Title
ブタ卵母細胞の体外成熟について - 細胞性・非細胞性因子
の与える影響とその作用時期について -( 内容の要旨 )
Author(s)
康, 承律
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第085号
Issue Date
1997-03-14
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/2426
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名(国籍) 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月 日 学位授与の要件 研究科及 び専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 題 目 審 査 委 貞 康 承 律 (大韓民国) 博士(農学) 農博甲第85号 平成9年3月14日 学位規則第4粂第1項該当 連合農学研究科 生物生産科学専攻 信州大学 ブタ卵母細胞の体外成熟について -細胞性・非細胞性因子の与える影響とその 作用時期について-主査 信 州 大 学 副査 信 州 大 学 副査 静 岡 大 学 副査 岐 阜 大 学 授 授 授 授 教 教 教 教 忠 明 雄 治 弘 克 公 道 井 田 場 吉 辻 太 番 上 論 文 の 内 容 の 要 旨 外来遺伝子を導入しての形質転換動物の作出は,家畜の分野においても多いに期待 されている。これら外来遺伝子導入の対象物のほとんどが初期胚で行われている。家畜 の初期胚はト場で採取した卵巣からの卵母細胞を体外で成熟させ,体外受精を行い,さ らに体外培養を行なって作成されている。しかし,ブタにおいて,卵母細胞の体外成熟 後の体外受精で多精子受精が多発するため,その後の卵分割が起らない現象がある。本 論文の筆者は,卵母細胞の成熟培養に問題があると考えた。そこで,卵母細胞の成熟過 程を,卵母細胞を取り囲む環境である卵丘細胞,卵胞液および卵胞膜の細胞性が与える 影響と,性腺刺激ホルモンの一種であるPMSG(妊馬血清性性腺刺激ホルモン),hCG (ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)お.よびイノシトールの非細胞性因子が与える影響と, それらの作用時期を解明することを試みたものである。本論文は緒論,総括を含め7辛 から成る。 第2章では,卵母細胞の取囲む環境である卵丘細胞,卵胞液および卵胞膜が卵母細 胞の成熟および体外受精に及ぼす影響を調べたところ,卵丘細胞は卵母細胞の成熟に必 須であり,かつ卵母細胞と卵丘細胞とが結合した複合体が重要であることが判った。さ らに,卵胞膜細胞および卵胞液が卵母細胞の成熟に有効であり,卵胞液と卵胞膜細胞の 両者の添加によって雄性前核形成率が高まることが判った。これらのことから,卵母細 胞の成熟条件を整えることによって,卵母細胞の成熟率,単精子受精率ならびに雄性前
核形成率を高め得ることを推察した。 第3章では,細胞増殖因子の一つであるイノシトールを卵母細胞の成熟培地に添加 した。イノシトール添加によって卵母細胞の成熟率ならびに雄性前核形成率が有意に高 まることを見出した。そこで,イノシトールの作用を調べるために,イノシトール生成 を阻害する塩化リチウムおよびdbcAMPを添加したところ,これらによって卵母細胞の 成熟が抑制された。しかし,これらにイノシトールを添加すると成熟率が回復すること
が判った。また,Ca2+チャンネル阻害剤の)erapamilによって成熟率が抑えられたこと
などから,イノシトールはホスファチジルイノシトールげりサイクルを介していること を推察した。 第4章では,イノシトールがチロシンキナーゼからのシグナルがPKCを介してタ ンパク合成が盛んになるかについてメチオニンの取り込を調べたところ,培養0-24時 間で有意に取り込が高まった。このことから,イノシトール■がPIサイクルを介して作 用しているかどうか,またその作用時期を調べるために,PIサイクルの阻害剤である StaurOSpOrine,neOmyCin,heparinを用いて検討した。その結果,卵母細胞の成熟過 程でイノシトール添加によってPIサイクルが活性化されるのは培養0-24時間であるこ とを明らかにした。 第5章において,卵母細胞の成熟に大きく作用する性腺刺激ホルモンとイノシトー ルとの関係,また性腺刺激ホルモンとdbcAMP,StaurOSpOrineとの組合せで調べた。 成熟培養開始から24時間までPMSGとイノシトールが,また培養24時間以降hCGが 卵母細胞の成熟率を高めることを示した。また,イノシトールは卵母細胞内のcAMPに よる成熟抑制を解除し,それの効果はPIサイクルを活性化してIP3およびCa2・を生成 する結果,成熟を高めると推察した。 第6章では,5章で推察したイノシトールおよび性腺刺激ホルモンの作用時期を考 慮した培地,即ち培養開始から24時間までPMSGとイノシトール,24時間以降hCG 添加培地に交換して培養を行なった。その結果,成熟率,単精子受精率,雄性前核形成 率ならびに体外受精後の卵分割率も向上したことを示した。 これらのことから,本実験の仮説であった卵母細胞の細胞質の向上が多精子受精を 抑え,その結果正常に卵分割率が高まることを実証した。また,イノシトールが卵母細 胞の細胞質内のPIサイクルを高め,ひいてはCa2・チャンネル,PKC活性を活性化した 結果,卵母細胞の細胞質および細胞膜の質を高め,体外受精時の多精子受精を抑えたと 結論している。今後,ブタの体外成熟・体外受精,体外培養に充分応用でき,トランス ジェニック動物,クローン動物作出など発生工学的な応用の実験にも利用できると結ん でいる。 審 査 結 果 の 要 旨 ブタの体外受精においては,他種の動物の場合と比べて多精子受精および雄性前 核形成不全の多発が問題となっている。本論文はこれらの難点の主な原因として体外受精に用いる前の卵母細胞の成熟に問急があると考え,卵母細胞の体外培養条件を成 熟促進因子としての性腺刺激ホルモンとイノシトール添加を中心に検討したものであ る。 第2章では,ブタ卵母細胞を取り囲む環境,特に卵丘細胞の役割を明確にするた めに実験を行なった。卵母細胞の成熟には卵丘細胞の重要性と卵胞膜細胞および卵胞 液が卵母細胞の成熟および雄性前核形成に効果であることを明らかにした。以後の成 熟培養には卵丘細胞付着卵母細胞を実験の対象とした。 第3孝では,イノシトール添加培地で卵母細胞の成熟率が向上することを見出し た。また,体外受精時における雄性前核形成率も体細胞との共培養の成績と同じ程度 の成績をおさめた。このイノシトールの作用機構を特定するために阻害剤を加え,イ ノシトールがPIサイクル,qa2十チャンネルを介していることを推察した。 第4章では,イノシトール添加時の卵母細胞におけるタンパク合成や卵母細胞の 成熟過程においてPIサイクル阻害剤およびPEC活性阻害剤添加の影響をみる実験を 行い,PIサイクルが大きな役割を果す時期は培養開始から培養24時間の間であるこ とを見出した。このことから,卵母細胞の成熟に作用する性腺刺激ホルモンおよびイ ノシトールの作用時期に差異があることを推察した。 第5章では,卵母細胞の成熟培養において,性腺刺激ホルモンおよびイノシトー ルの添加時期を変えることによって卵母細胞の成熟がどのように違うかを調べた。そ の結果,培養開始から培養24時間まではPMSGとイノシトールを添加,培養24時 間以降はbCG添加に切り換えることによって成熟率が高まることが明らかになっ た。 第6車では,5章で得られた結果が体外受精にどのように影響するかを調べ,卵 母細胞の成熟培養を培養24時間までPMSG+イノシトール,24時間以降hCGにす ることによって,卵母細胞の成熟率が向上し,体外受精後の単精子受精率ならびに雄 性前核形成率を向上させること,さらにその後の卵分割にも好影響を与えることを明 らかにした。
これらのことから,ブタ卵母細胞の成熟過程における性腺刺激ホルモンならびに イノシトールの作用時期が異なることを明らかにした。この知見は卵母細胞の成熟培 養に新しい方向性を見出すものである。主査および副査の4名は,平成9年1月31 日に学位申請者に対し,学位論文を中心として,質疑応答を行なった。 その結果,論文作成の点ではなお若干考慮を要する点があるため,論文の一部を手直 すことを前提として,申請者は岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程終了者として 学力および識見を有するものと認め,博士(農学)の学位を与えるに十分な資格を有 するものと判定した。 学位論文と基礎となる学術論文との関係 フ一夕卵母細 胞の体外成繋七について -細胞伯三・非細胞性因子の与える影響とその作用時期について-康 承 律 第2章:卵母細胞の体外成熟・受精に及ばす卵胞膜細胞,顆粒層細 月包及び卵胞液漆カロの影響
SeungyuJKANG,Hirotada TSUJl)and Kazuo HOSINA.1994.The Effect of Fo=cularShel[sandFIuidonln>jtroFertiIizationofPorcineOocytes.Journa10f MammaJianOvaResearch(Japan),Vol.11(No.2),210-215. 第3章:イノシトールが卵母細胞の成熟・受精に及ばす影響 康 承律・辻井弘忠・笠井徹・保科和夫.1995.イノシトール竜恭加がブタ卵母 細胞の体外成熟・受精に及ぼす影響.日本受精着1末学会雑誌>ol.12t170-172. 第4革:卵母細胞の成熟におけるイノシトールの作用時期 第5革:卵母細胞の成熟における性腺刺激ホルモンおよびイノシト ールの作用打寺期
SeungyulKANG and Hirotada TSUJ,.・1996・Time Sequence of Meiotic Maturationin CumuJus-Enc(OSedand Denuded Porcine OocytesStimuIatedby
Gonadotrophins,Estradiol-17β,FetaJBovine Serum and FoJlicular FIuid:
Synergistic Effect of FoIJicu(ar Fluid with Estradioト17β or Serum on the ExpuIsion ofFirst PoJar Body・JournaIofMammaJian Ova Research(Japan), Vol.13.12-18.