本研究では意欲特性に応じて好みとするゲーム化の度合いがなんであるかを検証するため,被験者 の意欲特性を調査する事前調査と,それぞれの被験者がどのゲーム化度合いを好むかを調査する本実 験と事後調査に分けて実験を行った.実験は20代から50代の男性24名,女性7名の計31名に対し,
事前調査として各被験者のパーソナリティ意欲特性と文脈意欲特性を測定するための質問紙に回答し てもらい,その後に本実験と事後調査を行った.
4.1 事前調査
まずパーソナリティタイプの測定には第1章で述べた2つの理論を用い,質問紙による調査を行っ た.さらに測定した結果を元に因子分析を行い,意欲特性を割り出した.分析にはオープンソースの 統計解析ソフトRを用いた1.
まずDweck(2003)の提示した達成目標についてパーソナリティ意欲の測定を行ったので結果を図
4.1に示す.分析では比較元としたDweckの因子分析方式に従い最尤法,Varimax回転で分析を行っ た.図4.1からFactor1と分類された被験者はLearningに相当,またFactor2と分類された被験者も
概ねAbilityに相当すると解釈したが,Factor3とFactor4に関しては違いが明確に現れなかった.ま
た今回出力されたモデルの正当性を示すP値もp=0.055と高い値であったことから今回行った事前調 査からだけではこの理論を用いたモデルのみで各被験者のパーソナリティを分類することはできず,
本研究に使用するのは不適切であると判断した.
しかし,実質的には次に示す自律的学習動機尺度を被験者の分類に用いたが,その分類からでは説 明しづらい被験者が何名が出た.これに対し,Dweckの達成目標の測定値を単純平均したもので分析 を行ったところ説明できる部分があったため,補足的にこれを用いることとする.ここでいう単純平 均とは,Dweckの達成目標理論におけるLearning,Objective,Normative,Abilityの各特性を説明す る質問項目への回答を,各特性ごとに平均し,その平均値が最大となった意欲特性ををその被験者の パーソナリティ意欲特性と判断したものである.値は平均値であるため2つ以上の意欲特性が検出さ れた被験者が存在するが,これらについては特性が判断できなかったと解釈した.
1The R Project for Statistical Computing:http://www.r-project.org/index.html
図4.1: Dweckの達成目標理論を用いたパーソナリティ意欲特性の分析結果
次に,自律的学習動機尺度を用いたパーソナリティ測定を行い,因子分析した結果を図4.2に示す.
分析では,比較元とした西村・河村・櫻井(2011)の因子分析方式に従い最尤法,Promax回転で4因 子を特定する分析を行った.しかしながら,この方式で行うと不適解が出てしまいモデルして適さな かった.これはサンプル数の少なさなどからくるものと考えられる.そのため,因子数を2因子に減 らして分析を行うこととした.これは自律性の程度による動機づけの分類では,外的,取り入れ的,
同一化的,内的調整が自律性の程度で順列になっているため,2因子で分ければその動機づけの自律 性の高い,低いで分けられるだろうと考えたからである.実際に最尤法,Promax回転で2因子を特 定した結果が図4.3である.この図からも,これら2因子が自律性,つまりは動機づけの高い低いを 説明していることが明白である.また,p値も6.6e-5と極めて小さいことから,このモデルは統計的 にも信頼に足るものとなった.この分析をもとに,被験者をパーソナリティ意欲特性の高い,低いと いう群に分類することとした.分類するにあたっては回帰法を使用して各被験者の両因子の因子得点 を計算し,その得点の高いものをその被験者のパーソナリティ意欲特性と結論づけることとした.
図4.2:自律的学習動機尺度を用いたパーソナリティ意欲特性の分析結果(4因子)
図4.3:自律的学習動機尺度を用いたパーソナリティ意欲特性の分析結果(2因子)
次に文脈意欲特性の分類に対しても同様に自律的学習動機尺度を用いて分析を行った.まずは4因 子を特定する分析を行い,結果を図4.4に示す.こちらのモデルでは不適解は出力されなかったが,
Factor3とFactor4が共に外的調整を示すようなモデルとなった.そのため,文脈意欲特性に関しても 4因子での分析を断念し,2因子とすることが妥当であると判断した.2因子に分離するため行った 分析結果を図4.5に示す.また,こちらのモデルもp値が1.6e-5と小さくなり,統計的にも有効なモ デルとなった.
図4.4:自律的学習動機尺度を用いた文脈意欲特性の分析結果(4因子)
図4.5:自律的学習動機尺度を用いた文脈意欲特性の分析結果(2因子)
以上のように本研究ではパーソナリティ意欲特性,文脈意欲特性をそれぞれ高い低いで分類したた め,最終的には全被験者を以下の4群で分類した.
• パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性も高い群
• パーソナリティ意欲特性が高く,文脈意欲特性が低い群
• パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性が高い群
• パーソナリティ意欲特性が低く,文脈意欲特性も低い群
事前実験で計測を行った被験者の意欲特性を元に,上記4群の割合を図4.6に示す.図4.6内にお けるPはパーソナリティ意欲,Cは文脈意欲を指すものである.
図4.6:被験者の意欲特性の割合(n=31)
4.2 実験 / 事後調査
本実験では最初にシステム全体の簡単な説明として英単語学習のためのアプリケーションであるこ と,4つのタイプをプレイしてもらうことを説明した.その後,タイプAについての簡単な説明を
し,同タイプをプレイしてもらった.1つのステージを終了した時点で一度プレイをやめてもらい,
タイプAに対する動機づけの度合いを測定するための質問紙に回答してもらい,これをタイプDま で繰り返した.なお,各タイプをプレイする前の説明では,機能やルール,操作の仕方,ゲーミフィ ケーション要素の有無について言及した.各タイプ終了後の具体的な質問内容は付録A.3に,結果は 付録Bに示す.