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ドイツ連邦憲法裁判所論-4- 利用統計を見る

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ドイツ連邦憲法裁判所論-4-著者

Schlaich Klaus, 名雪 健二

著者別名

Kenji Nayuki

雑誌名

東洋法学

37

2

ページ

237-259

発行年

1994-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00003498/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 継承 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/3.0/deed.ja

(2)

ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶

クラウス

名  雪

シュライヒ著

健  二訳

D

ボン基本法第一〇〇条第二項、連邦憲法裁判所法第一三条第一二号、

       ハ へ

規範の確認および規範の性格手続

第八三条以下による

 一 意義と分類”ボン基本法第二五条との訴訟手続上の対

 ボン基本法第一〇〇条第二項により、連邦憲法裁判所は、裁判官の疑義提示にしたがって、 該基本法第二五条に基づいて、連邦法の構成部分であるかどうかの問題に関して決定する。 国際法のある原則が当 東 洋 法 学 二三七

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    ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶       ⋮二八  ︵一︶ 手続の目的と機能       ハ    ボン基本法第一〇〇条第二項は、当該基本法第二五条の実質法との﹁訴訟手続上の対﹂をなす。その規範は、ドイ ツ連邦共和国の国内法において、国際法の効力を手続法的に保護するためにある。        ハ    これまで、この手続の種類の中で下されたある程度重要な決定は、わずかである。  ボン基本法第一〇〇条第二項による疑義提示決定となる最初の手続のほとんどにおいては、ドイツ法の担い手と外国法の担い手 との間の法律関係から生ずる条約上の請求権の遂行が争われる。第一のこの種類の手続の対象は、アメリカの軍法会議によって死 刑を宣告され、一九四五年に処刑された捕虜の曹長の家族の者の遺族年金の支払に対する訴えであった。  国際法の国内法的効力に関し、疑義提示問題について拘束力のある決定権をドイツ憲政史で初めて憲法裁判所で制 度化したことは、ヴァイマ⋮ル憲法およびその先駆者においてよりは国際法に対して国家法を開く努力の結果である ︵ボン基本法の﹁国際法に対する好意﹂︶。ボン基本法第二五条第二段により、国際法は、国内法の構成部分として、個々 の市民にとっても権利と義務を創設する。それを確保するために、国際法上の疑義問題の解明が、もっとも権威のあ          ハ  る裁判所に集中された。しかしながら、ボン基本法第一〇〇条第二項による手続を連邦憲法裁判所に提起する権利は、 ー当該基本法第九三条第一項第二号による抽象的規範審査によらず  憲法機関には認められなかった。むしろ、 国際法の原則が国内法的に有効であるかどうかの問題は、裁判所の手続からのみ連邦憲法裁判所にもたらされうる。  それゆえに、連邦議会、政府、行政部等は、ボン基本法第一〇〇条第二項での問題をみずから直接に連邦憲法裁判所によって解 明させることはできない。それらによって講じられた措置に関する法争訟の範翻内でのみ、それらにとり、これは、間接的に可能   ハ  である。連邦憲法裁判所法第八六条第一項・第二項に準ずる別の仕組みは、有効であったといえよう。

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 連邦憲法裁判所は、ボン基本法第一〇〇条第二項にょる手続の目的と機能を、﹁しかしながら、その決定が国際法 の一般原則の範囲にもおよびうるので、当該憲法裁判所は、個別的事件において、その都度、国際法の一定の一般原 則がその範囲に基づき、国内法に効力をおよぽしうるかどうかをも審査することができる。ボン基本法第一〇〇条第 二項による確認の手続は、結果的には、立法手続の代わりになる。連邦憲法裁判所の決定主文は、法律上の効力を有        ハ  する︵ボン基本法第九四条第二項、連邦憲法裁判所法第二二条第二一号および笙三条第二項︶﹂と描写した。  この言い方は、連邦憲法裁判所が国際法上の原則の国内法的効果に対する代替立法者とみなされるべきであるという誤解を起こ してはならない。国際法上の原則が存在し、それが国内的に効力があるゆえに、権利と義務を生ずるという裁判所の宣言的確認の 結果は、立法手続の結果と同じである。すなわち、決定が、 般的に拘束力をもっている。︵連邦憲法裁判所法第三一条第一項・第 二唖︶。連邦憲法裁判所は、その確認を裁判所として行なう。ここでも、立法者の創造的機能は、連邦憲法裁判所に与えられない。 なぜならば、国際法の一般原則の導入は、すでに、ボン基本法第二五条それ自体によってもたらされているからである。  ︵二︶ ボン基本法第︸○○条第︸項による手続との区別  連邦憲法裁判所は、ボン基本法第一〇〇条第二項にょる手続において、一定の国際法の原則が連邦法として存在す るかどうか、また、それが個人に対して権利と義務を生ずるかどうかだけを審査しうる。国際法の法規がボン基本法 第二五条により、国内法として効力があり、かつ認められた国際法の原則と一致するかどうかの問題は、それと混同         されてはならない。この際、それは、ボン基本法第一〇〇条第一項による具体的規範審査である。  ボン基本法第二五条を経て導入され、その他の連邦法に優先する連邦法の薩準での国際法の効力に関する規範審査決定をも、ボ ン基本法第一〇〇条第一一項による手続に入れることが、検討されたことがある。そうすれば、あらゆる国際法の問題が、連邦憲法 裁判所の一つの部会に集中されることになる。ボン基本法第一〇〇条第一項による手続は、国内憲法専用のものである。しかしな

    東洋法学      二三九

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    ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶      二四〇 がら、ここでの抵触事件では、優先的な連邦法としての国際法の優位の問題であり、したがって、ボン基本法第一〇〇条第一項に よる手続の典型的事件のうちに入らないといわれる。        ハ   連邦憲法裁判所は、この問題をいまだ決定していない。この二つの手続をーその実際的な類似性にも拘わらずー区別した 方が適切であろう。なぜならば、ボン基本法第一〇〇条第二項は、国際法の︷般原則が連邦法として効力があるかどうかのテ⋮マ を扱い、それに対して、当該基本法第一〇〇条第一項は、この優先的連邦法が別の法と抵触するかどうかの決定条項であるからで  ハ  ある。提議されたボン基本法第一〇〇条第二項の拡大適用は、裁判所の裁判官の審査権を減ずる結果になる。ボン基本法第一〇〇 条第一項によると、裁判官は、決定にとって重要な規範の憲法違反について、みずから十分に確信しなければならない。他の場合 には、裁判官は、その規範を適用し、その事件を決定しなければならない。ボン基本法第一〇〇条第二項の範囲内で、裁判官をし      ハ  て疑義提示させ、裁判官から法問題の決定を取り上げるためには、すでに疑義で十分である。  ︵三︶ 概念上の性格づけ  ボン基本法第一〇〇条第二項による手続の概念的分類は、必ずしも、はっきりとは解明されていない。ボン基本法 第一〇〇条第二項による手続を適切に﹁規範の確認﹂、または﹁規範の性格﹂をもって指称すべきであるかは、未解        ハ  決である。連邦憲法裁判所は、規範の確認手続の概念を用いた。﹁規範の確認﹂は、国内的効力を有する規範が存在       ハ  するかどうかの審査を意味する。ボン基本法第一〇〇条第二項による手続は、国内的効力の請求、すなわち、規範の 確認の決定のためにある。  しかしながら、その手続は、規範の性格の要素をも含む。規範の性格とは、国内的効力を有する規範の国内的法秩        ハ  序における地位の決定である。ボン基本法第一〇〇条第二項による手続において、国際法の原則が連邦法の構成部分 であるかどうかも、審査されるべきである。したがって、ボン基本法第一〇〇条第二項は、規範の確認手続でもあり、

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規範の性格手続でもある。  この概念を区別して使うことは、概念の遊戯ではない。違った概念の用法の中には、国際法と国内法の関係に関する一元論、        たは二元論という異なった立場が反映している。国際法学におけるこの論争を、ここで述べることはできない。 ま

二 適格要件

 ︵一︶ 法争訟の存在        パ  法争訟に国際法上の疑義が現われることが、要件である。すべての裁判形式の手続が、法争訟である。  法争訟のすべての段階において、ボン基本法第一〇〇条第一項による疑義提示義務が、生じるのである。それは、例えば、予定 された証拠調べが国家に対して国際法違反の危険を孕んでいる場合に、制定されるべき証拠決定の予備領域でもすでにその通りで    ︷頒︶ ありうる。  行政手続、または立法手続における疑義もしくはただ具体的事件に関連のないアカデミックな論争は、連邦憲法裁 判所への疑義提示の可能性を開かない。  ︵二︶ 疑義︵と疑義者︶  ボン基本法第一〇〇条第一項第一段による具体的規範審査とは違って、当該基本法第一〇〇条第二項による手続に おいては、裁判所の十分な確信は必要ではない。疑義提示義務を根拠づけるためには、疑義で十分である。  その疑義は、必ずしも、裁判所みずからに存在しなければならないことはなく、裁判所外での根拠のある疑義でも 十分である。これも、ボン基本法第一〇〇条第一項第一段による手続とは異なる。﹁ボン基本法第一〇〇条第二項に

    東洋法学      

二四一

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    ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶      二四二 よる提示は、国際法の一般原則が効力あるかどうか、またはどの範囲をもって効力を有するのかの審査において、裁 判所が客観的に根拠のある疑義にぶつかる場合に、すでに必要であり、裁判所みずからが疑義をもっている場合にの み、必要であるというわけではない﹂。﹁根拠のある疑義は、⋮⋮裁判所が憲法機関の見解、またはドイツの、外国の もしくは国際的な上級裁判所の決定あるいは国際法学の定評ある著者の学説と相違することになる場合に存在す ハ  る﹂。  連邦憲法裁判所は、ボン基本法第一〇〇条第二項による疑義提示義務に関するこの言い方から、疑義提示への権利 が最初の手続における訴訟関係人に帰属し、また、この請求の不適格な不履行において、ボン基本法第一〇一条第一 項第二段による法律上の裁判官の基本権が侵害されるという結論をだした。それによって、連邦憲法裁判所i ﹁法律上の裁判官﹂iを先に介入させることなく、裁判所が決定することは許されなかったという理由をもって、 裁判所の決定に対する憲法訴願が開かれた。確かに、形式的には、疑義提示に関する決定が、裁判所みずからに委ね られている。しかし、関係人、または第三者が当該国際法上の機関の存在もしくは適用を客観的に疑うことに成功す るその時に、判決を言い渡す裁判所は、問題の疑義性に関してもはやみずから決定してはならず、疑義提示しなけれ     ハ  ばならない。  ボン基本法第一〇〇条第二項の適格要件のこの拡大解釈によって、疑義提示義務は、実際には、すべての訴訟当事         ハ  者の手に委ねられる。  これは、ボン基本法第一〇〇条第二項をもって、当該基本法第二五条を訴訟法上補完する目的に相応する。国際法

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が権利・義務を創設する個人の地位は、強化されるべきである。  ボン基本法第一〇〇条第一項第一段との違いは、明らかである。すなわち、ここでは、訴訟当事者が連邦憲法裁判所への疑義提 示を促しうるのみである。その違いは、㎝見して、実際的理由があるようにみえる。すなわち、ドイツの規範の憲法適合性に疑義 があるボン基本法第一〇〇条第一項第一段による手続において、裁判所の決定の基礎になっている規範が憲法の法規に違反すると いう主張をもった憲法訴願が、常に最初の手続に敗れた当事者に残されている。その性格が連邦法の構成部分として主張される国 際法の一般原則の不適用において、これらの原則が法律に優先するにせよ︵ボン基本法第二五条第二段︶、これは、同じように可能 なわけではないようである。なぜならば、国際法のこれらの原則は、基本権の性格を有しないからである。ここで、訴訟当事者は、 疑義提示をしないことによって、その法律上の裁判官︵ボン基本法第一〇一条第一項第二段︶が奪われるという主張の可能性を有 する。しかしながら、基本権の保護領域および憲法訴願の許容性に関する連邦憲法裁判所の拡大裁判に鑑み、憲法訴願は、通例、       ︵轡 やはり、国際法の一般原則の違反、または不適用にょっても可能である。そこで、訴訟当事者は、連邦憲法裁判所の裁判の結果と して、ボン基本法第︸○○条第二項の範囲内で、やはり、当該基本法第一〇〇条第一項第一段よりはより優遇されている。  連邦憲法裁判所は、国際法の原則の存在および範囲に関する決定にとって、立法に関与する憲法機関の意見を聴聞 することが必要でありうるという別の論証をもって、その見解を防護する。しかしながら、この意見の聴聞は、最初 の手続においては不可能である。それに対して、連邦憲法裁判所法第八三条第二項は、連邦憲法裁判所での手続で意        ︹囎︸ 見を表明し、その手続に参加する権利をこれらの機関に与えている。  連邦憲法裁判所は、判決を言い渡す裁判所が他の裁判所の決定、または定評のある国際法学者の見解と異なるかど うかは問わなくてもよいという、当該憲法裁判所への疑義提示義務をもたらす条件をなおさらに緩和した。連邦憲法 裁判所みずからは、以前の決定において、国際法の原則の効力の有無を末解決のままにしたことだけで十分であると いう。その場合には、国際法の一般原則が効力を有するかどうかは、否定されうるものではないし、また、明白でも

     東洋法学      

二四三

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     ドイツ連邦憲法裁判所論     舜︶ ないという。 ︵四︶ 二四四  連邦憲法裁判所は、最初の手続の裁判官がボン基本法第一〇〇条第二項による疑義提示を不当に行なわなかった場合、それは最 初の手続の当事者の当該基本法第一〇一条第一項第二段から生ずる法律上の裁判官への基本権を侵害するという自己の、広範な、 とにかく、当該基本法第一〇〇条第一項を超越したその見解をある決定をもってみずからまた無価値にした。連邦憲法裁判所判例 集第六四巻㎝頁︵二一頁︶擁イラン財産事件において、連邦憲法裁判所は、次のような、少なくとも普通ではない異例の途を歩む。 すなわち、連邦憲法裁判所は、なるほど、ボン基本法第一〇一条第一項第二段の違反を認めるが、疑義提示の遂行は最初の手続の 決定に対して影響を与えることはできなかったゆえに、実際的には、その異議の対象であった決定は憲法違反に基づかないから、 憲法訴願を理由がないとする。﹁なぜならば、連邦憲法裁判所は、ボン基本法第一〇〇条第二項による手続で、抵当として差し押さ えられた債権の性質を有する資産において、仮差し押さえ命令の執行を禁ずる国際法の一般原則が存在しないという結果になった はずである。この判決を言い渡す連邦憲法裁判所の部会それ自体は、訴願人が否定された法律上の裁判官であるから、1当該部 会は、ボン基本法第一〇〇条第二項、連邦憲法裁判所法第二二条第一二号、第一四条第二項により、かかる原則の効力についての 疑問に答える担当である1当該基本法第一〇一条第一項第二段が顧慮された場合、異議の決定および訴願の決定は異なった結果 になることは許されなかったということが、提起されている手続において確認されうる﹂。理由はあったが却下されたその訴願の費 用が、訴願人にかかっていることは許されないということを除いても、実質的審査を先取りすることによって、﹁法律上の裁判官﹂ に対する違反を訴訟経済的に差し引くことは追随者をうるべきではない。その事件の特殊性は、連邦憲法裁判所法第一四条第二項 により、ボン基本法第一〇〇条第二項に基づく疑義提示手続においても、権限があった連邦憲法裁判所の第二部会が憲法訴願に関 して決定したという点にある。 ︵三︶ 疑義提示の対象 ボン基本法第一〇〇条第二項において、疑義ないし疑義提示の﹁テ⋮マ﹂を規定することは、もっとも大きな解釈 の困難さを投げかけた。 シュテルンによる体系化に応じた連邦憲法裁判所の裁判によれば、法争訟において、国際法の原則の存在、法的性

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       ハ   格、範囲および拘束力に関して疑義がある場合に、常に疑義提示が必要である。  それは、ボン基本法第一〇〇条第二項の文言を、とくに﹁存在﹂については凌駕する。しかしながら、原則の存在 は、あらゆるその資格の要件である。別の疑義は、最初の手続それ自体において、解明されるべきである。  ︵四︶ 決定に際しての重要性  ボン基本法第一〇〇条第二項は、不文のメルクマールとして、疑義が決定に際して重要であるということを前提に する。﹁ボン基本法第一〇〇条第二項は、本規定の第一項とは違って、連邦憲法裁判所によって審査されるべき規範 が、疑義提示をなす裁判所の決定にとって重要でなければならないことを明文化したわけではないけれども、国際法 の原則およびそれが連邦法の構成部分であるかどうかの問題は、最初の手続の決定に際して重要である場合にのみ、 この規定による疑義提示が認められるということが当該基本法第一〇〇条第二項に規律されている手続の意味と目的           から明らかとなる﹂。 三 決 定  決定主文は、ボン基本法第一〇〇条第二項にょる手続の確認と性格を包括する二重の内容に相応する連邦憲法裁判 所法第八三条第一項による。すなわち、門連邦憲法裁判所は、⋮⋮その決定において、国際法の原則が連邦法の構成        ハ  部分であるかどうか、また、それが個人に対して直接に権利・義務を生ずるかどうかを確認する﹂。  そのことから、連邦憲法裁判所は、﹁以下の国際法の一般原則が存在する⋮⋮。この原則は、連邦法の構成部分で

    東洋法学      

二四五

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    ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶      二四六 ある﹂という主文を展開した。  否定的な決定の場合には、連邦憲法裁判所は、連邦法の性質についての言い渡しを控える。当該憲法裁判所は、 ﹁⋮⋮と定める国際法の一般原則は存在しない﹂と言い表す。  連邦憲法裁判所の決定主文は、法律上の効力を有し、連邦官報に公布される︵連邦憲法裁判所法第一三条第一二号との 関係で第三一条第二項︶。

  E ボン基本法第一〇〇条第三項、連邦憲法裁判所法第一三条第一三号、第八五条による見解

       ︹蟄      の相違を理由とする疑義提示

 一 意義と位置づけ

 州憲法裁判所がボン基本法を解釈するにあたって、連邦憲法裁判所、または他の州憲法裁判所の決定と異なる決定 をしようとするとき、その州憲法裁判所は、連邦憲法裁判所の決定を求めなければならない︵ボン基本法第一〇〇条第 三項︶。連邦憲法裁判所は、法︵憲法︶の問題に関して決定する︵連邦憲法裁判所法第八五条第三項︶。  ボン基本法第一〇〇条第三項によるこの見解の相違を調整する手続は、当該基本法第一〇〇条第一項・第二項に基 づく手続の種類と同様、州憲法裁判所が自己の決定の前に、連邦憲法裁判所への疑義提示をもって起こす中問手続で ある。

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 ボン基本法第一〇〇条第三項から生ずる疑義提示義務は、﹁疑義提示をなす州憲法裁判所にとって、解釈の相違が 拘束力ある効果をもって決定する連邦憲法裁判所での手続が、最初の法争訟における決定に先行することによって、        ザ ボン基本法の解釈に関する各憲法裁判所の間での異なる見解を調整する﹂ということを目指す。        ハ   そこで、ボン基本法第一〇〇条第三項は、法適用の統一性を維持するためにあり、その法見解を再検討する途を連         ハ   邦憲法裁判所に開き、限定的な範囲内で、疑義提示をなす裁判所が刺激を与えて動かすことができる法発展のために  ︹蹴︸ ある。        ハ   今まで、この手続の種類においては、圏つの決定だけがある。その理由は、州憲法裁判所がボン基本法の解釈を取り扱うことは 稀である。州憲法裁判所は、州法を適用する。  ボン基本法第一〇〇条第三項の解釈は、連邦憲法裁判所法第三一条第一項による連邦憲法裁判所の決定の拘束力に        対する異論のある見解と結びつく。  連邦憲法裁判所の裁判と同様に、連邦憲法裁判所法第三一条第一項があらゆる国家機関ゆえに、州憲法裁判所をも、 当該憲法裁判所の決定主文のみならず、その決定の﹁根拠となる理由﹂にも結びつけられるという立場をとるならば、 ボン基本法第一〇〇条第三項は、州憲法裁判所のための例外規定ないし特権を意味する。すなわち、ボン基本法第一 〇〇条第一 ”二項は、連邦憲法裁判所とは異なったその見解を、当該憲法裁判所に新たな決定のために疑義提示すること を州憲法裁判所に認めている︵しかしながら、州憲法裁判所は、その後、契機となった事件を決定するにあたり、ボン基本法 のその解釈に拘束される︶。

    東洋法学      二四七

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    ドイツ連邦憲法裁判所論み四︶      二四八  ボン基本法第一〇〇条第三項によって、連邦憲法裁判所法第三一条第一項に基づく拘束力が破られることは、まず 当該基本法第一〇〇条第三項が、州憲法裁判所の、他の州憲法裁判所との法見解と相違する場合にも、疑義提示をな す義務があるということを見逃す。もっとも、それは、連邦憲法裁判所法第三一条第一項と何の関係もない。とくに、        ハ  ー筆者のごとく  決定主文の意味での連邦憲法裁判所の決定に拘束力をもたせるという解釈をとり、前述の連 邦憲法裁判所法第三一条第一項の広範な解釈を否定する場合、このボン基本法第一〇〇条第三項の見解に同意するこ とはできない。連邦憲法裁判所法第三一条第一項のこの解釈の場合、ボン基本法第一〇〇条第三項は、当該憲法裁判 所法第三一条第一項から独立した機能をえる。これは、その他の見解の相違を理由とする疑義提示と異ならない。例 えば、上級行政裁判所は、行政裁判所規則第四七条による規範審査手続の範囲内で、他の上級行政裁判所、または連 邦行政裁判所の決定と異なった決定をしようとするとき、法解釈の問題を連邦行政裁判所に疑義提示しなければなら ない︵行政裁判所規則第八○条第五項︶。裁判所構成法第二二条第二項にも、かかる見解の相違を理由とする疑義提示 がある。同じように、州憲法裁判所が異なった決定をしようとするときは、疑義提示しなければならず、その際、そ の事件を決定するにあたっては、ボン基本法の解釈に関する連邦憲法裁判所の決定に拘束される。見解の相違を理由 とする疑義提示の意味としてのボン基本法第一〇〇条第三項のこの理解は、次のような理由からも妥当であると思わ れる。なぜならば、ボン基本法第一〇〇条第三項は、﹁決定の根拠となる理由﹂との相違ではなくて、ごく一般的に、 ﹁ボン基本法を解釈するにあたって﹂の相違のとき疑義提示義務を定めるゆえに、その限りでは、とにかく連邦憲法 裁判所法第三一条第一項よりは広い意味をもつからである。まさに、州憲法裁判所側からのボン基本法の解釈に関す

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る見解の相違を理由とする疑義提示義務は、意味がある。すなわち、州憲法裁判所が最終審で決定し、その決定を覆 すことができないから、連邦憲法裁判所は、審査することができない。そこで、ボン基本法の解釈におけるある程度       ハ レ の統一性は、これらの裁判所によって、見解の相違を理由とする疑義提示の手段でのみ保障されうる。その他の裁判 所においては、通例、連邦裁判所がこれを保障する。

 二 適格要件

 ︵︻︶ 疑義提示権限のある裁判所  ボン基本法第︸○○条第三項の意味における州憲法裁判所は、必ずしも、各州の厳密の意味での憲法裁判所ないし 国事裁判所だけではない。憲法争訟の管轄が州法律、または連邦法律によって与えられた上級行政裁判所も、それに    ハ  属しうる。右とは違って、行政裁判所規則第四七条による規範審査を行なう上級行政裁判所は、憲法裁判所として活 動しない。  ︵二︶ ボン基本法第︸○○条第三項の意味における﹁決定﹂  連邦憲法裁判所、または州憲法裁判所の決定の存在が、もう一つの要件である。決定とは、これらの裁判所のすべ ての言い渡し、すなわち、判決も、狭義の決定も含む。決定の概念は、ここでは、例外的に主文も、加えて理由も含 む。なぜならば、異なった法見解の阻止というこの手続の本来の目的は、理由も考慮しなければ達成されえないから   ハ い である。

    東洋法学      

二四九

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    ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶      二五〇  異なって決定しようとする法見解が、連邦憲法裁判所の決定の根拠となる理由の構成部分であるならば、疑義提示 義務は明らかである。しかしながら、連邦憲法裁判所が、連邦憲法裁判所法第三一条第一項にしたがい、はっきりと        ハ  拘束力を認めた傍論とは内容的に相違する場合に、どの程度疑義提示義務が生ずるかは疑問である。  ︵三︶ ﹁見解の相違﹂  見解の相違とは、規範、または複合規範が州憲法裁判所によって、連邦憲法裁判所もしくは他の州憲法裁判所の今       ハ  までの裁判とは異なって解釈されるということを意味する。  ︵四︶ 決定に際しての重要性  見解の相違を調整する手続での疑義提示義務は、ーーボン基本法第一〇〇条によるあらゆる手続と同じように   決定に際しての重要性においてのみ生ずる。すなわち、適用しようとする違った法見解は、下すべき決定の根        ハ   拠となる理由の一部でなければならない。

三 決定と決定の効果

 連邦憲法裁判所は、法問題︵連邦憲法裁判所法第八五条第三項︶ゆえに、ボン基本法の解釈について決定する。その 決定は、疑義提示をなす州憲法裁判所を拘束する。その州憲法裁判所は、連邦憲法裁判所の法見解を踏まえて、事件 を決定しなければならない。特別な拘束力のための規範はない︵連邦憲法裁判所法第三一条第一項は、その意味における連 邦憲法裁判所の﹁決定﹂がないので、根拠とならない︶。しかしまた、ボン基本法第一〇〇条第三項の意味からその拘束力

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が生ずるので、拘束力のための規範を必要としない。

F ボン基本法第一二六条、連邦憲法裁判所法第一三条第一四号、第八六条以下にょる手続

 ボン基本法第一二六条により、連邦憲法裁判所は、﹁法が連邦法として継続的に効力をもつことに関して﹂見解の相違がある場合 に決定する。ボン基本法第一二六条は、手続法上当該基本法第一二四条、第ご一五条を補充する。憲法以前の規範の地位が、連邦 憲法裁判所によって、連邦法として確認されるべきである。それは、規範の性格手続である。しかし、連邦憲法裁判所は、ボン基 本法第一二六条による手続において、問題となる規範が連邦法の中で、憲法上の地位、法律上の地位、命令上の地位、またはその        ︷蹴︸ 他の地位のどちらかを審査することはできない。その手続は、基本的に連邦法としての分類に限定される。  連邦憲法裁判所法第八六条第一項により、連邦議会、連邦参議院、連邦政府および州政府は、提訴権限がある。その第二項によ り、裁判所の疑義提示も、可能である。つまり、連邦憲法裁判所法第八六条は、﹁具体的しおよび﹁抽象的﹂規範審査を一緒にする。 連邦憲法裁判所法第八六条第一項による提訴人にとっても、当該連邦憲法裁判所法第八六条第二項による疑義提示にとっても、決 定に際しての重要性が条件である。これは、連邦憲法裁判所法第八六条鵬一項による手続にとっては、当該憲法裁判所法第八七条 から明らかとなるが、裁判官の疑義提示にとっても想定されるべきである。  連邦憲法裁判所は、その決定において、法律が連邦法として効力があるかどうかを言い渡す。連邦憲法裁判所は、法律が連邦領 域の一定部分にだけ効力を保有することをも言い渡すことができる︵連邦憲法裁判所法第八九条︶。

G

ボン基本法第九三条第一項第四b号、

      ︹脚︸ による﹁市町村の憲法訴願﹂

連邦憲法裁判所法第一三条第八a号、第九一条以下

市町村および市町村組合は、連邦、        ハがい または州の法律︵もしくは法規命令︶がボン基本法第二八条第二項に保障された 東 洋 法 学 二五一

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    ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶      二五二 市町村の自治権を侵害しているという主張をもって、いわゆる市町村の憲法訴願を提起しうる。例えば、市町村は、      ハ       その計画高権の法律による制限および恣意的な名称変更に対して、この手続の種類で抵抗して効果をあげた。ちなみ        ハ   に、連邦憲法裁判所における市町村の成功した憲法訴願は、これらの二つの事件以外にない。  この手続の種類は、法律によって憲法訴願と名づけられ形成されている。しかしながら、市町村および市町村組合 だけが提訴権限があり︵連邦憲法裁判所法第九一条︶、審査基準が基本権の特性を有しないボン基本法第二八条第二項に 基づく自治の保障だけであるので、本来的ならば、それは憲法訴願ではない。連邦憲法裁判所はそれを大幅に否定す        るが、基本権を市町村が有する限り、市町村は一般的な憲法訴願を提起することができるし、それしか提起できない。 連邦憲法裁判所は、市町村の憲法訴願に関して﹁自治の憲法的形成に関与することしがある限り、ボン基本法第二八       へ  条を超えて、審査基準を当該基本法のあらゆる規定にまで拡大した。  ﹁市町村の憲法訴願砿は、その決定の目的が規範審査だけであるためにも、憲法訴願にあたらない。        ハ   要するに、いわゆる市町村の憲法訴願は、提訴権能が対象的に限定された独自の規範審査手続である。  この性格づけは、異論がある。市町村の憲法訴願は、孝賭によっては憲法訴願に、学者によっては抽象的規範審査に入れられ、 学者にょっては固有の性質を有する訴願権と位置づけられる。  市町村の憲法訴願は、ボン基本法第九三条第一項第四b号、連邦憲法裁判所法第九一条第二段より、州憲法裁判所 の管轄に対して補充的である。

(18)

第五章

A

ボン基本法第九三条第一項第四a号、

第九〇条以下による憲法訴臆

一般的な出訴への途における憲法訴願

連邦憲法裁判所法第一三条第八a号、

 ﹁各人﹂は、公権力により、その基本権を侵害されたという主張をもって、憲法訴願を提起することができる︵ボ ン基本法第九三条第一項第四a号︶。それは  基本権に限ってーボン基本法第一九条第四項を補充し、またはそれ と平行してつくった出訴への途の一般条項のようにみえる。連邦憲法裁判所は、憲法訴願が﹁通常裁判所、または行 政裁判所への手続に対する補足的な法律上の救済手段ではなくして、﹁その基本権に対する公権力の侵害を防ぐこと ができる市民に与えられた特別な法律上の救済手段である﹂といって、かような理解を強く否定する。﹁憲法訴願は、 法律上の特別な救済手段である。それは、他の訴訟規則にょり与えられている法律上の手段に代わるものではない。 連邦憲法裁判所は、憲法訴願手続においては﹃受訴裁判所﹄でもない⋮⋮。憲法訴願は、最終的の補充的な法律上の          救済手段であるし。それゆえに、憲法訴願は、訴訟法の意味における法的手段ではなく、独自の性質をもった法律上 の救済手段である。つまり、決定の形式的確定力が法的手段を妨げるが、憲法訴願の場合にそれがまさに適格要件で  ハ  ある。加えて、憲法訴願は、停止的効果を有しない。その他の法的手段と違って、裁判所の決定の確定力の発生とそ の執行を阻むことができるのは、憲法訴願の提起の場合には、連邦憲法裁判所の判定が初めてこの可能性と効力を有 する。

    東洋法学      

二五三

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ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶ 二五四  憲法訴願の手続の種類に内在する矛盾f一方では、憲法訴願は﹁各人﹂に︵弁護士強制もなく、また、裁判所費用もなく︶連 邦憲法裁判所への訴えの方法を開いており、他方では、憲法訴願は特別なものであるーは、統計的にも、次のように現われる。 すなわち、連邦憲法裁判所への訴えの方法が広く開かれていることにょって、年に憲法訴願が三、○○○件から四、○○○件の受 理にのぼる。をの他のあらゆる手続の種類においては、約八○件から一〇〇件の手続が、連邦憲法裁判所に係属中になる。しかし ながら、多数の憲法訴願のうち、ー類似の事件を除外してー約ニパ⋮セント、つまり、年に約五〇件から八○件が、部会に よって決定される。その他は、受理さえもされない。結果的には、裁判所に届いた憲法訴願の約一、ニパ⋮セントが成功する。し たがって、訴えの方法において、一般的︵﹁各人﹂︶な憲法訴願は、結果的には何か制約された特別なものになる。成功しない割合 の高さは、喚起された期待が失望させられるので、提訴人の不満のもとである。そこで、この種類の憲法訴願擁判決に対する憲法       ハ  訴願の廃止が、繰り返し求められる。もっとも、各人が、判決に対する憲法訴願を弁護士なしに提起しうるということが考慮され るべきであり、多くの憲法訴願は、最初から必要な憲法学上の根拠を欠いている。不成功の高率は、さらに他の裁判所がすでに生 じた基本権の侵害を除去し、その義務を果たしたので、連邦憲法裁判所を経た回り途を必要としないという意味での成功の高率と もみなされうる。  言葉の選択における連邦憲法裁判所の綿密さー﹁補足的しではなくて、 律上の救済手段  は、デリケートな区別の問題があるということを示す。 ﹁特別の、最終的な、かつ補充的な﹂ それは、以下のことである。 法

一 憲法訴願とボン基本法第一九条第四項による出訴への途の保障

 ボン基本法および訴訟規則により、市民には、公権力のあらゆる措置に対して、それが市民のどんな権利であろう と侵害すると思われる限り、出訴への途が開かれている。それゆえに、市民は、裁判所への訴えの方法を常に有する。 この公権力による権利侵害に対する包括的な出訴への途がドイツに取り入れられたのは、一九四九年のボン基本法第

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一九条第四項にょってである。それにょって、訴訟上の要件からみても、基本権擁護も完壁であった。なぜならば、 すべての裁判官は、基本権を尊重しなければならず、法律の解釈および適用にあたっては、それを実現させなければ         ︷辮︶ ならないからである。そこで、一般的な出訴への途は、それ自体、基本権擁護のための憲法訴願の導入を不必要なも のとした。  この手続の種類の起源を一瞥すると、ボン基本法第一九条第四項が今含んでいるような一般的な出訴への途と並んで、本来、憲       ハぬ  法訴願の余地がないということが明らかになる。すでに、神聖ローマ帝国の帝室裁判所の場合に先駆者があって、しかし、﹁憲法        瀦︶ 訴願﹂という表現は㎝九世紀の後半に初めて現われたが、もともと、憲法訴願は市民に対し、その邦において裁判所そのものへの 訴えの方法が市民には妨げられた︵いわゆる司法拒絶問題︶か、それとも市民が邦の裁判所への訴えの方法があったか、帝国憲法 によって保障された︵基本的︶権利が市民に留保されたのかどちらかである場合に、帝国の裁判所に対する出訴への途を開いてい ︵鰯﹀ た。市民の帝国裁判所への訴えの可能性および苦情の可能性が、例えば、一八二〇年のヴィーン最終規約を範として、一八四九年        ︵瓢︸ のパウルスキルヒェン憲法第一二六9条・h条の中で、そのように構想されていた。後で憲法訴願と名づけられたこの形態は、法 治国家のわりと古い発展段階に属する。帝国法は、邦の国民を助ける。1今日の憲法訴願の形態にかなり近づいていたのは、い        ︵響 くつかの邦における規定であった。例えば、︻八一八年のバイエルン王国憲法第五章第五条によると、等族会議は、﹁憲法違反が 起こったこと﹂により、次のようなことなしに国王に訴えることがきた。すなわち、国王は、その違反を取り除こうとしなかった とき、苦情を最高の司法機関に決定させることができた。しかし、国王にとっては、その決定を︵政治的な︶枢密院に委ねる可能 性もあったので、必ずしも、今日の憲法裁判の意味における手続であったわけではなく、むしろ、請願権との類似性があった。︸ 九一九年のバイエルン憲法第九三条によるバイエルン国事裁判所への憲法訴願だけが、ボン基本法に基づく憲法訴願の直接の先郵 者とみなされうる。その憲法訴願は、憲法より生ずる個々人の権利侵害において、行政行為に対し審級を尽くした後に与えられた。 ボン基本法の審議以後、ボン基本法制定会議としては、憲法訴願を当該基本法への導入を結局拒否したが、連邦レベルで、憲法訴 願の採用となった。しかし、妙なことに、それは、法治国家が権利保護としての憲法訴願の﹁補足的﹂手段が個人にとっては、も ともと心要でなくなったほどに進歩したときであった。なぜならば、ボン基本法は、今やその第一九条第四項に基づき、各州のす 東 洋 法 学 二五五

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    ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶      二五六       ハ  べての裁判官による公権力のあらゆる措置に対する基本権擁護を含めての権利保護を与えるようになったからである。  これを念頭に置くと、ボン基本法制定会議において、憲法訴願の詳細を表現するにあたって確信がなくなったこと は当然である。すなわち、憲法訴願とその他の権利保護制度との関係をいかに形成すべきであったかがわからなかっ たし、少なくとも、ボン基本法の本文の中に、その難しい区切りを簡単に言い表すことはできなかった。この不安の        ハ  ため、憲法訴願をボン基本法の中に書き入れることを断念した。一九五一年の連邦憲法裁判所法が、初めて憲法訴願 を規定した。一九六九年に、新しくできた非常時立法との調整の一つとしての憲法訴願が、ボン基本法第九四条第一 項第四a号で憲法上確保された。もっとも、ボン基本法第九四条第二項第二段は、直ちにまた、立法者に訴願の可能 性を制限する権限を与えた。  ちなみに、一八四八・九年のパウルスキルヒェン会議においても、一〇〇年後のボン基本法制定会議と同じ問題に直面した。し かし、勇気があって、憲法から生ずる権利の侵害に対する訴えの権利を憲法の条項に取り入れた。同時に、この訴えの権利の範囲        ハ ソ が、帝圏の立法に留保されていることを付け加えることで、それを完全に立法者の任意にまかせた。そこで当時でも、憲法訴願の 実現化は、施行法次第であったといえよう。  憲法訴願とその他の権利保護との関係は、連邦憲法裁判所法に基づき、前もって挙げられるべき二つの基本原則に よって決められる。すなわち、  ︵一︶市民は、その他の裁判所に開かれている出訴への途を最終審まで完全に尽くしたゆえに、まず−主張する憲        パ  法違反の是正を実現するために、事件の状態により、あらゆる訴訟上の可能性を捉えた﹂場合に、初めて憲法訴願を 提起することができる。以上のことは、憲法訴願の補充性の原則である。

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 ︵二︶ 憲法訴願の手段で告訴されうるのは、基本権の違反だけである。憲法訴願が他の裁判所の判決に対して行な われるならば、裁判所が単純法を正しく適用したかどうかの事後審査は、原則的には行なわれない。  ボン基本法第一九条第四項による出訴への途を憲法訴願提起の要件と比較するならば、まず当該基本法第一九条第 四項は、出訴への途をすべての個別的事件において個々的に保障するということが目立つが、憲法訴願の場合、訴願 人が受理手続ゆえに、排除の可能性にも直面する︵ボン基本法第九四条第二項︶。個別的事件において、憲法訴願を提起 できるかどうかは、まずあらかじめの出訴への途を尽くすことの必要性︵︻時的︶によって制限される。しかし、ボ ン基本法第九三条第一項第四a号にょる憲法訴願は、当該基本法第一九条第四項の出訴への途の保障を超えるところ   へ   もある。すなわち、ボン基本法第一九条第四項は、公権力の措置に対する出訴への途を保障するが、いうまでもなく、       へ  最上級審の確定力のある判決への別の法律上の救済手段を保障しない。そして、ボン基本法第一九条第四項は、通説       ハ  によれば、立法者に対する訴訟上の権利保護をも保障しない。両方とも、憲法訴願の途を開くことにょって与えられ る。つまり、憲法訴願をもって、市民は、法律を︵しかも、例外的に、他の裁判所を経た回り途なく直接に︶審査させるこ とができる。法律に対する憲法訴願の手続で、連邦憲法裁判所によって、一般的に効力のある無効宣言になることも ある。このような場合でも、ボン基本法第一九条第四項は、適用されない。

二 憲法訴願の機能と意義

ボン基本法において、憲法訴願はもともと予定されなかったけれども、    東 洋 法 学 質的にも量的にも、 最初から連邦憲法裁判   二五七

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    ドイツ連邦憲法裁判所論︵四︶      二五八 所の裁判を方向づけたのは、憲法訴願という手続の種類であった。すなわち、  ︵一︶ 一九四五年以後、多くの官治的伝統を打ち破ることが、必要であった。連邦憲法裁判所は、これをとくに精 神的および政治的自由の領域内で行なった。連邦憲法裁判所は、文字通りに法生活の多大な部分を鋤き返し、新しく 整えた。連邦憲法裁判所は、ドイツ連邦共和国の三・四〇年代になっても、基本権の思想のために、常に新しい法領 域を開拓する。         立法者は、基本権行使の範囲内で、あらゆる﹁本質的な﹂決定をみずからなすことを義務づけられることが一つの例であり、ま       ハ  た、基本権実現のための行政手続および裁判手続の重要性の強調がもう一つの例である。例えば、連邦憲法裁判所は、アウシュビ ッツ訴訟において、四七五件以上の殺人で終身刑の判決を下され、二〇年以上も前から絶えず収監されている重病の七八歳の囚人        ハ  に、その犯罪の特別な重大さにも拘わらず、各裁判所がこれを拒絶した後で拘留休暇をえさせる場合である。  ︵二︶憲法訴願をもって初めて、三つのあらゆる国家権力のその憲法に適合する行為への審査が、唯一で中央の裁 判所の手に委ねられた。その基本権を侵害されていると考える限り、この審査を惹き起こすことができるのは、市民 である。  ︵三︶憲法訴願の機能は、個々の基本権擁護において尽くされない。憲法訴願は、﹁客観的憲法を維持し、その解 釈と発展のためにも貢献する⋮⋮。その限りにおいて、憲法訴願は、客観的憲法の保護の特有な法律上の救済手段と         へ   しても指称されうる﹂。ドイツ連邦共和国の国家生活および憲法生活、すなわち、その自由で、かつ民主的な意見形       へ マ 成と意思形成並びにその全法秩序のために基本権が基礎的意義を有するからこそ、連邦憲法裁判所による基本権の実 現は、もはや単なる個人の基本権擁護のためにあるわけではない。確かに、憲法訴願をもっての連邦憲法裁判所への

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途は、自己の基本権自体を侵害されたという主張を経てのみ開かれる。しかし、連邦憲法裁判所は、適格な憲法訴願

の範囲内で、告訴された基本権違反の一つが存在するかどうかを審査することに留まらない。連邦憲法裁判所は、す

べての憲法上の観点から、問題となっている措置を審査する。

東 洋 法 学

参照

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