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賃貸集合住宅市場での定期借家制度活用の阻害要因に関する研究
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU13610 鈴木 康嗣
1. はじめに1
我が国の借家制度については、現在では家主に とって正当事由が認められにくい制度であり、ま た仮に家主の正当事由が認められても「一定の立 退料提供」がいわば一般化された。このような現 状の弊害打破を経済学者等が中心になって政策 提言を行った結果、2000 年(平成 13 年)3 月「良 質な賃貸住宅等の供給促進に関する特別処置法」
が施行された。
内容的には借地借家法の一部が改定され、従来 の借家制度を残したまま、新たに定期借家権制度 がひとつの選択肢として創設されたものである。
この法律の主旨は、従来の「正当事由制度」等の 賃貸住宅市場にもたらしていた様々な歪みを改 善することが目的のひとつであった。
本稿は、定期借家制度導入から数年経ち、2007 年以降において多くの定期借家関連の裁判判例 が出ている中での実際に供給された定期借家募 集データを用いて行われる最初の実証分析であ る。
2. 研究の背景
借家契約は、契約行為についてはすべて民法が ベースとなっており、民法に規定された賃貸借契 約の原則を現代社会の実状に合わせて修正して いるのが「旧借家法」(大正 10 年 4 月)である。
昭和 16 年の借家法改正によって、賃貸契約期間 が切れた後での契約の更新を家主がいわゆる「正 当事由」がないかぎり原則として拒否できないこ とになった(正当事由制度)。しかも、市場家賃 に合わせて家賃を上げていくことは、当初は家賃
1 本稿は論文要約であるため、参考文献等については論文を参照されたい。
統制令が禁じていたし、現在では判例が禁じてい る(継続賃料抑制主義)。したがって、借家をい ったん貸してしまえば、借家人に安い家賃で半永 久的に居座らされることを家主は覚悟せねばな らない。このため借地借家法は施行された後 10 年間に日本の借家率が急速に減少した。
これらの普通借家権での問題点解決の方策と して、2000 年(平成 13 年)3 月「良質な賃貸住 宅等の供給促進に関する特別処置法」が施行され た。そして、借地借家法の一部が改正され、従来 の借家制度を残したまま、新たに定期借家権制度 がひとつの選択肢として創設した。
3.研究の目的
2007 年以降、東京地裁、最高裁等で定期借家物 件関連の多くの裁判判決が出ている。本研究は、
先行研究で既に実証されている定期借家制度の 図表 1 普通借家契約と定期借家契約との比較
図表 2 普通借家と定期借家物件の契約方式の違い
2 家賃低減効果が、判決の影響をどのように受けて いるのか、実証分析にて確認する。 また、裁判 判決が定期借家市場全体にどのような影響を与 えているのか定期借家制度利用率とその前年の 判決件数とで実証分析を行った。そして、この2 つの実証分析及び関係者のヒアリング調査を行 い、現在の定期借家制度活用の阻害要因について 考察を行い、政策提言を行うものである。
4. 研究方法
4.1 家賃軽減効果への影響 4.1.1 分析の方法
家賃関数による OLS 分析を行う。定期借家ダミ ーを加えることによって定借物件の家賃を選択 した場合を分析することができる。
4.1.2 使用データ
4.1.3 実証モデル
家賃関数を推定することによって、さらに詳し い分析を行う。使用データは前項で使用したデー タを使い、家賃関数を OLS 分析の形で推定した。
採用した物件の属性は、築年数、最寄り駅までの 徒歩時間、床面積である。このほか、定借ダミー
(定期借家であれば1、そうでなければ0)を入 れた。推定Ⅰでは、港区のデータを使って OLS 分 析を行った。推定Ⅱでは、新宿区のデータを使っ て OLS 分析を行った。
4.1.4 基本統計量
4.1.5 推定結果
推定結果では、定借ダミーで係数が推定Ⅰ、
Ⅱともにマイナスとなり、係数がそれぞれ-0.15、
-0.14 となった。この係数は、t 値が 2 以上であ り、1%有意水準となった。
この結果は、定期物件の家賃は、借家物件の 家賃に比べて、15%軽減効果があったことを 表している。
4.1.6 考察
推定Ⅰ(港区)及びⅡ(新宿区)ともに定借ダ ミーの係数の符号はマイナスであり、1%水準で 有意となった。よって、定期借家物件は普通借家 物件に比べて家賃軽減効果の訴訟が多く発生し ている現状でも、確認できたといえる。家賃軽減 効果は、借主にとってのメリットとして重要な要 素である。その効果があるということは、定期借 家の効果が立証されたと考えられる。
4.2 定期借家制度利用率への影響 4.2.1 判例の整理
判例検索サイトであるウエストロージャパン を使用し、キーワード「定期借家」にて木ワード 検索を行った。さらに内容を吟味し、「定期借家 物件」での判例について下記のようにまとめた。
尚、検索結果の判例については、「判例タイムズ」、
「判例時報」、「裁判所 Web」で補足調査とそれ以 外の判例がないか、確認調査を行った。結果、ウ エストロージャパンでの検索結果以上に判例が なかったことを確認した。
3 調査結果としては、裁判の争点が法 38 条 2 項 及び 4 項の手続き上の問題や法解釈についてのも のが多かった。事前説明書については、H22 及び H24 の最高裁判決の結果、別個独立であると明確 化した。ただし、制度の不明確についてはまだ完 全には是正されていない。
4.2.2 分析の方法
定期借家制度利用率と判例件数による OLS 分析 を行った。
4.2.3 使用データと実証モデル
4.2.4 基本統計量
4.2.5 推定結果
4.2.6 考察
前節の実証分析によって、定期借家利用率には 判例数によって一定の影響を受けると結果を出 したが、その結果を補足する意味で、有識者等 にヒアリング調査を行った。
ヒアリング調査の結果、実証分析の結果と同 様に裁判判決が家主、借主、仲介業者等の定期 借家利用マインドに悪い影響を与えていること を裏付けることができた。
5. 結論
・裁判判例が多く出ている現状でも普通借家物件 の家賃に比べて定期借家物件の家賃は軽減す ることを確認した。
・裁判判決数が増えた次の年度の定期借家制度利 用率が低下することを確認することができた。
・裁判判決の多くは、借地借家法第 38 条 2 項及 び 4 項の事務手続や法解釈での争点が多かった。
6.
政策提言
定期借家制度は、現在、制度安定化前の状態 と考えられる。
今後も多くの判決が出ることによって制度が 明確化すると予想される。
ただし、早期に制度導入のメリットを享受する ためにはその阻害要因の対策が必要である。
本研究でのヒアリング調査で判例数が多くな ると「不安」が大きくなり、必要以上に慎重にな っている関係者の現状が浮かび上がった。根源的 な問題は、法 38 条 2 項及び 4 項の手続き手順が 不明確と思われているところにある。その問題解 決として下記の2点を提案する。
図表 3 定期借家制度に関係した裁判判例調査結果
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「法の不明確な部分が裁判となるリスク生 む」。これは「条文の書き方が不明確だからい けない」ことが問題であるということ。「条文 が不明確」に対する政策提言は「法改正による 明確化」。ただし、明確化した上で、「周知」は 誤解を生まない土壌づくりとして重要なもの と考える。
また、今後の課題としては、周知や法改正と は別に、法 38 条 2 項及び 4 項規定自体の存在 意義を再検討し、その条項が不必要であれば削 除することによって契約自由の精神に立ち返 る等の見直しの検討も今後の課題と考える。
7. おわりに
本研究において、普通借家家賃に比べて定 期借家家賃の軽減効果が、定期借家の訴訟が 多く発生している現在でもあることが示さ れた。また、定期借家関連の判決数が、その 利用率に悪影響を与えている可能性につい ても実証分析の結果、有意に説明できた。
この傾向から推察すると、訴訟リスクは今 回の影響のほかに家賃軽減効果の大きさや その供給量自体を小さくしているとも考え られる。ただし本研究では、この点について はデータの制約上、分析することができなか った。また、今回の実証で使用した定期借家 利用率のサンプル数が極めて少ないために サンプルデータの信頼度に問題があるのも 事実である。また、定期借家制度利用率に影 響を与えている要因は、単なる定期借家での
訴訟数だけでなく、各訴訟での判決内容で大 きくその反応が違うことも考えられる。今後、
このような問題点を整理した上で別のパラ メータを追加して実証分析を行うことによ って、定期借家制度利用率が小さくしている 他の阻害要因についても明らかになってい くものと考える。
また、今回の研究では、定期借家の判決数 の影響を実証分析しているが、本来、定期借 家制度が普通借家に比べて訴訟リスクが高 いというわけではなく、逆に普通借家の訴訟 リスクより圧倒的に小さくなっていること を誤解なきよう最後に付け加えておく。
【主な参考文献】
・「住宅の経済学」岩田規久男、八田達夫(1997)日 本経済新聞社
・「判例における借家立退料評価に関する実証分析」
久米良昭(2006)資産評価政策学 14 号
・「定期借家権」 福井秀夫、野村好弥、阿部泰隆(1998)
信山社
・「定期借家権制度が家賃に与える影響」大竹文雄、
山鹿久木(2001a) 日本経済研究 No41
・「定期借家制度と家賃」大竹文雄、山鹿久木(2001b)
住宅土地経済 No41
・「定期借家の実証分析」大竹文雄、山鹿久木(2002)
日本不動産学会誌 第 16 巻第 1 号
・「賃貸住宅法制の検討課題」久米良昭(2003)都市 住宅学 42 号
・「定期借家制度と民間賃貸住宅市場」大竹文雄、山 鹿久木(2003)都市住宅学 第 43 号
・「不動産市場における市場の失敗と政府の失敗」福 井秀夫(2012)日本不動産学会誌 第 26 巻第 1 号 ・「定期借家法導入の効果と今後の改正の報告」福島
隆司(2003)日本不動産学会誌 第 16 巻第 4 号
以 上