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相模原周辺地域における Clostridium tetani の分布調査 1)

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(1)

690

感染症学雑誌 第80巻 第 6 号

相模原周辺地域における Clostridium tetani の分布調査

1)長岡赤十字病院内科,2)済生会川口総合病院内科,3)北里大学医学部微生物・寄生虫学,

4)同 臨床検査診断学,5)北里環境科学センター

羽根田 淳

1)

塩原 康正

2)

乾 真美

3)

関口 朋子

3)

佐藤 義則

3)

高山 陽子

4)

菊野理津子

5)

奥田 舜治

5)

井上 松久

3)

笹原 武志

3)

(平成 18 年 1 月 23 日受付)

(平成 18 年 7 月 25 日受理)

Key words : Clostridium tetani , environment, tetanus toxin

本邦において破傷風菌(Clostridium tetani)は金沢,沖縄,そして東京周辺に分布することが明らかにさ れている.しかし,その他の地域での分布調査はあまり行われていない.今回,相模原周辺地域を中心に民 家の庭,公道の路肩,大学構内敷地,山麓,および畑などから土壌を採取して C. tetani の分離を行った.全 検体(35 検体)に占める C. tetani の検出率は 22.9% であり,それらの菌株のうち 87.5% は破傷風毒素産生 能を有していた.破傷風菌は相模原市の西部に位置する津久井郡から山梨県の南都留郡,上野原市そして甲 州市にかけての山間部地域の土壌中に偏って分布する傾向を示した.これらの成績から,破傷風毒素産生能

を有する C. tetani が相模原周辺,特に,西部の山間部という地理的に類似した地域に分布することが明ら

かとなった.

〔感染症誌 80:690〜693,2006〕

Clostridium tetani は偏性嫌気性のグラム陽性桿菌で

あり,ボツリヌス毒素に次ぐ強い毒性をもつ破傷風毒 素(tetanospasmin)を産生する

1)

.破傷風はこの毒素 による痙性麻痺と間代性痙攣,つまり運動系の活動亢 進を特徴し,致死性の高い毒素性感染症である. C. te- tani は芽胞の形で土壌の他に塵埃や汚水や動物の糞便 中などに広く存在する

2)

.土壌から C. tetani が分離さ れる割合は赤道付近の高温多湿で肥沃な土地が広がる 地域において最も高いとされている

3)

.しかし,C. te- tani は こ れ ま で に 日 本(18.6%〜51%)

4)〜7)

,カ ナ ダ

(53%)

8)

,アメリカ(30%)

9)

,そして南アフリカ(28%〜

65%)

10)

においても比較的高率に検出されていること から,C. tetani は赤道付近の地域以外でも比較的多く 分布していると考えられている.

わが国における破傷風患者発生数は DPT(ジフテ リア,百日咳,破傷風)三種混合ワクチン製造が開始 された 1964 年の 493 名から急速に減少したが,感染 症法施行(1999 年)以降,この患者発生数は増加す

る傾向にある

11)

.これらの患者の 95% は抗毒素抗体 保有率が 11% 未満の 35 歳以上の方であり,特に,前 期高齢者(65〜74 歳)の方が最も高い破傷風罹患率 を示している.日本が未曾有の超高齢化社会に突入し ようとしている今日,生活環境周辺地域の土壌に C.

tetani がどのように分布しているかを調査することは

重要である.そこで,我々は相模原周辺のさまざまな 地理的特徴を有する地域から採取した土壌について

C. tetani の分布調査を実施した.

材料及び方法

1.土壌採取

2001 年 5 月から 8 月の期間に Table 1に示した相模 原周辺地域の民家の庭,公道の路肩,畑,大学構内の 敷地,山麓,そして東京都文京区の池の岸辺から Smith らの方法

9)

に従い,表層より 5〜6cm の深さから約 20 g の土壌 33 検体を採取した.

2. C. tetani の分離培養法

C. tetani の分離培養は,まず乾燥させた土壌 1〜2g

を滅菌生理的食塩水に浮遊し,60℃10 分加温処理し た.その上清を NIH チオグリコレートブイヨン培地

(Difco Lab,Sparks,Maryland,USA)に接種して

別刷請求先:(〒228―8555)相模原市北里 1―15―1 北里大学医学部微生物・寄生虫学 笹原 武志

(2)

相模原周辺地域におけるC. tetaniの分布調査 691

平成18年11月20日

Table 1 Distribution ofC.tetaniin topsoilsamplesand demonstration oftetanustoxin production Samples(%)

Landform Samples

Collected from

positive fortetanustoxin

positive forC.tetani Tokyo

0 0

Garden ofprivate house 1

Inagi

0 0

Garden ofprivate house 2

Machida

2§ 2

University campus,pond bank 6

Bunkyo-ku Kanagawa

0 0

Field 2

Atsugi

0 0

Garden ofprivate house 1

Yamato

0 0

Garden ofprivate house 1

Kamakura

0 0

University campusfield 6

Sagamihara

2# 3

Shoulderofpublicroad,field 10

Tsukui-gun Yamanashi

1# 1

Mountain 3

Minamitsuru-gun

0 0

Shoulderofpublicroad 1

Otsuki

1# 1

Shoulderofpublicroad 1

Uenohara

1# 1

Shoulderofpublicroad 1

Koshu

7(87.5%)

8(22.9%)

35 Total

C.tetaniwasisolated from topsoilsamplesby bacteriologicaltests.

#Tetanustoxin wasdetected in culture supernatants,injected intramuscularly into a posteriorinferiorlimb ofmice.

§mRNA coding tetanustoxin wasdetected by RT-PCR.

増菌させ,これを 10% ヒツジ赤血球加変法 GAM 3%

寒天培地(日水製薬,東京)に塗抹培養し,コロニー 周囲が綿屑のように不規則で灰白色の色調を呈した扁 平な R 型菌を分離した.なお,嫌気培養は嫌気ジャー

(Oxoid Limited,Hampshire,UK)を用いた.分離 菌の同定は運動性および生化学性状(溶血性,ゼラチ ン液化,レシチナーゼ産生性そして糖分解性)試験法 に基づいて実施した.

3.破傷風毒素産生能の試験法

標準菌株(C. tetani Harvard 株,北里研究所・生物 製剤研究所の相澤主悦博士より恵与)および分離菌株 の毒素産生性は,菌を NIH チオグリコレートブイヨ ン培地にて 4 日間培養した上清を BALB! c 系マウス

(7 週齢オス,日本クレア,東京都)の大腿部筋肉内 に接種して特徴的な症状(硬直,痙攣,致死)の有無 を 7 日間観察する方法,あるいは同様に 4 日間培養し た菌から RNeasy Mini Kit(QIAGEN,GmbH,Ger- many)を用いて RNA を抽出し,さらに DNase I で 処理したこの RNA について RT-PCR を実施する方法 で確認した.

cDNA は Random hexamer primer(宝バイオ,大 津市)と Omniscript RT kit(QIAGEN)を用いて先 の RNA より合成した.PCR は GenBank 40769 を用 いて Lasergene ソフト(DNA STAR Inc,WI,USA)

により設定した破傷風毒素 L 鎖特異的プライマ ー

( TeTX 1 F 5 ʼ -ATTTTAACCCACCATCTTC-3 ʼ , TeTX1B 5ʼ-AGCCAAAACCATCTCTACAT-3ʼ)お よび破傷風毒素 H 鎖特異的プライマー(TeTX2F 5ʼ-

CCGCGGGAGAAGTTAGAC-3 ʼ , TeTX 2 B 5 ʼ - TATATTCAATTTTCCGTTAGTA-3ʼ)に つ い て HotStarTaq Master Mix Kit(QIAGEN)を用いてア ニーリング温度 46℃ で 40 サイクル PCR を行い,そ れぞれの PCR 産物(TeTX1 : 402bp,TeTX2 : 472bp)

は分子量マーカー(Marker 5,ニッポンジーン,富 山市)と共にアガロースゲル電気泳動を行って確認し た.

相模原周辺地域から採取した 33 検体の土壌につい

C. tetani の分離を行った.その結果は Table 1に示

すとおりであり,全検体の 22.9% にあたる土壌から

C. tetani を検出した.その内訳は,C. tetani の検出が

報告

7)

されている文京区の池周辺の土壌からは 6 検体 中 2 検体に C. tetani が検出された.相模原周辺にお いては津久井郡の 10 検体中 3 検体,隣接する山梨県 において南都留郡の 3 検体中 1 検体,そして上野原市 と甲州市の各 1 検体中 1 検体に C. tetani が検出され た.C. tetani が土壌から検出された地域の地勢は次の とおりであり,文京区の 2 検体は大学構内の池岸辺,

津久井郡の 3 検体は畑(1 ヶ所)と公道の路肩(2 ヶ 所),南都留郡の 1 検体は山麓,そして上野原市と甲 州市の各 1 検体は山間部を通る公道の路肩であった.

分離された C. tetani の破傷風毒素産生能を文京区

の 2 菌株については RT-PCR 法,そしてその他の菌

株については動物実験法によって調べた.文京区の 2

菌株からは標準菌である Harverd 株と同様に破傷風

毒素 L 鎖および H 鎖の各 PCR 産物を検出した(Fig.

(3)

羽根田 淳 他 692

感染症学雑誌 第80巻 第 6 号 Fig. 1 Detection oftetanustoxin in two isolated strainsofC.tetaniby RT-PCR with TeTX1 and TeTX2 primers.Lanes1 and 4,

one strain;Lanes2 and 5,otherstrains;Lanes3 and 6,Harvard strain fora positive control;M,molecularsize markers

(ϕX174/HincII) .

Fig. 2 Muscle rigidity in posterior murine limbs. Mice developed tonic muscle spasm in a posterior limb 3 daysafter0.2mL ofculture supernatantswasinjected intramuscularly.

1).また,津久井郡の 1 菌株を除くその他の菌株の培 養上清には Fig. 2に示すような下肢の硬直性麻痺を起 こす毒素活性が認められた.今回分離された全菌株に 占める破傷風毒素産生 能 を 有 す る 菌 株 は 87.5% で あった.

わが国において土壌からの C. tetani の検出率はこ れまでの調査によると,金沢周辺で 34.4%

4)

,沖縄本 島 お よ び 西 南 諸 島 で 18.6%

6)

,そ し て 東 京 周 辺 で 51%

5)7)

と報告されており,その平均は 34.7% である.

今回の調査によって相模原周辺地域の土壌からは 22.9% の割合で C. tetani が検出されたことから,わが 国における C. tetani の土壌分布率はおよそ 30% 前後 であると推定された.

今回の C. tetani の分布調査によって相模原市の西

部に位置する津久井郡から山梨県の南都留郡,上野原 市そして甲州市にかけての山間部地域に比較的高率に

C. tetani が分布していることが明らかとなった.一

般に,C. tetani の地理的分布は tetanus zones ある いは tetanus foci と呼ばれる形式をとるといわれ ており

3)

,今回の調査成績からもわが国において C. te- tani は同様な地理的分布を示すことが確認された.な ぜ,この地域の土壌に C. tetani が高率に棲息分布し ているのかは不明であるが,ウシやウマなど家畜の糞

便が C. tetani の土壌汚染に深く関わっているという

考えがある

3)7)

.そこで,相模原市内の乗馬クラブの周 辺の土壌から C. tetani の分離を試みたが,同市内の 他の地域のそれと同様に C. tetani は検出することは できなかった(成績示さず).また,C. tetani はウマ の腸管に 3〜4 日しか定着しないという報告もあるこ とから

10)

,ウマなどの動物の糞便が特定の地域での C.

tetani の土壌汚染に関わっているとは考えにくいよう

に思われる.その他に,黒土という土質とある種の植 物の根圏が土壌中で C. tetani が持続的に増殖・棲息 できる環境を提供しているという報告もあることか ら

3)

,このような特殊な環境要因がこの山間部地域に

おける C. tetani の棲息に影響を及ぼしている可能性

も推測された.

今回の調査によって C. tetani は相模原市西部の山 間部地域に広く分布するものの,多くの人々が日常的 に活動・運動する市街地域には文京区の特定の地域を 除いてほとんど分布していないことが明らかとなっ た.このことから,市街地域で日常的に生活している

人々が C. tetani に感染するリスクは低いものと考え

られる.しかし,抗毒素抗体保有率が低下している世 代の人々が郊外の山間部地域でハイキングをしたり,

あるいは田畑を耕したりする場合にはその感染リスク

は高まるものと推定される.破傷風は不慮の事故が原

因となって発症する致死性の高い毒素性感染症であ

る.従って,生活する地域性や年齢などを感染リスク

ファクターとして考慮に入れ,人々に破傷風トキソイ

ドのワクチン接種を啓蒙することは今後ますます重要

になると考える.

(4)

相模原周辺地域におけるC. tetaniの分布調査 693

平成18年11月20日

文 献

1)Bleck TP:Clostridium tetani (Tetanus). In:

Mandell GL, Bennett JE, Dolin R(eds). Princi- ples and Practice of Infectious Diseases 6th edi- tion. Elsevier Inc, Pennsylvania, USA, 2005;p.

2817―22.

2)戸田忠雄:破傷風菌(テタヌス菌).戸田新細菌

学(12 版).南山堂,東京,1956;p. 533―7.

3)Bytchenko B:Geographical distribution of teta- nus in the world, 1951-60. Bull WHO 1966;34:

71―104.

4)Sanada I, Nishida S:Isolation of Clostridium te- tanifrom soil. J Bacteriol 1965;89:626―9.

5)海老沢功,高柳満喜子,倉田真理子,城川美佳:

土 壌 中 の 破 傷 風 菌 の 密 度 と 分 布.感 染 症 誌 1986;60:277―82.

6)小林とよ子,渡辺邦友,上野一恵:沖縄県下に

おけるClostridium botulinumClostridium tetani

の分布.感染症誌 1992;66:1639―44.

7)海老沢功:破傷風.日本医事新報社,東京,2005;

p. 103―9.

8)Beland S, Rossier E:Isolement et identification deClostridium tetanidans le sol des Cantons de IʼEst de la province de Québec. Can J Microbiol 1973;19:1513―8.

9)Smith LD:The occurrence ofClostridium botu- linum and Clostridium tetani in the soil of the United States. Health Lab Sci 1978;15:74―80.

10)Wilkins CA, Richter MB, Hobbs WB, Whitcomb M, Bergh N, Carstens J:Occurrence ofClostrid- ium tetaniin soil and horses. S Afr Med J 1988;

73:718―20.

11)国立感染症研究所 感染症情報センター:破傷風 2001 年現在. Infectious Agents Surveillance Re- port 2002;23:1―2.

Distribution of Clostridium tetani in Topsoil from Sagamihara, central Japan

Jun HANEDA

1)

, Yasumasa SHIOBARA

2)

, Masami INUI

3)

, Tomoko SEKIGUCHI

3)

, Yoshinori SATO

3)

, Yoko TAKAYAMA

4)

, Ritsuko KIKUNO

5)

, Shunji OKUDA

5)

, Matsuhisa INOUE

3)

& Takeshi SASAHARA

3)

1)Department of Internal Medicine, Nagaoka Red Cross Hospital,

2)Department of Internal Medicine, Saiseikai Kawaguchi General Hospital,

3)Department of Microbiology & Parasitology

and4)Department of Laboratory Medicine, Kitasato University School of Medicine,

5)Kitasato Research Centre for Environmental Science

Despite reports of Clostridium tetani being isolated from soil in Kanazawa, Okinawa, and Tokyo, Japan,

little has been studied about C. tetani distribution in other regions. We studied C. tetani in topsoil samples

collected from private gardens, public road shoulders, a university campus, mountains, and fields in Sagami-

hara. C. tetani occurred in 8 of 35 soil samples (22.9%) and tetanus toxin in 7 of the 8 C. tetani-positive sam-

ples (87.5%). Contamination was clearly higher in soils from mountains near Tsukui-gun (Kanagawa Prefec-

ture), Minamitsuru-gun, and Uenohara and Koshu cities (Yamanashi Prefecture) than in other regions. These

findings suggest that tetanus toxin-producing strains of C. tetani tend to inhabit the topsoil of western Sa-

gaminaha region, as a geographical feature.

Tabl e 1 Di s t r i but i on  of C. t e t a ni i n  t ops oi l s ampl es and  demons t r at i on  of t et anus t oxi n  pr oduc t i on Sampl es (%)

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