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巡礼の人間形成的役割に関する一考察 一サンティアゴ巡礼を主題としてー
専 攻 人 間 教 育 専 攻 コース 人間形成コース 氏 名 和 田 剛 志
1.問題の所在と研究の目的
昨今,経済のグローパノレ化の進行ととも に,有用性や経済効率に即して物事を捉え る経済合理主義が,私たちの日常世界に深 く浸透してきた。その結果,いつしか有用性 と経済効率というフレームが,私たちの日 常的思考を拘束する初期設定となってしま った。同様に,小学生の頃から腕時計をはめ,
手帳や携帯電話を持ち歩き,一日のスケジ ューノレをこなす生活や家・学校@塾という 三点間の移動を繰り返すだけの生活,学校 のグラス以外の友達を作ろうにも出会いそ のものが消滅した地域社会など,人を傷つ ける可能性のある生身のコミュニケーショ ンを避ける傾向がある。
このような問題に対して,文部科学省 (2008)は『小学校学習指導要領解説総則編』
で,
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変化の激しい社会を担う子どもたちに 必要な力は,基礎,基本を確実に身に付け,いかに社会が変化しようと,自ら課題を見 つけ,自ら学び,主体的に判断しフ行動しより よく問題を解決する資質や能力,自らを律 しつつ,他者とともに協調し,他人を思いや る心や感動する心などの豊かなに人間性,
指 導 教 員 伴 恒 信
たくましく生きるための健康や体力などの
「生きる力 J である~ (p.3)と述ベフ「生きる 力」の必要性を強調している。しかし,これ はし1かようにも解釈できる暖味模糊とした スローガンでしかなく,本来家庭や地域社 会との関わりの中でようやく醸成される人 間性も,学校という偏った小さな評価社会 の中で片付けてしまおうとすることで,子
どもに自立を強制してはいないだろうか。
つまりフ生活者としての感覚や思考力,実 践力を要素とした「生きる力」を育む有用 な取り組みとして,自分たちが生活する家 庭・地域ー学校を自ら感じ取る経験を重ね
ることが必要ではないのか。
2009年,筆者はサンティアゴ巡礼路を
歩いた。その過程において,幾度となく自 己を見つめ直す機会に恵まれた。それは,
出会いや発見,感動,孤独,恐怖など,あら ゆる心身の衝撃を体験することで,自己 との対話を繰り返した。その営みは,異文 化交流が白文化への帰還を求めるだけで なく,制度化された日常を解体し再構成 するプロセスを経て,自己の人間形成を 促す契機となった。この経験における間
- 20 - 題意識は,本研究の全体を一貫して流れ
る,通奏低音といえる。
さらに,高橋(2006)は人間形成とは,自己 を織り上げていく営みであるJ(pp.40・41) と定義し,人が他者,異文化,異世界などの 様々な外部と出会う経験を通して,古い世 界から脱皮し続け,自己変成し続けていく プロセスの有用性を述べている。それはフ
「教育するもの」と「教育されるもの」と いう関係における一方的な学びでは生成し 難い,他者との関係の中で自己を織り上げ ていく主体的な営みであると考える。これ らを受けて,巡礼が巡礼者に与える人間形 成的な働きを明らかにしてし吋。
2.研究の方法
本研究では,資料①ヒアリング調査や資 料 ②NHKドキュメンタリー『サンティア ゴ青春巡礼 m 高校生・9日間 250kmを歩く
ー~ (2009),資料③映画『星の旅人たち』
(2010)を用い,巡礼の機能を客観的に捉え 直す契機とする。さらに,先行研究から歴 史的・社会的背景をふまえて,巡礼の要素 となる「聖地J,
r
巡礼者J,r
巡礼路」と いう視点から,巡礼が巡礼者に果たす人間 形成的な働きを明らかにしてし1く。3.研究のまとめ
資料①②③から9人間形成において,他者 と出会い,他者と共に織り成す物語を欠か すことはできないと考える。なぜなら,人が 生きるということは,他者との間に何らか
の物語を共有し,それを構築したり,破壊さ せたり,綻びを繕ったりしながら?物語を編 み直し続ける営みにほかならないからであ る。
各時代の巡礼者の動機は異なるが,巡礼 は巡礼者に人間形成的役割を果たしてきた といえる。なぜなら巡礼は,他者や異文化,
異世界などの外部と出会う様々な経験を通 して,巡礼者の安定した日常を揺るがしフ制 度化された日常を再考させる機能を備えて いるからである。まさにその過程はヲ自己の 解体と再構成を繰り返す「自己を織り上げ ていく営み」であり,巡礼者に人間形成を促 す役割を果たしているといえる。
4.今後の課題
サンティアゴ巡礼体験者とのヒアリング 調査において,ひとりという限定的な実施 となってしまったので,より客観的な巡礼 の機能を明らかにするため,不特定多数の 巡礼者とのヒアリング調査が望まれる。
そして,本研究を通して,筆者は「人間形成 とは何か」ということを幾度となく考えた。
暫定的な結論として「自己を織り上げてい く営み」としたが,未だ蹄に落ちない。また,
巡礼の機能を応用し,学校における特別活 動や部活動などの様々な場を用いて,子ど もたちに人間形成を促す必要がある。さら に,筆者自身も主体的に人と関わろうとす る姿勢を再考し,絶えず実践していく所存 である。