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(1)

結 第 第 第 第 四 三 ニ ー 語 章 章 章 章 序

ー国際私法は排除されるか

国際海上物品運送法の統一

と 国 際 私 法 の 関 係

プラッセル条約第一

0

プラッセル議定書による条約第一〇条の改正

ハンプルク条約第二条

国際私法学の発展からみた考察

2‑2‑219 (香法'83)

(2)

(6 ) 

ここで簡単に︑国際海上物品運送法統一の歴史に触れておくことにしよう︒そもそもこの分野における法統一の必 要性は︑十九世紀に入ってから︑船荷証券中の免責約款が激増したために︑運送人が積荷損害に対してほとんど責任

を負わなくなっただけでなく︑契約の内容そのものが非常に分かり難くなったことに︑端を発する︒それに伴って︑

船荷証券の流通性が著しく阻害されたので︑十九世紀末からさまざまの国際団体において審議が積み重ねられた結果︑

ついに一九二四年八月二五日︑ブラッセルで開催された外交会議において︑船荷証券統一条約︵通称ヘーグ・ルール

(8 ) 

ズ︶が署名されたのである︒同条約によって採択されたヘーグ・ルールズは︑商事過失と航海過失を区別し︑航海過

失についてのみ運送人の責任を免除するなど︑幾つかの責任原則を定める一方︑このようにヘーグ・ルールズが定め で

ある

国際私法と統一実質私法の関係︑というテーマは古くから存在し︑すでに一八七四年には︑国際法学会(Institut

d e

 

D r

o i

t   International)において︑両者の二律背反性がマンチーニにより指摘されたと伝えられている︒すなわち︑実

( 2 )  

質私法の統一が全世界的規模で達成されたならば︑国際私法が不要になる︑というのである︒ところがその後︑実質

私法統一の限界が除々に認識され始め︑今ではむしろ︑国際私法の必要性は容易に消失しないとされている︒

といっても︑実質私法統一の試みは︑取引法から身分法までさまざまの分野において︑さまざまの方法で行なわれ

( 4 ) ( 5 )  

ているのであるから︑これらを一括して国際私法との関係うんぬんというわけにはいかない︒それゆえ本稿では︑し ばしばこのような問題の実例とされてきた国際海上物品送法の統一と国際私法の関係に︑対象を限定しようと思うの

序〗

2 ‑ 2‑220 (香法'83)

(3)

国際海上物品運送法の統一と 国際私法の関係(奥田)

た以上に︑運送人の責任を軽減するような約定は︑無効としている︒運送人と荷主との間のこのような妥協案は︑多

一九八一年末現在で︑締約国は七九ヶ国を数える︒

ところがプラッセル条約成立後︑コンテナー船の普及や最高責任額の目減りなど新たな問題が多数生じてきたので︑

ルー

ルズ

一九六八年には︑同じくブラッセルで開催された外交会議において︑条約改正のための議定書︵通称ウィスビィー・

( 1 0 )  

が採択された︒ただし︑この改正においても︑航海過失と商事過失の区別などの大原則は︑変更されなか

った

ので

ある

さらにその後︑このように先進国の代表だけが集まって作った条約に対して︑発展途上国の側から異議が申し立て

ら れ

その

結果

一九七八年にハンブルクで開催された国際連合主催の会議において︑全く新しい条約︵通称ハンブ

( 1 1 )  

ルク・ルールズ︶が成立したのである︒このハンブルク・ルールズは︑従来のいわゆる航海過失と商事過失の区別を

廃止し︑代わって過失責任の原則を海上物品運送法に導入したため︑各方面で議論を呼んでいる︒

他方︑国際私法についても最近の発展をみると︑伝統的アプローチからの離反が目立つ︒たとえば︑ある種の法規

( 1 3 )  

について﹁直接適用﹂や﹁特別連結﹂を認めたり︑あるいはアメリカの学説の影響を受けて︑更に積極的に実質法の

( 1 4 )  

目的を考慮しようとする立場も現われている︒仮に本稿の対象である統一実質私法についても﹁直接適用﹂を認める ならば︑たとえ統一が全世界的規模における完全なものでなくても︑国際私法が排除されることになる︒もっともこ

( 1 5 )  

れに対しては︑もう一方の極として︑国際私法の排除を全く認めない︑という立場もある︒これによると︑国際海上 物品運送法統一規則の適用を受ける芙約についても︑当事者自治の原則が維持されることになる︒結論から先に述べ ると︑筆者は︑この両極端のどちらにもつかず︑個々の統一規則がみずから定めた適用範囲規定を︑特別抵触規定と

( 1 6 )  

みることにより︑問題を解決したいと思っている︒ くの国に受け入れられ︑

2 ‑ 2 ‑221 (香法'83)

(4)

成立の経緯

これらの統一規則の適用範囲規定について問題状況を概観し︑

ブラッセル条約に定められた統一規則は︑

その後に︑国際私法学の最近

このヘーグ・

ルールズは︑最初から特別の適用範囲規定を必要としていたわけではなかった︒というのは︑国際法協会

( I n t

e r n a

t i o n

a l  

L a

w   A s

s o c i

a t i o

n )

が一九ニ︱年に最初のヘーグ・ルールズを作成した時点では︑それは援用可能規則にすぎなか

( 1 7 ) ( 1 8 )  

ったからである︒ところがその後︑このような方法が一向に成果を挙げないことが分かり︑条約による法統一が企て

( 1 9 )  

られて初めて︑条約の強行的性格のゆえに適用範囲を制限する必要が生じた︒

ところで︑現在の形の適用範囲規定がどのような議論を経て出来上がったのか︑議事録には現われてこない︒現に︑

一九二二年のブラッセル会議議事録によると︑委員会の提案は︑実質上同じと言えるかもしれないが︑次のように異

なった規定であった︒﹁本規則は︑海上物品運送船による締約国内の港からの物品運送について︑効力を有するものと

する︵傍点筆者︶︒この場合︑目的港が同国内にあるか否か︑また利害関係人が相異なる国の国民であるか否か︑問わ

( 2 0 )  

ない︒﹂しかるに採択文には︑ブラッセル条約第一〇条と全く同じ規定が条約案第九条として入っていた︒そして︑そ

の間の変更の経緯は︑記録されていないのである︒したがって︑

さてブラッセル条約第一

0

条の意味するところは︑それだけを独立してみるならば︑明白である︒それによると︑

第一節

第一章ブラッセル条約第一

0 条

の発展からみた考察を加えることにする︒ そこで以下ではまず︑

この問題にはこれ以上触れないことにする︒ 一般にヘーグ・ルールズとして知られているのであるが︑ 三四

2 ‑ 2 ‑222 (香法'83)

(5)

国際海上物品運送法の統一と 国際私法の関係(奥田)

三 五

︹ヘーグ︺ルールズが効力を有するものと

締約国で発行されたすべての船荷証券に︑条約の規定が適用されることとなっている︒ただし︑この規定の前提とし

( 2 2 )  

ては︑条約が批准等により国内法上も直接に効力を持つ

( s e l

, e f

x e c u

t i n g

)

のでなければならない︒それゆえにこそ︑

﹁本条約﹂の規定が適用される︑と規定されているのである︒ところが︑プラッセル条約の署名議定書第二項は︑この

前提を大きく覆してしまった︒それによると︑各締約国は︑直接︑条約に国内法としての効力を与えるか︑それとも

( 2 4 )  

ヘーグ・ルールズを﹁自国の立法に適する形で﹂国内法化するか︑どちらかを選択できることとなったのである︒こ

( 2 5 )  

こに至り︑プラッセル条約は︑統一法としての性格を失い︑法の調整

( R e c

h t s a

n g l e

i c h u

n g )

にすぎなくなった︒そし

( 2 6 )  

て︑ほとんどの締約国はヘーグ・ルールズを︑形式だけでなく内容も変えて国内法化したのである︒

プラッセル条約の締結国は︑更に条約第一

0

条も︑自国の海運政策や立法体系に合わせて変えてしまった︒わが国

( 2 7 )  

も︑その例に漏れない︒しかし︑それはすでに紹介されているので︑ここでは︑他の諸国の例をみていくことにしよう︒

まずイギリスの一九二四年海上物品運送法

( C a r

r i a g

o f e

  G o

o d

s  

by 

S e

a   A

c t

 

1

92 4,

14 15  

G e

o .

 

5 , 

c .  

22 )

第一条

は︑次のように規定する︒﹁本法の規定にしたがい︑大ブリテンまたは北アイルランドの港から︑大ブリテンまたは北

アイルランド内外の他の港への︑物品運送船による海上物品運送について︑

( 2 8 )  

する︵傍点筆者︶︒﹂

この規定は︑プラッセル条約第一〇条を全く無視している︒確かに︑一九二四年法は︑ブラッセル条約成立以前に

制定されたのであるから︑それも当然のように思えるかもしれない︒しかし︑同法の元となった一九二三年の条約草

( 3 0 )  

案には︑すでに条約第一

0

条と全く同じ規定が見られるのである︒ここではむしろ︑イギリスの立法者が一九二四年

第二節国内立法における適用範囲規定

2 ‑ 2‑223 (香法'83)

(6)

ドイ

ツは

関するすべての契約に適用あるものとする

一ドイツ帝国の港への運送に関するものでなく︑

ニドイツ船に かつドイツ帝国 一九三六年法の適用範囲規定は︑既存の立法や判例の流 みずから合衆国の往航・復航運送を指定しているの

ヘー

ク・

運政策の観点から︑ 法を︑ブラッセル条約の成立にかかわりなく施行するつもりであった︑場

合︑

( 3 1 )  

という点に注目すべきである︒というのは︑

イギリス海運はそれだけのために︑国際競争において不利な立場に置かれたに違いないからである︒そこで海

( 3 2 )  

一九二四年法の適用範囲を極力制限したと考えられるのである︒

合衆国の一九三六年海上物品運送法

( C

a r

r i

a g

o e

f   G

o o

d s

  by

e   S

a   A c t ,

u   P

b l

i c

  , N

o .

  521 7

4 t

h   C

o n

g r

e 笏︶第一三条第

一項は︑次のように規定する︒﹁本法は︑対外貿易における合衆国の港への︑または合衆国の港からの海上物品運送に

( 3 3 )  

︵傍

点筆

者︶

︒﹂

この規定は︑ブラッセル条約第一

0

条よりもむしろ︑まず一八九三年のハーター法

( A

c t

o f

  C o

n g

r e

s s

 

0 0   93 , 

P u

b l

i c

 

N o

.   5

7)

を想起させる︒すなわち同法は︑海上運送人の責任に関して航海過失と商事過失を区別するなど︑

( 3 4 )  

ルールズの基礎を作ったのであるが︑その適用範囲に関しては︑

( 3 5 )  

である︒また更には︑当時の連邦最高裁判所判決も︑

一件は海上旅客運送契約に関してであるが︑それぞれ合衆国の往航・復航運送に

p u b l

i c p o

l i c y

のルールを適用し︑運

( 3 6 )

3 7 )

 

送人の免責約款を無効としている︒このようにしてみると︑

( 3 8 )  

といえるのである︒れに沿っている︑

( 3 9 )  

ヘーグ・ルールズを商法典の中に組み入れたのであるが︑

適用範囲だけを︑改正商法施行令

( D

V O

v .  

5.  1 2.  1 93 9,

R 

GB

I

, 

25 01 )

第二条によって︑次のように定めた︒﹁商法

第六六二条は︑以下の船荷証券には適用されない︒ 一件はハーター法制定以前の海上物品運送契約に関して︑もう

( 4 0 )  

その片面的強行規定性に関する第六六二条の

内においても⁝⁝︹ブラッセル条約の締結︺国内においても発行されたのでない船荷証券︵傍点筆者︶︒ もし条約が成立しなければ︑おそらく他の船主国は︑ヘーグ・ルールズを国内法化していなかったであろうし︑

三六

この

2 ‑ 2 ‑224 (香法'83)

(7)

国際海上物品運送法の統一と 国際私法の関係(奥田)

条 約 第 一

0 条は拡大されているのである︒ このような消極的適用範囲の定め方は︑商事代理に関する商法第九二 c 条にも見られるが︑施行令第二条の方は︑

( 4 2 )  

その第一項が二つの連結点を並列した形になっているので︑一段と不明瞭である︒しかしここでは︑以下の点だけを

指摘しておきたい︒まず第一号の後段がプラッセル条約第一〇条に基づいているのは︑明らかである︒これに対して︑

( 4 3 )  

前段の方は︑ドイツの国際私法判例に基づいていると考えられるのである︒それによると︑海上運送喫約の準拠法に

関して当事者の意思が不明である場合には︑目的港の法が契約の履行地法として適用されることとなっている︒した

がって︑商法第六六二条の適用範囲を︑

とするならば︑条約第一 0

条 は

証券﹁または﹂プラッセル条約の締結国内で発行された船荷証券に︑商法第六六二条が適用されると解するならば︑

第三節

統一的解釈

ドイツの復航船荷証券がプラッセル条約の締結国内で発行された場合に限る

ドイツの国際私法により制限されたことになる︒これに対して︑ドイツの復航船荷

以上のような状況を前にすると︑ブラッセル条約第一 0 条に何らかの存在意義を見出すのは︑非常に困難となる︒現

に英・米・独の国内立法を見た限りにおいても︑それらの適用範囲は︑ブラッセル条約第一 0 条を解釈した結果とは

( 4 5 )  

思えない程︑多様であった︒それでは︑これらの締約国は︑自国の立法の適用範囲規定と国際私法の一般原則︑とり

わけ当事者自治の原則との関係について︑どのような態度をとっているのであろうか︒

まずイギリスの判例では︑一九二四年法の適用を受けるべき往航船荷証券について︑当事者による他国法の選択が

問題となった事例は見当たらず︑むしろ︑このような船荷証券には︑当然に一九二四年法が適用されるべきであるか

( 4 1 )  

よるドイツの港間の運送に関する船荷証券︒﹂

三 七

2‑2 ‑225 (香法'83)

(8)

( 4 6 )  

のような表現が目立つ︒

( 4 7 )  

また一部の学説は︑明白にこのような法選択を無効としている︒

一九二四年法の適用についても︑契約のプロパー・ローがイギリス法であることを必要

( 4 8 )  

とし︑他国法の選択を無効としない見解もある︒このような見解によると︑イギリスからノルウェイヘの︑ノルウェ

イ船による運送について︑

意図が明白でない限り︑ ノルウェイ船主がノルウェイ法による旨の約款を船荷証券に入れたとすると︑法律回避の

( 4 9 )  

一九二四年法の適用の余地はない︑とされる︒

次に合衆国の判例においては︑全く当事者の意思にかかわりなく一九三六年法を適用しようとする傾向が明白に看

一九六七年の連邦控訴院判決は︑ノルウェイの裁判所を専属管轄とする約款を無効とするにあ

たり︑次のように述べている︒たとえ他国の裁判所がヘーグ・ルールズを適用するとしても︑合衆国の裁判所と同じ

ような訳にはいかないであろう︑一九三六年法の第三条第八項︵条約に同じ︶

( 5 0 )  

責任軽減をも禁じているのである︑と

一切認められないことになるであろう︶︒また一九七 0 年の連邦地裁判決は︑オーストラリアの一九二四年海上物品運

送法を適用する旨の至上約款の存在を確認しながらも︑本件運送が合衆国向けであることを理由として︑自国の一九

( 5 1 )  

三六年法を適用した︒

最後にドイツにおいては︑ 取できる︒たとえば︑

し か

し ︑

これに対しては︑

︵したがって︑合衆国の裁判所で一九三六年法が適用されるパターン以外は︑

ノイハウスが施行令第二条を︑隠れた祗触規定

( v e r

s t e c

k t e

K o

l l

i s

i o

n s

n o

r m

)  

している︒すなわち︑自国と一定の関係がない場合︑

にはある種の抵触規定が隠されていると考えられる︑ それ自体として強行的な規定が任意規定とされるならば︑

したがって︑逆に自国と所定の関係がある場合には︑当事者に

( 5 2 )  

よる法選択を排しても︑自国法が強行的に適用されなければならない︑と

しかし︑他の学説は︑ むしろ当事者の法選択をひとまず認めておいて︑ であると

そ こ

それから公序により法選択の範囲を制限し このように潜在的な

( p o t

e n t i

a l )

三 八

2 ‑ 2 ‑226 (香法'83)

(9)

国際海上物品運送法の統一と 国際私法の関係(奥田)

( 5 3 )  

ようとしている︒

結果

が︑

ドイツ法以外の法の選択は︑直ちに無効となるのではなく︑当該外国法を適用した

( 5 4 )  

ヘーグ・ルールズの片面的強行規定性に関する商法第六六二条に違反する場合に限り︑無効となるのである︒

もっとも︑ドイツの判例は公序による法選択の制限を︑次のように割と緩やかに解している︒すなわち︑①他の締

( 5 5 )  

約国のヘーグ・ルールズ立法がその本来の効力により適用される場合︑②他の締約国のヘーグ・ルールズ立法が至上

( 5 6 )  

約款

( P

a r

a m

o u

n t

C l a u

s e )

により実質法的に指定されている場合︑③たとえ非締約国の法が適用されるとしても︑運

( 5 7 )  

送人がヘーグ・ルールズによるよりも重い責任を負う場合︑以上の場合には︑ドイツ法以外の法の適用は︑その結果

( 5 8 )  

において商法第六六二条に反しないとされている︒

わが国の学説は大旨︑

序理論を採用し︑

という点に留意しなければならない︒しかも︑これらの立法の適用範囲は︑条約第一〇条が定めているよりも︑

( 6 0 )  

に非常に狭いのであるから︑締約国において発行された船荷証券にヘーグ・ルールズが適用されない︑というケース

確か

に︑

それによると︑

三九

ヘーグ・ルールズが適用さ

( 5 9 )  

ドイツの判例・学説に近いように思われる︒しかし仮に︑すべての締約国が以上のような公 それが一応満足な結果をもたらすとしても︑各国が自国の立法の適用を確保しているにすぎない︑

かの

V i

t a

F o

o d

事件では︑船荷証券発行地国がヘーグ・ルールズを国内法化していたけれども︑ブラッセ ル条約の締結国ではなかったので︑厳密な意味では︑条約第一〇条によりヘーグ・ルールズが適用されるべきケース

( 6 1 )  

ではなかった︒しかしこれに対して︑事案は︑締約国において発行された船荷証券に関するものでありながら︑船荷

れなかった︑ 証券中の至上約款と他の約款との間の祗触だけが問題とされ︑結局は契約の解釈により︑

というケースが英・米にそれぞれ一件ずつあった︒これらの判決は︑条約第一

0

条の存在を全く無視し

たのである︒ も十分に生じうるのである︒

一 般

2 ‑ 2 ‑227 (香法'83)

(10)

第一節

は︑ブラッセル条約の強行原則が第一

0

条所定の場合に︑国際公序

( i

n t

e r

n a

t i

o n

a l

e r

o r d r e   p u b l i c )   する︒したがって︑締約国の裁判所は︑他の締約国で発行された船荷証券を審理するにあたっても︑条約の強行原則

( 6 3 )  

と述べている︒を公序として尊重しなければならない︑

またカーン・フロイントは︑これを法廷地の

p u

b l

i c

p o

l i

c y

の問題であるとする︒すなわち︑法の統一を

p u

b l

i c

p o

l i

c y

  として認めているのである︒したがって︑仮にイスラエルとイタリアが両方とも自国の往航船荷証券にだけヘーグ・

ルールズを適用するとして︑

イスラエルからイタリアヘの運送について︑イタリア法または第三国の法が選択された

. . . .  

ならば︑イギリスの裁判所はこのような法選択を︑イギリスの

p u

b l

i c

p o

l i

c y

に反して無効である︑と判決すべきこと

( 6 4 )  

になる︒しかし︑

これに対しては︑法の統一を

p u

b l

i c

p o

l i

c y

ではなく︑政治的ポリシー

( 6 5 )  

いとするマンの反論がある︒

改正の経緯 万国海法会

( C o m i t M e ar it im e  I n t e r n a t i o n a l )

が最初にヘーグ・ルールズ適用の不統一を解決しようとしたときは︑

まず海上物品運送契約に関する国際私法規定の統一が考えられた︒そこで小委員会が設置され︑統一法条約の草案が

( 6 6 )  

幾つか作成されたのであった︒しかし︑

( 6 7 )  

うということになった︒

それ

では

この計画は後に取り止めとなり︑

むしろブラッセル条約第一〇条を改正しよ

第二章ブラッセル議定書による条約第一〇条の改正

( p o l i t i c a l   p

o l

i c

y )

にすぎな になっていると

このようなケースを防ぐためには︑どのような理論構成が可能なのであろうか︒まずフォン・ケメラー

四〇

2 ‑ 2 ‑228 (香法'83)

(11)

靡討謡喜弓醤扁『ーと

ヘーグ・ルールズを改正するための︑いわゆるウィスビィー・ルールズを採択したのである︒またこの

( 7 5 )  

ときには︑条約第一〇条の改正に関するリエカ草案も︑そのまま採択されている︒

一九六七年から一九六八年にかけてプラッセルで開催された外交会議では︑イギリス政府代表が強硬に

とこ

ろが

年次

総会

が︑

現に︑実質法統一の準備作業は直ちに着手され︑

そして︑本来は国際私法統一条約の草案を作成するはずであった同じ小委員会が︑予備草案を作成し︑これを元に

( 6 8 )  

して︑一九五九年にリエカで開催された万国海法会年次総会が︑次のような草案を採択したのである︒﹁本条約の規定

は︑当該船荷証券の準拠法いかんを問わず︑また船舶・運送人・荷送人・荷受人その他一切の利害関係人の国籍いか

んを問わず︑船荷証券上の船積港︑荷揚港または一の選択的荷揚港が締約国に位置する場合︑ある国から他の国へ物

( 6 9 )  

品運送に関するすべての船荷証券に適用あるものとする︒﹂

ヘーグ・ルールズの適用範囲をほとんど最大限にまで拡大した︒それはともかく︑ここでとりわけ注

( 7 0 )  

目したいのは︑﹁当該船荷証券の準拠法いかんを問わず﹂という文言である︒これは明らかに︑国際私法を排除している︒

これに対して︑﹁国籍いかんを問わず﹂という文言は︑少なくとも起草者の意図としては︑国際私法上の意味を持って

( 7 1 )

7 2 )

 

いない︒この文言は︑フランス代表の提案に基づいていた︒すなわちフランスでは︑他の大多数の締約国と異なり︑

直接︑プラッセル条約に国内法上の効力が与えられていたのであるが︑同国人間の契約にも条約の規定が適用される

( 7 3 )  

べきであるか否か︑長い間争われていた︒本草案は︑これに肯定の答えを与えたにすぎないのである︒

更に︑締約国間の国内法の不統一が意識的に無視されたことを︑付け加えておきたい︒これは︑国際私法の統一作

業を中止して︑プラッセル条約第一

0

条の改正に方針を変更したことからも明らかである︒その時点において︑実質

( 7 4 )  

法の完全な統一が予定されていたのである︒

この

草案

は︑

一九

六三

年に

は︑

ストックホルムにおいて開催された万国海法会

2‑2‑229 (香法'83)

(12)

とこ

ろが

ズと国際私法の関係は︑

前節で述べたように︑ブラッセル議定書もまた︑統一規則を﹁自国の立法に適する形で﹂国内法化してよいとした

のであるから︑完全な法統一ではなく︑法の調整しか達成できない可能性がある︒この場合︑

ヘーグ・ルールズのそれとさして変らないことになるであろう︒

ここに画期的な国内立法が登場した︒イギリスの一九七一年海上物品運送法

(T he C a r r i a g e

o f

 

  G o

o d

s  

第二節イギリスの一九七一年海上物品運送法

( 7 6 )  

リエカ草案に反対したため︑最終的には︑次のように大幅に適用範囲を縮めた議定書が︑採択されたのである︒﹁条約

第一〇条を削除し︑以下の規定に置き換えるものとする︒本条約の規定は︑以下の場合︑船舶・運送人・荷送人・荷

受人その他一切の利害関係人の国籍いかんを問わず︑二国港間の物品運送に関するすべての船荷証券に適用あるもの.

とする︒①船荷証券が締約国において発行された場合︑⑯運送が締約国の港からである場合︑またはい船荷証券に記 載・証明された契約が︑本条約のルールズもしくは同ルールズに効力を与えた国内立法に従う旨を︑みずから規定す る場合︒各締約国は︑本条約の規定を上記の船荷証券に適用しなければならない︒本条は︑締約国が本条約のルール

( 7 7 )  

ズを上記の各号に該当しない船荷証券に適用することを︑妨げるものではない︒﹂

このような改正は︑実質上改正になっていない︑とも言われているが︑とりわけ大きな痛手は︑﹁準拠法を問わず﹂

( 7 9 )  

という文言の削除である︒更には︑ブラッセル条約の署名議定書第二項と同様に︑ウィスビィー・ルールズを﹁自国 の立法に適する形で﹂国内法化できる旨の条項も︑別に設けられている︒したがって︑ブラッセル議定書の締約国間

でも︑国内法の不統一が新たに生じうるのであり︑

その意味において︑万国海法会が国際私法の統一からブラッセル

条約第一〇条の改正に方針を変更した際の前提は︑もはや存在していない︑ともいえるのである︒

ウィスビィー・ルール

2‑2‑230 (香法'83)

(13)

国際海上物品運送法の統一と 国際私法の関係(奥田)

ら︑たとえ﹁法の効力﹂が与えられていようとも︑

モリ

スは

by 

S e

a   A

c t

  1

97 1,

 c .  

19 ) 

ない

運送

モリスによると︑

ウィ

このような適用範囲規定は︑当事

である︒その付則

( S c h

e d u l

e )

第 一

0

条は︑次のように規定している︒﹁︹ウィスビィー︺

同ルールズに効力を与えた国内立法に従う旨を︑ ールズの規定は︑以下の場合︑船舶・運送人・荷送人・荷受人その他一切の利害関係人の国籍いかんを問わず︑二国港間の物品運送に関するすべての船荷証券に適用あるものとする︒①船荷証券が締約国において発行された場合︑⑮運送が締約国の港からである場合︑またはい船荷証券に記載・証明された契約が︑

( 8 1 )  

みずから規定する場合︒﹂

この規定は︑﹁条約﹂という文言を﹁ルールズ﹂に置き換えることにより︑プラッセル議定書において採択されたウ

( 8 2 )  

ィスビィー・ルールズの適用範囲規定を︑そのまま国内法化した︒これにより︑イギリスの裁判所は︑自国と関連の

たとえば他の締約国間の運送とか︑ウィスビィー・ルールズを指定した至上約款がある場合には︑非締約

国間の運送にも︑

者の法選択を許すのであろうか︑まず学説から見ていくことにしよう︒

一九七一年法第一条第二項に着目する︒そこでは︑同法により付則に取り入れられたウィスビィー・ル

ールズが︑﹁法の効力﹂

( f o r

c e

o f   l a w )

を有すると規定されている︒その意味するところは︑

され

ない

ウィスビィー・ルールズを適用すべきこととなった︒それでは︑

スビィー・ルールズが契約のプロパー・ローにかかわりなく︑適用範囲内とされているすべてのケースに適用される︑

( 8 4 )  

ということである︒したがって︑ウィスビィー・ルールズの適用を契約により排除すること

( c o n

t r a c

t i n g

o u t )

は許

と述べられている︒これに対しては︑﹁準拠法いかんを問わず﹂という明白な文言が欠けているのであるか

限り︑適用されない︑

一九

七一

年法

は︑

( 8 6 )  

というジャクソンの反論もある︒しかし︑

イギリス法が契約のプロパー・ローとならない

一九八二年一月一三日の控訴院判決は︑結果的にモ

( 8 7 )  

リスの見解を支持することにより︑この対立に結着をつけたのである︒この

H o

l l

a n

d i

a 号判決は重要であるので︑少

︹ウ

ィス

ビィ

t

︺ルールズもしくは

Jレ 2‑2 ‑231 (香法'83)

(14)

請求したのである︒ し詳しく紹介しておきたい︒

一九七八年三月︑スコットランドのリース港において︑原告は︑

オランダ領西インド諸島のボーネア港向けの貨物

︵道路舗装作業用の機械︶を︑被告所有のオランダ船に積み込んだ︒被告により交付された船荷証券の約款第二条には︑

ヘーグ・ルールズを国内法化したオランダ法が本契約に適用されること︑最高責任額を貨物一個につき一︑二五

0

︵約

二五

0

ポル

ド︶

とすること︑本契約から生じた争いについては︑

( 8 8 )  

ること︑以上が記載されていた︒

本件貨物はその後︑

揚げの際に落下して︑

ポンドとなる︒ ルダー

オランダの港でノルウェイ船に積み換えられ︑

アムステルダムの裁判所を専属管轄とす そのままボーネア港に到着したのであるが︑陸

それにより重大な損傷を被った︒そこで原告は︑損害額を約二二︑

000

ポンドと算定し︑

九八

0

年二月二六日︑イギリスの港に停泊中であった被告所有船舶︑

H o l l

a n d i

a

号を差し押さえ︵後に差押は解除され

た︶︑同時に︑本件貨物の取り扱いならびに陸揚げにおける契約違反およびネグリジュンスを理由として︑損害賠償を

ところが被告は︑上記約款第二条がオランダ法を準拠法としていること︑ならびにアムステルダムの裁判所を専属 管轄としていることを理由として︑訴訟の中止

( s t a

o f y

  a c t

i o n )

を申し立てた︒これに対して原告は︑イギリスの一

九七一年海上物品運送法にもとづいて︑約款第二条の無効を主張したのであるが︑

( 8 9 )  

の中止を命じた︒これに対する控訴審が本件である︒なお︑

責任額は約二五

0

ポンドであるが︑

それにもかかわらず︑原審は訴訟

ヘーグ・ルールズにもとづくオランダ法によると︑最高

ウィスビィー・ルールズにもとづくイギリス法によると︑

それは約︱‑︑

000

本件においては︑直接的には︑イギリスの裁判管轄権が争われたのであるが︑主たる問題点は︑イギリスの一九七

四四

2 ‑ 2‑232 (香法'83)

(15)

醤贋諄翡喜翡盟―と

なっているが︑すべての問題点を網羅していると思われるのは︑デニングである︒同判事は︑事件の概要・法統一の 歴史・一九二四年法の下での判例に触れた後︑まず一九七一年法の第一条第二項を取り上げた︒すなわち︑そこでは ウィスビィー・ルールズに﹁法の効力﹂が与えられているが︑その意味するところは︑ウィスビィー・ルールズが船 荷証券の他の文言に優先する

( p a r a m o u n t )

︑ということである︒したがって︑

により排除することは許されない︑と︒これは明らかに︑

次に︑同法付則第一

0

条も挙げられている︒すなわち︑﹁船舶・運送人・荷送人・荷受人その他一切の利害関係人の

国籍いかんを問わず﹂という文言は︑当該船荷証券と最も密接かつ現実の関係

( t h e c l o s e s t   a n d   m o s t   r e a l   c o n n e c t i o n )  

という意味であるとする︒もっとも︑を持つ国の法や旗国法を問わない︑要するに契約のプロパー・ローを問わない︑

このような解釈がプラッセル議定書の起草者の意図と異なることは︑前節において述べたところから明らかである︒

第三点としてデニングが挙げるのは︑同法付則第三条第八項である︒それはウィスビィー・ルールズの片面的強行

規定性を定めているのであるが︑もしアムステルダムの裁判所に訴訟が係属したならば︑

くオランダ法が適用される結果︑運送人の責任は︑ウィスビィー・ルールズが定めているよりも低く押さえられる︑

したがって︑アムステルダムの裁判所を専属管轄とする条項は無効である︑と︒また同判事は︑その論理的帰結とし て︑オランダ法を準拠法とする条項および最高責任額を一︑二五

0

ギルダーとする条項︑要するに約款第二条全体を

さてデニング︑ ることにより︑

アク

ナ︑

用されるであろう︑

モリスの見解を支持している︒

一年海上物品運送法の方にあった︒それは︑もしアムステルダムの裁判所に訴訟が係属したならば︑オランダ法が適

( 9 0 )  

という本件の裁判官全員の予測からも分かる︒すなわち︑アムステルダムの専属裁判管轄を認め

一九七一年法の適用が回避される︑という結果が問題なのである︒

四五

ヘーグ・ルールズにもとづ ショーといった本件の裁判官は︑原告の控訴を認容するにあり︑さまざまの理由づけを行

ウィスビィー・ルールズの適用を契約

2‑2‑233 (香法'83)

(16)

リスの往航船荷証券に関するものであり︑

( 9 7 )  

ある

ここで本件の事案に注目しておかなければならない︒本件はイギ

その意味では︑

問題は︑他の締約国からイギリスヘの運送および他の締約国間の運送︑更には

る至上約款が記載されている場合には︶非締約国間の運送についても︑イギリスの裁判所が同じ態度をとるかである︒

というのは︑付則第一

0

条によると︑

このような運送も一九七一年法の適用を受けることになっているからである︒

そしてモリスは︑これらの場合にも︑イギリスの裁判所が他国の立法を無視し︑

として適用するであろう︑と述べている︒しかし︑この問題については︑今後の判例の展開を待つしかないであろう︒ として︑評価されることになるであろう︒しかし︑ 以上のような理由づけからみると︑本件判決はむしろ︑

︵ウィスビィー・ルールズを指定す

( 9 3 )  

無効としているのである︒このように第三条第八項にもとづいて裁判管轄約款や準拠法約款を無効とするのは︑合衆 国の一九三六年法に関する連邦控訴院判決を想起させるが︑イギリスの裁判所による本件判決が︑他国の裁判所によ

( 9 4 )  

る自国の立法の適用までも﹁潜在的な﹂責任軽減と解する趣旨かどうかは︑明らかでない︒

最後にデニングは︑

かの

p u b l i c p o l i c y

を持ち出している︒すなわち︑国際取引においては︑すべての海上運送貨物

が権利および責任に関する統一規則に従うべきである︑という

p u b l i c p o l i c y

は︑契約の自由に関する

p u b l i c p o l i c y

りも優位に立つ︑というのである︒そしてその理由としては︑非常に多くの利害関係人ー│ー買主と売主︑銀行と保険

会社︑船荷証券の被裏書人と積荷の受取人││'がいて︑誰もが個々の船荷証券の細かな印刷文字など読むことなしに︑

何がルールであるかを知るべきだからである︑と述べられている︒これは︑すでに一九二四年法の時代にカーン・フ

( 9 6 )  

ロイントが主張していたように︑法の統一を

p u b l i c p o l i c y

として承認したことになるであろう︒

一九二四年法の下でも同じ結論が導かれていた可能性が

一九

七一

年法

を制

定法

(s

ta

tu

te

l a

w )

 

一九七一年法による当事者自治の原則の排除を認めたもの

四六

2 ‑ 2 ‑234 (香法'83)

(17)

国際海上物品運送法の統一と 国際私法の関係(奥田)

第三章

リエカ草案の広大な適用範囲規定は︑その後ハンブルク条約第二条として︑次のようにほとんどそのまま蘇生した︒

﹁一本条約の規定は︑以下の場合︑すべての二国間海上運送哭約に適用あるものとする︒国海上運送契約に規定された

船積港が締約国に位置する場合︑⑮海上運送契約に規定された荷揚港が締約国に位置する場合︑い海上運送契約に規

定された一の選択的荷揚港が現実の荷揚港であり︑

券その他の書面が︑締約国において交付される場合︑

本条約の規定もしくは同規定に効力を与えた国内立法にしたがう旨を︑みずから定める場合︒二本条約の規定は︑船

( 9 9 )  

舶・運送人・現実の運送人・荷送人・荷受人その他一切の利害関係人の国籍いかんを問わず︑適用あるものとする︒﹂

このようにリエカ草案がほとんどそのまま受け継がれたにもかかわらず︑﹁準拠法いかんを問わず﹂という文言だけ

( 1 0 0 )  

は復活しなかった︒しかし今度はさすがに︑ハンブルク・ルールズを﹁自国の立法に適する形で﹂国内法化するよう

( 1 0 1 )  

なことは︑認められなかったので︑少なくとも成文法の相違は︑ハンブルク条約の締結国間において解消するはずで

ある︒それならば︑このような適用範囲規定は国際私法を排除しうるのであろうか︒

ズが適用されない︑ かつ締約国に位置する場合︑⑮海上運送契約の証明となる船荷証

または団海上運送契約の証明となる船荷証券その他の書面が︑

ハンプルク条約成立後間もないためもあり︑

大学の教授︑ジャクソンは︑

四七

ほとんど書かれたものを見ない︒ただサザンプトン

リエカ草案にあった﹁準拠法いかんを問わず﹂という文言が復活しなかった点を強調し

て︑たとえ条約第二条に該当するケースであっても︑契約の準拠法いかんによっては︑必ずしもハンプルク・ルール

( 1 0 2 )  

と述べている︒しかし前述のように︑ジャクソンはイギリスの一九七一年法についても同様の見

これに関しては︑

ハンブルク条約第二条

2 ‑ 2 ‑235 (香法'83)

(18)

ヘーグ・ルールズの目的にそぐわないといえよう︒ 解を主張していながら︑控訴院の同意を得ることができなかった︒その点で︑根拠が弱くなったとみるべきであろう︒

英米の

p u b l i c p o l i c y はともかくとして︑これまでドイツや日本において︑少なくともヘーグ・ルールズについて言 われてきたのは︑国際私法上の公序であった︒それによると︑国際私法は排除されない︑しかし︑指定された外国法

ヘーグ・ルールズに反する場合には︑国際私法上の公序により︑当該外国法の適用が排除される

ヘーグ・ルールズによるよりも︑運送人が軽い責任しか負わ

これに対しては︑二つの疑問がある︒まず第一に︑このような公序理論によっては︑

成できないのではないか︑

ということである︒確かに︑個々の免責約款の不当性にだけ着目するのであれば︑このよ うな免責約款を有効とする外国法を︑具体的な事件毎に排斥するだけで︑荷主は十分に保護されるかもしれない︒し かし現実には︑

H o l l a n d i

a 号判決も述べているように︑複雑な船荷証券の裏面約款など読むことなしに︑当事者の権

( 1 0 5 )  

利・義務が分かること︑すなわち法律関係の明白性こそが切実に要請されていたのである︒それゆえ公序理論は︑国

際私法により指定された外国法の調査を強いる点で︑

次に理論的にみても︑なぜ当該外国法の適用が排除され︑代わりにヘーグ・ルールズが適用されるのか︑そのプロ

( 0 6 )  

セスが明らかとなっていない確かに︑

れて

いる

が︑

それ

なら

ば︑

ないか否かを︑ そして具体的には︑

ヘーグ・ルールズの強行原則が国際公序になっているとか一応の説明はなさ むしろ当該外国法を適用した結果など調べることなしに︑常に外国法の適用を排除した方

こと

にな

る︒

当該外国法によると︑

( 1 0 3 )  

個々別々に調べなければならない︒ を適用した結果が︑

第四章国際私法学の発展からみた考察

ヘーグ・ルールズの目的を達

四八

2‑2‑236 (香法'83)

(19)

国際海上物品運送法の統一と 国際私法の関係(奥田)

が︑論理一貫すると思われる︒また当該外国法の代わりにヘーグ・ルールズを適用するにしても︑

国際私法の一般原則との関係が︑公序理論では明らかにされていない︒

そこでヘーグ・ルールズについてはもとより︑

四九 その適用の根拠や

ウィスビィー・ルールズやハンプルク・ルールズについても︑公序 とは全く異なった構成が考えられなければならない︒まず図ーは︑溜池教授が国際私法の観点から︑私法秩序の構造

法文の内容が一致しているのみでは不十分であり︑ を示されたものである︒そこでは統一実質私法は︑国際私法を経ることなく︑国内的私法関係および渉外的私法関係

( 1 0 8 )  

に直接適用されることになる︒しかしながら︑溜池教授によると︑﹁それが統一法といいうるためには︑単に形式的に

その解釈についても一致していることを要する﹂のであるから

本稿にいわゆる国際海上物品運送法統一規則はいずれも︑﹁統一法﹂とは言いえないことになる︒というのは︑ヘーグ・

ルールズやウィスビィー・ルールズについては︑単に形式的にも締約国間において法文の内容が一致しないこと︑前

述の通りであるし︑

ハンブルク・ルールズにしても︑締約国共通の裁判所が設けられるわけではないため︑解釈の不

一致が当然に予想されるからである︒

もっとも他方︑上記の統一規則をいずれも﹁渉外的私法関係に直接適用される実質私法﹂と解する余地はある︒こ

の場合︑国際私法は︑本来﹁国内的私法関係のみをその適用範囲とする法規が︑渉外的私法関係に適用されるために﹂

法的根拠を与えるものであるから︑﹁もともと渉外的私法関係を直接規律すべき内容をもつ法規︵傍点筆者︶﹂は︑国

( 1 1 2 )  

際私法の仲介を必要としない︑という認識が前提となっている︒しかしこれに対しては︑たとえ当該法規が︑渉外的 私琺関係を直接規律すべき内容を持っていたとしても︑そのことから直ちに適用の根拠を導くことはできないと思わ れる︒すなわち︑適用のプロセスが明らかでない︑という点では︑前述の公序理論に対するのと同じ疑問がここでも

( 1 1 4 )  

当てはまるのである︒

2‑2‑237 (香法'83)

(20)

I

私 法

実質私法 国 際 私 法

国 内 的 私 法 関 係 渉 外 的 私 法 関 係

A……本来国内的私法関係にのみ適用される実質私法 B……統一実質私法

C……渉外的私法関係に直接適用される実質私法 D……外国実質私法

溜池良夫「国際私法の概念について」法学論叢70 253頁より

五 〇

2 ‑ 2‑238 (香法'83)

(21)

国際海上物品運送法の統一と 国際私法の関係(奥田)

最後に図

I I I は ︑

( 1 1 5 )  

次に図

I I は︑妖場教授の手になるものである︒そこでは国際海上物品運送法統一規則は︑﹁固有法源たる渉外実質法﹂

( M

凡︶に該当すると思われる︒というのは︑同教授の最近の見解によると︑﹁当初より渉外的な生活関係・法律問題

に適用されることを目的として︑制定せられた実質規定の集合体﹂の中には︑国際的合意にもとづくものも含まれる

( 1 1 6 )  

からである︒したがって渉外実質法の一要素である国際海上物品運送法統一規則も︑適用規範

( K

凡 ︶ を 必 要 と す る

そこで

K

R の内容であるが︑これについては﹁内国

M

法規の解釈により﹂決めるとか︑﹁内国 R

M

R がその本来の政策

的妥当範囲を越えてみだりに適用されてはならない﹂というように︑抽象的にしか述べられていない︒したがって妖

場説は︑固有法源たる渉外実質法

( M R .

︶について適用規範

( K R )

の存在を指摘した点では︑大きな前進であった

が︑その適用規範の内容について疑問が残る︒

シューリッヒが要素祗触規定の集束

( B l i

n d e l

u n g

v o

n   E

l e

m e

n t

‑ K

o l

l i

s i

o n

s n

o r

m e

n )

を示したもので

ある︒そこに挙げられている例によると︑

︵ ポ

ー ラ

ン ド

人 ︑

ペ イ ン 人 等 々

あ り

ス ペ イ ン 人 等 々 ︶

である場合に適用されるものとする﹂という規定と︑﹁中国人︵ポーランド人︑

は︑中国︵ポーランド︑ まず﹁中国︵ポーランド︑

ス ペ イ ン 等 々

の相続法は︑被相続人が中国人

スペイン等々︶の相続法により相続される﹂という規定とは︑実質上同じで

( 1 2 0 )  

︱つの祗触規定を両面からみたにすぎない︒すなわち︑前者は法規の側からみたのであり︑後者は私法関係の

側からみたのである︒そして︑このように二つの側面をもった要素祗触規定を集めることにより︑﹁相続の開始は︑被

( 1 2 1 )  

相続人の本国法により決定される﹂という︱つの双方的祇触規定ができあがる︒シューリッヒによると︑これは﹁水

平 的 集 束

( h o r

i z o n

t a l e

B O . n

d e l u

n g )

と呼ばれる︒これに対して﹁垂直的集束﹂

( v e r

t i k a

l e B O

. n d e

l u n g

)

とは︑相続

開始︑相続人の範囲︑相続順位︑相続財産の範囲等々の法律問題を一括して︑相続の準拠法

( E r b

s t a t

u t )

によらせる

( 1 2 )

1 2 3 )

 

ことを指す︒これは︑わが国でいうところの﹁相続の準拠法の適用範囲﹂に該当するであろう︒そして︑水平的集束

2 ‑ 2 ‑239 (香法'83)

(22)

II

KR1  KR2  KR3  KR4 

MR1  MR2  MR3 

, r ,

9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 ,  

MR4 

固有法源 借用法源 固有法源 借用法源

←は適用規範による法源性付与関係をぷす。

妹 場 準 一 「抵触法と外人法との関係再考」 一 橋 論 叢52 152頁より

III

,,Chinesisches (polnisches,  spanisches ...)  Erbrecht ist  anzuwenden,  wenn der Erblasser Chinese (Pole,  Spanier ...)  war." 

,,Erbfalle sind  nach dem Heimatrecht des Erblassers zu beurteile1." 

K. Schurig, Kollisionsnorm und Sachrecht (1981), S. 92より

2 ‑ 2 ‑240 (香法'83)

(23)

国際海上物品運送法の統一と 国際私法の関係(奥田)

れる規定ができあがるのである︒ と垂直的集束が同時に行なわれて初めて︑﹁相続は被相続人の本国法による﹂︵法例第二五条︶

というように通常みら

以上のように︑法規の側からみた祇触規定と私法関係の側からみた祗触規定とが単に表現の相違にすぎないという 点は︑すでにわが国においても指摘されている︒ところが︑シューリッヒの説明と異なり︑それが双方的祗触規定と 要素祇触規定との間の流動性に結びつけられていなかったのである︒たとえば﹁要素祇触規定﹂などは︑わが国では

( 1 2 6 )  

﹁一方的祇触規定﹂と呼ばれ︑特別の理由がない限り︑双方的抵触規定に変形すべきこととされていながら︑その逆の

( 1 2 7 )  

場合︑すなわち双方的祇触規定を要素祇触規定に分解して考察することは︑予想されていなかったように思われる︒

( 1 2 8 )  

その結果︑国際私法上の公序による外国法の排除は︑例外とされたり︑また当事自治の原則に対する強行法規の介入

( 1 2 9 )  

は︑あるいは公法の属地的適用とか︑あるいは特別連結とか呼ばれて︑これまた例外視されてきたのである︒しかし

シューリッヒによれば︑これらのいわゆる例外的現象も︑方法論的には国際私法の一般規定と異ならない︑すなわち

( 1 3 0 )  

特別の連結点を使った特別の抵触規定にすぎないことになる︒これの証明こそが図

I I I

の意図であった︒

それでは本稿の対象である統一規則の適用範囲規定もまた︑特別の祗触規定といえるのであろうか︒シューリッヒ

( 1 3 1 )  

によれば︑少なくともその可能性が認められる︒そこで挙げられている例によると︑﹁統一売買法は︑売買契約の当事

( 1 3 2 )  

者が相異なる締約国に営業所所在地を有する場合に︑適用される﹂という規定は︱つの連結点により二通りの機能を

果すものである︒すなわち①祇触法的には︑他の法秩序に属する法規に対立した︑法廷地法の構成部分として︑②実

( 1 3 )  

質法的には︑同一法秩序内の他の一般的法規群に対立した︑一定の国際的事実関係に関する特別法として︑統一売買

( 1 3 4 )  

法を指定しているのである︒したがって︑この場合には︑国際私法そのものが排除されるのではなく︑国際私法の一

( 1 3 5 )  

般規定が排除されるのである︒

2 ‑ 2 ‑241 (香法'83)

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