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早稲田大学審査学位論文(博士)の要旨

「イギリスにおける農地賃貸借法制の現代的変容に関する一考察」

早稲田大学大学院法学研究科

久米一世

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本論は、イギリスにおける農地賃貸借法制の現代的変容について、それを一面的に当時 における規制緩和政策の一環としてのみ捉えるのではなく、そこに織り込まれた農業・農 村をめぐる現代的諸問題1へのイギリスの対応策を、法社会学的な視点から析出しようとす るものである。この課題を達成するために、本論では全体を5章に分けて考察をおこなう。

第 1 章 イ ギ リ ス 農 地 関 連 法 制 の 歴 史 的 展 開

第1章では、イギリスにおける現代農地法制を論じるための準備段階として、イギリス 土地法の歴史について本稿における検討に必要な範囲で先行研究を整理する。本稿の検討 対象である農業借地法が19世紀末葉に国家法として制定された背景と、イギリスにおける 近代的土地所有権の成立の展開は、同法の性質や理念を知る上で、必ず併せて理解しなけ ればならない歴史的な法現象である。そしてそれを踏まえた上で、第二次大戦以降の農業 借地法の展開について整理し、当時の法改正の背景にある社会的、政治的、経済的要因に ついて検討をおこなう。

第1章において特に重要なのは、第二次大戦以降の農政における公序2(Public Policy) の存在である。戦中・戦後のヨーロッパは全体的に食料難の状態にあり、イギリスもその 例外ではなかった。特に、戦後にイギリスの政権を担った労働党は福祉国家の樹立を目指 し、地主に対して不利な立場にある借地人(=農業者)の権利を強力に保護することで農 業経営・生産活動を安定させることを目指した。そして、この農政方針の実現を託された 立法こそが第二次大戦後の農業借地法だったのである。これ以降、戦後の農業借地法にお ける公序とは「生産性を最も重視する農業」を保護することと定義され、1995年に新しい 農地賃貸借法である農地経営借地法が制定されるまで堅持されることとなる。

また第1章において次に重要な点として、「自主占有者」という新しいタイプの農地の管 理・利用に関わる当事者が増加したことが挙げられる。「自主占有者」とは、一般的な自作 農業者からマネージャーを雇い入れて農場経営を行わせる「自主占有者―請負人」関係と もいうべき形態までをも含むため、その多様な実態を一言で表現することが非常に困難な 概念である。しかし、たとえマネージャーに経営を任せていたとしても、自主占有者は自 らが土地を占有しているという意思を有している点において、地主とは異なる。この自主 占有者が近年増加した背景には、先述の公序に基づき運用される農業借地法の影響が見出

1 例えば、1990年代以降の急激なグローバリゼーションに伴う、輸入農産物の激増や貿易 自由化による国内農業生産の縮小や食料自給率の低下、農村や地域社会の弱体化に伴う耕 作放棄地の増加・環境保全機能の低下・国土の劣化等の問題は日英に共通する現代的な農 業問題であろう。

2 Public Policyの訳語としては「公序」の他に「公益」や「国家政策」等があてられるこ

ともあるが、イギリス農業政策において用いられる場合には、多岐にわたる政策全体の秩 序、つまり基底となる理念・方針を意味していると考えられるため、本稿では「公序」と することにした。

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される。地主にとって農業借地法とは、一度正規の借地契約を締結してしまえば、最低で も一世代間、自分の土地を取り戻すことができないという厄介な法律であった。当時の相 続税制が地主への軽減措置を設けていなかった等の理由から、地主は一端借地期間が満了 したならば、ようやく手元に戻ってきた土地を再度貸し出すということを避けるようにな り、その結果として自主占有者が増加することとなったのである。自主占有者の増加は、

すなわち借地市場の縮小を意味している。借地市場の縮小は、土地を購入するだけの資力 に乏しい農業への新規参入希望者にとって大きな参入障壁となっており、農業産業界から は早急な政府の対応が要請されていた。

第 2 章 伝 統 的 「 地 主 ― 借 地 人 関 係 」 の 現 代 的 変 容

第2章では第1章で指摘した第二次大戦後におけるイギリス農政の公序について、判例 分析を通じて法的側面からの検証を行う。「生産性を最も重視する農業」という戦後農政の 公序の具体化は農業借地法を通じてなされた。つまり、農業借地法は実際に農業生産活動 を行う借地農業者を対象に彼らの経営を安定させる(=借地権を強化する)ことによって、

公序の実現を目指したのである。この公序が裁判の場において言及された重要判例につい て検討することによって、それが判決に与える影響力の強さが浮き彫りとなる。しかし、

判例上、いかに公序が重視されていようとも、それでも地主はどうにかして農業借地法の 適用を回避しようと様々な手法を編み出してきた。それは判例上認められる方法からそう ではない方法まで多岐にわたるが、判例の積み重ねの中で、現在ではいくつかの法理が確 立している。第二次大戦以降の農地賃貸借契約では、徐々にこれらの手法を用いるケース が増加するのと対照的に、農業借地法に基づく正規の契約を締結する当事者らは減少して いった。この傾向は、第1章で明らかにした借地の減少と自主占有地の増加の流れと軌を 一にしている。第2章での判例分析を通じて見えてくるのは、戦後農政の公序が裁判の場 で非常に重視されてきたという事実と、それ故に、当事者ら(特に地主)がその公序の具 体化を担う農業借地法の適用を回避する様々な手法を作り出していったという、現代イギ リス農業法制における変容の実態的側面であった。その結果として、農地賃貸借契約を巡 る多様な手法が濫立する法状況が出現することになり、これを再秩序化させる必要が農業 産業界において広く共通の認識となったのである。

第 3 章 欧 州 共 通 農 業 政 策 (CAP) と イ ギ リ ス 農 業 法 制

第 1 章および第 2章において明らかにした現代における農地賃貸借法制の変化の背景要 因として、本稿の課題に迫るために、もう一点、付け加えておかなければならない論点が ある。それが本章で検討するCAP(Common Agricultural Policy:欧州共通農業政策)の 影響である。本稿における第 3章の位置づけは、前半部分(第1章、第2章)において行

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った、イギリスにおける農地賃貸借法制の現代的変容をもたらした法的および社会的要因 の整理と、後半部分(第 4章、第 5章)におけるその現代的変容そのものの分析を連結さ せることである。したがって、その分析視角はCAPを巡る様々な論点の中でも、とりわけ 本稿の課題と関わりが強い、新しいヨーロッパ型農業ビジョン(環境および農村振興重視 型、生産性は必ずしも重視されない)の生成と、それがイギリス農政および農地賃貸借法 制に与えた影響に限定されることになる。

第1章および第2章で明らかにした第二次大戦以降のイギリス農政における公序の変化 は、視野をヨーロッパに広げた際にも一定程度普遍性を有する傾向であった。すなわち、

1970年代以降、ヨーロッパにおける農業生産物は常に過剰状態にあり、それはヨーロッパ 各国に共通する問題として認識されていたのである。丁度、この農産物の過剰問題がヨー ロッパ農業の重点課題となっていた70年代中期にイギリスはEC(当時)に加盟し、以降 はCAPとの足並みを揃えることが求められた。また1990年代初頭には、過剰生産や域内 農業保護施策を批判する米国やケアンズ・グループの圧力が高じたことを背景にCAP改革 が断行され、農産物価格支持水準の引き下げやセット・アサイド(義務的休耕)の導入が なされた。そして、それに伴う農業者の所得低下に対する補償として、生産刺激性の無い 農業保護政策3である財政負担による農業者への直接支払い制度の導入に至ったのである。

しかしながら、近年のEU財政の逼迫に際して、CAP財政もまた削減を迫られる状況にあ り、農業者への直接支払いを継続させるためには、その公益的な論拠をこれまで以上に明 確に提示しなければならない事態が生じている4。すなわち、農業が他の産業活動とは異な る公益的な機能を持ち、その機能が保護に値するものであるという点をCAPの前面に押し 出そうとしているのである。このような近年のCAP改革の潮流は、第二次大戦後のイギリ スにおける農政の公序(「生産性を最も重視した農業」)とも、その公序を理念とする農業 借地法とも調和的ではなかった。

第3章におけるCAPに関する議論の整理を通じて、第1章および第2章で明らかにした 国内的要因に加えて、さらに国外的要因によっても、第二次大戦以降のイギリス農政の公 序であった「生産性を最も重視した農業」は変更を迫られたということが明らかとなる5

3 生産と切り離された(デカップリング)農業保護政策であり、WTO交渉において削減の 必要がない「緑の政策」に分類される。

4 「農業がどのていど国家によって支持されるかは、結局のところ政治問題である。農業予 算を削るべきだとする圧力はいずれにしろ大きくなるだろう。(中略)農業生産者は、将来 にわたって直接支払いを得るには、将来、社会への貢献度を証明しなければならなくなる だろう」A・ハイセンフーバー=C・ヘバウアー=K-J・ヒュルスベルゲン著 村田武訳「2013 年以降のEU農業政策はどうなるか」農業と経済75巻2号(2009年)104頁。

5 例えば近年においては、食料や繊維の供給という基本的機能はもとより、景観形成、国土 保全、再生可能な天然資源の持続的管理、生物多様性の保全といった環境便益、さらに多 くの農村地域の社会経済的な存続(雇用の創出など)などの多面的機能を発揮することが 農業に対する社会的要請として強調されている。農業の多面的機能に関しては以下を参照。

OECD著 空閑信憲=作山巧=菖蒲淳=久染徹訳『OECDレポート 農業の多面的機能』(農

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第1章〜第3章の検討を経て、イギリス農地賃貸借法制の現代的変容の背景要因が全て出 揃うこととなる。

第 4 章 1995 年 農 地 経 営 借 地 法

1948年農業借地法を基底とするイギリス農地賃貸借法制では、生産性を最も重視する農 業が戦後における農政公序として設定され6、裁判の場でも言及されるほど強い影響力を有 していた7ということは第1〜第3章において見てきたとおりである。そして、この構造が 大きく変化する契機となるのが、1995年農地経営借地法8の制定であった。1995年農地経 営借地法はFBT(Farm business tenancies)と呼ばれる新しい借地権を導入した。FBT の特徴としては、①借地期間および地代の設定等に関する契約の自由の承認、②一定の要 件を満たした上で農地における農業生産活動以外の多角化経営の許容、という、あたかも かつてのレッセ・フェールの伝統が再来したかのような9二点が挙げられる。そのため、検 討すべきさまざまな事項をひとまず脇において1995年農地経営借地法を見るならば、その 山漁村文化協会、2001年)、作山巧『農業の多面的機能を巡る国際交渉』(筑波書房、2006 年)など。

6 このため、イギリスの社会学者の中にはイギリスの戦後農政を生産至上主義(productivist) とポスト生産至上主義(post-productivist)の二つのフェーズに分けて整理する研究者もい る。B. Ilbery & D. Maye & D. Watts & L. Holloway, ‘Property matters: Agricultural restructuring and changing landlord-tenant relationships in England’ 41 (2010) Geoforum, pp. 423-434.

7 1995年農地経営借地法が効力を生じることとなった1995年9月1日以前に締結された

同意についての判決からは、1947年(1947年農業法の成立年)から1995年(1995年農 地経営借地法の成立年)までの期間に存在していた公序の影響が見出される。この期間に おける公序は、土地から最大の農業生産を行うことであり、それを可能とさせるために農 業者に借地権の保護とその他の特権が付与された。また農場を保護することは長い目で見 てコミュニティの利益となり、さらに地主に対して取引上弱い立場にある農業者を保護す ることも重要であると考えられていた。P. R. Williams & M. N. Cardwell & V. Williams, Scamell & Densham’s Law of Agricultural Holdings, 9th ed. (Suffolk, Lexis Nexis Butterworths, 2007) para. 9.50.

8 Agricultural Tenancies Act 1995 (c. 8).

9 1995年農地経営借地法の草案審議、貴族院第二読会における、野党労働党の農政担当

Denis Carter議員の発言。「私は、他の政策と同様に、政府が19世紀中期のような完全な

契約の自由への一大変革を目指していると政務次官がお認めになられたことに感謝申し上 げます」Agricultural Tenancies Bill [H. L.] HL Deb 28 November 1994 vol 559 cc491-492.

「政府がこの問題へのアプローチとして自由市場のイデオロギーを抱いているという点に ついて、私は非常によく理解しております。政府の見解は、契約自由の下でこそ地主と借 地人が多かれ少なかれ彼らの望むような合意を締結できるようになる、というものなので しょう。確かに、もしも地主と借地人の関係性が真に等しいものであるのなら、政府の見 解は正しいと言えるのでしょうが、しかし現実はそうではないのです。我々は借地人がFBT を締結する場合に、彼らに対して制定法上の適正な保護を確保することが重要だと考えて いるのです」Agricultural Tenancies Bill [H. L.] HL Deb 28 November 1994 vol 559 cc494-495.

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性質については規制緩和的立法として、わりあい把握しやすいもののように感ぜられるの だが、しかし実際に同法について検討を進めると、その立法背景には複雑な経済的、政治 的、社会的諸要因が存在しており、法律の性格付けを一面的にはなしえないということに 気づく。

1995年農地経営借地法の立法目的についてその要点を整理すると以下の三点にまとめる ことができる。①強力な借地権保護規定を有していた農業借地法を中心とする農地関係法 制と、農業者のみを対象とし、地主には適用されなかった税制優遇から生じた地主の貸し 渋り、自主占有化および借地人への売り渡し等に伴う借地市場の縮小への対策が急務であ ったという点、②制定法の適用を回避して短期的な農地賃貸借関係を構成するための手法 がいくつも作り出された結果、今や新規契約の大半がその内のいずれかのやり方を選択し ており、それらの手法が錯綜し複雑化した法体系を再秩序化する必要があったという点10

③近年農村振興政策を重視する方針を打ち出しているCAPに対応するために、農業生産活 動以外の農地における多角化経営を可能とする法改正が必要だったという点、である。こ の 3 点の中で、与党保守党が特に前面に押し出したのは①の借地市場縮小への対応の必要 という点であった。つまり、戦後の農地賃貸借立法による強力な借地権保護が借地市場の 大幅な縮小という事態を招いた主たる要因のひとつであるから、1995年農地経営借地法の 制定でもって規制緩和を行うことで、新規参入障壁を排除しかつ規模拡大等の農業経営の 合理化を促進しなければならないという趣旨である。確かに、1900年代初頭から現在に至 る期間に生じた借地市場の縮小は著しいものがあり、それに関して何らかの対応が必要で ある点については労働党も同意するところだった。しかしここで指摘しておきたいのは、

この①の立法目的については②の法の再秩序化の問題と併せて考える必要があるというこ とである。なぜなら、イギリスにおける農地賃貸借規制については、その制限を逃れるた めの様々な法的形式・手法が既に確立されていたのであり、改めて規制を緩和するメリッ トがどれほどあったのか疑問だからである。一連の考察から導き出される結論として、1995 年農地経営借地法の本質はむしろ②、③にあったのであり、①に対する効果は限定的であ ったと考えられるのである。この結論は、DEFRA(Department for Environment, Food &

Rural Affairs:環境・食料・農村問題省)の依頼を受けてPlymouth 大学の農業経済学者

らがおこなった同法の評価11と一致している。すなわち、1995 年農地経営借地法は、農業

10 1995年農地経営借地法の草案審議、貴族院第二読会における、与党保守党政務次官Earl

Howeによる法案主旨説明での発言。「今なお農地の三分の一は貸借され、今やこのうちの 多くが借地権保護を備えていないグラッドストン対バウワー借地権(Gladstone v. Bower

tenancies)のような短期的合意(short-term arrangements)で貸借されております。こ

のように、保護された借地権として貸し出される土地の割合は小さくなりかつ下降してお り、さらに、このような保護された借地権が満期を迎えた時に、同様の内容で再貸出しを 選択する地主はたったの10%ほどしかいないということは、よく知られております」

Agricultural Tenancies Bill [H. L.] HL Deb 28 November 1994 vol 559 cc486-487.

11 I. Whitehead & A. Errington & N. Millard & T. Felton, ‘An Economic Evaluation of The Agricultural Tenancies Act 1995’ (2002) Research Report Prepared for DEFRA and

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用借地の減少を食い止め増加に転じさせるという点について、当初期待されたような効果 をもたらさなかったという評価である。また、②と③について、本稿との関連で特に言及 すべきは③のCAPと歩調を合わせる必要(第二次大戦以降の農政公序を変える必要)であ ろう。それはすなわち、環境および農村振興等を重視する新しいヨーロッパ型農業をイギ リス農政における新しい公序とすることを意味していると考えられるのである。ここから、

イギリスにおける農地賃貸借法制の現代的変容とは、農政上の公序の転換を基底として生 じた一連の変化であると位置づけられるのである。

第 5 章 農 地 経 営 の 多 角 化 に 対 す る 計 画 許 可 制 度 の 統 制

最終章である第 5章では、第 4 章における農政上の公序の現代的転換を踏まえた上で、

その新しい足場に立脚する農地の利用・管理を統制する法制度とはどのようなものなのか を検討する。

第4章で明らかにした通り、1995年農地経営借地法は、当時既に多数を占めていた自主 占有者とほぼ同程度の経営の自由(多角化経営に参入するかしないか)を借地農業者にも たらすものであった。これはむしろ正規の農業借地法に基づく農地賃貸借契約が激減して いるという実態に法が合わせたと表現した方が適切であると思われる。したがって、1995 年農地経営借地法の本質をどのように捉えるべきかと考える際、それは同法によって現状 を大きく変化させたというよりも、むしろ既存の農業借地法が具体化してきた第二次大戦 後の農政上の公序を、大きく転換させた画期としての象徴的意味合いの方が重要である。

そして、1995年を一つの分水嶺として、イギリスにおける農地の利用・管理を巡る法制度 は新しい段階に進んだと考えられる。つまり、これまで別々に統制されてきた都市部の土 地と農地について、都市農村計画法に基づく計画許可制度の枠内に農地を包摂することで、

統合的な土地利用体系を構築しようとしている傾向が見られるのである。第 5 章では、こ の点を明らかにするために、1990年代以降に具体化された農地における開発行為に対する 計画許可制度の適用拡大について現状を検討する。

イギリスにおける計画許可制度はごく近年に至るまで農業用の開発行為を対象から除外 していたため、長い間、都市農村計画法の規制は農村地域を対象としてこなかった。なぜ ならば、第 1 章以下で明らかにしたように「生産性を最も重視する農業」という公序が存 在する以上、法制度上、農地においてなされる事業は伝統的な農業生産活動に限定される ことが基本なのであり、許可申請を要するような都市的な土地への変更はなされない、と いうことが大前提であったからである。しかし、その大前提はもはや崩れた。1995年農地 経営借地法は第二次大戦後の農政公序を放棄し、同法に基づく借地権であるFBTが設定さ れた農地について多角化経営への道を拓いた。そして同年に出された都市農村計画(一般

NAWAD.

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的に許可された開発)命令の附則2第6部12によって、これまで対象外であった農地におけ る開発行為は、今後、都市農村計画法上の計画許可制度の枠内に収められることとなった のである。

1995 年農地経営借地法と同年に制定された 1995年都市農村計画(一般的に許可された 開発)命令附則2第6部は、対象を自主占有地であるか借地であるかに限定していないが、

しかしこの二つの法令が同時期に公布されたという事実は、イギリスにおける農地政策の 大枠の方針を捉える上で重要な点であると考えられる。なぜならば、「1995年農地経営借地 法をどう捉えるか」という問題に一定の応答をする上で、同法に対して他の法的統制がか けられているという事実は、非常に重要な指摘だからである。すなわち、1995年農地経営 借地法の建付けは確かに規制緩和的なものであるが、しかし本稿で明らかにしたとおり、

同法の本質はその特徴的な外見にのみ見出されるというよりも、むしろ近年のCAP改革へ の対応、環境保全・地域振興政策等の一環として多面的な評価がなされるべきではないか ということである。また、都市農村計画法に基づく計画許可制度の枠内に1995年農地経営 借地法に基づく開発行為(多角化経営)が包摂されることで、農地における無秩序な開発 行為への懸念は一定程度抑えられており、さらに、計画許可制度のコミュニティ重視型の 制度構造は、地域ごとに多様性を有する農地の適切な利用・管理について、地域の近隣住 民による理解と協力を得ることが期待できるものである。この総合的な土地の利用・管理 手法は、長い目で見ても、持続可能な農村社会の構築13を展望する上で有益な制度体系だと 考えられるのである。

12 The Town and Country Planning (General Permitted Development) Order 1995 No.

418, Sch. 2, Part. 6, Agricultural Buildings and Operations.

13 法学の領域においても、近年では、持続可能型社会への転換の重要性とそれを支える法 制度のあり方について多方面から議論がなされている。本稿との関連では特に以下が参照 されるべきである。楜澤能生「持続可能社会への転換期における新「所有権法の理論」」法 社会学80巻(2014年)、同「持続可能社会を教導する農地所有権」農文協編『規制改革会 議の「農業改革」20氏の意見』(農山漁村文化協会、2014年)。法の科学46号(2015年)

の特集「社会の持続可能性と民主主義の課題」等。

参照

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