博 士 ( 医 学 ) 小 林 徹
学位論文題名
The Role of Mitochondrial Permeability Transition in brain ischemia
脳虚血におけるMitochondrial permeability transition の役割に関する研究
学位論文内容の要旨
mitochondrial permeability transition(MPT)は細胞侵襲に伴うmitochondria内のカルシウム イ オ ン の 増加 や 、 酸 化ス ト レ ス によ り 引 き 起こ さ れ る現象 である。MPTによ りmitochondria に 存 在 す るmegaporeが 開 放 さ れ る と 膜 電 位の 低 下 やmitochondriaの 呼吸 の 脱 共 役が 引 き 起 こ さ れ 、 細 胞の ェ ネ ル ギー 供 給 が 滞る 。 最 近 の研 究 で は 、MPTに よ りmitochondriaか ら cytochromeC,apoptosis inducing factor(AIF)が放出される。これらの物質がcaspase familyに 属 す るproteaseを 順 次活 性 化 し 、最 終 的 に 細胞 死 を 引 き起 こ す こ とが わ か ってき た。こ の よ う にMPTは 細 胞 死 を 担 う ひ と つ の 経 路 を 形 成 し て お り 、 脳 虚 血 に お ける 一 部 の 細胞 死 においてもMPTの関与が明らかになりつっある。
こ れ ら の こ と か ら 本 研 究 で はMPTの 種 々 の 条 件 下 す な わ ち カ ル シ ウム イ オ ン 、pH、 温 度 、free radicalに よ る 動態 を吸光 光度計 を用い て検討し た。ま た肝臓 、心臓 の実験 におい てMPTの 抑 制 効 果 が 明 ら か と な っ て い るcyclosporinAと 、 同 じ く 免 疫 抑 制 効 果 を 持 つ FK506のMPTに 及 ぽ す 効 果 を 検 討 し た 。 さ ら にcyclosporinAに 関 し て は 腹 腔 内 大 量 投 与 に よる海 馬CA1領域 の遅発 性神経 細胞死 の抑制 効果に ついてgerbil forebrain ischemia model を用いて検討した。
MPTを 観察 す る た めラ ッ ト前 脳からfree mitochondriaを 単離し た。単 離したmitochondria のqualityを 検 討 する た め 、 透過 型 電 子 頭徴 鏡 に よ る観察 と呼吸活 性の測 定を行 った。 電子 頭 徴 鏡 に よる 観 察 で は一 部 シ ナ プト ゾ ー ム に包 ま れ たmitochondriaが 存 在し たもの の、ほ と んどがfree mitochondriaだ った。 呼吸活 性はrespiratory control ratio(RCR)を計算しRCR が10以 上 の も の を 実 験 に 用 い た 。 カ ル シ ウ ム 負 荷 に よ るMPTの 誘 導 実験 で は カ ルシ ウ ム の 最 終 濃 度 が10 ht,M以上 でMPTが 観察 さ れ た 。10一100 htMま では カ ル シ ウム 濃 度 依 存性 の 変 化 を 示し た 。100 pr,M以上で は濃度 依存性 の変化 は認め られな かった 。このた め100 yM カ ル シ ウ ム に よ るMPTの 誘 導 能 をpH, 反応 温 度 を 変え て 検 討 した 。 カ ル シウ ム に よ るMPT はpH7.4‑6.2で はpHが 低 い ほ ど 抑 制 さ れ 、pH7.4‑8.2で はpHが 高 い ほど 抑 制 さ れた 。 温 度 に よ る 検 討 で は20℃ に お け るMPTの 誘 導 は28℃ に 比 べ て 抑 制 さ れ 、37℃ に おい て は28℃ よ り も 促 進 さ れた 。Free radicalのMPT誘 導 能の 検 討 で は、 肝 臓 、 心臓 で 認 め られ る よ う な誘導効果はt‑butyl hydroperoxide,xanthine/xanthine oxidaseのいずれのfree radical産生系に ―461―
おいても認められなかった。また本実験では肝臓、心臓由来のmitochondriaとことなり、
mitochondriaをreaction buffer内にいれた直後から吸光度の緩やかな減少が認められ、
mitochondriaの緩 徐な膨 化がMPTのinducerを加える以前からすでに始まっていることが わかっ た。こ れらのこ とから 脳由来のmitochondriaは肝臓 、心臓由来のものとMPTの誘 導機序に違いがあることが示唆された。CyclosporinAに関しては100 ht,Mカルシウムの負荷 に よるMPTの誘導 を0.1‑10 }iMの濃 度で抑制 した。CyclosporinAによりMPTが 抑制され るのを確認した後、mitochondria膜にporeを形成するalamethicinを添加するとmitochondria の膨張 が確認 されたこ とから 、cyclosporinAはMPTにより 開放されるmegaporeを特異的 に 阻 害 す る こ と が 確 認 さ れ た 。 FK506で はMPTの 抑 制 は 認 め ら れ な か っ た 。 CyclosporinAの細胞保護効果はrat focal ischemia model,insulin‑induced hypoglycemic coma
model等 で検討されているが、効果に関しては各モデル間にばらっきがある。このモデル
間のばらっきについては、投与方法、投与量のほか細胞障害機序の違いのためと考えられ た。CyctosporinA10mg/kgを腹腔内投与する場合、あらかじめ注射針により脳を穿刺し、blood brain barrierを障 害して おいたほ うが効果 的であ るという 報告や 、insulin‑induced hypoglycemic coma modelでは20 mg/kgよりも50 mg/kgの投与量のほうが強い細胞保護効 果を示したとする報告があり、今回の実験ではgerbil transient forebrain ischemia modelを用 い、cyclosporinA50 mg/kgを虚血 前1回 、再灌 流後1回の計2回投与することにより検討 した。体重60ー70gの雄性gerbilを4群に分けそれぞれcontrol群(n 6)、CsA群(cyclosporin A50 mg/kgを虚血前30分及び虚血再灌流後24時間の計2回腹腔内に投与)、Vehicle群(CsA の基質であるpolyoxy ethylene castor oilを虚血前30分及び虚血再灌流後24時間の計2回腹 腔内に 投与)、non‑treated群に分けた。虚血再灌流7日後に灌流固定し、海馬CA1の神経 細胞数 をカウントした。Control群では229.7土19.9個/mm(mean土SD)、CsA群では109.9土 72.4個/mm vehicle群で は4.8土4個/mm.2、nonーtreated群では7.0土5.9個/mmでありCsA 群とvehicle、non‑treated群では有意に細胞保護効果が認められた。この結果から、一過性 前脳虚血では、cyclosporinAの腹腔内への大量投与のみで遅発性神経細胞死を抑制できる ことが 確認された。また遅発性神経細胞死にMPTが深く関与していることが示唆された。
FK506との比較 において はfocal ischemia modelではcyclosporinAの効果はFK506と同 等以下の効果しか示さないものの、transient forebrain ischemia model、insulin‑induced hypoglycemic coma modelでは強い細胞保護効果が認められることが報告されている。FK506 がMPT抑制 効果を 示さない ことを 考慮する と、MPTと細胞 障害の程 度が必 ずしも相 関し ないと 考えられ、MPTの細胞障害における重要性が細胞侵襲違いにより異なることが示唆 される。
これら のこと からMPTを抑制 すること により 、脳虚血 における神経細胞死を防止でき る こ と が 推 測 さ れ 、 脳 虚 血 性 疾 患 の 治 療 へ の 応 用 が 可 能 で あ る と 考 え ら れ る 。
‑ 462−