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新スイス連邦憲法 ―ヘフェリン=ハラー=ケラー共著にもとづく紹介

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 目 次

Ⅰ 紹介にあたって

Ⅱ スイス連邦憲法の歴史と特質 (以上、本誌17号) 

Ⅲ ヘフェリン=ハラー=ケラー共著の主要内容の紹介  原著者の序文

 目次の大略  第1編 総 則

  第1節 スイス連邦憲法の特質 (以上、本誌18号)

  第2節 連邦憲法の歴史 (以上、本誌19号)

  第3節 公法の解釈    前 言

   Ⅰ.解釈の課題

   Ⅱ.多様な解釈方法 (以上、本誌20号)

   Ⅲ.解釈における方法論的多元主義     1.憲法解釈の際の一般的解釈規定     2.様々な解釈方法の均衡的結合     3.理性的かつ実践的結論のための配慮    Ⅳ.公法における欠缺の治癒

    1.解釈と欠缺の治癒     2.法律欠缺の概念

     a) 純粋な欠缺と純粋でない欠缺の従来的な区別      b) 法律の計画違反的な不完全性としての法律欠缺

紹介

新スイス連邦憲法

―ヘフェリン=ハラー=ケラー共著にもとづく紹介―(6)

小 林   武

(2)

    3.法律の欠缺と法律の適格な沈黙     4.憲法典における欠缺

    5.欠缺治癒の際の優先順位    Ⅴ.法律の憲法適合的解釈     1.課題と適用領域

    2. 憲法適合的解釈の適用の前提      a) 多数の解釈結果の中からの選択      b) 不確定の法概念の解釈     3.憲法適合的解釈の限界

     a) 解釈されるべき法律規範の文言と意味(以上、本誌21号)

     b) 権力分立原則と法的安定性      c) 連邦憲法190条の適用命令    Ⅵ.国法の国際法適合的解釈   第4節 連邦憲法を支える基本価値    Ⅰ.法治国家的要素

    1.形式的意味における法治国家     2.実質的意味における法治国家    Ⅱ. 民主主義的要素

   Ⅲ.法治国家と民主主義:内部的関連と緊張関係    Ⅳ.連邦国家的要素(以上、本号)

   Ⅴ.社会国家的要素(以下、次号) 

   紹介者の註: 本文所掲のスイス連邦憲法などの条文   

 b)権力分立原則と法的安定性(Gewaltenteilunngsprinzip und Rechtssicherheit)

 権力分立原則は、憲法適合的解釈に一個の限界を設定する。憲法適合的解釈は、

法律規範が画定し調整している範囲を超えることはできない。憲法適合的解釈は、

裁判官に、立法者に代位したり、法律を解釈変更(Umdeuten)して規則を立てた

(3)

りすることを可能にするものではない。そうした行態は、権力分立原則に反するだ けでなく、法的安定性にも違背するものでもあろう。

 このことは、たとえば、2つの判例によって明らかである。BGE 99Ⅰa 262 E.

ⅣおよびⅤ, MinelliⅠ事件の判決では、連邦裁判所は、異常なほどに広範な憲法適 合的解釈を施された郡(Bezirk)刑務所にかんするチューリッヒ邦規則は連邦憲法 との適合を超えた意味を施されたものであることを解明した。また、憲法適合的解 釈の可能性を認めない事例のひとつが、BGE 102Ⅰa 279 E. 2ff.にも見られる。そ こにおいて、連邦裁判所は、留置所にかんするチューリッヒ邦令を違憲であるとし、

その際、同令の制定者に対して、憲法に適合する規定を制定すべき義務を課した。

 「是正的な」憲法適合的解釈への反省(Zur

ückhaltung gegen über einer

《berichtigenden》

verfassungskonforme Auslegung)は、とりわけ、きびしく評価された侵害が問題

となり、また、当該規範が必ずしも優先的に憲法適合的に適用されない一定の確立 がある場合になされるのである。

 

 このような考察にもとづいて、連邦裁判所は、BGE 106Ⅰa 136 E.3, アッペンツェル・ア ウサーローデン邦刑務所規則事件において、不明確できわめて厳格な形式をもっていた邦刑 務所規則の規定を、一部取り消して次のように判示した。

 「抽象的規範統制手続においては、裁判官は、憲法適合的解釈の可能性を抽象的に探究す るだけでなく、憲法に誠実な(verfassungstreue)解釈をも併せて考慮しなければならない

(…)。規範は、それが争われている(vorliegend)形式において憲法違反へと導かれるこ とが受容される場合には、それが存続することは正当化されるものではない…。

 争われた関係においては、邦庁(Regierungsrat)が自らの報告で認めた刑務所規則が、

被拘留者のとりわけ収監長に対する法的地位が明確でないということが、重要な意味をもっ ている。それゆえに、当該の官位にかんして一個の規則が制定されるべきであるが、それは、

とくに日々の収監生活上の実際的な問題についての適切な解決策が示され、また現代的な原 則に充分に即したものであることが示されなければならない。規則は、邦警察官庁への第一 義的な指針であり(規則第2条)、つまり、法的に特別に設定されたものではない。こうし た官庁は、他の事例にかんしては、しばしばかつ確実に、個別の規定の文言を、解釈上の熟

(4)

慮を必要としない形で提示することを指針としている。

 連邦裁判所が、抽象的規範統制の手続において、一個の邦法律もしくは命令の 規定に合憲的解釈を施し、それにもかかわらずその法律ないし命令を取消した

(aufheben)場合には、この法条項(Rechtssatz)の適用を受けた人は、なお、

この適用行為の根拠になっている法規範(Rechtsnorm)についての裁判所の審査 を待ってよいことになる(いわゆる「付随的」規範統制。これについては、§66参照)。

 「一般的・抽象的な規定は、法律制定者がそれを憲法上正当なものと解しているように見 える通常の事態の下では、特別な事情のある場合には、抽象的規範統制の場における憲法裁 判官の判断も、一般的には、なおも正当化されないという、不確実な可能性が排除できない のである。こうした手続において違憲の争点が斥けられた場合、それについて市民は、個別 の事案への適用の場合の違憲の訴えを新たに提起することができる。すなわち、それによっ て十分な憲法上の権利の保障が確保されつづけるのである」。(BGE 118Ⅰa 306 E. 1f. 武器 規則事件。また参照、BGE 125Ⅰ65 E. 3b. Ruth Leutenegger事件)

 c)連邦憲法190条による適用命令(Anwendungsgebot von Art.190 BV)

 連邦憲法190条によれば、裁判官は、連邦法律について、それが連邦憲法に違反 していない限り、適用する義務を負っている。ただし、そのことは、連邦法律につ いて憲法適合的解釈を施すことを排除していない(BGE 131Ⅱ562 E.3.5, 賭博台へ の課税事件)。しかしながら、連邦法律の文言と意味が明白である限りで、裁判官 は、連邦法律への違反が存在している場合にも、それに拘束される。それゆえに、

しかし実際上、いかなる付加的な制約も向けられることはない。というのは、法律 規範の文言および意味が、合憲的解釈の限界を全く一般的に形成しているからであ る (参照、前出N.151以下)。

Ⅵ.国法の国際法適合的解釈

  

(V ö lkerrechtkonforme Auslegung des Landesrechts)

(5)

 国際法は、ここ数10年の間に、その意味がきわめて強化されている。国際法から 生成した諸義務(連邦憲法5条も参照せよ)を履行するために、国法(Landesrecht)

の国際法ないし国家間条約適合的解釈(völkerrechts- oder staatsvertragskonforme

Auslegung)が差し向けられる。国法と国際法との間の紛争は、きわめてばしば、

それによって回避される(参照、国際法適合的解釈については、国際法と国法との 関係にかんする2010年3月5日の連邦参事会の報告書、BBl 2010, S.2306f.)。

  国 際 法 適 合 的 解 釈 は、 憲 法 適 合 的 解 釈 と 同 じ く、 1 個 の 調 和 的 機 能

(Harmonisierunngsfunktion)を果たしている。連邦裁判所は、BGE 117 Ⅰb 367

E.2f, 連邦租税行政の事案において、以下のとおり、これを堅持している。

 「その場合、連邦法律は、憲法適合的にだけでなく、条約にも適合させて解釈しなければ ならない。換言すれば、両法規の間の紛争は可及的に回避されるべきであるという――争い のない――原則が重要な意味をもつ。」

 とりわけ、条約(Staatsvertrag)とスイス法(schweizerisches Recht)との間 に軽微な齟齬がある場合には、こうした調和的方法が、〔それを治癒するための〕

良い貢献を果たすことになる(VPB 53〔1989〕Nr.54, S.432; BGE 94Ⅰ669 E.6a,

Frigerio事件)。

 一個の重要な適用事例は、連邦裁判所がしばしば用いているところの、欧州人権 条約に適合させた解釈(EMRK-konforme Auslegung)に見受けられる。

 

 例として、―― BGE 123 Ⅳ 236 E.8cc, ジャーナリストの通信に対する管理;

      ―― BGE 137Ⅰ351 E.3.7, 婚姻法Ⅰ。

 その際に、スイスの裁判官は、適用されるべき条約規定(Konventionsbestimmung)

について最上級の条約官庁(Konventionsbehorde)がおこなった解釈に従うこと になる。〔判例省略〕

 基本権適合的解釈(grundrechtskonforme Auslegung)については、N.270およ びN.286を参照せよ。

(6)

 外国人および難民法(Ausländer- und Asylrecht)の規定は、この分野でスイ スが担う国際法上の義務を考慮して採用されたものである。なお、憲法中に錨着 されている追放・送還禁止原則(Non-Refoulement-Gebot)(参照、N.593)およ びEMRK(家族生活の権利。参照、N.382)とともに、子どもの権利(子どもの権 利条約、KRK)にかんする予算も、1989年11月20日に計上された。スイスで出産 して10年になる、この協定にもとづく子どもをもつ家族が退去を要求されないこと

(Unzumutbarkeit der Wegweisung)については、VPW70(2006)Nr.28を参照 せよ。

 国際法適合的解釈(V

ölkerrechtskonforme Auslegung)は、スイス法と国際法

との間に架橋しがたい矛盾が存在している場合には、限界に突き当たる(Grenz

setzen)。

 クルド人労働者党の宣伝資料にかんする連邦参事会の規則にかかわる事案において、連邦 裁判所は、同裁判所に提起された行政訴訟(Verwaltungsbeschwerde)が認容されるもの であるか否かを審査することを求められた。連邦裁判所は、次のように正当に確定した。す なわち、ERMK6条1項にもとづく司法的統制による訴えと、裁判所構成法(OG)98条a 号にもとづいて連邦裁判所に提起することが許される、限定列挙された行政訴訟の一覧表と の間の争議――前出の事案ではいかなる訴訟(Beschwerde)も認容されなかったのである が――は、OGの国際法適合的解釈によって架橋されるものではない。それゆえ、連邦裁判 所は、行政裁判所訴訟については、OGがそれを規定していない場合であるにもかかわらず、

それを認容することがある(BGE 125 Ⅱ 417E.4d. PKKの宣伝資料事件)。この判決につい ては、N.1926aも参照せよ。

第4節 連邦憲法を支える基本価値

    (Die tragenden Grundwerte der Bundesverfassung)

 スイスの国家秩序および憲法秩序は、本質的に、4つの支柱となる基本要素

(vier tragenden Grundelementen)によって刻印されている。すなわち、法治国 家的、民主主義的、連邦主義的および社会国家的(rechtsstaatlich, demokratisch,

(7)

föderalistisch und sozialstaatlich)各要素である。

 これらの支柱的基本価値は、法規範化されているものではなく――そしてそ れゆえ、個人の憲法上の権利なのではなく――、憲法を形づくる指針的諸原理

(verfassungsgestaltende Leitprinziepen)であって、ドイツ連邦共和国(基本法

20条1項)とは多少異なり、憲法典の中では部分的に言及されているにすぎない。

とはいえ、個々の具体的な憲法規範の陰で、物言わぬまま〔=不文の形で〕存在し、

また、国家秩序の形成の際に一定の影響を及ぼしたし、また及ぼしてもいるのである。

 新連邦憲法においても、これらの〔憲法〕構造を画定する徴表が列挙され、普遍 的な仕方で相互に関係づけられていることによって、〔明文化は〕断念されている のである(BBl 1997Ⅰ17)。こうして、憲法制定者は、支柱的基本原理を憲法条文 の中に、明確に可視的な姿にすることを断念した。このことは、とりわけ――もっ とも、それに限定したわけではなく――〔新連邦憲法の〕連邦および邦における国 家機能のすべての支担者を定めた第1編「総則」(Allgemeine Bestimmungen)も、

また部分的には私人(たとえば、連邦憲法5条3項および6条)に向けられている。

Ⅰ.法治国家的要素 (Das rechtstaatsliche Element)

 それは、国家において、法の支配(Herrschaft des Rechts)およびそれと結び ついた人の自由を確保する法治国家の基本的関心事(Grundanliegen)である。法 治国家の理念は、国家が、その全行態(gesamte Tätigkeit)において法に拘束さ れることを要求する。個人(Einzeln)は、(その個人によって支担された諸機関も 同じく、)拘束されず、それゆえ、予測できず統制できない国家権力によって保護 されるのでなければならない。

 付言するに、法治国家原理は、歴史の流れによってたえず新しい内容を注入され ている「部分的に開かれた構造的原理」(《paltiell offenes Strakturprinzip》)を意 味する(DIGGELMANN

, Rechtsstaatsbegriff, Rz.12,B

ÖCKENFÖRDEへの参照の下に)。

また、法治国家概念の内容は、地域的関連で分かれている。英国では、とりわけ

D

EICY(Introduction to the Study of the Law of the Constitution)によって発 展させられた「法の支配」(Rule of Law)の格律は、その核心的内容において幾

(8)

分かはドイツの法治国家(Rechtsstaat)の概念に相応している。ただ、この法治 国家概念は、力点を形式的な観点により強く置いている。他方、人は、とりわけ第 2次大戦後のドイツにおいては、法治国家概念に実体的な基本価値を包含させてお り、かつその際に、司法による基本権の保護を、また立法者に対しては高度な地位 に応じた価値を設定している。

 1.形式的意味における法治国家 (Das Rechtsstaat im formellen Sinn)

 連邦憲法5条1項は、「国家的処務(Handeln)の基礎をなし、かつそれを制 約するものは法である。」と謳っている。そのようにして、法治国家にかんする 中心的な合法性原理(Legalitätsprinzip)が語られている。そのために、国家 の全行態をすべての現行規範にもとづかせているのである。こうした法規――

その発効のためには公刊されなければならないが――への拘束は、法的安定性

(Rechtssicherheit)に仕える。国家的処務は、これによって予見可能なものとな り、また、個人は、それを目安とすることができるのである。同時に、民主的正統 性(demokratische Legitimation)の合法性原理は、重要な法律的決定が「法律 の形式」(《Form des Gesetzes》)で公布することが要求されている場合には、国 家的処務に仕えることになる(参照、連邦憲法164条1項)。それゆえ、法律の成立 のためには、議会と国民の共働がなければならない(後者の国民には、レファレン ダムを用いる可能性がある)。国際法への拘束は、とくに連邦憲法5条4項におい て明瞭である。さらに、連邦憲法5条2項は、国家的処務は公益に適い、かつ、比 例を保ったもの(verhältnismässig)でなければならない。こうしたすべての原則(法 への拘束、公益、比例性)は、一体となって、国家活動に妥当する。基本権の制約 についてその適法性を判定しなければならない場合、その意義は、とりわけ重要に なる(参照、連邦憲法36条およびN.302以下)。その意味するところは、国家活動は、

法によって拘束されかつ制限されているということである。

 連邦憲法は、形式的な意味における法治国家の、さらに広範な要素を顕在化させ ている。すなわち、権力分立が、連邦官庁にかんする第5編の基礎に置かれている(参 照、N.1410以下)。そこでは、独立した裁判所によって個人を国家から保護するこ

(9)

とが保障されている。連邦憲法191c条は、裁判官の独立を錨着させており、行政 および憲法裁判権は、裁判所は、連邦法律と国際法については、それらが確定的に 違憲のものであっても、それでも適用すべきであるという姿勢を正当にも強化して いる(参照、N.2086以下)。

 2.実質的意味における法治国家 (Der Rechtstaat im materiellen Sinn)

 裁判手続のみによって法律を徹底的に拘束することは、それらの法律が内容上、

一定の自由主義的な基本的要請と適合していることが同時に保障されている場合に は、さほど意味あるものではない。形式的法治国家の要素は、実質的法治国家の要 素によって、とりわけ基本権の擁護(Garantie der Grundrecht)によって充填さ れる。実質的法治国家の要請は、スイス連邦憲法の中に広く実現されている。連邦 憲法は、包括的な基本権カタログ(umfassende Grundrechtkatarog)を具えている。

それは、人間の尊厳(Menschnwü

rde〔第7条〕)の原則と一体のものとして導入

されているのである(参照、N.222)。

Ⅱ.民主主義的要素 (Das demokratishe Erement)

 民主主義の基本思考は、国民主権(Volkssouveränität)にある。すべての国家 権力は、国民の意思にもとづいている。このことは、最重要の国家的決定に妥当する。

 民主主義的思考は、女性市民・男性市民の国家への参画の権利(Mitwirkungsrecht)

として表現される。参画は、最高の国家機関、とりわけ議会の選挙に限られたもの

(代表民主政)あるいは事実問題(Sachfrage)にかんする直接的決定に広がった もの(直接民主政)とがある。

 首尾一貫性を貫徹させようとするとき、民主主義的原理からは、また、国民(Volk)

と国民代表(Volksvertretung)の、他の国家機関に対する優越が導かれる民主主 義的要素は、スイスにあっては、それが連邦における意思形成のための嚮導原理と して明文で掲げられているのではないにもかかわらず、大きな比重を占めている(こ れにひきかえ、ドイツ基本法20条、フランス憲法1条、イタリアおよびオーストリ

(10)

アは少し違っている)。連邦においては、市民に対して、選挙権にとどまらず、事 実問題について直接に決定することを市民に許容する様々な政治的権利が置かれて いる(憲法イニシアティブおよび憲法レファレンダム、法律および条約レファレン ダム)。連邦憲法5条1項は、法に、その憲法秩序が民主主義的に形成されるべき ことを明文で義務づけている(参照、N.1015以下)。

Ⅲ.法治国家と民主主義: 内部的関連と緊張関係 (Rechtsstaat und Demokratie :

inner Zusammenhang und Spannungverhältnis)

 民主主義と法治国家は、相対立している(gegenseitig)。民主主義は、一方では、

個人的自由と意見・メディアおよび集会の自由のようなコミュニケーションの権利 が擁護されており、それゆえにまた、政治的少数者が自由に結社し、かつ、国家的 意思形成に参画しうる場合にのみ機能しうる。他方では、民主主義と法治国家は、

相互に一個の緊張関係の中にある。両者は、持続的な(ständig)均衡を必要とし ている。いかなる原理も絶対的なものではない。政治的決定権者は、一方では、民 主主義の人権に限界を設定する場合も、法の形成にかんする一定の自由領域を要求 することができる。他方で、国民主権は、多数者がすべてをなしうることを意味す るものではない。多数の専制(Diktatur der Mehrheit)は、とりわけ、民主主義 に反した事柄を主張する政治的代替案を直近の選挙で有効に主張する可能性を反対 派から常に剥奪する、ということはできるかも知れない。しかし、民主主義的手続 の制約は、人種的・宗教的およびその他おそらくはあまり知られていない少数者の 権利を有効に擁護するためにのみ適するのである。

 法治国家と民主主義は、すべての人が法治国家的民主主義(rechtstaatliche

Demokratie)を必要としている様々な国家において、その重点の置き方が異なっ

ている。アメリカ憲法の創始者たちは、国民主権については、それと同時に権力分 立と権力間の相互の抑制・均衡の彫琢されたシステム(checks and balances)に よって民主主義的立法者にありがちな蛮行(Exzess)に対する保護装置――大統 領を選挙する権利も同様であるが――を設けた。ドイツ連邦共和国は、基本法にお いて厳格な代議制民主政を形成しているが、その際に、議会と政府(Regierung)

(11)

を、強力なものとして設置された憲法裁判権によって制約されるという形をとった。

あるドイツの憲法学者は、一個の典型的な「法治国家的制度の民主主義的制度に対 する優位」について、適切に語っている(CHRISTOPH

M

ÖLLERS

, Das Grundgesetz:

Geschichite und Inhalt, München 2009, S.15)。これと異なり、スイスでは、法治

国家的原理との比較において、民主主義的原理に断然重きが置かれている。連邦憲 法は、国民と邦の権利を留保しつつ、「連邦に最高権力」を割り当てている(148条 1項)。国民(Volk)に、政治的に重要な事項への広い範囲に及ぶ直接的な参画〔の 仕組み〕を整備している直接民主主義制度は、厳格に制限的な憲法裁判権とは対照 的である。連邦憲法190条によれば、連邦裁判所その他の法適用機関は、連邦法律 を、――それが連邦憲法に違反しているかも知れない場合でも――適用することを 義務づけられている。民主主義と法治国家との間で見出されるべき適正なバランス は、国際法に反した国民イニシアティブの扱いにかんする受容されうる解決(参照、

N.1756以下、および、N.1800a以下)あるいは憲法裁判権の将来的形成についての

それ(参照、N.2092aおよび2092b)の中に見出されるような形で定まっている。

Ⅳ.連邦国家的要素 (Das föderalistische Element)

 連邦国家は、多様な法域(Rechtskreis)に分節(gliedern)されている。すなわち、

下位に置かれた統一体は、一定の事物領域において自律性を有している。連邦の個々 の分節は、常に、可及的に、地域的ないし地方的(regional oder lokal)な要求に 適切な規定をあてはめることに配慮していなければならない。

 スイスにおいては、連邦主義的思考は、豊富な憲法規定の中に現われている。す なわち、

―― 連邦と邦の間の権限分配、

―― 邦の、憲法改正への参加、

―― 連邦国家的な理由をもつ二院制。

 連邦国家的要素は、新連邦憲法の中に充満しているが、加えて、課題分担のため に連邦と邦が共働する思考に格別の重点を置いていることでさらに強化されている。

 また、邦憲法の中で保障されている地方自治(参照、

N.975以下)も、広い意味で、

(12)

連邦主義的国家思想に数えられる。

 連邦主義は、比較的には、堅固に形成され、基本的にあまり問題になるものでは ないが、わが国では最もひどく危険に瀕した構造要素である。前世紀の技術的・社 会的発展は、中央権力を多くの点で強化し、また同様に、連邦と邦の間の十分に隔 絶した権限構成を導いた。〔ただし、〕邦がなおも十分な自治権をもち、連邦は若干 の財政的関与をおこなっているという領域では、それは稀である。

Ⅴ.社会国家的要素(以下、次号)

紹介者の註: 本文所掲のスイス連邦憲法などの条文

 (翻訳は、スイス連邦憲法については、紹介者〔小林〕の『愛知大学法学部 法経論集』188 号所掲の訳を土台にして、関根照彦訳〔初宿正典=辻村みよ子編『新解説 世界憲法集(第2 版)』三省堂・2010年〕283頁以下、平松 毅ほか訳〔ワルター・ハラー原著、平松・辻 雄一郎・

寺澤比奈子訳『スイス憲法―比較法的研究―』成文堂・205頁以下、および、山岡規雄訳〔高 橋和之編『新版 世界憲法集(第2版)』岩波文庫・2012年〕399頁以下を参照した。

 ドイツ連邦共和国基本法については、上掲『新解説 世界憲法集(第2版)』153頁以下所収 の初宿正典訳に、また、フランス第5共和国憲法については、同書223頁以下の辻村みよ子 訳に拠った。)

Ⅰ スイス連邦憲法 (1999年4月18日〔施行は2000年4月1日〕のスイス誓約 者同盟の連邦憲法)

  

Bundesverfassung der Sweizerischen Eidogenossenschft vom 18. April 1999

第5条(法治国家の活動原則)

① すべての国家活動は、法にもとづいておこなわれ、法によって制限される。

② 国家活動は、公共の利益に合致し、目指す目的と均衡のとれたものでなければならない。

③ 国家機関および私人は、信義誠実の原則にもとづいて活動しなければならない。

④ 連邦と邦は、国際法を尊重する義務を負う。

第5a条(補完性)

(13)

 国家の任務の配分および遂行にかんしては、補完性の原則が尊重されなければならない。

(本条は、2004年11月28日の国民投票で採択され、2008年1月1日に発効した。)

第6条(個人的責任と社会的責任)

 何人も、自己自身に対して責任を負い、能力に応じて国家と社会における役割を果たすこ とに寄与する。

第7条(人間の尊厳)

 人間の尊厳は、尊重され、保護されなければならない。

第36条(基本権の制限)

① 基本権の制限には、法律の根拠を必要とする。重大な制限については、あらかじめ法律に より規定されていなければならない。ただし、重大で、差し迫った、他に避けることができ ない危険のある場合は除く。

② 基本権の制限は、公共の利益または第三者の基本権の保護のためには正当化されなければ ならない。

③ 基本権の制限は、目指す目的と均衡のとれたものでなければならない。

④ 基本権の核心的部分は、不可侵である。

第51条(邦の憲法)

① 邦はすべて、民主的な憲法をもつ。それは、邦の有権者の過半数が要求する場合、改正し うるものでなければならない。

② 邦憲法は、連邦の保障を必要とする。連邦は、邦の憲法が連邦法に反しない場合、それを 保障する。 

第148条(〔連邦議会の〕地位)

① 連邦議会は、国民と邦の権利を留保して、連邦の最高権力を行使する。

② 連邦議会は、国民院と全邦院の二院で構成される。両院は、相互に対等の権限を有する。

第164条(立法)

① 重要な法規範はすべて、連邦法律の形式で制定される。とりわけ、次の各号の事項にかん する基本的な規定がそれに該当する。

 a.政治的権利の行使  b.憲法上の権利の制限  c.個人の権利および義務

(14)

 d.税金・料金等の納付義務者の範囲、および、税金・料金等の対象とその評価方法  e.連邦の任務および給付

 f.連邦法の実施および執行における邦の義務  g.連邦官庁の組織および手続

② 立法権限は、連邦法律が禁止していない限り、連邦法律により委任することができる。

第190条(適用されるべき法)

  連邦裁判所およびその他の法適用機関は、連邦法律および国際法に拘束される。

第191c条(司法権の独立)

  司法官庁は、独立して司法権を行使し、法にのみ拘束される。

Ⅱ ドイツ連邦共和国基本法〔1949年〕

第20条〔連邦国家、権力分立、社会的法治国家、抵抗権〕

① ドイツ連邦共和国は、民主的かつ社会的な連邦国家である。

② すべての国家権力は、国民(Volk)に由来する。国家権力は、選挙および投票において国 民により、かつ、立法、執行権および裁判の個別の諸機関を通じて行使される。

③ 立法は憲法に適合する秩序に、執行権および裁判は法律および法に拘束されている。

④ この秩序を排除することを企てる何人に対しても、すべてのドイツ人は、他の救済手段が 可能でない場合には、抵抗する権利を有する。

 〔第4項は、1968年6月24日の第17回改正で追加された。〕

Ⅲ フランス第5共和国憲法〔1958年〕

第1条〔共和国の基本原理〕

① フランスは、不可分の、非宗教的、民主的かつ社会的な共和国である。フランスは、出生、

人種または宗教による差別なしに、すべての市民に対して法律の前の平等を保障する。フラ ンスは、いかなる信条をも尊重する。その組織は、地方分権化される。

② 法律は、選挙によって選出される議員職と公職、ならびに職業的および社会的要職に対す る男女の平等なアクセスを促進(favoriser)する。

 〔1995年8月4日の憲法的法律第95-880号により共同体にかんする旧第1条が削除され、旧 第2条第1項が第1条となる。2003年3月28日の憲法的法律第2003-276号により分権化の

(15)

規定を追加。1999年7月8日の憲法的法律第99-569号により第5条第4号を追加し、2008 年7月23日の憲法的法律第2008-724号により第4条第5項が本条第2項に移動。文言を追加。

 (以 上)

(16)

参照

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は 宗教の自由に 触れることになる. このことは連邦憲 法裁判所がすでに 判断したところであ って 6,,

Die Entscheidung des Bundesverfassungsgerichts über die Versammlungsfreiheit Takahiro OHMORI 2014 年 11 月

からなり、最高裁判所裁判官は両部の構成員となる 15) 。殺人事件の場合、最高

︵10︶憲法擁護の手続について詳しくは、ω魯巨9\囚○ぎ日力α筒る鍵奪ω窪量\困①貫力αpけH蕊O界閃α冥二濠卑閃含”=8中る霧準

洋    東訳  廟 法 学 連邦憲法裁判所よ、いずこへ(2) 著訳 一ニ ゼ ン ゼ健 一 珂 フ雪 ゼ 一 ヨ名

「(スイス)フリプール大学連邦制度研究所 J 紹介 る 。 3) 長期滞在しての研究 フリプール市は 1