会計理論形成に関する一考察
その他のタイトル On the Formation of Accounting Theory
著者 松尾 聿正
雑誌名 關西大學商學論集
巻 19
号 3‑4
ページ 475‑503
発行年 1974‑10‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021132
会計理論形成に関する一考察
On t h e Formation o f Accounting Theory.
松 尾 幸 正
Nobumasa Matsuo
I
は じ め に会計理論の形成,それは古くから,理論と実践との関連で,しばしば論述 されてきたが,近年においては,周辺諸科学の影響を受けて,より一層根本 的に,方法論争として展開されているようである。その傾向は,概ね,記述 的理論
( d e s c r i p t i v et h e o r y )
と規範的理論( n o r m a t i v et h e o r y )
に大別され,しかも,記述論批判を通して,その欠陥を是正すべく,規範論支持の形勢で 展開されているようである。
しかし,いずれにしても,何を記述し,何に対する規範なのかが,かかる 論争に先立って,明らかにされておらなければならないはずである。言い換 えれば,会計理論の認識対象の識別の問題である。
そこで,本稿では,会計理論の性質を明らかにするために,先ず,認識対 象を考察し,然る後に,上記の両論を検討し,最後に,それを通して明らか にされる目的に関する命題が,会計理論形成の上で,いかなる意味をもつの かを検討したい。
2 5 0 ( 4 7 6 )
会計理論形成に槻する一考察(松尾)I
会計理論の対象ウィリアムスとグリフィンは,会計学を経験科学の一分野と規定した上 で,このためには,会計理論の諸概念は,現実界において引合わされるべ き事項すなわち指示対象
( r e a lw o r l d r e f e r e n t s )
をもたねばならず,したがっ て,会計理論の演繹的結果と一致する指示対象を現実の世界から識別して(1)
おくことが必要になるとして,以下に論述する
4
つのケースをあげている。(2)
そして,彼等が支持しうるのは最後のケースであるという。
(5)
すなわち,その一つは「会計とは会計担当者の行動そのものにすぎない」
とする見方である。この見方によれば,会計担当者という 人 が注意の焦 点になるが,そのような研究は,むしろ,社会学者の領域に属すると彼等は
(4)
いう。
ウィリアムスとグリフィンのこの第一の見方を,スクーリングは「人類学 的解釈」と称し,このような研究は会計学における研究対象ではない,とい
う彼等の見解を支持して,次のように補足説明している。
会計理論を形成するにあたって,その対象を会計担当者の行動に求め,彼 等の行動を観察し,それを人間行動に関する一般原則のもとに包摂すること によって,かかる行動を説明しようとする方法が古くからあるが,そのよう な方法によってもたらされるのは,会計についての理論,すなわち会計記録 されるべき事柄についての理論ではなくて,会計担当者についての理論であ る。そこでの「会計の原則」は,しかじかの条件のもとで,会計担当者はか
(1) Thomas H. ・ W i l l i a m s and C h a r l e s H. G r i f f i n , On. t h e N a t u r e o f E m p i r i c a l V e r i f i c a t i o n i n Accounting,ABACUS December 1 9 6 9 , p . 1 5 0 (2) I b i d . , pp.150‑152
(3) I b i d . , pp.150‑151
(4) I b i d . , p . 1 5 0
(5)
くかくの方法で行動するだろう,ということを述べる理論であるという。
会計担当者の人間一般としての行動,すなわち会計担当者の倫理的側面の みを対象とするのが会計理論ではない,というのがウィリアムス=グリフィ ンやスクーリングの見解であるが,この見解は全面的には賛成し難い。それ は,会計理論とは会計記録されるぺき事柄についての理論であって,会計担 当者についての理論ではない,としているからである。確かに,会計担当者 だけについての理論が会計理論ではない。もしそうなら,ウィリアムス=グ リフィンの指摘のように,それは社会学の領域に属することになろう。しか し,また,会計記録されるべき事柄のみに関する理論,すなわち会計担当者 の行為の対象界のみに関する理論が会計理論でもない。会計理論の対象は,
これら両者の混合形態である。すなわち,会計理論は会計担当者という人が 彼の行為の対象に働きかけるプロセスを対象とするのである。従って,そこ では会計担当者も,彼が会計記録すべき事柄も,会計理論の視野に入ること になる。この点については,後に詳述したい。
スターリングは,会計理論形成の対象について,「人類学的解釈」の難点 を上記の如く指摘した後,この立場がもつ最大の短所は,会計理論の形成方 法ないしはその性質に関する次のような点であるとする。
すなわち,この立場によれば,会計担当者が,実際にいかに行動している かを観察し,一般化することによって,理論形成をなすことになるが,その
(5) R o b e r t R . S t e r l i n g , On Theory C o n s t r u c t i o n and V e r i f i c a t i o n , A c c o u
血gR e v i e w , J u l y 1 9 7 0 . p , 4 4 9
この論稿は
AAA. R e p o r t o f t h e Committee on A c c o u n t i n g Theory C o n s t r u c t i o n and V e r i f i c a t i o n , A c c o u
血gReview, Supplement t o V o l . XLVI 1 9 7 1
の骨子になっているのであるが( i b i d . ,p . 4 4 4 )
,更に, この論稿 は,内容的に,ウィリアムス=グリフィンの前記の論稿をもとに,それを敷術・発展させた論稿と見ることができる。尚,スクーリングのこの論稿に対する批判 的解説については,倉地教授の見解を参照(倉地幹三稿「会計学方法論に関する 一考察ー
R.R
.スターリングの所説を中心として一」明治学院論叢第1 8 9
号「経済 研究」 (明治学院大学文経学会,昭4 7
年3
月)4 8 5
頁以下)。2 5 2 ( 4 7 8 )
会計理論形成に関する一考察(松尾)ような理論は会計担当者が何故にそのように行動するのか,ということの説 明を我々に提供してくれても,そのような行動の適否についての判断規準を 提供してくれない。かくあるという理由で,かくあるべしと断定するのは誤
(6)
りである,と。
確かに現実になされている会計担当者の行動を前提とし,彼等の行動を記 述することによって理論を形成しようとする限り,そこには,スクーリング の指摘の如く,かかる行動の説明はなしえても,かかる行動の妥当性を判定 する基準は期待しえないし,また実際に存在するということと,その存在が 正しいかどうかということとも別である。
この問題は会計理論の性質ないしは形成方法,更にはその役割に係わる非 常に興味深い重要な問題を提示している。しかし,少くとも,ここで明らか
(7)
にしておかねばならないのは,チャンバースも指摘しているように,存在の 記述が,即存在の適否の基準にはならないということはいいうる。しかし,
そうであるからといって,そのことが存在の記述を軽視する理由にもならな ぃ,ということ。むしろ,山下教授の指摘の如く「『かくあるべし』と言う
(8)
ことは『かくある』と言うことを前提として言い得る」という点である。い づれにしても,これらの問題は後に改めて検討したい。
会計理論の指示対象として,ウィリアムス=グリフィンは,第
2に「企
業」が考えられるとしている。彼等によれば,この立場は会計上の諸概念の 有用性の論拠として,企業についての期待される規範的行動パクーンが用い られ,その際,企業の諸特質が引き合いに出されているように思われるが,(9)
彼等にとっては,企業それ自体は基本的な指示対象ではないという。
(6) S t e r l i n g , i b i d . , p . 4 4 9
(7) R . J . C h a m b e r s , B l u e p r i n t f o r a Theory o f A c c o u n t i n g , A c c o u n t i n g R e s e a r c h , J a n u a r y 1 9 5 5 , p . 1 7
(8)
山下勝治著「理論会計学」 (巌松堂昭23 )4 4 頁
(9) W i l l i a m s and G r i f f i n , o p . c i t . , p . 1 5 1
会計と企業概念との関係,それは企業概念の定義いかんによって会計は様 々に変化する。たとえば,企業概念を利益極大化の原理に方向付けられた組 織体と定義するならば,会計もまた極大利益の算出を可能ならしめるように 構成されようし,また,,企業概念を社会的責任遂行の場と定義するならば,
会計もまた,そのような社会的責任遂行の状況を明瞭ならしめるように構成 されることになろう。しかし,会計をこのような企業概念と関係付けて理論 形成を行なうことは,会計理論を硯実の企業の行動パクーンの観察結果とい う経験的事実に結ぴ付けることを意味していることになり,それは彼等の意 図に反するということであろう。彼等の意図は,そのような事実の観察結果 に限定されずに,その枠を越えて,より一層自由な立場から会計理論形成を 試みることであろう。
スクーリングは,この第
2
の立場に相当するものとして,「会社の経済活 動モデル的解釈」と称する立場を掲げ,それは会計プロセスを操作プロセス からなる形式休系( f o r m a l .s y s t e m )
の鋳型にはめ,かかる体系へのインプット を取引とか,交換等の観察可能な事象,アウトプットを財務諸表とみるなら ば,プラネクリウムが天体のモデルであって,それをみると屋の状態が判る のと同様に,この体系を会社の経済活動のモデルとみてアウト・プットであ( 1 0 )
る財務諸表を見ると,企業の状態が判明するとする立場である,と説明して いるが,この説明はウィリアムス=グリフィンの挙げる第 2の立場とは異な るようである。そぜならば,スクーリングのいう会社の経済活動モデルと見 倣される形式体系とは,実は,取引とか,交換という観察可能な事象たるイ
ン・プットをルールに従って分類し,集計する操作過程そのおのを意味する
( 1 1 )
とされているのであるが,ウィリアムス=グリフィンが第 2の立場として問 題としているのは,そのような操作過程ではなくて,企業の行動パクーンと いうかかる操作過程の背後にある問題と解する方が適切と考えられうるから である。
( 1 0 ) S t e r l i n g , o p . c i t . , p . 4 5 0
( 1 1 ) I b i d . , p . 4 5 0
2 5 4 ( 4 8 0 )
会計理論形成に関する一考察(松尾)会計理論の第3の指示対象として,会計デークの利用者が考えられるとウ
( 1 2 )
ィリアムス=グリフィンはいう。しかしながら,この立場も彼等の支持する ところではない。すなわち,会計を企業の経済活動という現実の世界に関連 させるに際して,会計情報の利用者の要求が重要な役割を果すということに は異議はないけれども,利用者それ自身が研究の特別な対象であるとは思わ
( 1 3 )
れない,と彼等はいう。
第 3の立場に対する彼等のこのような説明を補足して,スクーリングはい う。
会計報告書の利用者を研究の対象とする見方は,会計報告書を剌激,それ に対する利用者の行動を反応とみる心理学における剌激ー反応学派のとる立 場である。この立場によれば,財務諸表の有用性は利用者の反応によって証 明されることになるために,利用者の反応に関する研究に焦点が置かれるこ とになる。すなわち,この立場によれば,剌激に対する人々の反応を説明 し,あるいは予測するのが理論であることになる。しかしながら,会計の理 論がこの特質をもつべきかどうかは明らかでない。財務諸表という剌激を記 号とみるならば,人が記号に如何に反応するかどうかということと,かかる 記号が現実界の諸現象とどのような関連を有するかということとは別であ る。人が記号に反応したからといって,その記号が記号の指示対象との関係
( 1 4 )
で正しいとは限らないと。
確かに,ストーバスもいうように,会計情報の利用者それ自身を取り出し
(15).
てみても,会計学的研究の対象となるものではない。会計学研究の対象とな るのは,かかる利用者と会計行為との関係である。その意味で,スクーリン グがいうように,会計学的研究は,利用者が反応するという事実によって終 了するのではなくて,その事実によって研究への新たな剌激が与えられるこ
( 1 2 ) W i l l i a m s and G r i f f i n , o p , c i t . , p , 1 5 1 ( 1 3 ) I b i d . , p , 1 5 1
( 1 4 ) S t e r l i n g , o p . c i t , , p . 4 5 3
( 1 5 )
黒沢清稿「第三回国際会計教育会議(四)」会計1 0 4 巻 4
号(昭和4 8 年1 0
月号)1 5 8 頁
会計理論形成に関する一考察(松尾)
( 1 6 )
とになるのである。利用者の要求が,会計にとって,重要な役割を果すとウ ィリアムス=グリフィンが信ずる所以もここに見出生るのである。
では,会計理論の指示対象とは何であろうか。この点が愈々問題になる。
この点に関して,彼等は,以上のようにして各見解を排斥した後,彼等の支 持する会計理論の対象は「個人でもなければ,組織でもなく,定義される 属性をもつある抽象化された実体
( a b s t r a c te n t i t y )
である」「それは, わ れ われが定義するところのものであり,現実の世界に触知しうる形態では存( 1 7 )
在しない」と述べている。この説明によるかぎり,会計理論の対象が何であ るかは明確でない。ただ,彼等の見方によれば,「定義される属性」をもつこ とが,理論の対象にとって重要な要素であることは明らかである。これは経 験的検証に理論の妥当性を判定する尺度を求めようとするためであろう。す なわち,理論の経験的検証のためには,理論に経験的意味が付与されていな ければならない。言い換えれば,経験の世界との間に繋がりがなければなら ず,従って経験界に関する観察デークとの照合が可能でなければならない が,彼等はこの経験的要素を「定義される属性」に求めた上で,かかる「定 義される属性」をもつことを,理論の対象になるための条件とすることによ って,当該対象について構築される理論に経験的意味を付与し,もって会計 理論の経験的検証を可能ならしめようと意図していると考えることができ る。
では,「定義される属性」が如何なる意味で経験的要素なのかが問題にな る。この点に関して,彼等は「会計人は動的・静的両様の意味で富に関心を もっているが,富は定義され,それ故に測定されねばならない抽象化された
( 1 6 ) S t e r l i n g , o p . c i t . , p.454
( 1 7 ) W i l l i a m s and G r i f f i n , o p . c i t . , pp. 1 5 1 , 1 5 2
2 5 6 ( 4 8 2 ) 会計理論形成に関する一考察(松尾)
( 1 8 )
実休である」と述べている。すなわち「定義される属性」とは,かかる属性 が測定可能であることを意味していることになる。このことは,理論の検証 という場合,当該理論を構成する諸概念が,現実の世界に,ある測定値をも つことが予定されていることを意味し,理論はかかる測定値との照合によっ
( 1 9 )
て検証されることを意味する。
では,かかる属性は如何なる観点から定義されるのか。すなわち,属性を 定義する規準は何か。彼等はそれを会計における測定・伝達過程との関連に 求める。すなわち,「会計による成果が報告書であるという意味で,会計理 論はかかる報告書が解釈される状況,すなわち伝達の問題に関係しており,
また,かかる報告書が数量によって表示されるという意味で,会計理論は測
( 2 0 )
定手続に関係している」と彼等は述べている。
( 1 8 ) I b i d . , p . 1 5 1 この箇所は,ゴードンの利益及び富に関する所説を解釈して論述 したものである。ちなみに,ゴードンは利益には大別して
3つの定義があるとし て,( 1 ) ある期間の売上収益が,当該収益獲得のために費消された資産原価を超 える額,(
2)ある期間の売上収益が,当該収益獲得のために費消された資産の取 替原価を超える額,(
3)将来に予想される期末収入の現在価値が,将来に予想さ れる期首収入の硯在価値を超える額に,当該期間の配当収入を加えた額,を挙 げ,このいずれを選択するかによって測定方法が決まるために,会計理論の役割 は利益に関するこれらの代替的定義からの選択に指針を与えることである,とし ている (Myron J . G o r d o n , S c o p e and Method o f Theory and R e s e a r c h i n t h e Measurement o f Income and W e a l t h ‑ , Accou 叫切 gReview, O c t o b e r 1 9 6 0 , pp.607‑608)
。( 1 9 ) このような推論は,彼等が自然科学の領域で用いられるのと本質的に同じ検証 手続を社会科学に適用しょうとしている ( W i l l i a m s and G r i f f i n , o p . c i t . , pp.147‑150) ,ということを想起することによって,より一層正当化される。
それは,このように推論される彼等の考え方の根底にあるのは,すべての概念は 測定操作を通じて質から量に還元されることにより,物理的実験による検証が可 能であり,そして,その際かかる概念ひいては理論への心的要素の介入を排除 しょうとする思想であるからである。このことが,会計理論にそのままあてはま るかどうかの問願については,拙稿「会計理論の特質」関西大学商学論集1 8
巻4
• 5 • 6
合併号,1 4 9 頁1 6 4 頁参照。
( 2 0 ) W i l l i a m s and G r i f f i n , i b i d . , p . 1 5 2
会計理論形成に関する一考察(松尾)
そして,このような観点からみれば,これまで多くの研究者によってなさ れてきた会計における経験的研究の主題は,次の 4つに分類することが可能
( 2 1 )
であり,それらはいずれも測定・伝達の問題に関連しているという。
I .
会計測定が利用者に及ぼす影善I
.会計測定と選択された従属変数との間の関係 圃.会計測定の行動パクーンl V
.利用者が会計測定に及ぼす影蓉かくして,彼等によれば,会計の測定・伝達過程が「定義される属性」を 決定することになるのであるが,そのことが,とりもなおさず,彼等のいう
「われわれが定義する抽象化された実体」たる理論の対象を決定することに もなっているのである。すなわち,彼等によれば,会計理論の対象とは,測 定・伝達との関連で規定される「定義される属性」をもつ抽象化された実体 であるということになる。それは文字通り,会計理論の対象の抽象的な定義 であり,依り拠を「定義される属性」に求める以外にない。
ところが,「定義される属性」を規定する測定・伝達に注意を向けるなら ば,彼等の上記のような論述は,スクーリングのいうように,会計を測定・
( 2 2 )
伝達のプロセスと見倣している証左ともいえる。しかし,測定過程・伝達過 程は相互に何らかの関係をもって,かかる対象のもつ属性の決定に作用する のか,それとも別個に作用するのか。彼等によれば,別個に作用することも あれば,相互に関係をもって作用することもあるという。しかしながら,測 定・伝達過程が別個に成立・存在するものとは思えない。それは,属性のい かなる側面が,いかなる方法で測定されるかは,どのような属性が,誰に,ぃ かなる目的で伝達されるかによって決定するはずである。この点を津曲教授 も「測定過程と伝達過程は別個に成立するものではない。統合された伝達シ
( 2 1 ) I b i d . , p p . 154‑155
( 2 2 ) S t e r l i n g , o p . c i t . , p . 4 5 4
2 5 8 ( 4 8 4 )
会計理論形成に関する一考察(松尾)( 2 3 )
ステムに合理的に組み込まれていなければならない」と述べておられる。そ うであるなら,そこでの属性定義の規準は,伝達過程に焦点を置いて,伝達 の目的先である利用者の立場からの彼の要求への情報の有用性ということに なる。ただ,会計理論の展開の方法としては,測定に力点を置いて展開する 方法,伝達に力点を置いて展開する方法等様々で,彼等は,むしろ,属性の 測定を重視しているところから推測して,測定に力点を置いているととれる のである。
ところで,会計を測定・伝達のプロセスと見倣すウィリアムス=グリフィ ンのこのような見解を発展させて,スクーリングは意思決定論の一部として
( 2 4 )
の会計理論をめざして次のようにいう。「私の考えによれば, 会計は測定・
伝達プロセスであるべきである。会計担当者はあるものを測定し,次にそれ を意思決定しようとする人に伝達すべきである。この解釈によれば,会計シ ステムのアウト・プットは意思決定論へのイン・プットである。この解釈は 意思決定論に焦点を置いている。もし,意思決定論が十分に定義されておれ ば,その場合,その意思決定論は,何が,いかにして測定され,人がどのよ うな測定結果を期待しうるかを明らかにする。かくて,もし会計が測定・伝 達過程であるべきなら,その場合, 会計理論 'はより一般的な意思決定論 の一部にすぎない。この見解によれば,検証を必要とするのは意思決定論で ある。会計数値は意思決定論への単なる投入値
( m e a s u r e m e n t ‑ i n p u t s )
にすぎ・
( 2 5 )
ず,検証されるべき独立した会計理論は何もない」と。
ここでは,会計を意思決定に有用な測定値の産出機構
( o u t ‑ p u ts y s t e m )
と して位置付け,測定すべき属性の選択,更には測定対象の決定の問題は意 思決定論に係わる問題であって,会計の領域に係わる問題ではないとされて( 2 3 )
津曲直拐稿「操作主義会計学の展開—N.M .ペッドフォードの所説をめぐっ て_」江村稔編著「変動期の硯代会計」 (中央経済社 昭4 4 )2 0 1
頁。( 2 4 ) S t e r l i n g , o p . c i t . , p . 4 5 6
( 2 5 ) I b i d . , pp.454‑456
前記の「AAA
会計理論の構成と検証委員会報告」が.ま さしく.この見解を支持していることは周知のとおりである。いる。従って,ここでは,会計を会計たらしめている所以が何にあるのかが 明確でなく,むしろ,そのような会計の固有性を「検証されるべき独立した 会計理論は何もない」として否定している。
会計情報は意思決定に有用でなければならない。従って,会計理論はその ような情報の作成に有用な指針を与えなければならない。これは,従来の会 計に反省を迫まる,最近の一つの潮流である。確かに,会計を行なうことへ の要請の一つに,意思決定に有用な情報の提供がある以上,会計理論はかか る情報の提供にとって,有用な指針を提供するものでなければならないとい うのは,会計のあるべき姿を求める一つの方向としては正しい。しかしなが ら,会計が意思決定に有用でなければならないということが,そのことが直 ちに,かかる会計に指針を与える会計理論の独自性が失なわれて,会計理論 が意思決定論に埋没されてしまう必然性を意味するかどうかは検討を要する 問題である。
会計理論を形成しょうとする場合には,少くとも,かかる理論によって恩 識される対象を識別しておく必要があろう。ウィリアムス=グリフィンにし ても,スクーリングにしても,当初意図したのは会計理論の経験的検証であ ったはずである。もしそうであるなら,問題になるのは,会計理論が検証さ れるべき経験的現象とは何か,ということである。ブラウンはストーバスの 所見を解説して,「経験的」という用語を説明しながら,次のようにいう。
「経験的
( e m p i r i c a l )
とは,われわれが生活しているこの世界における現象ま たは出来事と関連した事象に適用される言葉である。だから会計学におけ る経験的研究とは,日常の会計的経験に関する固有の現象を認識することで( 2 6 )
なければならない」と。では「会計的経験に関する固有の硯象」とは何か。
この問に答えて,ストーバスは「それは,個人また組織体への経済的事象の
( 2 7 )
影響について,財務的情報を獲得し,伝達する」ことであるという。
( 2 6 )
黒沢清稿「第三回国際会計教育会議(三)」会計1 0 4
巻3
号(昭和4 8
年9
月号)1 5 0 頁 。
( 2 7 )
前掲稿,1 5 1
頁。2 6 0 ( 4 8 6 ) 会計理論形成に関する一考察(松尾)
要するに,それは簡単にいえば,「ある組織体の経済事象と,かかる事象
( 2 8 )
に関する情報との間の関係」ということになるが,
関係が,どのような要素から,
この事象と情報との間の どのような関係によって成立しているかは,
( 2 9 )
ベッドフォード=バウドウーニの次のような図によって示すことができる。
,‑‑‑‑‑‑
ょ
経済事象の観察
ヽヽ
、‑%
、 受 /. , <
、 、
、 、桑ら'
`
、、
、、 x
ヽ喬,ヽ' 、念 裕 、 , `, ヽ
, ヽ
, ヽ
フィードバック
会計報告書の作成メッセージの利用
1 1 9 1 9 ,
'
l
会計報告書の受取
( 2 8 ) Y u j i l j i r i , The N a t u r e o f A c c o u n t i n g R e s e a r c h , inAAA. R e p o r t o f t h e C o m m i t t e e on R e s e a r c h M e t h o d o l o g y i n A c c o u n t i n g , A c c o u n t i n g R e v i e w , Supplement t o Vel.'XLVII. 1 9 7 2 , p . 4 4 6
更に,要約して, 「それは経済事象に
Jレールを適用することである」という見 方もある ( V e r n o n Kam, Judgment and S c i e n t i f i c Trend i n A c c o u n t i n g , J o u r n a l of A c c o u n t a n c y , F e b r u a r y 1 9 7 3 , p . 5 6 )
。( 2 9 ) ・ N o r t o n M. B e d f o r d and Vahe B a l a d o u n i , A C o m m u n i c a t i o n Theory
Approach t o A c c o u n t a n c y , A c c o u n t i n g R e v i e w , O c t o b e r 1 9 6 2 , p . 6 5 3 。 こ
の図の解説については,津曲稿,前掲稿2 0 0 頁ー2 0 1 頁並びた武田隆二著「情報会
計論」 (中央経済社昭4 6 )2 2 1 頁ー2 2 7 頁がある。
( 3 0 )
彼等は,この図を,統合された伝達システムとしての会計を展開しょうと して示したのであるが,このような会計は観察と作成という 2つの側面をも つという。すなわち,観察の側面は
( a )
企業の経済事象に関する情報を受取り,(b)その情報を解釈し,(
C
)達伝されるべき情報を選択することからなり,作成の側面は
( a )
情報をメッセージに変換し,(b l
変換されたメッセージを目的( 3 1 )
地(利用者)に移送することからなるという。そして,この場合,伝達シス テムとしての会計にとって基本的な資質は有意味性と忠実度であるという。
すなわち,有意味性は会計報告書に含まれているメッセージが,当該報告書 によって提示される経済事象との関連で,どの程度の適合性と妥当性をもつ かを示す資質であり,忠実度は,会計担当者を介して利用者に伝達される経 済事象が,一方では会計担当者の方での観察並びにメッセージヘの変換がな されるに際しての,他方では利用者の方でのメッセージの解釈がなされるに
( 3 2 )
際しての,正確性の程度を示す資質である。
かくして,彼等は,ここに,経済事象と会計報告書,会計報告書の作成者 と利用者から構成され,有意味性と忠実度という 2つの資質をもち,観察と 作成という 2つの側面をもつ伝達システムとしての会計を・形成しようとする のである。この場合,観察と作成という 2つの側面は,企業の経済事象と会 計担当者との関係を扱う測定過程と,会計担当者と会計報告書との関係並ぴ に会計報告書と利用者との関係を扱う伝達過程とに組み替えることができる
( 5 5 )
といわれている。
もし,このように測定過程と伝達過程から成る会計として組み替えてみる ならば,伝達システムとしての会計を構築しょうとする限り,そこには最近 の傾向に則して言えば,利用者指向の会計を意図して,伝達過程に重きを置 く理論展開がなされるはずである。しかしながら,この点に関する限り,彼
( 3 0 ) I b i d . , p . 6 5 2 ( 3 1 ) I b i d . , p . 6 5 6 ( 3 2 ) I b i d . , p . 6 5 4
( 3 3 ) 津曲稿,前掘稿2 0 0 頁ー2 0 1 頁 。
2 6 2 ( 4 8 8 )
会計理論形成に関する一考察(松尾)等の論稿からは判然としない。むしろ,伝達過程ではなくて,測定過程に重
( 5 4 )
点を置いているとも解釈できる。それは,上図において,フィードバック回 路が会計報告書の利用者に繋がっていない点に,端的に示されているといえ る。すなわち,彼等は上図のフィードバックについて「会計担当者はメッセ ージに変換したが,まだ伝達していない会計報告書を自ら解釈することによ
( 5 5 )
って,フィードバックし訂正することができる」と説明しているが,もし伝 達過程を重視して利用者指向の会計を展開しょうとすれば,会計報告書訂正 の基準は,利用者によって彼等の利用目的から与えられるはずであるからで ある。また,彼等が伝達過程よりも測定過程を重視していると解釈しうるの は,上記の有意味性と忠実度の
2
つの資質の説明からも読み取れるように,企業の経済事象の正確な測定・描写こそが利用者の効果的な意思決定の基礎
( 5 6 )
であるとの考えが,彼等の論稿の端々から読み取りうるからである。このよ うな解釈は,伝達システムとしての会計を標傍した場合の彼等のこのような 理論展開の妥当性を問題にすることを意味しているのではない。もし,その ことを問題にするのであれば,むしろ,彼等の論稿からは,利用者指向の会 計といえども,会計が提供しうる情報には限界があるということの示唆がな
されているように思えるのである。
それはともかく,これまでの論述から,会計理論の対象とする会計とは,
ストーバスがいったように,ある組織体の経済活動に関する財務的情報を提
( 5 7 )
とである。いいかえれば,ある組織体に関する財務的情報を提供す 供するこ
( 3 4 )
この解釈は津曲助教授にもみられる(津曲稿,前掲稿2 0 1
頁)。( 3 5 ) B e d f o r d and B a l a d o u n i , o p . c i t . , p . 6 5 4
( 3 6 )
ベッドフォードは他の著書で,このことを明確に指摘している( N o r t o n M.
B e d f o r d , K e n n e t h , W. P e r r y and A r t h u r , R . W y a t t , Advanced A c c o u n t i n g ; an O r g a n i z a t i o n a l Approach ( J o h n W i l e y & S o n s , I n c . , 1 9 6 1 ) , p . 5 )
。( 3 7 )
このことを簡単に,会計とは情報の提供を行なうサービス活動である,という 場合もある(AICPA.APB S t a t e m e n t N o . 4 , B a s i c C o n c e p t s and A c c o u n t i n g
P r i n c i p l e s Underlying F i n a n c i a l S t a t e m e n t s of B u s i n e s s E n t e r p r i s e ,
1 9 7 0 ; p . 1 7 )
。るために,.会計担当者がかかる組織体の経済活動を写し取るプロセスであ る,ということができる。このことは,意思決定のために要求される情報が 何であれ,会計が提供する情報はこの範囲を越えることはできない,という
•ことを意味しているともいえる。
そして,会計担当者のかかる行為に対して,判断の指針を提供するのが会
( 3 8 )
計理論の役割なのであるが,その場合,会計行為に対する有用な指針の提供 という,このような役割を果す会計理論とはどのような性質を有するものな のか,ということが問われなければならない。これが次に解決すべき問題で ある。
1 1 [
会計理論の形成方法さて'][で明らかにしたような対象に対して,会計理論がいかなる性質を もつのかを明らかにするために,次にその形成方法を検討しよう。
a .
記述的アプローチ一般に,理論形成に関する記述的アプローチとは,当該理論の対象につい て,かかる対象の現存の状態を前提にして,その対象をあるがままに体系化 する方法といわれている。そこでは,理論の基本的目的は,井尻教授によれ ば,対象として存在する複雑な経験硯象を,本質を失うことなく休系化され た単純なモデルで記述することによって,硯存の経験現象を説明し,予測す
( 3 8 )
会計理論の役割に関する同様の見解は次の文献にもみられる。AAA. A . S t a t e m e n t s of B a s i c A c c o u n t i n g T h e o r y , 1 9 6 6 , p . 2飯野利夫訳本「基礎的
会計理論」 (国元書房1 9 6 9 ) 2
頁。Edwin H. C a p l a n , A c c o u n t i n g R e s e a r c h a s an I n f o r m a t i o n S o u r c ; ̲ e f o r Theory C o n s t r u c t i o n , i n R o b e r t R . S t e r l i n g ( e d ) , R e s e a r c h Methodology i n A c c o u n t i n g ( S c h o l a r s B o o k . ・ 1 9 7 2 ) , p . 46
Vernon Tam S i u Kam, The F o r m u l a t i o n a 叫 Tes#ng of A c c o u n t i n g
M o d e l s . , an u n p u b l i s h e d P h . D . T h e s i s , U n i v e r s i t y o f C a l i f o r n i a , 1 9 6 8 ,
pp.114‑116
2 糾 ( 4 9 0 ) 会計理論形成に関する一考察(松尾)
(1)
ることにある,といわれている。そして,その例として,地図や時刻表が挙 げられている。それらは,ある事象が生起した場所や時刻を説明すると同時
(2)
に,ある街の存在する位置や到着時刻を予測することを可能にする。
このような記述的アプローチを会計理論形成にあてはめると,それは現存
(3)
の会計実務を体系的に記述する方法といわれる。そこでは,会計理論の目的 は現実に行なわれている会計行為を説明すると同時に,現実に行なわれるで
(4)
あろう会計行為を予測することにある。
従って,このような会計理論の妥当性は,現実の会計行為と照らし合わせ ることによって検証されることになる。それは,もし現実の会計行為を充分 に説明・予測できないならば,修正・廃棄を余儀なくされる。
かくして,記述的アプローチにもとづく会計理論の形成は( 1 ) 硯実に行なわ
(5)
れている会計行為の経験的観察,(2)かかる観察からの帰納にもとづく一般 化,(3)かかる一般化の現実の会計行為との照合,という手続を踏むことにな る。従って,そこでは,現実に行なわれている会計行為という,現実の存在 を前提にして,理論は常にかかる存在との一致を求められるために,かかる 理論は「かくあるべき」ということよりも,むしろ「かくある」ということ
(1) I j i r i , o p . c i t . , p . 447
。(2) I b i d . , p . 4 4 7 意味論との関連で, 「地図」を比喩的に解釈して,かかる地図の 予測能力に触れた文献として次の著書がある。
s . I . ハヤカワ著,大久保忠利訳本「思考と行動における言語第二版」
(岩波書店1 9 6 5 )
A. ラボボート著,真田淑子訳本「一般意味論一人間の目標と科学」 (誠信書 房昭4 0 )
(3) I b i d . , p . 4 4 6
。D a n i e l L . McDonald, Comparative Accounting Theory ( A d d i s o n ‑ W e s l e y , P u b . , 1 9 7 2 ) , p.14
(4) McDonald, I b i d . , p . 28
(5) 経験的観察による資料の入手法は質問書による方法,インタビューによる方法
等,多々ある。詳細はカール •G ・ヘンペル著,黒崎宏訳本「自然科学の哲学」(培風館
1 9 6 7 ) 1
頁参照。を意図しているといわれる。
そして,経験の蒸溜として帰納的方法に重点を置いて展開されてきた伝統
(6)
的会計理論は,この範疇に属するとされる。
ところで,このような記述的アプローチにもとづく会計理論に帰せられる 問題点は,かかる会計理論は現実に行なわれている会計行為を説明しえて
も,かかる会計行為の適否の規準を提供してくれないという点である。
現存の会計行為を前提として会計理論を形成することは,現実の存在を基 礎としているために,かかる理論は,逆に,現実の存在に対して理論的根拠 付けを与えるという利点を有している。すなわち,存在を前提とする理論
(7)
は,現実が「なぜ,そうあるのか」ということを説明してくれる。
しかしながら,現実は変動して止まないのが常である。ましてや社会現象 はその度合が激しい。とすれば現実の存在を前提にする理論は,かかる現実 の存在が将来も反復されるであろうとの仮定のもとに正当化される。これを 社会現象たる人間行為についていえば,将来も同じ行為が遂行されることが 予定されていることになる。しかしながら,人間行為は喋境の変化,知識の 向上等によって変化するのが常である。会計行為もその例外ではない。現実 に会計行為が行なわれているからといって,かかる会計行為が常に正しいと は限らない,とされる所以もここにある。かくして,ここに,現実の会計行 為の妥当性を判断する尺度になると同時に,かかる行為を指導・改善し,会 計行為に対する行動規範となる会計理論を形成する必要が生じてくる。
ただ,ここで注意すべきことは,規範としての会計理論の必要性は,存在 に関する会計理論を不必要ならしめるものではない,という点である。むし ろ,そのような問題に関して言えば,山下教授がいわれたように,規範は存
(8)
在を前提にして成立する。言い換えれば,存在を理解することなしには,規
(6) McDonald, o p . c i t . , p p . 14‑28
(7)
アドルフ・モックスター著,池内信行・鈴木英寿共訳「経営経済学の基本問題 」 ( 森 山 書 店 昭4 2 )5 3 頁 。
(8) 山下著,前掲書44 頁 。
2 6 6 ( 4 9 2 )
会計理論形成に関する一考察(松尾)範の定立は不可能であるということである。ましてや,現実と密接な関係を 有する会計理論にあっては,理論形成に際しての概念用具は存在の記述的側 面を有する必要がある。
従って,ここで主張しょうとするのは,もし会計理論が記述的アプローチ のみにもとづいて形成されるならば,会計行為の適否の判断規準に関して問 題を有するということであって,記述的アプローチを全面的に排斥しょうと するものではない。むしろ,会計理論は記述的側面も備えなければならない のである。
b .
規範的アプローチ規範的アプローチとは,理論の対象となる経験的現象に理想の状態を求め て,かかる硯象が「かくある」ということよりも,かかる現象は「かくある
. (9)
べきである」ということを示す方法といわれている。従って,このような方 法によって形成された理論は,現在,存在する経験的現象のありのままの姿 を休系的に示そうとしたものでないために,必ずしも,経験の世界に理論
( 1 0 )
によって表わされる現象
( c o u n t e r p a r t )をもつとは限らないといわれる。そ
れは,経験的現象を所与として,かかる硯象に一致するような理論の形成が 意図されているのではなくて,現在,存在する経験的現象の妥当性を理論を 基準として検証し,もしかかる現象が理論に適合しなければ,現象を改善 し,もって,硯象を理論に適合させることが意図されているためである。そ して,ここに,規範的性質が理論に備なわる余地がある。、ところで,このような規範的アプローチを会計理論形成にあてはめると,
それは,会計理論の対象となる会計はかくあるべきものである,という理論
( 1 1 )
を展開する方法であるということになる。そして,この場合,かかる会計理 論は「理論的に正しいものは結局において実践を指導すべきものである」と
(9)
前掲書3 1 頁ー3 2 頁 。 ( 1 0 ) I j i r i , o p . ci~、., p.446
( 1 1 ) M c D o n a l d , o p . c i t . , p . 1 4
( 1 2 )
いう理念に立って,硯実に遂行されている会計行為の妥当性の判断規準を提 供し,会計行為の指導・改善を意図するものである。
そこで,この場合,このような規範としての理論に求められる重要な要件 として,かかる理論が矛盾なく脈絡ある論理の体系を示しているかどうか,
すなわち論理の一貫性が保たれているかどうかということが挙げられ,論理 の一貫性は演繹的推論によって理論展開を行なう演繹法の真随であるため
( 1 3 )
に,規範的理論が演繹的理論と同一視されることがある。
しかしながら,規範的アプローチにもとづく会計理論形成にとって重要な のは,論理の一貫性もさることながら,会計理論はその対象とする会計的経 験現象について,かかる現象はかくあるべきであるということの表明である
とした場合,そのような「かくあるべき」の表明の展開の基礎は何か。言い 換えれば,どのような命題から,そのような「かくあるべき」の表明が展開
されるのかという点である。
規範的アプローチにもとづく理論が, 「目的に関する仮定」を必要とする のはこの点である。そしてまたそのことに,社会科学としての会計理論の特 徴が見出される。すなわち,他の人間行為と同様に,「会計」という人間行為 もまた,合目的的行為であるはずである。であるとしたら,かかる行為の目 的に関する命題を前提することが,そのような行為に対する規範としての理 論を展開する上で,必須の条件になる。なぜならば,行為の妥当性は当該行 為の目的に照して判定されるために,もし理論がかかる行為はかくあるべき であるとの表明を意図するならば,かかる理論をその理論の対象とする行為 の目的との関係で展開し,かくして形成された理論を当該理論の対象とした 行為と比較して,現実の行為のあるべき行為との相遮点を明らかにすること によって,かかる理論が現実の行為の指導・改善に寄与しうる,といいうる からである。この点を指して,規範的アプローチにもとづく理論は目的指向
( 1 2 )
山下著,前掲書3 3 頁 。
( 1 3 ) R . F . S a l m o n s o n , B a s i c F i n a n c i a l Accounting Theory (Wadsworth
P u b l i s h i n g Company, I n c . , 1 9 6 9 ) , p.14
2 6 8 ( 4 9 4 )
会計理論形成に関する一考察(松尾)( 1 4 )
的があるといわれ,また,ここに会計理論のプラグマティックな側面が顔を
( 1 5 )
覗かせているといわれるのである。
かくして,ここに規範的アプローチにもとづいて形成される理論は「
( 1 )
目( 1 6 )
的に関する仮定と
( 2 )
演繹によって特徴付けられることになる」。それは,ま ず,目的を明確にし,次に,理綸が備えるべき特性のいくつかを,かかる目( 1 7 )
的から演繹しなから理論を展開することになる。その際,規範的会計理論は 現実に行なわれている会計を指導・改善することを意図するのであるから,
この理論の妥当性を検証するためには「もし,かかる理論を実際に適用する ならば,その理論が仮定した目的に照して,硯存の会計をより良好な状態に
( 1 8 )
導くであろうということが論証されなければならない」ことになる。
従って,ここに規範的アプローチにもとづく会計理論の形成は,(1)会計目 的の設定,(2)かかる目的にもとづく理論の展開,(3)目的に照した理論の評 価,(
4
)目的との関連で,理論が現実に行なわれている会計を改善することの 論証,という手続を踏むことになる。従って,そこでは理論は目的によって 強く方向付けられることになり,目的の修正・廃棄は,かかる目的から展開( 1 9 )
された理論体系の修正・廃棄を意味することになる。
勿論,この場合,会計理論が目的に関する仮定のみから展開されることを 意味するものではない。既に述べたように,会計理論の対象たる会計は,ぁ る組織体に関する財務的情報を提供するために,会計担当者がかかる組織体 の経済活動を測定・伝達することによって,当該組織体の経済活動を描写す
( 1 4 ) I j i r i , o p . c i t . , p . 4 4 8
( 1 5 ) c f . Kam, The Formulation and T e s t i n g ……,p.115 ( 1 6 ) l j i r i , o p . c i t . , p . 4 4 8
( 1 7 ) I b i d . , p . 4 4 8 ( 1 8 ) I b i d , p . 4 4 6
( 1 9 )
cf.F r i t z Machi u p , The Problem o f V e r i f i c a t i o n i n E c o n o m i c s , S o u t h e r n
Economic J o u r n a l , J u l y 1 9 5 5 , pp.10‑21, Kam The Formulation and
Testing…•••,pp.114-122, 202‑209
のるプロセスである。従って,会計理論の対象たる会計は会計を行なうこと の目的観という人間の価値的要素とともに,かかる目的観に支えられて解釈 される組織休の経済活動という事実的要素を含み,これら価値と事実の総合 として会計上の判断が形成されることを考えると,このような判断に対して 指針を与えるという役割を担う会計理論は,会計を行なうことの目的に関す る命題を前提とすることのみによっては展開されず,組織体の経済活動とい
( 2 0 )
う事実的要素に関する前提を必要とすることが明らかになろう。
それにもかかわらず,規範的アプローチにおいて目的に関する仮定が重視 されるのは,既に述べたように,行為は本来合目的的であるからである。そ の際,行為は目的達成のために諸状況に作用するに際して,何等かの規範に 規定されながら遂行されることになる。言い換えれば,「行為は規範に規定 されながら動機を消費することにより,状況との相互作用を通じて目的を達
( 2 1 )
成するよう方向付けられた行動であるといえる」ということになる。これを 会計理論にあてはめると,それは会計行為に対する規範的側面を有さなけれ ばならない,ということが意味されていることになる。
しかしながら,会計理論が会計行為に対する規範として機能するために は,その理論が広く一般に受容されることを必要とする。ところが規範的理 論は目的に関する命題を前提にして展開されるのであるから,かかる理論が 一般に受け容れられるには,かかる理論の展開に前提される目的に閲する命
( 2 2 )
題に対して同意が得られておらなければならない。そして,このように,設 定しょうとする会計目的に同意を得るには,会計の役割ないし必要性を検討 することによって,会計が何故,どのような目的のために必要とされるのか が明らかにされなければならないのである。最近,しばしば,会計は経済的 意思決定に有用な情報を提供せねばならないといわれる。しかし,このよう
( 2 0 ) c f . Kam, i b i d , p.115
( 2 1 )
井上良二稿「会計社会学にむけて」企業会計1 9 7 4
年1 月号26
巻1 号1 3 5
頁。( 2 2 ) I j i r i . , o p . c i t . , p . 4 4 8 ,
この点でマクドナルドの見解には異議がある( M c D o n a l d , o p . c i t , p . 1 7 ) 。
2 7 0 ( 4 9 6 )
会計理論形成に関する一考察(松尾)に主張するには,なぜ会計は意思決定に有用でなければならないのかが明ら
( 2 3 )
かにされなければならない。このことは,とりもなおさず,会計にはどのよ うな役割が期待されているのかを明らかにする必要があることを意味する が,それは経験界の諸現象の観察・記述を通して解明される問題なのであ る。そして,会計目的に対する同意は,かかる会計の役割に関する論証が成 功するかどうかに依存しているのである。この問題については,機会を改め て検討したい。ここでは,会計目的の設定には,会計の役割の明確化が必要 であり,更にそのことを通して,それは経験界の記述的側面を有する,とい
うことを指摘しておきたい。
1 V
会計目的の意義バックーやヘンドリグセンは会計理論における目的に関する命題の重要性 を強調して,会計理論の形成に際してなすべき先ず第一の作業は目的の明確
(1)
化である,といっている。これを称して,会計理論は目的論的体系であると
(2)
いわれる。
( 2 3 )
この点で興味ある文献は,イリノイ大学スクディー・グループ,並びに最近公 表されたAICPA
会計目的スクディー・グループの見解である。A ・ S t u d y Group a t t h e U n i v e r s i t y o f I l l i n o i s , A S t a t e m e n t of B a s i c A c c o u n t i n g P o s t u l a t e s and P r i n c i p l e s (The B o a r d o f T r u s t e e s o f t h e U n i v e r s i t y o f I l l i n o i s , 1 9 6 4 )
AICPA. A c c o u n t i n g O b j e c t i v e s S t u d y G r o u p , O b j e c t i v e s of F i n a n c i a l S t a t e m e n t s , AICPA, O c t o b e r 1 9 7 3 .
(1) W i l l i a m J . V a t t e r , P o s t u l a t e s and P r i n c i p l e s , J o u r n a l of A c c o u n t i n g R e s e a r c h , V o l . 1 (Autumn 1 9 6 3 ) , p . 1 8 3
E l d o n S . H e n d r i k s e n , A c c o u n t i n g Theory ( I r w i n , I n c . , 1 9 6 5 ) , p . 8 1 (2)
倉地幹三稿「会計学における研究課願と研究方法ー会計学方法論に関する一考察ー」一橋論叢邸巻
1
号,3 5
頁。社会科学における目的論的体系については, リチャード・
S
・ラドナー著,塩 原勉訳本「社会科学の哲学」 (培風館 昭4 3 )1 4 2
頁ー15 9
頁がある。ところで,これまで,会計理論展開に際する目的に関する命題を規範論と の関係で論じてきた。しかしながら,このことは会計理論の展開にとって,
目的に関する命題が規範論に固有の概念であることを意味するのではない。
記述的会計理論においても,目的に関する命題が必要であるといわれる場合
(5)
もある。
しかしながら,同じ目的に関する命題であっても,両者の場合で,かかる 命題の性質更には理論展開における意味が異なる。すなわち,記述的会計理 論においては,目的に関する命題は現実に存在する会計諸現象が「なぜ,そ
(4)
うあるのか」を説明することを意図しているといわれる。従って,記述的会 計理論の展開に際しては,先ず,現実に存在する会計諸硯象が記述され,然 る後に,何故そのような会計諸現象が存在するのかを説明するために,かか る会計諸現象の目的に関する命題が識別されることになる。
勿論,目的に関する命題を明らかにすることだけで,硯実に存在する会計 諸現象の説明が尽くされるものではない。そこには,そのような会計諸硯象 が置かれている現実の諸状況に関する命題が必要である。それにもかかわら ず,目的に関する命題が設定されるのは,既に述べたように,会計諸現象が もともと人間の行為であるからである。すなわち,行為は現実の諸状況のも とに,目的の達成を目指して遂行されるために,行為の説明のためには,そ の行為が置かれている状況のほかに,行為が意図する目的を明らかにする必 要があるからである。
そしてこの場合,記述的会計理論において設定される目的に関する命題の 特徴は,それが会計理論として記述される会計的経験現象が,何故に,かく のごとく存在するのかを説明することに力点が置かれており,そのことが存 在の記述としての理論に根拠を与える機能を果していることである。そこで
(3)
倉地稿,一橋論叢3 5 頁 。
McDonald, o p . c i t . , p p . 13‑22
(4)
倉地稿,一橋論叢3 5 頁 。
2 7 2 ( 4 9 8 )
会計理論形成に渕する一考察(松尾)は,目的に関する命題は存在の説明を意図し,存在の記述体系を根拠付ける ことに主眼が置かれていることが特徴である。
これに対して,規範的会計理論においては,目的に関する命題は,もし会 計理論が「かくあるべき」会計を描くことを意図するとすれば,かかる会計 理論はどのような命題から構成されなければならないかを明らかにし,かか る命題から構成される会計理論に対して,現実の会計の改善のための指針と
(5)
しての性格を与えることであるといわれている。そこでは,会計理論の展開 に際して,目的に関する命題を設定することが先決問題とされ,理論はかか る目的の実現のためには如何なる会計行為がとられるべきかを示すことにな る。従って,ここでは,目的に関する命題は,会計の理論形成の対象たる会 計的経験現象の説明よりもむしろ,理論そのものの形成に際する前提命題と して,理論展開を支配する機能を強くもつことになる。そして,その際,か かる目的のもとに展開される理論は,そのような目的実現のための会計の理 想像を示して,現存の会計と対比せしめ,もって硯存の会計の改善に資する
ことを意図するのである。
目的に襲する命題のこのような理論展開に際する前提要件としての機能 は,かかる命題が規範的会計理論では非常に重要な意味を有していることを 示している。それは,記述的会計理論では,主として,会計現象に関する記 述休系としての会計理論の形成の後に,かかる現象を説明し,かかる理論へ の根拠付けとして,目的に閲する命題が設定され,そこでは理論展開に際し て,かかる命題の設定が必ずしも不可欠の前提条件にならないのと比べる と,尚一層明らかである。すなわち,その重要性は,規範的会計理論では,
目的に関する命題が理論全体の性格を規定するところにある。そして,規範 的会計理論として重要なのは,そのような目的実現のために展開される理論 が,現存の会計の改善の指針たりうるに十分な,会計現象の理想像を提示し なければならない,という点である。
ところで,近年,会計理論の規範性の主張が盛んで,その記述性が埋没す