-tured hepatic abscess caused by fish bone pene-tration of the duodenal wall : report of a case. Surg Today 2007 ; 37 : 1018-1021 12) 永井健一,村田耕平,瀬下 巌他:魚骨の胃穿通 に対して腹腔鏡下異物除去を施行した 1 例.日内 視鏡外会誌 2007;12:391-395 13) 水沼和之,中塚博文,藤高嗣生他:魚骨穿通によ る肝膿瘍の 1 例.日消外会誌 2006;39:1811- 1815 14) 露木 茂,中村公治郎,筒井理仁他:胃癌手術時 に誤嚥魚骨が原因と判明した肝膿瘍の 1 例.日臨 外会誌 2006;67:1630-1634 15) 小田しのぶ,國弘真己,岡本英一他:魚骨の胃壁 穿通による肝膿瘍の 1 例.日消誌 2005;102: 466-472
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A CASE OF LAPAROSCOPIC EXCISION OF A HEPATIC ABSCESS CAUSED BY A TOOTHPICK
Fumitaka KATO1), Hiromitsu HOSHINO2), Tameyoshi YAMAMOTO3), Shogo KOBAYASHI5), Satoru MUNAKATA4) and Hiroki OHZATO3)
Emergency and Critical Care Medicine, Saiseikai Shiga Hospital1)
Department of Surgery, Kaizuka City Hospital2)
Departments of Surgery3) and Pathology4), Sakai City Medical Center
Department of Surgery, Osaka Medical Center for Cancer and Cardiovascular Diseases5)
A 53-year-old man visited our hospital because of epigastric pain. Abdominal ultrasonography and computed tomography (CT) showed a 3.5-cm abscess with a needle-like structure in the lateral segment of the liver. The foreign body had penetrated the stomach and caused the hepatic abscess. Following im-provement of the hepatic abscess with antibiotics, removal of the foreign body with laparoscopic lateral hepatic segmentectomy was performed. The foreign body was a toothpick. The postoperative course was uneventful. In this case, CT was very helpful in making the diagnosis. Laparoscopic surgery was mini-mally invasive, and was useful for removing the foreign body.
Key words:toothpick,hepatic abscess,laparoscopic surgery