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家族と宗教 ――「世界価値観調査(

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(1)

家族と宗教

――「世界価値観調査(World Values Survey)」データの分析――

真 鍋 一 史

**

Wolfgang JAGODZINSKI

***

!.はじめに

――研究の目標・経緯・成果――

1.研究の目標

近年、価値あるいは価値志向(価値観)という テーマが、新しい様相の下に、再び活発に論じら れるようになってきた。とくに欧米諸国において は、価値志向というテーマはきわめてアクチュア ルな問題となっている。それは欧米諸国では宗教 が人びとのなかに深く根をおろし、その価値志向 を強く規定してきたが、世俗化(secularization)

の波とともに、そのような価値志向のあり方に大 きな変化が出てきたからにほかならない。日本の 宗教は、伝統的に西欧諸国のそれとは大きく異な る。そこで、西欧諸国のなかから一つの事例とし てドイツを取りあげ、価値志向については宗教と 家族というトピックスを選び、その両者の関係に 焦点を合わせて、それを日本の場合と比較するこ とを試みる。さらに、このテーマの探求を通し て、国際比較の方法論の開発も試みる。

2.研究の経緯

この研究は、真鍋が関西学院大学特別研究期間 の制度を活用し、2000年度春学期、ドイツ・ボン 大学に客員教授として滞在したときに始まる。共 同研究者のWolfgang Jagodzinski教授(ケルン大 学実証社会調査中央アーカィヴ所長、ケルン大学 応用社会調査研究所所長)とは、すでに国際比較 調査の世界の双璧の一つとでもいうべきInterna- tional Social Survey Programme: ISSP(「国際社会 調査プログラム」)での活動を通して親しくなっ

ており、お互いに問題関心と方法論を同じくする ことが確認されていたので、ボンとケルンとの距 離が近いということがJagodzinski教授と共同研 究を始める直接の契機となった。共同研究の内容 は以下のとおりである。

共同研究の成果は「理論的な部分」と「実証的 な部分」に分けられる。まず理論的な研究成果 は、(1)宗教社会学の先行研究にもとづくドイ ツと日本の宗教現象の比較、(2)宗教の道徳へ の影響の分析枠組の検討、(3)宗教の家族への 影響の分析枠組の検討、の三つの部分からなる。

つぎに実証的な研究成果は、このような理論的 考察から演繹的に導き出される「家族と宗教」の 関係に関する諸仮説を前述のISSPの1998年度の 宗教調査データを用いて検証しようとしてなされ たデータ解析の結果である。

前者の理論的な研究成果は『関西学院大学社会 学部紀要』に「家族と宗教――価値志向の視座か ら――」(第88号、2000年10月)と い う テ ー マ で、また後者の実証的な研究成果は『NHK放送 文化調査研究年報』に「ドイツと日本における家 族志向と宗教――ISSP宗教調査データの分析―

―」(第45集、2000年12月)というテーマ で、そ れぞれ発表してきた。さらに後者の英語版は、

2001年6月2日から6日にわたって、スウェーデ ン・ウメアのプラザ・ホテルにおいて開催された 2001年度のISSPのリサーチ・セッションにおい て「Family Values and Religion in Germany and Japan: An Analysis of ISSPData」と題して発表 し、そ の 発 表 原 稿 は 関 西 学 院 大 学 の『Kwansei Gakuin University Social Sciences Review』(Vol.

6,2001年12月発行)に掲載予定である。

キーワード:家族、宗教、世界価値観調査

**関西学院大学社会学部教授

***ドイツ・ケルン大学教授、実証社会調査中央アーカィヴ所長、応用社会調査研究所所長

March

(2)

3.本年度の研究の成果

真鍋は、2001年度関西学院大学国際共同研究交 通費補助を得て、4月下旬、再びケルン大学を訪 れ、Wolfgang Jagodzinski教授との国際比較共同 研究を継続することが可能となった。研究内容は 以下のとおりである。

ドイツと日本では、同じ宗教という用語を使い ながらも、その「内容」は大きく異なるものとい わなければならない。この命題は、つぎの二つの 側面からその検証作業が進められるであろう。一 つは宗教についての人びとの「考え方・感じ方・

行動の仕方」というその「意識形態」の側面であ り、もう一つは宗教をめぐる「制 度・組 織・構 造」というその「存在形態」の側面である。

では、それぞれの側面について、どのような命 題が考えられるかというと、まず前者について は、「ドイツの宗教が排他的(exclusive)である のに対して、日本の宗教は排他的でない(non-

exclusive)」というのがある。具体的にいえば、

ドイツで宗教といえば、それは「どの宗教にもコ ミットしない」か、それとも「どの宗教にコミッ トするか」の、どちらかの選択ということにな る。ところが日本では多くの場合、「一人の人間

(または家族)が同時あるいは交互に複数の宗教 の儀式に参加する」(『対訳 日本事典』講談社イ ンターナショナル、1998年、p.481)。

つぎに後者については、「ドイツの宗教に比べ て日本の宗教の組織化のレベルは低い」という命 題がある。具体的にいえば、ドイツの宗教がカト リック教会とプロテスタント教会に高度に組織化

(organized)されているのに対して、日本の宗教 は「多くの小さな宗教団体に分かれている」(石 井研士『データブック現代日本の宗教』新曜社、

1997年、pp.101―122)。

さて、前者の命題の検証のためにはいわゆる

「意識調査」が、そして後者の命題の検証のため にはいわゆる「実態調査」が要請されることにな る。今回の共同研究の実施期間おいては、後者に

ついてはJagodzinski教授がすでにヨーロッパの

国ぐにを対象に実施した「調査票(質問紙)」を 日本との比較という視座から再検討するという作 業を行い、前者についてはISSPの宗教調査の日 本のcountry specific itemsを用いて日本人の宗

教 心(religiosity)を 捉 え る 独 自 の イ ン デ ィ ケ ー ターズの作成を試みる作業を行うとともに、前述 の理論的諸仮説を米国ミシガン大学のR. Ingle- hart教授が主宰する「世界価 値 観 調 査(WVS)」 の1990年度調査データを用いて検証する作業を進 めた。

今回、以下において報告するのは、この最後に あげた検証作業の結果である。すでに述べきたこ とから明らかなように、われわれの問題関心は、

現代にあって宗教は人びとの家族志向(家族にか かわる態度・意見・行動)にどのような影響を与 えているのであろうかということである。このよ うな問題関心に立つ日本とドイツの比較について の仮説は、ドイツ――とくに西ドイツ――ではそ れが小さくなりつつあるにしても、宗教は相変わ らず人びとの家族志向に影響を与え続けているの に対して、日本ではそのような影響はほとんど見 られないであろうというものである。以上の問題 の立て方から明らかなように、われわれは家族志 向に関する質問諸項目を従属変数、宗教に関する 質問諸項目を独立変数としてデータ解析を試みよ うとしているのである。まず、従属変数の分析か ら始めたい。

!.家族にかかわる態度・意見・行動

ここで「家族にかかわる態度・意見・行動」と いったものについて検討する場合、われわれは

「標 準 的 な 家 族 モ デ ル(the standard family

model)」とでも呼ぶべきものの構成要素(con-

stitutive elements)を考える。それは両親と子ど もを中心とをする家族構成員の相互の「よい」関 係にとって「重要」と考えられるすべての特性を 含むものである。いうまでもなく、ここで「よ い」関係とか、「重要」というのはきわめて主観 的なものであり、その意味で「標準的な家族モデ ルの構成要素」というのは、まさにある時代と社 会の多くの人びとによって共有される規範意識で あり、集合意識といえる。

さて、「標準的な家族の構成要素」をこのよう なものとして理解しておくならば、それについて は日本とドイツで、それぞれの歴史社会的状況を 反映してかなりの相違点が見られるのではなかろ

第 91 号

(3)

うかと考えられる一方で、いわゆる国際化の進展 にともなって両国にかなり共通点も出てきている のではなかろうかとも考えられる。これが日本と ドイツを比較する問題関心の一つである。

ところで、以上のような「家族モデル」も、も はや現実には必ずしも統計的な意味での「多数の 人びとに」よって共有されるわけではない場合も あるので、以下ではそれを「伝統的な家族モデル

(the traditional family model)」と呼ぶことにす る。ここで「伝統的」という用語は、否定的ある いは批判的な意味で――例えば「時代遅れの」と か、「前近代的な」とかと同じ意味で――「価値 を含めた」用語として使っているわけではない。

むしろ、単に少なくとも1960年代までの家族観の モーダル(modal)なパターンを記述するための

「価値自由な」(M. Weber)用語として使用して いるのである。

1.結婚歴(marital status)

ここでは、調査票のデモグラフィック変数を用 いて、回答者の結婚歴について検討する。

「伝統的な家族モデル」からすれば「結婚」と いう形態のみが社会的に承認された男女の結合関 係いえる。したがって、「死別」は仕方のないも のとしても――しかし、その場合においても、い つまでも「やもめ」でいるのはよくないという社 会規範があった――、「同棲」「別居」「離婚」と いう形態は社会的に容認されるものではない。こ こでは、日本とドイツの調査対象者――どちらの 国においてもサンプルの抽出には何らかのランダ ム・サンプリングの手法が用いられているので、

調査対象者は母集団を統計的に代表するものと考 えられる――が、このモデルに適合した行動を とっているかどうかを検討するのである。そのた めに、人びとのライフステージにしたがって――

現代社会では人びとの多くが20代までに「養育 期」と「就学期」を終え、その後の「就労期」に 結婚し、新しい家庭を持つという事実に鑑みて―

―三段階の年齢区分がなされた。表1の「18歳か ら34歳」「35歳から54歳」「55歳以上」という区分 がそれである。

さて、「伝統的モデル」からすれば、この年齢 区分の最初の段階においては、「結婚」か、「独

身」か、の二つの形態だけが認められるものであ る。このモデルに照らして、表1の18歳から34歳 までの段階を検討してみるならば、少なくともつ ぎのような点が指摘されよう。

①「結婚」と「独身(結婚していない)」の合 計 は 日 本99.0%、東 ド イ ツ85.6%、西 ド イ ツ 82.2%で、その割合はドイツに比べて、日本のほ

うで高い。

②「同棲」――日本語版の調査票では「事実上 の結婚生活を送っている」、英語版の調査票では Living as married という表現が用いられている

――は日本ではまったく数字に出てこないのに対 して、ドイツでは西ドイツが14.5%、東ドイツが 10.5%とかなりの割合となっている。

③「別居」と「離婚」の合計は、日本が1.0%

に と ど ま っ て い る の に 対 し て、東 ド イ ツ は 3.6%、西ドイツは2.9%で、ドイツのほうがやや

表1 結婚歴

ドイツ 日本

西 東

<18〜34歳>

結 婚 死 別 独 身 同 棲 別 居 離 婚

28.6%

0.4%

53.6%

14.5%

0.3%

2.6%

54.9%

0.2%

30.7%

10.5%

0.2%

3.4%

40.5%

― 58.5%

― 0.3%

0.7%

<35〜54歳>

結 婚 死 別 独 身 同 棲 別 居 離 婚

78.0%

1.4%

6.7%

4.8%

2.0%

7.2%

80.5%

1.8%

6.7%

6.1%

0.2%

4.7%

93.2%

0.9%

2.8%

1.9%

0.2%

1.1%

<55歳〜>

結 婚 死 別 独 身 同 棲 別 居 離 婚

58.9%

30.1%

4.2%

2.6%

0.5%

3.8%

51.7%

34.5%

6.0%

2.1%

― 5.7%

85.9%

8.1%

1.3%

3.4%

0.4%

0.9%

統計年鑑の離婚率

(1990年) 1.94 1.27

0年度の人口10人に対する1年間の離婚者数 資料

Federal Statistical Office Germany, Statistical Yearbook for the Federal Republic of Germany, 2000

March

(4)

表2 家族志向――家族の重要性の意識と家庭に対する満足感――

A.家族の重要性の意識

ドイツ 日本

西 東

「非常に重要」の%

平均(「非常に重要」=1

「まったく重要でない」=4」)

70.8%

1.36

84.5%

1.20

78.4%

1.24

男性 女性

1.39**

1.32

1.23***

1.17 1.25 1.22 戦前

戦後

1.27**

1.44

1.15***

1.23 1.24 1.23

「家族」か、「仕事」か 平均値の差

プラス :家族がより重要 マイナス:仕事がより重要

0.55 0.29 0.54

男性 女性

0.41**

0.68

0.19***

0.37

0.34***

0.73 戦前

戦後

0.70**

0.42

0.35***

0.23

0.49 0.58

:<0.0、**:<0.5、***:<0.

高くなっている。

つぎに、「伝統的な家族モデル」は、人びとは

「就学期」の後に「就労期」を迎え、結婚生活に 入ることを要求している。この段階ではもはや

「独身」も容認されるものではない。表1の35歳 から54歳までの段階を検討するならば、以下のよ うな点が知られる。

①「独身」の割合は日本が2.8%、西ドイツ、

東ドイツとも6.7%で、ドイツのほうがやや高い。

②「結婚」は日本が93.2%までを占め、西ドイ ツの78.0%、東ドイツの80.5%に比べて、きわめ て高い割合となっている。

③「同棲」「別居」「離婚」の合計は日本が3.2%

にとどまるのに対して、西ドイツでは14.0%、東 ドイツでは11.0%とかなりの割合となってとい る。

さらに、「18歳から34歳」「35歳から54歳」の年 齢区分において見られた日本とドイツの相違点 は、表1の「55歳以上」のところでも同じように 見ることできる。「伝統的な家族モデル」からし て問題のある形態と考えられるもの――「独身」

「同 棲」「別 居」「離 婚」――の 割 合 が 日 本 で は 6.0%に と ど ま る の に 対 し て、西 ド イ ツ で は 11.1%、東ドイツでは13.8%となっているからで

ある。

最後に、統計年鑑の離婚率と調査対象者の回答 結果(%)との比較についても触れておかなけれ ばならない。ドイツの場合は、統計年鑑の数値よ りも調査対象者の回答結果の数値の方が高い。そ れは統計年鑑の数値が単に1990年度の人口(1000 人)に対する1年間の離婚者数の割合を報告する ものに過ぎないことによると考えられる。いうま でなく、調査対象者は1990年以前にさかのぼって 離婚の経験を答えるからである。しかし統計年鑑 の数値が、離婚率は日本に比べてドイツのほうで 高いという表1の知見を裏書するものであること は論を待たない。

以上からするならば、人びとのライフステージ のどの段階においても、日本の回答者はドイツの 回答者に比べて、「伝統的な家族モデル」により 適合的であるといわなければならない。

2.家族志向

A.家族の重要性の意識

ここでは、家族の重要性をつぎの二つの側面か ら検討していきたい。①家族は重要かどうかとい う質問項目への回答、②家族と仕事のどちらがよ り重要かという質問項目への回答、という二つが それである。

まず、①家族は重要かどうか、についての結果 は表2Aの上段に示されている。「非常に重要」

という回答の割合は東ドイツの84.5%、日本の 78.4%、西ドイツの70.8%という順位となってい る。日本と西ドイツを比べた場合の日本の家族志 向(family orientation)の高さについては、これ は仮説どおりの結果といえる。ところが東ドイツ の%の高さについては別の仮説が必要となる。こ こでは「統一(unification)前の政治・社会シス テムに対する全般的な不満と、統一時期の社会的

・経済的なさまざまなストレスが、最も基本的な 人間関係としての家族の重要性の意識を増大させ た」という仮説を提示しておきたい。

このような「%の大きさ」によって捉えられる のと同様の傾向が、同じ表のなかでその%表示の 下に示されている「平均値」(mean values)の結

第 91 号

(5)

B.家庭に対する満足感

ドイツ 日本

西 東

家庭に対する満足感(1:−−、10:++)

生活の対する満足感 仕事に対する満足感

7.45 7.22 7.17

7.43 6.75 6.72

6.94 6.53 6.51 家庭に対する満足感

男性 女性

7.44 7.45

7.51 7.36

6.83 7.05 家庭に対する満足感

戦前 戦後

7.55**

7.35

7.67***

7.21 6.99 6.90

:<0.0、**:<0.5、***:<0.

果にも現れている。平均値が小さくなるほど、家 族の重要性の意識は高くなる。国(あるいは地 域)ごとに差は見られるものの、概して家族の重 要性の意識は高く、こうして現代における「家族 の崩壊」というとい言説の広がりにもかかわら ず、家族という「集団・制度・関係」の重要性は やはり否定すべくもない。

つぎに、!「家族」か、「仕事」か、について の結果が同じ表の下段に示されている。数値は平 均値の差を示したものであるが、それらがすべて プラスであるところから、どの国(地域)におい ても「仕事」よりも「家族」のほうが重要と判断 されたことがわかる。しかし、それと同時に、国

(地域)ごとの差については、東ドイツにおける 数値の小ささ――つまり家族も重要だが仕事も重 要という意識の現われ――は注目される。再び仮 説的にいえば、これは統一後の東ドイツにおける 仕事の獲得の不確実性(insecurity)を反映して いる。「仕事の獲得の確実性が小さくなるほど、

仕事の重要性の認識は高まる」と考えられるから である。

さらに、以上の①と②の二つの傾向について、

それぞれ性差と世代差も検討してみた。その結 果、①については、ドイツでも日本でも、女性は 男性よりも家族志向が強く、戦前世代は戦後世代 よりも家族志向が強いことがわかる。しかし、い ずれの場合も統計的な有意差(significant differ- ence)はドイツにおいては見られるものの、日 本においては見られない。

②についても、同様に、仕事の重要性と比べた 場合の家族の重要性は、男性よりも女性で高く、

戦後世代よりも戦前世代で高いということ、統計 的な有意差はドイツでも日本でも見られること、

がわかる。

B.家庭に対する満足感

ここでは「平均値」によって、満足感の高さが 示されている。国際比較のために取りあげる領域

(domain)は「家 庭(home life)」で あ る が、別 の 領 域 と の 比 較 の た め に「生 活(life as a whole)」と「仕 事(job)」も 併 せ て 検 討 し て み た。表2Bの結果から、家庭に対する満足感はド イツ(西ドイツと東ドイツで差はほとんどない)

に比べて日本で低い。ここで「家庭に対する満足 感」を検討するねらいは、この項目が価値志向

(value orientation)としての家族志向という「理 論変数」に対する「経験変数」の一つ(いうまで もなく「家族の重要性」という項目がもう一つの それ)を構成するであろうと考えたからにほかな らない。ところが、ここでは「家族の重要性」の 場合とはまったく異なる結果が出てきた。繰り返 しになるが、家族の重要性の判断では日本の回答 は仮説どおり相対的に高いものとなったが、家庭 の満足感ではそれが一転して相対的に低い結果と なったのである。こうして、この項目の経験変数 としての妥当性(validity)という問題が出てく ることになる。この問題を検討するための一つの 手がかりが、「家庭」以外の領域、つまり「生活」

「仕事」の場合との比較という視座である。いず れの国(地域)においても、この三つの領域での 満足感の「平均値」を比較するならば、それは

「仕事」→「生活」→「家庭」という順で大きく なっている。どの国(地域)においても、家庭に おける満足感の「平均値」が高い。この点は国

(地域)を超えて見られる共通点である。ところ が、国(地域)で比較してみるならば、日本はど の領域をとっても満足感の「平均値」が最も低 い。なぜそうなのかということに関しては、いく つかの仮説が立てられるであろう。

①日本人は幸福や満足の感情(feelings)をス トレートに表現しない。いつもどこか「抑えた」

感情表現に終始する。たとえば、「めでたさも、

中ぐらいなり、おらが春」(小林一茶)というのも、

March

(6)

表3 子ども志向――実際の子どもの数と理想的な子どもの数――

ドイツ 日本

西 東

A.実際の子どもの数 1.37 1.62 1.69 男性

女性

1.25***

1.48

1.54**

1.70 1.68 1.70 戦前

戦後

2.01***

0.76

2.01***

1.28

2.25***

1.27 B.理想的な子どもの数 2.20 2.06 2.77 男性

女性

2.14**

2.25

1.99**

2.11 2.79 2.75 戦前

戦後

2.31***

2.09

2.18***

1.95 2.83 2.73

:<0.0、**:<0.5、***:<0.

このようなコンテキストにおいて理解される。そ れは儒教思想の影響といえるかもしれない。

②日本人はさまざまな領域で、そもそもそれに 対する期待のレベルが高い。満足感というもの は、その期待が現実にどのくらい満たされるかに よって決まってくる。期待のレベルが低いと現実 はさほどのものでなくても、満足度はまあまあの 高さとなる。ところが逆に期待のレベルが高いと 現実がかなりのものであったとしても、満足度は どうしても低いものにとどまる。この期待値の高 さこそが日本の近代化の最も重要な要因であった といえるかもしれない。

いうまでもなく、このような諸仮説の検証のた めには、そのための別の研究プロジェクトが要請 されることになる。

さて、つぎに家庭に対する満足感についても、

性差、世代差を検討した。統計的な有意差の見ら れる結果だけにかぎっていうならば、日本では女 性のほうで満足感が高く、ドイツでは戦前世代の ほうで満足感が高い。

3.子ども志向

い う ま で も な く、「伝 統 的 な 家 族 モ デ ル」に とって、子どもはほとんど不可欠の要素である。

ここでは、この点を①実際の子どもの数、②理想 的な子どもの数、という二つの側面から検討して いきたい。

A.実際の子どもの数

質問紙調査という方法で捉えた「実際の子ども の数」の平均値は、西ドイツ(1.37人)→東ドイ ツ(1.62人)→日本(1.69人)の順で大きくなっ ている。

性差については、西ドイツと東ドイツにおい て、男性に比べて女性のほうで平均値が高く、世 代差については、西ドイツ、東ドイツ、日本のい ずれにおいても、戦後世代に比べて戦前世代のほ うで平均値が高い。

B.理想的な子どもの数

理想的の子供の数の平均値は、いずれの国(地 域)においても、実際の子どもの数のそれよりも やや大きくなっており、それも東ドイツ(2.06 人)→西ドイツ(2.20人)→日本(2.77人)とい う順で大きくなっている。

性差、世代差については、西ドイツと東ドイツ で女性、そして戦前世代のほうで平均値が高く なっている。

以上から、子どもの数という面では、日本の

「伝統的な家族モデル」への適合性が高いことが わかる。

4.家庭教育の目標

表4 家庭教育の目標

重要性 ドイツ 日本

西 東

責任感 84.9% 83.8% 84.3%

礼儀正しさ 66.1% 66.5% 82.7%

自主性 73.5% 66.5% 64.5%

寛容性 76.7% 74.3% 59.5%

決断力 49.4% 53.8% 58.9%

節約心 44.7% 58.2% 40.3%

想像力 32.7% 28.4% 24.0%

勤勉さ 14.3% 15.9% 30.6%

公平さ(非利己的) 7.7% 8.5% 44.0%

従順 22.0% 24.3% 10.1%

信仰心 19.3% 16.2% 7.0%

第 91 号

(7)

表4は、ここにあげられている11の項目のなか から、回答者が家庭教育の目標として最も重要と 考えるものを5つまで選んでもらった結果を示し ている。%の順位という点からするならば、ドイ ツと日本にはかなりの類似点(いわば「共通化」

の方向)も見られるものの、やはりそれと同時に 相違点(いわば「個別化」の方向)も見られる。

ここで相違点に注目するならば、つぎのような傾 向が指摘されよう。

・「礼儀正しさ」は日本で高く評価されてい る。

・「自立性」と「寛容性」はドイツ(とくに西 ドイツ)で高い。

・「決断力」は日本でやや高い。

・「勤勉さ」と「公正さ(非利己的)」は日本 で高い。

・「従順さ」と「信仰心」はドイツで高い。

以上のような家庭教育の目標について見られる ドイツと日本の相違点は、いわゆる「家庭・家族 の価値(family values)」を反映したものと考え ることができよう。

5.性役割意識

「伝統的な家族モデル」には「固定化された性 役割(fixed gender role)意識」という要素も含 まれる。このような性役割の意識(=理論変数)

を捉えるために、「世界価値観調 査」(WVS)で はつぎの三種類の質問項目(=経験変数)が準備 されている。

「もしある女性が、子どもは欲しいが、特定の 男性と永続的な関係は持ちたくない、つまり未婚 の母でありたいといったとします。あなたはそう いう考え方を認めますか、それとも認めません か。」(Q55)

「就学前の子どもは、母親が働きに出ると傷つ きやすい。」(Q56B)

「家庭の主婦であることはお金のために働くの と同じくらい充実している。」(Q56D)

「①未婚の母が子供を育てる」ことに反対し、

「②母親が外で働く」ことに(子供が被害者にな るとして)反対し、「③主婦としての女性のあり

方」に賛成するというのが、「伝統的な家族モデ ル」の考え方である。このような視点から、ドイ ツと日本を比較するならば、①と③の項目では日 本はドイツに比べて伝統的という結果が示されて いるが、②の項目では逆にドイツのほうが伝統的 という結果になっている。ここで再び「理論変 数」に対する「経験変数」の妥当性の再検討とい う問題が出てくる。この点についての詳細な検討 は、暫くおかざるを得ないが、国際比較研究のメ リットの一つとしての、このような概念の再検討 の機会という点は忘れることができない。

つぎに、それぞれの項目ごとの、性差、世代差 ということについては、①では日本で男性が伝統 的、いずれの国(地域)でも戦前世代のほうが伝 統的といえる。②では西ドイツで男性が伝統的、

いずれの国(地域)でも戦前世代のほうが伝統的 となっている。③では東ドイツで男性が伝統的、

いずれの国(地域)でも戦前世代のほうが伝統的 という結果になっている。

表5 性役割意識

ドイツ 日本

西 東

A.未婚の母

(1=賛成、3=反対) 2.12 1.98 2.31 男性

女性

2.11 2.13

2.00 1.96

2.41***

2.23 戦前

戦後

2.33***

1.93

2.07***

1.90

2.55***

2.14 B.母親が働きに出ると

子どもは傷つきやすい

(1=非常に賛成、4=非常に反対)

1.85 1.95 2.19

男性 女性

1.81**

1.88 1.91 1.98

2.19 2.19 戦前

戦後

1.73***

1.96

1.87***

2.02

2.07***

2.27 C.主婦としての女性のあり方

(1=非常に賛成、4=非常に反対) 2.41 2.71 2.01 男性

女性

2.40 2.42

2.66 2.75

1.98 2.03 戦前

戦後

2.17***

2.65

2.52***

2.88

1.90***

2.10

:<0.0、**:0.5、***:<0.

March

(8)

表6 離婚に対する態度

ドイツ 日本

西 東

離婚に対する一般的な態度

(1=反対、10=賛成) 5.74 5.01 4.99 男性

女性

5.81 5.63

5.11 4.93

4.76 5.11 戦前

戦後

4.81***

6.59

4.33***

5.62

4.31***

5.40

:<0.0、**:<0.5、***:<0.

6.離婚に対する態度

離婚に対する「肯定」「否定」の一般的な態度

(general attitude)を尋ねた結果が平均値という 形で表6に示されている。いずれの国(地域)に おいても平均値は中点(mid-point)に近く、離 婚を許容する(acceptable)意識の浸透が知られ るが、より詳細に見ていくならば、その許容意識 は 日 本(4.94)→東 ド イ ツ(5.01)→西 ド イ ツ

(5.74)いう順に高くなっている。どちらかとい えば日本は伝統的という方向に位置づけられる。

つぎに、その性差については、ドイツと日本で 差があり、ドイツでは男性のほうが許容的ある が、日本では逆に女性のほうが許容的である。

さらに、世代差については、どの国(地域)に おいても戦後世代のほうが許容的といえる。

7.妊娠中絶に対する態度

妊娠中絶という問題については「一般的な態度

(general attitudes)」と「特殊的な態度(specific

attitude)」の両方の側面から質問がなされ て い

る。いうまでもなく、この両者の側面の区別は、

いわゆる「態度構造論――とくに、ここでは態度 間構造――」のアイディアに立つものである。

A.一般的な態度

一般的な態度の側面についていえば、日本に比 べてドイツのほうがより許容的である。この点 は、日本における①バース・コントロールの歴史 と、②妊娠中絶の実際の数、という事実に鑑み て、やや意外に思われるかもしれない。しかし、

それもつぎの「特殊的な態度」との関連において 検討するならば、より納得しやすいものとなる。

そのような意味でも、「一般的な態度」と「特殊 的な態度」を区別するこのような経験変数の操作 化の試みは重要といわなければならない。

また、性差、世代差という点では、ドイツで男 性のほうがより許容的、どの国(地域)でも戦後 世代のほうがより許容的という傾向が見られる。

表7 妊娠中絶に対する態度 A.一般的な態度

ドイツ 日本

西 東

中絶に対する一般的な態度

(1=反対、10=賛成) 4.35 4.57 3.71 男性

女性

4.46**

4.24

4.89***

4.31 3.76 3.67 戦前

戦後

3.56***

5.09

3.86***

5.22

3.34***

3.98

:<0.0、**:<0.5、***:<0.

B.特殊的な態度

ドイツ 日本

西 東

母親の健康 96.2% 96.3% 94.9%

男性 女性

97.4%***

95.1%

96.6%

91.1%

93.5% 96.2%

戦前 戦後

93.9%***

98.3%

94.9%**

97.6%

94.6% 95.1%

子どもの障害 80.8% 83.7% 77.4%

男性 女性

82.6%

79.2%

83.9%

83.5%

78.3%

76.5%

戦前 戦後

77.7%***

83.8%

82.5%

84.7%

75.7%

78.3%

子どもが欲しくない 30.9% 48.4% 49.8%

男性 女性

32.6%

29.4%

52.1%**

45.4%

52.3%

47.6%

戦前 戦後

23.4%***

38.0%

41.8%***

54.5%

46.1%**

32.9%

未婚の母 22.1% 17.4% 57.5%

男性 女性

23.6%

20.8%

19.7%***

5.5%

58.1%

56.9%

戦前 戦後

13.9%***

29.8%

14.6%**

19.9%

56.0%**

59.0%

:<0.0、**:<0.5、***:<0.

第 91 号

(9)

B.特殊的な態度

妊娠中絶についての特殊的な態度の側面を捉え る質問項目としては、つぎの四種類のもの(つぎ のような条件のもとでの妊娠中絶の是非を尋ねて いる質問諸項目)がある。

①母親の健康に問題がある。

②生まれてくる子供に障害がある。

③夫婦が子供を欲しいと思っていない。

④母親が未婚である。

ここでも、ドイツと日本を比較した場合、共通 点と相違点が見られる。まず、共通点としては、

条件の①と②で中絶に対する許容度(%の高さと いう集合的な意味での「度」)が高く、それに比 べて③と④ではそれが低いということがあげられ る。

つぎに、相違点としては、①と②については日 本に比べてドイツのほうで許容度が高いのに対し て、③と④については逆にドイツに比べて日本の ほうで許容度が高く、とくに未婚の母の中絶に対 してドイツでは厳しいが、日本では緩い。この点 を「一般的な態度」と関連させながら分析するな らば、「一般的な態度」ではドイツに比べて日本 の許容度のほうがやや低いものの、「未婚の母」

というような「特殊的な態度」ともなると日本の ほうの許容度が大幅に高くなる、つまり日本の回 答には、両者 の 間 に「不 一 致(discrepancy・in-

consistency)」が見られる、ということがわかっ

てくる。これは、日本において「たて ま え」と

「ほんね」という一般的用語を用いて説明されて きた広い意味での「意識の乖離現象」の一つの具 体的な事例といえるかもしれない。

性差、世代差ということに関しては、全般に性 差はほとんど見られないが、世代差では、戦後世 代はどのような条件のもとでも中絶により許容的 であるというように、はっきりとした傾向が見ら れる。

さて、以上においては、家族にかかわる態度・

意見・行動について、それを(1)結婚歴、(2)

家族志向、(3)子ども志向、(4)家庭教育の目 標、(5)性役割意識、(6)離婚に対する態度、

(7)妊娠中絶に対する態度、に分けて、ドイツ と日本の回答の傾向の比較とともに、性差、世代

差の検討も行った。最後に前者の側面にかぎっ て、もう一度、その要点をまとめておきたい。

①「伝統的な家族モデル」からして問題のある 形態と考えら れ る も の――「同 棲」「別 居」「離 婚」――の割合が日本で小さい。

②家族の重要度は日本で高いが、家庭の満足度 は日本で低い。この後者の知見は日本人の質問紙 へ回答の傾向を反映したものといえるかもしれな い。

③実際の子どもの数も、理想的な子どもの数も 日本のほうで多く、子ども志向は日本において高 いといえる。

④家庭教育の目標については、日本では「礼儀 正しさ」「勤勉さ」「公正さ(非利己的)」をあげ る割合が高い。

⑤日本では女性が働くことについては否定的で ないという一つの例外はあるものの、概して伝統 的な性役割を支持する(未婚の母という家庭を否 定する一方で、主婦としての女性のあり方を評価 する)傾向が見られる。

⑥離婚を許容するレベルは日本でやや低い。

⑦妊娠中絶に対する許容度は、「母親の健康」

と「子どもの障害」では日本はドイツよりも低 く、「子供が欲しくない」「母親が未婚」では逆に 日本がドイツよりも高い。

以上を要するに、さらに詳細に検討すべき点も 残されているとはいえ、ごくおおまかに日本はド イツに比べて「伝統的な家族モデル」により適合 的であるということができるであろう。

!.家族志向に対する宗教の影響

ここでは、以上において検討してきた家族志向

――家族にかかわる態度・意見・行動――の諸相 に対して、宗教が影響を与えているかどうかにつ いて見ていきたい。まず、宗教の変数としては

「宗 派 教 団(religious denomination)」と「宗 教 参加(religious participation)」の二つを取りあげ る。これは、この二つの変数が人びとの宗教とい う理論変数を最もよく捉えるものであるという考 察にもとづくものである。

つぎに、その影響についての検証の方法である が、ここでは「宗教」と「家族志向」という二変

March

(10)

数間の関係の検討から始める。これが第一段階の 分析である。いうまでもなく、二変数間の関係は

「擬似相関(spurious correlation)」である可能性 がある。このような擬似相関――「見せかけの相 関」――を暴き、真の相関を見出すためには、第 三の変数の導入が必要となる。第三の変数をコン トロールした上で、二変数間の関係を見るのであ る。この方法には三重クロス集計による分析にと どまらず、さまざまな多変量解析の方法がある。

これが第二段階の分析である。しかし今回の分析 は第一段階に限定し、第二段階は今後の課題とし たい。

1.宗教と結婚歴

すでに述べたように、「伝統的な家族モデル」

からして問題のある形態の二つの典型といえば、

「離婚」と「同棲」であろう。ところが、この二

つの形態の割合は日本では問題にならないほど小 さい。そこで、ドイツにかぎって、「宗派教団別」

「宗教参加度別」にこれらの形態の割合を比較し たのが表8ABである。

これらの表から、少なくともつぎのような知見 を読み取ることができるであろう。

「宗派教団」との関連でいえば、「離婚」につ いては東ドイツではカテゴリィごとに差異が見ら れないのに対して、西ドイツでは「カトリック」

と「プロテスタント」には大きな差は見られない ものの――仮説とは逆に「カトリック」のほうで やや「離婚」の割合が高いのはサンプリング誤差 によるものかもしれない――「無宗教(No De-

nomination)」と答えた回答者ではそれが平均値

のほぼ2倍近くにもとなっている。

また「同棲」については、東西ドイツのいずれ においても「カトリック」と「プロテスタント」

にほとんど差は見られないものの、「無宗教」と 答えた回答者ではその割合がとびぬけて高くなっ ている。

さらに「宗教参加」の関連でいえば、東西ドイ ツのいずれにおいても、その頻度が低くなるにつ れて、「離婚」の割合も、「同棲」の割合も高くな るという直接的な関係(linear relations)が見ら れる。そして、そのような関係も東ドイツよりも 西ドイツのほうでよりはっきりと見られる。

2.宗教と家族志向(家族の重要度)

A.宗派教団

表9 宗教と家族志向 A.宗派教団

ドイツ 日本

西 東

家族の重要性

「非常に重要」の% 70.9% 84.5% 78.5%

カトリック プロテスタント 無宗教

71.5%

(659)

73.5%

(660)

58.1%

(132)

86.2%

(193)

84.0%

(194)

84.1%

(720)

仏教 神道 キリスト教 無宗教

82.2%

(221)

72.7%

(24)

86.7%

(13)

77.1%

(508)

表8 宗教と結婚歴 A.宗派教団

ドイツ

西 東

離婚 4.4% 4.6%

カトリック プロテスタント 無宗教

4.8%

2.9%

8.6%

3.1%

5.6%

4.7%

同棲 7.4% 6.3%

カトリック プロテスタント 無宗教

5.8%

7.3%

15.1%

2.2%

3.0%

8.3%

B.宗教参加

ドイツ

西 東

離婚 4.4% 4.6%

毎週 1年に1回 1年に1回以下 まったくない

2.4%

3.4%

4.6%

7.6%

3.9%

5.3%

5.5%

4.0%

同棲 7.5% 6.4%

毎週 1年に1回 1年に1回以下 まったくない

1.6%

4.6%

10.0%

13.5%

2.2%

5.3%

5.9%

8.2%

第 91 号

(11)

B.宗教参加

ドイツ 日本

西 東

家族の重要性

「非常に重要」の% 70.8% 84.5% 78.4%

毎週 1年に1回以上 1年に1回以下 まったくない

80.6%

72.6%

70.4%

59.5%

83.6%

84.3%

84.6%

84.8%

69.2%

82.9%

76.4%

71.9%

表10 宗教と子ども志向 A.宗派教団

ドイツ 日本

西 東

実際の子どもの数 カトリック プロテスタント 無宗教

1.49 1.35 0.95

1.78 1.81 1.54

仏教 神道 無宗教

2.01 1.72 1.54 理想的な子どもの数

カトリック プロテスタント 無宗教

2.27 2.17 1.95

2.47 2.18 1.92

仏教 神道 無宗教

2.78 2.79 2.76 表9Aからドイツにおいては、「カトリック」

と「プロテスタント」に家族志向という点で差は ほとんど見られない。じつは、差が見られるの は、西ドイツの場合の宗派教団を「あげる者」と

「あげない者」においてであり、宗派教団を「あ げる者」では「家族は重要」と答える回答者の割 合が高く、「あげない者」ではそのような回答者 の割合が低い。東ドイツの場合はこのような差は 見られない。

では、日本ではどうかというと、日本の場合は

「神道(24人)」「キリスト教(13人)」をあげる者 の実数が極端に少なく、そのようなサンプルから 明確な傾向を指摘することはほとんど不可能とい わなければならない。そこで、「仏教」と「無宗 教」のみを比べてみるならば、家族の重要性の意 識が前者で相対的に高く、後者で相対的に低い―

―そして、上に述べたように、統計的な有意差の 問題はあるものの、それが「神道」で低く、「キ リスト教」で高い――ことがわかる。

B.宗教参加

宗教参加との関係では、西ドイツ、東ドイツ、

日本でまったく異なる傾向が見られる。

まず、西ドイツでは、参加度が高まるにつれ て、家族の重要性の意識も高まるという直線的な 関係が見られる。

つぎに、東ドイツでは、参加度ごとの家族の重 要性の意識にほとんど差が見られない。

最後に、日本では、参加度の最も高いところで 家族の重要性の認識が低く、参加度のレベルが低 くなるにつれて重要性の意識は逆に高くなるが、

参加度のレベルの最も低いところで、再び重要性 の意識も低くなるといういわゆるベル型(あるい は山型)の関係が見られる。

3.宗教と子ども志向(「実際の子どもの数」

と「理想的な子どもの数」)

A.宗派教団

表10Aから西ドイツ、東ドイツ、日本のいずれ においても、「実際の子どもの数」も、「理想的な 子どもの数」も、その平均値は「無宗教」よりも

「何らかの宗派教団」をあげる回答者のほうで高 くなっていることがわかる。ただ、日本の「理想 的な子どもの数」の場合はその差はきわめ小さ い。また、西ドイツの場合は「実際」も「理想」

も、「無 宗 教」→「プ ロ テ ス タ ン ト」→「カ ト リック」という順で平均値が直線的に大きくなっ ている。

B.宗教参加

宗教参加と子ども志向との関係 は、表10Bに

「相関係数(correlation coefficients)」で示されて いる。宗教参加は頻度「大」→「小」、子どもの 数 は「小」→「大」と い う ラ ン ク・オ ー ダ ー

(rank order)になっており、それにもとづいて 相関係数が計算されたので、この表に見られるマ イナスの相関は「宗教参加の頻度が高くなると子 どもの数が多くなる」ということを意味する。こ の表からするならば、どの国(地域)においても 仮説どおりの結果(統計的に有意な結果)が得ら れたといえる。ただ、宗教参加のレベルは、西ド イツと日本では「実際の子どもの数」ほうで相関 が高く、東ドイツでは「理想の子どもの数」ほう で相関が高い。

March

(12)

B.宗教参加

相関係数 ドイツ 日本

西 東

実際の子どもの数 −0.27*** −0.08** −0.15***

理想的な子どもの数 −0.19*** −0.22*** −0.07

:<0.0、**:<0. ***:<0.

4.宗教参加と「伝統的な家族モデル」を構成 する残された諸要素

ここで検討する残された諸要素は、以下のよう な諸項目である。

①家庭に対する満足感(「低」→「高」)

②主婦としての女性のあり方(「賛成」→「反対」)

③離婚に対する態度(「反対」→「賛成」)

④妊娠中絶に対する態度(「反対」→「賛成」) す で に 述 べ た よ う に「宗 教 参 加」の 項 目 は

「高」→「低」というランク・オーダーであるの で、①から④までの諸項目との相関係数の符号

(sign)の−、+、+、+は、順 に、以 下 の よ う な傾向を表している。

①宗教参加度が高くなるほど、家庭に対する満 足感は高くなる。

②宗教参加度が高くなるほど、主婦としての女 性のあり方に賛成する。

③宗教参加度が高くなるほど、離婚に対して反 対する。

④宗教参加度が高くなるほど、妊娠中絶に対し て反対する。

つぎに、その相関の大きさについては、全般に

①<②<③=④という順位が見られる。ただ、日 本の③、④の場合は、それぞれの符号はすでに述

べたように+になっているものの、その数値はき わめて小さい――つまり、その関連性の程度はき わめて小さいものにとどまっている――のである。

さて、以上において、(1)結婚歴、(2)家族 志向、(3)子ども志向、(4)伝統的な家族モデ ルを構成する残された諸項目、という家族にかか わる態度・意見・行動の四つの領域に対する宗教 の影響という問題を実証的に分析してきた。これ らの分析の結果を一言でいうならば、それは理論 的仮説のかなりの部分が検証されたということで あり、とくにその適合性が西ドイツにおいてきわ めて高く、東ドイツと日本ではそれぞれの領域ご とに違いはあるものの、概してその理論的仮説へ の適合性には問題がある。東ドイツと日本におけ る適合性の問題の解明は、今後に残された重要な 課題の一つといわなければならない。一方の東ド イツにおける「イデオロギー」と「システム・制 度・構造」という二つの要因との関連性の分析 と、他方の日本における宗教の特性――「存在形 態」の側面と「意識形態」の側面――との関連性 の分析、というのが具体的なテーマとなるであろう。

!.おわりに

今後に残された方法論的な課題として、ぜひと も指摘しておかなければならない点は、すでに述 べたように今回の分析がすべて二変数間の関係の 分析に終始したということである。したがって、

「擬似相関」の検討と第三の変数の導入がつぎの 分析の段階の重要な課題となってくる。例えば、

ドイツでは宗教参加度の低い人ほど「離婚」や

「中絶」に否定的でないという 知 見 を 報 告 し た が、宗教参加度は年齢と関連している――年齢が 高くなるにつれて宗教参加度は高くなる――こと が知られており、したがってこの年齢という第三 の変数を導入した分析がどうしても必要となるの である。しかし、このような第三の変数を導入す る分析も機械的になされてはならない。一つ一つ の変数間の関係についての深い社会学的な洞察を 踏まえて、分析を進めていかなければならない。

そのような方法論的な方針を、ここでは「探索的 データ解析法」と呼ぶのである。

表11 宗教参加と伝統的な家族モデルの残された諸要素

ドイツ 日本

西 東

家庭に対する満足感

(1:−−、10:++) −0.14 −0.10 −0.12 主婦としての女性のあり方

(1:非常に賛成、4:非常に反対) 0.20 0.25 0.16 離婚

(1:−−、10:++) 0.41 0.37 0.07 妊娠中絶

(1:−−、10:++) 0.43 0.41 0.07

第 91 号

(13)

<分析に使用した質問文>

日本で使用した質問文と原文(英語)

March

(14)

第 91 号

(15)

March

(16)

第 91 号

(17)

March

(18)

第 91 号

(19)

March

(20)

SHOW CARD EE

Now I’d like you to tell me your views on various issues. How would you place your views on this scale? 1means you agree completely with the statement on the left, 10 means you agree completely with the statement on the right, or you can choose any number in between.

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Disagree Agree

DK=99 V 263 N)Abortion

V 264 O)divorce

第 91 号

(21)

Family and Religion in Germany and Japan:

An Analysis of World Values Survey Data

ABSTRACT

Our topic of interest is how religion influences one’s family values in contemporary soci- ety. A comparison between Japan and Germany motivated by this interest suggests a hy- pothesis that in Germany―particularly in West Germany―religion continues to influence one’s family values, although to a lesser extent recently, while such influence is hardly rec- ognizable in Japan. The data-set we use to verify the hypothesis is the 1990―1991 World Values Survey, drawn from 40 nations throughout the world. A data analysis has been done by defining questionnaire items about family values as dependent variables, and those about religion―religious denominations and religious participation―as independent vari- ables. To briefly summarize the results of the analysis, the theoretical hypothesis is more applicable to West Germany and basically less applicable to East Germany and Japan, al- though they yield variations in each respect. But, why is it less applicable to these latter two countries ? The exploration for the reason will be an important subject for the next stage of the analysis.

Key Words: family values, religion, World Values Survey

March

参照

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