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軍産複合体制下のアメリカ教育の一側面―その2―(増田)軍産複合体制下のアメリカ教育の一側面
―その2―
増 田 史郎亮
V
この稿を始めるに当り,先ず二つの事を断って置きたい。その一つは行文中,使用して いる統計,資料の入手が仲々難しい事もあって古いのが多いという事で,これは前記でも 断った積りである。その二は前稿,またこの稿の相当の部分を昨年の佐賀大学で開催され た九州教育学会で類似の題目下に発表したという事である。
さて先の論文一その1一の最後の部分で筆者はアメリカ軍産体制の実態または現況 を述べたが,その一部を補足する事から本稿を起筆したい。ところで補足するというのは IVの(4)の部分に関してである。そこで筆者は米政府より国防用研究開発費として巨額のド ルが民間企業や多数の大学その他の研究機関に支払われて居る事を述べ,民間企業ならび に非営利機関のランクを一覧表にしたのであるが,これらに関し以下の事を筆者はつけ加
えたい。
米政府の巨額の国防用研究開発費やそれを含む全研究開発費の大半を受ける非営利機関 として1968年当時マサチューセッツ工科大学をトップに有力研究所やジョン・ホプキンズ 大学,カリフォルニア大学,コロンビア大学など50余の諸大学が名を連らねているのは注 目すべきであろう(1)。なお同年ペンタゴンより100万ドル以上の研究援助を受けた大学は マサテユーセッッ工科大学を筆頭に計59大学で,これは全米大学の45校に1校という割合 になる。因みに何度も挙げたマサチューセッツ工科大学は産学協同五十有余年の歴史をも ち,その面の先駆的大学であり,現在軍部・産業界との関係の最も深い典型的大学である 事を指摘して置きたい。最近の調査によると全連邦機関が行なっている大学,研究機関へ の援助の20%をペンタゴンが支出し,航空宇宙局など関連機関の援助を加えると35%にの ぼり,保健教育厚生省の支出援助額と匹敵するという。更に現在,米物理学の基礎研究の 30%がペンタゴンの援助によると言われ,連年誕生する4000人前後の工学博士の60%以上
はペンタゴン,航空宇宙局の援助を受けているという。筆者が補足したいと考えた部分は 以上の通りである②。
今迄段々に述べて来た事が軍産複合体制の現況のあらましであるが,これらを垣間見た だけでも軍産複合体が政治,経済,産業,労働は勿論,学問,教育の面にも深く喰込んで いる事が判る。
以上からも軍産複合体が米教育界に多面的影響を与えている事が推察されるが,本稿で はその中,明確に指摘出来る二つの面に問題を限定して考えてみたい。軍産複合体がアメ リカ教育に影響を及ぼしている範囲と深さは広範,かつ深刻であると思われるが,只今の 所それが教育界,特に大学教育界に与えている影響と教育産業界に与えている影響ほど深 刻かつ明白な影響はあるまいと考えられる。言う迄もなく筆者が考えてみたいという二つ の面というのはそれらの事柄を指す。
「三思複合体制」の著者レンズや陸軍参謀長時代からのアイゼンハワー等の指摘する如 く,軍部・政府・産業界と大学が関係をもつに至ったのは第二次大戦中からであったと思 われる。第二次大戦前は兵器もさほど複雑でなく政府・軍部や産業界は大学の援助をさほ
ど必要としなかったのに対し,大戦中は大戦前と異り,兵器も質的に変化し,電子工学や 原子力が兵器化すると共に,産・官・軍ともに大学を必要とするに至ったからである。官
・産・軍側の顧問への教授・学長の招聰,大学側の原爆・レーダー・誘導ミサイル等各種 兵器の開発,毒ガス・細菌戦術の開発等の協力がそれである(3>。
以上は主として戦中までの情況であるが,以下戦後の情況を述べてみたい。
(1)国防科学委員会,大統領科学諮問委員会,空軍科学諮問委員会等政府諮問機関で活 動する多くの教授達がいるが,彼等は大学を軍産複合体制の方向に導こうとしているとレ
ンズは言う。当然考えられる事であろう。
(2)陸・海・空三軍の士官学校だけでは多数の将校を到底賄えず,54年創始された将校 達成計画たる予備訓練計画一Reserve Officers Training Course一は,73年徴兵制
が廃止されるまで,米国学生にそれは学生生活の中止,将校訓練生活の開始を意味すると いう点で大きな影響を与えたが,更に計画採用の折は見返り援助資金を政府が与える事に もなっていたのでこの計画は亦,教官の研究費にも大きな意味をもった。72年,見返り援 助を受けた大学は187校に上った。(この情況の一部を註(4)に掲げたので参照されたい)。
72年,速成計画や国防政策に貢献しない大学に対し国防長官が研究費を中止しうる法律が 議会を通過した以後は,そういう報復,嫌がらせをはね返し得る,例えばハーバードやコ ロンビアの如き名門校のみが速成計画を中止しているという。尤も速成計画がベトナム反 戦運動の目標になり,多くの大学でその事務所が,放火,破壊された事は周知の通りであ る。以上はペンタゴンが大学教育に直接介入している一例として挙げられよう(4)。 ・ (3)陸・海・空三軍の兵器,生物研究所と関係し兵器,細菌の研究を行っている大学も 多く(ベトナム戦での枯葉,枯草剤,火焔武器の出現はその産物の一つである),大学が 管理し,政府の資金で運営されている研究・開発センターまたは契約センターまたは国防 研究所に関係している教授,大学も多く,産業界と契約を結んでいる大学もある。マサチ ューセッツ工科大学はその筆頭で同大大学院学生の45%はIQOの国防契約業者の仕事を請 負っている⑤。
以上を見ても産・軍・官はアカデミックな面でも大学を支配している事が窺われる。論 者或は産・軍・官の依頼研究の中には応用研究,開発より基礎研究が多く,機密扱いでな く,防衛的研究もあり,科学は中立的で,軍事利用にも平和利用にも用いうるのでないか 云々と言うかもしれない。実は大学の軍・産・官への結びつきを学生や社会から追求さ れた時,多くの大学はかく答えた。一応確かにそうも言えようが,基礎研究が軍に結びつ き,防衛というには余りにも軍事に直接結びつき,平和利用より軍事利用に結びつく場合 が寧ろ多かったと見るのが事実に近いようである⑥。
㈲ 自然科学に起った以上のような状況は社会科学にも及んでいる。アメリカン大学や スタンフォード大学,コロンビア大学,ジョージ・ワシントン大学等では陸軍やペンタゴ
ンの依頼を受けて後進国の内戦防止・鎮圧政策研究等に社会学者,心理学者が動員され
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軍産複合体制下のアメリカ教育の一側面一その2一(増田)た。チリを対象にしたキャメロット計画,ベトナムを対象にしたベトナム平定計画がその 典型である。具体的例を一つ挙げると,人が集団から全く孤立して孤独になった場合,ど ういう心理状態になるかという心理学的研究がベトナム戦争当時,戦場に煮て出兵が一入 孤立した場合の対策に応用された如きがそれである(7)。
(5)多くの大学の役員の多くが,国防契約の大会社の重役会に関与している。かかる人 達は軍・産・学の関係を制度化してアメリカ軍国主義の中枢部たらしめているとレンズは
見る(8)Q
(6)また大学や教授達は最初は政府や軍部の為に行った研究を基にして派生事業を起 し,多くの派生会社を起し,顧問になった者もいる。スタンフォード大学,ハーバード大学,
マサチューセッツ工科大学周辺にはそれぞれ200か日160迄の派生会社があるという(9)。
(7)尚,以上のような情況が,アメリカの大学をして教育よりも研究を優遇せしめ,そ の研究も,生活を豊かにする研究よりも人を死に追いやる研究の方に振り向けしめ,無名 弱小大学より有名巨大大学を強化して大学の優先順位をも著しく歪めている面がある事も 忘れてならぬのである。
所で以上のような諸情況に対してアメリカ人自身,また日本人が次のように見たのは蓋 し当然であったと思われる。
「アメリカの夢は終った」の著者D・W・W・コンデは「多くの大学はペンタゴンやC IAよりふんだんに資金を貰い(賄賂をもらってと言いたい位であるが),而もこれらと 同じ研穽を行っている」と評し,「軍産複合体制」の著者シドニー・レンズは「大学は囚 われている」と見なし,カリフォルニア大学前学長クラーク・カーは「大学も国家目的達 成の手段となり,軍産複合体の構成要素となる」と言い,ミシガン州立大学前学長で前国 防次官のジョン・ハンナは大学を「絶対に必要な国防の保塁と見なさねばならぬ」とすら 言った。経済学者パーンズは「複合体は大学のカリキュラムをねじ曲げ,大学教授を教育 より研究に走らせ,政府にのみ目を向ける民間企業マネジャーや科学者を育成する」と警 告し,上院議員ユージン・J・マッカーシーは「軍・産・学複合体はお互に結び合い,助 け合いつつ肥大化しつつある」と述べ,注目すべき事に,前稿でも挙げた原子力潜水艦の 産みの親,H・G・リコーバー海軍大将は「今やアメリカはアイゼンハワー大統領が警告
した軍産複合体より遙かに危険な軍学複合体を作り出した」とすら警告した(11)。
京都大学教授島恭彦氏も「軍事費」という旧著の中ではあるが,アメリカの大学につい て次のように述べている。r大学でも学部別に見ると,人文科学,法商科のほとんど全部 の研究費は自己資金でまかなわれているが,工学,理学部門では,その経費の三分の二を 連邦政府が負担しているという。そのほとんどが軍事研究とみてよいb大学は政府の補助 がなければ,研究計画は成りたたず,補助金をひき出すために専門の売り込み屋を雇う大 学もあり,また国防研究の場合は,民間の会社と同様に,諜報組織をもつ大学があるとい う。大学が政府の軍事研究に依存して,自治と自由をうしなうだけではない。そこにはま た政府の軍事上の研究開発費に依存して事業を進めている産業界の圧力がある。シカゴ大 学が軍部の研究開発計画に手を出すことをしぶった理由は,軍部が検討中の兵器体系につ いて大学の研究はしばしば反対の結論を出したし,そのことがこの兵器体系の開発や建設 にあたろうとしている会社に,経済的打撃を与えたからだとされている。大学以外の非営 利の研究所,ここへまた軍部は国防研究費を集中的に投下し始めた。ここでは国防省は政
府の予算:規則にしばられずに高給を払って科学技術者をひきつけることが出来るからであ り,また政府機関と同じくらい厳重な機密保持規制によって科学技術者をしばる事が出来 るからである。こうして多様なチャンネルを通して,アメリカの科学技術者の三分の二 が,国防・宇宙・原子力計画に吸収されているといわれている。このような学問のシステ ムのゆがみは,アメリカ社会の将来にたいしてだけでなく,本来国境をこえてひろがって いく学問の世界に,はかりしれない影響を与えることだろう」と(1助。
「如何に軍部を抑えるか」の著述もある経済学者ガルブレイスも「新産業国家論」の中 でr19世紀の企業家達が大学理事会の地位を利用して,キリスト教教義,資本主義への尊 敬を主張する大学の介入を行ったが,現代の大企業家体制のくりひろげている支配力に比 すればその影響力はささやかなものであった。現代の大学教育は大企業体制の必要に従属 しているが,それよめ大学が脱出する方法は,大学が権威と予算に対する支配力を取り戻 す事である」と言っている⑱。
成程,前述の如く,軍産体制も無傷でなく,国防費の削減もあり,ガーディアン誌,フ ルブライト,プロクスマイヤー,エドワード・ケネディ,ガルブレイス,ラルフ・ネーダ ー等の所論に見る如く,ジャーナリズム,政界,学界,住民運動,反戦運動で批判の火の 手もあがっている。この点は前稿でも略述した事がある。然し,にも拘らず,その解体,
完全解体の主張が一つもないのは忘るべきであるまいbその理由は明白である。軍産体制 は仮令,今後国防費削減その他のチェックがあったとしても,アメリカのグ1コーパルな世 界政策,戦争を事とする体質,根本的体質が改まらぬ限り,ソ連との軍事競争が改まらぬ 限り,破滅を覚る迄,その機能を失う事なく,寧ろ今後それは政府・軍部・産業・大学複 合体として肥大化し,より大きな機能を果して行く性格,傾向を自らに蔵していると筆者
は愚考するからである。
以上段々に述べ来った軍士体制の問題,それにまつわる大学の問題は決して太平洋の向 う側だけの問題でない。先年判明して全国的規模の問題となった米軍事面よりの日本の大 学研究所への研究費援助問題(後述する),先年よりの産学協同の問題,石油ショック等 で削減されたとは言え第四次防の問題等が今日も尚,論ぜられているのを見ると,尚更,
アメリカのそれを対岸の火事としては見られないと筆者は思うのである。
因みに我が国の産・軍・学・官協同の情況を略述すれば大要以下の如くなる。アメリカ の産・軍・学協同が早くから確立された事は前売より筆者が縷縷述べて来た所であるが,
わが国でのその体制が確立されたのは遅く,ユ950年代後半のようである。以下項目だけ挙 げてみる。
1956(昭和31)年11月,日経連発表の「新時代の要請に対応する技術教育に関する意見」には「大学 側は産業界の要請を的確に把握して,これに対応する方途を考究すべきである」との主張が見られた。
1957年,日本生産性本部(1955年創立)はアメリカへ産学協同視察団を派遣,アメリカ流のその体制 をわが国にも導入する必要性を強調し,産学協同委員会を設置した。
1960年代には経団連による日本科学技術振興財団の創設,経済同友会の「産学協同運動」の提唱, 科 学技術会議による「ユ0年後を目標とする科学技術振興方策」の答申等が見られた。
1967年,アメリカよりの委託研究費総額107万ドルを,文部省の発表によれば全国25大学,9研究所
17 軍産複合体制下のアメリカ教育の一側面 一その2一 (増田)
等が受けていた事が判明,国会で大きく問題とされた。この中,米軍極東細菌兵器開発機関・406部隊 のツツが虫研究,自衛隊防衛研究所の潜水艦病研究などを東京大学医学部教授が依嘱を受けて行なって いたのが軍の委託研究としては顕著な例であろうω。
ユ970年,科学技術会議は産・官・学協力の実情を調査すべく産官学協力で海外調査団を派遣した。
尚, 産官体制を我が国で言えば,いみじくも米国商務省より「株式会社日本」と命名さ れたように(大原進,吉田豊明共訳にてサイマル出版会より出版),我が国の産官協同体 制は今始まった事でなく,明治維新政府の産業界援助政策以来の永い伝統が既に存在して いた事は周知の通りである。
尚又,ごく最近の産学 協の実態については木原正雄氏の論文「産学協同の実態と問題 点」が詳しいが,行文と紙面の都合上ここではその内容紹介は差控え,論文名を挙げるに 止めたい㈲。
論者或は言うであろう,以上のようなアメリカに於ける大学と軍産複合体の関係も日本 に於ける現状と品ぶれば,より大きな研究の自由と大学の自治を保っているのではないか と。大学自治の発達史を学生中心の大学の典型・ボロニや型と教師中心の大学の典型・パ リ型に二大別すれば,日・米は共にパリ型に属する独逸型に直接には系譜をひくのである としても,そこには国家の為(概して日本では),市民の為(概してアメリカでは)とい う伝統の差があると言えばそれ迄であるが,アメリカでは大学に対する監督は基本的問題 について州政府が行うのみで,連邦政府は全く関知しないのに対し,日本の大学は表面は 如何にも自治が行われているかの如く見せ乍ら,その実,予算面,援助それも法律によっ て政府・文部省の監督下にがんじがらあにされているのが実情だからである。そこを考え ると,またアメリカの軍産官複合体との大学の関係は「初歩的な監督」と言う事が出面る からでもある。然し,それにしてもアメリカの大学が軍・産・官との関係を絶とうとした 動きが絶無でないとしても僅かで,その多くは軍産複合体の研究費に幻惑され,振り廻わ され,束縛され,軍事研究,大企業向けの研究を行なっている厳然たる事実は否定すべく もなく,重大な問題を含んでいると言わざるを得ない。それは言わば,国家・社会の頭脳 たる大学の研究所が,戦争,産業を職とする国家,社会の筋肉たる軍・産・官複合体に支 配され,従属する事を意味するからである㈹。
現在アメリカが巨大システム産業,産着複合体企業の時代に突入している事は先より何 度も述べて来た所であるが,実は周知の所でもある。宇宙開発産業,情報産業,海洋開発 産業,教育産業,住宅・都市開発産業,医療産業,公害防止産業,開発途上地域開発等の 花咲き乱れた現状がその端的な例であろう。
所でこの中で教育産業は巨大産業が何れも注目する穴場と見られた。それは教育産業は 従来より巨大産業が手をつけなかった未開拓の分野であり,1960年代情報化社会に突入し たというアメリカの社会的背景もその背後にあったからであり,更に直接的にはプリンス トン大学教授ブリッツ・マッハルプの1962年の知識産業の実態を明らかにした著述が教育
・産業複合体形成の起爆剤となったからである。
石川博友氏は昭和45年出版の「巨大システム産業」の中で「過去10年間,アメリカの巨 大企業は情報化社会と知識産業の魅力に惹かれて,続々と教育市場へ進出した。」と言
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第23号
い,例に,CBS(放送)ITT(通信),ウエスチングハウス(電機),GE(電機)
ベル・アンド・ハウエル(電子機器),レイセオン(電子機器),ゼロックス(複写機),
IBM(コンピューター),リットン・インダストリーズ(コングロマリット),タイム
(出版社),マクグローヒル(出版社)などを挙げ,「これら巨大産業の大半は有力な産 軍複合体企業であった事に注目すべきである。これらの会社は何れもファンファー・レを鳴
らし……爆発する知識産業への参入を発表した。しかしその結果はどうであったか。大半 の会社は深刻な問題に直面し,苦悩している。巨大産業と見られた教育産業の夢は幻のよ うに消え,台本通りに進んでいる会社は皆無である。」と述べているαの。レイセオン社,
ゼロックス,ブイルコ,フォード社等々皆然りであるとの事である。
多くの産軍企業は国防,宇宙開発で身につけたシステムで技術を教育機器システムに適 用して,ハードウェアを開発し,教育専門の教科書会社のソフトウェアに結合すれば教育 巨大システム市場に簡単に接近出来ると考えた。かくて1962年頃より,軍産巨大企業は次 々に教科書出版会社等の買収に乗出し,いわゆる「電機と出版の結婚」ブームを生んだと 言われる。かかる幸福な結婚が62年頃行われたのには先に述べたようにマッハルプ教授の
いわゆる「知識産業」の提唱が当時あった事が大いに影響していようと筆者も考える。
第1表 教育産業に進出した巨大会社
年
1962 1962 1963 1964 1965 1965 1965 ユ965
1965 1965 1965 1966 1966 ユ966
親 会 社
Xerox
Ti〕me, Inc.
McGraw−Hi11
IBM
Raytheon Raytheon Raytheon Xerox Raytheon McGraw−H:i11 Xerox Litton
Xerox
ITT
被買収会社もしくは事業部
University Microfilm Silver Burdett Webster
SRA
Macalaster Scientific Dage−Be11
Edex
American Education Publications D.C. Heath Standard&Poor s Basic Systems
American Book Co.
Professional Library Services
H.W. Sams
事
業マイクロフィ
ルム・出版・
複写
教 科 書 教 科 書
テスト・カリ
キュラム教材 学校用科学設備
閉回路テレビ
・学習ラボ
学習ラボ・ドライノ・ミー訓i練
学校新聞・ク
ラブ
教 科 書
財務関係出版 教育プログラ
ム
教科書
図書館サービ
ス
教科書,商業
・技術出版
買収代金
(千ドル)
7,400
7,500
9,000 62,000 2,400 3,900
2,707 56,000 40,300 62,000 5,300 71,400 2,200 33,800
被買収会社
(買収時)
純益 売上高
(千ドル)(千ドル)
181
290 1,318
174
ユ,345
1,401
2,704
e84
1,901
(→ユ9
1,178
2,000 7,500
6,233
13,900 3,000 3,093
14,188 ユ8,243
22,011 1,003
21,300 1,998 17,241
19
軍産複合体制下のアメリカ教育の一側面一その2一 (増田)然し,その結果がどうなったか,それは上述の通りであった。早くも68年には『ニュー ズウイーク』誌は「教育産業ブームがくずれ去ったとは誰も言わないが,当初のバラ色が 殆んど消滅したという点では一般の意見がみられた」と言い,ウォール街の株式投資雑誌
『バロンズ・ウイクリー』は「今迄の所,結果は極めて失望的である。トラブルが起る と,重要な人々は会社を去っていった。会社は台本通りに運ぶ事が出来ず,予想されたよ うな利益をあげる事は出来なかった。」と述べている程であった⑱。
教育産業と産軍巨大産業の合体が何故かくも早々に崩壊したか,その例をGE(アメリ カ電機会社のナンバー・ワンで国防受注会社第三位)とタイム社(当時,世界最大の有名 出版社)が合体したゼネラル・ラーニング社(GLC)にとると,その原因は結局はGE 側のエンジニア・技術派とタイム側教育家・教育派の意見の衝突,不一致に帰するようで ある。詳しい事は今は省く。
とも角,GLCのみでなく,一般的に教育と産業は手を結んでも,結局革新的教育シス テムの市場を見出せず,ハードウェア派とソフトウェア派の対立を招き,大方,離婚にま で行かぬとしても,別居状態になっているというのが実情であるらしい。石川氏はこれは 教育・産業複合体の宿命であり,GLC社はその典型的な例であると言う(19。
次に掲げる第1表・第2表によっても以上の模様が推察されよう⑳。
年親会社被買収会社もしくは事業部事
被買収会社 (買収時)
業 買収代金_
純益売上高
(千ドル)(千ドル)(千ドル)
1966 Be11&Howe11 Devry Technical Institute エレクトロニ
Nス訓練 一 一 一
1966 RCA Random House
ビジネス出版・教科書
37,700 973 31,831 1966
CBS
Creative Playthings 教育オモチャ 13,500 172 4,283 1967CBS
Bailey Fihns 教育用映画 一 一1一1967 Bell(昼Howe11
C.E. Merri11
教 科 書 13,700 275 7,4811967 Xerox R.R. Bowker 参考書・年鑑゙ 12.4U 307 7,378
1967 Xerox Learning Materials 教 材 1,300 259 606 1967
CBS Holt, Rinehart(留
@Winston
教科書・雑誌280,000
6,625 70,2481967
CBS
Film Associates 教育用映画 一 } 一技術書・ビジ
1967 Litton D.Van Nostrand ネス書・教科壼 一 一 一 1967 Litton Reinhold−Chapman
日特殊ビジネス
o版・教科書 33,000 1,700 24,000 1967 Westinghouse Westinghouse Learning
@Corp. 電子教育機器
i事業部創設)
一20,000 i1968年)
1968 Xerox Ginn 教 科 書
127,000
2,740 37,4581968
CBS Sau.nders
医 薬 書 60,QOO 1,926 15,7Q8 1970 Nortonrimon Simon(島Schuster 各種図書出版 23,500 110
37,000
P(ユ969年置(出所)Barron s, Novemberユ8,1968.その他
第2表 教育事業の規模 一1967年実績一
親 会 社
ゼ ロ ッ ク ス C B S ベル・アンド・ハウエル
リットン・インダストリーズ レ イ セ オ ン I B M ウエスチングハウス ゼネラル・ラーニング
教育事業 の売上高
(万ドル)
910 970 180 800 350 330
ユ50
300
親会社の売 上高に占め る比率(%)
13 11 7
53
1ユ
1馨
鱒タイムとGEの売上高合計に対する比.
(注)基本製品の教育機関への売上高を除く.たとえば,
学校に売られたコンピューター,複写機その他は 除かれている.
(出所)Barron s, November 18,1968.
ここでは表の詳細な説明は省き,第 1表ではゼロックスが7社を買収して 資本と努力の大半を注ぎ込んだにも拘
らず期待通りならなかった事を読み取 って貰えれば,また第2表では総売上 高に占める教育事業上高の比率が辛う じて10%を越えるのはぜロッスとCB Sのみである事を読み取って貰えれ ば,先ず当面の用は足りようとだけ筆 者は言うに止める㈱。
更に石川氏によれば教育・産業複合 体の期待外れは次に挙げる複雑な多く
の要因によるという⑫。
第一,政府支出によって生まれると 期待された教育マーケットが予想され た程巨大なものにならなかったことである。これはベトナム戦費増大に伴う教育費の削減 があり,一方,教育産業に支出する政府・民間の巨額な費用中の半分以上が教師の給料等 の人件費に宛てられ,その残りの大半は学校の建設・維持費に回され,革新的教育システ ム導入に使われる費用は微々たるものであると推定されるからである。
第二,CAIのような革新的教育方式は保守的教育者には伸々受け入れられなかったこ とである。
第三,CAIその他電子教育機器の致命的欠点は従来の「黒板と教回書」にくらべてコ ストが極めて高い事である。
筆者もこれ以外の要因を思いつかぬし,石川氏のそれは現地の見聞を基にした事実の分 析そのものであろうと考える。
以上のように教育・産業複合体は教育派と産業派との言わば内ゲバを起しているが,一 方,この対立は外部に迄拡大し,教育・産業複合体は教育界の一部から厳しい批判を受け ている事も忘れてならぬであろう。ある論者は教育・産業複合体の形成は大会社が子供の 学ぶものを決定する事となると非難し,暗い恐れを抱き,ある論者は教育者が巨大企業に 依存する事によって教育問題の創造的解決方法が掴めるとは信じ難いと述べている㈲。
行文の都合上,筆者は教育産業に進出した巨大会社の諸情況を1968年にとったのである が(言う迄もなく,第1表,第2表がそれである),今,筆者に1972年前後の資料(「世 界企業要覧」大蔵省銀行局編1972年版,財経詳報社発行)があるので,これらを比較して 68年以後の教育産業の発達状況を因みに最後に一瞥してみたいと思う。以下述べる部分で この資料を使う箇所は一々引用の頁数,従って註は挙げない事とする。その事を予め断っ て置きたい。
Xerox Corp.
1970年のフォーチュン(言う迄もなく世界的に著名な米経済誌)売上高ランクは米鉱工業企業中瀬50 位。事業内容は複写機83%,電算機8%,教育出版6%,軍需3%。
21
軍産複合体制下のアメリカ教育の一側面 一その2一 (増田)CBS
1970年の売上高の構成は放送部門64%,再製レコード25%,楽器その他11%。
Be11&Howe11 Co.
70年のフォーチュン売上高は米鉱工業企業中第339位。70年の売上高の構成は消費材及び教育産業44
%,商業及び産業関係42%,国際部門14%。69年の売上比率は工業・商業関係40.3%,消費者関係26.2
%,教育関係19,ユ%,政府及び軍関係!4.4%。
Litton Industries, Inc.
70年のフォーチュン売上高ランクは米鉱工業企業中田36位。アメリカのコングロマリット(複合企 業)の元祖として著名な会社でその製品は事務機器,電子機器,国防,宇宙,造船,医療,教育など多 方面に亘るが,筆者の資料では事業内容の比率も,売上高の比率も不明。
Raytheon Co.
上述の如く同社は元来,軍需会社でレーダー開発に始まり近年,民需にも進出した。資料によると69 年の売上高の50%が軍需,50%が民需とだけ記され,民需の中,教育がどれだけの比率が占められてい るのか不明である。但し,資料中「軍需は停滞気味,教育産業は予想に反し,このため出版事業に組織 を改革,強化した」とあるのは注目に価する。
工BM
フォーチュンの例のランクは70年第5位(以下,ランクと言う場合は売上高のランク,第何位という のは米鉱工業企業中の順位を指している)。最近年(1972年より見て)の売上内訳はEDPシステム79
%,タイプライター等18%,防衛専用品3%とあるのみで,詳細は不明。
Westinghouse Electric Corp.
70年フォーチュンのランクは第13位。69年,70年の売上高構成中,放送・レジャー・教育の占める比 率はそれぞれ5%,7%。但し71年は教育レジャー部門の増収等もあると資料にはある。
Tim[e Inc.
70年フォーチュンのランクは第187位。70年の売上高比率は雑誌60%,書籍出版等16%,パルプ・板 紙14%,放送その他10%。赤字続きのライフ国際版を先に廃刊,アメリカ版を150万部削滅した事は周
知の通りである。
McGrow−Hi11, Inc.
アメリカでTimeに次ぐ第二の出版社。70年フォーチュンのランクは第264位。1970年の売上高構成 は書籍・フィルム・教育機器185.6(単位百万ドル),雑誌132.6,建築情報サービス48.3,金融情報サ ービス28。3。70年の収益内訳は書籍部門45%,雑誌等出版部門36%,インフォーメーションシステム及
び金融情報サービスユ9%。
以上の1972年の情況と第1表,第2表の詰り,68年の情況を比較してみると上述のよう に72年の資料で教育事業の売上高の比率が不明なものもあり,それを除くと,68年当時よ り情況が好転したものもなくはないが,多くは悪化して居り,総体的には情況は悪化して 居ると見てもいいのではないかと筆者は考えざるをえない。無論以上のように見れば,上 述したような1968年当時見られた教育産業の衰退の一途を辿っていた状態はここでは幾分 喰い止められた感じがなくはない。しかし,それにしても全体的に見ると,教育産業バラ 色の幻想時代は去ったと見て間違いないものと思われる。或は幻想の時代は去って,教育 産業の捲返し,再建の時代に入ったと言っていいかも知れない。
以上は1972年前後の資料の教育産業版だとして以上に関連して以下,その資料によって その頃の軍産複合体の諸情況を一瞥する事も無意味ではあるまい。最後にこれらの事を考
察してみたい。
業種別産業概況 鉄 鋼
業界は経営多角化に積極的で,最近各社競って住宅・アルミ・リース業など成長が予測される新しい 分野に進出
自 動 車
自動車以外の鉄道車輔など交通輸送財,軍用トラック・戦車などの軍用武器,宇宙・海洋開発機器な どの生産と研究開発も行っている。
自動車部品
企業の多角化,総合化が最も進んでいるがこの業界の特色の一つである。
航 空 機
米民間航空機産業は1966年をピークとして出荷機数は減少を続け,ここ1〜2年の低迷は顕著で,更 に政府の宇宙開発予算の縮少とも相まって航空宇宙産業の不況は深刻化している。
産業用電子機器
第二次世界大戦は「電波の戦い」とも呼ばれた。戦後の電子工業はその意味で第二次大戦の遺産であ ると言える。産業の各分野に侵透して居り,他の産業機械と結合しシステム化する傾向にあり,政府需 要の役割もますます大きなウエイトを占めよう。
電子計算機
電子計算機は経済社会の中枢神経であると共に,あらゆる産業の発展,合理化に不可欠なものとし て,近年その重要性が強く認識されている。然し,この産業は技術先導性産業と言われ,極めて高度の 技術開発力と膨大な資金力を要する。
研究開発
アメリカは世界の先端的産業をリードして来たが,その代表的なものの一つで,知識産業の一分野と して1950年代後半より研究開発産業はアメリカで注自されるに至った。今日では大部分の産業は常に研 究開発活動を無視出来ぬ状態にあるので,多くの産業は研究開発産業の分類に入る事になるが,厳密な
意味で定義すると,委託研究を業務とする産
第3表 米国の主要研究開発機関の概要 業,換言すれば営利研究を行っているのが研
売上規模
社名 100万$人員
(ユ969年)
究開発産業と言う事になる。第二次大戦は科 学技術の進歩に広い影響を与え,アメリカ政 府の支出した研究開発費は1940年から年間に 20倍にも達した。その中,約3分の1が三軍 の支出で,これによって開発されたOperat−
iorls Researchは研究開発産業発展の重要な 基礎になったし,OR技法は戦後,Sampling,
Inventory等のマネージメントにとり入れら れた。また軍はOR手法が大きな成果をおさ めた事から,いくつかの研究機関を設立し た。Research Analysis Corp.の前身,
Armys Operations Research Officeは 陸軍が設立し,世界で5本の指を以て数えら れる研究所のひとつである。Rand Corp.
は空軍の設立になるものである。第二次大戦
Battelle Memorial
工rlstitute
System Development Corp.
Stanford Research Institute Planning Research Corp.
Booz Allen&Hamilton
Arthur D. Little
Cornell Aeronautical LabOratOry InC.IIT
RAND Corp.
Southwest Research Institute
ユ25.2 7,000
(47.4) (2,900)
60.8 58.0 57.0 55.1 37.8
32.7 27.2 24.9
3,300
、2,700 3,300 2,000 ユ,600
1,500 ユ,500 ユ,200
=L6.9 =L,150
(注)カッコ内はColumbus研究所のみの数字
23 軍産複合体制下のアメリカ教育の一側面 一その2一一 (増田)
後の平和体制への転換が企業に新しいプロジェクト・ワークを外部に発注せしめる事になり,それがこ の種産業の離陸をもたらした。57年のソ連の人工衛星スプートニク打上げ成功の衝撃による58年のNA SAの設立,ケネディ・アクナマラ路線の新戦略展開のためのペンタゴン予算の大巾増加等によりアメ リカの研究開発産業は文字通り完全に離陸し,58〜65年頃はどの研究所も異常な膨張で研究員の不足は 大学,産業界からの供給をもっても足りない情勢を生み出した程である。但し近年アメリカは国防予算
と宇宙開発予算を削滅し,ペンタゴン・NASA関係入員の削減もあっている事から研究開発予算の伸 びは鈍化するものとみられる。第3表は米国の主要研究開発機関の概要である。
情 報
アメリカは前揺でも述べた如く,1960年情報化時代に突入したと言われる。言う迄もなく,情報化時 代のチャンピオンとして急速な成長を期待され,その要望に答えたのが情報産業である。そしてそれ が,ソフトウェア業,情報処理サービス業,及び情報提供サービス業等を総称したものである事も言う
迄もない。
尚,以上に関連して訴訟複合体三等を如実に反映しているような個別企業を次に若干と り出して考察の一助にしたい。
Ford Motor Co.
世界第2位の自動車会社。1970年の売上高の比率は自動車系部門90%,通信電気機器6.7%,防衛・
宇宙連関機器3,3%である。宇宙産業,軍需産業にも進出。
Chrysler Corp.
米国第3位の自動車会社。戦車等の防衛機器も生産。
General Motors Corp.
世界最大の民間企業,同時に世界最大の自動車会社。軍需用,宇宙用電子機器も取扱う。種々の意味 でアメリカ経済を支配し,製品のうち,アメリカ第4位以内にランクされるもの31に達する。
Boeing Co.
70年のフォーチュン第17位。航空機メーカーとしてアメリカ第1位。宇宙ロケット事業にも従事。
Lockheed Aircraft Corp.
70年のフォーチュン第33位。ボーイングに次ぐアメリカ第2の航空機メーカー。売上の94%を軍需に 依存する典型的産軍複合企業。
McDonnell Douglas Corp.
ボーイング,ロッキードと並ぶ航空宇宙会社。70年フォーチュン第44位。69年売上高比率は政府の軍 事関係53%,民需47%。
RCA Corp. ・
世界最大の弱電メーカー。70年フォーチュン第21位。70年の売上高の比率は電算・家電46%,放送出 版23%,軍需・NASA関係17%,若干教育産業にも従事。
Avco Corp.
電子機器会社。70年フォーチュン第159位。教育訓練サービス,印刷にも従事。
International Business Machines Corp.(IBM)
70年フォーチュン第5位。世界最大の電算機,情報処理システムメーカー。防衛用特殊システム,政 府向け各種用品の開発,各界用教材の開発も行う。学校・政府・産業界向けの指導教材,学習システ ム,教育及び心理システムの開発・発行。
Stanford Research Institute
スタンフォード大学を母体にした(70年ス大学と分離)アメリカ西海岸最大の非営利独立総合研究機 関。売上げの70%は政府委託プロジェクトで30%が民聞企業からの委託。
Arthur D. Little Inc.
世界最古,最大の独立研究開発株式会社でマサチューセッツ工科大学,ハーバード大学と密接な関係 にある。
Battelle Memoria1工nstitute
世界最:大の非営利独立研究機関で総収入,人員規模において名実共に第1位。米政府,外国政府,財 団,商業機関及び産業によりサポートされている。委託研究開発の内容は政府・軍関係80%,民間企業 関係20%。最近はポスト・アポロの軍事支出削減に対応して,輸送システム,環境汚染防止システム,
海洋開発,都市・住宅開発,医療・保険,教育などの社会開発プロジェクトの委託開発に取り組んでい
る。
111inois Institute of Technology Research Institute.
イリノイ踏臼大学と密接結びついた非営利機関。研究領域は冶金技術,大気・油汚染等を中心として いる。
The RAND Corp.
米政府空軍をスポンサーとする非営利独立研究機関。上述の如くORの開発, OR手法を使ったプ ロジェクト分析評価が著名。委託者は90%以上が米政府,特に空軍である。委託研究収入の内訳は,空 軍70%,国防省・NASA・原子力委員会25%,残りも政府公共機関からの委託。1950年代は空軍丸抱
えの研究開発機関として,ハーマン・カーンを始め有数の戦略理論家を集め,戦略研究の総本山となっ た。然し67年頃以降,研究分野は軍事一辺倒から大きく転換し,住宅。都市開発,交通問題,環:境汚染 防止など社会開発に積極的に取組むようになってきている。
Midwset Research Institute
アメリカ屈指の総合研究所の一つで,中西部最大の非営利研究機関,地域及び国家の経済社会に大き な影響力を持つ。69年の政府各機関別委託費比率は原子力委員会1.0%,国防費70.0%,保健教育厚生 省16。3%,内務省7.2%,NASA5.5%。
Denver Research工nstitute
デンバー大学の一単位で,同大学,米政府及び産業によってサポートされている自然科学及びエンジ
ニアリング分野の研究機関。 ・
Computer Sciences Corp.
世界最大のソフトウェア受託会社で,軍事,NASA,原子力委員会,統計局などの政府機関からの プロジェクト受注により飛躍的な成長を遂げた。
Planning Research Corp.
アメリカ第3のソフトウェア会社で,軍事,NASA,連邦,州地方政府,民間企業などをその顧客 とする。主要事業の比率はプランニング,技術処理,建設の管理45.9%,システム分析,経済分析など
31.7%,経営コンサルタント22.4%。
International Telephone Telegraph Corp.
世界的規模で通信事業及び通信機器製造を行ない,アメリカでは独占的に国際通信業務を行なう通信 事業会社。近年の相次ぐ買収により業界を拡大した多国籍複合企業の代表格。70年フォーチュン売上高
ランクは米企業論義8位。70年売上高内訳は電子通信機器19%,産業及び消費財製品29%,天然資源5
%,国防及び宇宙5%,サービス38%,公益事業4%。
Textron Inc.
70年のフォーチュンランクは第66位。ヘリコプター・ミサイル・文房具・ファスナー等の製造の広範 囲に亘る多角的経営を行なう代表的コングロマリット企業。
The Mead Corp.
70年のフォーチュン第ユ13位。アメリカ大手製紙会社。教育用品として文房具も製造,その売上高比
25 軍産複合体制下のアメリカ教育の一側面 一その2一 (増田)
率は10%。
Scott Paper Co.
アメリカの大手特殊紙メーカー。70年のフォーチュン第160位。視聴覚教材も製造。
以上が業種別産業,個別企業の中で,軍産複合体(制),研究開発,教育産業等に関係 の深い業種,個別企業をえらび出し述べたものである。これらを一瞥:しただけでも現在の アメリカで如何に軍産複合体制が進行し,大学の研究が軍産体制に合体化し,教育産業が 変貌しつつあるか,が判然とするであろう。紙面の都合もあるので筆者はこれ以上,解 説,説明を加えない。また加える必要がない程,状況は明白なようである。
結 語
前町に於て筆者は軍産複合体制の形成の過程を述べ,その体制が当分続くであろうとの 見通しを述べた。
本稿では,その延長線上に立って,その体制が特に大学教育界と教育産業界に種々の問 題と波紋を投げかけている事を筆者はまた述べて来た積りである。
前稿は飽く迄,本稿の背景乃至前提部分であるので今暫く措くとして,本稿を端的にま とめると大要以下の如くなろうか。
(1)二三複合体はアメリカの大学教育界と教育産業界に大きな影響を及ぼした。
(2)軍産複合体は大学教育界への介入には相当程度成功し,成果を挙げたが,教育産業 界への介入には失敗,惨敗したと今の所見ていいであろう。
(3)然し,成功,失敗に拘らず,軍産複合体のそれらへの介入,支配に対し,アメリカ 国内で激しい批判を捲き起した事は何としても逸する事が出来まい。そういう批判が起る のは当然の事とは言え,アメリカの良識派の存在を示すものとして受取るべきではあるま
いか。
(4)複合体が大学教育界への介入に成功した事は,逆に言うとアメリカ大学教育界の荒 廃,失敗を意味する。良識派の批判が存在する所以でもある。
(5)大学教育介入への成功が厳しい批判を招来したからと言って後退する複合体でもあ るまいし,また教育産業界での失敗,惨敗でひるむような複合体でもあるまいという事を 銘記して然るべきであろう。現に教育産業の如きは一応敗退し乍らも,捲返しをはかりつ つある事は先に略述した所である。複合体は猶も存在をし続け,飽く迄活動を止めぬであ
ろう。
(6) (前稿,本稿の一部でもしばしば触れたように,)大きくは近年の米軍事予算・宇 宙開発予算の削減,世界的輿論の産業公害,多国籍企業への批判・反発,少さきは教育産 業の惨敗等に見る如く,アメリカ軍産複合体(制)の現在と前途が必ずしも光明に満ちた ものでない事が無論考えられないではない。然し,それにも拘らず,筆者は猶かつ,産軍 複合体(制)は手をかえ晶をかえ捲き起しをはかり,人類と複合体自体がその破滅を自覚 する迄はその存在を主張し続けるであろうと愚考する。その一例が最近見る多国籍企業や 教育産業の捲き返しである。
(7)以上のアメリカの情況は単なる異国の出来事,対岸の火災として見る事は出来ま い。先に挙げた1967年のアメリカよりの委託研究費問題事件,最近の木原論文がその何よ
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第23号
りの実例であろう。委託研究費問題は我が国学界がアメリカ軍・産体制の中に組込まれた 例として,木原論文は我国自体が産・学体制化しつつある例として見る事が出来る。火の 粉は我々にも及んで来たと見るべきであろう。ともあれ国際化が日々進行しつつある現 在,更に現在迄,あらゆる面でアメリカの後を追い続けて来た日本の姿勢,傾向等を考え る時,以上の事が我が国と全く無縁の事だとして看過する事は何としても出来ないのでは なかろうか。
(8)以上の外に,産軍複合体(制)がアメリカ教育に及ぼしている影響多々ある事は明 白であるが,枚数の制限もあるので本稿はこの辺で欄筆する事とし,残さたそれらの問題 は他の機会に改めて考えてみたいと思う。
注(1)石川博友「巨大システ:ム産業一アメリカの産軍複:合体企業」昭和45年中央会論社P.11〜P.15,
(2>
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(1①
q1)
日高義樹「ペンタゴン」p.142〜p.143 昭和48年.日本放送協会 他
日高義樹「ペンタゴン」p.143前掲書 S・レンズ「軍産複合体制」小原敬士訳 1971 年岩波書店p.173〜p.175参照
日高義樹「ペンタゴン」p.139〜p.141。なお 1972年の見返り援助の一部を表にすると次の如
くなる。
日高義樹「ペンタゴン」p,ユ43前掲書 S・レンズ「軍産複合体制」前掲書 関係箇所 参照
前掲書「ペンタゴン」,「軍産複合体制」関係 箇所参照
前掲書「軍産複合体制」関係箇所参照 前掲書「軍産複合体制」関係箇所参照
コンデ原著「アメリカの夢は終った」小原敬士訳
アラバマ大 アルバカーキー大 アメリカ大 カーネギーメロン大 シンシナチー大 カソリック大 ジョージワシントン大 デンバー大
コロラド州立大 コロラド大
76万4,000ドル 2万4,000
140万 200万82万5,000 62万8,000
130万 ユ90万68万0,300 79万0,500
表一5 1972年度ROTC見返り援助
(ワシントンニュース, 72.6.17)
この表は上記,日高義樹「ペンタゴン」
p.140を参照にした。
ユ965年岩波書店 p.185
小原敬士「アメリカ軍門複合体の研究」昭和46年,石川博友「巨大システム産業」,日高義樹 「ペンタゴン」等の関係箇所
働 島恭彦「軍事費」岩波書店 1969年 p.30〜p.31
⑬ 「新しい産業国家」ガルブレイス著,石川達郎,鈴木哲太郎,宮崎勇訳 河出書房 1968年
P.416〜P.425参照
(1の 「国民教育小辞典」国民教育研究所 1974年 P.40,朝日年鑑 昭和46年 P.665参照
⑮ 経済 Mユ27所載 1974年 新日本出版社
(1④前掲書「ペンタゴン」P.146〜P.147参照
㈹ 石川博友「巨大システム産業」前掲・書 p.101
⑬ Newsweek, September 30,ユ968. Barron sNovember 18,1968.石川博友「巨大システ ム産業」p.102〜p.103前掲書
(1窃石川博友「巨大システム産業」p.106前掲書
⑳石川博友「巨大システム産業」p.111,p.l14所載
⑳ 「巨大システム産業」前掲書p.113〜p.l14参照 石川博友「巨大システム産業」前掲書p,114〜p.118
⑳ Learning Business , Newsweek, September 30,1968石川博友「巨大システム産業」
p.118前掲書