2014 年度 修士論文
ユーザの意欲特性に基づく ゲーム化度合いの提案
基幹理工学研究科 情報理工学専攻
中島 佳菜子
学籍番号 5113B064-4
指導教員 中島 達夫 教授
提出 平成 27 年 2 月 2 日
A Proporsal of Gamifying Degree According to Users’ Motivational
Characteristics
NAKAJIMA Kanako
Thesis submitted in partial fulfillment of the requirements for the degree of
Master in Computer Science and Engineering
Student ID 5113B064-4
Submission Date February 2, 2015
Supervisor Professor Tatsuo Nakajima
Department of Computer Science and Engineering
Graduate School of Fundamental of Science and
Engineering
Waseda University
概要
近年,多くの人にとってゲームは面白いという理論から,ゲーミフィケーションやシリ アスゲームといった「ゲーム化」が人々のモチベーション(以下動機づけ)を高めるのに有 用であるとされている.しかしこれらの概念は同じではなく,また学習コンテンツに対して これら二つがどのような差を含んでいるのか現状定かではない.そこで本研究ではまずはこ の学習コンテンツに対するゲーム化の度合いを定義する.また心理学の知見によると,人間 にはもともとその人物が持っているパーソナリティレベルの意欲と,学習コンテンツなど文 脈に対する意欲がある.そこで本研究ではこれらの意欲特性を測定した後,各意欲特性の被 験者が動機づけを向上させるに最適である学習コンテンツのゲーム化の度合いを調査する.
Abstract
Recently it is said that gamifying methods such as gamification or serious games are effective to motivate people. However these two methods are not exactly the same meaning, and what differences they may contain when used to create learning contents are not well specified yet.
Therefore in this paper we firstly define the degrees of gamifying under the creation of learning elements. Also according to psychological background a person’s eagerness is constructed of several kinds of motiovations: one is a personality level motivation which is spontaneous and essential, and the other is a contextual motivation such as towards English studies. Thus we secondly determine these motivational characteristics, and then present the best gamifying degree for each of them.
目次
第1章 背景 1
1.1
動機づけ
. . . . 11.1.1
動機づけの
3水準
. . . . 11.1.2
意欲特性の測定基準
. . . . 21.1.3
補足的概念
. . . . 41.2
学習コンテンツにおけるゲーム化
. . . . 61.2.1
ゲーミフィケーションとシリアスゲーム
. . . . 61.2.2
本研究におけるゲーム化の度合いの定義
. . . . 9第2章 関連研究 11 2.1
パーソナリティとゲーミフィケーション
. . . . 112.2
学習コンテンツをゲーム化するためのガイドライン
. . . . 11第3章 英単語学習アプリケーション 13 3.1
設計概念
. . . . 133.2
システム概要
. . . . 163.2.1
タイプ
A:通常学習
(電子版
). . . . 163.2.2
タイプ
B:ゲーミフィケーション
. . . . 163.2.3
タイプ
Cシリアスゲーム
. . . . 183.2.4
タイプ
Dシリアスゲーム
+ゲーミフィケーション
. . . . 203.2.5
英単語の選択
. . . . 20第4章 実験 22 4.1
事前調査
. . . . 224.2
実験
/事後調査
. . . . 26第5章 考察 28 5.1
第二段階のゲーム化と第三段階のゲーム化の比較
. . . . 285.2
各意欲特性における最適なゲーム化度合いの考察
. . . . 295.2.1
パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群
. . . . 295.2.2
パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群
. . . . 315.2.3
パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群
. . . . 325.2.4
パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性も低い群
. . . . 33第6章 結論 35 参考文献 38 付録 39 A
質問紙
. . . . 39A.1
パーソナリティ意欲特性測定
. . . . 39A.2
文脈意欲特性測定
. . . . 40A.3
各タイプ使用後の動機づけ,セルフエフィカシー測定
. . . . 40B
実験結果
. . . . 41図目次
1.1
動機づけの
3水準
. . . . 21.2 Dweck
の達成目標と達成行動パターンモデル
. . . . 31.3
自律性の程度による動機づけの分類
. . . . 41.4
行動喚起のメカニズム
. . . . 51.5
ゲームにゲーミフィケーションを導入した例
. . . . 91.6
学習コンテンツにおけるゲーム化の度合い
. . . . 102.1
プロパティ交換法モデル図
. . . . 123.1
タイプ
Aからタイプ
D . . . . 143.2
タイプ
B各プロパティの対応図
. . . . 153.3
タイプ
C,タイプ
D各プロパティの対応図
. . . . 153.4
タイプ
A紙ベースと電子版の単語帳の対応図
. . . . 153.5
タイプ
A外観
. . . . 163.6
タイプ
B外観
. . . . 173.7
タイプ
Bゲーム部でのフィードバックの様子
. . . . 183.8
バッジ機能
. . . . 183.9
タイプ
C外観
. . . . 193.10
タイプ
Cゲーム画面動作
. . . . 193.11
タイプ
D外観
. . . . 204.1 Dweck
の達成目標理論を用いたパーソナリティ意欲特性の分析結果
. . . . . 234.2
自律的学習動機尺度を用いたパーソナリティ意欲特性の分析結果(4因子)
. 24 4.3自律的学習動機尺度を用いたパーソナリティ意欲特性の分析結果(2因子)
. 24 4.4自律的学習動機尺度を用いた文脈意欲特性の分析結果(4因子)
. . . . 254.5
自律的学習動機尺度を用いた文脈意欲特性の分析結果(2因子)
. . . . 264.6
被験者の意欲特性の割合
. . . . 265.1
動機づけされたゲーミフィケーション要素の数
. . . . 285.2
パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群の動機づけの推移
. . 295.3
パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群の各被験者のセルフ エフィカシー
. . . . 30 5.4パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群の動機づけの推移
. . 31 5.5パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群の各被験者のセルフ
エフィカシー
. . . . 31 5.6パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群の動機づけの推移
. . 32 5.7パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群の各被験者のセルフ
エフィカシー
. . . . 33 5.8パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性も低い群の動機づけの推移
. . 34 5.9パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性も低い群の各被験者のセルフ
エフィカシー
. . . . 34表目次
1.1
自律的学習動機尺度の項目
. . . . 53.1
タイプ別特徴
. . . . 133.2
タイプ別参考ゲームとのプロパティの比較
. . . . 153.3
タイプ
Bで使用したゲーミフィケーション要素
. . . . 173.4
タイプ
Cのゲーム画面でのヒント例
(単語:
world) . . . . 205.1
タイプ
Aのセルフエフィカシーが最大となった被験者のゲーミフィケーショ ン要素の好み
. . . . 306.1
各意欲特性における最適なゲーム化度合い
. . . . 35第 1 章 背景
近年,多くの人にとってゲームは面白いという理論から,ゲーミフィケーションやシリアスゲーム といった「ゲーム化」が人々のモチベーション(以下動機づけ)を高めるのに有用であるとされている
[10][20].筆者も同様に実験を行ったところ,ゲーム性の高いシリアスゲームを提供することでユー
ザの学習内容に対する動機づけがある程度向上することが知見として得られた[11].しかしながら,
前述の実験において全体的に動機づけが向上した被験者が多かったことは事実だが,被験者によって 提供された学習ゲームに対する意欲にばらつきがあることも実証された.そこで,本研究では既存の 心理学の知見から人間にはもともとその人物が持っているパーソナリティレベルの意欲と学習コンテ ンツなど文脈に対する意欲があると仮定し,これらの意欲特性がゲーム化された学習コンテンツで動 機づけが高まる率に影響を与えるかについて調査を行う.また「ゲーム化」と言っても前述したよう にゲーミフィケーションとシリアスゲームという二つが今日ではあげられており,学習コンテンツに 対してこれら二つがどのような差を含んでいるのか,現状定かではない.そこで本研究ではこの学習 コンテンツに対するゲーム化の度合いも定義するものとする.最終的な目標としては,各意欲特性に 対し動機づけを向上させるに必要となる最適なゲーム化の度合いを調査することである.
1.1 動機づけ
1.1.1 動機づけの3水準
動機づけはこれまで実に様々な視点から論じられてきたが,本研究では鹿毛(2004)の動機づけの 3水準の考え方を根本に用いて論じることとする[14].この動機づけの3水準とは,人にはそれぞれ
「パーソナリティ意欲」,「文脈意欲」,「状況意欲」の3水準があるという考え方である.まずパーソ ナリティ意欲とは”個人に内在する特質としての安定的な意欲の在り方”であるとされている[15]. 例 えば,何をするにしてもやる気のある学生はいるものだが,この学生はパーソナリティ意欲が高いと 言える.しかしながらいくらやる気のある学生でも,どうしても分野によってはやる気が起こらない ものもある.例えば自らの専攻には精一杯取り組むが,英語には何の興味も持てない,などである.
こうした文脈に対する意欲を「文脈意欲」として鹿毛は定義している[15].また,同様にいくら普段 やる気に満ち溢れており,かつ自分の好きな分野だとしても気分が乗らない,ということがある.こ れが「状況意欲」である.鹿毛によりこれらの概念が図式化されたものが図1.1である.
図1.1: 動機づけの3水準(鹿毛,2008)
本研究ではこの理論を用いて各被験者のパーソナリティ意欲,文脈意欲を計測し,これらの意欲 とゲーム化の度合いの好みに関連があるのかを調査する.なお,状況意欲は計測が困難であること,
状況によって変化することから測定しないこととする.またパーソナリティ意欲,文脈意欲は鹿毛に よって概念は提供されているが,具体的にどのような測定方法から測定が可能であるかは示唆されて いなかった.そこで,本研究ではこれら測定にDweckの達成目標モデル,DeciとRyanの自己決定理 論から派生した西村・河村・櫻井の自律的学習動機尺度を用いて被験者のパーソナリティ意欲,文脈 意欲を特定し,これらのモデルで示されている分類に当てはめて論じることとする.また,結果の説 明のため補足的にBanduraのセルフエフィカシーも導入する.
1.1.2 意欲特性の測定基準
前述したように,本研究では鹿毛の提唱する動機づけの3水準を元に被験者のパーソナリティ意 欲と文脈意欲を測定し,被験者を各意欲特性ごとに分類した.この時,これらの意欲特性の計測には
Dweckによる達成目標モデルや西村らの自律的学習動機尺度を用いることとした.
Dweckによる達成目標のモデル
Dweckが提唱する達成目標のモデルは達成目標理論を背景として提案された指標である.そもそも
達成目標理論とは 課題達成場面(たとえば学業達成)において,個人の志向する目標をいくつかの 典型的な内容に分類し,その目標をもつことで,どのような達成行動につながり,結果として成績や 自己評価,達成関連感情などに結びつくか,といった一連のプロセスを明らかにする ものであり,
Dweckは初期の段階からこの研究を先導してきた研究者である[18].
彼女の初期の研究では個人の目標にはその個人の能力の高さを証明する,あるいは能力の低さを露 呈しないようにすることが目標となる遂行目標(performance goal)と新しい知識を得ることを目標 とする学習目標(learning goal)の二つがあるということが提唱された[6].またこれらの目標傾向に なるにあたってはその個人のもつ暗黙の知能感(theory of intelligence)が影響しているとされ,頭の
良さは生まれつきのもので生涯に渡って普遍であると考える固定的知能感(entity theory)を持つ人 は遂行目標を抱き,対して頭の良さは努力によって変化し得る可変的なものであるという増大的知能
感(incremental theory)を持つ人は学習目標を抱く.さらに固定的知能感を持つ者のうち自身の能力
に対して自信のある者はその能力を示したいという思いがあるため,課題に対しても果敢に挑戦しよ うとする.対して自身の能力に対して自信がない者はその能力の低さを隠そうとするため困難な課題 に対面した際に早々に諦めるなど無気力な反応が起こりやすい.一方で増大的知能感を持つ者は目標 自体が新たな知識を得て自身の能力を増大させることのため,元々の能力に対する自信の有無に関わ らず困難な課題にも果敢に挑戦する傾向がある.これらの理論を図式化したものが図1.2である[7].
図1.2: Dweckの達成目標と達成行動パターンモデル(Dweck, 1986;日本語訳 中谷, 2012)
Dweckはその後これらの達成目標を再度分配し直している.特に遂行目標に関しては自身の能力
などの価値を証明するための能力目標(ablity goal),他者との比較によって優位に立とうとする基
準目標(normative goal),単純に良い結果を得ようとする結果目標(outcome goal)と三つに分解し
た[8].こちらの理論の方が最新であること,分類を行う際に使用した質問紙が用意されていること などから本研究ではこちらの分類方式を採用し,同論文に記載された質問紙の内容を我々が和訳した ものをパーソナリティ意欲特性を計測するために使用した.
西村・河村・櫻井の自律的学習動機尺度
また,パーソナリティ意欲の測定には自己決定理論から派生した自律的学習動機尺度を指標として 用いた質問紙も使用した.まず自己決定理論とはDeciとRyanによって提唱された理論で, 人間の モティベーションに関する基本的な理論で,学ぶこと,働くことなど多くの活動において自己決定す ること(自律的であること)が高いパフォーマンスや精神的な健康をもたらすとする理論 [22]であ る.この理論では何か活動を行う際,人は非動機づけ,外発的動機づけ,内発的動機づけのいずれか がなされていて,それぞれ動機づけが全くない状態か,他律的で報酬や強制によって動機づけがなさ れている状態,または自律的で報酬などがなくても自らの意思で動機づけがなされている状態であ ると定義されている.自己決定理論はこの中でも特に外発的動機づけに関する理論であり,外発的動 機づけを自律性の程度によって四つに分けることを提案した.これら四つの程度とは,それぞれ自律
性の低いものから外的調整,取り入れ的調整,同一化的調整,統合的調整,と分類した[22].これら の概念を図式化したものを図1.3に示す.また,図1.3はDeciとRyan(2002)が提示した図式を櫻井
(2012)が訳したものだが,後者によりそれぞれの段階における学習場面の例も挙げられている.同著
者によると外的,取り入れ的調整の自律性では動機付けは低く,往々にして報酬や強制がなければ動 機づけは生まれない.一方で同一化的,統合的調整になると自律性は極めて高く,学習活動自体は単 なる手段である点に目を瞑れば自主的な行動への期待ができる.この統合的調整に関しては当初Deci とRyanによって想定はされていたものの同一化的調整と統計的に分離できなかったため近年の研究 では考慮されない場合が多く,内発的動機づけの下位分類,内発的調整と同一視されることが多い [13][17].
図1.3: 自律性の程度による動機づけの分類(Ryan and Deci, 2002;日本語訳/例 櫻井, 2012) そこで,西村・河村・櫻井(2011)は上記した外的,取り入れ的,同一化的,そして統合的と内的を 統合した内的調整を測定するにあたり,表1.1のような自律的学習動機尺度を示している[17].この 尺度は中学生を対象に作成されたものだが,本研究では表1.1の 自分の希望する高校や大学に進み たいから を 自分の希望する会社に就職したいから にするなど項目を大学生用に調整し,同表と ほぼ同一の学習全般に関する質問紙をパーソナリティ意欲の測定として使用した.また文脈意欲特性 の計測には同表を参考として 問題を解くことがおもしろいから の項目を 英語が分かることが面 白いから に変更するなどとして英語に特化した内容の質問紙を作成し,使用した.実際に使用した 質問は付録A.1と付録A.2に示す.
1.1.3 補足的概念
Banduraによるセルフエフィカシー理論
またパーソナリティ意欲特性や文脈意欲特性の分類には使用しなかったが被験者の動機づけの高 さをさらに細かく分析するため,Banduraの提唱するセルフエフィカシーの概念を導入した.
Bandura(1997)は人が行動を起こすまでの過程には,図1.4のように自らがその行動をやり遂げら
問題を解くことがおもしろいから
むずかしいことに挑戦することが楽しいから 内的調整 勉強すること自体がおもしろいから
新しい解き方や,やり方を見つけることがおもしろいから 自分が勉強したいと思うから
将来の自分の成功につながるから 自分の夢を実現したいから
同一化的調整 自分の希望する高校や大学に進みたいから 自分のためになるから
勉強するということは大切なことだから 勉強で友達に負けたくないから
友達より良い成績をとりたいから 取り入れ的調整 まわりの人にかしこいと思われたいから
友達にバカにされたくないから
勉強ができないとみじめな気持ちになるから やらないとまわりの人がうるさいから まわりの人から,やりなさいといわれるから 外的調整 成績が下がると,怒られるから
勉強するということは,規則のようなものだから みんながあたりまえのように勉強しているから 表1.1:自律的学習動機尺度の項目(西村・河村・櫻井, 2011)
れると思う度合いである効力期待と,その行動を行うとどういった結果に至るか,という査定である 結果期待とに分けられるとした[3].
図1.4:行動喚起のメカニズム(Bandura, 1997)
例えば英語を毎日勉強するということが目的の行動だとすると,英語を毎日勉強できると思う自信 のほどが効力期待,英語を毎日勉強した結果が結果期待となる.この時,英語の勉強を毎日続ける自 信があれば行動はより喚起されやすく,毎日は勉強できない,と自信がなければ行動は喚起されにく くなる.また,結果期待も同様に行動喚起に影響を与える.例えば英語を毎日勉強していたら英語が 上手くなるだろうと思う人と,毎日勉強しても対して上手くならないだろうと思う人では,効力期待 が同じだとしても前者の方がより行動が喚起されやすくなる.つまり,効力期待,結果期待が高まる ほどに,動機づけが高まると言える.セルフエフィカシーとはこの効力期待のことを指す.本研究で
は結果の説明のためにこの理論を用いた.また,セルフエフィカシーの測定にはBanduraの提供する ガイドラインに沿って作成した質問紙を使用した[2].実際に使用した質問は付録A.3に示す.
本研究ではDweckの達成目標のモデルと西村らによる自律的学習動機尺度を元にパーソナリティ 意欲特性,文脈意欲特性を測定し,被験者を意欲特性ごとに分類した.また同様にこれらの理論と,
Banduraのセルフエフィカシーの理論を用いるなどして考察を行うこととした.
1.2 学習コンテンツにおけるゲーム化
ゲーム化には大別するとゲーミフィケーションとシリアスゲームの2つがある.どちらとも現実の 課題をゲームやゲーム的概念を用いて解決する手法だが,ゲーム的要素の多さや作成難度とコスト,
また学習コンテンツに限って言えばその効率などは別のものとなる.本章ではこれらのゲーム化の方 式について議論を行った後,筆者らによる学習コンテンツにおけるゲーム化の度合いを定義する.
1.2.1 ゲーミフィケーションとシリアスゲーム
シリアスゲームとゲーミフィケーションでは前者の方が歴史が長く,米国で提唱されてから普及が 始まったのは2002年,一般から注目され始めたのは2004年以降のことである[20].そもそもシリア スゲームとは”教育や社会における問題解決のためにデジタルゲームを開発・利用する取り組み”のこ とであり,日常生活における何かしらの問題を解決するゲームである.一方でゲーミフィケーション は2010年ごろから登場した言葉で,ゲーミフィケーションサミットの主催者による定義では”ゲーミ フィケーションとはゲーム的思考やゲームメカニクスを使って問題を解決したりユーザを盛り上げる 仕掛けのことである”[16].
ゲーム的要素
まずゲーム的要素の多さについてその違いを論じる.前述の通り,シリアスゲームは現実の課題を ゲームとして表現することにより認識させるものであり成果物が「完全なるゲーム」として認識され る.しかしながら,ゲーミフィケーションはゲーム的要素を含むにとどまり,実際に出来上がったも のはゲームに分類されるとは言えないものである[16].つまり,シリアスゲームはそれ自体がゲーム であると言えるのに対し,ゲーミフィケーションはその一部にのみゲーム的要素を含むものである.
例えばシリアスゲームの有名な事例の一つとして,アメリカの陸軍が開発したAmerica’s Army1があ げられる[19].これは入隊希望者を増やすと共に入隊後に必要となる知識をゲームを用いて学ばせ るもので,FPSの形をとっている.そのため,もちろんゲーム内での銃の扱いなどは実際の知識とし て使えるが,ゲームをプレイする際には必ずしもその知識を体得している必要も覚える必要もなく,
FPSとしてのゲーム的部分が好みであればアメリカ軍という目的の部分に対しての興味が薄くても
(または全くなくても)単純にFPSのゲームとして楽しむことができる.つまりサービス提供者が本 当に消費者に関心を持ってもらいたいものに対して実際の消費者がゲーム開始時の段階において興味
1http://www.americasarmy.com/
を抱けなくても,ゲームという部分で「釣る」ことが出来るのである.対してゲーミフィケーション の有名な事例としてはfoursquare2があげられる.このサービスはGPSを用いて訪問した先の場所や 店などに「チェックイン」することでその場にいることをソーシャルグラフ上の友人に知らせ,特定 の条件を満たしていくことでバッジと呼ばれる称号を獲得することが出来る.また訪問の回数などに よりポイントやランキングが友人同士で通知されるため競争意識などが働き,再訪のきっかけとなる.
先述したAmerica’s Armyが単純なFPSのゲームとして楽しめるのに対し,こちらは「特定の場所に
訪問する」というゲーム的要素ではない部分がサービスの核となっている.いくらランキングで上位 に入りたいと思っても,そもそも出かけることが嫌いであったり,よく行く店がない場合などはゲー ムが成り立たないのである.ここまでの議論では一見するとシリアスゲームの方が良い手法に思える かもしれないが,逆の視点を持つと,シリアスゲームはサービス提供者が論じたい課題への距離が遠 くなってしまう可能性があるとも言える.つまりシリアスゲームは提供するサービスの軸がよりゲー ムに近くなっており,サービスの提供者が消費者に習得してほしい部分(America’s Armyでは銃の扱 いなど入隊に向けた知識)が何ら習得されなくても消費者はそのサービスを楽しむことが出来てしま う.一方でゲーミフィケーションはサービスの軸をサービス提供者が示したい本当の目的へと直接置 くことが出来るので,その意図に沿わない消費者を排除することができていると言える.
開発難度とコスト
シリアスゲームはこれまで教育,軍事,社会問題などの社会が抱える課題に多く適用されてきてい る[19].これは前述したように消費者がこれらの課題に直接的に興味を抱けなくてもゲームという媒 体を通して関わることが容易だからであると推測できる.しかしながら,これはそのゲーム自体が面 白いということが前提となってしまう.そのため開発者はゲームとして面白いものを作る必要があり,
ゲーム作りのノウハウやクリエイティビティが求められることとなる.当然ながら,シリアスゲーム はゲーム部分が軸であるために他の事例のゲーム部分をそのまま適用することは新規性などの点にお いて好ましくなく,一から考案,開発する必要がある.一般的にゲーム開発には長い時間とコストが かかることは容易に想像がつくだろう.これらの要因からシリアスゲームはAmerica’s Armyのよう に非営利目的で作成されるされる事例が多く,またそうした事例こそ成功しているとも言える[19]. 一方でゲーミフィケーションは一般的な企業によって活用されることが多く,むしろこれらの企業に よって発展してきた分野だと言える.ゲーミフィケーションはゲームというよりもゲームメカニクス を活用したサービスであるため,先行事例などからこれらのゲームメカニクスが抽出されており,あ る程度のひな型がある状態だと言える.例えば,有名なゲームメカニクスとしてよくあげられるのが PBLと呼ばれる要素で,それぞれポイント,バッジ,リーダーボード(ランキング)を指す.前述し
たfoursquareでもこれらの要素を使用しており,新規事業の立ち上げの際にはまずこれらの要素を導
入することからサービスを開始することが出来る.先に述べたようにゲーミフィケーションではサー ビスの軸がこれらのゲーム部分にはなくあくまでも補足的な意味合いになるので,先行事例を参考に することがシリアスゲームに比べ圧倒的に容易であり,必要とされるゲーム作成ノウハウやクリエイ ティビティが低いことは想像に難しくない.
2https://ja.foursquare.com/
学習効率
これまでの説明から明白ではあるが,コンテンツ内容に対する効率の面でも議論したい.前述した ように,シリアスゲームではサービスのコンテンツよりもゲーム要素が軸となってしまっている.こ のため,そのコンテンツに対して利用者の興味が低くてもサービスへの導入は容易となるが,一方で コンテンツ自体の吸収率は悪くなる.例えばAmerica’s Armyにおいては新規ユーザの呼び込みは可 能だが,そのユーザがこのサービスを利用して実際の陸軍で優秀な兵士となるまでには長いプレイ時 間がかかるだろう.一方でゲーミフィケーションではサービスのコンテンツにより重きが置かれてい るため,コンテンツの吸収も早いと言える.foursquareでは実際の場所に訪問させるわけだが,そも そもそのアクションが起こらないとゲームが続かないため,このサービスで成功したいと思うユーザ は率先して色々な店に出向くだろう.学習関連に限定して話を進めると,古くから「ゲーム化された 学習コンテンツ」としてエデュケーションゲームという名称が広く使われている.この分類に関して はゲーム業界内で発展してきたものであるため,通常はシリアスゲームの定義と同様に「ゲーム」と して販売されている.しかしながら内実を見ると発売されているタイトルの多くが既存書籍の焼き 増しであったり,クイズの形式になっているだけで学習要素が強すぎてゲームとは呼べない形になっ ているなど,ゲーミフィケーションであると言えるものが多く存在する[20].深田はシリアスゲーム の一例として任天堂から発売された脳トレ3を上げている.このゲームは瞬発力や簡単な計算力など を複数のカジュアルゲームで鍛えるもので,エデュケーションゲームとしては異例のヒットと言える 1900万本を売り上げている[16][11][1].簡単な四則演算などができる必要はあれど,基本的には新し い知識を学ぶ必要性も,特別な知識も必要無いものとなっている.一方,「ゲーミフィケーション的エ デュケーションゲーム」の例としてはえいご漬け4をあげたい.このゲームも脳トレと同様に異例の ヒットとなった作品で,2005年から2007年の間に200万本を売り上げた[20].こちらのゲームはタ イトルの通り英語を学ぶゲームで,英語を学んでゆくことでポイントが取得できるなど,ゲーミフィ ケーションを体現したものとなっている.ゲーミフィケーション的エデュケーションゲームの特徴と しては,タイトルに「英語」など,コンテンツ内容が一目でわかるようになっていることが特徴であ る.これにより,このコンテンツに興味のある消費者にのみターゲットを絞っていると言えよう.
ゲームの中のゲーミフィケーション
これまでシリアスゲームとゲーミフィケーションの違いについて論じてきたことで,最終的な成果 物は前者においては「完全なるゲーム」,後者においては「ゲームメカニクスを含んだサービス」に なることは明白である.ここで注意したいのが,シリアスゲームとゲーミフィケーションの定義の違 いはあれど,両者は時として同サービスに共存することがあり得る,という点である.というのも,
ゲーミフィケーションはあるコンテンツに対してゲームメカニクスを導入したものを指すので,その コンテンツがゲーム自体であればそのサービスはゲーミフィケーション化されたゲームであると言え るのである.よって,シリアスゲームとして作成されたゲームの中にも,ゲーミフィケーションが導 入されている可能性は大いにあり得ることなのである.例えばゲーム全般に関して言えばチェスなど
3脳を鍛える大人のDSトレーニング:http://www.nintendo.co.jp/ds/andj/
4英語が苦手な大人のDSトレーニングえいご漬け:http://www.nintendo.co.jp/ds/angj/
の古典的なゲームはゲーミフィケーション要素の入っていないゲームであると言える.対して,近年 多くの開発が行われているソーシャルゲームはゲーミフィケーション的要素を含んでいるゲームであ る場合が多い.例えばLINEから提供されているツムツム5は上から落ちてくる同種のキャラクター を繋げていくパズルゲームである.このゲームには1.5の(1)のようなパズル的要素の他に,(2)のよ うなソーシャルグラフ上の友人との順位を競う要素がサービスの醍醐味のひとつとして提供されてい る.この要素はパズルゲームという純粋なゲーム部を楽しむ場合には必要のない要素だが,ツムツ ムというサービス全体を楽しむために用意されたゲームメカニクスであり,このサービスはゲームに ゲーミフィケーションを導入した良い例といえる.
(1)サービス内ゲーム部 その1 (2)サービス内ゲーム部 その2 (3)ゲーミフィケーション要素 図1.5:ゲームにゲーミフィケーションを導入した例6
1.2.2 本研究におけるゲーム化の度合いの定義
本研究ではこれらのことを踏まえ,学習コンテンツにおけるゲーム要素,作成難度とコスト,学習 効率は図1.6のようになると定義づけた.さらに「ゲーム化の度合い」という名称からゲーム要素が 最も低いものから,ゲーム化の度合いが低いと判断した.
5LINE:ディズニー ツムツム:http://www.disney.co.jp/games/dtt.html
6図1.5の[2]はスコアというゲームメカニクスだが,パズルゲーム部分に対するスコアでありゲームの一部だと言える.
対して[3]のランキング,スコアはパズルゲームを行う際には全く関係がなく,ゲーミフィケーションの要素の一部である.
図1.6:学習コンテンツにおけるゲーム化の度合い
第 2 章 関連研究
2.1 パーソナリティとゲーミフィケーション
パーソナリティとゲーミフィケーションを絡めた研究は過去に何例か行われている.例えばCodish らはパーソナリティを心理学の指標であるBig5で分類し,各パーソナリティの被験者がどのような ゲーミフィケーション要素を好むかについての研究を行っている[5].また,ゲーミフィケーション では心理学とは別の指標でユーザのパーソナリティを分類する手法が提示されており,例の一つとし
てBurtleによるユーザ分類などが挙げられる[4].Konertらはこの指標と前述したBig5を比較するな
ど,ゲーミフィケーションと心理学のパーソナリティでの比較を検討している[9].ここで注目した いのはこれらパーソナリティとゲーミフィケーションの関連を調べる研究で取り扱われるのがBig5 という手法であるということだ.
このBig5とは人間の性格は5つの特性から大まかに表すことが可能とする理論であり,最も有名 なパーソナリティ分類の一つであるため広く知れ渡っているが,あくまでも被験者の性格を見るもの である.つまり,これといって動機づけに特化したものではない.上記二例のようにゲーミフィケー ション的知見から得られた結果をBig5と関連して研究を行う場合はあるが,ゲーミフィケーション が人の動機づけを高めるため導入される点などを考慮すると,これは必ずしも適切ではないだろう.
そこで,本研究では動機づけに特化したパーソナリティの分類を行うこととしたのである.
2.2 学習コンテンツをゲーム化するためのガイドライン
また,学習コンテンツをゲーム化するにあたり,設計手法のガイドラインとして梅津と平嶋(2007) のプロパティ交換法を参考とした[21].モデル図を図2.1に示す.プロパティ交換法では対象をカー ドゲームとし,既存のカードゲームとよく似た学習ゲームを設計することができる.そのためには,
まずカードが持つ性質をプロパティと定義し,さらにそれらのプロパティの値がルール内でどのよう に扱われているかの特徴をデータ型として定義する.例えば,参考とするゲームがババ抜きならば,
各トランプカードは「数字」というプロパティを持っている.またババ抜きのルールはカードの数字 が同じものを2枚集めて捨てるというものなので,この「数字」というプロパティ同士を「同じかど うか判断する」ことでゲームを進行させていく.この時,このプロパティは 他と区別するために付 けられた名前の役割を果たすだけのもの であるので,実際には数字でなくても構わない.このよう な特徴がデータ型であり,特に例に示したプロパティのデータ型は名義尺度という.また同じプロパ ティを持つカードの集合をカードセットと呼び,例で言えばトランプがこれに当たる.この設計手法 では既存のカードゲームの持つルールなどの本質的特徴を保持したまま,これらのカードセットのプ ロパティの値を交換することで学習ゲームを作成するができる.
図2.1:プロパティ交換法モデル図(梅津,平嶋, 2007)
本研究では幾つかのタイプのゲームを実装したが,そのどれも実在するゲームを手本として実装し た.この時,実在するゲームから英語学習のためのゲームとして変換する際に,プロパティ交換法の 考え方をモデルとした.本研究で参考としたゲームはどれもカードゲームではないが,互換性のある 同質のプロパティの値を交換し既存のゲームのルールを維持するという手法はカードゲームに限らず 有効であると考えられるため,参考とすることとした.またプロパティ交換法を参考として既存ゲー ムのルールを保持したことにより,作成されたゲームの面白さがゲーム作成者である我々の手腕に よって左右されることのない様考慮したものである.
第 3 章 英単語学習アプリケーション
本章では本研究のために作成した英単語学習アプリの設計概念とシステム概要,および提供する機 能について論じる.
3.1 設計概念
本アプリでは1.2.2節のゲーム化の度合いを元に,2.2節のプロパティ交換法をガイドラインとして 4つのタイプのシステムの実装を行った.
各タイプの特徴を示したものを表3.1に,外観を図3.1に示す.各タイプごとに後述するが,左端 のホーム画面においてゲーミフィケーション化されたものはランクや経験値,アイテム数など様々な 情報が表示され,それに応じて2枚目,3枚目の様式も変更されている.
タイプ ゲーム化度合い ゲーム形式 ゲーミフィケーション要素
タイプA なし 単語帳型 なし
タイプB 第一段階 クイズ型 ランク,達成度,バッジ タイプC 第二段階 パズル型 なし
タイプD 第三段階 パズル型 ランク,達成度,バッジ 表3.1:タイプ別特徴
図3.1:タイプAからタイプD
また,タイプBからタイプDまでの各タイプの参考ゲームとのプロパティの比較を表3.1に,カー ドセットの比較を図3.2と図3.3に示す.なおタイプAに関しては何の交換も行われていないため,
紙と電子版の比較図のみ図3.4に示す.
タイプ ゲーム形式 既存プロパティ 新プロパティ タイプB クイズ型 問題 単語
解答 意味
意味 タイプC パズル型 検索する単語 単語(穴あき)
単語 タイプD (同上) (同上) (同上)
表3.2:タイプ別参考ゲームとのプロパティの比較
1
図3.2:タイプB 各プロパティの対応図
2
図3.3:タイプC,タイプD 各プロパティの対応図
図3.4:タイプA 紙ベースと電子版の単語帳の対応図
1タイプB参考ゲーム「クイズマジックアカデミーSP」http://www.konami.jp/products/qmasp app/
2タイプC/D参考ゲーム「Word Search Puzzles」https://play.google.com/store/apps/details?id=com.icemochi.wordsearch
3.2 システム概要
3.2.1 タイプA:通常学習(電子版)
まず,タイプAを図3.5に示す.タイプAは通常の単語帳をそのまま電子版に移植することを目指 して実装を行ったもので,ゲーミフィケーションやシリアスゲームなどいかなるゲーム化も行われて いない.このため,ホーム画面は「学習する!」というボタンのみが配置され,他には何の情報も提 示されていない.ユーザが「学習する!」ボタンを押すと,画面は2枚目の「ワールド選択」の画面 に進む.ここでいうワールドとは単語帳の種類などに相当するものである.ワールドを選択すると,
次に画面は3枚目の「ステージ選択」の画面に進む.ここでいうステージとは,単語帳の1枚目の単 語から30枚目の単語,など区切りのことである.さらにステージを選択すると,実際の学習画面へ と移行する.画面には上部にステージ名,「覚えた!」ボタン,現在の単語の位置が配置され,真ん 中には単語,意味,例文,下部には単語間を行き来する「戻る」ボタンと「進む」ボタンが配置され ている.特に「覚えた!」ボタンは紙の単語帳を使用している際に覚えた単語のカードを単語帳から 抜き取るが,その役割を果たし,トグルボタンになっているため選択したかどうかが分かる仕組みに なっている.その他の機能については,紙の単語帳でのものと全く同等の作用である.
(1)ホーム画面 (2)ワールド選択画面 (3)ステージ選択画面 (4)ゲーム画面 図3.5:タイプA 外観
3.2.2 タイプB:ゲーミフィケーション
次に,タイプBを図3.6に示す.タイプBはタイプAにゲーミフィケーション要素を追加したも のである.今回はゲーミフィケーション要素として表3.3の要素を導入した.ここで目指すところは これらのゲームメカニクスを導入することでフィードバックが鮮明になり,ユーザが達成感を感じた り,挑戦意欲が湧いたりすることである.ユーザはタイプAと同様に「学習する!」をタップすると ワールド選択画面に進む.ワールド画面ではランクによって選択できるものが決まっており,図3.6 の(2)の場合だとランクが2であるためひとつのワールドしか選択できない.ランクが10, 20と上が るにつれて選択できるワールドは増えていく.これはパズドラ3や黒猫のウィズ4など多くの人気ソー
3パズル&ドラゴンズ:http://www.gungho.jp/pad/
4クイズRPG魔法使いと黒猫のウィズ:http://colopl.co.jp/magicianwiz/
シャルゲームでとられている手法で,新しい要素を見たいというユーザの探究心や,新しいワールド が解放されることで自分の成長が実感できるなど達成欲を満たすことで,ユーザのロイヤリティを 高めようとするものである.また,学習対象の各英単語にはレベルが設定されており,このレベルに よってどのワールドに属するかが決定する.つまり,ランクが上がるにつれてより難易度の高い英単 語が出題される仕組みである.ワールドを選択すると,画面はステージ選択画面へと進む.ここで特 記したいのは,各ステージに達成度によって進捗するプログレスバーが配置されていることである.
プログレスバーを表示することで自分の成長を実感できたり,また達成感を感じることができるなど の狙いがある.ユーザがステージを選択すると,画面はゲーム画面へと進む.
(1)ホーム画面 (2)ワールド選択画面 (3)ステージ選択画面 (4)ゲーム画面 図3.6:タイプB 外観
ゲーミフィケーション要素 導入部 参照 ランク(経験値) ホーム画面 図3.6 (1)
ステージ解放 ワールド選択画面 図3.6 (2) プログレスバー ステージ選択画面 図3.6 (3) ゲーム要素 ゲーム画面 図3.6 (4) バッジ バッジ画面 図3.8 表3.3: タイプBで使用したゲーミフィケーション要素
ゲーム画面では英単語に対してクイズ形式で答えるようになっており,ユーザが選んだ回答によっ てフィードバックの様子も変化する.これを図3.7に示す.まずステージを選択しゲーム画面に移行 すると,ページ上部の時計が動き始める.ここで測る時間は各単語への回答速度である.1つの単語 には図3.6の(4)のように3つの回答が用意されており,ユーザは表示されている単語に対して正しい と思う意味を選択する.選択されると正誤によって図3.7のフィードバックが返され,回答の正誤に 関わらず正しい意味と例文が表示される.また,その単語に対する正答が最速だった場合には図3.7 の(1)のように「High Score」とかかれたアイコンが表示される仕様である.
(1)正解時のフィードバック (2)誤答時のフィードバック 図3.7: タイプB ゲーム部でのフィードバックの様子
さらに,タイプBではバッジ機能を搭載した.これを図3.8に示す.バッジはゲームで全問正解し た,など特定の要素を満たすと与えられるもので,よく使用されるゲーミフィケーション要素の一つ である.
図3.8:バッジ機能
ここで問題となるのはこのタイプBがゲームであるか否かだが,本研究ではこれをゲームではな く,「ゲーミフィケーションが導入された学習コンテンツ」であると定義した.というのも単語に対し て意味を選択するという今回のクイズ形式は一見するとゲームのようだが実際はその意味を知ってい なければなんら楽しめず,ある程度の事前学習やゲーム中における知識の習得がゲームの達成に必須 だからである.これによりこのサービスの基盤はゲームではなく学習の方にあると言えるため,ゲー ミフィケーション化された学習コンテンツと定義付けられる.
3.2.3 タイプCシリアスゲーム
次にタイプCを図3.9に示す.タイプCは一転してゲーム色の強い仕様となっている.このタイプ はシリアスゲーム単体の実装となるため,タイプBで実装したランクなどゲーミフィケーション要素
は導入されていない.そのため,ワールド画面に進むとランクの概念がないことにより全てのワール ドが表示されている.ステージまで選択し終わりゲーム画面に進むと,図3.9の(4)の様になる.ゲー ムの動作の詳細を図3.10に示す.
(1)ホーム画面 (2)ワールド選択画面 (3)ステージ選択画面 (4)ゲーム画面 図3.9:タイプC 外観
まずゲーム画面に移行しゲームが開始されると,単語のリストからランダムにゲームの盤面が作成 され,図3.10の(1)のようになる.ゲームは下部に表示されているヒントを参考に単語を探していく もので,ユーザは画面上の文字をタップ,ドラッグすることで目的の文字列を生成する.この動作が 図3.10の(2)である.ユーザが生成した文字列が出題された単語リスト内にあれば選択された文字が 固定されてページ上部にも単語と品詞,意味が表示され,図3.10の(3)の様になる.また,ゲーム画 面移行直後の初期段階ではヒントには出題中の単語の意味が表示されているが,ページの最下部に用 意した「ヒント2」,「ヒント3」のボタンを押すことでより直接的なヒントを表示することができる.
表示されるヒントの例を表3.4に示す.なおこのゲームの目的は出来るだけ早く全ての単語を見つけ,
その時間により高得点を得ることだが,このポイントはヒント2,ヒント3とヒントを開くごとに配 分が少なくなっていく.そのため,ユーザが高得点を狙うには出題される単語の意味を覚えることが 重要となる.
(1)ゲーム初期状態 (2)単語選択中 (3)単語選択終了
図3.10:タイプC ゲーム画面動作
ヒントタイプ ヒント例 ヒント1 世界,地球 ヒント2 wor
ヒント3 world
表3.4:タイプCのゲーム画面でのヒント例(単語:world)
タイプCとタイプBとの違いとして,このヒント機能があげられる.タイプCにおいても単語の 意味を覚えるという知識の習得はゲームを優位に進めるが,ヒント3で直接的に解答を提示すること で単純なる「文字探しゲーム」としても遊べるのである.これにより,知識の習得は必須ではなく付 加的な要素となるため,本研究ではこのタイプをシリアスゲームであると定義づけた.
3.2.4 タイプDシリアスゲーム+ゲーミフィケーション
最後に,タイプDを図3.11に示す.タイプDはタイプCで実装したシリアスゲームにタイプBで 使用した表3.3のゲーミフィケーション要素を追加したものである.そのためタイプBのようにホー ム画面にはランクや経験値が表示され,ワールドもランクによって表示される個数が変動する.また,
バッジ機能についても同様に実装を行った.ゲーム画面についてはタイプCでの実装をそのまま利用 した.
(1)ホーム画面 (2)ワールド選択画面 (3)ステージ選択画面 (4)ゲーム画面 図3.11:タイプD 外観
3.2.5 英単語の選択
また,本研究で学習すべき英単語には早稲田大学が提供する単語リストを参照し,重複したものを 覗いた1091単語を使用した5.このリストは同大学の理工学部の大学1年生と2年生向けに作成され たものである.本研究での被験者の内8割の25人は同大学,同学部の学生であるためすでに一度は このリストを学習したことがあるはずである.各単語にはワールドに割り振られる際に参照されるレ
5http://www.celese.sci.waseda.ac.jp/
ベルが設定されているが,単語の難易度について聞いたところ,レベルの低い単語は簡単であり,レ ベルの高い単語は難しいという回答が得られた.このことから学習に使用した英単語は簡単すぎると いうこともなく,学習の余地は十分にあったと言える.
第 4 章 実験
本研究では意欲特性に応じて好みとするゲーム化の度合いがなんであるかを検証するため,被験者 の意欲特性を調査する事前調査と,それぞれの被験者がどのゲーム化度合いを好むかを調査する本実 験と事後調査に分けて実験を行った.実験は20代から50代の男性24名,女性7名の計31名に対し,
事前調査として各被験者のパーソナリティ意欲特性と文脈意欲特性を測定するための質問紙に回答し てもらい,その後に本実験と事後調査を行った.
4.1 事前調査
まずパーソナリティタイプの測定には第1章で述べた2つの理論を用い,質問紙による調査を行っ た.さらに測定した結果を元に因子分析を行い,意欲特性を割り出した.分析にはオープンソースの 統計解析ソフトRを用いた1.
まずDweck(2003)の提示した達成目標についてパーソナリティ意欲の測定を行ったので結果を図
4.1に示す.分析では比較元としたDweckの因子分析方式に従い最尤法,Varimax回転で分析を行っ た.図4.1からFactor1と分類された被験者はLearningに相当,またFactor2と分類された被験者も
概ねAbilityに相当すると解釈したが,Factor3とFactor4に関しては違いが明確に現れなかった.ま
た今回出力されたモデルの正当性を示すP値もp=0.055と高い値であったことから今回行った事前調 査からだけではこの理論を用いたモデルのみで各被験者のパーソナリティを分類することはできず,
本研究に使用するのは不適切であると判断した.
しかし,実質的には次に示す自律的学習動機尺度を被験者の分類に用いたが,その分類からでは説 明しづらい被験者が何名が出た.これに対し,Dweckの達成目標の測定値を単純平均したもので分析 を行ったところ説明できる部分があったため,補足的にこれを用いることとする.ここでいう単純平 均とは,Dweckの達成目標理論におけるLearning,Objective,Normative,Abilityの各特性を説明す る質問項目への回答を,各特性ごとに平均し,その平均値が最大となった意欲特性ををその被験者の パーソナリティ意欲特性と判断したものである.値は平均値であるため2つ以上の意欲特性が検出さ れた被験者が存在するが,これらについては特性が判断できなかったと解釈した.
1The R Project for Statistical Computing:http://www.r-project.org/index.html
図4.1: Dweckの達成目標理論を用いたパーソナリティ意欲特性の分析結果
次に,自律的学習動機尺度を用いたパーソナリティ測定を行い,因子分析した結果を図4.2に示す.
分析では,比較元とした西村・河村・櫻井(2011)の因子分析方式に従い最尤法,Promax回転で4因 子を特定する分析を行った.しかしながら,この方式で行うと不適解が出てしまいモデルして適さな かった.これはサンプル数の少なさなどからくるものと考えられる.そのため,因子数を2因子に減 らして分析を行うこととした.これは自律性の程度による動機づけの分類では,外的,取り入れ的,
同一化的,内的調整が自律性の程度で順列になっているため,2因子で分ければその動機づけの自律 性の高い,低いで分けられるだろうと考えたからである.実際に最尤法,Promax回転で2因子を特 定した結果が図4.3である.この図からも,これら2因子が自律性,つまりは動機づけの高い低いを 説明していることが明白である.また,p値も6.6e-5と極めて小さいことから,このモデルは統計的 にも信頼に足るものとなった.この分析をもとに,被験者をパーソナリティ意欲特性の高い,低いと いう群に分類することとした.分類するにあたっては回帰法を使用して各被験者の両因子の因子得点 を計算し,その得点の高いものをその被験者のパーソナリティ意欲特性と結論づけることとした.
図4.2:自律的学習動機尺度を用いたパーソナリティ意欲特性の分析結果(4因子)
図4.3:自律的学習動機尺度を用いたパーソナリティ意欲特性の分析結果(2因子)
次に文脈意欲特性の分類に対しても同様に自律的学習動機尺度を用いて分析を行った.まずは4因 子を特定する分析を行い,結果を図4.4に示す.こちらのモデルでは不適解は出力されなかったが,
Factor3とFactor4が共に外的調整を示すようなモデルとなった.そのため,文脈意欲特性に関しても 4因子での分析を断念し,2因子とすることが妥当であると判断した.2因子に分離するため行った 分析結果を図4.5に示す.また,こちらのモデルもp値が1.6e-5と小さくなり,統計的にも有効なモ デルとなった.
図4.4:自律的学習動機尺度を用いた文脈意欲特性の分析結果(4因子)
図4.5:自律的学習動機尺度を用いた文脈意欲特性の分析結果(2因子)
以上のように本研究ではパーソナリティ意欲特性,文脈意欲特性をそれぞれ高い低いで分類したた め,最終的には全被験者を以下の4群で分類した.
• パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群
• パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群
• パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群
• パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性も低い群
事前実験で計測を行った被験者の意欲特性を元に,上記4群の割合を図4.6に示す.図4.6内にお けるPはパーソナリティ意欲,Cは文脈意欲を指すものである.
図4.6:被験者の意欲特性の割合(n=31)
4.2 実験 / 事後調査
本実験では最初にシステム全体の簡単な説明として英単語学習のためのアプリケーションであるこ と,4つのタイプをプレイしてもらうことを説明した.その後,タイプAについての簡単な説明を
し,同タイプをプレイしてもらった.1つのステージを終了した時点で一度プレイをやめてもらい,
タイプAに対する動機づけの度合いを測定するための質問紙に回答してもらい,これをタイプDま で繰り返した.なお,各タイプをプレイする前の説明では,機能やルール,操作の仕方,ゲーミフィ ケーション要素の有無について言及した.各タイプ終了後の具体的な質問内容は付録A.3に,結果は 付録Bに示す.
第 5 章 考察
まずここで本研究においての最終目的を再確認することとする.本研究では,ユーザのパーソナリ ティ意欲,および文脈意欲の測定を行い,それぞれの特性における最適なゲーム化度合いを検討する ことが目的であった.そこで,本章ではパーソナリティ意欲特性と文脈意欲特性の組み合わせごとに 最適なゲーム化度合いについての考察を行う.
5.1 第二段階のゲーム化と第三段階のゲーム化の比較
まず,最初にシリアスゲーム単体が生成される第二段階のゲーム化とゲーミフィケーション化を組 み合わせたシリアスゲームが生成される第三段階のゲーム化についての比較を行う.それぞれ,今回 作成したシステム上ではタイプC,タイプDが該当する.図5.1に示したのは,全被験者にレベルと 経験値,達成度,バッジのゲーミフィケーション要素があった時,どれによって動機づけされるかと いう質問に対する回答を元に,動機づけが行われたゲーミフィケーション要素の個数を示したもので ある.これを見ると,9割の被験者がなんらかのゲーミフィケーション要素によって動機づけされて いることがわかる.また,被験者15以外の全員のセルフエフィカシーがタイプCとタイプDで同等 であるか,タイプDでより高かったこと,タイプCとタイプDでゲーミフィケーション要素の有無 以外の差異は全くなく,パズルゲーム部で動機づけの変動は起こりえないことなどから,第二段階の ゲーム化より,第三段階のゲーム化まで行う方が学習コンテンツでは適しているということが実証さ れた.そのため,次節以降ではタイプCとタイプDの比較は基本的に行わないことする.
図5.1:動機づけされたゲーミフィケーション要素の数(最大3要素)
対してタイプAとタイプBではゲーム部にも差異が見られるため次節以降で考察を行う.
5.2 各意欲特性における最適なゲーム化度合いの考察
本節では各意欲特性における動機づけの変動などから考察を行い,最適なゲーム化度合いを提案す る.第4章でも述べたが,被験者の意欲特性の分類には以下4群を使用する.
• パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群
• パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群
• パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群
• パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性も低い群
5.2.1 パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群
パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群は,ゲーム化を行う際には第一段階のゲー ム化までが最適であると結論付けた.また,この群の中にはゲーム化が全く行われない場合でも十分 に動機づけが行われた被験者がいたので,これについても考察する.
まず,この群の被験者における動機づけの推移の様子を図5.2に示す.なお(2)の図では複数タイ プでセルフエフィカシーが同じ値となりこれが最大であった時は,各々のタイプにこの人数を足し合 わせた.
(1)動機づけされた被験者数 (2)セルフエフィカシーが最大となった被験者数 図5.2:パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群の動機づけの推移(n=9) 図5.2の(1)を見ると,9名中6名の被験者が全くゲーム化の行われていないタイプAで既に動機づ けが行われていた.また同図の(2)から3名の被験者がタイプAでセルフエフィカシーが最大となっ た.このことから,この群の中にはゲーム化をなんら施さずとも動機づけが行われる群があるという ことが実証された.まず,この群に関してさらに細かく検証を行う為,タイプAのセルフエフィカ シーが最大となった被験者の各ゲーミフィケーション要素の有無でより利用したい意思が増すか,ま たそれらのゲーミフィケーション要素があることに気が付いたかという質問に対する答えを表5.1に 示す.同表から,タイプAでのセルフエフィカシーがタイプBでのセルフエフィカシーより高く最 大となった被験者15と18は,動機づけが高まるゲーミフィケーション要素が全くないか少ないこと がわかる.また被験者17はタイプAとタイプBのセルフエフィカシーが同等で,最大であった.こ