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細胞膜上の悪性化制御因子として新たな役割を担う膜型  matrix metalloproteinase-1 ( MT1-MMP )

Membrane type-1 MMP (MT1-MMP) is a novel cell surface regulator for cancer malignant progression

越  川  直  彦 

(東京大学医科学研究所・腫瘍細胞社会学分野) 

  1.はじめに 

膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1-MMP)は癌浸潤・転移の際の基底膜分 解に重要な MMP2(ゼラチナーゼ A)の生体内での活性化因子として見出された。そ の後に作製されたMT1-MMPのノックアウトマウスを用いた解析から、MT1-MMP 膜型のコラゲナーゼとして働き、生体内のコラーゲンI代謝に重要な役割を果たすこと が明らかとなった。以上から、MT1-MMPMMP2の活性化を介した、また、自ら膜 型コラゲナーゼとして働くことで、細胞外マトリックス(ECM)の分解を介した生理 的、病理的な様々な局面で働く重要なプロテアーゼとして位置づけされている。

これまでに MT1-MMP 基質についての多くの研究が行われており、それらの中でも、

細胞増殖因子やそれら受容体、細胞接着因子などの細胞機能制御に直接関与する膜蛋白 質が注目されている。MT1-MMPは膜蛋白質のプロセシングやシェディングを介して、

これら分子の活性化や不活化に寄与している。

そのため、MT1-MMP の新たな基質となる膜蛋白質を見出すことで、MT1-MMP 関与する新たな細胞機能制御の分子メカニズムを明らかにすることが可能となる。しか し、今日までに膜蛋白質の取り扱いが困難であることから、MT1-MMP の膜上での基 質についての系統的な研究は行われていない。そこで、私たちは癌細胞の膜上から

MT1-MMP複合体を壊さない条件で単離・精製し、細胞内外の約 150の蛋白質をプロ

テオミクス手法で網羅的に同定した。興味深いことに、これら複合体を形成する膜蛋白 質の約半数がMT1-MMPの基質蛋白質であり、MT1-MMPはこれら膜蛋白質を限定分 解することで基質分子の機能制御に寄与していることを見出した。本稿では、(1)膜

上のMT1-MMPと複合体を形成する分子の同定について、また、(2)MT1-MMP

基質として見出した膜型EGF様増殖因子(Heparin-binding EGF-like growth factor:

HB-EGF)がMT1-MMPによるプロセシングを受け、癌の悪性形質の獲得に寄与する可

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能性を紹介する。

 

2.膜型マトリックスメタロプロテアーゼ   現在までに、MMP ファミリーは分泌型

MT1-MMPは今から19年前に金沢大学の

ブラリーより単離された膜型MMPのプロトタイプである ァミリーが共通してもつ5つの基本部位(

ヒンジ領域、ヘモペキシン)に膜貫通部位 る(図1)(2)。 

マトリックスメタロプロテアーゼ1(MT1-MMP)とその基質分子 

分泌型と膜型を合わせて 24 種が報告されている。

の佐藤、清木らによって肺癌細胞のcDNAライ のプロトタイプである(1)。MT1-MMP MMP

(シグナルペプチド、プロペプチド、触媒中心、

部位と細胞内部位を加えた7つの部位で構成され

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MT1-MMPはゴルジ体に存在するヒューリン(Furin)によってプロペプチド部位の切

断を受け、膜上で活性型として発現している。MT1-MMP はそれまでに内在性の活性 化因子が不明であったMMP2(72 kDa IV型コラゲナーゼ/ゼラチナーゼA)の前駆体 を膜上で効率的に活性化することから、MMP2 の生体内での活性化酵素として知られ ている(図2)(3)。

そのため、MT1-MMPは悪性癌の浸潤先進部において、MMP2前駆体を効率的に活 性化し、癌細胞周囲の基底膜(コラーゲンIVが主成分)を破壊することで、癌細胞の 浸潤・転移を促進する(1)。また、MT1-MMP ノックアウトマウスを用いた解析から、

MT1-MMP は膜型のコラゲナーゼ I として働き、癌細胞の周囲のコラーゲン I などの

様々な ECM の分解にも重要な役割を担う(図 2)(2)。細胞生物学的な検証において、

MT1-MMP 発現をノックダウンした癌細胞をコラーゲン I のゲル内に播種すると、野

生型の癌細胞に比較して顕著に増殖能や浸潤能を低下させることが報告されている。以 上から、MT1-MMP は癌浸潤装置の中核を担う分子であり、また、生体内に最も多量 に存在するECMであるコラーゲンIの代謝に重要な役割を担うことが強く示唆される。

そのため、ミシガン大学の Weissらのグループは、MT1-MMP が癌細胞周囲のコラー ゲン I を分解することで、癌細胞に増殖の場を提供していることから、MT1-MMP 癌細胞増殖の重要な動力源であると提唱している(4)。

これまでに筆者らも、MT1-MMPによるECMの分解に注目して研究を行っており、

1)MT1-MMP が基底膜の主要な成分であるラミニン-332(旧名:ラミニン-5)γ2 の短腕にあるEGF様ドメイン(ドメインIII)を切り出すこと、2)このEGF様ドメ インが、癌細胞のErbB受容体の活性化を介して、癌細胞の運動や生存シグナルの亢進 や、黒色腫細胞が血管様の構造に分化する擬似血管新生(Vascular mimicry)の過程に寄 与することを報告した(5-7)。

このように、これまでの研究では ECM MMP前駆体などのMT1-MMP 基質につい ての研究が進められていたが、最近、MT1-MMP が様々な膜蛋白質のプロセシングや シェディングに関与し、それら膜蛋白質の機能制御にも寄与することが報告されている

(図2)。しかし、これまでに系統的なMT1-MMPの基質蛋白質についての研究は殆ど

行われていない。そこで、私たちは種々の癌細胞の膜上での MT1-MMP の複合体を網 羅的に同定し、MT1-MMPの新たな基質分子の探索を行った。

3.癌細胞膜上のMT1-MMP複合体の網羅的な解析 

これまでの報告から、MT1-MMP は細胞内外の様々な蛋白質と複合体を形成してい

(4)

ること、また、それら複合体と共役して様々な細胞機能制御に寄与していることが示唆 される。そこで、私たちは FLAG タグした MT1-MMP を安定的に発現するヒト腺癌

(A431細胞)および黒色腫(A375)細胞を作製し、これら細胞膜上の MT1-MMP 合体を壊すことなく細胞膜を可溶化して、FLAGタグした MT1-MMPを免疫沈降する ことで、MT1-MMP複合体を共精製した(図3)(8)。

この際、すでにMT1-MMPと複合体を形成することが明らかとなっているCD44

MT1-MMPの結合に影響を与えないBrij-98、CHAPSを界面活性剤として用いた。次

に、MT1-MMPの精製分画に含まれる蛋白質をNano-LC/MS/MSを用いたプロテオミ クス手法で網羅的に解析したところ、約 150 種以上の細胞内外の蛋白質を同定した (9,10)。それらのうち、A431細胞から 64 種、A375細胞から 47種の膜蛋白質が同定 され、膜上の MT1-MMP とすでに結合することが報告されている CD44、インテグリ

β1、TIMP3 などものも含まれていた(図4A)。大変興味深いことに、これら膜蛋

白 質と MT1-MMP COS-1 細 胞へ 共発 現させ ると 、調 べた 膜蛋 白質 の約 半数が

MT1-MMPの発現と共に切断を受けることが明らかとなった(図4B)。そこで私たち

は、新規の MT-MMP 基質となりうる膜蛋白質に注目し、MT1-MMP によるプロセシ ングやシェディングがこれら膜蛋白質の機能に及ぼす影響を細胞生物学的に検証した。

これまでに、1)Lutheran Blood group antigen (Lu)がMT1-MMPによる限定分解を 受けることで、癌細胞の Lu を介したラミニン 10 への細胞接着を抑制すること、2)

MMP発現を誘導することが知られているEMMPRINMT1-MMPのプロセシングに よりMMP発現誘導活性を有するドメインを遊離し、パラクラインのMMP2発現誘導 因子として働くことを報告している(10,11)。それ以外の分子については現在解析を行 っている。

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4.MT1-MMPによるヘパリン結合性EGF 胞の悪性増殖能の獲得

  前述のMT1-MMP 複合体の網羅的な解析

合体を形成することが明らかなった。そこで る可能性を検証したところ、MT1-MMP 近傍を限定分解することで、N末端が欠損 とが見出された(図 5A,B)(12)。次に、

HB-EGFの性状に及ぼす影響を検討したところ

本的な性質であるヘパリン親和性を消失した kDa)断片はその活性発現に必須とされる 非常に強い細胞増殖活性を示した(図5D)

をヘパリン非依存性の強力な ErbB 受容体 いる。そこで、卵巣癌の悪性化に HB-EGF MT1-MMPによるHB-EGFのプロセシング め、ヒト卵巣癌SKOV-3細胞を用いて検討   SKOV-3細胞は内在性にMT1-MMPを発現 こで、SKOV-3細胞に野生型HB-EGF(HB 損した HB-EGF 変異体(mHB-EGF)の

EGF様増殖因子(HB-EGF)の活性化と卵巣癌細

解析から、MT1-MMP HB-EGF と膜上で複 そこで、HB-EGFMT1-MMPの基質となりう

HB-EGFN末端のヘパリン結合ドメイン

欠損したHB-EGF(18 kDa)断片を産生するこ

、MT1-MMP による HB-EGF の限定分解が したところ、N末端を欠損した HB-EGFはその基

した(図5C)(12)。また、このHB-EGF(18 とされるヘパリンを必要とせず、ヘパリン非存在下で

(12)。以上の結果は、MT1-MMPHB-EGF 受容体のライガンドに変換した可能性を示唆して EGF が深く寄与していることから、私たちは のプロセシングが卵巣癌の悪性化に及ぼす影響を調べるた

検討した。

発現しているが、HB-EGFを発現しない。そ HB-EGF)とMT1-MMPによる切断部位を欠 の発現ベクターを導入し、安定的な野生型と変

(7)

異型HB-EGFの発現細胞を樹立した。

  まず、MT1-MMP による HB-EGF のプロセシングを kDa HB-EGF 断片は野生型HB-EGF 導入

胞では検出されなかった(図6A)(13)。さらに

であるTIMP2を共発現させた細胞では、

(図6A)。

次に、これらの細胞を用いて、MT1-MMP 殖能へ及ぼす影響を3次元コラーゲンゲル 証した。18 kDa HB-EGF 断片を産生 mHB-EGFおよび HB-EGF/TIMP-2導入 6B)(13)、また、同細胞はスフェロイド mHB-EGFTIMP2を導入した細胞では かった。以上の結果は、SKOV-3細胞の増殖亢進 シングに寄与する可能性を示唆している(13

次に、悪性度の異なる2種類の卵巣腫瘍

れら組織中のHB-EGFの発現局在を免疫組織染色 癌組織の全体にHB-EGF発現は検出されたが

(図7A)(13)。そのため、HB-EGFMT1

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プロセシングを調べたところ、活性化した 18 導入細胞で検出されたが、mHB-EGF導入細 さらに、HB-EGFMT1-MMPの阻害蛋白質

、18 kDaHB-EGF断片は検出されなかった

MMPによるHB-EGFのプロセシングが細胞増

ゲル内および、足場非依存的な培養系を用いて検 産生する野生型 HB-EGF を導入した SKOV-3 導入した細胞に比べ高い細胞増殖活性を示し(図 はスフェロイド形成能も顕著に亢進した(図 6C)。一方、

では、増殖、スフェロイド形成の亢進も見られな 増殖亢進が MT1-MMPによるHB-EGFプロセ

13)。

卵巣腫瘍(境界悪性腫瘍と明細胞癌組織)を用いて、そ 免疫組織染色で検討した。明細胞癌組織において、

されたが、MT1-MMPは浸潤先進部で検出された MT1-MMPの共発現している癌組織では18 kDa

(8)

の活性型 HB-EGF 断片が産生されている 織においては、HB-EGF 発現は腫瘍組織全体 出されなかった(図7A)。

さらに、進行した卵巣癌患者の腹水から MT1-MMP の 発 現 を 免 疫 組 織 化 学 的 に

MT1-MMP をともに高発現していた(図

HB-EGF断片の分子種をウエスタンブロット

患者の腹水(3/10検体)において、分泌型 相当する)が検出された(図 7C)(13)。以上 MT1-MMP によるHB-EGF のプロセシングが 強く示唆している(図8)。

本総説では、MT1-MMPによるHB-EGF 得に寄与する可能性について紹介したが、

分化型の胃癌細胞も HB-EGF、MT1-MMP 悪性形質の獲得にも寄与していることが示唆

されている可能性が示唆される。一方、境界悪性腫瘍組 腫瘍組織全体で見られたが、MT1-MMP発現は全く検

から採取した卵巣癌細胞を用いて、HB-EGF、

に 調 べ た と こ ろ 、 腹 水 癌 細 胞 は HB-EGF

7B)(13)。また、同患者の腹水中に存在する

ウエスタンブロットにて調べたところ、HB-EGF 発現の高い 分泌型HB-EGF断片(15 kDa、膜型の18 kDa 以上の結果は、卵巣癌が腹腔内へ浸潤する際に、

のプロセシングが活性型 HB-EGF を用いている可能性を

EGFプロセシングが卵巣癌細胞の悪性形質の獲

、卵巣癌と同様に高頻度に腹膜播種を生じる低 MMPを高発現していることから、これら癌腫の

示唆される。

(9)

5.おわりに

最後に、MT1-MMPによるHB-EGFプロセシング ついて簡単に紹介する。

MT1-MMPは悪性癌の浸潤先進部で高頻度

辺の基質蛋白質は浸潤癌の治療や診断の分子標的 告している MT1-MMP による基質蛋白質

らの分解断片はより有望なバイオマーカー また、MT1-MMP同様にHB-EGFも種々

HB-EGF は卵巣癌で高頻度に発現することから

ており、腹水中の HB-EGF 量は、卵巣癌 っている。

以上から、MT1-MMPによるHB-EGF 悪性化因子として働くことが明らかとなった

今後、腹水中の HB-EGF の分子種と卵巣癌患者 り、MT1-MMPのプロセシングで産生される 標的として、また、その治療の奏効をモニターする 明らかとしていきたい。

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プロセシング断片の臨床応用についての展望に

高頻度に発現することから、MT1-MMP やその周 分子標的と考えられている。また、私どもが報 蛋白質のプロセシングやシェディングで生じるそれ マーカーの候補となりうる可能性がある。

々の悪性癌でその発現が亢進している。特に、

することから、卵巣癌の悪性化因子として見なされ 癌治療の奏効を判断するための貴重な指標とな

EGFプロセシングで生じる断片が強力な癌細胞の らかとなった(14)。

卵巣癌患者の臨床病理学的情報を比較するによ される活性型HB-EGF断片は悪性卵巣癌の分子 をモニターする新たなバイオマーカーとして役割を

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謝辞

本稿で紹介した内容は、東京大学医科学研究所・腫瘍細胞社会学分野の清木元治教授、

大学院生だった泊泰三さん、江川長靖さん、新谷大悟さん、植松崇之さんと行った研究 成果である。MT1-MMP 複合体のプロテオミクス解析は首都大学東京の礒辺俊明教授 との共同研究である。また、HB-EGF 研究は、大阪大学微生物学病研究所・目加田英 輔教授、水島寛人博士、福岡大学医学部産婦人科教室、宮本新吾教授、病理学教室・鍋 島一樹教授との共同研究である。最後に、学部の学生から学振の特別研究員の間、私を 研究者として指導して頂き、また、本論叢へ執筆の機会を与えて下さった横浜市立大学 の宮崎香教授に深く感謝致します。

参考文献

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参照

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