EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任
著者 村田 淑子
雑誌名 同志社法學
巻 60
号 7
ページ 1049‑1080
発行年 2009‑02‑28
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011662
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇四九同志社法学 六〇巻七号
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任
村 田 淑 子
(四〇六七)
目 次序章 問題の所在一章 専門職業規制の理論と専門職業団体の責任
⑴ 直見のそと由理化当正の制規業職門専し
⑵ わ関の体団業職門専と国盟加るけおに制規業職門専り
⑶ 組枠的法の任の責体団業職門専み
化反る八一条違のに強制、奨励、強よ盟国加章二 ⑷組枠的みの任責の国盟加法
⑴ はじめに
⑵ Reiff判決
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五〇同志社法学 六〇巻七号
⑶ Commission v. Italy判決
任る委の限権のへ間民よに国盟加章三 ⑷析分
⑴ はじめに(問題の所在)
⑵ Arduino判決
終章結びにかえて ⑶ 分析
序章 問題の所在 欧州では、現在、専門職業における競争制限的規制の見直しの動きが進み、二〇〇四年にはEC委員会が﹁専門サービス市場における競争﹂に関する報告書(以下、﹁委員会報告書﹂という (
。)を出している。 1)
その背景として挙げられるのが、二〇〇〇年三月に採択された﹁リスボン戦略﹂である。リスボン戦略では、二〇一〇年までにEUを世界で最も競争的で活力ある知識基盤型経済にすることとされ、サービスの経済における重要性と成
長及び雇用面での潜在力が注目されている。そして、サービスの中でも、とくに弁護士や会計士等が提供する専門サービスは、経済やビジネスの投入財であり、その質と競争力は重要な波及効果を持つため、欧州経済の競争力を向上する
上で重要な役割を果たすと考えられている。さらに、専門サービスは、消費者にとって直接的に重要である (
。 2)
専門職業とは、リベラルアーツまたは科学における特別な訓練を要する職業である。医師、弁護士、会計士、建築士
等の専門職業は、多くの国において政府規制又は専門職業団体の自主規制による高度の規制を受け、競争が制限されて
(四〇六八)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五一同志社法学 六〇巻七号 きた。
専門サービスについては、そもそも、その市場の特殊性(いわゆる市場の失敗)から、一定の規制が必要であると考
えられてきた。しかし、専門サービスに関する競争制限的規制の全てがこのような理由により正当化されるわけではない。
さらに、その規制においては、専門職業団体による自主規制が一定の政府の関与の下で行われることが多い。そもそ
も、自主規制には、規制に必要な知識を持つ者が規制を行うため、現実に応じた柔軟な対応ができること、規制コストが少なくすむといったメリットがある。特に専門職業の規制の場合、規制に高度な専門知識が必要であるため、規制に
当該専門職業のメンバーを関与させる、なんらかの自主規制の活用の必要性はより高い。しかし、自主規制は、たとえ公益目的であると主張される場合であっても、規制権限をメンバーの私益のために利用し、カルテル又はカルテルの実
効性を確保する手段として利用される危険が高いものである。
それゆえ、専門職業について、規制の必要性と競争維持の必要性との緊張関係が生じ、自主規制の濫用をいかに防ぐ
かという問題が生じる。
専門職業に対する競争制限は、専門職業団体による措置および公的規制措置の両方にみられる。それゆえ、EC競争
法上の問題として、政府の責任と専門職業団体の責任とを区別する必要があり、EC報告書は、それぞれの場合の法的
枠組みを整理している。本稿では、政府の責任、すなわち、専門職業に対する競争制限的な規制に関する加盟国の責任を中心に検討する (
。 3)
EC競争法(EC条約八一及び八二条。以下、現在の条文の番号のみを表記する。)は、事業者(及び事業者団体)の行為のみを対象とし、加盟国の法律又は規制は対象としない。しかし、加盟国には、EC条約の目的達成に協力する
義務がある。このため、加盟国が、EC競争法の効力をなくすような政府規制、すなわち国家措置をとる場合、EC条
(四〇六九)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五二同志社法学 六〇巻七号
約上の義務違反となる。
どのような場合に、国家はEC条約上の義務違反となるのであろうか。以下、政府が条約義務違反となるかどうかを判断する判断枠組み、及び、具体的にどのような場合が義務違反となるのかを検討してゆく。
この文脈における加盟国の責任は、多様な角度から検討が可能であるが、本稿では、基本的に八一条と関連した加盟国の責任の問題に限定して分析を行う。
一章 専門職業規制の理論と専門職業団体の責任
⑴
直見のそと由理化当正の制規業職門専し 専門職業における参入規制及び価格、広告、組織などを制限する行為規制は、競争を制限する効果を有するが、﹁市場の失敗﹂を理由に正当化されてきた (。 4)
すなわち、専門サービスについては、情報格差 (
と外部性 5)(
サ財存在し、専門がービスが公共 6)(
らー的な規制であっても、専門サビ制スの質を維持し、かつ、過誤か限争るれ必要であ競と考えらている。それゆえ、 、あるためで一定の規制が 7)
消費者を保護するものとして、専門職業規制は正当化されてきた。
たしかに、専門職業規制における規制には正当化されるものもあるが、客観的に正当化できないものや、より競争促
進的なメカニズムに変えることが可能であるものもある。そして、委員会報告書では、とくに、競争制限的な規制として、五つのカテゴリー(価格規制、推奨価格、広告規制、参入制限・業務独占、ビジネス組織規制)を取上げ、正当化
されない規制の見直しを呼びかけている。
(四〇七〇)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五三同志社法学 六〇巻七号 例えば、価格規制のうち、特に最低価格規制は、競争市場が消費者にもたらす恩恵の大部分をなくし、競争に最も悪影響を及ぼしがちである。
ところが、一部の専門職業団体は、価格設定は低価格又はサービスの質を保証すると主張する (
争なよれば、その他の点で競争的市論場においては、価格規制は競に理のに報告書は次済よう反論している。まず、経 対これに。し、委員会 8)
水準よりも低い価格を保証しない。次に、たとえ価格を固定しても、悪質な者が質の低いサービスを提供することや、質を下げてコストを下げる金銭的誘引を取り除くことはできない。さらに、質を維持し消費者を保護するには、専門サ
ービスの情報の利用可能性と質を向上させる手段など、それほど競争制限的ではない多様な方法が可能である (
。 9)
⑵
わ関の体団業職門専と国盟加るけおに制規業職門専り 例えば、弁護士の報酬を規制する方法には様々なものがある (法、方いなく全が与関の家国てしと法方な純単、ずま。 10)
と、純粋な国家措置といえる方法がある。すなわち、
、う規程を作成し、これに従こ報とを合意する場合、及び酬
①
私に的に設立された弁護士会、しある国の弁護士全員が参加、②
報るす定設接直を程規酬き政べす守遵の士護弁、が府場合である。このような場合は、競争法上はそれほど複雑な問題とはならない。
①
与常通、く無が関のの府政、は合場八一条違反となる。
②
りいならなはと題問の法争競、あので為行の家国に粋純、は合場。 しかし、実際に多く見られるのは、その中間型である。例えば、③
弁程規酬報、が会士護た法れさ立設きづ基に律を推奨するか否か、及び、その水準を自由に決定できる場合、
、については弁護士会委準ねる場合、さらにに
④
、程府が弁護士会に報酬規の政作成を要求するが水のそ⑤
会を守遵の程規酬報るす成作が士大護弁、し対に士護弁のて全が臣命ずる権限を有する場合である。さらに、これらには、弁護士会の構成及び政府の関与の度合いについてのバリエーショ
(四〇七一)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五四同志社法学 六〇巻七号
ンが考えられる。どのような場合に加盟国は条約義務違反となるのであろうか。
加盟国の責任が問題となるのは、
③
~。争るあで合場るす限制を
⑤
競いすなわち、なんらかの反競、てつ争と的な私的行為政び、の行為が結府⑶
組枠的法の任の責体団業職門専み イ 全体像 加盟国の責任を検討する準備作業として、専門職業団体の規制が私的行為として、事業者及び事業者団体による競争 制限を禁止する八一条違反になるのは、どのような場合であるかを最低限必要な範囲で確認しておく (。 11)
専門職業団体による競争制限的規制が八一条一項に違反するのは、まず、①専門職業が八一条の事業者に該当し、② 専門職業団体が規制を行う際に八一条の事業者団体に該当し、その上で、専門職業団体による規制すなわち決定が③加盟国間の貿易に影響を及ぼすおそれがあり (
歪のにおける競争妨場害、制限又は内市目、共が果効は又的同のそ④、つか 12)
曲をもたらす場合である。
しかし、これらの要件を満たしても、⑤﹁専門職業の適正な業務の確保のために必要﹂であれば、八一条一項違反と ならない (
。え要な程度を超必なことであるい 当制限効果が、の該目的ために、競争るにじだし、この場合、比例テスト服。する。すなわち、規制により生た 13)
また、たとえ八一条一項違反となる場合であっても、⑥八一条三項による適用除外が認められる可能性がある (
る強性場合は、⑦﹁国家制さの抗弁﹂が認められるれ制能団るあがに、専門職業体強の規制が国内法により可 ( さら。 14)
。 15)
以下、とくに重要な点についてとりあげる。まず、専門職業が提供する専門サービスは、公衆衛生、正義、安全など
(四〇七二)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五五同志社法学 六〇巻七号 公共の利益のために重要なサービスであり、専門職業に従事するには多くの国で免許が必要とされている。けれども、専門職業は、雇用されていない限り、市場で対価を得てサービスを提供するため、経済活動に従事し、八一条の事業者 に該当することが判例法上確立している (
。 16)
ロ 専門職業団体の事業者団体該当性 しかし、専門職業が八一条にいう事業者であることから、直ちに、専門職業団体が八一条にいう事業者団体として扱
われるわけではない。専門職業団体が当該専門職業の規制を法律上要求される場合、専門職業団体には、専門職業の規制者としての公益のための役割と、構成員の権益の擁護という私益のための役割がある。
それゆえ、八一条の適用において重要な問題となるのは、専門職業団体による専門職業の規制が、八一条の適用対象となる事業者団体の行為として扱われるか、それとも、八一条の適用対象外である国家の下部機関の行為すなわち国家
措置として扱われるのかである。
まず、判例法上、その判断に当たっては、専門職業団体の国内法上の地位及び財源は関係がないとされる。例えば、 ある加盟国において、専門職業団体が公法(
pu bli c la w
)に基づき設立され、公的団体(pu bli c bo cy
)として認められているということのみを理由に、事業者団体でなくなるわけではない。また、制定法上、当該専門職業に対する規制権限を付与されていることも決定的要素とはならない。
しかし、少なくとも、次の二つの条件を満たす場合は、事業者団体ではないとされる。すなわち、
c tiv ity or th au bli pu f o es ta en es pr re
半占め、かつを数、過が)(①
公表代益②
の合場るれさ求要を守遵準事基益公たれらめ定に前である (
く公に、規則が遵守すべき益る基準及び諸原則を注意深際す門与して、加盟国が、専職。業団体に規制権限を付そ 17)
(四〇七三)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五六同志社法学 六〇巻七号
定義し、かつ、最終手段として決定権限を保持する場合には、専門職業団体が制定する規則は国家措置であり、事業者
に適用される八一条は適用されない (
。 18)
⑷
加盟国の責任の法的枠組み イ EC条約 EC競争法の中心規程である八一条、八二条は、事業者及び事業者団体による競争制限を禁止するものであり、加盟国の法律又は規制に向けられたものではない (。 19)
それゆえ、事業者による価格カルテルは八一条違反であるが、加盟国は、主権行為として、カルテルと同様の競争制限効果があるにも拘らず、価格規制を行うことができる。これは、加盟国は主権の一部を手放したといえども、主権国
家であること、EC法が国内法に優先するといえども、EC条約自体が競争を唯一最優先すべき政策とはしていないことを所与とすれば、当然と言えよう。
しかし、加盟国は、価格を直接規制するだけでなく、事業者に価格カルテルを要求するかもしれず、さらに、事業者が自発的に行った価格カルテルを承認して、強制力を付与するかもしれない。このような加盟国の措置が行われれば、
八一条の効果は損なわれてしまう。
八一条、八二条を加盟国に直接適用することはできない。しかし、一〇条は、加盟国に対し、条約の目的達成を害し
うる措置をとらないことを要求している。そして、三条一項は、共同体の活動の一つとして、g号で﹁共同市場における競争が歪曲されないことを確保する制度﹂の確立を掲げている。
欧州司法裁判所は、一連の判決において、八一条、八二条は、それ自体は事業者の行為にのみ関するものであるけれ
(四〇七四)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五七同志社法学 六〇巻七号 ども、三条および一〇条と併せて読めば、加盟国に対し、立法的性質であれ、規制的性質であれ、事業者に適用される競争ルールの効力をなくすかもしれない措置を導入しないこと、又はその効力を維持しないことを要求する (
、と判断し 20)
てきた。なお、通常、一〇条は八一条と併せて用いられている (
。 21)
欧州司法裁判所は、具体的に、三条一項
g
判るあで合場の次、はるうれさ断と号八、一〇条及び一責条に基づき有と繰り返し述べている。ただし、判例によっては、一〇条及び八一条のみを挙げ、三条に言及していないものもある。
⑴ fa vo r
又は奨励()するはしその効力を強化する場合く若加意盟国が八一条違反の合、決求定若しくは協調行為を要、又は、
がるあで合場う失を格性的法立 (
⑵ on iv r to ra pe o ic om ec at e pr
が規定決る盟国経響済分野すにの影法をそ業す責任を民間事者、(加下に委任し)。 22)
この二つのカテゴリーを完全に独立したものと考えるべきかどうかは難しいが (
。なーについて主判ゴ例を検討するリ テ宜、のれぞれそ、上カ便、はで下以 23)
ロ 加盟国の措置が条約義務違反となる場合の効果 それでは、加盟国が条約上の義務違反となる措置をとる場合どうなるのか。 まず、EC法の優越により、加盟国の裁判所及び行政機関は、国家の規制をそれらの条項に照らして解釈し、かつ、必要な場合には、条約と衝突する国家規制を適用しない義務を負う。すなわち、国内競争当局は、そのような国家措置
(国内法など)を適用しない義務を負う (
。 24)
そのため、国内法により強制力を付与された価格カルテルを遵守しなかったことを理由に訴追された事業者は、その
抗弁として、そのような国内法自体が違法であり、訴追の根拠とできないと主張することができる。
(四〇七五)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五八同志社法学 六〇巻七号
さらに、例えば、国内法が事業者に生産割当などの反競争的な制限を要求し、事業者団体の自主的な判断による競争
制限の余地がない場合、事業者団体は国家強制の抗弁により八一条違反とならない。しかし、そのような国内法がEC条約違反であるため、これを適用しないとの国内競争当局による決定が最終的になった場合、国家強制の抗弁はもはや
主張できない。
さらに、委員会及び他の加盟国は二二六条、二二七条に基づき違反に対する手続きを開始できる。そして、加盟国が
条約に基づく義務を履行しなったと欧州司法裁判所が認める場合、当該加盟国は判決を遵守するために必要な措置をとる義務を負い、もし、そうしない場合は、違約金が課されうる(二二八条)。ただし、委員会が実際にこの手続きを開
始することはまれである (
。 25)
二章 加盟国による八一条違反の強制・奨励・強化
⑴
はじめに このカテゴリーは、①八一条違反の私的行為の存在と②政府の一定以上の関与という二つの要素からなりたっている。 例えば、なんらかの団体が加盟国の措置に関わっている場合、その団体が構成員の私益のために行動すると考えられる事業者団体ではなく国家機関の一部と判断されれば、①の要素は認められないこととなる。②の要素は、政府が競争制限的な私的行為に一定以上の積極的関与をしていることを意味する。﹁強化﹂とは、典型的な例で考えると、自発的に形成された事業者間の合意(及び事業者団体の決定)について、後から政府がその全部又 は一部を承認し、アウトサイダーをも拘束するように、法的な強制力を付与するものである (
。それに対し、﹁強制﹂と﹁奨 26)
(四〇七六)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇五九同志社法学 六〇巻七号 励﹂は、合意の成立前に、合意をするように、政府が積極的な働きかけをすることである (
。 27)
﹁で味する。ただし、判例はを、通常、加盟国の関与意け奨説励﹂とは、政府による得かなど、拘束力のない働きが
この強化、奨励、強化のうちのどれに該当するかは特に区別せずに分析している。
加盟国が、八一条違反行為を強化、奨励、強化することにより、一〇条及び八一条違反となるかどうかの判断におい
て、最初に判断すべき問題であり、かつ、しばしば決定的に重要となるのが、八一条違反の有無である。八一条違反の有無の判断において、実際に主な争いとなるのは、規制を行う団体が八一条の専門職業団体に該当するか否かである。
規制を行う団体が、全て関係者、すなわち業界代表である場合には、この判断は難しくなる。
以下では、専門職業団体の規制について、特に加盟国による八一条違反行為の強制、奨励、強化について詳しく検討 した
C om m iss io n v. Ita ly
判例を中心に検討する。その前に、専門職業ではなく運輸業界の料金規制に関して、規制を行う団体の性格付けに関する重要な判断を行ったR eif f
判決 (について確認する。 28)
⑵
R eif f
判決 イ 加盟国の措置 ドイツの道路貨物運送業を規律する道路貨物運送法(以下、﹁運送法﹂という)は、料金委員会が運送料金表(以下、﹁料金表﹂という)を一定の法的の基準に基づき決定する制度を定めており、その制度の内容は以下のようであった。料金委員会委員は長距離運送業の関連部門の料金専門家であり、これは運輸大臣が当該分野の事業者又は事業者団体が推薦する者から選ぶ。料金委員会の委員は、名誉職(
ho no ra ry c ap ac ity
)として任務を行い、命令や指示に拘束されない。運輸大臣は、料金委員会の会議に出席する(又は代理を出席させる)ことができる。
(四〇七七)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六〇同志社法学 六〇巻七号
料金委員会が作成する料金表は、運輸大臣の承認後、強制力をもつ。運輸大臣は、料金表が公益を害すると判断する
場合には、自ら料金表を定めることが出来る。
料金表を下回る料金を請求した運送業者が差額を請求しない場合は、当局がその差額を請求する。 ロ 判旨
裁判所は、まず最初に、八一条にいう合意、決定、又は協調行為の存在が示されるかどうかについて検討した。そして、次の二つの理由から、料金委員会委員は、業界団体の提案に基づき運輸大臣に選ばれたけれども、料金について交 渉し合意を締結することを求められる業界団体の代表とみなすことはできないと判断した (
。 29)
第一に、料金委員会は、道路運送業の関連分野の料金の専門家から構成され、彼らは、法律上、運輸大臣に自分達の
任命を推薦した事業者団体らの命令又は指示に拘束されない。そのため、料金委員会は、業界の事業者の代表の会合とみなすことはできない。第二に、運送法は、料金委員会が料金表を設定する際に、運輸業界(事業者又は事業者団体)
の利害のみを参照することを許さず、農業分野及び中小事業者の利益、又は経済的に脆弱な若しくは交通機関の不十分な地域の利害を考慮することを要求する。そして、料金委員会は、料金設定の前にサービスの利用者の代表からなる諮
問委員会と協議しなければならない。
このように、
R eif f
判決では、料金委員会の全委員が業界出身ではあるが、①
出独らか界業身が料員委の会員委金立 した専門家(ex pe rt
)であり、、つ
②
委課の公益基準をさ法れており、か金定な員際会は料金作成にし的、ある程度具料体③
い督がある、とえなる事案であった監分政確府による公益保十のための政府の。(四〇七八)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六一同志社法学 六〇巻七号
⑶
C om m iss io n v. Ita ly
判決C om m iss io n v. Ita ly
判決 (eif R f
、けと会員委金料る決おに様判、は体団の同に関成しかし。たいてれさ構、らかみの者象対制規士通のこ。たい の士関通、は法内国体アリのイたっなと題タに団設てけ付務義を定ので程規酬報な的制強問 30)本判決では、当該国内法が一〇条、八一条違反であるとされた。なぜ、
R eif f
判決と逆の判断が下されたのであろうか。 イ 事実の概要イタリアにおける通関士は、国内法上、専門職業(
pr of es sio n
)と認識され規制に服し、免許の取得と登録が必要とされている。税関部門ごとに置かれる、通関士の活動を監督する組織(以下、﹁下部組織﹂という。)を統括するのが全国組織のCNSDである。CNSDは、公法により規律される。下部組織のメンバーは、全て登録された通関士(以下、
単に﹁通関士﹂という。)の代表であり、CNSDのメンバーは、下部組織のメンバーにより選ばれる通関士のみである。かつては、国税庁の役人がCNSDのメンバーとなり議長を務めていたが、この制度は一九九二年に廃止されている。
国内法上、CNSDは、下部組織の提案に基づき、通関士のサービスにつき、強制的な報酬規程を制定しなければならない。この報酬規程を遵守しない通関士は、戒告、登録停止、登録取消などの懲戒の対象となる。
一九八八年三月二一日、CNSDは、通関士によるサービスにつき、最高額と最低額を定める報酬規程を決定した。一九八八年七月六日、財務大臣は省令により、CNSDが決定した報酬規程を承認した。
ロ 判旨
―
八一条にいう事業者団体の決定か 欧州司法裁判所は、まず、CNSDが八一条にいう事業者団体に当たるかを検討し、当たると判断した。なぜなら、(四〇七九)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六二同志社法学 六〇巻七号
本件では、CNSDの構成員が通関士の代表であり、かつ、CNSDが通関士の排他的利益のために行動することを防
ぐ法律上の規定はないと判断されたからである (
をな内国、に二第。いき上で入介に命任のそ法、臣専金料のスビーサ門のC士関通、はDSNは大財るあで庁官督監務 全、DSNCちに一第、メわなのてンバーは。通関士の代表であり、す 31)
設定する責任を負うが、公益の考慮を義務付ける規定もなければ、それを奨励する規定さえない。
以上より、CNSDの構成員は、
R eif f
判決等 (D性SNC、ずきではとこるけづ格と家門専たし立独なうよの案事の 32)
は法律上、報酬表の作成に際し、通関士の利益だけでなく、他の分野の事業者又は利用者の判断を考慮することを要求されていない。
そして、裁判所は、CNSDによる報酬規程の作成は八一条にいう事業者団体の決定であり、競争を制限し、加盟国間通商に影響する、と判断した (
。 33)
ハ 判旨
―
政府の関与 次に、裁判所は、CNSDによる八一条違反がイタリア政府の責任に帰すことができる程度を検討した。 裁判所は、本件国内法の採択により、イタリア政府は、明らかに八一条違反の合意の締結を要求し、その合意内容に 影響することを拒否しただけでなく、その合意の遵守の確保を助けた、と判断した。その判断の根拠とされた四点を詳しく確認する (。 34)
第一に、本件国内法は、CNSDに対し、通関サービスの強制的、統一的報酬規程の作成を要求する。 第二に、本件国内法は、報酬規程の設定につき、当局の権限を民間事業者(
ec on om ic o pe ra to r
)に全面的に譲渡した。なぜなら、CNSDの構成員は、プロの通関士の代表であり、国内法上、CNSDが通関士のみの利益のために行動す
(四〇八〇)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六三同志社法学 六〇巻七号 ることを防ぐ規定はないからである。すなわち、まず、CNSDの構成員は全て通関士であり、CNSDの監督官庁である財務大臣はその任命に介入することができない。そして、CNSDが報酬規程を設定する際に公益基準を考慮する ことを義務付ける規定も、それを奨励する規定さえもない。以上より、CNSDの構成員を独立のエキスパートと性格づけることはできず、かつ、自分たちを任命した分野の事業者又は事業者の利益だけでなく、公共の利益(
th e ge ne ra l in te re st
)及び他分野の事業者又はユーザーの利益をも考慮することは法律上要求されていない。第三に、本件国内法令は、明示的に、通関士が報酬規程から逸脱することを禁止し、通関士が逸脱する場合は、登録
の停止や取消などの懲戒の対象となる。
第四に、財務大臣は、CNSDの作成する報酬規程を承認する権限が法律上付与されていないにも関わらず、この報
酬規程を省令により承認することで、報酬規程に公的規制の外観を与えた。公的規制の外観により次のような効果が生じた。まず、官報での公表により、第三者が報酬規程を知っているとの推定が生じる。このような推定は、CNSDの
決定だけでは決して主張しえないものである。次に、報酬規程に付与されたこのような公的性格により、通関士が設定する報酬規程の適用が促進され、顧客が通関士からの請求額に異議を唱えることが抑制される。
⑷
分析 イ 全体像 加盟国が、八一条違反行為を強制、奨励、強化することにより、一〇条及び八一条違反となるのは、八一条違反の私的行為が存在し、かつ、そのような私的行為に政府が一定以上の関与(すなわち、強制、助長、強化)を行う場合である。それぞれについて、検討する。
(四〇八一)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六四同志社法学 六〇巻七号
ロ 八一条違反の有無 CNSD判決及び
R eif f
判決から、加盟国が一〇条、八一条違反となるかどうかの判断において決定的に重要となるのは、加盟国の行為が﹁強制、助長、強化﹂にあたるか否かよりも、その前提である八一条違反の存否、さらにその前提である、規制に関与する団体の事業者団体該当性の有無である。
すなわち、規制に関与する料金委員会などが、公益のために働く国家機関の一部か、それとも私益のために働くと考
えられる事業者団体(または、事業者の合意)であるかが、重要な判断となる。事業者団体ではないと判断される要件は、
①
代び及、とこいなし表を構益私もとくな少が員成、②
れるす討検ていつにれぞそ公。るあで在存の準基益。ⅰ
構成員について まず、重視されるのが構成員及びその性格である。通常、料金委員会のような規制団体には、規制対象に関する専門知識を有する者がいることが望ましいことから、規制対象となる事業者が含まれることが多いが、このような者は、業界の利益である私益を公益よりも重視する危険が高い。
しかし、構成員として業界関係者が存在することのみを理由に、自動的に当局と認められず、競争法の適用対象である事業者団体と扱われるとすれば、加盟国の規制手段は大きく制約されてしまう。それでは、どのような場合に、規制
団体を当局と扱うことが許されるべきか。
最低限、
R eif f
判決の事案のように、大臣が構成員の指名に介入していることを前提とすべきであろう。ただし、当 然ながら、単に大臣が任命するという事実だけでは、構成員が私益を代表せずに公益を代表するとの判断はできない (構でに基づくことになるからあ推る。この点、CNSDの薦のるらぜなら、大臣が任命すとしても、実際上、業界かな 。 35)
(四〇八二)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六五同志社法学 六〇巻七号 成員は全て通関士の代表であり、監督官庁である財務大臣はその任命に介入できなかった。
団体の構成員に公的機関などの代表が多く含まれ、事業者代表と考えられる者が半数未満の場合は、業界関係者が存 在しても公益の確保がそれほど深刻には害されないと考えられる (
。る合に、なお当局であと認定することは難しい場 るあ構でれに対し、団体の成。員全員が業界関係者こ 36)
しかし、
R eif f
判決では、団体の構成員全員が業界関係者であったが、法律上、構成員が業界の拘束を受けない独立した専門家であり、公益基準を課さられていることを理由に事業者団体にはあたらないと判断した。すなわち、単に、構成員が法律上業界の拘束を受けないという消極的な措置だけでは、構成員が自発的に出身業界の利益を考慮する危険を防止するには十分とはいえないため、第二の積極的かつ具体的な公益基準もあって初めて﹁独立性﹂が認められると
考えるべきであろう。
それゆえ、事業者団体ではないとの判断には、構成員の過半数が公益代表である場合は別として、構成員全員が業界
関係者であるような場合には、公益代表としての性格付けは慎重になされるべきであり、その際には、公益基準があるだけではなく、後述の政府の関与が必要と考えるべきであろう。
ⅱ
公益基準について 規制団体を事業者団体ではないと判断するための第二の要件である、いわゆる公益基準については、次の二つに気を つけるべきであろう。まず、R eif f
判決の公益基準は、単に公益を考慮せよとの一般的抽象的な内容の要求ではなく、より具体的なものであった。すなわち、当該業界の利益だけでなく、農業分野及び中小事業者の利益、又は経済的に脆 弱な若しくは交通機関の不十分な地域の利害を考慮することを要求しており ()を述後。(たいてし有権定決終最が府政、 37)
(四〇八三)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六六同志社法学 六〇巻七号
規制団体が、法的な義務がなくとも公益を考慮していると主張することは可能であり、また、実際に公益が自発的に
考慮されることがあるかもしれない。しかし、少なくとも八一条の適用対象である事業者団体ではないとの主張を認めるには、法律上、公益の考慮が義務付けられていることが最低限必要といえよう。さらに、実際に公益を確保するため、
政府による実効的な監督の仕組みがあることも重要であろう。
ハ 加盟国の関与
―
八一条違反の要求、奨励、強化 加盟国の関与には、八一条違反の要求、奨励、強化にあたるような関与と、むしろ、公益を確保するための関与とがある。後者があれば、加盟国は権限を委任しておらず、条約上の義務に違反しないこととなる。それがどのようなものであるかは、次章で検討し、ここでは前者のみを扱う。
C om m isi on v . Ita ly
判決では、イタリア政府がCNSDによる八一条違反を要求しただけでなく、CNSDが作成する報酬表の内容に影響を及ぼすことを拒否し、八一条違反である報酬表の効果を強化したと判断された。この事案では、加盟国がCNSDに料金表の作成を要求し、その遵守を通関士に命じたこと以外に、次のことも判断の根拠とされた。
第一に、CNSD構成員はプロの通関士の代表であり、国内法上CNSDが通関士の利益のためのみに行動することを防ぐ規定はない。すなわち、報酬表の設定につき、当局の権限を民間事業者に全面的に譲渡している。この点は、C
NSD自体が事業者団体と判断された理由と同じである。
第二に、財務大臣は、CNSDの作成する報酬表を承認する権限が法律上付与されていないにも関わらず、これを省
令により承認することで、報酬表に公的規制の外観を与えた。
(四〇八四)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六七同志社法学 六〇巻七号
C om m iss io n v. Ita ly
判決からは、たとえイタリア政府がCNSDに報酬表の作成を要求しても、政府がその内容に影響を及ぼすこと、すなわち、決定権限を有すると判断できるような積極的な関与があれば、加盟国は義務違反とならないことが示唆される。
(二)小括
加盟国が、八一条違反行為を強制、奨励、強化することにより、一〇条及び八一条違反となるのは、八一条違反の私
的行為が存在し、かつ、そのような私的行為に政府が一定以上の関与(すなわち、強制、助長、強化)を行う場合である。
この判断において非常に重要になるのが、規制に関与する団体が、事業者団体に該当するか否かであることが明らか
となった。
まず、
⑴
公りあで表代益が構数半過の員成、⑵
てはで体団者業事、は合場るいれ事さ課を件要益公たれらめ定に前ないと判断される。
たとえ、構成員が全て業界関係者である場合であっても、八一条の適用対象である事業者団体ではないと判断される
可能性は残されている。ただし、それは、
⑴
私ずせ表代を益も構とくな少が員成、⑵
法律上、具体的な公益基準が課されており、かつ、
⑶
分るあで合場るあが督監な十規るよに府政てし関に容内制。 このような判断においては、公益基準が単に課されているのみならず、その実効性が確保されるスキームとなっていることが要求されるであろう。
政府が決定権限を有すると判断できるほどの積極的な関与があれば、加盟国は義務違反とならないと示唆される。次
に、そのような積極的な関与の有無について検討する。
(四〇八五)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六八同志社法学 六〇巻七号
三章 加盟国による権限の委任
⑴
はじめに 加盟国が経済的な意思決定権限を私的経済主体に委任し、その規制から立法的性格をなくす場合、一〇条及び八一条違反となる。加盟国が弁護士報酬規程のような経済分野に影響する決定を行う際に、当事者である弁護士の代表に諮問すること自体は、違法ではない。たとえ、加盟国が当該専門職のみから構成される専門職業団体に報酬表案の作成を要求しても、最終決定された報酬規程が自動的に立法的性質を失うわけではない。
例えば、前述の
R eif f
判決は、加盟国は業界関係者のみからなる料金委員会に料金表を作成させた事案であったが、まず、団体の構成員が独立した専門家でり、かつ、いわゆる公益基準を課されているとの二つの要件を満たしたため、八一条違反はないと判断した。さらに、料金委員会が決定する料金表は、運輸大臣の承認を必要とし、かつ、大臣は自ら料金表を設定することができた。そのため、ドイツ政府は民間の経済主体に料金設定に関する権限を委任してはいな
いと判断された。
それでは、加盟国が報酬規程を作成させる団体が事業者団体と分類される場合になお、加盟国が権限を民間事業者に 委任しておらず、一〇条及び八一条違反とはならないといえるのは、どのような場合であろうか。この問題を検討したのが
A rd uin o
判決 (である。 38)
(四〇八六)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇六九同志社法学 六〇巻七号
⑵
A rd uin o
判決 イ 事実の概要 イタリア全国弁護士会連合会(以下、﹁弁護士会﹂という。)は、国内法に基づき、法務大臣(法務省)の下に設立され、弁護士の代表のみから構成される組織である。
国内法上、弁護士報酬(
fe es a nd e m olu m en ts
)の上限と下限を定める強制的な報酬規程は、二年毎に弁護士会が原案を決定し、大臣の承認により、効力を生じる。その際、大臣は、価格に関する省庁間会議(以下、﹁省庁間会議﹂という。)と国務評議会の意見を聞かなければならない。国内法上、この報酬規程は、訴額等に基づき、各手続の報酬の
上限と下限を定めることとなっている。裁判所は、原則、この報酬規程の範囲内で弁護士報酬を決定するが、例外的な場合には、この裁報酬規程の範囲を逸脱することができる。
本件報酬規程の制定の際に、法務大臣は、インフレを懸念した、値上げの部分的延期をすべきという省庁間会議と国務大臣の意見を支持し、弁護士会に値上げの部分的延期を要請し、弁護士会はこれを受け入れている (
。 39)
ロ 判決 欧州司法裁判所は、まず、本件は
R eif f
判決が示した基準を満たすかどうかを検討した。本件では、弁護士法は、互選による弁護士の代表のみから構成される弁護士会に対し、上限及び下限を含む報酬規程案の提出を義務付け、報酬規程が訴額などに基づくことを定めてはいるが、弁護士会が考慮すべき、いわゆる﹁公益基準﹂は規定していない。すなわち、国内法の規定には、弁護士会が報酬表設定の際に、公益のために働く国家の腕のように行動することを確保する
ための手続き又は実体上の要求はない。
(四〇八七)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇七〇同志社法学 六〇巻七号
しかし、裁判所はそのうえで、次の二点を理由に、加盟国が経済分野に影響する決定を下す責任を民間事業者に委任
し、本件報酬規程から立法的性格を失わせたとは言えないと判断した。
第一に、弁護士会は、それ自体には拘束力のない報酬規程案の作成についてのみ責任を負う。すなわち、二つの公的
機関の意見を聞いた上での大臣の承認がなければ、報酬規程案の効力は発生せず、既存の報酬表が有効であり続ける。それゆえ、大臣には弁護士会に報酬規程案を修正させる力がある。そして、大臣は報酬案を承認する前に、公的機関で
ある国務評議会および省庁間会議の意見を聞かなければならない。
第二に、国内法上、裁判所が弁護士報酬をこの報酬表に基づき判断するが、例外的な場合には、報酬規程から逸脱し
た弁護士報酬を決定することができる。
以上より、加盟国は報酬規程の最終決定又は実施審査の権限を手放していない、と判断された。 ハ
Léger
法務官意見
L ég er
法務官は、国家措置が違法な委任に当たらない条件は、政府が経済的決定に必須の条件を定める権限を留保し、立法的性格を維持することであるとした。その具体的内容として、①政府が(直接又は間接に)報酬規程の内容を決定する権限を留保し、かつ、②その法律上の権限を真に行使することが必要であるとした。法務官のこの立場は、判決とあまり変わらないように見えるが、実際上、判決よりもかなり厳しいものである。
なぜなら、法務官は政府の権限の行使の判断につき、本件報酬規程の制定に際して弁護士会の原案が修正されたという事実に関する情報だけでは不十分であり、国内裁判所でさらなる証拠により検討すべきであるとしている。そして、
その際の判断基準として、政府が報酬規程の変更を要求した回数ではなく、当局が、当該専門職及び第三者に必須の側
(四〇八八)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇七一同志社法学 六〇巻七号 面につき、弁護士会の決定内容を監督するために確かに介入することの立証が重要であるとしている (
。 40)
⑶
分析A rd uin o
判決において裁判所は、加盟国による権限の委任か否か、すなわち、加盟国が報酬規程の内容に十分な影響を及ぼすかどうかを判断した。その際に重視したのは、次の二つの事実であった。第一に、報酬規程の制定における政府による実質的な監督があること、第二に、報酬規程の運用における政府の監督があること、である。
A rd uin o
判決から、規則の制定における加盟国による実質的な監督として、少なくとも四つの要素が読み取れる。すなわち、①規制の効力発生に政府(通常、所轄大臣)の﹁承認﹂が必要であること、②政府が規制内容を決定する権限を有すること、③その権限の実効性を確保するスキームの存在、及び、④規則制定後の運用における政府の関与である。これらの四つの要素について検討する。
イ 承認 まず、政府が権限を委任せずに保持しているというためには、報酬規程などの規制の効力発生が政府(通常、所轄大 臣)の承認を条件としていることが必要である。すなわち、事業者団体(事業者)の行為それ自体には拘束力がないことである。例えば、
R eif f
判決及びA rd uin o
判決では、大臣の承認が必要であった。しかし、
C om m iss io n v. Ita ly
判決では、大臣による承認が事実上あったものの、そのような承認は効力発生の要件として法律上要求されていなかった。また、W ou te rs
判決では、弁護士会の規則は大臣の承認に法律上も事実上も服していなかった。
(四〇八九)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇七二同志社法学 六〇巻七号
ロ 内容決定権限 政府が権限を委任せずに保持しているというためには、政府(通常、所轄大臣)が単に事業者団体が作成する原案を承認するか否かの権限だけでなく、報酬規程などの規制内容を実質的に決定できることが必要である。例えば、
R eif f
判決では、料金委員会が作成する料金表が公益に反すると考える場合、大臣は単に承認を拒否するだけでなく、自ら料金表を作成することができた。しかし、大臣の決定権は、直接的でなくとも間接的でも良い。
A rd uin o
判決では、大臣は、自ら報酬規程を作成することはできないが、実質的に弁護士会に原案の内容を修正させる力があると認められた。ハ 権限行使の実効性の確保 事業者団体は規制案を作成するのみで、規制の効力発生には、政府の承認が必要であり、政府が規制内容を決定する権限を有するなら、私益ではなく公益のために、公益に適した規制が行われるかもしれない。しかし、そのような権限
が法律上定められていても、公益確保のために政府が実際にそれを行使するかどうかは別の問題である。いわゆる﹁規制の囚われ﹂による弊害を防止し、公益のために政府の権限が実質的に行使されるかどうかも重要である。
まず、
R eif f
判決の事案では、大臣が承認権限及び料金表作成権限を実際に用いて公益を確保するために介入しているか否かは明らかではない。しかし、運輸大臣による承認又は料金表の作成にあたっては、経済大臣との合意が必要であるため、運輸大臣が公益のために権限を行使することにつき、一定程度の実効性が確保されていると考えうる。
次に、
A rd uin o
判決の事案においても権限行使の実効性が確保されていた。例えば、大臣が承認する際には、二つの公的機関(国務評議会と省庁間会議)に補佐される。そして、本件の報酬規程の承認に際し、この権限が行使され、弁
(四〇九〇)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇七三同志社法学 六〇巻七号 護士会が作成した原案は修正され、値上げの部分的延期がなされている。
ただし、権限の行使につき、
L ég er
判事はより厳格に検討すべきだとの立場をとっている。これに対し、判決自体は、公益確保のため政府による権限行使の実効性が確保されているかどうかを制度上判断し、実際の運用まで踏み込むことは避けているように思われる。
ニ 運用段階における政府の監督
A rd uin o
判決の事案では、国内裁判所が弁護士報酬を決定し、その際、例外的に報酬表を逸脱することができた。また、R eif f
判決では、料金表を下回る料金を請求した運送業者が差額を請求しない場合は、当局がその差額を請求することになっていた。CNSD判決では、CNSDによる報酬表については、このような政府の関与はなかった。
ホ 小活 なんらかの団体に報酬規程の作成・運用などの規制をさせる際の政府の関与には、その時期に着目して、三つに分類
することができる。①報酬規程作成前の段階として、団体の構成・性格を決定し、公益基準を設定すること、②団体が
作成する報酬規程の効力発生に政府の承認を要件とすることで、政府がその具体的内容に関与すること、③報酬規程が制定された後、その実際の運用につき政府が関与すること、である。
①は、八一条の事業者団体該当性の判断において重視されるものである。①が十分であれば、二章で見たように、規制に関与する団体は事業者団体ではなくなるため、そもそも一〇条及び八一条に関する加盟国の責任の問題とはならな
い。反対に、①が不十分であっても、②と③が十分であれば、加盟国は民間事業者に権限を委任していないといえる。
(四〇九一)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇七四同志社法学 六〇巻七号
加盟国が積極的に関与し、権限を委任をしていないと判断されるには、少なくとも、
⑴
規制の効力発生に政府の承認が必要であり、
⑵
容し有を限権定決の内政制規に的質実が府、、がにらさ。るあで要必、
⑶
る保の権限の実効性を確すスとこるす在存そムーキが⑷
政いしま望がとこるあが与関の府る報けおに階段用運の後成作程規酬。 ところで、一〇条及び八一条に基づく加盟国の責任を判断する際に、﹁比例性原則﹂を適用すべきであろうか。すなわち、規制が正当な公益を目的とし、かつ、手段がその目的に比例的であることまで要求すべきであろうか。例えば、専門職業団体の八一条の責任を判断する際には、比例性原則がとられている。そして、EC委員会は、一〇条及び八一条に基づく加盟国の責任を判断する際にも、比例性原則を適用すべきと主張し (
L er A rd uin o eg
のそも官務よ法の決判、 41)うな厳しい立場を表明している (
い ( う関して、そのよ立な条場はとっていなに一裁八かし、欧州司法判。所は、一〇条とし 42)
。 43)
終章 結びにかえて 専門サービスについては、その市場の特殊性から、一定の規制が必要である。加盟国がある専門職業の報酬を規制す
ることが必要であると判断する場合、実際の規制には様々な方法があり、加盟国は自国の状況に適すると考える方法を選べるべきである。その際には、専門職規制には高度な専門知識が必要であることから、専門職業団体による自主規制
と政府規制が複合して用いられることが多い。それゆえ、専門職業規制の必要性と競争維持の必要性との間に緊張関係が生じ、自主規制の濫用のいかに防ぐかという問題が生じる。
EC判例法上、次の場合、加盟国は一〇条及び八一条違反となる。すなわち、①八一条違反行為の要求・奨励若しく
(四〇九二)
EC競争法における専門職業規制と加盟国の責任一〇七五同志社法学 六〇巻七号 はその効力を強化する場合、又は、②報酬規程の設定など、経済分野に影響する決定権限を民間事業者に委任する場合である。すなわち、加盟国は、私的行為と結びついて競争制限を行う場合には、権限を手放さず、規制が公的の観点か
ら行われることを確保する義務を負う。
それゆえ、通常、政府が弁護士会に報酬規程の作成を要求するが、その水準については弁護士会に委ねる場合 (
や、弁 44)
護士会が作成する報酬規程を全ての弁護士が遵守することを法律上の権限に基づき大臣が命ずる場合は、加盟国は一〇条及び八一条違反となる。
しかし、加盟国は、専門職業の規制に専門職業団体を関与させる場合であっても、次の二つの場合は加盟国は、一〇条及び八一条違反とならない。
一つは、関与する団体自体を公益のために行動する国家機関の一部にしてしまうことである。そのためには、団体の構成の過半数を公益代表とし、かつ、公益基準を課せばよい。ただし、かりに構成員がすべて当該専門職業であったと
しても、構成員が独立した専門家といえ、より具体的な公益基準を定める場合には、国家機関の一部と扱われることが可能である。
もう一つは、政府が十分な権限を保持し、関与する団体が作成するのは規制案に過ぎず、効力発生には政府の承認が
必要であり、政府がその規制内容の決定権限を有することにより、規制が公益の観点から行われることが確保できる場合である。
EC競争法では、このような基準により、加盟国の規制権限と競争の維持及び自主規制の濫用の防止を図っている。これを踏まえ、競争法以外のサービスの自由移動(四九条)と加盟国による専門職業規制の関係、そして、米国や我が
国における規制と競争の均衡の図り方との比較検討を、今後の課題としたい。
(四〇九三)