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虚血性心疾患の食事療法

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(1)

虚血性心疾患の食事療法

著者 沈 惠芳

雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告

巻 20

ページ 37‑42

発行年 1997‑06

出版者 東京家政大学生活科学研究所

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009832/

(2)

The Diet of The Ischemic Heart Disease

沈 恵芳

Pheiphan SHIN

 戦後,日本人の生活様式が近代化し,欧米の 生活様式に近づくにっれ虚血性心疾患の死亡率 が増加し,その克服が社会問題となっている。

冠動脈の粥状動脈硬化症を基盤として発症する 虚血性心疾患の危険因子には高脂血症,高血圧,

喫煙,運動不足などが上げられている1)。特に,

高脂血症にっいては重大な危険因子であるが,

これらの大部分は日常生活上の問題であり,食 事,喫煙,運動などの一般生活の改善がこれら

の疾患の予防にっながることは当然予想される。

本論文では虚血性心疾患患者と,その予備軍と 考えられる循環器科入院患者との間に食生活上 の差異があるか否かにっいて検討を施した。

圧を有する者6例(男性4人,女性2人)を含 んでいたが,非IHD群には糖尿病を有する者 は含まれていない。

2.調査期間:

 平成8年5月から同年12月までの8ケ月間,

原則として火曜日と金曜日の週2回,主治医よ り紹介を受けた患者に対して循環器科の病棟を 訪問して調査した。

3.調査方法:

 食生活状況調査はアンケート方式により実施 し,アンケート用紙への記入は調査対象者に面 段の上,直接それぞれの項目にっいての回答を 聞き取る方法で行った。

研究方法

1.調査対象:       嚇  戸田中央総合病院の循環器科に入院し,虚血 性心疾患の疑いで心臓カテーテル検査が行われ た症例70人中,冠動脈硬化の所見を認めた者

(IHD群)49例(男性37人,女性12人,年齢6 5.3±13.7歳)および冠動脈硬化の所見を認め なかった者(非IHD群)21例(男性13人,女 性8人,年齢65。3±13.7歳)を対象とした。な お,IHD群中には糖尿病を有する者8例(男 性4人,女性4人),高血圧を有する者12例

(男性6人,女性6人),非IHD群中にも高血

4.調査表の内容:

 まず,年齢,身長,体重,職業,血液型,性 格,心臓病や高血圧などの家族歴,主な既往症 などの一般事項にっいて調査し,その後,入院 前の食生活状況にっいて主として以下の項目に ついてその摂取頻度を調査した。朝食・昼食・

夕食の摂取頻度,これらの食事で主に摂取して いる主食の種類,肉類・魚介類・卵類・緑黄色 野菜・淡色野菜・果実類などにっいてそれらの 摂取頻度を「ほとんど毎日…する」,「週に4〜

5回…する」,「週に2〜3回…する」,「週に1

〜2回…する」,「ほとんど…しない」の5段階 に分けて聞き取った。また特に夕食後の間食の

(3)

有無,さらに嗜好品としてアルコールやタバコ の摂取頻度やその量を調査し,外食の頻度やそ の種類,運動の頻度や種類なども調べた。

5.血清脂質検査:

 虚血性心疾患の危険因子として重要な高脂血 症の有無に関連する項目として,IHD群と非

IHD群のそれぞれにおいて入院時に行われて いた血清脂質検査の中で,総コレステロール値

(T−cho),低比重リボ蛋白コレステロール

値(LDL−ch),超低比重リボ蛋白コレス テロール値(VLDL−ch),高比重リボ蛋 白コレステロール値(HDL−ch),および

トリグリセリド値(TG)などにっいて患者カ ルテより取り上げ,食生活習慣との関連にっい て検討した。

調査結果

 アンケート調査においては日常摂取している 食品の頻度にっいて5段階に分けて聞き取った が,調査結果においては,「ほとんど毎日…し ている」を「よく…する」に,「週4〜5回…

する」「週に2〜3回…する」「週に1〜2回…

する」を「時々…する」に,「ほとんど…しな い」の3段階に区分し直して検討を施した。

 肉類(図1),魚介類(図2),卵類,牛乳・

乳製品,野菜類(緑黄色野菜および淡色野菜)

(図3),果実類など日常食卓に上ることの多い

食品に関してはIHD群と非IHD群の間で有

意な頻度の差は見られなかったが,これは,両 群とも比較的高齢な患者であること,約4割が 女性で占められていたことなどが主な要因であ ると推定される。また,両群ともほぼ同じ割合 で高血圧を有する患者が含まれており,その経 過中に何らかの食事指導を受けていた可能性も 考えられる。このことは,野菜の摂取頻度が他 の食品群に比べて明らかに高かったことからも 説明し得る。

 夕食後の間食の摂取頻度(図4)にっいて見

(%)

100 80 60 40 20 0

(%)

100 80 60 40 20 0

よく食べる

四 IHD群  n=49 口非IHD群

時々食べる    殆ど食べない

図1 肉類

(%)

100 80 60 40 20 0

巳】 IHD群 n=49 口 非IHD群n≡21

よく食べる     時々食べる    殆ど食べない

    図2 魚介類

(%)

100 80 60 40

20 0

よく食べる 時々食べる

囹 IHD群  n=49 口非IHD群

殆ど食べない

図3 野菜にっいて

巳] 旧D群  n冒49

口非IHD群

殆ど毎日食べる    時々食べる    殆ど食べない

    図4 間食にっいて

(4)

ると,IHD群において「毎日摂取している」

という頻度が非IHD群に比べて有意に高い結 果が認められたが,「時々摂取する」を加える

と,両群の間で有意な差は見られなくなる。し かしながら,一方において朝食の欠食状況(図 5)がIHD群に少数ではあるが見られたこと から,IHD群では「夕食後の間食」・「朝食 の欠食」という生活リズムの乱れが多い傾向を 示しているといえる。

 HDL一コレステロール量を増やし動脈硬化 発症に予防効果があるといわれているアルコー ルの摂取頻度にっいては,非IHD群で僅かに 多い傾向が見られたが,両群の間の有意差は見

られなかった。

 本検索においてIHD群と非IHD群の間で

最も顕著な差が認められたものは,外食・喫煙・

運動の3っの項目である。

 先ず,外食(図6)にっいて見ると,「ほと んどしない」人の割合は非IHD群の方におい て有意に高く,反対に外食の頻度はIHD群に 多い傾向を示している。アンケート調査による 外食の内容では,IHD群では中華料理が最も 多く(40%),次いでラーメン(30%),和食

(20%)であるのに対して,非IHD群では和 食が圧倒的に多く(57%),ラーメン(14%),

洋食(14%)である。すなわち,家庭で提供さ れる食品の種類においては摂取頻度の差は認め られなかったが,自由に選択し得る外食におい ては明らかに嗜好の差が認められている。

 虚血性心疾患発症の危険因子の1っとして従 来から指摘されている喫煙(図7)にっいては,

IHD群において「よく吸う」人の割合が非I HD群に比べ有意に多い結果を示しており,逆 に「吸わない」人の割合は非IHD群において 有意に高く,IHDの発症を抑えるためには禁 煙の必要性があることを明らかに示している。

 運動がHDL一コレステロールを増やし,動 脈硬化の発症を予防し得るといわれているが,

今回の調査(図8)では,運動習慣のある人は 少なく,両群とも大部分の人が「ほとんどしな

o

︵96︶ou 含o◎ 9 図口 lHD群

IHD群 n富4 肢ン2

80 60 40

20 5 5

o o

0

(96)

100 80 60 40

20 0

殆ど毎日食べる   時々食べる    殆ど食べない

    図5 朝食にってい

囹  IHD群  n■49 口  ,PIHD群  n=21

よくする     時々する     殆どしない

   図6 外食にっいて

(%) mp〈o・ Oh 100

80 60 40 20 O

[コ IHD群  n冨49

o 口非IHD群 n冨21

F rP〈 05「

N

o N

へ」   o

よく吸う 時々吸う 吸わない

図7 タバコにっいて

(%)囹IHD群 ・−49 100   非1HD群

80 60 40 20 0

rg〈o. eh

海日運動する  時々運動する    殆どしない

図8 運動状況

(5)

い」と回答しているが,その中でも「毎日運動 する」人は非IHD群が有意に多く,反対に運 動習慣の全くない人はIHD群が有意に高い値 を示しており,運動の効果についての多くの説 を裏付ける結果が得られている。

 入院時に測定された血清脂質およびリボ蛋白

濃度値について見ると,TG値(図9)はIH

D群において有意に高い値を示しているが,こ の結果についてはIHD群中には数人の糖尿病 を有する患者が含まれていたことを否定し得な

い。T−cho値(図10)もIHD群で有意に

高い値を示していたが,この結果についても糖 尿病患者の存在が考えられ,さらに外食の頻度 の差や患者の嗜好によって選択された料理の影 響も考えられる。動脈硬化症の発症を促進する

と考えられているLDL−ch(図11)やVL DL−ch値もIHD群において有意に高い値

が見られ,逆に,抗動脈硬化作用を有するとい

われているHDL−ch(図12)は非IHD群

において有意に高い値を示している。これらの リボ蛋白濃度の結果は,前述の喫煙習慣や運動 習慣などの有無とIHD発症頻度の関係を間接 的に実証していると考えられる。

 IHD群と非IHD群の食生活調査によると,

日常食卓に並べられ摂取されている食品の頻度 については,両群の間で明らかな差は認められ なかったが,嗜好によって比較的自由に選ぶこ とができる外食の頻度において,「ほとんどし ない」人が非IHD群で有意に多く,「よくす る」および「時々する」人はIHD群に多い傾 向が見られている。最近の複雑な社会環境,例 えば,仕事や社会活動が忙しい,夫婦共稼ぎで ある,虐げられたストレスの解消など種々の理 由から外食をする機会が増えている。今回のア ンケート調査によると,外食に利用する施設と して最も人気のある場所は中華料理店やファミ リーレストランであり,特にIHD群で見ると

(mg/dD

450 400 350 300 250 200  15b  lOO  50

 0

pく0.005

n雷44

n=20

●      ● 139.O±68.9 響81・7±48・2

(mg/dD 350

300

250

200

150

100

50

0

非IHD群         IHD群

 図9 TGの比較

n=45 W

r2!         :

       ●

8        9   167.8±29.4

191.5±46.3

〈0.05

(ing/dD

900 800 700 600 500 400 300 200 100

 0

非IHD群        IHD群

 図10T−choの比較

n=45 3

n=!7

473.7土130.6 368.0±86.3

●      ・

pく0.05

(1ng!dD 100

 90  80  70  60  50  40  30  20  10

 0

非IHD群        IHD群

図11LDL−chの比較

n冨20

o       n=49

54.7土15.2        ●

41.3土9.5

8

●●

p〈0.005

非IHD群         IHD群

図12HDL−chの比較

■T−G

●T−CHO

●LDL

●HDL

(6)

外食で選ぶ料理は油っぽい中華料理が第1位で,

次にラーメン,和食が最も頻度が少なかったと いう結果が得られている。これらの外食の欠点 としては,摂取する栄養素が偏る傾向があり,

エネルギーやコレステロールの過剰摂取,蛋白 質やビタミンの不足,塩分の過剰など栄養のバ ランスが崩れることなどが考えられる。その結 果として,高血圧・高脂血症・肥満。糖尿病な

どを惹起しやすい状態となっており,これらの 病的状態が以前から指摘されているようにIH Dの危険因子として,その発症を促進させる可 能性を強く示している。従って,外食する際に は,なるべく和食のような食事を選択し,めん 類のっゆは飲まない,つくだ煮や漬け物などは 食べ過ぎないなどに注意し,家庭で食事する時 には外食で不足している栄養素を補い,栄養の バランスを保っよう配慮することが大切である

と思われる。

 アルコールは多くの人々に好まれる嗜好品の 1っであるが,長期間飲酒を続けることが心臓 疾患に対してどのような影響を及ぼすかは問題 である。フラミンガム心臓研究2)では,14年間 の冠疾患の累積発症率とアルコール消費との関 係が検討され,アルコール摂取量が1ケ月間に 885m4以上である人々では,「飲酒習慣のない」

あるいは「時々しか飲まない」人々と比較する と,冠疾患の発症率が0.7%と低く,アルコー ル摂取が冠疾患に予防的な役割を果たすことが 示されている。また,従来よりアルコール摂取

はHDL−chを増加させ,増加したHDL−

chはコレステロールを末梢組織から肝臓への 逆転送を促進するとされ,IHD予防に有効で あるともいわれている。今回の調査では,非I HD群の方に飲酒習慣をもつ人の割合が多い傾 向を示しているが,1且D群との間に有意差は 認められなかった。

 嗜好品のもう1っとして喫煙習慣とIHD群 との間に有意な関係が見られている。タバコの 中に含まれているニコチンや一酸化炭素(CO)

は有害物質とみなされており,その中でもニコ

チンは副腎を刺激してアドレナリンやノルアド レナリンを放出させ,心拍出量の増加や血圧の 上昇をもたらすといわれ,また,これらのカテ

コールアミン放出の結果,血液中の遊離脂肪酸 の濃度を高め,血小板の粘着能が高まり,血管 壁に血小板が粘着しやすくなる。この過程は血 栓症の早期の段階で動脈壁の粥腫形成にも関係

し,IHDの進展を促進させる1っの理由であ ると以前から指摘されている3)。今回の調査に

おいても,IHD群の喫煙率は非IHD群に比

べて明らかに高く,有意水準に達しており,喫 煙習慣はIHD発症の有意な危険因子であると いう可能性が示されている。従って,このよう な喫煙の悪影響を取り除くためにも,禁煙運動 に協力する必要があると考えられる。

 運動によってエネルギー消費の促進をもたら すことが,IHDの発症率を低くする可能性が あるといわれている4)。今回の結果においても,

非IHD群に比べてIHD群においては運動を

「ほとんどしない」人が多く,血清脂質検査で

もTG値やT−cho値が明らかに高いという

結果が得られていることからも,運動の必要性 が推察され,患者教育の一貫として運動を奨励

し,ライフスタイルの改善をはかることは,非 常に意義のあるものと思われる。

 血清脂質レベルの異常,特に高脂血症がIH Dの危険因子であることは既成の事実であり,

また,前述のごとく運動は,抗動脈硬化作用を

有するHDL−chを増加させるという事実も

確立されている。今回の検索においても,これ

らを支持する結果が示されている。すなわち,

IHD群ではTG値やT−cho値が非IHD

群にくらべて有意に高く,リボ蛋白濃度におい

ても動脈硬化に促進的に働くLDL−ch値が 高く,逆に予防的効果を有するHDL−ch値

が有意に低いという結果が得られている。従っ て,IHD群における血清脂質値の改善の目標 として,T−choを低下させることを第一目

標に定め,次にLDL−chの低下, HDL−

chの増加を主眼とした食事療法が最も必要で

(7)

ある。しかし,単にこのような食事療法を行う ことによって血清脂質の改善が得られるか否か,

さらにIHDの病態が改善されるか,また, I HDの発症を防げるか否かにっいては疑問であ る。今回の調査で見られるようにIHD群と非 IHD群の日常生活の差異は,間食や外食の頻 度を除いて,摂取されている食品の頻度の間に は有意な差は見られず,喫煙や運動習慣などに 相関が認められていることから,IHDの発症 予防や進展を予防するためには,単に食事療法 の励行だけに限らず,禁煙の実行,運動習慣の 確立などを指導する必要があると思われる。

 本検索では,心臓カテーテル検査で冠動脈硬 化の所見が認められた群(IHD群)とその所 見が見られなかった群(非IHD群)のそれぞ れにアンケート調査を行った結果,日常家庭で 摂取している食事での食品種の頻度に有意な差

は見られなかったが,IHD群は外食の頻度が 多く,とくに中華料理などエネルギーの高い食 事を好んで摂取していたという結果が得られた。

また,夕食後の間食の頻度が多い傾向があり,

その結果として朝食の欠食者が多く,生活リズ ムの乱れが推測された。

 近年,IHDが圧倒的に増加している原因に ついては種々の説が存在するが,特に高脂血症,

喫煙,運動不足などの危険因子が関与している ことが確認されている。今回の血清脂質検査結

果でも,IHD群ではTG値,T−chO値,

LDL−ch値が有意に高く, HDL−ch値

が有意に低い結果が得られたことから運動習慣 の確立の必要性が認められた。また,IHD発 症における喫煙の危険性も証明され,最近,若 年者の動脈硬化性疾患が増加していることか ら5),高齢者に限らず,未成年者における禁煙 運動の普及が必要であると考えられる。

 本論文の作成にあたり,戸田中央総合病院を 紹介して戴いた宇津木良夫教授,また,病院長 中村隆俊先生には循環器科の専門の先生に紹介 を戴き,心から御礼申し上げます。特に,本論 文の調査・資料作成に関して佐藤信也先生には 忙しいお時間を割いて直接懇切丁寧な指導を戴 いたご恩は一生涯忘れることはできません。さ らに,循環器科の諸先生には患者さんの紹介や 栄養指導など貴重な忠告を戴き,栄養科長杉江

あい子先生,検査科のスタッフの方々にも種々 お世話になり,心から感謝しております。

参 考 文

1.竹内一秀・武田忠直:臨床栄養 Vol.83   Na 4 1993

2.五島雄一郎・後藤由夫編:動脈硬化症ハン    ドブック 医療ジャーナル 1989 3.石川俊次:現代医療 VoL23, No. 3 1991 4.新開省二・渡辺孟:現代医療 Vol.24, Nα    2 1992

5.浅野牧茂:現代医療 Vol.23, No. 3 1991

参照

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