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農地法の賃貸借規定の今日的意義

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農地法の賃貸借規定の今日的意義

一立法者意思を中心として一

高 橋 寿 一

1 はじめに      かくして,上述した「農地制度の多元化・事業

(1)問題の所在      化」傾向は,今後もますます強まるものと思われ わが国においては,農地改革,農地法の制定に  る。筆者は,かかる動向に根本的な疑問を感ずる。

よって,戦後の農地制度の基本的枠組が構築され  すなわち,構造政策をとることの是非はとりあえ て以来今日に至るまで,農地政策は様々な変遷を  ず措くとしても,そもそも賃貸借を通じた流動化 経てきたu)。周知のごとく,農地法には農地に関  政策が地価政策を放置した上でそこで形成された する所有権移転や賃借権設定等の権利の移動統制   高地価に限りなき妥協を重ねるためにとられてい に関する規定が設けられているが,1975年の農振  るという点,あるいはこのような農地流動化政策 法(正式名称「農業振興地域の整備に関する法律」)  が農地法上の規制を回避した利用権という形式に 改正における農用地利用増進事業の創設,そして  よって推進されているという点などである。これ それを単独立法とした80年の農用地利用増進法の  らすべての問題についてここで詳細に検討するゆ 制定における利用権設定等促進事業の開始によっ   とりも能力も残念ながら現在の筆者にはない。そ て,「農地法のバイパス」と称される新たな権利  こで,本稿においては,上の問題の内後者の問題 の移動手法が制度上導入され,かつ,これが実際   を中心に若干の検討を行いたい。

上も多用されるに至って,農地制度の「多元化・   この点を今少し敷街すれば次のようになる。周 事業化」(2)といわれる事態が,制度上のみなら  知のごとく,農用地利用増進事業の創設以来農地 ず,実際上も広範化・一般化している。そして,  流動化の主たる手法となっている利用権設定につ かかる動向に政策的により一層のドライブをかけ  いては,これを賃借権についてみれば㈲,農地法 たのが,92年の新政策(正式名称は「新しい食料・  3条,19条(その結果として20条)の適用が除外 農業・農村政策の方向」)であり,93年の農業経   される。その結果,賃借権の設定に関する農業委 営基盤強化促進法(以下,「強化法」と称する)   員会の許可が不要となるとともに,賃貸借契約の であった。これらの内強化法は,農用地利用増進  期間が満了しても法定更新はなされず,自動的に 法に代わって制定されたものであり,従来とは異  契約は終了する。そのため,本制度は貸手の農地 なって,効率的安定的経営体の育成のために特定   の供給意欲を刺激することとなり,農地を賃貸に の農業者に農地を集中的に集積することを意図し  付す場合には,貸し手は現在ではほとんどの場合 たものであり,選別的性格が露になっている。そ  において,本制度を利用するようになっている。

して,そこでは利用権の設定等を通じて,今後10  そして,かかる傾向は先に指摘したように今後も 年間に175万ヘクタールという大量の農地の流動  一層促進されるであろう。かかる現象は表面的に 化が意図されているのである。過去10年間の流動  みるならば,新たな賃貸借の展開があたかも農地 化実績が71万ヘクタールであることと比較すれば,  法の枠外で進行しているかの如き印象を与え,こ 上の数値がどれほど高いものかがわかるであろ  れを根拠として,農地法の賃貸借規定さらには農 う(3)。      地法それ自体の廃止論が財界や一部の経済学者か

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60      茨城大学政経学会雑誌 第65号

ら声高に主張されている。かかる議論に対しては,  ち,農地法上の正規の賃貸借でも10年以上の定期 利用権設定制度は,制度的には農地法にその法的  賃貸借であれば知事の許可なしに更新拒絶の通知 根拠をもつもので,あくまでも農地法の枠内の制  を賃貸人が発することができるのであって(20条 度にすぎないことを指摘できる。そして,筆者と  1項3号),そうであるならば逆に何故に利用権 しては,利用権設定制度は,農地流動化の促進に   設定制度が必要であるかという疑問が出てくるこ 第一義的目的がおかれており,他方で同時に必要   とになる。

とされるはずの賃借人の農業経営の安定性という   本制度が農地流動化に第一義的意義をおいてい 点についてはほとんど顧慮がなされていないとい   る以上,上述のような内容を有することは一面で う意味で大きな問題を抱えた制度であると考えて  は不可避的とはいえ,このような問題を内在させ いる。たとえば,存続期間の安定性を確保する規  ている以上,かかる制度は,農地流動化が進行す 制が存在しない点はその代表である㈲。この制度  るまでの間のいわば暫定的過渡的存在でしかない の立案者も,この問題点についてはもとより認識  ことを明確に認識すべきである。したがって,私 しており,それに対処するために利用権を集団的  見によれば,農地流動化がある程度進んだ段階で,

自主的に設定していくことにより,その存続を安  利用権設定制度はその本来の使命を終了したと考 定化させるとか,たとえ短期の存続期間であった  えるべきであって,以後は,借地農の農業経営の としてもその再設定が繰り返されることによって  安定性等を内容とする賃貸借法制度の下に現実の 事実上長期化するとかの主張がなされている。し  賃貸借関係を包摂せしめていくべきものと考える。

かしながら,前者の点については,制度上は確か  そして,かような農地賃貸借法として,農地法上 に市町村が事業主体となり利用権が集団的自主的   の賃貸借規定を活用することができないか一あ に設定されるのではあるが,実態はその時々に個   るいはすべきである一というのが筆者の基本的 別的に出てきた利用権の設定に関する当事者をま  問題意識である。

とめて1カ月毎に農用地利用増進計画(強化法の

下では農用地利用集積計画)上に記載しこれを公   (2)課題の限定

告するにすぎない(強化法18条,19条参照)。こ   制定当時の農地法における賃貸借に関する規定 れを称して「集団的自主的設定」といっているの  は,賃借権への対抗力の付与(18条),賃貸借契 であるが,これだけの手続によって一体いかなる  約の法定更新(19条),解約についての知事許可 点で利用権の安定性が確保されたというのか定か  制(20条),小作料の最高額統制(21条),小作料 ではない。また後者の点についても仮に再設定が   の定額金納制(22条・23条),小作料の減額請求 なされるにしても,それを通じての利用権の長期  権(24条),契約の文書化(25条)という8力条 化・安定化はあくまでも事実上の結果であるにす  から成り立っていた。そのほか,賃貸借契約の内

ぎず,それを担保する制度的措置が講じられてい  容には直接の関係はないが,賃借地の所有権を地 るわけではない。各種統計資料によっても,再設  主が売る場合には,その賃借地を耕作している小 定率が上昇していることは確かではあるが,他方  作人以外の者に売ろうとしても知事の許可を受け 再設定されないものも件数比で3割弱存在してい   られない規定(3条2項1号)や,賃借地の所有 るという事実(6)を看過することはできないであろ  制限規定(6条)等が存している。農地法上のこ う。また,貸し手農家の離農や高齢化等によって  れらの規定から,農地法は,賃貸借に対しては,

存続期間が長期化し10年前後のものが増加してい  「小作地の発生を極力抑止し,現にある小作地も るという指摘もあり,実態は確かにそうなのでは  自作地化させようという論理が貫徹している」と あるが,だとすれば,存続期間の点で農地法上の  いう位置づけが一般には行われているω。かかる 正規の賃貸借とほとんど変わらなくなる。すなわ  理解によれば,「賃貸借の存在は望ましからぬ悪

(3)

であり」(8),したがって,漸減ないしは解消すべ     しなかったものの比率は経年的に漸減しているが きであるという評価を農地法は賃貸借に対して与     平成5年で28.3%(件数比)に達している。

えていることになるが,立法者は賃貸借をそこま   (7)たとえば,加藤一郎「農地法の立法論理」(加 で否定的に考えていたであろうか。農地改革にお     藤一郎・阪本楠彦編r日本農政の展開過程』東大 いても,在村地主に関しては,1町歩までの小作     出版会,1967年)195頁以下,梶井功『土地政策 地保有を認めているのであり,農地改革の成果を     と農業』家の光協会,1979年)170頁,和田正明 継承している農地法においても,賃貸借に対して     『農地法詳解』学陽書房,1981年)11頁以下。

は,何らかの積極的位置づけは与えられていない   (8)梶井・前掲書170頁。

のであろうか。少なくとも,上の見解のいうよう

な,賃貸借に対する徹底的な忌避の態度を農地法   2 農地改革における賃貸借 に認めることは,修正されるべきではないか。筆  (1)第一次農地改革

者は,このような見地から,農地法の立法者意思    農地法における賃貸借について検討するには,

を農地改革にまで遡って検討したい。そして,こ  農地改革における賃貸借の扱いにまで遡って検討 のような作業を通じて,農地法における賃貸借に   しなければならない。なお,農地改革については 対して,正当な位置づけを与えようと思う。    すでに多くの優れた文献が出ているので本稿では

事実経過等の詳細は大幅に省略し,賃貸借に関す

(1)戦後の農地政策・農地制度の展開過程について  る部分を中心に検討していく。まず最初は,第一 は,石井啓雄「農地問題と農地法制」(渡辺洋三・  次農地改革である。

稲本洋之助編『現代土地法の研究上』岩波書店,   第二次農地改革が実質的にはGHQの強力な指 1982年所収)299頁以下,池田恒男「『農地法体制』  導の下に行われたのに対して,第一次農地改革は の法学的検討」(甲斐道太郎編『都市拡大と土地  一般に,日本政府の完全なイニシアチブにより発 問題』日本評論社,1993年)51頁以下,高橋寿一  足したものとされている〔1)。すなわち,終戦後10

「農地法制と法社会学」(r法社会学』48号掲載予   月9日に幣原内閣に農林大臣として入閣した松村 定)等を参照。       謙三氏は,早速農地改革法案の作成に着手し,12

(2)原田純孝「『農地三法』の制定と農地制度の現   月4日に衆議院に提出している。この法案は,

代的展開」(r東京経済大学学会誌』122号)180頁。  1938年に制定された農地調整法の改正法案として

(3)原田純孝「新しい農業・農村・農地政策の方向   作成されており,自作農創設を中核としつつ,戦 と農地制度の課題(中1)」(r法律時報』66巻6  時中の各種統制令を包摂する多様な内容を有する 号)8頁。      ものであったが,本稿においては,以下の2点を

(4)所有権の移転についても農地法3条の適用が除   指摘するにとどめよう。

外されたため,農地法よりも農用地利用増進法や   第一は,不在地主の保有している小作地に関し 強化法に基づく所有権移転が実態上主流を占めつ   ては,全面解放が原則とされたが,在村地主の小 つある。これは,後者においては税制上の優遇措  作地に関しては,平均5町歩までの保有が認めら 置が講じられているためであり,かかる方向が政   れていたことである。

策上も推進されていることに注意する必要がある。   第二は,賃貸借契約に関して,農地調整法に規

(5)同旨,原田・前掲論文「新しい農業・農村・農  定されていた解約等の制限に関する規定を強化す 地政策の方向と農地制度の課題(下)」(r法律時報』  るとともに,小作料の金納化に関する規定を新設 66巻10号)14頁。       するなど,耕作権の強化に資する規定を整備した

(6)農林水産省構造改善局農政部農政課『農地の移   ことである。

動と転用一平成5年一』16頁によると,再設定   まず,第一の点から詳述しよう。第一次農地改

(4)

62      茨城大学政経学会雑誌 第65号

革は,政府買収方式に依らずに,原則的には地主一  耕作権の強化に第一義的意義がおかれ,自作農創 小作人間の私的合意に委ね,それで解決しない場   設における保有限度面積の後退にはほとんど関心 合にのみ,公権力の介入により所有権を小作人に  が示されなかったようである(3)。

移転させるといういわゆる強制譲渡方式を採用し   次に,第二の問題を考えてみよう。本法案にお た。そして,在村地主に対して全国平均5町歩ま  ける小作契約の内容に関する諸規定は,3種のも での小作地保有を認めており(4条ノ4・2項),  のから成り立っている。1つは,農地賃借権に対 地主のこの保有面積についても第二次農地改革の   する第三者対抗力の付与(8条),2つは,小作 ような世帯別ではなく,個人別とすることによっ  契約の解約等の制限(9条),3つは,小作料の て,多くの買収逃れを可能とするなど,その内容  金納化および小作料最高額の統制(9条ノ2−9 は極めて微温的であった。しかも,5町歩を保有  条ノ8)である。

限度としたことについていかなる説明をしていた   これらのうち,まず,農地賃借権に対する第三 かというと,たとえば,本法案を審議した第89回  者対抗力の付与の規定は1938年の農地調整法(以 帝国議会の衆議院・農地調整法中改正法律案委員   下「38年法」と略称)制定当時に既に存在してい 会においては以下のような議論が展開された。す  た。今回の改正法案において修正された点はない。

なわち,農村においては,地主は農民の指導者と   次に,小作契約の解約等の制限については,農 いう意味で必要ではないか,という森部委員の質   地調整法9条は,以下のような内容を当時すでに 問に対して,松村農相は次のように答えた。「所  有していた。まず,期間の定めのない契約につい 謂サウ云フ余裕ノアル,サウシテ識徳ノアル人ガ  ては,解約等をできる場合が,(1)賃借人側に,

村ヲ指導シ世話ヲシテ行ッテ戴ク,斯ウ云フコト  「宥恕スベキ事情ナキニ拘ラズ小作料ヲ滞納スル ニナルノデハナカラウカ,ソレ等ノコトニ付キマ  等信義二反シタル行為」があるか,または,(・・)賃 シテモ,……(中略)……大体五町歩程度ヲ考へ   貸人側に,「土地使用ノ目的ノ変更又ハ賃貸人ノ テ宜イノデハナカラウカ,此ノヤウニ考ヘテ居リ  自作ヲ相当トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場 マス」(2)。すなわち,なぜ5町歩までの保有を認  合」㈲に限られた。このような事由がなければ,

めたかというと,それは,地主は農民の指導者な  「賃貸借ノ解約ヲ為シ又ハ更新ヲ拒ムコトヲ得ズ」

のであるから,この程度の小作地保有は認めても  とされた(9条1項)。次に期間の定めのある契 良いだろうということである。かかる松村農相の  約については,期間満了時に更新を拒絶しうる場 答弁に,第一次農地改革の限界が端的に現われて  合が限定されていた。すなわち,(1)期間の定めの いるといえよう。もっとも松村氏自身は,保有限  ない契約の解約と同様な理由が存在するのみなら 度面積を1町5反としたかったようであるが,事   ず,(・・)更新拒絶の意思表示に関しても,当事者が 務当局の説得により3町歩とされ,さらに閣議に   期間満了前6カ月ないし1年以内に相手方に対し,

おいて5町歩へと後退させられた。当時の内閣や  更新拒絶の通知または条件を変更しなければ更新 議会が地主勢力の強い影響下にあったことからす   しない旨の通知をした場合に限定され,このよう れば,かかる後退はやむをえなかったのかもしれ  な通知をしない場合は,従前の賃貸借と同一の条 ないが,当時の事務当局の農地改革に対する基本  件をもって更に小作契約をしたものとみなされる 姿勢もまたかかる後退の促進要因となった。すな  (9条2項本文)。なお,本項は強行規定である わち,自作農創設と耕作権の強化のうち,当時の  (9条4項)。

事務当局は後者に重点をおいており,小作料の金   これに対して,本改正案は,次のような内容で 納化等の耕作権の強化によって地主になることの  あった。すなわち,38年法においては,賃貸借の 経済的メリットを減殺しない限りいくら自作農創  当事者が解約または更新拒絶をしようとするとき 設をしても意味がないと考えていた。したがって,  は,あらかじめ市町村農地委員会にその旨を通知

(5)

しなければならないとされており,たとえその通   ついては,以下の点を指摘しておこう。第一に,

知がなされなくても,その行為は有効であり,罰  小作料の金納化により小作料は大幅に低下したが 則も受けないものとされていたのに対して,本改  それは本改正案により一挙に実現したのではない。

正案では,解約または更新拒絶の通知に関しては,  それは,1941年産米から,(1)物納小作料は,代金

o     ●

市町村農地委員会の承認が必要であるとされ(9  納小作料に事実上転換されており,(・・)米の生産者 条3項),かかる承認を受けることを怠った者は,  には生産奨励金が交附されることになり,米の供 6カ月以下の懲役または500円以下の罰金に処せ   出価格について生産者価格と地主価格との分離が られることとなった(17条ノ5)。このようにし  始まったことをその背景としている。これにより,

て,本改正案では,賃貸借の解約等について市町  小作料率は,実質的には,漸減していき,1945年 村農地委員会を関与させることにより,地主の一  には9%にまで低下した。小作料の金納化は,こ 方的な土地取上げを抑止する方向での改正が意図  のような戦時中の統制を背景として行われたので

されたのである。もっとも,以下のような問題点  あり,これにより小作料の大幅な低下を法制上も が存在した。すなわち,第一には,本条では,解  実現せしめることになったのであるの。第二に,

約および更新拒絶のみが問題とされており,解除   小作料の金納化は,地主一小作人間の関係を金銭 についての規定ではないため,小作料等の債務の  的・契約的なものとすることによって両者間の身 不履行を理由とする解除は,本条の制限を受けず,  分的関係を消滅せしめるとともに,賃借人を独立 民法541条の処理に委ねられることになる。した  の農業経営者たらしめる(8)。和田政府委員は以下 がって,「小作人ニシテ小作料ヲ滞納致シマスナ  のように述べる。「ソコデ今度小作料ヲ金納二致 ラバ,如何ナル事情ノ下二滞納ヲ致シマシタ場合  シマスナラバ,農業経営ヲ致シマス上カラ言ヒマ 二於キマシテモ,更二相当ノ期間ヲ定メテ催告シ  スレバ,常二貨幣計算デヤッテ行ク訳デアリマス,

テ,然ル後二之ヲ解除スルト云ウ,民法ノ解除ノ  サウ致シマスルト,小作料ヲ結局貨幣二決メタ,

      ●     ●     o

rハ矢張リ開カレテ居ルノデアリマス」㈲。第二  其ノ小作料ヲ適正ナ小作料ニスルコトガ,経営者

       .   ●   ●   ●   ・   ・   .   ・   O   o       り   ●   ●   ■   ●   ●   ●   ●   .   ・   .

ヘ,9条3項の改正により,解約または更新拒絶   ノ立場二立ッテ言ヘバ,経営ヲシテ行ク上二非常

       ●   .   o   …      o   ■   ●   ■   ■   ●   ●        ■   ●   ●   o   …      o

ノついては,市町村農地委員会の承認を要するこ  こ妥当ダト思フノデアリマス,殊ニソレニ依リマ ととなったが,かかる承認を受けずに解約等の行  ジ÷,経膏者分ニラン独立的チ経壼者ン立場ラ十

       ・     …      ●     ●     O     O     O     o     ●     ●

ラをした場合,罰則は受けるが,当該行為の私法  分執リ得ルト考ヘマスノデ,小作料ノ金納ヲヤッ 上の効力は,何の影響も受けず,有効であると解   タラ宜イト考ヘルノデアリマス」(9)「物納ヲ金納 されることである(6>。したがって,一この点におい  ニシマスル理由ハ,……(中略)……要スルニ小

       ,     ・     ・     ●     ●     ■

ト,地主の土地取上げに対する抑止的効果は著し  作料ト云フモノヲ適正化シマシテ,小作人ノ企業

       ・   ●   o   ■   ●   ●   ■   o   ●   ●

ュ減殺されることになる。改正法案は,ある程度  心ト云フモノヲ興シテ増産二挺身サセルト云フコ の賃借権の強化を実現してはいたが,以上のよう  ト」(1°)(但し傍点は筆者)。

な不充分な点をも内包していた。これらの改正は   次に,小作料の統制についてであるが,これは,

第二次農地改革以降に持ち越されることになる。  1939年に公布された小作料統制令を実質的に継承 最後に,小作料に関する規定である。これにつ  したものであり,これにより,小作料は一定の額 いては,小作料の金納化と小作料の統制に関する  または減免条件よりも賃借人に不利な額または減 規定がその内容とされている。前者は,本改正案   免条件をもって,契約し,支払いまたは受領する で新設された規定である。すなわち,小作料は,  ことが禁じられた(9条ノ3−9条ノ8)。この 金銭以外の物を以てまたは金銭以外の物を基準と  点は議会において大きな論点とはなっていない。

してこれを契約し,支払いまたは受領してはなら   以上のような内容を有する農地調整法改正法案 ない(9条ノ2・1項本文)。小作料の金納化に  は,結局,1945年12月19日に成立する。しかし,

(6)

64      茨城大学政経学会雑誌 第65号

結局GHQが,改革の不充分性を主張して,改革   保有面積の縮小や政府買収方式などをその主要な に反対したため,第一次農地改革は挫折した(1 )。  内容としているが,賃貸借に関しては以下のよう 以後,日本政府はGHQの指導の下に,第二次農  な具体的提案を行っている。すなわち,(1)賃貸借 地改革の着手を余儀なくされることになる。    は,小作料の額と契約期間を明示した文書契約に よりなされること,(・・)最高小作料は,水田につい

(2)連合国の意図       ては年間生産額の25%,畑については15%を超え

(a) GHQの見解       てはならないことである(15)。

ここで第二次農地改革の検討を開始する前に,    (b)対日理事会の対応

GHQ(General Headquarters.連合国総司令   GHQの意向が明確になった後は,舞台は,対 部)の動きを見ておこう。第二次農地改革に関し  日理事会に移った。連合国最高司令官が対日理事 ては,GHQの及ぼした影響が極めて大きく,し  会に対して農地改革に関する意見を求めたからで たがって,GHQが農地改革と賃貸借との関係を  ある。

いかに考えていたかを知ることは,重要であると   理事会の討議で重要なものは,英連邦代表の提 考える。       案であり,これが後の第二次農地改革の骨格をな 第一次農地改革に対するGHQの正式な批判は,  している。5月29日には,第5回理事会において,

1946年3月11日に初めてなされたが,GHQ内部  英連邦代表が,正規の提案に先立ちメモを配付し では,既にNRS(Natural Resources Section.  ているが,小作地に関しては保有限度を3町歩以 天然資源局)が,当時の計画の欠点と修正点を記  下にすべき旨を主張し,賃借権については以下の

したメモを作成して,CIE(Civil Information  ように述べている。

and Education Section.民間情報教育局)に送っ    「三,賃借人の地位は,以下の点を強制する立 ている。それには,在村地主の小作地保有面積を  法によって保護されるべきである。

縮小すべきこと等のほか,賃貸借については以下   1 公正な小作料

のように触れている。すなわち,「(第一次農地改   2 賃借人の希望による小作料の金納 革案では……筆者注)小作料の金納化以外に賃借    3 文書化された賃貸借契約

権(tenancy)の現行の不充分な条件を改善する   (注)たとえ改革が完全に効率的に行われたと

●     ■     ●     ●     ●

ための何らの規定もおかれていない。賃借地を完   しても,賃借人の経営(proprietorship)の問題

o     o     ●     ●     ●     ●     ●     o     ●     ●     ●     o     唇     欄     欄     o     ●     ●      ●     ・     .

全に消滅させることは不可能でもあるし,望まし  は,すべての(土地の)移転が完了するまでは数

●     ●     ●     ●     り     ・     ・     .

くもないであろう,賃借人の経済的条件を改善し,  年間は残存するであろう。部分的に効率的な改革 かつ彼に保有の安定を保障するためには,新たな  であれば,……(中略)……多数の賃借人が残る 法案が必要である」(12)(但し傍点は筆者)。すな  であろう。それ故,賃借権の諸条件を改善するた わち,ここでは,賃貸借の容認および容認された  めの努力をすることが重要である。」⑯

賃借権に関してその強化・安定化が主張されてい   この条項においては,小作地の残存は必ずしも る。そして,賃借権の強化の具体的内容としては,  積極的に容認されているわけではないが,不可避

(・)最高小作料を現行水準の2分の1ないし3分の  的であると考えられており,残存した小作地に関 2へ引き下げること,(ii)賃貸借契約を文書化し,  しては,前述のような保護が与えられるべきだと 賃貸借期間を明示することが挙げられた(13)。    されている。

さらに,NRSは,第一次農地改革の修正意見   英連邦案のこのような姿勢は,6月12日に開催 を5月9日に参謀長に対して送っている。これは,  された第6回理事会におけるイギリスによる詳細 NRSのみならず, GHQの関係各局の一致した  な農地改革案において明瞭に変化した。

提案であるといわれており(14),在村地主の小作地    「在村地主の所有しうる小作地の最大限の面積

(7)

り     ■     o     o     ●

は,1町歩まで縮小されるべきである。……(中  は,第一次改革と同様にすべての小作地が買収さ 略)……1町あれば概して,日本の1家族を養う  れるが,在村地主の保有限度は,北海道4町歩,

●     ・     ・       9     ●

ことができるであろう。賃貸借(tenancy)の廃  都府県平均1町歩に縮小されたのである(3条1

o     ・     .     o     ・     ●     o     o     ■     ■     ●     ●     ●     ●     ●     ●

止を主張することは性急に過ぎよう,賃借人が残  項1号および2号)(22)。

存する限り,彼らは家族を養うに足るだけの土地   さて,本稿での問題は,本法案において認めら を耕作する権利を有するべきである」(17)(但し傍  れた在村地主の保有し得る小作地について,いか 点は筆者)。すなわち,ここにおいては,保有限  なる意義が付与されていたかという点である。

度が1町歩にまで縮小されると同時に賃貸借の存   和田農相はいう。「私ハ其ノ場合二於テモ,或 在は積極的に容認されている(18)。そして,容認さ  ル程度ノ小作制度ハ,小作制度自体が,合理的ナ,

れた賃借権については,(・)最高小作料の規定と,  適正ナ,小作人其ノモノノ耕作ト云フモノノ安定

(・1)賃借人の保有の安定と有益費償還請求権を保障   サレマシタ,又小作料其ノ他ノ点二付テ合理的ナ する文書契約,の2点を要求している(19)。     制度デアリマスナラバ,小作制度ト自作農制度ガ 以上が,GHQおよび対日理事会の賃貸借に対  併存シマスコトハ,自作農ト云フモノガ大キナ主 する意向である。連合国内部では,農地改革にお  流ヲ成シテ居ル限リニ於テハ,サシテ支障ノナイ いて,賃貸借の廃止は基本的には意図されておら  一ツノ農業制度ダ,斯ウ考ヘテ居ル次第デアリマ ず(2°),その存続と賃借権の強化の姿勢が一貫して  シテ……(以下略)……」㈲(但し傍…点は筆者)。

いたことを確認することができよう。連合国のこ  ごこでは,小作制度が自作農制度と並存すること のような態度は,後に日本政府により行われた第  について,「支障ノナイ」ものとして,小作の存 二次農地改革の性格を規定していくことになる⑳。  在を多少積極的に評価している。そして,和田農 相は,以下の点に小作の意義を積極的に評価して

(3)第二次農地改革      いる。「是ハ日本ノ資本主義ト云フ立場二立ッテ GHQが6月28日に和田農相に農地改革に関す  土地制度ヲヤル以上ハ,ドウシテモ其ノ限度ノ小 る覚書を示して以来,日本政府は,この覚書の内  作制度ヲ残シテ置クト云フコトハ,経営ノ上デノ 容に沿った第二次農地改革案の作成に着手した。  『フレキシビリティ』ヲ認メルト云フ点カラ言ッ 今回の改革案は,自作農創設特別措置法案および  テ私ハ必要ダト思ヒマス,……(中略)……私ハ,

農地調整法改正法案から成り,前者は,政府買収   却テ,自作ト云フモノヲ主ニシテ,或ル程度ノ小

●     o     ■     ●

方式による自作農創設に関する規定を中心とし,   作制度ヲ残シテ置クト云フコトノ方ガ,経営ノ面

・     .     ●     .     .     ・     ・     …      o     の      ■     ●     o     ●     ●     o     o     ●     o

後者は,小作関係の調整と農地委員会に関する規  カラ言ヘバ弾力性ガアッテ,良イ面ガアルノデハ

o     ●     ●

定の改正をその内容としている。本法案は,8月  ナイカ……(中略)……成程,現在ノ状態二於テ 6日に閣議決定され,9月7日から国会での審議   一町歩ノ保有ヲ認メテ居ルト云フ点二於テ,自作 が開始された。以下,本稿においては,第二次農   農ノ創定ト云フ面カラ言ヘバ,是ハ御話ノヤウニ 地改革における賃貸借の扱いに焦点を絞り,法案  全部ガ自作地ニナラナイノデアリマスカラ,不思 の内容および議会での審議経過を中心に検討して  議ダト言ヘルノデアリマスケレドモ,其ノ観点ダ いきたい。      ケヲ貫クコトハ出来ナイノデハナイカ」似)「併シ

(a) 自作農創設特別措置法案         ナガラ私共ガー町歩ト云フモノヲ全部取ッテシマ 本法案は,第一次農地改革における自作農創設  ヒマシテモ,日本ノ社会ガ将来種々変化ヲ致シマ を徹底させ,(i)政府が地主から土地を買収し,こ  スル其ノ変化ヲ考ヘマスナラバ,ソコニ労力ノ変 れを賃借人に売り渡す,いわゆる政府買収方式を  化二依リ,或ハ技術ノ変化二依リマシテ,経営面 徹底せしめるとともに,(ii)地主の小作地保有面積  カラ見マシテドウシテモ小作制度ト云フモノヲ必 を縮小させている。すなわち,不在地主について  要トセザルヲ得ナイ事態ガ来ルノデハナイカト思

(8)

66       茨城大学政経学会雑誌 第65号

フノデアリマス……(中略)……是ハ経営面二於    定である。改正点及び注意すべき点は,以下の キマスルーツノ裕リト言ヒマスカ,其ノ点カラ小   通りである。

作制度ノ併存ト云フコトハ,完全ナ所二立チマセ     第一に,第一次農地改革時における農地調整 ヌ限リハ,己ムヲ得ナイコトデアラウト考ヘルノ   法改正においてもなお残存していた2つの問題 デアリマス」闘(但し傍…点は筆者)。このように,   点が解決された。すなわち,1つは,従来は,

本法案においては,農業経営に弾力性を持たせる   小作料等の債務の不履行を理由とする解除は,

という意味で小作制度を必要不可欠なものとして    9条の制限を受けず,民法541条の処理に委ね 捉えており,自作農創設を中心としつつも,小作   られると解されていたのに対し,本改正案では,

      ● ノも積極的意義が与えられていることに注意しな   9条の条文に「解除」を挿入し,「賃貸借の解       ●

ッればならない。小作制度に対するこのような評   除若ハ解約ヲ為シ又ハ更新ヲ拒ムコトヲ得ズ」

価は,前述した連合国側の意図一小作制度は,    (但し傍点は筆者)とした。これにより,当事 小作条件の改善を図った上で残すべきという意図一   者の債務不履行を理由とする賃貸借契約の解除 一を忠実に継承したものであるといえよう。本法   も9条の規定により規制されることになったの 案においては,小作制度は,「望ましからぬ悪」   である。また,もう1つは,従来,市町村農地 であるどころか,むしろ必要不可欠なものとして,   委員会の承認を得ずになされた解約等の行為に 積極的意義を付与されていたのである。       ついては,私法上は有効であると解されていた そして,残存する小作制度の内容については,   が,これでは,地主の土地取上げの抑制に効果 合理的なものとすることが意図されており,ここ   がないため,このような行為を無効とする規定 にも連合国の影響を看取することができよう。和   を新設した(9条4項)。以上の改正により,

田農相は,以下のようにいう。「唯小作制度ガ残    賃借権は,より安定した権利となり,賃借人の リマスが故二,然ラバ小作制度ノ点二付テハ放置   農業経営のより一層の安定が図られたのである。

シテ置クカト言ヘバ,ソレハサウデハナクシテ,    第二は,条文の改正ではないが,本法案の附 残存スル小作制度二付テハ,何処マデモ之ヲ合理   則において,9条3項に規定する市町村農地委 的ナモノニ致シテ行クト云フコトヲ,今度ノ法律   員会の承認を,本法施行後勅令で定める時期ま 改正二於テモ考ヘタ次第ナノデアリマス」(26)(但   では,地方長官の許可に代えるとされた。これ し傍点は筆者)。      は,当時の農村における地主一小作人の力関係

(b)農地調整法改正法案      を考慮した場合,地主の土地取上げの公正な判 以上のようにしてその意義を認められた小作制   断は,これを市町村農地委員会よりも地方長官 度については合理的な制度に改めるべき旨が意図   に委ねた方が良いという考慮に基づくものであ され,そして,小作制度の改正は,農地調整法の   る。この時期は繰り返し延長され,農地法20条 改正という形式によりなされた。本改正法案は,   へ継承されることになる。

基本的には,第一次農地改革における小作制度改     第三は,これも条文の改正ではないが,9条 革を,より一層徹底させるものであるということ   1項にいう「自作ヲ相当トスル場合」の内容が ができよう。第一次農地改革案と異なる点は,(i)   本改正法案において明確にされたことである。

小作契約の解約の制限を厳格にし(9条),(i・)小    この点については,国会審議でも質疑の焦点の 作料の最高額に関する規定および契約の文書化に   一つとなっており,山添政府委員は以下の通り 関する規定を新設した(9条ノ8および9条ノ10)   述べる。「先ヅ第一二誰ガ耕シタ方ガ能率ガ上 ことである。       ルト同時二,小作人ノ方二於キマシテモ其ノ小

①解約等の制限       作地ヲ返還致シマシテモ差支ヘナイ,生活二直 最初に,小作契約の解約等の制限に関する規    チニ困ルト云フヤウナ事情ハナイ,斯ウ云フ両

(9)

面カラ致シマシテ差支ヘナイ,又生産力ノ点力    の点は,本改正法案においても,立法上何らの ラ言ヘバ望マシイト云フ場合二,正当ナモノト   措置もとられておらず,また,行政当局の見解 云フ風二解シテ居ルノデアリマス」(27>。すなわ   も一致していなかった。すなわち,農林省は,

ち,「自作ヲ相当トスル場合」とは,(・)地主に   合意解約も本条項の適用を受けると解していた 耕作能力が備わっており,(ii)土地取上げによっ   のに対し(31>,司法省は,否定しており倒,この ても小作人の生活に支障をきたさず,かつ,価)   問題は,本改正案の問題点として残り,後の立 地主による耕作の方が生産力が高いという三条   法的解決に委ねられることとなった鮒。なお,

件を備えている場合を指すことになる囲。した   学説では,合意解約も,当事者間の真に自由な がって,地主が単に自作を欲しているというこ   合意でなされるとは限らず,地主の圧力の下に とのみでは,これに該当せず,これにより地主   なされることも多いことを理由に,合意解約も の土地取上げが抑制されることになる。また,   9条3項の適用を受けるべき旨を主張する者が 逆に,《いかなる事情があっても,小作契約を   あった圃。

終了させることはできず,小作契約は半永久的    賃貸借契約の解約等の制限に関する農地調整 に存続することになった》と解釈することも誤   法改正法案をめぐる問題点は以上の通りである。

りである。この三条件の判断に際しては,「両   第一次農地改革時の改正法と比較すると,賃借 者ノ利益ト云フモノヲーッ上ノ立場カラ見テ,   権が強化されており,地主による一方的な土地

ドチラガ国ノ経済力ヲ上ゲル上二適当デアルカ   取上げは,本改正法案により,ほぼ不可能となっ ト云フ点カラ判断シテ居ル」(29>のである。し   たことは明瞭である。しかし,他方において,

たがって,「本当ノ意味二於ケル地主及ビ其ノ   地主による土地取上げに関しては,生産力の増 家族二於テ,自耕能力ガアリマスル場合二於テ   大という農業政策的見地も考慮すべきこととさ ハ,ヤハリ大キナ見地カラ見テ,其ノ者ガ現在   れており,必ずしも,地主一小作人間における ノ小作人ヨリモモット生産力ヲ上ゲル,而モ小   小作人の優位という視点からの賃借権の強化と 作人ノ側二於テモ多少ノ土地ヲ返シテモ他二換   いうことのみでは説明しきれない要素がそこに 地ガアルト云フヤウナ場合,家族ノ関係二依ッ   は含まれていることに注意する必要があろう。

テ差当ッテ困ラナイト云フヤウナ有恕スベキ事    ②小作料の最高額の制限および小作契約の 由ガアリマス時ハ,ヤハリ此ノ程度ノモノハ之     文書化

ヲ認メマスコトガ,社会的ノ正義ノ点カラ云ヒ     農地調整法改正法案において,その他に新設 マシテモ宜イノデハナイカ」〔3°)ということに   された規定は,小作料の最高額の制限に関する なる。9条1項の「自作ヲ相当トスル場合」と   規定(9条ノ8)および小作契約の文書化に関 は,以上のような内容を与えられていたのであ   する規定(9条ノ10)である。これらの規定は,

る。かかる解釈によって,地主の一方的な土地    前述のように,GHQおよび対日理事会が強調 取上げは抑制されると同時に,いかなる事由に   していたものであり,連合国の意向がここにも

よっても取上げられない「半永久的な」耕作権   強く反映されている。

が小作人に認められたことにもならないことは,    まず前者についてであるが,本条は,経済事 注意されねばならない。      情の変動により,農産物価格が将来下落した場

第四に,9条3項は,「賃貸借ノ解除若ハ解   合の規定である。すなわち,小作料が,田の場 約ヲ為シ又ハ更新ヲ拒マントスルトキハ」市町   合は通常収穫される価額め25%,畑の場合は15 村農地委員会の承認(当分の間は地方長官の許   %を超えるときは,農地の賃借人または永小作 可)を必要としているが,合意解約の場合も本   人は,その農地の所有者または賃貸人(転貸の 項の適用を受けるのか否かが問題となった。こ   場合)に対して,その額までの小作料の減額を

(10)

68       茨城大挙政経学会雑誌 第65号

請求することができる(9条ノ8・1項)。    によればこの保有限度には一定の積極的意味はあ 後者は,契約の文書化により当事者間の権利   るが,それは冷戦の対応策としての政治的意義で 関係を明確化して,地主の恣意的行動を許さな  しかなく,農地政策としてみた場合には何の合理 いことを目的とする小作人保護の規定である。  性もない,ということになる。さらに2つ目とし すなわち,農地の賃貸借または永小作について   ては,㈲経営にフレキシビィリティをもたせるた は,書面により小作料の額,支払条件および減   めに小作制度が必要であるならば,現在の一定限 免条件,存続期間,修繕費,用排水費および有  度での小作地保有も論理的に根拠づけうる,とい 益費の負担その他賃貸借または永小作の内容を  う主張である。すなわち,小作制度に一定の積極 明確にしなければならないとされている(9条  的意義を認めるのならば,たとえ農地改革時に保 ノ10)。      有限度を認めずに全面解放をしたとしても,将来

以上の両者とも,賃借権の強化に資する規定  的には1町歩の限度での小作地がいずれにせよ発 であることはいうまでもない。         生することになるのであるから,賃貸借規定が賃

農地改革2法案は,結局,1946年10月11日に   借人の経営の安定性を保障する内容さえ備えてい 成立し,10月21日に公布された。わが国の農地   るのならば,農地改革時に全面解放をする意味は 改革は,本法の実施により一挙に推進されるこ  なくなり,したがって,1町歩の限度で在村地主

とになる。       の小作地所有を認めてもよい,という主張である。

この見解は,農地政策上の観点からも一定の小作

(4)検  討       地保有を積極的に肯定するものであり,学説上は 農地改革の以上のような経過を通じて,農地改  かかる見解の提唱者はいないようであるが論理的 革時の立法者意思としては,《自作農創設を中心   には整合的な考え方であるといえよう。この見解 としつつも小作制度に対しても一定の意義を認め,  によれば,農地改革時に買収されなかった小作地 そのために小作制度を合理化する》というもので  についても,農地改革後に生じた新たな小作地と あった。そして,このことを確認した上で,以上  同様な賃借権の保護が与えられるならば両者はと の分析からさらに次の点について触れておかねば  くに区別する必要はなく,したがって,農地改革 ならない。       時に全面解放する必要性もないことになる。

まず第一に,第二次農地改革においても一定の   以上の計3つの見解のうちいずれが立法者の見 限度で在村地主に認容された小作地所有をいかに  解であったか。本稿のこれまでの検討からする限 考えるかという問題である。これについては,い   り,(・)の消極説は少なくとも第二次農地改革にお くつかの仮設を立てることができる。まず最初に,  ける連合国および日本政府の提案や答弁をみる限

(i農地改革においては全小作地について買収・解   り正当とは思われない。そこで,(・・)および㈲の積 放がなされるはずであったが,技術的その他の消  極説が残るが,このいずれが正当であるかは現在 極的ないしやむをえない理由で一定の保有限度を  の筆者には不明である。(n)をとる論者は,小作制 認めざるをえなかった,といういわば消極的認容   度は労働力調整的観点からは必要という政府委員 論である。これに対して,立法者は一定の保有限  の説明の仕方は,農地改革で何故一定の保有限度 度をむしろ積極的に容認していたとする見解も成  を認めるかという問いに対する解答になっていな り立ちうる。この見解はさらに2つに分かれ,そ  いと批判するのであるが圏,㈲のように考えるな の一つは,(u)連合国内部の米ソ対立を反映して小   らば解答として論理的には成立しえたというべき 作地の全面解消を主張するソ連案に対抗するため  である。とはいえ,もし仮に連合国側が㈹の見地 米英がいわば政治的シンボルとして保有限度を認  から小作地の残存を認めていたとしても,日本の めた,という見解(35>である。したがって,この説  当時の状況を考えるならば,農地改革時までに存

(11)

在した地主一小作関係と戦後新たに生じた小作関  地調整法一ひいては農地法一の賃貸借規定があ 係とを同一のレヴェルで捉えることはやはり適切  る局面においてはアンヴィバレントな一面をもた ではなかったと考えるべきであろう。この意味で  ざるをえなかった最大の理由がある。

㈹の見解は立法者意思の推測という点では一つの

仮説足りえても,現実的基礎を欠く考え方である   (1)たとえば,大和田啓気『秘史日本の農地改革』

ということができる。       (日本経済新聞社,1981年)60頁。もっとも間接 第二に,以上のように考えるならば,いずれに     的にはポッダム宣言の影響を受けていたといえよ せよ小作地保有は何らかの積極的理由によって認     う。

容されたことになる。とするならば,農地改革残   (2)農地改革資料編纂委員会『農地改革資料集成』

存小作地の賃借権がとくに強く保護されなければ     (以下『資料集成』と略称)1巻,290頁。

ならない理由として,《農地改革が全面解放を本   (3)この間の経緯につき東畑四郎『昭和農政談』

来意図していたという理由で本来解放されるべき     (家の光協会,1980年)53頁以下参照。

であったから》と説明することは正当ではない。   (4) 「賃貸人ノ自作ヲ相当トスル場合」の意味につ 農地改革は,理由はともあれ意図的積極的に小作     いて,和田政府委員は,次のように述べる。「小 地を残存させたのであった。とするならば,残存     作人ノ側二於テモ,土地ヲ少シ位返シテモ,他二 小作地がとくに強く保護されるべき理由は,当該     代地力何カアッテ構ハナイト云フ事情ガアル場合 小作地が市町村農地委員会の作成した買収計画に,    デアル,モウーッハ,地主ガ耕シタ方ガ小作人ガ 小作人の責によらずにたまたま載せられなかった     耕シテ居ルヨリモ,モット増産ニナルダラウト云 という点に求められるべきである。すなわち,当     フ,サウ云フ事情ガアリマセヌト,唯地主ガ飯米 該小作地がたまたま残存すべき範囲に入れられて     ヲ得ル為二返セト云フコトニハ参ラナイ」(r資料

しまったという事情である。残存小作地はかかる     集成』1巻,422頁)。

意味で,他の解放対象となった小作地と比較して,   (5) 『第73回帝国議会貴族院農地調整法案特別委員 小作人の帰責事由なしに不公平な扱いを受けるこ    会議事速記録』12号,10頁(但し,本資料は,小

とになるので,その賃借権はとくに強く保護され     倉武一r土地立法の史的考察』(農業総合研究所,

るべきなのだということになる。       1951年)より引用した)。

第三に,農地改革における今一つの柱である農   (6)我妻栄・加藤一郎r農地法の解説』(日本評論 地調整法の改正を通じての賃借権の強化は,以上     社,1947年)251頁。

述べたような意味での残存小作地の小作権の強化   (7)以上につき詳細は,我妻・加藤・前掲書260頁 をその一つの一当時としてはむしろ主要な一     以下参照。

目的としていたことである。すなわち,農地改革   (8)我妻・加藤・前掲書262頁。

において意図された「合理的な小作制度」は,労   (9) 『資料集成』1巻,229頁。

働力調整的機i能を果たしうるものであると同時に,   (10) r資料集成』1巻,420頁,その他同479頁の和 当時瀕発していた地主による小作地取上げに対処     田発言を参照。

し,さらに改革を通して残存させられる小作地の   (11)この間の経緯につき,農地改革記録委員会膿 耕作権を保護する内容を同時に有することを要請     地改革顛末概要』(農政調査会,1951年)121頁以

されたのであった。このように,一方では新規の,    下参照。

自作農主義の補充的補完的存在として展開するこ   (12)NR403(9.Mar.1946)A, Rural Land とが期待される賃貸借と,他方での農地改革にお     Reform 3・e.(『資料集成』14巻,131頁。)

いて残存せしめられた賃貸借との両者に対応する   (13)NR403(9.Mar.1946)A, op。 cit.,4・e.

賃貸借制度を作らなければならなかった点に,農    (r資料集成』14巻,132頁。)

(12)

70      茨城大学政経学会雑誌 第65号

(14)大和田・前掲書113頁。      (26) 『資料集成』2巻,330頁。

(15)NR601.1(9.May 1946)A, Revision   (27) 『資料集成』2巻,1048頁。

of Japanese Proposal for Rural I.and.Re−   (28)なお,この三条件は,本法成立後,施行令11条

form 3・b・(6)(7).(『資料集成』14巻,163頁。)     に規定されるに至った。施行令11条においては,

(16)Allied Council for Japan, Agenda of the     以下のように規定されている。「市町村農地委員 Fifth Meeting Art.3−Rural Land Reform.    会農地ノ賃貸人ノ自作ヲ相当トスルコトヲ理由ト

(『資料集成』14巻,181頁。)      シテ農地調整法第9条第3項ノ承認ヲ為サントス

(17)Allied Council for Japan, Agenda of the     ルトキハ当該賃貸人ガ自作ヲ為スニ必要ナル経営 Sixth Meeting(5)a−Rural Land Reforrn.     能力,施設等ヲ有スルヤ否,当該賃貸人ノ自作二

(『資料集成』14巻,189頁。)      因リ当該農地ノ生産ガ増大スルヤ否,賃貸借ノ解

(18)なお,第7回理事会において,ソ連代表が新た     除,解約又ハ更新ノ拒絶二因リ当該農地ノ賃借人 な農地改革案を示しており,それには,小作制度     ノ相当ナル生活ノ維持ガ困難トナルコトナキヤ否 の廃止が唱われていたが,イギリスおよび中国に     等ノ諸般ノ事情ヲ考慮スルコトヲ要ス」

より反対された。Allied Council for Japan,   (29) 『資料集成』2巻,1049頁。

Verbatim Minutes of the Seventh(Special)   (30) 『資料集成』2巻,1050頁。

Meeting.(『資料集成』14巻,208頁。)       (31)第90回帝国議会貴族院自作農創設特別措置法案

(19)Allied Council for Japan, Agenda of the     特別委員会(第3回)における山添政府委員の答 Sixth Meeting(5)j−Rural Land Reform.    弁(『資料集成』3巻,133頁)。

(『資料集成』14巻,192−193頁。)      (32)第90回帝国議会衆議院自作農創設特別措置法案

(20)ただし,ソ連を除く。前註18参照。      外一件委員会(第17回)における奥野民事局長の

(21) 6月28日には,NRSのスケンク局長から和田      答弁(『資料集成』2巻,1094頁)。

農相に,覚書案が示されたが,そこでは以下の点    (33)1947年9月18日に第1回国会に提出された農地 が指示された。(i濃産物価格が下落した場合でも,     調整法改正法案においては,合意解約も知事の許 小作料は,生産物価額の,田では25%,畑では15     可を受けるべき旨が,条文上明確にされ,この間

%以下とする。(ii)小作料に関する合意は,すべて     題に終止符が打たれた(9条3項)。

書面で行い,小作料と存続期間を明確にする。    (34)我妻・加藤・前掲書249頁。

Plans Submitted to the Cabinet, Essentia1   (35)暉峻衆三『日本農業問題の展開(下)』(東大 Points of Measures for Completeness of     出版会,1984年)434頁。

Agricultural Land Reform 21・(1)(2),(『資   (36)暉峻・前掲書433−434頁。

料集成』14巻,319頁。)

(22)その他,第一次農地改革では,小作地のある所   3 農地法における賃貸借

の隣接市町村に住所または居所を有する者は,在   農地改革においては,賃貸借は以上のような位 村地主とされたが,新法では,隣…接市町村でもこ  置を占めていたが,それは農地法においてはいか

く一部に限られることになり,また,第一次農地  に扱われているか。

改革では,保有面積の計算の単位が個人単位であっ   農地法は,「自作農創設特別措置法」,「農地調 たものが新法では世帯単位となるなど(4条),   整法」および「自作農創設特別措置法及び農地調 解放される小作地の範囲が拡大された。     整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政

(23) r資料集成』2巻,329頁。         令(1)」を一つの法律にまとめ,農地改革の原則を

(24) 『資料集成』2巻,334頁。         保持し恒久化させるために,第13回国会に提出さ

(25) r資料集成』2巻,208頁。         れ,1952年7月7日に可決成立している。以下,

参照

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