安全保障管理貿易に扮した経済対抗措置 : 日韓半 導体材料問題について
著者 小川 健
出版者 法政大学多摩論集編集委員会
雑誌名 法政大学多摩論集
巻 36
ページ 115‑136
発行年 2020‑03
URL http://doi.org/10.15002/00023164
安全保障管理貿易に扮した経済対抗措置
~日韓半導体材料問題について~
小 川 健
*概要
西暦 2019(令和元)年 7 月初めに日本から韓国への輸出に際し、フッ 化水素を含む半導体材料などについて、当時「ホワイト国」と呼ばれて いた輸出管理の優遇措置を取り消し、輸出に際し軍事転用、特に武器輸 出禁止国への不正輸出などに繋がらないかの検査を約 15 年ぶりに再開し た。これにより半導体輸出が基幹産業の 1 つであった韓国は大きく動揺 している。ところで、日本側では主に貿易管理是正と捉えられているこ の措置について、韓国ではそのように取られていなく、経済対抗措置と しての貿易制限と捉えられている。本稿ではこの問題についてマスコミ 報道やネットニュースを中心に整理を行い、何故このすれ違いが起きる のか、学生への教育が可能な形まで整理することを試みる。
1.はじめに
日本の経済産業省は西暦 2019(令和元)年 7 月初めに、フッ化水素(HF)、
フッ化ポリイミド、レジストの 3 品目について韓国への輸出に関する優遇措置(旧 称:ホワイト国、現称:グループA)を解除する措置を発表した1。例えばHFにつ いて見ると、テレビ・スマホ・車など数多くのものを動かすために必須の半導体 を作る上で高純度のHF(エッチングガス)の水溶液であるフッ化水素酸(HF酸)
は欠かせないが、一方でHFは日本でも、オウム真理教(当時)のサリン事件な
* 社会学部・非常勤講師 (090)4255-1796 takeshi.ogawa.123 [at] gmail.com
〒 214-8580 神奈川県川崎市多摩区東三田二丁目 1 番 1 号 生田 9 号館 7 階 9710 号室
1 経済産業省(2019)「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」2019 年 7 月 1 日付
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190701006/20190701006.html
(2019 年 8 月 18 日接続)どで有名な毒ガスのサリンの原料になる「とされる」ので、化学兵器へと軍事転 用される危険性があり、他にも核兵器を作る上で欠かせない六フッ化ウランの原 料になる危険性もある。日本ではDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)を含む国連 で定められた国連武器禁輸国などへHFを含む「戦略物資」が迂回輸出される危 険性を考え、安全保障貿易管理の観点からこの措置を実施した2、とされる。
ところで、日本では「安全保障貿易管理」の枠組みで正当化されるこの措置に ついて、韓国ではそのようには受け止められていないとする報道が多い。韓国で 主に報じられているのは、2018(平成 30)年 10 月 30 日に(韓国で最高裁判所に 相当する)大法院で出た旧朝鮮半島出身労働者問題、いわゆる「徴用工」問題に 関する(日本側企業である)新日鉄住金への賠償確定の判決、及びその不履行に 対する強制執行に対し、日本側の経済対抗措置とする見解である。この問題を読 み解く上では、1965(昭和 40)年に結ばれた日韓基本条約及びその関連条約とそ の後の措置に関する理解、1910(明治 43)年に行われた日韓併合等に関する日韓 の理解の相違を読み解く必要がある。
実際に、日本側が韓国に期待した「輸出管理の厳格化」ではなく、韓国は日本 側の措置を不当としての対抗措置が中心となっている。韓国においても日本の旧・
ホワイト国に相当する優遇措置の解除、WTO提訴への示唆、そして日本からの輸 入無しでも半導体の製造が可能になるHF調達手段の確保などが主である。更に
は対DPRK(朝鮮民主主義人民共和国)における日韓での防衛上の情報共有にお
ける協定GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄(延長拒否)通告が 2019(令
和元)年 8/23(金)に韓国から日本に行われたため、その 90 日後には破棄され ることになる(後に継続へ変更)。韓国では当初、日本産製品に対する不買運動も 一部では実施されていて、2019(令和元)年 9 月時点で半導体の洗浄に使うHF の日本からの輸出は(一部再開されたものの)前年同月比 99.4%減の 372 万 3 千 円であっただけでなく、例えばビールの日本からの輸出も前年同月比 99.9%減の 58 万 8 千円であった3。
2 安全保障貿易管理については、経済産業省貿易管理部(2019)「安全保障貿易管理につい て 」2019 年 8 月 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminer/shiryo/setsumei_anpokanri.pdf (2019 年 10 月 31 日接続)を参照。
3 共同通信(2019)「ビール韓国輸出、9 月は 99%減 フッ化水素も」2019 年 10 月 30 日よ り。https://this.kiji.is/562094296414848097 (2019 年 10 月 31 日接続)
また、こうした「日本側の経済対抗措置」とする見解が出た理由として、世耕 経産相(当時)の 2019(令和元)年 7/3 のtwitterでの発言がある4。本来別個の問 題であった筈の両者の問題が交わるきっかけになった、韓国への輸出優遇是正に 関する経緯の説明の中で、経緯③として旧朝鮮半島出身労働者問題について触れ ている部分がある。今回の日本側の輸出優遇是正の措置を妥当としている元・経 済産業省の細川昌彦特任教授(中部大学)などの専門家でさえも、世耕大臣(当 時)のこの説明の仕方は問題視している5。
本稿では、こうした一連の流れについて、マスコミ報道やネットニュースなど を中心に内容を整理すると共に、何故ここまで日本側と韓国側の理解が分かれる 状況になったのか、サーベイ原稿として取り上げる。その上で、日本側の輸出優 遇是正措置を問題視する側からの見解を加える。
2.本稿で用いる基礎的用語解説
本稿で用いる基礎的用語は次の通りである。
2. 1.フッ化水素(HF)
今回 3 品目の中で最も注目された物質であるフッ化水素(HF)である。一般に はHFは民生用途として半導体(・太陽電池など)の材料になり、軍事用途とし て毒ガスであるサリンを利用した化学兵器の材料に、そして核兵器開発に欠かせ ないウラン濃縮をし易くする 1 つに六フッ化ウランがあるが6、HFはこの六フッ 化ウランの材料になる7、と説明される。
半導体では「エッチング」と呼ばれる高純度(99.999%以上)のHFが必要であ り、ステラケミファというHFの水溶液であるフッ化水素酸の高純度のものを提 供している会社の説明では、「フッ化水素酸はシリコン酸化膜をエッチング除去す
4 世耕弘成(2019)の
https://twitter.com/SekoHiroshige/status/1146392569737121792?s=19
(2019 年 10 月 31 日接続)5 例えば細川昌彦(2019)「補足解説 2:誤解だらけの『韓国に対する輸出規制発動』」2019 年 7 月 5 日を参照。https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00015/ (2019 年 10 月 31 日接続)
6 例えば日本原燃「ウラン採掘から発電までの流れ」https://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/
uran/summary/flow.html
(2019 年 8 月 18 日接続)を参照。7 例えば https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_04-04-02-01.html (2019 年 8 月 18 日接続)
を参照。
る特質を持っており、半導体シリコン基板の洗浄プロセスの中でも不可欠な微細 加工技術です。」とされている8。純度の低いものはロシアや中国大陸などでも製造 されるが、朝鮮日報によると次のような説明がなされている9。
実際には産業全般においてさまざまな用途に使われる一般的な化学物質だ。
(中略)だが、このようなフッ化水素は 99.9%以下の低純度製品だ。こうした 製品は韓国はもちろん、中国・台湾・インドでも作られている。一方、半導 体製造工程用のフッ化水素は 99.999%以上の超高純度製品で、サムスン電子 やSKハイニックスなどに納品している日本のステラケミファや森田化学工 業が世界市場を掌握している。
関連してロシア産のフッ化水素についても、元経済産業省官僚の宇佐美典也氏は
「最先端半導体ラインがない国に、使い物になる超高純度フッ素があるとは思えな い」と疑問の声を挙げている10。
六フッ化ウランの形をとって濃縮するのはウランの中でも核分裂し易いウラン 235(U235)であり、天然で 0.7%位、原発用で 3-5%位であるが、広島原爆「リト ルボーイ」にも使われたような核兵器には 20%以上に濃縮した高濃縮ウランを用 いることが知られている11。
しかし、筆者の調べた限り、今回最も重要な点である「HFがサリンの原料にな る」ということを日本語で説明したオンラインのものはほぼ全て12、その基を辿る
8 ステラケミファ株式会社「超高純度フッ化水素酸」
https://www.stella-chemifa.co.jp/products/
cat1/01.html
(2019 年 8 月 18 日接続)9 朝鮮日報(2019)「輸出優遇除外:ロシアのフッ化水素供給提案に韓国業界は困惑」2019 年 7 月 13 日 http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/07/13/2019071380010.html (2019 年 7 月 16 日接続)を参照。
10 アゴラ編集部(2019)「韓国にロシアが「半導体材料」供給提案:反安倍と親安倍の評価 が真っ二つ!」2019 年 7 月 14 日 http://agora-web.jp/archives/2040301.html (2019 年 8 月 19 日接 続)を参照。
11 例えば
The Asahi Shinbun Globe+
(2019)「原発から核兵器はつくれる? 「核とエネルギー」を理解する 3 つの
Q」2019 年 8 月 4 日 https://globe.asahi.com/article/12595730
(2019 年 8 月 18 日接続)を参照。12 例外としては魚屋太平(2019)「韓国への輸出規制、政治、経済的観点ではなく軍事的観 点から見てみた」魚屋太平の海国兵談 2019 年 8 月 4 日版 https://kaikokuheidan.com/452.html
とWikipediaの「サリン」の「合成及び製造」に辿り着く。Wikipediaの「サリン」
の「合成及び製造」には次のようにある13。
サリンの合成は、有機リン化合物合成における手法を通じて行われる。具 体的には、三塩化リンなどのリン塩化物から亜リン酸トリメチルを合成し、
さらにメチルホスホン酸ジメチルを経て、メチルホスホニックジクロライド とフッ化水素(HF)またはフッ化ナトリウム(NaF)を反応させることによ りメチルホスホニルジフルオリドを得る。これがサリンの最終前駆体となる。
メチルホスホニルジフルオリドにイソプロピルアルコールや金属イソプロピ ル化物を反応させるとサリンが生成する。
この説明の基になっている米軍の 2005 年の 318 ページの資料によると14、その 183 ページ目にあるE-3 の資料に表の形でPrecursor Chemicalつまり変換される前のも のの欄の 24 番の所にHydrogen fluorideつまりフッ化水素が挙がっていて、対応す るCW Agent Productionつまり生産されるものの欄の 1 つにはSarin(サリン)と 挙がっている。
関連して、HFを「サリンの原料として」説明して輸出管理の政策変更に触れた ことについて、韓国では疑念の声が出ている。日本から韓国に 2019 年前半当時輸 出していたHFは高純度であるが、サリンの生成に使うHFは低純度でも構わない ため、中央日報では化学系の専門家の言葉を用いて「あえて高いうえに手に入れ ることも難しい日本産高濃度のフッ化水素を該当目的で使う理由がない」として いる15。それにも関わらずこのような説明がなされる理由として、1994 年の松本サ リン事件、1995 年の地下鉄サリン事件などオウム真理教(当時)が引き起こした サリンによるテロ事件を念頭に、ハンギョレ新聞では「WTO協定違反の指摘を回
(2019 年 8 月 18 日接続)にある「メチルホスホニックジクロライドとフッ化水素(HF)を反 応させることにより精製される物質が、サリンの原料になります。」の一文のみの説明がある。
13 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%B3 (2019 年 8 月 18 日 接 続)を参照。
14 “POTENTIAL MILITARY CHEMICAL/BIOLOGICAL AGENTS AND COMPOUNDS,” https://
fas.org/irp/doddir/army/fm3-11-9.pdf (2019 年 8 月 18 日接続)を参照。
15 中央日報 2019 年 7 月 10 日「日本、経済報復の世論戦のために自国民のトラウマ『サリン』
まで活用」
https://japanese.joins.com/article/390/255390.html
(2019 年 8 月 19 日接続)を参照。避でき “オウム真理教トラウマ” 刺激し世論に有利」との指摘がある16。
なお、一部報道によると「HFはVXガスの材料」との話が出ている17。VXガス は 1994-95 年にかけて当時のオウム真理教が襲撃に利用して死者が出ているだけ でなく、2017 年にマレーシアにて金正男氏殺害の際に使われたこともあり、化学 兵器になり得る毒ガスと言える。防衛大臣経験者の小野寺衆議院議員がこのHF とVXガスとの関係を指摘している面もあり18、ネットニュース上では事実と扱わ れている19。この面については、ファクトチェックを試みたYouTuberが、VXガス 作成の手順の 1 つにフッ化水素を利用した経路が机上では考えられることを示し たうえで、非常に回り道になることを示したうえで「『VXガスを作るのにフッ化 水素が使われているのか』と問われれば、『使われていることを示す資料はない。
使おうと思えば使えるかもしれないが、そうするメリットは不明』」として事実か 否か判断できなかったことは特筆の必要がある20。
2. 2.韓国(大韓民国)と DPRK(朝鮮民主主義人民共和国)・中国大陸
本稿では国名として韓国とDPRK、そして中国大陸という用語を用いる。本稿 で韓国と表記した場合は大韓民国を、DPRKと表記した場合は朝鮮民主主義人民 共和国を意味するものとする。中国大陸と表記した場合は中華人民共和国を意味 するものとする。正確には以下の通りとする。
本稿で韓国とは 1948(昭和 23)年 8/15 に、ソウル(現漢字表記:首爾)を首
16 ハンギョレ新聞 2019 年 7 月 11 日「韓国に対する輸出規制の論理に “サリン” を持ち出し た日本の狙いは?」
http://japan.hani.co.kr/arti/international/33859.html
(2019 年 8 月 19 日接続)などを参照。
17 例えば東京新聞 2019 年 7 月 5 日朝刊「安保理由に対韓国輸出規制 参院選…時期に疑問 も 」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201907/CK2019070502000142.html
(2019 年 8 月 19 日接続)によると「フッ化水素は、猛毒のサリンや神経剤VXなどの化学兵器の合成材 料に使われ、核兵器の製造工程でも用いられる恐れがあります。」とある。18 https://twitter.com/dappi2019/status/1147159038565634048 (2019 年 8 月 19 日接続)を参照。
19 例えばスポッピ「戦略物資とは?フッ化水素横流し疑惑の韓国は今後どうなるか?」2019 年 7 月 11 日 https://spoppi.com/hydrogen-fluoride-south-korea/ (2019 年 8 月 19 日接続)を参照。
20 「フッ化水素は毒ガス製造に使えるのか?(ゆっくり化学解説番外地 1)」https://www.
youtube.com/watch?v=5eCpKEKdk5A
(2019 年 8 月 19 日接続)を参照。筆者も調べた範囲では この点について確証を持った説明に行き着くことは出来なかった。なお、WikipediaのVX
ガ スのページにはフッ化水素に関する記載はない。都として李承晩(当時は臨時政府大統領)を中心に成立した国家・大韓民国を指 す。1919(大正 8)年 3/1 の三・一独立運動後の 1919 年 4/11 に成立した大韓民 国臨時政府を源流とする、という扱いが韓国の憲法では明記されているが、大韓 民国臨時政府は他国から亡命政府としては承認されていなかったことが知られて いる21。但し、韓国の領土範囲について本稿では、韓国政府が宣言している範囲か ら軍事境界線以北を除いた部分(要はDPRK実効支配領域)を指すものとする。
この定義については日本の日常語では通常の範囲だが、1965 年の日韓基本条約に おいて韓国政府を朝鮮半島の唯一の合法的な政府という設定が含まれるので、そ の設定を本稿では取らない。
本稿でDPRKとは 1948(昭和 23)年 9/9 に、平壌を首都として金日成(当時 は首相)を中心に成立した国家・朝鮮民主主義人民共和国を指す。但し、DPRK の領土範囲として本稿ではDPRK政府が規定している範囲から軍事境界線より南 の部分を除いた部分を指すものとする。2019(令和元)年 8 月現在でDPRKは国 連武器禁輸国に指定されているが、日本では 1965 年の日韓基本条約があるので、
DPRKを国家承認していないことは知られている。日本でDPRKに対してよく用 いられている北朝鮮という表記は本稿では用いない。DPRKは自らの国号を北朝 鮮ではなく「朝鮮」あるいは「共和国」と呼ぶように要請していることが知られ ているが22、共和国という言葉は日本では一般名称にあるためDPRKを通常指すこ とはない事や、朝鮮とした際には朝鮮半島全体を指す可能性があることから、本 稿では英語表記等でこの国を指す際に用いられるDPRKと書く。
本稿で中国大陸と表記した場合は、1949(昭和 24)年 10/1 に、北京を首都と して毛沢東(中央人民政府主席)を中心に成立した国家・中華人民共和国を指す。
但し、中国大陸と表記する場合には、その領土範囲として本稿では中国大陸政府 が規定している範囲から(1 国 2 制度対象である)香港・マカオそして(中国大
21 例えば「終戦後に進駐した米軍も正統な政府として認めなかった。」ことは朝日新聞 2015 年 9 月 5 日朝刊参照。https://www.asahi.com/topics/word/%E5%A4%A7%E9%9F%93%E6%B0%9 1%E5%9B%BD.html
(2019 年 10 月 31 日接続)
22 実効支配地域を指す「北朝鮮」という表記を嫌っていることについては例えば次の記載を 参 照。https://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/d1e9da2e095781f6f0df37600073edfc (2019 年 10 月 31 日 接続)
陸政府が実効支配できていない)台湾地域を除いた部分を指すものとする。
2. 3.安全保障貿易管理
日本にも韓国にも、安全保障貿易管理という政策が存在する23。これは元々、旧 ソ連を中心とする社会主義国に対する防衛上の共同管理として、欧米等の西側諸 国が組んだCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)やCHINCOM(対中国輸出統制 委員会)などを由来としていることが知られている。現在でもワッセナー協約等 の(法的拘束力のない)申し合わせの形で、兵器や関連技術の不拡散防止を目的 としていて、「特定の対象国・地域に的を絞ることなく全ての国家・地域及びテロ リスト等の非国家主体を対象」とされている24。ワッセナー協約の参加国 42 か国の 中には欧米豪などの他に日本や韓国なども含まれている。但し法的拘束力はない ので、各国でどの国に対し何を輸出規制の対象とするかに違いが存在する。現に 2019(令和元)年 8 月以降における日本の安全保障貿易管理の措置の中では、韓 国をそれまで輸出優遇していた他の国の枠組み(旧称:ホワイト国、現称:グルー
プA)とは違う枠組み(グループB)を新設して入れたが25、これはワッセナー協
約を結んだ各国と足並みが揃っている訳ではない。
輸出優遇の指標としては原子力供給国グループ、ザンガー委員会、オーストラ リアグループ、ミサイル技術管理レジームという 4 つの国際的な貿易管理の枠組 みがあり、この 4 つの枠組み全てを満たす国を基本に輸出を優遇していた国とし てホワイト国が設定されていた。2004(平成 16)年から韓国もホワイト国に入っ ていたが、今回の韓国への輸出優遇を是正する中でホワイト国の名称はグループ Aに変わっている26。
23 安全保障貿易管理については、経済産業省貿易管理部(2019)「安全保障貿易管理につい て 」2019 年 8 月 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminer/shiryo/setsumei_anpokanri.pdf (2019 年 10 月 31 日接続)を参照。以下はこの記載を中心に紹介する。
24 ワッセナー協約については例えば https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/wa/index.html を 参照。(2019 年 10 月 31 日接続)
25 2019(令和元)年 8/2 現在、グループ
B
には韓国の他にトルコなどが含まれている。https://hunade.com/yushutukanri-whitekoku#201982
(2019 年 10 月 31 日接続)26 日本でグループ
A
に該当する 26 か国には、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギ リシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、
ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆
規制方法には特定品目を規制するリスト規制と、品目を指定していないキャッ チオール規制があり、日本では外為法(外国為替及び外国貿易法)と関連する省 令、防衛装備移転三原則などで規制することになっている。
安全保障貿易管理では特に国連で定められた武器輸出禁止国(国連武器禁輸国)
10 か国などへ武器やその原材料が流れないようにする取り組みが入っている27。こ の国連武器禁輸国 10 か国にはDPRKは含まれているが、武器等の密輸先として かつて問題になったイランや中国大陸などは含まれていない。
安全保障貿易管理が必要になる例として有名なものに空母が存在する。空母は 安全保障貿易管理が崩れると起きることの例として知られている28。洋上から戦闘 機などを発進させる上で空母は欠かせないものであったが、中国大陸では元々空 母を作る技術は無かった。旧ソ連で建造計画があり、ウクライナに引き継がれた 空母をスクラップにする予定のところで、マカオの観光会社が「カジノ付き洋上 ホテル」に改修するという名目で 1998(平成 10)年にこの空母を買い取った。後 にこの会社が消えた後、中国大陸の人民解放軍の息のかかったダミー会社である ことが分かり、購入時の契約にあった「軍事目的で使用しない」という約束も反 故にされ、中国大陸初の空母「遼寧」として 2012(平成 24)年に登場させた。売 却当時には機関系統の配管が当初外されていたことから、この能力に疑問が付く ような記事も登場しているが、兵器などに使われうるものに対する共同の輸出管 理である安全保障貿易管理が必要となる事例としてこの空母の事例は知られてい る。迂回輸出の防止策として兵器に使われうる代物の共同管理は必要となる。
3.2019(令和元)年 7 月上旬頃発表の日本側の輸出管理強化
まずは、日本側による 2019(令和元)年 7 月上旬頃までの一連の経緯について、
関連する説明と共に取り上げる。日本の経済産業省がエッチングガスに相当する 高純度フッ化水素(HF)、有機ELに使うフッ化ポリイミド、半導体製造で使うレ 国が該当する。
27 国連武器禁輸国 10 か国はアフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国(旧・ザイー ル)、イラク、レバノン、リビア、DPRK、ソマリア、南スーダン、スーダンを指す。
28 例えば鈴木衛士(2019)「中国の空母『遼寧』が日本近海通過、その事実が暗示する恐ろ しい未来」現代ビジネスを参照。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65773 (2019 年 10 月 31 日 接続)
ジスト(感光材)の 3 種について、韓国を包括輸出許可から個別の輸出許可申請 に 2019 年 7/4(木)より切り替えると発表したのが 2019 年 7/1(月)29。後に、
8/28(水)には輸出優遇に相当するホワイト国(現・グループA)から外すこと も発表された。
経済産業省の発表では「輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築 されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損な われたと言わざるを得ない状況です。」として30、韓国との間に何があって信頼関係 が失われたかは、通達の中では具体的な理由には直接言及はしていない。そのた め、その前後の状況を踏まえて、何がその理由となったのかを判断することにな る。
通常ここで日本側として安全保障貿易管理の話として扱うには、次のような説 明となる。高純度HFなど 3 種について、半導体の材料などの名義で日本から韓 国に輸出されていて、それを材料に韓国は半導体などの世界的な輸出国となって いる。しかし、それが半導体製造以外の用途に使う目的、特に軍事転用を目的と して迂回輸出を狙う謀略を韓国では防ぎきれていない、とする指摘をすることに なる。サリン製造や六フッ化ウラン製造などの形で軍事転用するフッ化水素は半 導体洗浄に必要なほど高純度である必要は無いが、低純度のものが手に入らない 中では高純度のものも(費用は高く付くが)転用可能であることから、輸出した 後の所までの厳格な管理が本来は求められる。特に韓国が 2017(平成 29)年に文 政権に変わってから明示的に親北政策を取る形に変わり、DPRKが国連武器禁輸 国に含まれているにも関わらず、DPRKを防衛上警戒する形から変わる中で DPRKなどへの迂回輸出を防ぎきれていない、とする説明を行うことになる31。
29 日本経済新聞(2019)「韓国への輸出規制を強化、政府発表 韓国は対抗措置も」2019 年 7 月 1 日付を参照 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46789890R00C19A7EAF000/ (2019 年 10 月 31 日参照)。
30 経済産業省(2019)「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」2019 年 7 月 1 日付 を参照。https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190701006/20190701006.html (2019 年 10 月 31 日 接続)
31 安倍首相の側近として知られる自民党の萩生田幹事長代行(当時)は、この行き先を「北」
つまり
DPRK
であると指摘している。中央日報(2019)「韓国への輸出規制、『北朝鮮との関 連』示唆…安倍首相の最側近が『爆弾発言』」2019 年 7 月 6 日付。https://s.japanese.joins.com/JArticle/255252
(2019 年 10 月 31 日接続)この判断を行う上で重要になった報道に、2019(令和元)年 5/17(水)の朝鮮 日報のスクープがある32。韓国での「戦略物資無許可輸出摘発現況」によると、
2015(平成 27)年から 2019(平成 31)年 3 月までの間に、韓国「政府の承認な く韓国の国内業者が生産・違法輸出した戦略物資は 156 件」であることが明らか になったものである33。ここで戦略物資とは大量破壊兵器(WMD)「やその運搬手 段に転用できる物品や技術のこと」とされていて、ロシア、インドネシア、中国 大陸、マレーシア、そしてDPRK「と武器取引を行っていると言われる」シリア への不正輸出が明らかになった。この報道は後に日本のFNN(Fuji News Network)
が後追い報道をしていて34、「韓国にかかわる懸念は、韓国企業による不適切な管理 に起因する迂回輸出の懸念を払しょくできないことである。」との専門家の指摘も ある35。
「レジストは日本勢の世界シェアが 9 割にのぼり、エッチングガスも 9 割前後と される。」などとあるように36、当時の韓国からすれば、半導体製造に使える高純度 HFなどを提供できるのは事実上日本だけであり、韓国は(半導体メモリー市場の 5-7 割を占めるなど)半導体の世界的な供給拠点と 2019(令和元)年 6 月現在で なっていたため37、この輸出管理強化では世界の半導体供給に大きな影響を与えう
32 朝鮮日報(2019)「大量破壊兵器に転用可能な戦略物資、韓国からの違法輸出が急増」を 参 照。http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/05/17/2019051780021.html (2019 年 10 月 31 日接続)
33 ここについて韓国・産業通商資源省は「我が国の戦略物資輸出管理制度が効果的かつ透明 性をもって運用されている反証だ」との指摘をしている。 歳川隆雄(2019)「韓国への輸出規 制は、安倍首相の巧妙な『政治判断』だった」現代ビジネス 2019 年 7 月 13 日付。https://
gendai.ismedia.jp/articles/-/65863
(2019 年 10 月 31 日接続)34 FNN(2019)「兵器に転用可能…韓国「不正輸出リスト」を独自入手! サリンや
VX
の原 材料も第三国に」2019 年 7 月 10 日付。https://www.fnn.jp/posts/00047184HDK/201907102038_livenewsit_HDK
(2019 年 10 月 31 日接続)35 古川勝久(2019)「専門家が見た韓国不正輸出リストの問題点……韓国政府は悪質企業名 の 公 表 を 」2019 年 7 月 12 日 付。https://www.fnn.jp/posts/00047206HDK/201907121200_
KatsuhisaFurukawa_youHDK
(2019 年 10 月 31 日接続)36 日本経済新聞(2019)「韓国への輸出規制を強化、政府発表 韓国は対抗措置も」2019 年 7 月 1 日付を参照 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46789890R00C19A7EAF000/ (2019 年 10 月 31 日参照)。
37 日本経済新聞(2019)「半導体の国際供給に影響も、対韓輸出規制 4 日発動」2019 年 7 月 2 日 付。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46823990R00C19A7MM8000/?n_cid=DSREA001
(2019 年 10 月 31 日接続)
るから、韓国が将来的には日本の求める輸出管理強化に応じると考えられていた。
図 1 として引用するが、世耕経産相(当時)は 2019(令和元)年 7/3(水)の twitterにて38、「従来から韓国の輸出管理(キャッチオール規制)に不十分な面」が あること、「日本からの申し入れにもかかわらず、十分な意見交換の機会がなく なっていた。」ことが明らかになっている。
その反面、この発表がなされたのが 2019(令和元)年のG20 大阪サミットが終 了した 6/29(土)の直後。日本政府はこのG20 大阪サミットまでに、2018(平 成 30)年 10/30 に韓国の最高裁である大法院の「徴用工」判決に対しての対応を 求めていた。「韓国側が直前に日本側に提案したのは、日韓の企業が自発的に資金 を出し合い原告と和解する案で、日本は受け入れを拒否。」とされていて39、日韓首 脳会談もこのG20 大阪サミットの機会には見送られた。輸出管理強化の発表がな されたのはその直後であったため、(後に言われなくなってくるが)当初はこの
「元徴用工訴訟をめぐる韓国への事実上の対抗措置」という論調が日本のマスコミ の間でも報じられていた40。
この方向性を韓国で決定的にしたと思われるのが、図 1 で引用した 2019(令和 元)年 7/3(水)の世耕経産相(当時)のtwitterである。この中で、経緯③が単 なる安全保障貿易管理の問題で無くした点に絡むので、引用する。この後 7/18
(木)などでは「対抗措置ではない」ことをtweetしていることを触れた上で、そ の釈明が必要になったtwitterを取り上げる。
経緯③ さらに今年に入ってこれまで両国間で積み重ねてきた友好協力関 係に反する韓国側の否定的な動きが相次ぎ、その上で、旧朝鮮半島出身労働 者問題については、G20 までに満足する解決策が示されず、関係省庁で相談
38 世耕弘成(2019)twitterの 2019 年 7/3(水)より。
39 日本経済新聞(2019)「韓国への輸出規制を強化、政府発表 韓国は対抗措置も」2019 年 7 月 1 日付を参照 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46789890R00C19A7EAF000/ (2019 年 10 月 31 日参照)。
40 この措置が 6 年前に週刊誌で予想された報復であることは、東亜日報が 7/9(火)に報じ られたことを基ネタである週刊文春デジタルは 7/14(日)に報じている。週刊文春デジタル 編集部(2019)「日本の輸出規制に韓国大手メディアが “自国批判” 報道『6 年前に週刊文春 が予告していた』」2019 年 7 月 14 日付。https://bunshun.jp/articles/-/12829 (2019 年 10 月 31 日 接続)
図 1:世耕経産相(当時)の 2019(令和元)年 7/3 当時の twitter(線は筆者)
した結果、信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない。
ここで「旧朝鮮半島出身労働者問題」とは、先に取り上げた「徴用工」判決への 対応である41。先に示したように、7/1(月)の経産省発表では具体的にどの行動 に日韓の信頼関係が失わせることに繋がったのかは具体的な言及がない。そのた め、担当省庁の大臣であった世耕大臣(当時)のtweetには日本側の公式説明に 準ずる意味が含まれる。経緯①や経緯②は安全保障貿易管理の問題である。しか し、経緯③は「徴用工」問題であり、ここに「徴用工」問題が原因の 1 つに含ま れると判断されるtweetを行ったことが経済対抗措置と判断されるきっかけになっ た点である。
この後、日本側ではこの問題が安全保障貿易管理の問題であり、国内措置で一 方的に対応可能であること、韓国側ではこの問題が「徴用工」問題への経済対抗 措置であり、関連付けて韓国の基幹産業の 1 つを追い詰めようとする手法である と認識されるようになった。
ここで日本側(安倍政権側)と韓国側(文政権側)の立場の違いを主に整理し ておこう。立場の違いとは、輸出管理の問題と「徴用工」判決に絡む 1965(昭和 40)年の日韓基本条約とその関連の協定(日韓請求権協定など)での取り扱いで ある。
日本側: 今回の輸出管理強化は不正輸出の疑念に対するものであり、至極妥当 である。
日韓基本条約を結ぶときに日韓請求権協定で日本側は補償金を一括し て韓国政府に預けていて、補償についてはその補償金を基に韓国政府 で配分すべきで、日本側として賠償は済んでいる。
韓国側: 今回の輸出規制・制限は徴用工判決に対する経済対抗措置であり、本 来の問題に別個の方面から対抗策を打って韓国の基幹産業の 1 つを潰 そうとしていて至極不当である。
日韓基本条約を結ぶときに日韓請求権協定では個人の請求権は消滅し ていなく、大法院の司法判断には韓国行政が口を出すべきものでなく、
41 判決文の仮訳は「新日鉄住金徴用工事件再上告審判決」を参照。http://justice.skr.jp/
koreajudgements/12-5.pdf
(2019 年 10 月 31 日接続)新日鉄住金などの日本の企業は植民地支配に対する反省が足りない。
(資産差し押さえでの現金化やむなし42)
こうしてすれ違いのまま、日本は輸出管理強化を続け、韓国はそれに対し対抗 措置を色々打ち出した。日本側の見解を正当化するものには例えば元・経済産業 省の細川特任教授の見解などがある43。そこでは 2004 年に韓国をホワイト国(当 時)に入れる以前の手続きに戻すだけで、「『EU並』『対インドネシア並み』の手 続きになる」こと、EU等はそもそも韓国を「ホワイト国」に相当するカテゴリー に入れていないことなどが指摘されている。
日本にも個人請求権は消滅していないことを指摘するものはある44。また、今回 の一連の措置について、日本側からも懸念の声は一部では挙がっている45。また、
日本にも今回の一連の措置を撤回するようにとの知識人の署名活動も存在した46。 韓国側の動きとしては、日本のホワイト国(当時)に相当する韓国側が日本に 認定していた輸出優遇を解除しただけでなく、WTO(世界貿易機関)への提訴も 示唆した。また、防衛・軍事上で日本と価値観を共有できない象徴として、2019
(令和元)年 8/23(金)には日韓の防衛情報共有の協定であるGSOMIAの 90 日 後の破棄(延長拒否)を通告した。また、日本は 1996 年時点でDPRKにフッ化 水素を不正輸出した事例を含め、日本の安全保障貿易情報センター(CISTEC)の
「不正輸出事件概要」を引き合いに、日本で起きたDPRK等への不正輸出の指摘
42 実際に現金化の動きは始まっている。AbemaTimes(2019)「元徴用工訴訟、原告側が三菱 重 工 業 の 韓 国 内 の 資 産 現 金 化 着 手 を 表 明 」2019 年 7 月 16 日 付。https://times.abema.tv/
posts/7010720
(2019 年 10 月 31 日接続)これに対し、日本の河野外相(当時)は対抗措置を示唆している。テレ朝
news(2019)「三
菱重工の資産売却方針に河野大臣 “対抗措置” 示唆」2019 年 7 月 16 日付。https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000159588.html
(2019 年 10 月 31 日接続)43 細川昌彦(2019)「誤解だらけの『韓国に対する輸出規制発動』」日経ビジネス 2019 年 7 月 3 日付。https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00013/ (2019 年 10 月 31 日接続)
44 朝日新聞デジタル(2018)「元徴用工の『個人請求権』なぜ残る 弁護士ら声明で指摘」
2018 年 12 月 4 日付。
https://digital.asahi.com/articles/ASLCN6365LCNOIPE035.html (2019 年 10 月 31 日接続)
45 聯合ニュース(2019)「輸出不振の日本 対韓規制強化で自縄自縛?」2019 年 7 月 16 日 付。https://jp.yna.co.kr/view/AJP20190716001200882?input=feed_smartnews (2019 年 10 月 31 日接 続)
46 中央日報(2019)「『対韓規制撤回せよ』日本の知識人 77 人の叫び」2019 年 7 月 29 日付。
https://japanese.joins.com/JArticle/256009?sectcode=A10&servcode=A00
(2019 年 10 月 31 日接続)がハンギョレ新聞より 7/11(木)に報じられている47。更には、1965(昭和 40)
年の日韓請求権協定のときに「議論できなかった懸案をすべて協議しよう」とい う提案を韓国政府は行っている48。その一方で、日韓請求権協定に基づく仲裁の第 3 国の選定に韓国は応じないことを明らかにしている49。
他にも、韓国では 2015(平成 27)年に朴前政権と日本側で結んだ日韓合意に基 づき作られた「従軍慰安婦」問題における「和解・癒やし財団」がこの一連の決 定の発表の前である 2019(令和元)年 6/17(日)に(日本との合意なきまま)
解散を決定している。また、韓国から日本が輸入する際の審査など、他の所への 悪影響も指摘されている50。
WTOにはその前身であるGATTの時代からGATT 11 条により「加盟国は、関 税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならな い。」という取り決めがある。東亜日報ではこの点に触れ、「韓国にだけ複雑な手 続きを課す形になる」としてWTOの協定に違反する可能性の見解を日本の福永 教授(早大)が行っていることを報じている51。
これに対し、今回の決定を正当化する上で重要になる安全保障例外とされるの がGATT 21 条である。その条文を引用しておこう。
第二十一条 安全保障のための例外
47 ハンギョレ新聞(2019)「ハ・テギョン議員『北朝鮮にフッ化水素を密輸出した国は日本』」
2019 年 7 月 11 日付。http://japan.hani.co.kr/arti/politics/33869.html (2019 年 10 月 31 日接続)
48 中央日報(2019)「韓国『1965 年請求権協定の補完』 日本に逆提案を検討」2019 年 1 月 14 日付。https://s.japanese.joins.com/JArticle/249070 (2019 年 10 月 31 日接続)
49 産経新聞(2019)「徴用工仲裁委、韓国応じぬ公算 18 日に第三国選定期限」2019 年 7 月 16 日 付。https://www.sankei.com/politics/news/190716/plt1907160043-n1.html(2019 年 10 月 31 日接続)
50 聯合ニュース(2019)「入居拒否や通関厳格化 日本在住韓国人にしわ寄せ=対韓輸出規制 で」2019 年 7 月 16 日付。https://jp.yna.co.kr/view/AJP20190716002700882?input=feed_smartnews
(2019 年 10 月 31 日接続)
51 東亜日報(2019)「日本の専門家、『韓国だけに複雑な手続き、WTO協定違反の余地』」
2019 年 7 月 4 日付。http://www.donga.com/jp/article/all/20190704/1779745/1/%E6%97%A5%E6%9
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(2019 年 10 月 31 日接続)この協定のいかなる規定も、次のいずれかのことを定めるものと解してはな らない。
(a) 締約国に対し、発表すれば自国の安全保障上の重大な利益に反するとそ の締約国が認める情報の提供を要求すること。
(b) 締約国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認 める次のいずれかの措置を執ることを妨げること。
(i)核分裂性物質又はその生産原料である物質に関する措置
(ii) 武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は 間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置
(iii) 戦時その他の国際関係の緊急時に執る措置
(c) 締約国が国際の平和及び安全の維持のため国際連合憲章に基く義務に従 う措置を執ることを妨げること。
しかし、このGATT 21 条の安全保障例外が過去にWTOで認められた例は 1 例し かなく52、しかもその認められたロシアとウクライナの 2019(平成 31)年の事案で は、「両国が事実上戦争に準ずる緊急状況にあったため下された判決」とする専門 家の指摘を踏まえて今回の日本の例には当てはまらない、とする見解が 2019(令 和元)年 7/4(木)の中央日報で報じられている。
この後、韓国向け半導体材料の通関が 7/5(金)の段階では許可が出なかった ことが聯合ニュースで報じられる一方で53、先の細川特任教授は審査が 4-5 週間で あることを指摘していて54、実際には 9 月には許可の出た事例があることが報じら れている55。他方で、9 月のフッ化水素の輸出が前年同月比 99.4%減の 372 万 3 千
52 中央日報(2019)「安保理由で輸出制限、WTOが認めたのは一度だけ」2019 年 7 月 4 日付。
https://japanese.joins.com/JArticle/255145?sectcode=a10&servcode=a00 (2019 年 10 月 31 日接続)
53 聯合ニュース(2019)「韓国向け半導体材料の通関が事実上停止 2 日連続で日本当局の 許可出ず」2019 年 7 月 5 日付。https://news.livedoor.com/article/detail/16728085/ (2019 年 10 月 31 日接続)
54 西野志海・山川龍雄(2019)「韓国への輸出管理強化『ホワイト国でなければ、何色?』」
2019 年 7 月 11 日 日 経 ビ ジ ネ ス。https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00070/070900004/
(2019 年 10 月 31 日接続)
55 日本経済新聞(2019)「フッ化ポリイミドの韓国向け輸出許可 全 3 品目で承認」2019 年 9 月 30 日 付。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50415740Q9A930C1EE8000/ (2019 年 10 月 31 日接続)
円であったことが共同通信で報じられている56。それだけでなく、韓国では日本製 品の不買運動も起きていて、同じ記事では例えばビールの日本からの輸出も前年 同月比 99.9%減の 58 万 8 千円であったと報じられている。日本製品の不買運動は 他にも韓国から日本への観光にも拡大していて、日韓の航空路線も 2019(令和元)
年 7 月からの 4 か月の間に縮小・一部撤退が行われている57。競馬などにも影響は 拡大している58。
今回の措置について日本側は一方的に実施可能と当初は捉えていた反面、韓国 は日韓交渉の中で決めるべき案件と捉えていて、日本側(経済産業省)が「説明 会」として開催したこの説明について韓国側では「協議」と捉えていたので、相 互の隔たりは大きいことが聯合ニュースで 7/12 (金)に報じられている59。例えば 日本側では今回の措置について韓国からこの場で撤回の要請は無かったとしてい るが、韓国側は撤回を要請したとしている60。また、今回の日本側の指摘に対し、
韓国側が証拠を要求していることは 7/12(金)のロイター通信が報じていて61、国 際機関の調査を求めていることは 7/12(金)の産経新聞が報じている62。
4.その後の流れ
ロシアはこの横で韓国に半導体材料の供給を提案した63。中国大陸など他の国も
56 共同通信(2019)「ビール韓国輸出、9 月は 99%減 フッ化水素も」2019 年 10 月 30 日よ り。https://this.kiji.is/562094296414848097 (2019 年 10 月 31 日接続)
57 時事通信(2019)「大韓航空、日本路線を大幅縮小へ=関係悪化で需要減」2019 年 8 月 20 日付。https://www.jiji.com/jc/article?k=2019082000500&g=int (2019 年 10 月 31 日接続)
58 デイリースポーツ(2019)「韓国が日本馬を招待せず 日韓の外交問題余波」2019 年 8 月 11 日付。https://www.daily.co.jp/horse/2019/08/11/0012599872.shtml (2019 年 10 月 31 日接続)
59 聯合ニュース(2019)「日韓貿易当局が輸出規制めぐり実務協議 握手や挨拶を交わさず」
2019 年 7 月 12 日付。https://news.livedoor.com/lite/article_detail_amp/16764181/ (2019 年 10 月 31 日接続)
60 日テレ
news 24(2019)「輸出規制問題” 撤回要請” 日韓で異なる主張」2019 年 7 月 13 日
付。http://www.news24.jp/articles/2019/07/13/10465280.html (2019 年 10 月 31 日接続)
61 ロイター通信(2019)「韓国、輸出管理に不備との日本の指摘に証拠を要求」2019 年 7 月 12 日 付。https://jp.reuters.com/article/japan-south-korea-trade-idJPKCN1U70NU (2019 年 10 月 31 日接続)
62 産経新聞(2019)「韓国が制裁違反疑惑で国際機関の調査を提案『シロなら日本が謝罪せ よ 』」2019 年 7 月 12 日 付。https://www.sankei.com/world/news/190712/wor1907120021-n1.html
(2019 年 10 月 31 日接続)
63 アゴラ編集部(2019)「韓国にロシアが『半導体材料』供給提案:反安倍と親安倍の評価
類似の提案をしていて64、これに対し品質面での問題が当初は報じられていたもの の、この後は日本からの輸出の回復、ましてや不正輸出への監視・規制強化へと 舵を切るのではなく、日本に依存しないでの形に切り替えていく様子が見て取れ る65。
今回の措置については防衛上の同盟国USA(アメリカ合衆国)には日本が先に 説明した関係から66、USAによる日韓への調停介入は今回消極的な面が強かったこ とが知られている。
韓国のGSOMIA破棄通告については、韓国には偵察衛星が無いが日本には偵察
衛星があること等から、日本側より韓国側の方が悪影響の大きいことが指摘され ている。もちろんDPRKはこの破棄を進言していた67。
横流し先として、DPRK以外に中国大陸を指摘する声も挙がっている68。「韓国に 超高純度フッ化水素を作る技術がない以上、日本から輸入されたフッ化水素が韓 国から中国に横流しされている可能性が高いと言わざるを得ない。ほぼ 100%と いってもいいだろう。」とする指摘もあり69、数値検証でも否定できなかった報道も 出ている70。
興味深い指摘がされている。「米国の非営利研究機関『科学国際安保研究所
(ISIS)』も 5 月 23 日、世界 200 カ国の戦略物資貿易管理制度を評価したランキン
が真っ二つ!」2019 年 7 月 14 日付。http://agora-web.jp/archives/2040301.html (2019 年 10 月 31 日接続)
64 共同通信(2019)「韓国、中国からフッ化水素調達か」2019 年 7 月 16 日付。https://this.
kiji.is/523837592298128481?c=113147194022725109
(2019 年 10 月 31 日接続)65 この点は、この一連の問題をまとめた記事などでも指摘されている。津田大介(2019)
「『感情』に訴える韓国輸出規制、その狙い」2019 年 7 月 28 日朝日新聞デジタル。https://
digital.asahi.com/articles/ASM7H52PGM7HULZU006.html
(2019 年 10 月 31 日接続)66 朝鮮日報(2019)「輸出優遇除外:日本が米で根回しの間、韓国大使館は内部問題で奔走」
2019 年 7 月 14 日付。引用先記事として http://nnl.jugem.jp/?eid=4257 (2019 年 10 月 31 日接続)
67 日本経済新聞(2019)「北朝鮮、日韓軍事協定の破棄を韓国に要求」2019 年 7 月 28 日付。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47889670Y9A720C1000000/
(2019 年 10 月 31 日接続)68 SmartFlash(2019)「韓国からの半導体素材流出、背後に北朝鮮だけでなく中国も」2019 年 7 月 16 日付。https://smart-flash.jp/sociopolitics/75310 (2019 年 10 月 31 日接続)
69 宇佐美典也(2019)「韓国への輸出規制の背景に見え隠れする中国の国家戦略(特別寄稿)」
2019 年 7 月 10 日付アゴラ。http://agora-web.jp/archives/2040232.html (2019 年 10 月 31 日接続)
70 五十嵐哲也(2019)「対韓国輸出管理:『横流し先は中国か』を統計から読み解く」2019 年 7 月 17 日付アゴラ。http://agora-web.jp/archives/2040357.html (2019 年 10 月 31 日接続)
グを発表したが、韓国を日本(36 位)より高い 17 位と評価した。」という報道が なされている71。また、日本のテレビメーカーがこの措置を事前に察知していたと する報道もある72。「韓国への輸出規制は『徴用工問題』を解決しない」との指摘も ある73。これらの状況において日本が「安保理由の貿易制限に反対」を唱え74、自由 貿易を推奨しているとしても、説得力を欠くだろう。
また、1965 年の日韓請求権協定に基づく補償金の分配を求めて韓国政府への提 訴が始まっていることも指摘の必要があるだろう75。「徴用工」問題についても、従 来の韓国の見解とは異なる見解が韓国側からも出てきていることも触れる必要が ある76。
5.終わりに
今回の記載ではマスコミ報道やネットニュースを中心に、日韓半導体材料の問 題を取り上げた。
今回の一連の措置の中で、日本側の措置が貿易をし難くする方向である以上、
その正当化は関税引き上げと同様に難しい面が強い。安全保障を理由にした例外 が実際に交戦団体になる状況の場合位にしか認められていないことを考えれば、
今回の措置はやはり妥当性を欠くと言えるだろう。確かに各国で勝手に安全保障
71 中央日報(2019)「韓国の戦略物資管理は不十分? 徴用第三国仲裁義務? 河野氏の主 張は「誤り」(1)」2019 年 7 月 17 日付。https://s.japanese.joins.com/JArticle/255642 (2019 年 10 月 31 日接続)
72 もっと
!
コリア(2019)「日本のテレビ企業、輸出規制を事前に感知?」2019 年 7 月 24 日 付。http://mottokorea.com/mottoKoreaW/Special_list.do?bbsBasketType=R&seq=85115 (2019 年 10 月 31 日接続)73 登誠一郎(2019)「韓国への輸出規制は『徴用工問題』を解決しない」WebRonza 2019 年 7 月 22 日付。https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019071800001.html (2019 年 10 月 31 日 接続)
74 ハンギョレ新聞(2019)「自ら墓穴掘った日本…WTOで『安保理由の貿易制限に反対』」
2019 年 7 月 31 日付。https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190731-00034001-hankyoreh-kr (2019 年 10 月 31 日接続)
75 朝鮮日報(2019)「韓国政府が日本から受け取った資金支給されず 徴用工遺族が違憲申し 立 て 」2019 年 8 月 15 日 付。https://news.livedoor.com/article/detail/16930472/ (2019 年 10 月 31 日接続)
76 Newsポストセブン(2019)「徴用工の真実を明かした韓国人、『塩酸まくぞ』と脅迫され る」2019 年 8 月 19 日付。https://www.news-postseven.com/archives/20190819_1433367.html (2019 年 10 月 31 日接続)
貿易管理は設定できる。しかし、それは貿易障壁を下げる方向が中心であって、
上げる方向への妥当性説明はやはり恒久的措置としては難しいものと考えられる。
元々ホワイト国になっていなかったなら、今の水準の輸出管理の状況でも全くと やかく言われる必要は無かったし、まともな企業は粛々と申請をして審査され、
問題が無ければ貿易が認められていくことも明らかにも関わらず、である。
しかも、本来は韓国の方が輸出管理は厳格、という指摘が第 3 者から出ている 以上、このことに対する反論は必要であり、その部分が充分に提示されないうち は日本の措置は妥当性を失う。
この問題は確かに安全保障貿易管理の問題で本来はあるべきであった。しかし、
本来異なる問題であったはずの徴用工問題をここで説明に取り上げるのは、1 度 取り上げてしまえば後から幾ら安全保障貿易管理の問題だと言っても説得力を欠 く。その意味で世耕大臣(当時)の説明はやはり問題であったといえるだろう。1 度絡めてしまった以上はそのことを認めた上で対処をする必要がある。
但し、韓国から中国大陸に流れていることは数字上からも裏付けられていると 考えてよいのであれば、その点の改善はやはり必要であり、その意味では、日本 はこの産業の優位性を欠いてもこの点を外せなくなってしまった、というところ が正直なところではなかろうか。
この産業の優位性を欠く危険性や、「徴用工」問題での現金化準備が始まってい る面などから考えても、経済対抗措置だとここは詭弁でも認めた上で、現金化を 止める上でも交渉を始める、ということが答えなのではないかと考えられる。
(追記)J-cast news によると77、「報復」という論調から(読売新聞・産経新聞など の)日本の報道が方針転換を遂げたのは 7/4(木)~ 7/11(木)の頃とされる。
また、2019 年 12/20(金)、日本の経済産業省は 3 品目のうち感光体「レジス ト」について、「最大 3 年分を一括して許可申請をする」ことを可能にすることを 明らかにした、とロイター通信などでは報じられた。これについては、「安全保障 上、問題がないと判断された民生用の輸出の実績が積み上がってきたため」とさ れて、NHKなどが報じた菅官房長官の 12/23(月)の説明にもあるように、輸出 管理の「緩和措置ではない」ものであり、あくまで運用の見直しである。
77 J-cast news2019 年 7 月 20 日「いつも間にか影が薄くなった『報復』読売・産経の書きぶりも微 妙に変遷」を参照。https://www.j-cast.com/2019/07/20363046.html?p=all(2019 年 12 月 26 日接続)
更にフッ化水素については、韓国で国産化つまり日本の輸出に頼らずに利用で きるようにする動きも加速している78。日本における「輸出管理の是正」も本来の 目的と違う形で韓国に伝わっていては、武器輸出禁止国への流出阻止という本来 の目的が最終的に満たされない心配もある。
78 共同通信社 2020 年 1/2 付「韓国、フッ化水素製造技術確立か 高純度で大量生産可能と 発表」https://this.kiji.is/585407934140269665(2020 年 1 月 6 日接続)を参照。