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修 士 学 位 論 文

被 覆 壁 面 が 流 動 抵 抗 に 及 ぼ す 影 響 に 関 す る 研 究

指 導 教 員 小 方 聡 准 教 授

20 19 年 1 月 1 0 日 提 出

首都大学東京大学院

理 工 学 研 究 科 機 械 工 学 専 攻 学修番号

17883321

氏 名 佐 野 智 成

(2)

学位論文要旨(修士(工学))

論文著者名 佐野 智成

論文題名:被覆壁面が流動抵抗に及ぼす影響に関する研究

流体の摩擦抵抗は様々な流体機械や,流体を遠隔地まで輸送するパイプライ ン,船舶や航空機など,多くの機械においてエネルギーロスの大きな要因となっ ており,摩擦抵抗の低減は省エネルギー化や高効率化に大きく貢献する.摩擦抵 抗の低減技術については様々な研究が行なわれ,これまでに数多くの抵抗低減 手法が提案されてきた.その中でも,高分子などを作動流体に添加する手法は

Toms

効果として知られ,数

ppm

から数百

ppm

という極僅かな量の添加で摩擦 抵抗の減少が発生じること,その低減量が最大で

80%と非常に大きいといった

長所を持つ抵抗低減手法である.一方,添加剤の添加を行なうことで作動流体の 性質を変えてしまうことや,添加した高分子が強いせん断に晒されると機械的 に切断されて抵抗低減効果が失われてしまうため,流路内にポンプなどによる 強いせん断が発生する場合には抵抗低減効果が持続しないなどの短所も存在し ている.

Toms

効果の原理は未だに完全には明らかにされていないものの,高分子鎖が 乱流域で壁面極近傍に生じる渦の生成や成長を抑制するために摩擦抵抗が低減 するという説が一般的である.この説によれば,添加剤は壁面極近傍のみに存在 していれば十分に抵抗低減効果を得られる.実際に,高分子の添加が乱流構造に 影響を及ぼす領域は壁面の極近傍のみに限定されるという報告や,壁面から添 加物を注入することでも効果的に抵抗低減効果を得られるという報告も存在す る.このような観点から,添加剤である高分子などを作動流体中に添加するので はなく,壁面に被覆して壁面近傍のみに存在させることでも,抵抗低減効果が得 られると考えられる.抵抗低減効果を発揮する添加剤として使用される高分子 は一般的に水溶性であり,その高分子を水に溶かした溶液を壁面に被覆すれば,

抵抗低減効果のある添加剤を被覆した壁面を作成することができる.この水溶 性高分子を被覆する抵抗低減手法には,高分子が存在するのが壁面上のみであ り,作動流体の性質を変える恐れがないこと,流路内に強いせん断が発生する領 域が存在してもその領域を高分子が通過することが無いため,高分子が切断さ れずに抵抗低減効果が持続するといった長所があり,高分子添加による抵抗低

(3)

減手法の短所を克服しつつ,抵抗低減効果を得ることが期待できる手法である.

しかし,高分子を壁面に被覆する手法についての研究は数例しか存在せず,研究 が不足していると考えられる.高分子被覆壁面を用いて,矩形管における摩擦抵

抗を最大

7%削減したという報告も存在するが,高 Re

数の領域で抵抗低減効果

が得られない,同じ高分子被膜壁面を用いても平板境界層流れではほとんど変 化が生じないなど,本壁面に関して不明な点が多い.また,被覆に用いた溶液の 濃度も一種類のみであり,溶液の濃度が流動抵抗に及ぼす影響については議論 がなされていないなど,得られている知見が不足している.

そこで本研究では,壁面への高分子の被覆が流動抵抗に及ぼす影響を調査し,

高分子被覆による抵抗低減手法について知見を深めることを目的とした.

本研究は

4

章から構成される.以下にその概要を述べる.

1

章は「緒論」であり,摩擦抵抗低減の技術や

Toms

効果に関して,従来の研 究についての総括を行い,本研究の目的を述べた.

2

章は「実験装置及び実験方法」である.本研究で用いた装置を示し,実験方法 や流動抵抗の評価方法について述べた.

本研究では,矩形流路を用いて高分子被覆壁面の流動抵抗を測定した.実験装 置はポンプ,バルブ,流量計,差圧計,試験区間に用いた矩形管で構成されてい る.試験区間は試験壁の取り付け,取り外しが可能となっており,実験条件に合 わせて試験壁を変更して実験を行なう.試験壁の寸法は長さ

249.5 mm,幅は 14 mm

として統一した.試験区間には圧力測定孔が設けられており,流路内の圧力 損失を測定し,壁面が流動抵抗に及ぼす影響を評価した.

試験壁に被覆する溶液の作成に用いる高分子は,ポリエチレンオキサイド

(PEO)とポリビニルアルコール(PVA)の 2

種類の高分子を用いた.PEO は添加

剤として作動流体に添加すると抵抗低減効果を発揮することが報告されている 高分子であり,PVA はその

PEO

を壁面につなぎ留める役割を果たす高分子で ある.この

PVA

PEO

の混合溶液を作成し,壁面に塗布することで高分子被 覆壁面を作成した.本研究では高分子の濃度を変更した溶液を複数用意し,その 濃度の違いが流動抵抗に及ぼす影響を調査した.

3

章は「実験結果および考察」では,高分子被覆壁面の流動抵抗測定の結果につ いてまとめ,考察を述べた.

実験の結果,PVA のみ被覆した壁面では,乱流への遷移が早まり,乱流域の 圧力損失が

2

割ほど増加することが分かった.一方,PVA

PEO

の混合液を 被覆した壁面では,被覆濃度が低い場合は遷移挙動や乱流域の圧力損失は被覆 の無い壁面とほぼ同じであったが,被覆濃度が濃い場合は被覆の無い壁面に比 べて遷移の遅れによる最大

10%程度の抵抗減少が生じることが分かった.

4

章は「結論」であり,本研究で得られた内容のまとめについて述べた.

(4)

目次

1

章 緒言

1.1 研究背景・目的 1.2 従来研究

1.2.1 高分子添加以外の抵抗低減手法

1.2.2 高分子の添加による抵抗低減の諸特性

1.2.3 高分子添加による抵抗低減の原理

1.2.4 高分子の被覆による抵抗低減手法

1.3 本研究の概要 1.4 使用記号

2

章 実験装置・方法

2.1 実験装置

2.2 予備実験概要

2.3 高分子被覆壁面の作製

2.3.1 使用する高分子

2.3.2 高分子溶液の作成

2.3.3 高分子被覆壁面の作製

2.4 作成した高分子被覆壁面

2.4.1 単一濃度溶液による単層被覆壁面

2.4.2 多層被覆壁面

2.5 高分子被覆壁面での実験

2.5.1 実験概要

2.5.2 流路高さの算出

(5)

3

章 実験結果および考察

3.1 予備実験結果

3.2 単層被覆壁面の実験結果

3.2.1 低濃度溶液を塗布した単層被覆壁面の結果

3.2.2 高濃度溶液を塗布した単層被覆壁面の結果

3.2.3 抵抗低減率での評価

3.2.4 単層被覆の実験結果考察

3.3 多層被覆壁面での実験

3.3.1 PVA5%溶液を下地とした場合の実験結果

3.3.2 PVA11%溶液を下地とした場合の実験結果

3.3.3 多層被覆壁面についての考察

3.4 高分子被覆壁面についての考察

3.4.1 実験結果考察

3.4.2 遷移域における抵抗低減機構の考察

3.5 今後の課題

4

章 結論

4. 結論

参考文献

謝辞

(6)

1 章

緒論

(7)

1.1 研究背景・目的

流れ中に置かれた物体の抗力,あるいは流体が流れる際に生じる流体の摩擦 抵抗は,船などの乗り物や様々な流体機械,パイプによる流体輸送など,幅広い 分野でエネルギーロスや性能向上を阻害する大きな要因となっている.その例 として船が航行する際の抵抗のうち,

40%が摩擦抵抗によるものであるとする試

(1)が挙げられる.そのため,摩擦抵抗の低減により大きく消費エネルギーを削 減できる可能性がある.また,仮に摩擦抵抗を

10%低下させることが出来れば,

船の最高速度と航続距離が

3.57%向上するという試算

(2)があるように,流体摩擦 抵抗の低減は機械の性能向上にもつながる.航空機に関しても,摩擦抵抗を

2%

削減することが出来れば,標準的な航空機を運行すると仮定した場合に毎年

1

当たり

5

万リットルの燃料を節約できるとの試算(3)があり,流体の摩擦抵抗低減 技術は様々な機械の省エネルギー化,性能向上に繋がる技術である.そのため現 在までに様々な抵抗低減手法が提案されてきた.

抵抗低減の手法には,外部からのエネルギー供給を必要とする能動的手法と,

外部からのエネルギー供給を必要としない受動的手法に大別できるが,省エネ ルギー化の観点から考えるとエネルギー供給なしに抵抗を低減できる受動的手 法による抵抗低減が望ましい.

受動的手法には壁面に疎水加工を施す手法,表面に微細構造を作成する手法,

壁面に柔軟性を持たせる手法などが考案されているが,高分子や界面活性剤を 作動流体中に添加することで抵抗が低減する,Toms効果という現象を利用する 手法は,数

ppm

の添加で最大

80%

という大きな抵抗低減効果を得られる(4)こと から,抵抗低減手法として非常に注目されている手法である.しかし

Toms

効果 を利用する手法には,作動流体の性質を変えてしまう恐れがある事,添加剤が強 いせん断に晒されると添加剤が破壊されて抵抗低減効果が失われる場合がある

(8)

などの短所も存在する.

Toms

効果の短所を克服しつつ抵抗低減効果を得ようという試みの一つに,高 分子を壁面に被覆して抵抗低減効果を得るという手法がある.水沼ら(5)は高分子 を壁面に被覆することで抵抗低減効果を得る手法を考案し,矩形流路において 実験を行った結果,最大

7%の抵抗低減効果を得られたことを報告している.こ

の高分子を壁面に被覆する手法であれば,作動流体の性質を変える恐れが少な い.また,高分子が壁面上のみに存在するため,流路内に強いせん断が発生する 領域があってもその領域を避けて高分子を被覆すれば高分子が強いせん断に晒 されることがなく,抵抗低減効果が持続するものと考えられる.このことから,

高分子を被覆することで抵抗低減効果を得る手法は,高分子を作動流体に添加 する手法の短所を克服することが出来る可能性があると考えられる.

しかし,高分子を被覆する手法について研究を行なった例は数例しか存在し ない.また,既存の報告のみでは不明な点も多く,被覆する高分子の濃度などが 流動抵抗に及ぼす影響が明らかになっていないなど,現状では十分な知見が得 られていない.

よって,本研究は,壁面に高分子を被覆した際の流動抵抗を矩形管内流れの圧力 損失を測定することで,その基本特性を実験的に明らかにすることを目的とす る.

(9)

1.2 従来研究

1.2.1 高分子添加以外の抵抗低減手法

先述の通り,抵抗低減手法に関してはこれまでに様々な手法が提案されてい る.ここではそのいくつかについて,その手法の特徴などについて述べる.

1.1

のような

V

字型や

U

字型の小さな溝を壁面上に流れと並行に並べるこ とで,抵抗低減効果が得られることが知られており,一般的にこの溝のことをリ ブレットと呼ぶ.その形状は様々なものが提案されているが,図

1.1

のような

V

字型や

U

字型が一般的である.通常は壁面に粗さを与えた場合,摩擦抵抗は上 昇する.しかし流体がリブレット溝に沿って流れると壁面近傍に発生する渦の 変動を抑制することで乱れレベルが減少し,抵抗低減効果が得られる(6)とされて いるが,未だに抵抗低減の原理が完全には解明されていない.リブレットによる 抵抗低減効果は

5-8 %

と報告されている(7).リブレットによる抵抗低減の長所 は,単純な構造であり現代の技術でも十分に加工が可能であること,剥がれたり することが無く,抵抗低減効果の維持が比較的容易であることが挙げられる.ま た,壁面上に加工を施す手法なので,環境に悪影響を与える可能性も無い.一方 で短所としては,微細な構造物であるリブレットの加工に費用がかかること,流 動抵抗はリブレットのサイズや配置間隔,Re数などによって敏感に変化し,適 切なサイズや形状のリブレットを選択しなければ逆に抵抗を増加させてしまう ことが挙げられる.言い換えれば,Re数などの条件が変動する場合,常に抵抗 低減効果を得ることは難しい.また,汚れの付着などで抵抗低減効果がなくなっ てしまう恐れがあることも短所として挙げられる.

壁近傍に挿入物体を置き,乱流制御を行なう手法として,LEBUs(Large Eddy

Breaking-Up System)

がある.

LEBUs

は境界層の外層領域に薄く小さな

2

次元翼 型を壁面と並行に,かつ流れと直行するように配置したものである.LEBUs

(10)

設置によって壁面での摩擦抵抗は低減するが,

LEBUs

自身も抵抗を生じるため,

正味の抵抗は必ずしも低減しないとされ,実際に得られている抵抗低減効果も

2%ほどと,大きな効果は得られていない

(8)

微細構造を塗料などで壁面上に作成し,壁面に疎水性を持たせることでも抵 抗低減効果が得られることが報告されている(9).壁面に微細構造が存在すると,

1.2

のように微細構造に気泡が保持される.その上を流体が流れると,壁面と 流体の間に気泡によるすべりが生じるため,抵抗低減効果が得られると考えら れている.この手法も環境に悪影響を及ぼすことなく抵抗低減効果が得られる ものの,壁面表面に気泡が保持されていないと抵抗低減効果が得られないため,

長時間水中に放置して気泡が離脱してしまうと抵抗低減効果が失われてしまう こと,疎水加工は一般的に寿命が短いため,定期的に再塗装などの必要があるこ となどといった短所も存在する.

壁面に柔軟性を持たせることでも抵抗低減効果が得られることが報告されて おり,最大で

60%と大きな抵抗低減効果を得られたことが報告されている

(10) しかし,他の研究でこれほどの抵抗低減効果を得られたという報告は無く,再現 性に乏しい.また壁面が柔軟であることから数値解析が困難であり,原理の解明 や,抵抗低減効果の予測が難しいという短所がある.

ここまでの手法は外部からのエネルギー供給が必要ない受動的手法であった が,外部からエネルギーを供給する能動的手法の例として,壁面を振動させるこ とで抵抗低減効果を得る手法がある.多くの場合は流れと垂直の方向に壁面を 振動させ,抵抗低減効果を得ている.抵抗低減の原理としては,壁面の振動によ って壁面極近傍の乱れの構造が変化し,乱れが抑制されることで抵抗が低下す ると考えられている.

Fang

(11)によると最大で

46%

の抵抗低減効果が得られる.

しかしこの手法は能動的手法であるために,外部から供給されるエネルギーと

(11)

抵抗低減によって節約されたエネルギーを差し引きして抵抗低減効果を評価す る必要がある.Quadrio(12)によると,壁面の振動によって,正味

7.3-10 %の抵

抗低減効果を得られたことを報告している.この手法も環境に影響を及ぼさず に上記のような抵抗低減効果を得られるが,壁面を振動させる機構が必要とな るため,設置や維持にコストがかかるという問題がある.

能動的手法として,センサとアクチュエータを用いた手法も提案されている.

これは,壁面に設置されたセンサによって壁近傍の渦の情報などを得て,下流に 設置されたアクチュエータを,得られた情報に基づいて渦を打ち消すように駆 動することで壁面近傍の渦を弱め,抵抗低減効果を得る手法である.この手法で

は約

12%の抵抗低減効果が得られるという数値解析の報告がある

(13).しかしま

だ基礎研究段階であり,高精度化,低コスト化など,数多くの課題が残っている.

壁面等の性質や構造を変化させるのではなく,作動流体中に添加剤を添加す ることで抵抗低減効果を得る手法も数多く存在する.10μm 以下の非常に小さ な気泡,マイクロバブルを作動流体に添加することで大きな抵抗低減効果を得 られることが報告されている(14).マイクロバブルによる手法の長所は,最大で

80%もの大きな抵抗低減効果が報告されていること

(15),気泡の添加は環境に影

響がないことである.一方短所として,気泡径が

500μm

以上になると抵抗低減 効果がなくなる傾向があるという報告(16)があり,適切な気泡径でない場合は抵 抗低減効果が得られないか,むしろ抵抗が増加してしまう可能性があることが 挙げられる.特に,生成したマイクロバブル同士が合体し大きな気泡となってし まうと抵抗低減効果が十分に得られない.また,マイクロバブルの生成に外部か らのエネルギー供給が必要な場合も存在するなどといった短所も存在する.

Forrest

(17)は木材パルプを作動流体に添加することで乱流での摩擦抵抗が低

減することを報告しているように,作動流体中に繊維を添加させることでも抵

(12)

抗低減効果が得られる.繊維の添加による抵抗低減は,温度や粘度の変化に比較 的鈍感であり,幅広い条件で抵抗を低減することが出来るという利点がある.ま た,化学的,機械的に安定であることも長所である.短所としては,十分な効果 を得るには高い濃度で添加する必要があり,添加する機構などに工夫が必要で あること(18),作動流体の性質を変えてしまうことが上げられる.

作動流体中に水溶性の高分子や界面活性剤を添加することで摩擦抵抗が低下 することが知られており,

Toms

効果と呼ばれる.界面活性剤の添加は最大で

80%

という大きな抵抗低減効果を得ることが出来る手法である.また,後述するよう に高分子の添加による抵抗低減は,添加した高分子が強いせん断に晒されると 高分子鎖が切断されてしまい,抵抗低減効果が失われるという問題があるが,界 面活性剤分子が形成するミセル構造は破壊されても再び自己形成するため,高 分子添加のように強いせん断によって抵抗低減効果が失われることがないとい う長所がある.短所としては作動流体の性質を機械的,化学的に変化させてしま う可能性があること,環境に悪影響を及ぼす可能性や,人体に有害な場合がある という点が挙げられる.

ここまでに様々な抵抗低減手法を挙げたが,後述する高分子の添加を含めて 各抵抗低減の手法はそれぞれに長所,短所が存在している.そのため各手法につ いて,現在でも多くの研究が行なわれている.

(13)

Fig.1.1 Example of Riblet (a) V-Shape Riblet

(b) U-Shape Riblet

(14)

Fig.1.2 Schematic diagram of water repellent

surface

(15)

1.2.2

高分子の添加による抵抗低減の諸特性

先述の通り,高分子の添加による抵抗低減はその発見者に因んで

Toms

効果と 呼ばれている.高分子添加による抵抗低減の大きな特徴は,ごく微量の添加で効 果がある事と,抵抗低減効果が大きいことであり,非常に有効な抵抗低減手法と して数多くの研究が行われてきた.これらの知見から,高分子添加による抵抗低 減効果は,高分子の濃度,高分子の分子量,Re数,流量が増大すると向上する 傾向があることが分かっている.

濃度に関して,Toms(4)

10ppm

の高分子の添加により最大

80%の抵抗低減効

果を得られたことを報告している.また,Bakhtiyarov (19)によるとわずか

0.02ppm

の添加でも抵抗低減効果が確認されたことを報告している.このように,

高分子の濃度は数

ppm

から数十

ppm

で抵抗低減効果を発揮するが,その効果の 大きさは添加する濃度によって変化することが知られている.Kim (20)は添加 する高分子の分子量や濃度を変更しながら実験を行い,分子量

400

万の

PEO

20ppm

の濃度で添加した場合に抵抗低減率が最大の

50%となったことを報告し

ている.Virk (21)は高分子の濃度が抵抗に及ぼす影響について調査し,高分子

の濃度が

0~9ppm

の範囲では濃度が上昇すれば抵抗低減率も上昇するが,濃度が

9ppm

の時に抵抗低減率が最大である

60%となり,それ以上の濃度にしても抵抗

低減率がほぼ変化しなかったことを報告している.また,過大な量の添加は作動 流体の粘度が上昇して抵抗を増大させてしまう事を報告している.Mowla (22) も高分子の濃度と抵抗低減効果の関係を複数の

Re

数において調査しており,す

べての

Re

数で

20ppm

までは濃度が高くなるほど抵抗低減効果が大きくなり,

それ以上の濃度ではほぼ一定の抵抗低減効果を示すことを報告している.また,

Re

数が高くなるほど抵抗低減率が高くなることも報告している.これらの報告 は添加する高分子の特性や実験条件が異なるため,最大の抵抗低減効果が得ら

(16)

れる濃度や最大の抵抗低減率の値はそれぞれ異なるものの,抵抗低減効果が高 分子の濃度の影響を受け,ある濃度までは濃度が上がるほど抵抗低減効果が大 きくなり,その濃度を超えると抵抗低減効果はほぼ変化しない傾向にあること は全ての研究で一致している.

流動抵抗は,添加する高分子の特性にも影響を受けることが分かっており,全 ての高分子で添加による抵抗低減効果が得られるわけではないことが分かって いる.添加する高分子の分子量は抵抗低減効果に影響することが多くの研究で 報告されており,抵抗低減効果を得るには

100

万から

1000

万程度の分子量が必 要であることが知られている.また,Liaw(23)は異なる高分子を用いて高分子 の特性が抵抗低減効果に及ぼす影響について調査し,高分子が一定以上の長さ の高分子鎖を持つ必要があると結論付けている.Fujimura (24)は数値解析によ って高分子が添加された流れについて数値解析を行い,抵抗低減効果と高分子 鎖の長さの関係について,以下の式

1-1

が成り立つと推測している.

R

D

= 22.9 ln(L

+m

) − 81.2

(1-1)

この式によれば,高分子添加による抵抗低減効果を得るには高分子鎖の無次元 長さ

𝐿

+

34.7

以上である必要があり,それ以上の長さでは長くなるほど抵抗低 減効果が増加することが分かる.

また,高分子の緩和時間も,抵抗低減効果に影響する.緩和時間とは,添加さ れた高分子鎖が変形してから平衡状態へと戻るまでにかかる時間である.

Lumley

(25)はこの緩和時間が乱流変動特性時間と同等かそれ以上の場合にのみ抵

抗低減効果が得られると推測しており,Dimitropoulos (26)もこの推測を支持し ている.高分子鎖の弾性が抵抗低減効果に及ぼす影響についても,研究がなされ

(17)

ている.高分子鎖がその柔軟性から伸長することに起因する応力である高分子 の 弾 性 応 力 が 流 動 抵 抗 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 数 値 解 析 を 用 い て 調 査 し た

Gillissen

(27)は,高分子を剛体と仮定した場合と,弾性を持つと仮定した場合の

2

種類の数値解析を行なった.その結果は,高分子鎖の弾性が抵抗低減に及ぼす影 響はわずかであり,抵抗低減効果は伸長した高分子によってもたらされる粘性 応力によるものであることを示唆するものであったと報告している.

Toonder

(28)は,高分子鎖の柔軟性が増加すると抵抗低減率が減少すると述べている.ま た,抵抗低減の発生する条件は高分子鎖が伸長する前の高分子鎖の特性に依存 し,高分子鎖が伸長を開始すると抵抗低減効果を発揮するとも述べている.一方

kwack

(29)は高分子の弾性が抵抗低減にほぼ影響しないという考えを否定し

ており,抵抗低減効果は高分子の弾性に起因すると提唱しており,高分子鎖の弾 性が抵抗低減効果に及ぼす影響については,不明な点も多い.

高分子溶液のレオロジー特性も抵抗低減効果に影響すると報告されている.

Gry

(30)

Yi

(31)によると,抵抗低減効果を発揮する高分子溶液は,Shear

Thinning

と呼ばれる非ニュートン性と,粘弾性を持ち,大きな伸張粘度を持つ.

伸張粘度とは,流体に伸張応力が加わった際の粘度を現す用語である.高分子添 加による抵抗低減の原理については詳細を後述するが,Lumley(25)は,高分子を 添加した流体は,流体中で高分子の鎖がバネのように伸び縮みすることで伸張 粘度が増加すると推測している.高い伸張粘度を持つ流体はバッファー層にお いて乱流エネルギーを減衰させ,その結果として乱流での抵抗低減が生じると 述べており,高分子添加による抵抗低減効果もこの原理によるものであると推 測している.Bonn(32)も,高分子添加による抵抗低減は流体の伸張粘度に依存 すると報告しており,伸張粘度の増加とともに抵抗低減率も増加すると述べて いる.

(18)

ここまでにまとめたように,高分子添加によって抵抗低減効果を得るために は,添加する高分子の分子量が

100

万~1000万程度と大きいこと,長い高分子 鎖を持っていることなど,いくつかの条件を満たす必要がある.このような条件 を満たし,抵抗低減効果が得られる高分子として多くの研究で用いられている 高分子としては,ポリエチレンオキサイド(PEO)やポリアクリルアミド(PAA),

ポリイソブチレン(PIB)が代表的である.また,上記のような条件を満たせば抵 抗低減効果を期待できることから,自然界由来の高分子を用いて抵抗低減効果 を得た研究も存在する.

Wyatt

(33)はキサンタンガムによって最大

30%の抵抗低

減効果を得たと報告している.他にも

Abdulbari

らはアロエによって最大

63%

(34) オクラによって最大

60%

(35)の抵抗低減効果を得たという報告をしており,様々 な自然界由来の高分子でも抵抗低減効果が得られることが分かっている.この ような自然界由来の高分子は環境への付加が少ないことから注目されている.

ここまでに挙げられてきた,濃度,Re数,高分子の諸特性といった要因以外 にも,抵抗低減効果には高分子の添加方法や添加の位置,表面粗さ,

pH,温度,

管径などが影響するとされている.そのため

Re

数だけでは簡単に抵抗低減効果 を整理することは出来ず,実際の配管などに適用する際にその抵抗低減の量を 正確に予測する方法は確立されていない.しかし,他の抵抗低減方法と比較して も幅広い条件で抵抗低減効果を得ることが出来,その効果も大きいことが長所 となっている.

一方で,高分子の添加には短所も存在する.添加剤によって作動流体の機械的,

化学的性質を変えてしまう可能性があることや,環境への悪影響を及ぼす恐れ があるなどといった短所が挙げられるが,最大の短所は,添加される高分子が機 械的,化学的に劣化しやすく,抵抗低減効果が失われやすい点である.化学的な 劣化は高分子の分子構造が化学反応によって変化することで生じ,流体中に塩

(19)

分やカルシウムが存在する場合,このような化学反応が生じる場合がある.機械 的な劣化に関しては,Vlachogiannis (36)がポンプを用いて高分子の機械的劣化 について調査し,高分子を添加した流体の抵抗低減効果が機械的劣化によって 失われた際には,高分子の分子量は大きな変化が無いものの,高分子鎖の破壊が 生じていると報告しているように,高分子鎖がせん断等で機械的に破壊される ことが原因であるとされている.このような機械的劣化は,作動流体がポンプな どの強いせん断が生じている領域を通過した際に生じるものであり,容易に抵 抗低減効果が失われてしまう.そのため,高分子の機械的劣化は高分子添加によ る抵抗低減にとっての最大の課題であり,実用化を困難にしている要因である.

高分子添加の研究については多くが内部流れに関するものだが,外部流れを 想定した研究も存在する.Yang(37)は高分子添加による抵抗低減効果を,回転 円板を用いて測定し

22.7%の抵抗低減効果を得られたことを報告している.回転

円板を用いた抵抗の測定は,平板上を流れる流れや浸水した物体周りの流れな どの外部流れに適用できる測定方法である.Kim (38)も回転円板を用いて実験 を行い,Re数の上昇に従って抵抗低減率も大きくなることを報告している,ま た,時間経過や温度が抵抗低減に及ぼす影響についても言及しており,時間経過 により高分子が劣化するために抵抗低減効果が減少し,温度が上昇すると抵抗 低減効果が減少する傾向があることを報告している.

ここまでにまとめたように,高分子添加による抵抗低減は,用いる高分子の特 性や使用条件などの影響を受け,その抵抗低減効果は複雑に変化する.しかし適 切な高分子を用いれば抵抗低減が生じる条件を満たすのは難しくなく,他の抵 抗低減手法に比べても比較的幅広い条件で大きな抵抗低減効果を得ることが出 来る.一方で,高分子の機械的劣化によって抵抗低減効果が失われるという大き な短所をもち,実用化の大きな障壁となっている.

(20)

1.2.3 高分子添加による抵抗低減の原理

高分子添加による抵抗低減については,乱流中における添加高分子の特性計 測が困難なことから未だに明確な原理が解明されていない.しかし,様々な実験 や数値解析の結果からいくつかの説が提唱されている.特に現在一般的な説は,

添加された高分子の高分子鎖が,壁面極近傍で生じる渦の発達を抑制し,抵抗低 減効果に繋がるというものである.

Abubakar

(39)によれば,高分子の添加によりバッファー層で発生する渦の発

達や分散が抑制されると報告している.Lumley(25)は高分子添加による抵抗低減 は,添加された高分子鎖が流体中でばねのように伸長することで生じる粘弾性 や伸長粘度の向上によるものであり,高い伸長粘度をもつ流体はバッファー層 での乱流エネルギーを抑制し,結果的に乱流でのエネルギー散逸や摩擦抵抗を 減少させると推測している.

近年,流れの可視化実験やマイクロスケールの計測器の開発,コンピュータの 能力向上,数理モデルを使うことなしに基礎方程式を解く数値解析手法である 直接数値シミュレーション(DNS)技術の発達などによって,乱流境界層の構造に 関する知見が蓄積されている.これらの知見によると,乱流の壁近傍では,流れ 方向に発生した縦渦とよばれる渦が無数に存在し,これにより乱流摩擦抵抗の 原因となるレイノルズせん断応力が生成される.壁面近傍での縦渦やレイノル ズせん断応力の空間的位置関係を

Kasagi

(40)が図

1.3

のように示している.縦 渦の中心は局所的に低圧な領域が縦渦の核として存在し,渦の両側には,壁面に 流体が衝突するために高圧となっている領域と,壁面近傍の低速な流体が渦に よって持ち上げられ,壁面から離れた位置の高速な流体と衝突するために高圧 となっている領域が存在する.レイノルズせん断応力の生成は,渦の両側で活発 に行なわれる.

(21)

コンピュータを用いた数値解析,特に

DNS

を用いて,高分子添加による流れ を再現し,その抵抗低減の原理を解明しようとする試みも多く見られる.梶島ら

(41)は,溶媒と同じ密度の

2

つの球を,高分子鎖を現すばねと,粘性表すダンパ によって連結した離散要素モデルを多数流れ中に混入させることで高分子を添 加した流れを近似して数値解析を行い,高分子添加による抵抗低減効果を再現 できたこと,ダンパの効果が抵抗低減率に大きく寄与し,また抵抗低減時には壁 面近傍において離散要素モデルが流れ方向に配向し,壁垂直方向の渦度が抑制 されたことを報告している.同様のモデルや,球の数を増やすなどの改良を加え たモデルを用いて解析を行なった歌田ら(42)

Fujimura

(24)は,添加された高分 子の高分子鎖が壁面極近傍で発生する縦渦構造を減少させることで,抵抗低減 効果が得られるという数値解析の結果を報告している.また,同様のモデルを用 いた黒田ら(43)は, 離散要素の自然長が長い程,主流方向に軸が向いている要素 において,離れた位置の相対速度を小さくできる為,大きい抵抗低減率が得られ ると報告している.また

Fujimura

(24)も,高分子鎖の長さを現す離散要素の自 然長と抵抗低減効果の関係を調査し,その長さが長いほど抵抗低減効果が大き くなるという解析結果を報告している.また,離散要素の自然長と抵抗低減効果 の関係が,先述の式

1-1

で現されると述べている.この式によると,離散要素の 無次元長さ

𝐿

+

34.7

以下では抵抗低減効果が得られないこととなる.この数値

Kasagi

(40)が報告している,壁面極近傍で発生する縦渦の直径𝑑+

=20-40

と近

い数値であり,抵抗低減効果を得るには,高分子鎖の長さが縦渦の直径以上の長 さを持つ必要がある可能性を示唆している.

これらの報告から,高分子添加による抵抗低減は,その粘弾性によってバッフ ァー層での乱流エネルギーを抑制することによって生じると考えられ,その原 理は,流体中の高分子鎖が壁面極近傍で生じる渦の発達を抑制するためだとい

(22)

う説が一般的となっており,多くの実験や数値解析によってもその説を支持す る結果が得られている.

(23)

Fig. 1.3 Schematic diagram of near wall vortex

(24)

1.2.4 高分子の被覆による抵抗低減手法

先述のように,高分子添加による抵抗低減は,壁面極近傍での渦の発達を高分 子鎖が抑制するために得られるという説が一般的である.この説によれば,抵抗 低減効果に寄与している高分子は壁面極近傍に存在するもののみであると考え られ,仮に壁面極近傍のみに高分子が存在する場合でも,抵抗低減効果が得られ るはずである.実際に,

Tiederman

(44)は高分子の溶液を壁面から吹き出して添 加された高分子が流れに影響する領域を調査し,添加剤が乱流構造に影響する 領域は壁面の極近傍,

10 < 𝑦

+

< 100

の範囲に限定されると報告している.また,

Smith

(45)も,抵抗低減効果を得るには壁面近傍に添加物が存在しているほうが

効果的であると報告している.

抵抗低減効果を得るには壁面近傍にのみ高分子が存在すればよいという考え から,水沼ら(5)は高分子を壁面に被覆する手法を考案し,矩形管において最大

7%

の抵抗低減効果を得たと報告している.この高分子被覆による抵抗低減手法は,

高分子が作動流体中に存在せず,壁面上のみに存在するという特徴がある.この 特徴から,この手法であれば作動流体の性質を変える恐れが無い.また,系の中 にポンプなどの高いせん断が生じる領域が存在しても,その領域を避けて被覆 を行なうことで高分子がせん断に晒されるのを避けることが出来る.せん断が 高い領域に高分子が流入することも無いため高分子の機械的劣化が防げると考 えられ,高分子の添加では難しい,ポンプ等を用いた循環系での抵抗低減効果を 長時間持続させることも可能であると考えられる.このように,高分子を壁面に 被覆する手法は高分子添加による抵抗低減手法の欠点を克服しつつ抵抗低減効 果を得ることが期待できる手法であり,仮に実現すれば先述した各種の抵抗低 減手法と比較しても十分に有効な抵抗低減手法である可能性を持つにも関わら ず,この手法について研究を行なった例は少ない.

(25)

先述の水沼ら(5)の報告によると,最大の抵抗低減効果が得られたのは

Re

数が

4000

の場合であり,Re数を上昇させていくと抵抗低減効果が減少していく.こ れは,Re数を上昇させれば抵抗低減率も向上する傾向にある高分子添加による 抵抗低減手法とは異なる傾向であるが,そのような傾向となる原因は不明であ る.水沼らによる続報(46)では,同じ高分子被膜壁面を用いても平板境界層流れ ではほとんど変化が生じないと述べており,本壁面の流動特性に関しては不明 な点も数多く残されている.また,被覆する溶液の濃度などといった要因が流動 抵抗にどのような影響を及ぼすかについても議論されていない.

このように,高分子を被覆した壁面の流動抵抗に関しては不明な点が多いに も関わらず,報告されている研究例が少なく,得られている知見が不足している のが現状である.

1.3 本研究の概要

本研究は

4

章から構成される.以下にその概要を述べる.

1

章は「緒論」であり,摩擦抵抗低減の技術や

Toms

効果に関して,従来の研 究についての総括を行い,本研究の目的を述べた.

2

章は「実験装置及び実験方法」である.本研究で用いた装置を示し,実験方法 や流動抵抗の評価方法について述べた.

本研究では,矩形流路を用いて高分子被覆壁面の流動抵抗を測定した.実験装置 はポンプ,バルブ,流量計,差圧計,試験区間に用いた矩形管で構成されている.

試験区間は試験壁の取り付け,取り外しが可能となっており,実験条件に合わせ て試験壁を変更して実験を行なう.試験壁の寸法は長さ

249.5 mm,幅は 14 mm

として統一した.試験区間には圧力測定孔が設けられており,流路内の圧力損失 を測定し,壁面が流動抵抗に及ぼす影響を評価した.

(26)

試験壁に被覆する溶液の作成に用いる高分子は,ポリエチレンオキサイド(PEO) とポリビニルアルコール(PVA)の

2

種類の高分子を用いた.

PEO

は添加剤として 作動流体に添加すると抵抗低減効果を発揮することが報告されている高分子で あり,PVAはその

PEO

を壁面につなぎ留める役割を果たす高分子である.この

PVA

PEO

の混合溶液を作成し,壁面に塗布することで高分子被覆壁面を作成 した.本研究では高分子の濃度を変更した溶液を複数用意し,その濃度の違いが 流動抵抗に及ぼす影響を調査した.

3

章は「実験結果および考察」では,高分子被覆壁面の流動抵抗測定の結果につ いてまとめ,考察を述べた.

実験の結果,PVA のみ被覆した壁面では,乱流への遷移が早まり,乱流域の圧 力損失が

2

割ほど増加することが分かった.一方,PVA

PEO

の混合液を被覆 した壁面では,被覆濃度が低い場合は遷移挙動や乱流域の圧力損失は被覆の無 い壁面とほぼ同じであったが,被覆濃度が濃い場合は被覆の無い壁面に比べて 遷移の遅れによる最大

10%程度の抵抗減少が生じることが分かった.

4

章は「結論」であり,本研究で得られた内容のまとめについて述べた.

(27)

1.4 使用記号

R

D:抵抗低減の割合

L

+m:高分子鎖の長さを摩擦速度と動粘度で無次元化したもの

d

+:壁面近傍で発生する渦の直径を摩擦速度と動粘度で無次元化したもの

y

+:壁座標

ε:矩形管に対する層流解の係数

Re:レイノルズ数

λ

N:表面処理や塗料,被覆の塗布を行なっていない通常壁面の管摩擦係数

λ

P:高分子被覆を行なった壁面の管摩擦係数

DR:以下の式で得られる抵抗低減率

DR = λ

N

− λ

P

λ

N λ:管摩擦係数

d

h:水力直径 (m)

ΔP

:圧力損失 (Pa)

V:流速 (m/s)

ρ:作動流体の密度 (Kg m

3

) l:圧力損失測定間隔 (m) a:流路幅 (m)

b:流路高さ (m) ν

:動粘度 (m2

⁄ s ) Q:流量 (m

3

⁄ s )

λ

Test:予備実験で得られた壁面の管摩擦係数

λ

F:ブラジウスの式から算出した管摩擦係数

(28)

2 章

実験装置および方法

(29)

2. 実験装置・方法 2.1 実験装置

本研究で用いた実験装置の概略図を図

2.1

に示す.実験は試験区間に試験壁を 取り付け,その区間において差圧計(Validyne

DP15-30 –N-3-S-4-A)を用いて圧力

損失を測定した.流量はおおよその流量を,ポンプ(荏原製作所 25SCD 5.25)の 出力をインバータ (オムロン SYSDRIVE 3G3MV)によって変化させることで調 整し,微調整を実験流路内の

2

つのバルブで行った.流量は流路中に設置され た電磁流量計(ABB DE43W)で計測する.圧力損失を測定する試験区間の前方に

350 mm

の助走区間と,150 mmの絞り区間,後方には

35 mm

の拡大区間が存

在する.試験区間,助走区間,絞り区間,拡大区間はアクリル製流路であり,試 験区間は矩形管となっている.実験流路のその他の区間は,呼び口径

15A

の円 管である.

2.2

は試験区間の詳細図である.試験区間は流路高さ

1 mm,幅 12 mm

の矩 形流路である.試験区間の長さは

250 mm

であり,図

2

のように

2

面に試験壁面 を取り付けることが可能となっている.本研究では,

2

面のうち片方には通常の アルミニウム壁面,もう片面には高分子被覆壁面などの試験壁面を取り付けた.

試験区間には直径

0.6 mm

の圧力測定孔が

3

つ設けられており,このうち

2

つを 差圧計に接続することで圧力損失を測定する.孔と孔の間隔はそれぞれ

50 mm

である.測定は圧力測定区間

50 mm

もしくは

100 mm

のどちらかで行った.そ れぞれの孔の位置は試験壁面の上流端から

135 mm,185 mm,235 mm

である.

取り付ける試験壁面は,幅

14 mm

,長さ

249.5 mm

,厚さ

2 mm

とした.試験壁

2

枚のおさえ板と,ゴムシートによって固定している.

(30)

Fig.2.1 Experimental apparatus

(31)

Fig.2.2 Details of test section

(32)

2.2 予備実験概要

予備実験として,高分子を被覆していない壁面での実験を行なった.予備実験 では,ステンレス製の通常壁面と,ステンレス壁面を研磨した研磨壁面,塗料を 塗布した塗料壁面の

3

種の壁面を用いて実験を行なった.通常壁は表面処理な どを行なっていない壁面である.研磨壁は研磨加工により表面には光沢があり,

鏡面のようになっている.塗料壁面に塗布した塗料は特に機能を持つわけでは なく,一般的な塗装に用いられる塗料である.試験壁の写真を図

2.3

に示す.

この

3

種の壁面を用いた実験で,測定した結果から管摩擦係数を算出した.ま た,算出した結果は,矩形管に対する層流解(式

2-1)や,ブラジウスの式(式 2-

2)とも比較し,評価する.式 2-1

中のεは流路の寸法によって変化する係数で,

今回の実験装置ではε=1.353072として計算した.

λ = ε ×

64Re

(2-1)

λ = 0.3164 × Re

14

(2-2)

実験は,流量

0 L/min

から,

0.15 L/min

刻みで流量を上げ,圧力損失を測定する.

実験は各壁面につき

3

回行った.実験装置の最大流量は

3.6 L/min

ほどであるが,

使用している差圧計で十分に圧力損失が測定できる流量は最大で

3.0 L/min

程度 であるため,実験は

0 L/min

から

3.0 L/min

の範囲で行なった.流量

1 L/min

まで の低流領域は圧力測定区間

100 mm

,それ以上の流量では

50 mm

とした.

(33)

Fig.2.3 Photos of test surface used for preliminary experiment

(a) Normal test plate

(b) Polished test plate

(c) Painted test plate

(34)

2.3 高分子被覆壁面の作製 2.3.1 使用する高分子

今回高分子の被覆に用いる高分子は,ポリビニルアルコール(クラレ,

PVA124)

とポリエチレンオキサイド(PEO-15,製鉄化学)の

2

種類である.用いた高分子の 写真を図

2.4

に示す.

ポリビニルアルコール(以下

PVA)はエチレン,酢酸,酸素から合成された酢酸

ビニルモノマーを原料とし,重合とけん化反応を行なって生産される合成樹脂 である.比重は

1.19-1.31,融点は 150-230℃であり,外観は白色の粉末である.

PVA

は合成樹脂でありながら水に可溶であるという特徴を持つが,その溶解速 度は水温の上昇に伴って速くなる傾向があり,常温の水にはほぼ溶けないもの の,90度以上の高温の水には溶解する.

ポリエチレンオキサイド(以下

PEO)は酸化エチレンを重合して得られる高分

子であり,分子量

15

万から

1000

万まで,様々な分子量のものが存在する.今回

使用した

PEO-15

の分子量は

330

万から

380

万である.軟化点は

65-67℃であり,

外観は白色の粉末である.PEO は常温の水にも溶解する性質をもち,その溶液 は高い粘度を示す.PEO は多くの研究で,その溶液を作動流体に添加すると抵 抗低減効果を得ることが出来ると報告されている.

高分子を壁面に被覆する際は,上記の

2

種類の高分子を混合した混合溶液を 作成し,被覆した.抵抗低減効果が報告されている高分子は

PEO

のみであり,

PVA

の溶液を添加して抵抗低減効果が得られるという報告は存在しない.PEO は常温の水に溶解する性質から,

PEO

の溶液のみを被覆しても流路内で水に溶 出してしまい,瞬時に抵抗低減効果が失われてしまうと考えられる.一方

PVA

は先述のように,水に可溶であるものの常温の水にはほぼ溶けない性質を持っ ている.PVA

PEO

を混合した溶液を壁面に被覆した場合,常温の水に溶けな

(35)

PVA

が,水溶性の

PEO

を壁面につなぎ留めるつなぎの役割を果たし,

PEO

壁面に留まることで抵抗低減効果が持続する.水沼ら(46)は実際に

PVA

PEO

混合溶液をガラス面上に被覆してその様子を光学顕微鏡で撮影したところ,図

2.5

のように被覆表面に高分子鎖の絡み合いが確認でき,それら絡み合いの片端 はつなぎにより壁面に固定されている様子が確認できたと述べている.これよ り,実際に

PVA

PEO

の混合溶液の被覆により,PEO

PVA

によって壁面に つなぎとめられていると考える事ができる.

(36)

Fig.2.4 Photos of test polymer (a) PVA124

(b) PEO-15

(37)

Fig.2.5 Stands of polymer chains on coating surface

(38)

2.3.2 高分子溶液の作成

高分子の混合溶液は,始めに

PVA

の溶液を作成した後,その溶液に

PEO

の粉 末を添加することで作成した.

先述の通り,

PVA

は常温の水にほぼ溶けないが高温の水には溶けるため,

PVA

溶液の作成には高温の水と

PVA

の粉末を混ぜる必要がある.そこで

PVA

溶液の 作成は,まず容器の中で常温の水に

PVA

の粉末を添加してかき混ぜ,粉末を十 分拡散させた後に,容器ごと沸騰水に浮かべて湯煎を行なう方法を採った.溶液 の作成に使用した水は精製水である.湯煎に要する時間は

PVA

の濃度によるが,

1

時間ほど経過すると

PVA

の白い粉末が完全に溶け,図

2.6

のような透明な溶 液が完成する.

完成した

PVA

の溶液に

PEO

の粉末を添加する.

PVA

溶液は図

2.6

のように透 明な液体だが,PVA

PEO

の混合液は図

2.7

のように,白くにごった溶液であ る.

PEO

の粉末を混ぜる際,過度にかき混ぜるとそのせん断によって高分子鎖が 切断される恐れがあることから,攪拌は必要最低限かつ穏やかに行なった.また,

添加した

PEO

の粉末は完全に溶けるまでに時間を要する事から,被覆は混合溶 液を作成してから,最低でも

24

時間以上の時間を空けて行なった.

(39)

Fig.2.6 Photo of PVA solution

(40)

Fig.2.7 Photo of PVA and PEO solution

(41)

2.3.3 高分子被覆壁面の作製

高分子溶液は,アルミニウム製の試験壁に塗布し,壁面を作成した.アルミニ ウムは煮沸処理を行なうことで,非常に緻密な針状粗面を持つベーマイト皮膜 が表面に形成される(47).このベーマイト皮膜は樹脂に対して非常に強い接着性 を持つことから,高分子被覆に対しても接着性の向上による被覆の耐久性向上 が期待できる.被覆する壁面にベーマイト皮膜を生成させるために,被覆前の試 験壁を煮沸し,その後に高分子の被覆を行なった.煮沸の際に水道水などの不純 物が多い水を使用すると,水中の鉄やケイ素の影響を受けてベーマイト皮膜の 生成が阻害されるため,煮沸は精製水を用いて行なった.また,一度実験に使用 した壁面については,残留した被覆をはがした後に煮沸処理を行なってから,再 度被覆を行なった.

乾燥した高分子被覆壁面は,被覆する溶液によってその度合いは異なるもの の,図

2.8

のようにやや光沢が失われた外観となる.高分子を被覆した壁面は水 に浸漬した場合,図

2.9

のように水を吸って膨潤する特徴があり,その表面はぬ るぬるとした感触がある.

(42)

Fig.2.8 Photos of Test surface (a) Photo of uncoated surface

(b) Photo of Polymer coated surface

(43)

Dry Wet

Fig.2.9 Photo of wetted Polymer coating surface

Fig. 1.3    Schematic diagram of near wall vortex
Fig. 2.10    Image of Coating with multiple (a) Coating with single solution
Fig. 2.11    Image of multi-layer coating
Fig. 3.12    Schematic diagram of movement of Water molecules
+3

参照

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