層状ジケイ酸塩からのメソポーラスシリカ の合成

滋野　　　　　哲郎 Tetsuro　　　SHIGENO

応用化学　　　　無機合成化学 SynthesisofMesoporousSilicaDerived fromLayeredSodiumDisilicates

層状ジケイ酸塩からのメソポーラスシリカ の合成

　20033

　 多 孔 質 物 質 は そ の 細 孔 空 間 を 利 用 し た 触 媒 、 触 媒 担 体 お よ び 吸 着 剤 等 、 様 々 な 分 野 に 利 用 さ れ て い る 。 代 表 的 な 多 孔 質 材 料 と し て ゼ オ ラ イ ト が あ る が 、 そ の 孔 径 は ミ ク ロ 孔 領 域( 2\n m 以 下 )に あ り 、 サ イ ズ の 大 き な 分 子 に は 対 応 で き な い 。 シ リ カ ゲ ル や 多 孔 質 ガ ラ ス 等 の 非 晶 質 材 料 は 、 メ ソ 孔 領 域( 2 - 5 0\n m )の 細 孔 を 有 す る が 、 細 孔 径 分 布 が 広 く 、 孔 径 に よ る 選 択 性 は 期 待 で き な い 。 こ れ ら の 課 題 を 解 決 す る 新 多 孔 質 材 料 と し て 注 目 を 集 め て い る メ ソ ポ ー ラ ス 物 質 は メ ソ 孔 領 域 に 均 一 な 細 孔 を 有 し 、 そ の 配 列 も 規 則 正 し い も の が 多 く 、 従 来 の 多 孔 質 材 料 で は 不 可 能 で あ っ た 様 々 な 分 野 へ の 応 用 が 期 待 さ れ て い る 。 メ ソ ポ ー ラ ス 物 質 の 前 駆 物 質 と な る メ ソ 構 造 体 は 、 一 般 に 溶 解 し た 無 機 種 と 界 面 活 性 剤 と の 反 応 に よ り 生 成 す る 。 そ の 構 造 は 界 面 活 性 剤 分 子 の 集 合 形 態 に 依 存 し 、 こ れ ま で に 六 方 構 造 、 立 方 構 造 、 ラ メ ラ 構 造 な ど の メ ソ 構 造 体 が 合 成 さ れ て い る 。 メ ソ ポ ー ラ ス 物 質 の 代 表 例 で あ る メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ も 溶 解 し た ケ イ 酸 種 か ら の 生 成 が よ く 知 ら れ て い る 。 こ れ に 対 し 、 メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ 発 見 の 契 機 と な っ た 層 状 ジ ケ イ 酸 塩 を 出 発 物 質 と し た メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ の 合 成 も 、 異 な る 構 造 、 性 質 の 期 待 か ら 研 究 さ れ て い る 。 単 一 層 構 造 を 有 す る 層 状 ケ イ 酸 塩 カ ネ マ イ ト( N a H S i

2O

5･3 H

20 )と ア ル キ ル ト リ メ チ ル ア ン モ ニ ウ ム( C_nT M A )イ オ ン と の 反 応 に よ り 、 ハ ニ カ ム 状 の 一 次 元 細 孔 を 有 す る ヘ キ サ ゴ ナ ル 構 造 の メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ F S M 1 6 が 生 成 す る 。in\situ X R D や T E M 等 に よ る 検 討 か ら カ ネ マ イ ト の ケ イ 酸 塩 構 造 は 局 所 的 に は 維 持 さ れ る も の の 、 フ ラ グ メ ン ト 化 し た ケ イ 酸 種 と と も に 界 面 活 性 剤 と 六 方 構 造 を 形 成 す る 機 構 が 考 え ら れ て い る 。 最 近 で は 、 カ ネ マ イ ト と C_nT M A と の 反 応 に よ り 、 ケ イ 酸 塩 シ ー ト の 構 造 を 保 持 し た 層 問 化 合 物 を 経 由 し 、 格 子 状 の 構 造 の メ ソ 構 造 体 が 生 成 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 界 面 活 性 剤 を 用 い な が ら も そ の 集 合 構 造 に 細 孔 形 態 が 規 定 さ れ な い 新 規 シ リ カ 系 メ ソ 多 孔 体 K S W - 2 が 生 成 す る 。 こ れ ら F S M 1 6 や K S W - 2 の 生 成 メ カ ニ ズ ム や 形 態 は 出 発 物 質 で あ る 層 状 ジ ケ イ 酸 塩 の 構 造 に 起 因 し て お り 、 メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ 合 成 時 の 無 機 種 の 構 造 の 重 要 性 を 示 し て い る 。 　 本 研 究 で は 、 こ の 様 な 背 景 か ら 、 層 状 ジ ケ イ 酸 塩 カ ネ マ イ ト と 界 面 活 性 剤 の 反 応 に よ り 生 成 す る メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ を 取 り 上 げ 、 新 規 シ リ カ 系 メ ソ 多 孔 質 材 料 へ の 展 開 に 向 け 、 合 成 条 件 の 変 化 に よ る 物 性 ・ 構 造 へ の 影 響 につい て 検 討 し た 。 加え て 、 格 子 状 の チャネ ル を 有 す る メ ソ 構 造 体 や K S W - 2 の 表 面改質 や 出 発 物 質 へ の ア ル ミ ニ ウ ム( A l )の導 入に伴 う物 性 変 化 の調 査か ら 、K S W - 2 の 細 孔内 環 境や 新 規 物 性 の 発現につい て も 検 討 す る と と も に 、 カ ネ マ イ ト と は 異 な る S i O

4四面 体 の シ ー ト 構 造 を 有 す る 層 状 ケ イ 酸 塩 を 用 い た メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ の 合 成 につい て 検 討 し た 。

　 本論 文は全 七 章で 構 成 さ れ て い る 。第一章で は 、 メ ソ 構 造 体 お よ び メ ソ ポ ー ラ ス 物 質 に関す る概 略を 示 し 、 本 研 究 の意 義お よ び 目 的 を 示 し た 。

　第 二 章で は 、 カ ネ マ イ ト か ら 種 々 の メ ソ 構 造 体 が 生 成 す る過 程を 明 ら か に す る た め に 、 様 々 な陽イ オ ン 性 界 面 活 性 剤 と の 反 応 か ら誘 導さ れ る メ ソ 構 造 体 を 合 成

　１

し 、 界 面 活 性 剤 分 子 の 集 合 形 態 と メ ソ 構 造 と の関 係を 検 討 し た 。鎖 長の長い C_nTMA (n\=\16,\18)及び ア ル キ ル ト リエチ ル ア ン モ ニ ウ ム(C_nTEA;\n\=\20,\22)と カ ネ マ イ ト と の 反 応( N / S i\=\2 . 0 )で は 、鎖 長に 応じた 層 間隔を 有 す る ラ メ ラ相が 生 成 し た 。 N / S i\=\0 . 2の場合 に は 、C_nT M A (n\=\1 2 - 1 8 )と の 反 応 に よ り ヘ キ サ ゴ ナ ル相が 生 成 し た 。C_{2 2}T M A 及び C_{2 2}T E Aを 用 い る と 界 面 活 性 剤 の曲 率が低く な る た め に ラ メ ラ相 が得ら れ る が 、 ケ イ 酸 塩 シ ー ト が フ ラ グ メ ン ト 化 し て お り 、 酸処 理に よ り ヘ キ サ ゴ ナ ル相へ 変 化 し た 。曲 率の低い ジェミ ニ型界 面 活 性 剤 を 用 い て も ラ メ ラ相が 生 成 し 、 酸処 理に よ る ヘ キ サ ゴ ナ ル相へ の 変 化 も 可 能 で あ っ た 。 よ り高い曲 率の ジェミ ニ型界 面 活 性 剤及び C

nT E A (n\=\1 4 - 2 0 )を 用 い る と秩 序性 の低い メ ソ 構 造 体 が得ら れ た 。 こ れ ら の メ ソ 構 造 体 は 、 層 状 ケ イ 酸 塩 カ ネ マ イ ト の二次 元 的 空 間 で の 界 面 活 性 剤 分 子 のパ ッキ ン グ に 応じて 生 成 す る こ と を 明 ら か に し た 。

　第 三 章で は 、 カ ネ マ イ ト か ら誘 導さ れ る 格 子 状 の チャネ ル を 有 す る メ ソ 構 造 体 (KSW-2前駆体)につい て 検 討 し た 。鎖 長の 異 な る C_nT M A (n\=\1 2 - 1 8 )を 用 い て メ ソ 構 造 体 を 合 成 し 、n\=\1 4 - 1 8 の 界 面 活 性 剤 と の 反 応 で は ラ メ ラ が 生 成 す る が 、 C₁₄TMA−、C₁₆TMA−カ ネ マ イ ト複合 体 か ら は 酸処 理に よ り斜方 晶 の メ ソ 構 造 体 が 生 成 す る こ と を 示 し た 。 界 面 活 性 剤除 去 後も そ の 構 造 は 保 持 さ れ 、 そ の 細 孔 径 は鎖 長 に 応じて制 御可 能 で あ っ た 。C_{1 8}T M A −カ ネ マ イ ト複合 体 は 酸処 理 後、斜方 晶 へ の 構 造 変 化 は 起 こ らず、固体 N M R 測定 か ら カ ネ マ イ ト の シ リ カ 層内で の縮合 が 生じ て い る こ と を 明 ら か に し た 。 一 方 、C

1 2T M A −カ ネ マ イ ト複合 体 で は 非常に 規 則 性 の低い メ ソ 構 造 体 が 生 成 し た 。 さ ら に 、Na含有量の 異 な る カ ネ マ イ ト を 合 成 し 、 層 状複合 体 の 合 成 条 件 が メ ソ 構 造 体 に与え る 影 響 を 検 討 し た結 果、 有 機含有量の 少な い 層 状複合 体 を 用 い た 方 が ケ イ 酸骨格内の 規 則 性 が よ り高い こ と を 示 し た 。 いずれ の メ ソ 構 造 体 に お い て も X R D 測定 か ら カ ネ マ イ ト の シ リ ケ ー ト骨格 を あ る 程 度 残存 し て い る こ と が判明 し 、 出 発 物 質 で あ る 層 状 ケ イ 酸 塩 構 造 を 反映し た K S W - 2 の 生 成 要 因 を 明 ら か に し た 。

　第 四 章で は 、Alを導 入し た カ ネ マ イ ト か ら K S W - 2を 合 成 し 、骨格内へ の Alの導 入を 検 討 し た 。 カ ネ マ イ ト は 前 駆 物 質 で あ るδ − N a₂S i₂O₅を純 水に 分散す る こ と で 生 成 す る 。 そ こ でδ − N a

2S i

2O

5へ Alを導 入す る こ と に よ り Al含有 カ ネ マ イ ト を 合 成 し 、 界 面 活 性 剤 と の 反 応 に よ り Al含有 メ ソ 構 造 体 を得た 。A l含有δ−Na

2Si

2O

5

合 成 に際し 、焼成 条 件 お よ び Al量を 変 化 させる こ と で そ の 最適生 成 条 件 を 明 ら か に し た 。Al含有 カ ネ マ イ ト か ら 層 状 メ ソ 構 造 体 、 お よ び 格 子 状 の チャネ ル を 有 す る メ ソ 構 造 体 が 生 成 し た 。 構 造 体中の Alは４配位のみで 、 ケ イ 酸骨格中へ Alが導 入さ れ 、焼成後も Al環 境 及び メ ソ 構 造 が 保 持 さ れ て い る こ と を 明 ら か に し た 。 カ チ オ ン 性色 素の 吸 着挙 動や ア ン モ ニ ア T P D か ら Al含有 K S W - 2が 新 規 吸 着 剤 お よ び 新 規 触 媒 と な り得る こ と を 示 し た 。

　第 五 章で は 、 格 子 状 の チャネ ル を 有 す る メ ソ 構 造 体 お よ び K S W - 2 表 面 に 存在す る シ ラノー ル(≡SiOH)基を 利 用 し た 有 機修 飾 K S W - 2 の 合 成 につい て 検 討 し た 。 本

　２

章で は 、 シ リ ル 化 反 応 を 利 用 し た 有 機修 飾を行い 、修 飾 後の 細 孔内 環 境の評 価や 有 機基の 存在状 態 を 検 討 し た 。K S W - 2 に比 べて ケ イ 酸骨格 の縮合 の程 度の少な い メ ソ 構 造 体 を直 接シ リ ル 化 す る こ と で 、 よ り 細 孔 径 の 大 き な 有 機修 飾メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ を初め て 合 成 し た 。 ま た 、修 飾に 用 い た シ リ ル 化 剤 の ア ル キ ル鎖 長の増 大 に よ る 、 細 孔 径 の制 御お よ び 細 孔内表 面 の疎 水化 を 示 し た 。 シ リ ル基の修 飾 密 度変 化 に伴 う細 孔内表 面 の被 覆 率の違い か ら 、嵩 高い ア ル キ ル基を 有 す る シ リ ル 化 剤 を 用 い た場合 に比 べて 、 ト リ メ チ ル シ リ ル基で は 立 体障 害が小さ い た め 、高 い 表 面被 覆 率を 示 す こ と を 明 ら か に し た 。 さ ら に 、 ト リ メ チ ル シ リ ル 化誘 導体 の 焼成 に よ る 細 孔 径制 御の 可 能 性 を 検 討 し 、 シ リ ル基の 酸 化 に よ り 生 成 し た シ リ カ が 細 孔内を部分 的 に覆 うこ と で 、壁 厚が増 加し た こ と を 示 し た 。 以 上 の結 果、 有 機修 飾に よ り 格 子 状 の チャネ ル を 有 す る メ ソ 構 造 体 お よ び K S W - 2 の 細 孔内空 間 の 構築、 細 孔 径 ・ 細 孔 構 造 の制 御が 可 能 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。

　第六章で は 、α − N a₂S i₂O₅を 用 い た メ ソ 構 造 体 の 合 成 につい て述 べた 。 カ ネ マ イ ト と 界 面 活 性 剤 と の 反 応 か ら得ら れ る メ ソ 構 造 体 と の比 較に よ り 、 出 発 物 質 で あ る 層 状 ジ ケ イ 酸 塩 の 構 造 が 生 成 物 に与え る 影 響 を 検 討 し た 。 ジ ケ イ 酸 塩 層 を 形 成 す る６ 員 環シ ー ト は 、 カ ネ マ イ ト の 出 発 物 質 で あ るδ-\N a

2S i

2O

5で はボー ト 形 で 、α -\N a

2S i

2O

5で は い す 形 で 構 成 さ れ て い る 。C

1 6T M A / S i 比が低い場合 、 カ ネ マ イ ト の場合 と同様 にα 型の水 和物 か ら も ヘ キ サ ゴ ナ ル 構 造 の メ ソ 構 造 体 が 生 成 す る が 、 よ り高い比の場合 、 ラ メ ラ 構 造 と は 異 な る メ ソ 構 造 体 を 生 成 し 、焼成後 も 構 造 は 保 持 さ れ 、秩 序性 の低い 細 孔 を 有 す る メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ が 生 成 し た 。 表 面 構 造 や電 荷 密 度の違い か ら C_{1 6}T M A の ミセル 形 成 能 が 異 な り 、α 型か ら は 多 孔 体 が 形 成 す る と 考察し た 。 こ れ ら の結 果は 、α 型の水 和物 と カ ネ マ イ ト と の 異 な る 反 応 性 を 示 し て お り 、 出 発 物 質 の 構 造 の違い が メ ソ 構 造 体及び メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ の 生 成 条 件 に 影 響 を及 ぼす こ と を 明 ら か に し た 。

　第 七 章で は 、 本 研 究 で得ら れ た結 果を総 括し た 。 本論 文の 成果は 、 新 規 シ リ カ 系 メ ソ 多 孔 質 材 料 へ の 展 開 に 向 け 、 層 状 ジ ケ イ 酸 塩 か ら 合 成 さ れ る メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ の 合 成指 針を 明 ら か に し た 。Alの導 入や メ ソ ポ ー ラ ス シ リ カ の 表 面修 飾に 関す る 成果は 、実 際の 吸 着 分離剤 等 へ の 応 用 を 検 討 す る際の 目 的 に 合わ せた 材 料 設 計が 可 能 で あ る こ と を 示 し た 。

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