博 士 学 位 論 文 要 旨
論 文 題 目(和 文):賀 川 ハル研 究 ―信 仰 、女 性 、市 民 社 会
論 文 題 目(英 文):A Study of Haru Kagawa – Faith, Women, and Civil Society
氏 名 :岩 田 三 枝 子 (いわた みえこ)
本 論 文 は、明 治 ・大 正 ・昭 和 期 に、市 民 社 会 における活 動 を展 開 したキリスト者 である夫 ・賀 川 豊 彦 (以 下 、豊 彦 )(1888(明 治 21)~1960(昭 和 35))との公 私 において生 涯 にわたるパート ナーシップを可 能 にした賀 川 ハル(以 下 、ハル)(1888(明 治 21)~1982(昭 和 57))の活 動 と思 想 を、ハル執 筆 による一 次 資 料 の分 析 を中 心 として、実 証 的 に考 察 するものである。特 に、キリス ト教 信 仰 に関 連 する思 想 、女 性 観 及 び家 族 観 に関 連 する思 想 、そして市 民 社 会 に関 連 する思 想 の三 つの側 面 に着 目 する。その上 で、今 日 における男 女 のパートナーシップのあり方 、またキリ スト者 の市 民 社 会 活 動 への参 与 のあり方 への示 唆 を導 き出 すことをめざす。
ハルは、キリスト者 市 民 社 会 活 動 家 である豊 彦 の妻 として、豊 彦 の市 民 社 会 的 活 動 からキリス ト教 的 活 動 に至 る、広 範 囲 の活 動 を長 きにわたって共 に担 ったが、ハルは単 に豊 彦 の妻 という 枠 組 みにとどまらない女 性 でもあった。豊 彦 の働 きを支 えただけではなく、彼 女 自 身 が中 心 発 起 人 の 1 人 となり覚 醒 婦 人 協 会 という労 働 者 女 性 のための運 動 を展 開 し、また、豊 彦 の死 後 は、
20 年 以 上 にわたって幼 稚 園 や出 版 社 の理 事 長 職 を担 い、亡 くなる前 年 の 1981(昭 和 56)年 に は、93 歳 で名 誉 都 民 賞 も受 賞 している。また三 人 の子 の母 親 でもあった。さらに 24 歳 でキリスト 教 信 仰 を持 った後 、スラム活 動 時 代 には路 傍 伝 道 を行 い、晩 年 にも頻 繁 に家 庭 訪 問 や説 教 、 講 演 を行 った。このようなハルの活 動 は、単 に豊 彦 の妻 という枠 組 みを超 えて、ハル個 人 としても、
市 民 社 会 活 動 家 としての評 価 に値 する。
豊 彦 については近 年 、神 学 、社 会 学 、哲 学 等 の多 方 面 からも注 目 され てきたが、一 方 、ハル についてはまだ本 格 的 なまとまった十 分 な研 究 は多 くない。多 方 面 での業 績 を残 した豊 彦 の妻 として、その陰 に隠 れていたためかもしれない。また現 実 的 理 由 として、多 くの執 筆 を残 した豊 彦 に比 べて、2009 年 に『賀 川 ハル史 料 集 』全 3 巻 が発 刊 される以 前 は、ハル自 身 が執 筆 したもの は一 般 的 には極 めて手 に入 りにくく、彼 女 がどのような思 想 を持 っていたのかを把 握 する材 料 が 揃 っていなかったこともあるだろう。
ハルについては、例 えば「ハルにも考 えや主 張 があった」(賀 川 純 基 )や、ハルの見 識 は「固 有 の視 点 を感 じさせもする」(倉 橋 克 人 )、「生 涯 にわたり、最 大 の理 解 者 ・協 力 者 となったのは芝 ハ ルという女 性 、後 の賀 川 ハル婦 人 」(加 山 久 夫 )、「ハル自 身 の独 自 性 」( 三 原 容 子 )、さらに「ハ ルは豊 彦 の影 響 を深 く受 けたが、それに甘 んじることなく、彼 女 自 身 の思 想 を、より積 極 的 に女 性 解 放 運 動 へ、また貧 しい人 々の救 済 へと活 動 の幅 を広 げていった」(鍋 谷 由 美 子 )等 、豊 彦 の 理 解 者 であったと同 時 に独 自 の思 想 を持 つ女 性 としての指 摘 があるものの、どのような点 に独 自
性 があるのか、その思 想 とは具 体 的 にどのようなものであるのか、また豊 彦 との協 力 を可 能 とした 思 想 は何 か、さらにハルが活 動 の中 心 を担 った覚 醒 婦 人 協 会 とハルの思 想 との関 連 等 は、先 行 研 究 の中 では十 分 には明 らかにされていない。
このような研 究 の現 状 において、ハルに関 する研 究 そのものに独 自 性 があると考 える。
以 上 をふまえ 、本 研 究 は次 の三 点 において、意 義 を持 つと 考 える 。第 一 に、キリスト 教 信 仰 者 ・女 性 ・市 民 社 会 活 動 家 としてのハルを、神 学 的 側 面 ・女 性 学 の側 面 ・公 共 哲 学 等 の側 面 か ら学 際 的 に考 察 することで、ハルを多 角 的 視 野 から理 解 する事 を努 める点 である。第 二 に、賀 川 豊 彦 ・ハル夫 妻 において、従 来 夫 ・豊 彦 に比 重 が置 かれていた研 究 にハル研 究 が加 わることに より、賀 川 夫 妻 をより総 合 的 視 点 から理 解 する点 である。第 三 に、歴 史 におけるハルの意 義 のみ ならず、今 日 の市 民 社 会 におけるハルの思 想 の意 義 を追 求 することである。
本 論 文 は、次 のように構 成 される。第 1 章 では、後 の信 仰 生 活 や市 民 社 会 活 動 の基 盤 となる 倫 理 観 や思 想 が、ハルの幼 少 期 から青 年 期 にかけてどのように形 成 されたのかを、家 族 との関 わりを中 心 に分 析 する。また、第 2 章 ではハルのキリスト教 信 仰 、第 3 章 ではハルの女 性 観 、第 4 章 ではハルの市 民 社 会 における活 動 と思 想 をそれぞれに考 察 する。この三 つの側 面 は各 々が 独 立 した側 面 ではなく、ハルという一 人 の人 間 の中 で統 一 されたものであるゆえに、個 別 に検 討 するが三 つは常 に関 連 し合 う。第 5章 は、ハルの具 体 的 活 動 として、ハルが発 起 人 の一 人 となっ た婦 人 運 動 である覚 醒 婦 人 協 会 に焦 点 を当 て、その特 徴 を分 析 することにより、ハルの思 想 との 関 連 を考 察 する。最 後 に総 括 として、結 論 と今 後 の課 題 を述 べ、本 論 文 を閉 じる。