第 5 章 考察
5.2 各意欲特性における最適なゲーム化度合いの考察
本節では各意欲特性における動機づけの変動などから考察を行い,最適なゲーム化度合いを提案す る.第4章でも述べたが,被験者の意欲特性の分類には以下4群を使用する.
• パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群
• パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群
• パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群
• パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性も低い群
5.2.1 パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群
パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群は,ゲーム化を行う際には第一段階のゲー ム化までが最適であると結論付けた.また,この群の中にはゲーム化が全く行われない場合でも十分 に動機づけが行われた被験者がいたので,これについても考察する.
まず,この群の被験者における動機づけの推移の様子を図5.2に示す.なお(2)の図では複数タイ プでセルフエフィカシーが同じ値となりこれが最大であった時は,各々のタイプにこの人数を足し合 わせた.
(1)動機づけされた被験者数 (2)セルフエフィカシーが最大となった被験者数 図5.2:パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群の動機づけの推移(n=9) 図5.2の(1)を見ると,9名中6名の被験者が全くゲーム化の行われていないタイプAで既に動機づ けが行われていた.また同図の(2)から3名の被験者がタイプAでセルフエフィカシーが最大となっ た.このことから,この群の中にはゲーム化をなんら施さずとも動機づけが行われる群があるという ことが実証された.まず,この群に関してさらに細かく検証を行う為,タイプAのセルフエフィカ シーが最大となった被験者の各ゲーミフィケーション要素の有無でより利用したい意思が増すか,ま たそれらのゲーミフィケーション要素があることに気が付いたかという質問に対する答えを表5.1に 示す.同表から,タイプAでのセルフエフィカシーがタイプBでのセルフエフィカシーより高く最 大となった被験者15と18は,動機づけが高まるゲーミフィケーション要素が全くないか少ないこと がわかる.また被験者17はタイプAとタイプBのセルフエフィカシーが同等で,最大であった.こ
の被験者は動機づけが高まるゲーミフィケーション要素数は2であったが,そのうちの一つのバッジ の要素に気が付かなかったと回答した.このことから,バッジ要素に気が付いていればタイプBに対 するセルフエフィカシーの方が高くなったという予想ができる.また各被験者の各タイプにおけるセ ルフエフィカシーを図5.3に示す.図5.3を見ると,3名ともタイプBでのセルフエフィカシーもタ イプAでのものに近い値となっている.これらのことから総合的に判断し,パーソナリティ意欲特性 が高く,文脈意欲特性も高い群の内,ゲーミフィケーション要素によって動機づけが高まらない群は ゲーム化を行う必要はないが,第一段階のゲーム化を行ったとしても動機づけが下がることはないと 結論づけた.
以下の要素で動機づけが行われるか 以下の要素に気づいたか 被験者
番号
セルフ エフィカシー
レベルと
経験値 達成度 バッジ レベルと
経験値 達成度 バッジ
15 A>B × × × × × ×
17 A=B × ◯ ◯ ◯ ◯ ×
18 A>B × ◯ × ◯ ◯ ×
表5.1: タイプAのセルフエフィカシーが最大となった被験者のゲーミフィケーション要素の好み
図5.3: パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群の各被験者のセルフエフィカシー 次にタイプDのセルフエフィカシーの方がタイプBよりも高くなった被験者を図5.3から読み解く と,被験者31に関してはタイプBでも十分に高い値であることがわかる.また被験者16に関して もタイプA,タイプBを利用したくないと回答した理由を もう使っているアプリがあるから とし ていることから,これらのタイプに対する動機づけは十分に高いと推測できる.これにより,ゲーミ フィケーション化のみに止めた方がシリアスゲーム化までするよりも学習効率が高いことを考慮する と,この群に対してはタイプBを適用するのが妥当だと言えるだろう.
以上のことからパーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群ではゲーミフィケーション 化のみの第一段階のゲーム化を適用することが最適である.またゲーミフィケーション要素によって
動機づけが高められないユーザに対しては必ずしもゲーム化は必要ではなく,行わなくても良い.
5.2.2 パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群
パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群に対しては第三段階のゲーム化までするの が最適であると結論付けた.
まず,この群の被験者における動機づけの推移の様子を図5.4に示す.
(1)動機づけされた被験者数 (2)セルフエフィカシーが最大となった被験者数 図5.4:パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群の動機づけの推移(n=3) 図5.4の(1)より,この群においてもタイプAで動機づけが行われた被験者が存在した.しかし(2) の最大のセルフエフィカシーとなったタイプを見るとそれぞれタイプB,タイプDであった.またこ れらの被験者のセルフエフィカシーを図5.5に示す.
図5.5: パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群の各被験者のセルフエフィカシー 最初に被験者3と被験者11についての考察を行う.被験者3はタイプAでのセルフエフィカシー は必ずしも高くなく,ゲーム化が進むにつれて順当にセルフエフィカシーが向上し,タイプDで最大 となっている.一方で被験者11はタイプAからタイプDまで一貫して動機づけが行われなかった.
またその理由として 英語を覚える気がない などをあげており,文脈に対する意欲が極端に低いこ とが伺える.ただ,タイプCへのコメントでは パズルゲームとしてなら利用する としており,シ
リアスゲーム化が一定の効果を上げていることがわかった.そのため,これら2名の被験者はシリア スゲーム化まで行うのが最適であると結論付けた.
被験者6に関してはタイプA,タイプBで動機づけが行われたがタイプCでは行われず,タイプ Dで再度動機づけが行われた.また,セルフエフィカシーはタイプBでのものが最大であった.タイ プCを利用したくないとした理由について 英単語の学習というよりかはパズルゲームのように思っ たから,学習のために使うことはなさそう とコメントしていること,タイプAとBに対しては学 習効率を感じるが,タイプCとDには感じないと回答したことなどから,この被験者はアプリが学 習の効果を発揮するかを重要視しているようである.また統計的分析の結果からは意欲特性が低いと 出たが,回答からの単純平均では意欲特性は同一化的であった.またDweckの目標達成モデルを調 査する目的で行った回答の単純平均でもその意欲特性はOutcome型であるとの結果が出た.前者の 特性は文脈意欲が高い状態であり,また後者の特性は動機づけが行われやすい群である.このことか ら,この被験者の英語学習への意欲は必ずしも低くないということが伺える.そのため,タイプBを 好むというパーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群と同様の結果になったのではない だろうか.
これらのことから,この群に対してはなんらかのゲーム化が有効であり,特に第三段階のゲーム化 が最適であると結論付けた.しかし被験者の数が3名しかいなかったことから,この結論が本当に正 しいか今後の研究で再度検証することが重要となるだろう.特にシリアスゲーム化でセルフエフィカ シーが下がった被験者を外れ値として除外してしまって良いのかについては,今後より多くのデータ が集まることで解決される問題だろう.現段階ではゲーミフィケーション化によってこの被験者も動 機づけが行われているため,ゲーム化を試行する際の第二候補としてこの手法が有用であると言うに 止めておく.
5.2.3 パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群
パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群に対しては第一段階のゲーム化が最適であ り,適宜必要に応じて第三段階のゲーム化までするのが良いと結論付けた.
まず,この群の被験者における動機づけの推移の様子を図5.6に示す.
(1)動機づけされた被験者数 (2)セルフエフィカシーが最大となった被験者数 図5.6:パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群の動機づけの推移(n=5) 図5.6の(1)を見るとタイプAで動機づけが行われていた被験者は1名しかいなかったが,タイプ
B以降では4名となった.そのため,この群においてはゲーミフィケーション化が有効であると結論 づけた.ただ,(2)ではセルフエフィカシーが最大となった被験者数がタイプBとタイプDで同じで あったことからこの時点でシリアスゲーム化まで行う必要があるかの判断は付かなかった.
しかし,図5.7に示した各被験者のセルフエフィカシーを詳細に見ると,タイプBの方がセルフエ フィカシーが高くなった被験者が多かった.また被験者25はタイプDのセルフエフィカシーが最大 であるがタイプBでのセルフエフィカシーも十分に高く,ゲーミフィケーション化のみの実装でも動 機づけが行われると予測される.
図5.7: パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群の各被験者のセルフエフィカシー これらのことからパーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群の全体としては第一段階 のゲーム化が最適だと思われる.しかしながら図5.7から被験者28のタイプBでのセルフエフィカ シーが他と比べ非常に低いこと,今回この群の母数が5と小さいことからシリアスゲーム化を完全に 行わなくて良いと結論付けるには根拠が足りない.そのため,まずは第一段階のゲーム化を行って様 子を見,その後適宜第三段階のゲーム化までを行うのが良いだろう.
5.2.4 パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性も低い群
パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性も低い群に対しては第三段階のゲーム化まで行うの が最適である.
まず,この群の被験者における動機づけの推移の様子を図5.8に示す.図5.8の(1)からパーソナリ ティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群と同様にこの群でも多くの被験者がゲーミフィケーショ ン化によって動機づけが行われている.また(2)よりセルフエフィカシーが最大となったのはタイプ Dがもっとも多かった.