児童の行動変容と学校適応感の向上を目指した教育 実践 −PBISの取組を中心に−
著者 山本 博樹
雑誌名 奈良教育大学教職大学院研究紀要「学校教育実践研
究」
巻 12
ページ 21‑30
発行年 2020‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10105/00013309
児童の行動変容と学校適応感の向上を目指した教育実践
-
PBIS
の取組を中心に-山本博樹
奈良教育大学大学院教育学研究科教職開発専攻
Educational practices in elementary schools aim at promoting students’ behavior modification and sense of school adjustment
-Focusing on practices of PBIS (Positive Behavioral Interventions and Supports)-
Hiroki Yamamoto
School of Professional Development in Education, Nara University of Education
<あらまし> 本研究の目的は、児童の行動変容と学校適応感の向上を目指し、米国で開発 された
PBIS
(Positive Behavioral Interventions and Supports
)を参考に実践を行い、その効 果について検討することである。実践は、小学校第
5
学年を対象に「行動チャート」、「いいね!カード」、「SST
(ソーシャ ルスキルトレーニング)」の三つを柱として行った。効果測定には、学校環境適応感尺度ASSESS
(栗原・井上2010
)、行動を振り返るアンケート(佐賀県教育センター2011b
)、児童の本教育実践に対する自由記述を用いた。その結果、「友人サポート」、「教師サポー ト」、「向社会的スキル」低群に正の変容が認められた。また、「上手な聴き方」
SS
(ソーシャ ルスキル)、「自己紹介」SS
低群においても正の変容が認められた等、教育実践の効果が確 認された。<キーワード>
PBIS
(Positive Behavioral Interventions and Supports
) 学校適応感SST
(ソーシャルスキルトレーニング)1.研究の背景と目的
文部科学省(
2019
)において、平成30
年度の小 学校における暴力行為の発生件数は36,536
件で前 年度よりも8,221
件増加しており、年々増加してい ることが報告された。また、文部科学省(2019
)に おいて、平成30
年度の小学校におけるいじめの認 知件数は425,844
件で前年度よりも108,723
件増 加しており、暴力行為と同様に年々増加しているこ とが報告された。さらに、文部科学省(2012
)にお いて、小・中学校の通常学級に在籍し、知的発達に 遅れはないものの行動面で著しい困難を示すとされ た児童生徒の割合が3.6%
であったことが報告され た。これらから、学校現場において児童の行動問題 が課題の一つであると考えられる。また、行動問題は学校適応感と強い関係があると 述べられている(石井ら
2016
)。学校適応感は、水 野(2016
)では「学校という環境に対して個人と環 境の関係から生じる感情や認知の総称であり、主観 的な適応状態」としている。学校適応感に関する国 内の取組として例えば栗原・井上(2010
)は、児童 生徒に学校環境への適応を促進する取組を2
年間行 い、不登校の減少や侵害感の改善が見られたと述べ ている。筆者はこれらの課題に対してのアプローチの一つ として、
PBIS
に着目した。PBIS
とは、Positive
Behavioral Interventions and Supports
の略であ る。また、PBIS
は第1
次予防(全ての児童生徒対象 の指導)、第2
次予防(グループ指導)、第3
次予防(個別指導)という
3
層構造を持っている。PBIS
の 目的を池島・松山(2014
)では、「問題行動の減少、子ども本人の適応行動スキルの増加、そして子ども たちの
QOL
(Quality of Life
)の向上を目指したも の」としている。PBIS
の成果について栗原(2018
)では、「アメリ カでは約13
万校の初等中等教育学校のうち、約20%
にあたる約2
万6000
校がPBIS
を導入し、明白 な成果を上げています。」と述べられている。日本に おけるPBIS
に関する取組として、例えば池島・松 山(2016
)は、対立問題が増加傾向にあった小学校 第5
学年の児童に対し、PBIS
を参考にして、第1
層 支援として賞賛ゲーム、第2
層支援としてピア・メ ディエーション、第3
層支援としてCICO
(Check In Check Out
)を行いその効果を検討した。その結 果、「学校適応感における友人サポート、非侵害的関 係が有意に向上し、加えて学級内の対立問題数の減 少が見出された。」と報告している。一方、
PBIS
のカリキュラムについてSugai
(
2014
)は、「カリキュラムにはソーシャルスキルの 導入が基本的になされており、暴力等の行動問題を 予防できるというメリットをたくさん含んでいま す。」と述べている。ソーシャルスキル(Social
Skills
;以下SS
と記す)を、例えば小林・相川(
1999
)は「良好な人間関係をつくり保つための知 識と具体的な技術やコツ」と定義している。しかし、国内の
PBIS
実践において、ソーシャルスキルト レーニング(Social Skills Training
;以下SST
と記 す)を行っているものは少ない。そこで本研究では、児童の行動変容と学校適応感の向上を目指し、
SST
を導入したPBIS
(第1
次予防)の取組を中心に教育 実践を行い、その効果を検討することを目的とする。2.研究方法
本研究は、先行研究などを基に以下の方法で実施 する。
1.
先行研究を参考にし、本研究のPBIS
プロ グラムを作成する。具体的には、池島・松山(2014
) のPBIS
実践と佐賀県教育センター(2011a
)、足 立・佐田久(2015
)のSST
の取組などを参考に、本 研究におけるPBIS
プログラムを作成する。2.
作成 したPBIS
プログラムを奈良市内の小学校において 実施する。3.
栗原・井上(2010
)の学校環境適応感 尺度ASSESS
(以下、ASSESS
と記す)、佐賀県教 育センター(2011b
)の行動を振り返るアンケート、児童の本教育実践に対する自由記述を用いて、本研 究の
PBIS
プログラムの効果を検討する。3.研究結果
3. 1.PBISプログラムの作成
本教育実践の
PBIS
プログラムとして、これまでに
PBIS
の取組として日本国内で実践され教育的効 果が確かめられている「行動チャート」、「いいね!カード」に加えて
SST
を導入した。本教育実践の「行動チャート」、「いいね!カード」
の取組は、池島・松山(
2014
)のPBIS
実践の「行 動チャート」、“HAND IN HAND”
カードの取組な どを参考にした。池島・松山(2014
)では、小学校 第5
学年の児童に対し、PBIS
プログラムとして「行 動チャート」と“ HAND IN HAND ”
カードを導入 した。その結果、「学級の『承認』『被侵害』の改善 が確認された。また、質問紙調査からは、学級児童 相互の関わりの増加と、規範意識の向上が見出され た。」と報告している。「行動チャート」とは、学級内で期待される行動
(児童が学級活動の時間に話し合い、決定したもの)
を表にまとめたものである。これを用いて、定期的 に児童に目標を立てさせたり、自らの行動を振り返 らせたりした。
「いいね!カード」(
“ HAND IN HAND ”
カード から名称を変更した)とは、児童が仲間のよい行動 を記入するカードである。カードはミシン目で二つ に分けられるようにした。一つは相手に渡すように させ、残りの一つは書いた本人に保管させた。また、児童同士のカードの受け渡しの活性化などを目的に、
カードを一定枚数ためるとシールがもらえ、シール を一定枚数ためると賞状がもらえるようにした。さ らに、小板・赤坂(
2018
)に示されている学級通信 内の取組を参考に、無作為に「いいね!カード」を 書き合う「ランダムいいね!カード」の取組も行っ た。山本・池田(
2005
)は、SST
とは「トレーニング を通して上手な人づきあいのコツを学ぶこと」とし ている。本教育実践のSST
は佐賀県教育センター(
2011a
)、足立・佐田久(2015
)の取組などを参考 にした。足立・佐田久(2015
)は、小学校第4
学年 の児童に対しSST
を行った。その結果、「児童のSS
の向上や学級適応の促進、自尊感情の向上において 効果がみられた。」と報告している。本教育実践のSST
では、まず学級担任との協議により、児童に指 導するSS
の選定を行った。その結果、「自己紹介」、「上手な聴き方」の
SS
を選定した。それぞれのSS
に ついて、「インストラクション」→「モデリング」→「リハーサル」→「フィードバック」→「振り返り」
という流れで
SST
を行った。曽山・武内(
2012
)は、小学校第3
学年の児童に 対して帰りの会の15
分間にSST
を継続的に実施し、その結果児童の学級適応を向上させることができた と報告している。そこで、本教育実践では指導した
SS
の般化もねらい、業前に週1
回、既習のSS
を用 いたすごろくトークを行った。また、荒木(2011
)を参考に、児童が学んだ
SS
を実生活でどの程度 使っているかを自己評価できるようなチャレンジ カードを作成し、児童に活用させた。3. 2.PBISプログラムの実施
本教育実践の
PBIS
プログラムを2019
年5
月中 旬から2019
年6
月中旬に実施した。対象児童は奈 良市立A
小学校の第5
学年に在籍する児童106
名を 対象とした。授業実践はチームティーチングで行っ た。筆者が主に児童に指導し、学級担任にはその補 佐を行ってもらうようにした。「行動チャート」に関しては、
1
週目に作成の授業 を2
時間(45
分×2
)行った。「いいね!カード」に 関しては、児童に説明を行った後は特に書く機会を こちらからとることはなかったが、3,4
週目に「ラ ンダムいいね!カード」を行った。SST
に関しては、2
週目に「自己紹介」SS
に関する授業(45
分)を行 い、3
週目に「自己紹介」SS
を用いたすごろくトー クを業前に行った。同じ週に「上手な聴き方」SS
に 関する授業(45
分)も行い、4
週目に「自己紹介」SS
と「上手な聴き方」SS
を用いたすごろくトーク を業前に行った。3. 3.PBISプログラムの実施概要
3. 3. 1.「行動チャート」に関わる実践の概要
「行動チャート」に関わる実践の概要について以 下に述べる。まず、「行動チャート」作成の授業の導 入で、「自分たちは学校のよいサブリーダーとなれ ているのか」などと児童に問いかけた。すると、児 童から「まだまだよいサブリーダーにはなれていな い」などの発言があった。それを受け、筆者が「よ いサブリーダーになるために、よい行動について考 えよう」などと児童に問いかけた。
学校生活を六つの場面(登校・下校、朝の会・帰 りの会、休み時間、授業中、給食時間、掃除時間)
に分けた。児童を六つのグループに分け、一つのグ ループに一つの場面を割り当て、その場面での望ま しい行動について考えさせた。個人で考えた後、グ ループで意見を交流させた。その際には、意見を書 く付箋紙、付箋紙を貼る空欄の「行動チャート」を 活用させた。グループで出た意見を三つに絞らせた 後、短冊に書かせ、学級全体で共有させた。
それを基に、学級でさらに話し合い、「行動チャー ト」を作成した。その内容は、「登校・下校」におい ては「広がらないようにする」など、「朝の会・帰り の会」においては「ふざけてたら、声をかける」な ど、「授業中」においては「ノートをきれいにまとめ る」など、「休み時間」においては「チャイム着席を する」など、「給食時間」においては「みんなで並ん で給食室に行くようにする」など、「掃除時間」にお
いては「最後までそうじをする」などであった。作 成した「行動チャート」は、筆者がプリントにして 児童に配布した。また、児童が書いた短冊を模造紙 に貼り、学級掲示用として教室に掲示した。
栗原(
2018
)の実践報告を参考に作成した振り返 りシートを用いて、児童の行動変容を促すことなど を目的に、児童に自らの行動を振り返らせた。具体 的には、月曜日に児童にその週の自分の行動目標を 立てさせ、金曜日にその週の自分の行動を記述など で振り返らせた。そして、これを実践期間中、継続 的に行わせた。3. 3. 2.「いいね!カード」に関わる実践の概要
「いいね!カード」に関わる実践の概要について 以下に述べる。「いいね!カード」を児童に提案する にあたりまず、教師が自分のいいところを見つけて もらえた体験を話すことを行った。そして、人の「い いところ」と「悪いところ」を見つけるのであれば どちらが簡単かということを児童に問いかけた。す ると、「悪いところ」という児童が多かった。そこで、
筆者が人の「いいところ」を見つけられることの価 値を児童に話し、「いいね!カード」の取組を児童に 提案し説明した。「いいね!カード」(図
1
)は栗原(
2018
)を参考に作成し、ミシン目で児童がカード を二つに切り離すことができるようにした。児童に 一方を相手に渡させ、もう一方は渡した証として保 管させた。週に一度、筆者が児童の「いいね!カー ド」の記述内容を点検し、学級でその内容を紹介す ることも行った。「いいね!カード」の受け渡しの活性化などをね らい、トークンエコノミー法も用いた。具体的には、
児童が仲間に「いいね!カード」を
5
枚渡すごとに シールを1
枚児童に与え、児童が仲間から「いい ね!カード」を5
枚もらうごとにシールを1
枚児童 に与えるようにした。そして児童がシールを10
枚 集めるごとに賞状を与えた。さらに
3, 4
週目には、「ランダムいいね!カード」の取組も行った。これは、児童の仲間との関わりを 拡大させることをねらったものである。まず児童に 出席番号が書かれたくじを業前に引かせ、
1
日観察 する児童を決めさせた。そして、児童にくじで引い た児童のよい行動を1
日かけて見つけさせた。児童図1 「いいね!カード」
児童の行動変容と学校適応感の向上を目指した教育実践
にくじで引いた児童についての「いいね!カード」
を帰りの会で書かせ、発表させた。
3. 3. 3.SSTに関わる実践の概要
SST
に関わる実践の概要について以下に述べる。SST
は「自己紹介」SS
、「上手な聴き方」SS
をター ゲットスキルに設定し行った。授業は、「インストラ クション」→「モデリング」→「リハーサル」→「フィードバック」→「振り返り」の順で行った。「イ ンストラクション」では、その
SS
を使うことの価値 づけなどを行った。「モデリング」においては、筆者 と学級担任でロールプレイを行った。具体的には、自己紹介場面、人の話を聞く場面における望ましい 例とそうでない例を筆者と学級担任で役割演技し、
「自己紹介」
SS
・「上手な聴き方」SS
のポイントに ついて児童に考えさせた。「リハーサル」は筆者らの ロールプレイを参考に、グループでそのSS
の練習 をさせた。「フィードバック」では、筆者や学級担任 がグループを見て回り、児童にポジティブな声かけ などを行った。「振り返り」では、振り返りシートを 用いて、児童にそのSS
のポイントと授業の感想を 書かせ、学級内で発表させた。また、荒木(
2011
)を参考に、チャレンジカード を作成し、児童が学んだSS
を実生活で使うよう促 すことをねらった。さらに、SST
の授業の1
週間後 の業前に、既習のSS
を用いたすごろくトークを行 わせた。すごろくトークを行う前に、既習のSS
のポ イントを児童に問いかけ、それを全員に想起させた。すごろくトークは学んだ
SS
を活用させながら行わ せた。すごろくトーク終了後に、感想などを振り返 りシートに書かせ、学級内で発表させた。3. 4.本研究のPBISプログラムの効果検討 3. 4. 1.行動を振り返るアンケートの結果
本教育実践の効果検証は、行動を振り返るアン
ケート、
ASSESS
、児童の本教育実践に対する自由記述の三つを用いて行った。行動を振り返るアン ケート、
ASSESS
の分析には、統計ソフトjs-STAR version 9.7.8j
を用いた。行動を振り返るアンケートは児童の
SS
を測定す るために用いた。行動を振り返るアンケートの分析 対象児童は、児童の欠席や記載不備により93
名と なった。アンケートの回答は、「よくしている」を4
点、「だいたいしている」を3
点、「あまりしていな い」を2
点、「ほとんどしていない」を1
点とした。「自己紹介」
SS
・「上手な聴き方」SS
共に3
項目の合 計をもって各対象者の得点とした。質問項目を表1
に示す。得点の範囲はいずれも3-12
である。本教育実践の児童の「自己紹介」
SS
に対する効果 を検討するために、児童の「自己紹介」SS
の事前結 果について中央値折半し、児童をそれぞれ低群高群 に分け、自己紹介(低群・高群)×調査時期(事前・事後)の
2
要因分散分析を行った。その結果、「自己 紹介」SS
について、自己紹介(F
(1,91
)=101.45, p < .01
)の主効果は1
%水準で有意であり、調査時 期の主効果は有意でなく、交互作用(F
(1,91
)=10.56, p < .01
)は1
%水準で有意であった。そこ で、自己紹介、調査時期のそれぞれの要因において 単純主効果の検定を行った。自己紹介の単純主効果 は事前、事後共に1%
水準で有意であった(事前:F
(1,91
)=222.30, p < .01
;事後:F
(1,91
)=26.38, p < .01
)。また、調査時期の単純主効果は低群にお いて1%
水準で有意であったが、高群において有意 でなかった(F
(1,45
)=9.70, p < .01
)。また、「上手な聴き方」
SS
に対しても、「自己紹 介」SS
と同様に2
要因分散分析を行った。その結果 を「自己紹介」SS
の分析結果と共に表2
に示す。「上 手な聴き方」SS
について、上手な聴き方(F
(1,91
)=153.39, p < .01
)、調査時期(F
(1,91
)=7.33, p <
.01
)の主効果は共に1
%水準で有意であり、交互作 用(F
(1,91
)=19.56, p < .01
)も1
%水準で有意で あった。そこで、上手な聴き方、調査時期のそれぞ れの要因において単純主効果の検定を行った。上手 な聴き方の単純主効果は事前、事後共に1%
水準で 有意であった(事前:F
(1,91
)=236.32, p < .01
; 事後:F
(1,91
)=36.04, p < .01
)。また、調査時期 の単純主効果は低群において1%
水準で有意であっ たが、高群において有意でなかった(F
(1,38
) 表1 「自己紹介」SS
・「上手な聴き方」SS
の質問項目=25.41, p < .01
)。よって本教育実践は、「自己紹介」
SS
の低群、「上 手な聴き方」SS
に対して一定の効果があったと言 えるであろう。3. 4. 2.ASSESSの結果
ASSESS
は、児童の学校適応感を測定するために用いた。
ASSESS
は、児童の学校適応感を測定でき、「生活満足感」、「教師サポート」、「友人サポート」、
「向社会的スキル」、「非侵害的関係」、「学習的適応」
の六つの因子で構成されている。その質問項目は、
それぞれの因子につき
5
項目など、全34
項目であ る。児童には5
件法で回答を求め、ASSESS
各因子 の適応感得点を算出した。本教育実践の児童の「生活満足感」因子に対する 効果を検討するために、児童の「生活満足感」因子 の事前結果について中央値折半し、児童をそれぞれ 低群・高群に分け、生活満足感(低群・高群)×調 査時期(事前・事後)の
2
要因分散分析を行った。そ の結果、「生活満足感」因子について、生活満足感(
F
(1,87
)=137.38, p < .01
)の主効果は1
%水準で 有意であり、調査時期の主効果は有意でなく、交互 作用も有意でなかった。さらに、「生活満足感」因子と同様に、「教師サポー ト」、「友人サポート」、「向社会的スキル」、「非侵害 的関係」、「学習的適応」因子についても
2
要因分散 分析を行った。「生活満足感」因子の分析結果と共に 表3
に示す。「教師サポート」因子について、教師サポート
(
F
(1,87
)=100.90, p < .01
)の主効果は1
%水準で 有意であり、調査時期(F
(1,87
)=2.84, p < .10
)の 主効果は有意傾向であり、交互作用は有意でなかっ た。「友人サポート」因子について、友人サポート
(
F
(1,87
)=141.41, p < .01
)の主効果は1
%水準で 有意であり、調査時期(F
(1,87
)=5.61, p < .05
)は5
%水準で有意であり、交互作用(F
(1,87
)=4.47,
p < .05
)も5
%水準で有意であった。そこで、友人 サポート、調査時期のそれぞれの要因において単純 主効果の検定を行った。友人サポートの単純主効果 は事前、事後共に1
%水準で有意であった(事前:F
(1,87
)=240.02, p < .01
;事後:F
(1,87
)=50.73,
p < .01
)。また、調査時期の単純主効果は低群において
1%
水準で有意であったが、高群において有意 でなかった(F
(1,55
)=10.05, p < .01
)。「向社会的スキル」因子について、向社会的スキル
(
F
(1,87
)=120.94, p < .01
)の主効果は1
%水準で 有意であり、調査時期は有意でなく、交互作用(
F
(1,87
)=3.35, p < .10
)は有意傾向であった。そ こで、向社会的スキル、調査時期のそれぞれの要因 において単純主効果の検定を行った。向社会的スキ ルの単純主効果は事前、事後共に1
%水準で有意で あった(事前:F
(1,87
)=128.66, p < .01
;事後:F
(1,87
)=72.83, p < .01
)。また、調査時期の単純 主効果は低群において5%
水準で有意であったが、高群において有意でなかった(
F
(1,40
)=5.89, p <
.05
)。「非侵害的関係」因子について、非侵害的関係
(
F
(1,87
)=151.88, p < .01
)の主効果は1
%水準で 有意であり、調査時期は有意でなく、交互作用も有 意でなかった。「学習的適応」因子について、学習的適応
(
F
(1,87
)=129.67, p < .01
)の主効果は1
%水準で 有意であり、調査時期は有意でなく、交互作用も有 意でなかった。よって、本教育実践は、「友人サポー ト」因子、「教師サポート」因子、「向社会的スキル」因子の低群に対して一定の効果があったと言えるで あろう。
ところで、栗原・井上(
2010
)は、「友人サポー ト」とは「友人関係が良好だと感じている程度」、「教 師サポート」とは「担任(教師)の支援があるとか、認められているなど、担任(教師)との関係が良好 であると感じている程度」、「向社会的スキル」とは
「友だちへの援助や友だちとの関係をつくるスキル 表2 「自己紹介」
SS
・「上手な聴き方」SS
の低群高群ごとの平均値と分散分析結果児童の行動変容と学校適応感の向上を目指した教育実践
をもっていると感じている程度」であると述べてい る。すなわち、本教育実践の
PBIS
プログラムによっ て、児童が自らの友人関係を良好だと感じたり、友 だちへの援助や友だちとの関係をつくるスキルを もっていると感じたり、教師との関係が良好だと感 じたりすることに一定の効果があったと言えるであ ろう。3. 4. 3.「自己紹介」SS、「上手な聴き方」SSが ASSESS各因子に及ぼす影響
さらに、行動を振り返るアンケートの「自己紹介」
SS
、「上手な聴き方」SS
がASSESS
各因子に及ぼ す影響について検討するために、実践前のASSESS
各因子の適応感得点を従属変数、実践前の「自己紹介」
SS
、「上手な聴き方」SS
の得点を独立変数とし て重回帰分析を行った。この分析には、SPSS version25
を用いて行った。その結果を表4
に示す。「生活満足感」については、決定係数(
R
2)は(.42
) であり、0.1
%水準で有意であった。また、「自己紹 介」SS
(.72
)は有意な正の影響力(p
<.001
)を もつが、「上手な聴き方」SS
は有意な正の影響力を もたないことが示された。「教師サポート」については、決定係数(
R
2)は(
.29
)であり、0.1
%水準で有意であった。また、「自 己紹介」SS
(.46
)は有意な正の影響力(p
<.001
) をもつが、「上手な聴き方」SS
は有意な正の影響力 をもたないことが示された。「友人サポート」については、決定係数(
R
2)は表3 「
ASSESS
」各因子の低群高群ごとの平均値と分散分析結果表4 「自己紹介」
SS
、「上手な聴き方」SS
を独立変数、「ASSESS
」 各因子を従属変数とした重回帰分析結果(実践前)(
.32
)であり、0.1
%水準で有意であった。また、「自 己紹介」SS
(.43
)は有意な正の影響力(p
<.001
) をもつが、「上手な聴き方」SS
は有意な正の影響力 をもたないことが示された。「向社会的スキル」については、決定係数(
R
2)は(
.48
)であり、0.1
%水準で有意であった。また、「自 己紹介」SS
(.54
)は有意な正の影響力(p
<.001
) をもち、「上手な聴き方」SS
(.21
)も有意な正の影 響力(p
<.05
)をもつことが示された。「非侵害的関係」については、決定係数(
R
2)は(
.14
)であり、1
%水準で有意であった。また、「自 己紹介」SS
(.28
)は有意な正の影響力(p
<.05
)を もつが、「上手な聴き方」SS
は有意な正の影響力を もたないことが示された。「学習的適応」については、決定係数(
R
2)は(.10
) であり、5
%水準で有意であった。また、「自己紹介」SS
は有意な正の影響力をもたないが、「上手な聴き 方」SS
(.23
)は有意傾向な正の影響力(p
<.10
)を もつことが示された。よって、「生活満足感」、「教師サポート」、「友人サ ポート」、「非侵害的関係」に対して、「上手な聴き 方」
SS
は影響力をもたなかったが、「自己紹介」SS
は正の影響力をもつことが示された。「向社会的ス キル」に対しては、「自己紹介」SS
の方が「上手な 聴き方」SS
よりも正の影響力をもつことが示され た。一方、「学習的適応」に対しては、「自己紹介」SS
は影響力をもたず、「上手な聴き方」SS
が有意傾 向な正の影響力をもつことが示された。これらから、「自己紹介」
SS
の方が、「上手な聴き方」SS
よりもASSESS
各因子に対して影響力をもつことが示唆された。
3. 4. 4.行動変容に関わる児童の記述
実践後に、児童に対して
ASSESS
、行動を振り返 るアンケートを実施すると共に、本教育実践に対す る意見を自由記述で求めた。児童の本教育実践に対 する自由記述の中から、「行動変容」に関わるものを 抽出し、表5
~7
に示す。表5
に示した「行動チャー ト」に対する児童の記述内容(抽出)の「前より行 動を意識し始めたら、あそこが悪かったかなとか思 いました。」、「ルールを決めたから気にしてでき た。」、「いろんなことを意識できるようになった。」、「これを決めてから、色々これまで気にしなかった こととかを気にするようになった。」から、本教育実 践の「行動チャート」は児童が自らの行動を意識化 することの促進に一定の効果があったと考えられる。
また、「自分ができていなかったこともなおせたと 思うので、役立ったと思いました。」、「きまりを守れ るようになった。」、「今までやらなかったことをで きてよかった。」、「低学年の歩くスピードで歩けて
よかった。」、「登校下校の学習で、周りを見て歩くよ うになった。」、「『休み時間』で友達に、『次の授業の 準備しよう』と声をかけれた。」から、本教育実践の
「行動チャート」は児童の適応行動スキルの増加に 一定の効果があったと考えられる。
表5 「行動チャート」に対する児童の記述内容
(抽出)
・前より行動を意識し始めたら、あそこが 悪かったかなとか思いました。
・ルールを決めたから気にしてできた。
・いろんなことを意識できるようになった。
・これを決めてから、色々これまで気にしな かったこととかを気にするようになった。
・自分ができていなかったこともなおせた と思うので、役立ったと思いました。
・きまりを守れるようになった。
・今までやらなかったことをできてよかった。
・低学年の歩くスピードで歩けてよかった。
・登校下校の学習で、周りを見て歩くよう になった。
・「休み時間」で友達に、「次の授業の準備 しよう」と声をかけれた。
表
6
に示した「いいね!カード」に対する児童の 記述内容(抽出)の「そんなに書いていないけどい つもより友達のいいところを見つけれている気がす る。」、「友達のいいところを見つけられるように なった。だからいいと思う。」から、本教育実践の「いいね!カード」の取組によって、仲間のよいとこ ろを見つける力がついてきたことを実感している児 童も存在していることがわかる。また、「自分にこん ないいところがあったんだって思えるようになれた と思ったのでよかったと思います。」から、本教育実 践の「いいね!カード」の取組によって、児童の自 己理解の促進に一定の効果があったと考えられる。
さらに、「友達とより仲良しになった。」、「いいね!
カードを始めてから結構仲良くなった子がいてよ かった。」から、本教育実践の「いいね!カード」の 取組によって、児童の友人関係が深まったり広がっ 表6 「いいね!カード」に対する児童の記述内
容(抽出)
・そんなに書いていないけどいつもより友達 のいいところを見つけれている気がする。
・友達のいいところを見つけられるように なった。だからいいと思う。
・自分にこんないいところがあったんだっ て思えるようになれたと思ったのでよ かったと思います。
・友達とより仲良しになった。
・いいね!カードを始めてから結構仲良く なった子がいてよかった。
児童の行動変容と学校適応感の向上を目指した教育実践
たりすることに一定の効果があったと考えられる。
表
7
に示したSST
に対する児童の記述内容(抽 出)の「これでしゃべり上手になりました。」、「きき 方が上手になりました。」、「あれを勉強してから、話 すことが少し上手になった気がする。」、「自己紹介 が苦手だったけど、自信を持ってできるようになれ た。」、「自己紹介は緊張するけど、前より緊張しなく なった。」から、本教育実践のSST
によって、自ら のSS
の向上を実感している児童も存在しているこ とがわかる。また、「あれから色々な人にその話し方 聴き方をしているので使えていいです。」、「ちょっ と人見知りな私も普通に話しかけられるようになっ た。」から、本教育実践のSST
によって、学んだSS
を学校生活などで活用している児童も存在している ことがわかる。表7 SSTに対する児童の記述内容(抽出)
・これでしゃべり上手になりました。
・きき方が上手になりました。
・あれを勉強してから、話すことが少し上 手になった気がする。
・自己紹介が苦手だったけど、自信を持っ てできるようになれた。
・自己紹介は緊張するけど、前より緊張し なくなった。
・あれから色々な人にその話し方聴き方を しているので使えていいです。
・ちょっと人見知りな私も普通に話しかけ られるようになった。
しかし、児童の本教育実践に対する自由記述の中 の「行動チャート」に対する記述の中には、「考える のが難しかった。」、「あまり守れませんでした。」が 存在した。これらから、行動チャートの作成・活用 に困難さを感じていた児童が存在することがわかる。
よって、行動チャートの項目を絞るなどの改善が必 要であると考える。
4.考察
本研究の目的は、児童の行動変容と学校適応感の 向上を目指し、
SST
を導入したPBIS
(第1
次予防)の取組を中心に教育実践を行い、その効果を検討す ることであった。そこで、本教育実践の
PBIS
プロ グラムの効果をASSESS
、行動を振り返るアンケー ト、児童の本教育実践に対する自由記述により検討した。
ASSESS
、行動を振り返るアンケートから、児童が自らの友人関係を良好だと感じたり、友だち への援助や友だちとの関係をつくるスキルをもって いると感じたり、教師との関係が良好だと感じたり すること、児童の
SS
の向上や活用に一定の効果が あったことが示唆された。また、児童の本教育実践に対する自由記述から、本教育実践の
PBIS
プログ ラムの効果として、「自らの行動の意識化の促進」、「適応行動スキルの増加」、「仲間のよいところを見 つける力の向上」、「自己理解の促進」、「友人関係の 深まりや広がり」、「
SS
の向上」、「学んだSS
の学校 生活での活用」が示唆された。これらから、本教育 実践のPBIS
プログラムは児童の行動変容や学校適 応感の向上に対して一定の効果があったと言えるで あろう。また、本教育実践の
PBIS
プログラムは「自己紹 介」SS
低群、「上手な聴き方」SS
低群、「友人サポー ト」低群、「向社会的スキル」低群に対して一定の効 果が見られた。すなわち、本教育実践のPBIS
プロ グラムはボトムアップの効果があったといえる。今 後、開発的・予防的な生徒指導がますます求められ ると叫ばれている(文部科学省2010
)中で、ボト ムアップ効果があったと考えられる本教育実践のPBIS
プログラムは今後求められる開発的生徒指導 としても意義があるのではなかろうか。しかし、本教育実践において、「生活満足感」、「非 侵害的関係」、「学習的適応」の事前事後の平均値に 有意な向上は認められなかった。池島・松山
(
2016
)の多層的なPBIS
プログラム(第1
予防:賞 賛ゲーム、第2
次予防:ピア・メディエーション、第
3
次予防:CICO
)では、「非侵害的関係」が有意 に向上したことから、本教育実践のPBIS
プログラ ムが第1
次予防に焦点化したものであったことが、「非侵害的関係」に有意な向上が認められなかった ことの原因の一つであると推測する。文部科学省
(
2010
)においても、集団指導と個別指導の両方が 必要と示され、そのどちらにおいても「成長を促す 指導」、「予防的指導」、「課題解決的指導」の三つの 目的に分けることができると述べられている。よっ て、児童の学校適応感などに対してより教育的効果 を上げるためには、多層的なPBIS
プログラムを学 校現場に導入する必要性があると考える。また、「学習的適応」に関しては、本研究と同様に 効果検証に
ASSESS
を用いた池島・松山(2016
)に おいても、有意な向上は認められなかった。よって、児童の「学習的適応」の向上に対しては、教科指導 などの方向からの取組が必要なのではないかと推測 する。
さらに、栗原・井上(
2010
)は「生活満足感」を「生活全体に対して満足や楽しさを感じている程度 で、総合的な適応感を示す」と述べている。本教育 実践においては、「友人サポート」、「教師サポート」、
「向社会的スキル」の低群に対して一定の効果が見 られたが、「生活満足感」には有意な向上は認められ なかった。「生活満足感」の有意な向上に対しては、
「非侵害的関係」、「学習的適応」の有意な向上などが
必要であると考える。
実践前の「自己紹介」
SS
、「上手な聴き方」SS
の 得点を独立変数、実践前のASSESS
各因子の適応 感得点を従属変数とした重回帰分析から、「自己紹 介」SS
、「上手な聴き方」SS
はASSESS
各因子に 対して一定の正の影響力をもつことが示唆された。曽山(
2012
)も、小学生に対してSST
を継続的に 行った結果、「児童の学校適応感を促進することに 一定の効果があることが示唆された」と述べている。これらから、児童の学校適応感の向上に向けて、
PBIS
プログラムにSST
を導入することには意義が あると考える。しかし、本教育実践の
SST
は、「自己紹介」SS
、「上手な聴き方」
SS
の二つを対象として行ったため、今後、これら以外の
SS
を含めてどのようにPBIS
プ ログラムの中で指導していくのか、具体的にはどの ようなSS
を選択し、学年間でどのような系統性を もたせるのかなどを検討することが必要である。一方、児童の本教育実践に対する自由記述の分析 から示唆された「適応行動スキルの増加」、「仲間の よいところを見つける力の向上」、「
SS
の向上」は児 童が自らの成長を実感していることを示していると 考える。よって、「児童が自らの成長を実感するこ と」、「児童が自己理解を促進すること」などが、児 童が自らの友人関係を良好だと感じたり、友だちへ の援助や友だちとの関係をつくるスキルをもってい ると感じたりすることに影響を与えている可能性が 考えられる。今後、自己理解と友人関係の関係など もより詳細に検討することが求められるであろう。5.謝辞本研究を行うにあたり、ご理解とご協力をいただ いた実践協力校の教職員の皆様、河﨑智恵先生、阪 部清先生、出口拓彦先生を始め、ご指導ご助言をい ただきました奈良教育大学の教職員の皆様、院生の 皆様に心より感謝申し上げます。
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