【学位論文審査の要旨】
本学位論文は,地域在住高齢者の日々の作業に対する満足度や生きがいを維持・向上する活 動日記を用いた集団プログラムの開発を目的した一連の研究から構成されている.
副論文1と2は、従来,地域高齢者に向けた集団プログラムの研究の課題として作業の効果の不 明瞭さおよびセッション数の多さが挙げられた.そのため,申請者は作業に対する満足度に焦点 化および,高齢者自身が満足と感じる日々の作業経験を記録し,モニタリングするための活動日 記を質的研究を用いて開発した.そして,対象者は中高年者25名で4回からなる集団プログラム を実施した.その結果,実施可能性が確認された.
主論文は,開発した集団プログラムの効果を検証する研究が緻密に計画された.申請者は活動 日記を用いて,地域高齢者へ集団プログラムによる作業に対する満足度に与える効果をランダム 化比較試験により実施した.三原市の広報誌などで応募した65歳以上の125名を無作為抽出で 実験群と対照群に分け,集団プログラムを 4回実施した.その結果,プログラム前後において作業 に対する満足度,生きがい感,生活満足度で有意な得点の上昇を認めた.また,開発した集団プ ログラムが従来の類似プログラムに比べ高い効果量を示した.さらに参加率も非常に良好で実用 性が高いプログラムであることを示した.
ただし,本研究は研究対象地域が一地域限定であること,研究ではプログラムの実践者が 学位申請者を含む2名のみであること,プログラムの長期効果やプログラムの実施における汎 用性や一般化可能性などが研究課題として挙げられた.
上記の課題はあるものの、公聴会や口述試験においてこれらの点に関する質問は,申請者 はこれを真摯に受け止め,方法論的に課題を述べた上で今後の研究の進展に関する意欲も 十分に認められた。関連した領域の知見に関しても高い見識を披露した.
結論としての評価は、
学位論文審査基準の項目(博士) 評価
明確である研究の目的・意義 秀
適切な研究デザインと計画 優
データ収集とデータ分析の実施 優
研究の成果,限界,今後の課題に対する考察 秀
作業療法の発展に寄与する内容 秀
新規性があり,科学的価値 秀
研究のテーマに関する専門性 優
上記より,申請者はこれまでの高齢者対象の集団プログラムが有した研究課題に真摯に 向き合い,高齢者が取り組みやすいプログラムの開発をし,実施した点では研究者としての
優れた資質を有すると評価される.さらには本研究結果において,重要な示唆を得た点に おいて作業療法学上,極めて先駆的な研究に位置付けられる.
以上のことから,本研究が博士論文として適格であり,本申請者が博士の学位(作業療法学)を 授与するに相応しい知識と研究能力を備えていると判定する.