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ドイツにおける新たな家族政策と多世代ハウスプロジェクト

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【研究ノート】

ドイツにおける新たな家族政策と 多世代ハウスプロジェクト

上 田 有 里 奈  

1 は じ め に

 ドイツにおける従来の家族政策は,ナチス政権下での人口政策の教訓から,

家族という私的領域への介入には慎重な立場がとられ,経済的負担調整に重 点を置いた個別的支援が行われてきた.また,エスピン・アンデルセンによ る福祉レジーム類型において「保守主義型モデル」に位置付けられるように,

家族に対する伝統的価値観の長期的保持により,20世紀後半に至るまで,性 別役割分業に基づく政策が展開されてきた.しかし,少子高齢化や家族の多 様化社会の到来とそれに伴う社会保障制度存続への危機感から,これまでの 体制の大幅な見直しが図られるとともに,家族や個人の福祉について如何な る方向付けをしていくかということは人々の大きな関心事として,家族政策 は政策運営における重要な争点として位置付けられるようになっている.従 来の経済的視点に着目した個別的支援に関する給付割合はヨーロッパ諸国の なかでも決して低い水準とはいえないにもかかわらず,出生率は他国と比べ て極めて低い水準にあり,このことは金銭的援助だけでは必ずしも子どもを 産み育てるインセンティブを与えることはできないということを意味してい る.こうした,政府による一面的かつ個別的支援だけでは現代社会において 十分な解決は得られないという経験的知見から,社会全体の環境整備による

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多面的な支援という観点の重要性が認識されるようになった.こうした動き のなかで,今日では「持続可能な家族政策」と題し,男女双方による仕事と 家庭の両立の実現に向けた,伝統的な家族規範からの脱却と,これまでの閉 鎖的な家族像から,家族や個人を社会との関係のなかで問い直すべく,開放 的な家族像への見直しが図られ,社会全体での支援体制の確立が進められて いる.

 こうしたなか,現在家族政策の下では,地域を主体とした取り組みとして「家 族のための地域同盟」や「多世代ハウス」といった活動が推進されており,様々 な領域の社会的アクターが分野を超えてネットワークを構築し,地域におい て包括的な支援を行うなかで「家族や個人に優しい社会」の構築が目指され ている.本稿では,ドイツの家族政策の歴史的変遷に加え,地域を主体とし たこれら両取り組みに着目するとともに,そのなかでもとりわけ「多世代ハ ウス」(Mehrgenerationenhäuser)の活動に焦点を当て,今日のドイツが目指す 家族政策の方向性から見える,社会の新たな可能性を模索する.「多世代ハウ ス」は,世代間の関係を地域のなかで積極的に育成することを目的とし,そ のなかで家族や個人をめぐる様々な課題に対して複合的な解決を図っていく ための政府主導のプロジェクトである.今日の家族の縮小化や個人化は,家 庭内での多世代の交流や,家族が従来担ってきたケアや教育などの機能の達 成を困難なものとしており,多世代ハウスでは育児や教育,介護など,個人 が抱える様々な責任や課題を,家族という血縁的な枠を超えた世代間連帯の なかで共有していくという理念の下で,世代包括的な活動やサービスを展開 している.

 またこうした取り組みは,市民の社会参加への新たな可能性を高めるもの として,人々の孤立化への対策という点でも大きな意味を持っている.人間 関係の希薄化という点では,日本は特に先進諸国のなかでもその傾向が際立っ ており,周囲との繋がりを感じることができず,社会的に孤立してしまうこ とで起こる問題は年々深刻さを増している.孤立化のリスクが高いとされる

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高齢者の場合,平成25年版『高齢社会白書』によれば,現在全世帯の4割を 占める65歳以上の高齢者のいる世帯のうち,半数以上が夫婦のみまたは単身 世帯であり,こうした現状が老老介護や孤独死の問題とも密接に関わってい る.家族の有無に関わらず,身近に支えとなる居場所が存在することが重要 である.今日4人に1人は高齢者というかつて経験のない時代を迎えるなかで,

年金や介護の問題など悲観的側面が目立つ一方,多くの元気な高齢者による 社会での活躍に期待が寄せられている.多世代ハウスでは,高齢世代による 子どもへのケアや若者への教育をはじめ,高齢者が様々な形で活躍の場を広 げるための仕掛けが多く備えられており,こうした取り組みは,今後の日本 における「包摂型社会」のあり方について考える上でも示唆に富むものと考 えられる.

 ヨーロッパのなかにあって,日本と比較的近い家族・ジェンダー規範を保 持してきたとされるドイツでの新たな動向については,日本においても高い 関心が寄せられている.本澤や姫岡(本澤 = マイデル編,2007,2009),魚住(2007)

などは,ドイツの家族や家族政策の歴史的変化と新たな家族政策の動向やそ の内容に関して詳細な研究を行っている.多世代ハウスの活動については,

その具体的な実態や動向を含む詳細な研究は日本においてほとんど見られな い.そうしたなか,藤本(2012)は「社会的孤立」という視点からそれに対 するEUの政策事例として多世代ハウスを取り上げ,ドイツ連邦家族省での ヒアリング調査,また本稿でも後に紹介することとなる,2008年にドイツ政 府がまとめた多世代ハウスに関する中間報告書とともにその活動内容に触れ ている.本稿では,中間報告書の内容をより詳細に検討し,総体的な活動状 況を把握した上で,筆者自身の現地調査に基づく個別の活動事例を提示する.

それに先立ち第2章では,主として日本語文献に依拠しつつドイツにおける 家族政策の歴史的変化を考察するとともに,今日の「持続可能な家族政策」

における三本の政策の柱と「多世代ハウス」に先行した「家族のための地域 同盟」の取り組みについてまとめる.

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2 ドイツにおける家族政策の歴史的変遷と新たな展開

2. 1 1960年代以降の家族政策の歴史的変遷と『家族報告書』にみる家族理解

 ドイツにおける政策立案の根底に据えられている,家族をめぐる政府の考 え方や理解がどのように変化してきたかを見ていく際,『家族報告書』1)がそ の特徴をよく捉えている.『家族報告書』については『第一家族報告書』から

『第七家族報告書』までを扱うが,その内容は主に姫岡(2007)による整理に 依拠することとする.

 『家族報告書』からは,少なくとも1980年代後半に至るまで,ドイツの保 守主義的な家族政策の歴史とそれを支える家族に対する伝統的価値観との関 係性を改めて確認することができる.『第一家族報告書』が提出された1968 年はちょうど近代家族の黄金期にあたり,家族の一体性はどの社会的組織に も勝るものとして捉えられている.そのなかでは両親と子どもで構成される,

性別役割分業を基盤とした核家族が中心に据えられ,「完全家族」とされる一 方,ひとり親家族については「不完全(欠損)家族」と命名され,完全家族 と区別して扱われている(姫岡,2007,23頁).1970年代には,女性の社会進 出への動きや女性運動の高まり,また多様な家族形態の増加といった社会状 況の変化のなかで,近代家族像がしだいに揺らぎ始めていた.そうしたなか,

中道左派であるドイツ社会民主党(SPD)が政権についたこともあり,家族政 策においてもそうした変化を反映し,特に女性と子どものための政策への転 換が図られた.1970年代半ばにおける夫婦間の完全な平等や,嫡出子と婚外 子の法的平等などの法律改定もその一例である.一方,家族のあり方に関して,

婚姻に基づく家族形態の正当性を主張する点に変わりはなく,『第二家族報告

1) 『家族報告書』(Familienbericht)とは,19656月の連邦会議決議において家族の状況に関

する定期的な報告を政府に求めたことを受け,政府によって任命された専門家が家族の現状お よび家族に対する社会的支援の効果を分析し,家族政策の方向性を提示するとともに,政府の 見解も明らかにしているものである.1968年に最初の報告書が提出されて以降,第二報告書か らは専門家による委員会が組織され定期的に刊行されている(川越,2008;姫岡,2007)

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書』(1975年),『第三家族報告書』(1979年)においても,婚姻をベースに子ど ものいる核家族がノーマルな家族とされ,完全家族と不完全家族の区別も維 持された.他のヨーロッパ諸国において,家族の多様化への対応が図られ始 めたこの時期,ドイツではそれまでの強い家族規範からの脱却はあまり見ら れなかった.

 『第四家族報告書』(1986年)において,こうした家族の理解に変化が見ら れ始める.すなわち家族の理解を核家族に限定するのではなく,多様性や可 変性を認めた上で,それを政策立案の基本に据えることが示され,完全家族 と不完全家族という名称も廃止された.姫岡はこうした進展を,1960年代後 半以降の家族の多様化に対する,政府理解の「第一の転換点」と位置付けて いる.続いて東西統一後に出された『第五家族報告書』(1994年)においても

『第四家族報告書』の流れをくみ,「日常生活においても学問においても家族 という概念に関する統一的な見解はない」との提言の下,ひとり親家族や婚 姻関係にない家族にも配慮が示された.また女性をめぐっても,女性の就労 が自明視されていた旧東ドイツの状況も考慮に入れ,女性の生き方に対して 一面的な考え方や固定観念を抱くことは回避されるべきとの見解が示された

(姫岡,2007,24―25頁).この時期,女性の就業意欲のさらなる高まりを背景に,

政府は家庭と仕事の両立に向けた施策対応に迫られることとなるが,1980,

90年代におけるキリスト教民主同盟CDUをはじめとする保守派政権下での3 年間の育児休暇制度や育児手当の導入(1986年)は,3歳までは母親が家庭で 育てるべきとする,いわゆる「三歳児神話」規範が女性のライフコースのな かに想定されており,また月額600マルクの育児手当のほかに育児期間中の 所得保障がないため,両立は専ら女性の問題として,男女双方の働き方の見 直しという観点はなおざりにされたままであり,実質的に性別役割分業モデ ルを補完する形での政策が展開された.

 1998年の政権交代でSPD・同盟90/緑の党の連立政権が誕生すると,それ まで遅れていた3歳未満児への保育整備が進められるようになるとともに,

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2000年には育児休暇制度の「親時間」への改定,翌年にはパート労働法によ り週30時間以内の短時間勤務が認められるなど,両親双方による仕事と育児 の両立を指向する政策が展開された.

 続く2002年秋の連邦議会議員選挙の際には,3歳未満児への保育と全日制 学校の拡充による仕事と家庭の両立を主張したSPD・同盟90/緑の党が勝利 を収め,同年10月に第二次シュレーダー政権が発足した.この連立政権下で は,ドイツにおける出生率と女性の就業率のきわめて低い現状に対する問題 が提起され,双方の問題解決を同時に図ることが今後の家族政策にとっての 重要な要素であるとの認識がなされた.ドイツでは1970年代以降,合計特 殊出生率は1.3前後という低い値に留まっていたが,ナチス時代における優 生政策の教訓から,近年に至るまで出生促進政策には慎重な姿勢を見せてお り,少子化が社会問題として取り上げられることはなかった.しかし,21世 紀になりようやく経済や社会全体の発展との関連において人口発展の必要性 が認識され,少子化対策の観点からの新しい家族政策が論じられるようになっ た(齋藤,2012,210―212頁).具体的対策として,2003年には学校の全日制化 の促進と並んで,育児休業期間における収入減少を軽減するための所得保障 制度(後にふれる「両親手当」)の提言がなされた.続く2005年のCDU/CSUと SPDの大連立政権誕生以降も,第二次シュレーダー政権路線を引き継いだ形 での,出生率と女性の就業率の向上を目指した家族政策が展開されていくこ とになる.

 また,『家族報告書』においても新たな進展が見られた.2006年の『第七 家族報告書』では,性別役割分業規範の領域を脱するには至っていなかった 前回までの理解とは異なり,個人の人生を第一義的なものとした上で,家族 を「男女・世代を超えて,互いに責任を引き受ける共同体」として捉えてい る(田中,2009,170頁).そしてそのような家族が保障されるためには,従来 の社会保障制度による支援だけではなく,社会全体で家族を支援するための 環境を整えていくことの必要性が説かれている.家族をめぐる様々な課題に

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対し,家族のみに責任が委ねられ,葛藤を抱えることのないよう,あくまで 外側からの支援として家族やその構成員を支援していくこと,そしてそのた めの地域レベルでの様々な社会的アクターによるネットワークの構築が重要 とされた.『第七家族報告書』では,家族や個人を支援する上での社会の重要 性を改めて認識し,「家族に優しい社会」の実現に向けて社会が歩むべき新た な道筋を明確にしているという点で大きな前進といえる.このように,一体 性を強調していた従来の「閉鎖的な家族」から,個人・家族・社会の繋がり を重視する「開放的な家族」へと家族像の大幅な見直しがなされたという点 で「第二の転換点」と位置付けられ得る(姫岡,2007,26頁).この『第七家 族報告書』の提案を受け,新たに家族に優しい「持続可能な家族政策」とい う指針が打ち出された.その内容と方向性に関しては次節以降詳しく扱うこ ととする.

2. 2 新たな家族政策の展開

   ―「持続可能な家族政策」における三本の柱―

 2005年メルケルを首相とするCDU/CSUとSPDの大連立政権以降も,フォ ン・デア・ライエン家族相のリーダーシップの下,仕事と家庭の両立支援を 中心とする包括的な家族政策が推進されている.まず,「持続可能な家族政策」

を構成している三本の柱が「再分配政策」「時間政策」「インフラ政策」であり,

それぞれ,(1)家族に対する効果的な金銭支援,(2)職業生活において家族と 過ごす時間の確保,(3)良好な保育・教育サービスの提供を目的として,出生 率向上と仕事と家庭の両立のための必要条件として打ち出されたものである.

 再分配政策では,まず1986年から実施されていた育児手当が2007年に「両 親手当」へと改定された.従来の育児手当では,子どもが2歳になるまで就 労の有無に関わらず養育にたずさわる全ての親に対して一律月額300ユーロ が支払われていたが,共働き世帯が多くを占める今日の状況から,育児専念 期間における収入の減少をできるだけ軽減することを重視し,休業前の手取

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り所得の67%を12ヶ月間支給するという所得代替給付型へと切り替えられ た(魚住,2007,26頁;齋藤,2012,201頁).また時間政策とも関連するが,こ の両親手当は片方の親のみの取得の場合,最大12ヶ月間であるが,両親が交 互または同時に取得する場合はさらに2ヶ月が追加され,最大14ヶ月間の取 得が可能となる(ひとり親世帯の場合は14ヶ月間).これは北欧型モデルを参考 に父親の育児参加を促すために導入されたものであり,この2ヶ月を「パパ の月」(Vätermonat)とも呼ぶ(魚住,2007,26頁).

 両親手当の効果に関して,連邦統計局による受給状況のデータ収集に基づ く調査の上で連邦政府が2008年に公表した報告書によると,両親手当を取得 する家族の割合は,それまでの育児手当での77%に対し,ほぼ100%に達し ている(ホーネルライン,2009,49頁).父親による取得割合も従来の4倍にあ

たる平均14.3%に増加しており,そのうちの約3分の2は2ヶ月間の短期間

取得となっているが,約20%は3ヶ月から11ヶ月の取得,そして,14%の 父親は最長期間にあたる12ヶ月ないし14ヶ月間にわたり両親手当を受け取っ ている(ホーネルライン,2009,52頁).両親手当の需給状況には地域差もある ことから,一律での評価は避けるべきであるが,全体として,男性の育児参 加の増加,また受給期間が従来の育児手当の約半分の期間に短縮されたこと で,休職後以前より早く職場復帰する女性が増えている.それと同時に,新 たに仕事を始める女性の割合も相対的に増加していることから,女性が仕事 をする上での大きな推進力ともなっていることは明白である.その他の再分 配政策では,育児休暇明けから発生する保育費用の負担軽減策として,2006 年より支出費用の一部が所得控除の対象となり,最大4,000ユーロの控除が 受けられることとなった(魚住,2007,26―27頁).

 続いて時間政策について見ていく際,そこに至る議論の経緯から,ドイツ が目指す新しい社会像や労働の概念を読み取ることができる.ドイツでは 1990年代末から2000年代初頭にかけ「労働の未来(Zukunft der Arbeit)」をめ ぐる議論が大きく展開された(田中,2009,169頁).ここでは,今日の深刻な

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失業問題などを背景に,従来の高い生産性と利潤追求型の雇用労働のあり方 に対し,社会的豊かさという観点からの根本的な問題提起がなされると同時 に,個人の人生の豊かさの実現において,仕事と生活の良好なバランスを取 り戻すことの重要性が確認された.その上で,これまで社会的に評価されて こなかった家事労働やケア労働,福祉・ボランティアなどの社会的労働にも 雇用労働と同等の価値を置き,個々人が人生設計において必要や希望に応じ て様々な労働の間を行き来しながら,可変的に労働分配できるようにするこ との必要性が説かれた.こうした労働概念の新たな見直しという観点は新し い家族政策の設計にも採用され,『第七家族報告書』では,雇用労働以外のこ とを行う時間を社会のなかに積極的に導入することが社会と経済の発展と持 続可能性を可能にする重要な鍵であるとし,育児や介護を行うための「ケア 時間」,自分のための職業・資格教育や研修・通学を含む「教育時間」,地域 や市町村での市民活動を行うための「社会的時間」という三つの時間の採用 とともに,有給での長期休暇と復帰のための雇用ポストを保障する制度が提 案された(田中,2009,171頁).ドイツにおける新たな家族政策は,家族や個 人の生活の豊かさへの尊重を労働と時間との関係のなかで捉え,時間・給与・

雇用の保障を確保することで,男女双方が安心して自らの人生における必要 や希望に合わせた生き方を選択できる可能性を広げたという点においても,

大きなパラダイム転換を迎えているといえる.

 インフラ政策に関しては,これまで最も遅れていた保育の整備,なかでも 3歳未満児を対象とした保育施設の拡充が目指されている.当時の連邦家族 相は2007年4月に「保育サミット」を開催し,州と地方自治体の合意の下で 2013年までに全国平均で35%の供給率を達成するとの目標を掲げた.これを 受け2008年12月には「児童助成法」が制定され,2013年8月から1歳以上 3歳未満の児童に対し,保育への請求権が認められることが定められた(齋藤,

2012,214頁).2012年3月の段階では全国での1歳以上3歳未満児への保育

供給率は27.6%に達しているものの東西での格差は大きく(特に旧西ドイツ地

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域が深刻な状況にある),22万人の1歳以上3歳未満児が保育施設不足によりい まだ入所できない状況にあり,現在さらなる整備が進められている.これに 加え全日制学校の拡充も課題となっている.特に旧西ドイツ地域では半日制 の学校が基本となっており,正午には授業が終わり自宅に帰ることが一般的 となっているが,これが母親の就労制限の一因となっているほか,子どもの 学力をめぐる格差の問題にも影響しており,いわゆる「PISAショック」2)を契 機として,家庭環境の違いに関わらず,子どもたちは平等に最良の教育機会 を与えられる必要があるとの見解から,旧西ドイツ地域を中心に学校制度の 改革が進められている.

 このように,新たな家族政策では男性単独稼得者モデルから共働きモデル への明確な路線転換が行われたが,当初,保守派政党であるCDUやCSUか らはこうした新たな家族政策の方向性に対する反発も見られた.しかし,首 相であったメルケルは女性や若者など,より広範な社会層からの支持獲得を 目指していたと同時に,SPDとの連立政権を組むことでCDU党内の反発を 押し切り,政策改革を実現できたといえる.

 これら三本の政策の柱は,家族への経済的負担調整を第一義的なものとし てきた従来の家族政策に代わり,時間的支援やインフラ整備などにも重点を 置いた構成となっており,さらに地域を主体とした取り組みとしての「家族 のための地域同盟」や「多世代ハウス」が,より一層の包括的な家族政策へ と導いている.

2. 3 新たな家族政策における「家族のための地域同盟」

 「家族のための地域同盟」(Lokale Bündnisse für Familie)は,2004年レナーテ・

シュミット連邦家族相(SPD)とドイツ産業・商工会会頭ルードヴィッヒ・ブ

2) OECDによる,15歳児を対象とした学力調達度調査(2000年)において,ドイツは参加

32ヶ国中読解,数学,科学ともに20位前後であるとともに,親の社会階層によって学力の格 差が最も大きいことが示され,メディアが「PISAショック」と報じ,深刻な教育問題として論 じられた.

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ラウンとの合意により発足されたものであり,市議会,地域行政,企業,商 工会議所,労働組合,教会,福祉組織,各種の協会・協同組合,家族をはじ めとするボランティアなどが地域ぐるみの横断的なパートナーシップを形成 することにより,家族が暮らしやすい環境作りを推進していこうとする試み である.現在全国に460ヶ所以上の地域同盟が存在し,その活動は,親の子 育て力の強化,世代間交流,保育サービスの多様化・柔軟化,仕事と家庭の 両立支援をはじめ,市民自らによる家族に優しい環境作りのための活動参加 を推進するなど,家族を支援するための様々な活動が展開されている.そして,

地域同盟と協力関係を結ぶパートナーの数は1万以上にのぼり,幅広い分野 の協力体制の下で官民の連携が図られている(本澤,2007,203頁).これまで も地域のネットワークは存在していたが,こうした同盟を作ることでより明 確にその輪郭が可視化され,連携の強化を図れると同時に,活動を通じて様々 な人や組織を巻き込んでいくことで,社会全体に家族に優しい雰囲気を醸成 することが期待できる.また,家族への支援は一方向的なものに留まるので はなく,例えば企業にとっては家族を支援することが将来につながる労働力 の確保やイメージの向上にもつながるものであり,プラスへの作用は大きい.

そうしたことから,現在多くの企業が家族に関心を寄せており,規模の大き さに係わらず1,000以上の企業がネットワークを作り「家族に優しい企業」

を義務付け,企業保育所や柔軟な労働時間,休職者のための再教育など,両 立支援に向けた様々な案を協議している(姫岡,2007,193頁).

 地域同盟の活動は,育児支援や青少年に関する活動が中心となっているが,

その中身は各々が地域の特色や需要に応じて独自の活動を展開しているため 決まった形は無く,個々の地域同盟ごとにその特性は多様である.政府は直 接的に介入して政策を実施するのではなく,あくまで枠組み作りという最小 限の任務に留まっており,実際の活動内容や運営方法は担い手のイニシアティ ブに委ねられている.こうした活動の自律性が,下からの意識改革を促進し,

市民社会が本来持つ力を呼び覚ます効果を発揮する.

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 ドイツにおける家族の日(5月15日)のキャンペーン行事の際には,行政 から独立性を保ちながら地域同盟の活動を総体的に支援している「サービス ビューロー」の指揮の下,多くの地域同盟やその協力パートナー達が結集し,

学者や政治家などの専門家と共に理論と現場の間を繋ぐべく知的交流を行っ たり,地域同盟同士がさらなる活動の活性化に向け知識,経験交流を行ったり,

企業の新たな獲得に向け様々な催しを通して経済界にアピールするなど,家 族のより良い未来のために団結しようという共通認識の下,ネットワークの 強化と拡大に努めている(本澤,2007,200―202頁).この家族の日のイベント の模様はドイツ国内でも大々的に報道されており,地域同盟やサービスビュー ローは社会に開かれた家族像の形成と浸透に大きく貢献しているといえる.

3 新たな家族政策における「多世代ハウス」プロジェクト

3. 1 「多世代ハウス」プロジェクトと新たな世代間関係

 家族支援のための環境整備を目的とした「家族のための地域同盟」に続き,

世代間関係の強化により焦点を当てた形で2006年ウルズラ・フォン・デア・

ライエン連邦家族相(CDU)の下で推進されたのが「多世代ハウス」プロジェ クトである.世代間の関係を家族や血縁といった枠を超えたより広義的な意 味で捉え,市民全体を対象とした人々の繋がりの強化を図るなかで,相互の 理解や扶助を目指すものである.このような活動の背景には,少子高齢化と いう人口学的変化とともに,家族規模の縮小化や単身世帯の増加などといっ た現状および将来への憂慮がある.また,ドイツでは3世代以上の多世代家 族世帯の割合が非常に低く,世帯類型別に見ても2000年におけるその割合は

1%にも満たない(第 1 図).今日,3世代が日常的に出会うことはしばしば困

難であることから,かつての大家族の原則を現代社会に適合する形で転用し,

血縁や年齢を超えて人々が共存できる社会体制の構築に努めるということが,

多世代ハウスの活動における基本理念といえる.

 活動開始以降,様々な社会的アクターとの連携が図られており,地域同盟

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もそのパートナーの一つである.世代間の交流活動に留まらず,育児や介護,

家事サービスなど日常の負担を軽減するための活動から,若者への教育や就 業支援,移民への融和支援など,個々人が抱える課題に応じた包括的な活動 やサービスが提供されている.2006年の開始以降,5年間のモデルプロジェ クト期間を経て2012年より第二期プロジェクトが始動しており,現在ドイツ

第 1 図 ドイツの世帯類型(1972年と2000年)

(出所)姫岡(2007)14頁より作成.

その他の世帯・

子どもなし 1.1%

夫婦と子ども 38.9%

一人親と子ども5.5%

結婚した子どもと 同居する家族 1.5%

3世代あるいは 多世代家族 3.3%

夫婦のみ22.9%

非婚同居・

子どもなし 0.5%

男性単独世帯 7.6%

女性単独世帯 18.6%

ドイツの世帯類型(1972年)

ドイツの世帯類型(2000年)

その他の世帯・

子どもなし

1.3% 夫婦と子ども 25.2%

非婚同居・子どもあり 1.1%

一人親と子ども5.8%

結婚した子どもと 同居する家族 3世代あるいは 0.9%

多世代家族 0.9%

夫婦のみ24.8%

非婚同居・

子どもなし 3.9%

男性単独世帯 15.2%

女性単独世帯 20.9%

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全土で約450ヶ所の多世代ハウスが活動を展開している.

 ドイツは,福祉の担い手に関して政府の役割が大きい北欧型とは異なり,「補 完性原理」の原則の下で,民間の福祉団体が大きな役割を果たすという特徴 をもった福祉国家である.そのなかでも福祉六団体と呼ばれる,プロテスタ ント系の「ディアコニー」,カトリック系の「カリタス連合会」,ユダヤ系の

「中央福祉会」,労働組合の「労働者福祉連合会」,赤十字,無党派系の「ドイ ツ同権福祉事業団」は福祉活動において歴史的に重要な役割を果たしてきた.

これらは現在においても福祉サービスの50%以上を担い,従業員の60%を占 めるなど,社会福祉の大部分を担っている(坪郷,2000,5頁).多世代ハウス についても,プロジェクトの導入に伴い新設されたものではなく,もともと これらの福祉団体を母体とする施設が多世代ハウスとしての活動に組み替え られているケース,あるいはその他のNPOや市民のボランティア団体などが 組み替えられているケースが多い.「世代間の繋がりの強化」という多世代ハ ウスの理念に賛同した施設などが,新たに「世代間の交流」というコンセプ トを取り入れ,従来の活動の幅を広げて展開している.

3. 2 政府による第一期活動プロジェクトをめぐる中間報告

 多世代ハウスは,EUが支援するプロジェクトの一つとして,欧州社会ファ ンド(ESF)からの財政的支援が行われている.そのため,多世代ハウスの 活動状況や成果等に関する調査報告書の提出が義務付けられており,連邦政 府は第一期活動プロジェクト期間中の2008年,多世代ハウスの中間報告書

(Bundesministerium,2008)をまとめている.以下ではその内容に基づき,統計 データを含め活動の全体像を探ることとする.その際,藤本(2012)がまとめ た中間報告の内容やドイツ連邦家族省が提出する第一期活動プロジェクトの 総括資料を参照しつつ,より詳細な分析を通して全体像を考察する.

① 多世代ハウスのねらい

 中間報告書をはじめ,多世代ハウスに関する公的資料のなかで述べられて

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いるプロジェクト創設の背景として,かつての伝統的な大家族から現在に至 る家族構造の歴史的な変化が挙げられる.今日では様々な世代が一つ屋根の 下で生活することは珍しくなり,若者と高齢者の間で知識や経験を日常的に 受け継いでいくことも,子育てや介護の支援を受けることも難しくなってい る.しかし同時に,人々は繋がりや安定した関係,家族の結束を望んでおり,

人々のそうした期待はここ10年の間にますます高まっているとし,その上で,

中間報告書では以下のように多世代ハウスの意味,目的を確認している.

   「我々はかつての大家族を恋しがってはいられない.しかし同時に,世代間での与 えたり与えられたりという日常的な関係性を今日再びよみがえらせるために,大家 族の原則から学び,現代社会のなかに転用することはできる.そのために必要な場 として,我々は多世代ハウスの試みを展開する.全ての世代の人々は,日常生活に おいてそこで義務的ではなく自然な形で出会い,互いに学び,支え合う.こうした 取り組みをドイツのあらゆる場所で展開させる.」(BMFSFJ,2008,pp. 3―4)

② 活動状況

 月曜日から金曜日まで平均45時間,週末には平均12時間開かれている.

 定期的に行われているサービスは9,100あり,その内訳は第 1 表のように なる.

 このように多世代ハウスにおける活動は多岐にわたるが,そのなかで多 世代ハウスの設立にあたり,共通の設立条件となっているものが「Offener

Treff」(開かれた集いの場)である.これは,多世代ハウスに関する資料のなか

で「公共の居間」(öffentliches Wohnzimmer)と表記され,いわゆる家のなかの 団欒の場である「居間」にあたる部分であり,多世代ハウスを訪れる多くの 人に利用されている.交流活動を行う場であるとともに,食卓を囲むことで 交流を図るというコンセプトに基づき,食事やカフェを提供しているケース が多い.経済的に余裕がない人々にも考慮し比較的安い値段で提供され,住 民が食卓を囲みながら,そのなかでできるだけ自然な形で人と人との繋がり を作る空間作りを重視している.日本においても2000年以降,特にこのよう

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な「共食」を通じた交流促進を目的としたコミュニティカフェの開設が急速 に拡大しており,多世代ハウスの公共の居間と共通するコンセプトといえる.

 また,パソコンやインターネットの利用が提供されているケースも多く,

そこでは若者による高齢者へのインターネット講習や,他方で高齢者による 若者への教育支援の実施など,世代間の交流活動が盛んであり,実際に若者 と高齢者の利用者の70%がここで共に活動している.報告書による分析結果 では,一つの多世代ハウスにつき,1日あたり平均35人が「集いの場」を 訪れ,利用者の4分の3が定期的に訪れている.そして,多世代ハウスにお ける全てのサービスのなかで最も人気があり,訪問者の92%が満足している

(BMFSFJ,2008,p. 20).

③ 利用者状況

 1日あたり約9万人が多世代ハウスを利用している.利用者を年齢別に見 ると第 2 図のような内訳となる.全世代にわたり偏りなく利用されており,

理念上だけでなく実際において多世代の参加を実現できていることが分かる.

第 1 表 多世代ハウスにおけるサービスの種類とその割合

サービスの種類 提供数 割合

「開かれた集いの場」(Offener Treff)でのサービス 2,500 27%

教育や育成 2,500 27%

相談・アドバイス 1,050 12%

保育や介護などのケア 800 9%

スポーツ 550 6%

文化 550 6%

その他の余暇サービス 400 4%

食事 300 3%

身近な家事サービス 200 2%

家事サービスの仲介 180 2%

経済的基盤の準備・調達 100 1%

(出所)BMFSFJ( 2008)p.15より作成.

(17)

④ 世代間交流活動

 多世代ハウスにおける9,100のサービスのうち,約75%が幼児から高齢者 にわたる多世代を対象としたものとなっている(BMFSFJ,2008,p. 18).その 世代間交流活動の内容は第 3 図のようになっているが,食事を介しての交流 から,その他の「開かれた集いの場」での活動やスポーツ,文化的な活動・

イベント,ケアや教育などを通じた交流まで,多岐にわたっている.

 中間報告書では,多世代ハウスでの強制されない,自然な形での出会いが 世代間交流の促進にとっての成功の秘訣であり,日々のこうした出会いが,

世代や属性を超え,互いの尊重や承認,助け合いを可能にしているという

(BMFSFJ,2008,pp. 18―19).

⑤ ボランティア活動

 ボランティア活動が非常に活発である点も多世代ハウスの特徴の一つであ り,中間報告書においてもその活動に関する分析が行われている(BMFSFJ,

2008,pp. 22―26).

第 2 図 年齢別利用者割合

(出所)BMFSFJ(2008)p. 17より作成(年齢表記は出所のまま) 6〜14歳

15%

0〜5歳11%

14〜20歳 7%

20〜30歳 30〜50歳 12%

23%

50〜65歳 17%

65〜85歳 13%

85歳以上 2%

(18)

・ 全ての多世代ハウスにおいて総計約15,000人がボランティアとして活動し ており,それは多世代ハウスで働く全ての人の61%にのぼる.

・ 多世代ハウスの93%がボランティアを積極的に受け入れており,各多世代 ハウスに平均33人のボランティアが活動的に参加している.

・ 活動内容の約70%はサービスの実行である.

・ ボランティアの年齢分布は,20歳未満が5%,20歳~30歳未満が15%,30 歳~50歳未満が42%,50歳~65歳未満が21%,65歳以上が18%となっ ており,特に中高年世代や高齢者世代にかけての活動性が高く,多世代ハ ウスにとっても非常に重要な存在となっている.

⑥ 協力パートナーとの共同活動

 多世代ハウスでの包括的な活動を可能としている背景の一つは,多様な分 野の協力パートナーとの連携にある.企業・経済団体,非営利団体,市民団 体,学校・教育組織,福祉施設,自治体,教会など総じて2万以上にのぼり,

第 3 図 世代間交流活動の内容

(出所)BMFSFJ(2008)p. 18より作成.

0%

20%

40%

60%

80%

100%

食事 開かれた

集いの場 スポーツ

文化 ケア 教育・育成 相談 アドバイス

85% 80% 78%

73% 72%

56%

(19)

各多世代ハウスは平均30の組織や団体とネットワークを結びながら,共同活 動を行っている.特に企業や経済団体は重要なパートナーであり,その割合 は全体の5分の1を占める.企業側は多世代ハウスに対し,広報活動や活動 資金の寄付,社員へのボランティア活動の仲介などの面で支援する一方,多 世代ハウスは職員に対し,育児支援サービスやその他仕事と家庭の両立支援 を提供するなど,企業側にとっては福利厚生の一環として多世代ハウスが利 用され,双方がメリットを享受できる形となっている.また,自治体は財政 支援のほか協力パートナーの獲得にも積極的に関与する.こうした多様な連 携を通して,多世代ハウスは一つの地域における施設の共同活動の新たな形 の中核を成している.それは特定の年齢層を対象とする代わりに,多世代ハ ウスの周辺に新たな世代包括的なサービスを展開することである(BMFSFJ,

2008,pp. 31―33).

⑦ 多世代ハウスの三つのタイプ

 中間報告書では,全ての異なる多世代ハウス像を通して,そのなかで挙げ られるいくつかの傾向について,原型,規模,経験(活動期間),活動組織,

活動の重点,世代の出会い,協力パートナーの7つの項目別にタイプ分けし,

「活動中心型多世代ハウス」「出会い(交流)中心型多世代ハウス」「サービス 中心型多世代ハウス」の3つのタイプに分類している(BMFSFJ,2008,pp. 33―

37).実際には個々の多世代ハウスの活動はより多種多様なものとなっている ため,厳密に区分することは難しいが,これらの3類型は多世代ハウスの全 体像の把握にとって役立つものであるといえる.これらの分類からは,歴史 的に異なる施設基盤を持つ多世代ハウスによる,共通理念としての「世代間 関係の強化」を達成するための様々なアプローチやプロセスが確認できる.

 「活動中心型」では,主にスポーツや余暇,文化活動を通じた交流が他の多 世代ハウスと比べて活発な傾向にあり,そうした活動の3分の2以上がボラ ンティアにより行われているなど,活動の中心がボランティアである点も特 徴の一つである.もともとは民間組織やボランティアが中心の担い手となり

(20)

教区や市民の集いの場から発展してきたものが多く,活動期間は11~20年と 比較的長い活動の歴史を持つ傾向にある.他方,世代別での活動も多いこと から,多世代を対象とした活動は半数に留まり,他の多世代ハウスと比べて 少ない値となる(連邦全土ではサービスの平均66%は全世代を対象としたものであ る.).

 一方「出会い中心型」ではサービスの約80%が多世代での共同活動であり,

特に「Offener Treff」は長時間解放され活動が活発であるほか,交流の促進や 教育に関わるサービスに重点を置くなかで高齢者と若者の多彩な交流を達成 している.活動組織の多くは経済団体や非軍事的役務(Zivildienst)などであり,

この出会い中心型の多世代ハウスは最も創業が新しく,約半数は1年から最 大で2年である.これは,「世代間の交流」が当初からの多世代ハウスの代名 詞であり,またその特徴であることを意味している.活動の歴史が浅いにも かかわらず,協力パートナーとして企業を獲得することに成功し,頻繁に協 力関係を結んでいる.その割合は協力パートナーの29%を占める.全体では

10~50の協力パートナーとともに活動を展開している.

 「サービス中心型」は,主に家事サービスや保育等のケアサービスの提供に 重点が置かれる傾向にあり,全活動の約40%を占める.親-子,家族-母親 に関連した民間の施設や機関から多世代ハウスになったものが多く,活動期 間は3~10年,または21年以上と,歴史の短いものから長いものまで様々で ある.協力パートナーには全日制保育園や学校などが多い.

 様々な活動基盤を持つ施設や団体が従来の活動を引き継ぎ,またその幅を 広げながら今日多世代ハウスとして活動している.そのなかで,出会いや交 流を中心としたものは特にこのプロジェクトの開始とともに発展が進んでい るものであり,多世代ハウスをきっかけとしてこうした活動が広がることが 期待されている.

(21)

3. 3 第二期プロジェクトにおける四つの重点

 CDU/CSUとSPDの大連立政権の下で開始された「多世代ハウス」プロジェ クトは,2009年以降のCDU/CSUと自由民主党FDPの連立政権においても継 続され,2011年に第一期モデルプロジェクトを終えた後,翌年より第二期プ ロジェクトが展開されている.それに先立ち2009年10月には与党による新 たなプロジェクトの方針が確認された.そこでは,従来の個別の年齢を対象 としたサービスのあり方についての,現代社会との整合性という面からの疑 問と同時に,「世代包括的な共生」というテーマの推進に対する正当性とその 原動力としての多世代ハウスの意義が改めて言明された.その上で,これま でに成果のあった多世代ハウスの取り組みを将来にわたり支援していくこと に加え,今日特に緊急性の高い社会的課題を採択し,地域レベルでの多面的 な解決を目指す方向性を明らかにした.またこうした方針は,以下の4章で 挙げる個別の活動事例においても示されている.

① 高齢者とケア

 今日では健康的でアクティブに年を重ねる高齢者が増加している.高齢者 の様々な行動における制限に関する最近の研究では,ドイツにおいて65歳以

上の約70%は日常生活において制限を感じることなく生活することができて

おり,三つ以上の行動で制限を感じる高齢者の割合は12%ほどに留まるとい う結果が出ている(第 2 表).彼らの多くは活動的に社会に参加し,また自身 の知識や経験を持って誰かのために役立ちたいと考えている.こうした新し い高齢者像の発展と同時に,社会においても高齢者が果たし得る役割への期 待が高まっている.多世代ハウスではこうした需要にいち早く対応し,高齢 者の社会参加の機会を数多く提供しながら,自身の意思決定に基づく生活の 維持を支援することに重点を置いてきた.そこでは,例えば代理祖父母とし て日中働く母親の支援をしたり,学校帰りの子どもに宿題を教えたり,若者 に料理や手芸などを教えたり,また,移民の背景を持つ若者の名付け親とな り,彼らの生活や語学の習得をサポートしたり,様々な場面で豊富な知識と

(22)

経験が他の世代のために活かされている.ほぼ全ての多世代ハウス(96%)が 高齢者をテーマとした活動に取り組んでおり,その総数は約1,800にのぼる.

そのうち約25%がスポーツやその他の余暇活動に関するものであり,約18%

が情報や助言・アドバイスの提供にあたる(BMFSFJ,2013,p. 1).

 高齢者のケアも重要な活動分野の一つであり,家族介護と専門的介護双方 をその中間的な立場から補完的に支援し,ケアの隙間や不足を補うための役 割が求められている.そのなかで特に認知症の高齢者というテーマが重要視 され,当事者とその家族へのサポートの強化が現在進められている.現在多 世代ハウスで何らかのケアを受けている高齢者は,ケアを必要とする全ての 高齢者の69%(160万人)を超える.高齢者ケアに関する補完的なサービス

は約200,そのうち半数が認知症高齢者を対象としたものである(BMFSFJ,

2011,pp.5―7;BMFSFJ,2013,pp.1―2).

 こうした認知症高齢者への支援の背景には,ドイツにおける高齢化と介護保 険の現状をめぐる課題が関係していると考えられる.現在ドイツでは,65歳 以上の介護保険受給者数は190万人を超え,さらに認知症高齢者数は2013年 140万人となり,介護保険では認知症患者への給付費の改善など,認知症患者 への対応に大きな力が入れられている(森,2014,36頁).保険給付費は2008年

第 2 表 Limitations in activities of daily living

(Notes) 1 Thirteen activities of daily living were examined: dressing, walking, eating, getting up/lying down, going to the toilet, map-reading, cooking, shopping, telephoning, taking medications, repairing/gardening and dealing with money.

2 Sample means that the figures are based on the weighted national sample of the SHARE dataset, adjusted for the age distribution of the population in the respective country.

(出所)Blome, Keck and Alber (2009) p. 146 より作成.

(23)

以降黒字を維持しているものの(森,2014,31頁),2008年の介護保険改革以降,

将来の要介護者数の増加と給付費用の増大に備え,1995年の介護保険制度の 導入以来据え置かれてきた保険料の引き上げに連続的に踏み切るなど,急速な 高齢化の進行に対し,いかに制度を継続させていくかが大きな課題となってい る.これにあわせ,ドイツでは在宅給付を選択している者の割合が高く,また 給付の種類ではサービス給付よりも現金給付が圧倒的に多くなっていることな どから,家族が何らかの形で介護に関わっているケースが多い現状にある.こ のため介護保険では,介護期間における年金や労災保険の適応と保険料の免除 など,家族介護者への支援にも力が注がれている.介護保険の安定的な継続,

ケアサービスの拡充,家族の負担軽減を同時に図っていくためには,様々な社 会的アクターの協力が必要であり,多世代ハウスもケアサービスや情報の提供 を行うことで地域の需要に対応していくことに期待が寄せられている.

② 融和と教育

 融和支援では,国籍や文化的,宗教的背景に関係なく,地域レベルで全て の人を受け入れる取り組みを通じ,移民の背景をもつ人々の社会参加を積極 的に推進している(BMFSFJ,2011,p. 7).このため,言語習得のための語学講 習やインターナショナルな文化活動を日常的に展開している多世代ハウスは 多く,それと合わせて地域の移民組織との定期的な連携も図られている.

 教育の分野では,子どもや若者に対する家庭と学校による教育的,社会的な 機能を補完する役割を担うものとして期待が寄せられている.宿題や午後の活動 など放課後の支援を行っているほか,子どもたちが家族の枠を超えて他者から愛 情を受け,学び合える場として,代理の親や祖父母制度などをはじめ,第三者の 大人が子どもの成長を見守っていく活動を行っている(BMFSFJ,2011,pp. 7―8).

③ 家事サービスの提供と仲介

 住まいにおける身近なサービスの提供を通して日常の負担を軽減し,家庭 と仕事の両立を助けることを目的として,最初のプロジェクト段階から重視 されてきたテーマである.庭の手入れや買い物の援助,アイロンがけなどを

(24)

例とする数多くのサービスは,働く女性や高齢者世帯にとっての大きな助け となっている(BMFSFJ,2011,p. 8).育児支援サービスでは,補完性と柔軟性 の高さに重点が置かれ,全日制の保育園や託児所の設置,緊急時や時間外の 保育対応など,現場の既存のサービスの不足を補う形で地域の需要に対応し ているケースも多い.また,母親の職業復帰や若者の就労を支援するための 職業教育や資格取得の機会の提供にも取り組んでいる(BMFSFJ,2011,p. 8).

④ ボランティア参加の推進

 他者と関わりたい,他者のために何かをしたいという自発的な社会参加や 社会貢献への意志は,多世代ハウスが成功するための重要な要素であり,活

動の60%をボランティアが担うなど,ボランティアが果たす役割は非常に

大きい.彼らは日々の活動の展開だけでなく,周囲の社会的アクターたちと のネットワークの形成にも大きく貢献している.特に30代から60代にかけ ての活動性が高く,子育てから手が離れた人々や退職期を迎える人々が新た にできた自由な時間を活用してボランティアとして社会参加を果たしている

(BMFSFJ,2011,p. 9).そのなかには専門的な資格を持つ人や職業訓練を受け た専門家も多く存在し,それぞれが自分のしたいことやできることを持ち寄 り,サービスを提供している.そうした活動を通して,市民の社会参加の原 動力となることが多世代ハウスの大きな目標の一つでもある.

4 多世代ハウスの活動事例

 ―2011年・2013年ヒアリング調査の概要―

4. 1 調査訪問先の活動事例

 政府資料に基づく総体的な活動の把握に続き,ここからは個別の活動事例 について扱うこととする.筆者は,第一期プロジェクト期間中の2011年8月 にティティゼー・ノイシュタッド,ミュンヘン,カールスルーエの3ヶ所の 多世代ハウスを訪れ,第二期プロジェクト期間中の2013年12月にミュンヘン,

カールスルーエの同じ施設に加えて,新たにフライブルク,カールスルエ(上

(25)

記とは別施設),ハイデルベルクの計5ヶ所を訪れ,それぞれ施設責任者,利 用者などにインタビューした.インタビューでは主に,事業の概要(運営主体,

活動の歴史,活動内容),運営状況(職員,ボランティア,協力パートナー,運営費), 利用者状況,交流活動の実態などに関する質問を行った.2度訪れた施設に 関しては,最初の訪問時からの活動推移をはじめ,第一期プロジェクトへの 評価などについても調査した.調査の目的は,現場での活動実態を把握する とともに,いくつかの事例を調査するなかで見られる共通性と多様性を把握 することであった.そのため,宗派的にカトリックと福音派の拮抗するバー デン・ビュルテンベルク州の人口規模を異にする諸都市に,南ドイツ最大の 都市ミュンヘンを加えた地域から調査先を選定し,ヒアリング調査を受け入 れてくれた多世代ハウスを訪問した.

 各多世代ハウスの運営に関しては,まず政府の財政支援として,第一期モ デルプロジェクト期間中の5年間,そして第二期プロジェクト期間中の3年 間において,各多世代ハウスに対し,年間4万ユーロ(3万ユーロ/政府・EU,

1万ユーロ/自治体)の補助が行われており,現在はその期間中に当たる.この プロジェクトは設立当初より「公的支援から相互支援への自立」が最終的な 目標として掲げられており,今後その方向性への段階的なシフトが予想され る.政府支援に加え,個々の多世代ハウスの母体となる福祉団体や企業,教会,

個人の寄付などによる支援のほか,各多世代ハウスでの保育・介護事業,授業・

レッスン料,食事代,個別事業での政府プログラムからの支援などが活動運 営費にあてられている.新たな連立政権の下,2015年以降の政府支援につい ては,SPDによる「Caring Community」のプログラムからの補助が予測され ているが,現時点で定かではない.

 (1) Bürgerwerkstatt(市民工房)Stutensee(カールスルーエ)の活動事例  ここは2001年3人のボランティアにより若者の活動・集いの場として活動 を開始し,その後参加者の幅が様々な年齢層へと徐々に拡大したため,多世

(26)

代が集える場へとコンセプトを拡大し,2012年12月より多世代ハウスとし て活動を開始した,比較的新しい施設である.他の多くの多世代ハウスはそ れ以前の母体組織を持つなか,ここは個人のボランティア活動から始まった 珍しいケースといえる.企業のサポートにより,内部の机や椅子,棚などほ とんどの資材は寄付で賄われ,初期費用をかなり抑えられたという.

 平均の利用者数は月に約500人,イベント時を含むとその数は多少増える.

スタッフは1名で,ほかボランティア45人という,活動の多くがボランティ アによって支えられている.第 4 図は,実際行われている活動プログラムの 内容を提示したものである.訪問した6ヶ所の多世代ハウスの活動は,それ

(出所)当該施設発行のパンフレットより作成.

第 4 図 Bürgerwerkstatt Stutensee (Karlsruhe)の活動プログラム

(2013年9月~2014年1月)

(27)

ぞれがアイディアに富んだ非常に多様なものとなっているが,このカールス ルーエの多世代ハウスの一例を見るだけでも,子どもから高齢者,障害者,

外国人を対象とした活動まで,包括的な活動を一つの施設のなかで展開して いることがわかる.

 またここでの興味深い試みの一つに,若者と高齢者のための多世代共生型 住居の建設がある.日常生活において様々な世代が顔を合わせ,身近に頼れ る人がいるよう,また何か困ったことや共同で行いたいことがあれば,多世 代ハウスに来て助けを借りながら生活できるようとの思いから,10~12戸を 現在多世代ハウスの隣に建設中である.住まいの身近に,家族以外に頼れる 人がいることが大切であり,様々な立場の幅広い世代の人々が,同じ場所で 互いに助け合いながら生活できることを目的とした,今日の家族の多様化に 対応した試みである.20代から80代まで40名以上の入居希望者がおり,需 要が多いため新たな建設も考案しているという.

 もともとボランティアから始まった活動であるため,補助金への期待はそ れほど大きくなく,自分たちで出来る限りのことを続けていくという精神で いるという.今後の課題として,地域や利用者のその時々の需要や希望にで きるだけ応え,様々なサービスや活動を調整しながら展開していくことが挙 げられている.

 (2) Nachbarschaftshilfe(隣人援助)Taufkirchen(ミュンヘン)の活動事例  バイエルンは多世代ハウスの数が最も多い州であり,現在82ヶ所で活 動を展開している.このミュンヘンの多世代ハウスは1970年代から続く

「Nachbarschaftshilfe Taufkirchen」(NPO)が母体となり,当初より「多世代の連 帯」を目的とした活動を行ってきた.その活動は多世代ハウスプロジェクトの 理念ともマッチし,2008年から多世代ハウスとして始動している.多くの住宅 が立ち並ぶ一角に,緑に囲まれた二階建ての比較的大きな建物として多世代ハ ウスが建っており,すぐ近くには小学校があり,多世代ハウスの横にはグラウ ンドが広がっている.

(28)

 正規職員,ボランティア,ミニジョブ3)など合わせて200人ほどが施設で の仕事に携わる.利用者は1日平均120人ほどであり,内設された保育園に 通う3歳以下の子どもが約30人,学童が約40人と比較的子どもの数が多く,

日中ケアから終日ケア,週末や休暇中のケアまで,柔軟な対応を行っている.

また,定期的に開催しているイベントでは,昨年1年間で1,600人ほどの参 加があったという.

 活動内容は幅広い世代を対象として多岐にわたるが,そのなかのいくつか を取り上げる.

 ・高齢者支援

 ここでは,多世代ハウスでの専門ケアサービスや宿泊ケア,訪問ケアサー ビス,認知症ケア,家事サポート,家族介護者支援など,要介護高齢者のた めの多くの支援を継続的に行っている.このほか,遠足やスイミング,チェス・

ゲーム大会,歌講座,共同での物作り,縫物・編物講座,記憶力トレーニン グなど,スポーツや健康に関する活動,その他様々な余暇活動が展開されて いる.

 さらに第二期プロジェクトでは,高齢者の他者との繋がりの構築により力 を入れ,高齢者とパートナー関係を結び,定期的に時間を共に過ごし長期に 関係性を築いていく「高齢者のための時間」というプログラムを推進している.

これは多世代ハウス設立当初から行っている青少年のコーチングプログラム から派生したもので,子ども達が家庭環境に関係なく健やかに成長できるよ う,家族以外の大人が子どもとパートナー関係を築き,一人ひとりに寄り添 いながら長期的に成長を見守っていくというものである.近くに基幹学校が あることから,地域の高い需要により始められたこの試みは,以前は8,9年 生(14~15歳)以上を対象としていたが,現在では12歳以上を対象に,コー

3) ミニジョブとは,月額賃金が一定以下の雇用の場合(賃金の上限は450ユーロ),ミニジョブ

従事者は社会保険への加入義務が免除されるもので,低賃金労働市場における雇用促進を図る ことを目的とする制度である.

(29)

チングにあたる世代も65歳までより幅広く拡大している.現在はこのコーチ ングプログラムに関心を寄せる企業との支援ネットワークも順調に拡大して いる.

 ・トルコ人との融和

 こちらも多世代ハウスで生まれたプロジェクトの一つであり,毎週女性限 定で「トルコ風朝食の会」という催しを行っている.トルコの女性は,日頃 外の環境に出る機会があまりないため,外の世界で関係を築くためのステッ プを作りたいという思いから始まった.現在ではドイツや他の国の人も集う 場となり,インターナショナルなトルコ朝食会へと変わりつつあるという.

このほか,近隣のイスラム教会やトルコのNPO組織などとも定期的に連携し 融和活動を進めるとともに,トルコ人以外の従業員への異文化理解のための 研修を行うなど,移民の背景を持つ人々の社会参加の場,そして異文化の共 生を図る場となるよう努めている.今後はこのような助け合いの輪が,多世 代ハウスを超えてトルコ人コミュニティにおいて自発的に広がるよう,相互 扶助のきっかけ作りをしていくことが目標となっている.

 ・第一期プロジェクトへの評価

 5年間のプロジェクトを終え,まずプロジェクト参加のメリットとして挙 げられているのは,多世代ハウス同士の定期的な集まりや政府の専門エージェ ンシーなどを通じて,専門的な情報交換や共同での活動を行うことができた ということ,またそれにより,様々な新しいアイディアへの挑戦を可能にし たという点である.ネットワークの輪を広げることが,活動の継続と発展の ための重要な要素となる.一方,政府の財政支援を受けるにあたり,その手 続きの際にかかる費用や労力の面での問題も聞かれた.また,政府の最終的 な目標は公的な支援から相互支援への自立にあるが,社会的活動として支出 に見合った収入を得られないものもあるため,自立に向けていかに運営を継 続させていくかが,今後の課題の一つであるとされている.

(30)

 (3) Brunhilde-Baur-Haus(カールスルーエ)の活動事例

 Baur-Hausとよばれる財団を母体とし,主に青少年支援を中心とした活動を 行ってきたが,2006年より多世代ハウスとして活動を行っている.かつて新聞 社であった場所を改築した建物は,訪れた多世代ハウスのなかでも最も大きい.

 ・若者と母親への支援

 ここでは広い敷地を利用し,若者が職業訓練を行う場として地下に大規模 な調理場を設け,日々多くの学生に利用されている.さらに内部にはアパー トメントも併設され,特に若くして子どもを産んだ母子家庭など,経済的な 問題を抱える家族への住居の提供を支援しており,市への申請により無料で の居住が可能となっている.ここでは,働く母親や子育て世代をサポートす るための多くのサービスを提供しており,全日制保育園や代理祖父母制度な どの育児支援,「Mütter Café」や「Eltern Café」での子どもを持つ母親たちの 集いの機会,子どもの教育に関する専門家による定期的な講演会の実施など,

育児を孤独に行わなくても良いよう,子育て世代を応援するための様々な活 動が準備されている.

 ・高齢者支援

 一度目の訪問時には実際のケアは行われておらず,ディアコニーや市の高 齢者福祉局と連携して介護に関する情報提供を行うのみであったが,現在で は認知症高齢者へのケアと家族介護者への支援のためのいくつかの活動を新 たに取り入れている.また,他の世代との交流においては,週に一度は若者 と高齢者の交流の場が設けられ,毎回20~30人ほどが集まるという.ボラン ティアとして高齢者が保育園へ出向いて本の読み聞かせを行うこともあり,

世代を超えた交流も活発である印象を受ける.

 ・第一期プロジェクトへの評価

 ここでは敷地の広さを活用して様々な設備を完備することで,保育園に通 う子どもから職業訓練生,子育て世代,高齢者,アパートメントで暮らす家 族など,様々な立場の幅広い世代の人々が集い,互いに顔を合わせ,そのな

(31)

かで自然と関係性が構築されていっているという.しかし,第一期プロジェ クト当初は,建物の外観からは一見多世代ハウスとは結びつきにくく,認知 されるまでに少し時間がかかったといい,人々が集うための空間作りの工夫 の重要性が聞かれた.また,成功している多世代ハウスなどでは,例えば

Offener Treffの場合,食卓からはキッチンで食事を作る人の姿が見え,昼食時

間帯にはおいしそうな香りが漂い,皆が自然に集まってくるような,家庭的 な雰囲気を作り出すことに成功しているところが多いという.ここでは特に,

Offener Treffなど食卓を囲む場での温かい雰囲気の醸成を心がけているとい

う.

 また,第二期プログラムに入り,政府の財政支援に占めるEUによる支援 の割合が増加していることと関連し,高齢者介護や外国人の融和,失業対策 としての職業支援など,いくつかのテーマに関する活動面での実施に関して,

多世代ハウスプロジェクトへのEUの要請が強化されたことが挙げられた.3 年間の支援プログラムが終了する2015年以降は,政府の介入をできるだけ限 定し,市や州,企業などとの連携を強化しながら多世代ハウスのコンセプト を継続していく方向性への展望が聞かれた.

 (4)  Diakonische Hausgemeinschaften(ディアコニーの家)(ハイデルベルク)

の活動事例

 この多世代ハウスでは,子どもから高齢者,障害者まで世代や属性を超え た包括的なケアの実行を図るとともに,受け入れ先のない人々を支援するこ とを目的に,1990年よりボランティア活動として始動し,2007年より多世代 ハウスとして活動している.

 1日の平均利用者数は約100人,スタッフ数3人,ボランティア数約100人と,

こちらもボランティアの参加が非常に多い.

 ここの特徴として,障害を抱える人々とその家族への支援に特に力が入れ られており,様々な障害を抱えた人々が利用している.隣にはアパートメン トが併設され,そこで生活しながら,必要や希望に応じて好きな時に多世代

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