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脳虚血におけるMitochondrial permeability transition      の役割に関する研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 小 林    徹

     学位論文題名

The Role of Mitochondrial Permeability Transition     in brain ischemia

脳虚血におけるMitochondrial permeability transition      の役割に関する研究

学位論文内容の要旨

  mitochondrial permeability transition(MPT)は細胞侵襲に伴うmitochondria内のカルシウム イ オ ン の 増加 や 、 酸 化ス ト レ ス によ り 引 き 起こ さ れ る現象 である。MPTによ りmitochondria に 存 在 す るmegaporeが 開 放 さ れ る と 膜 電 位の 低 下 やmitochondriaの 呼吸 の 脱 共 役が 引 き 起 こ さ れ 、 細 胞の ェ ネ ル ギー 供 給 が 滞る 。 最 近 の研 究 で は 、MPTに よ りmitochondriaか ら cytochromeC,apoptosis inducing factor(AIF)が放出される。これらの物質がcaspase familyに 属 す るproteaseを 順 次活 性 化 し 、最 終 的 に 細胞 死 を 引 き起 こ す こ とが わ か ってき た。こ の よ う にMPTは 細 胞 死 を 担 う ひ と つ の 経 路 を 形 成 し て お り 、 脳 虚 血 に お ける 一 部 の 細胞 死 においてもMPTの関与が明らかになりつっある。

  こ れ ら の こ と か ら 本 研 究 で はMPTの 種 々 の 条 件 下 す な わ ち カ ル シ ウム イ オ ン 、pH、 温 度 、free radicalに よ る 動態 を吸光 光度計 を用い て検討し た。ま た肝臓 、心臓 の実験 におい てMPTの 抑 制 効 果 が 明 ら か と な っ て い るcyclosporinAと 、 同 じ く 免 疫 抑 制 効 果 を 持 つ FK506のMPTに 及 ぽ す 効 果 を 検 討 し た 。 さ ら にcyclosporinAに 関 し て は 腹 腔 内 大 量 投 与 に よる海 馬CA1領域 の遅発 性神経 細胞死 の抑制 効果に ついてgerbil forebrain ischemia model を用いて検討した。

  MPTを 観察 す る た めラ ッ ト前 脳からfree mitochondriaを 単離し た。単 離したmitochondria のqualityを 検 討 する た め 、 透過 型 電 子 頭徴 鏡 に よ る観察 と呼吸活 性の測 定を行 った。 電子 頭 徴 鏡 に よる 観 察 で は一 部 シ ナ プト ゾ ー ム に包 ま れ たmitochondriaが 存 在し たもの の、ほ と んどがfree mitochondriaだ った。 呼吸活 性はrespiratory control ratio(RCR)を計算しRCR が10以 上 の も の を 実 験 に 用 い た 。 カ ル シ ウ ム 負 荷 に よ るMPTの 誘 導 実験 で は カ ルシ ウ ム の 最 終 濃 度 が10 ht,M以上 でMPTが 観察 さ れ た 。10一100 htMま では カ ル シ ウム 濃 度 依 存性 の 変 化 を 示し た 。100 pr,M以上で は濃度 依存性 の変化 は認め られな かった 。このた め100 yM カ ル シ ウ ム に よ るMPTの 誘 導 能 をpH, 反応 温 度 を 変え て 検 討 した 。 カ ル シウ ム に よ るMPT はpH7.4‑6.2で はpHが 低 い ほ ど 抑 制 さ れ 、pH7.4‑8.2で はpHが 高 い ほど 抑 制 さ れた 。 温 度 に よ る 検 討 で は20℃ に お け るMPTの 誘 導 は28℃ に 比 べ て 抑 制 さ れ 、37℃ に おい て は28℃ よ り も 促 進 さ れた 。Free radicalのMPT誘 導 能の 検 討 で は、 肝 臓 、 心臓 で 認 め られ る よ う な誘導効果はt‑butyl hydroperoxide,xanthine/xanthine oxidaseのいずれのfree radical産生系に     ―461―

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おいても認められなかった。また本実験では肝臓、心臓由来のmitochondriaとことなり、

mitochondriaをreaction buffer内にいれた直後から吸光度の緩やかな減少が認められ、

mitochondriaの緩 徐な膨 化がMPTのinducerを加える以前からすでに始まっていることが わかっ た。こ れらのこ とから 脳由来のmitochondriaは肝臓 、心臓由来のものとMPTの誘 導機序に違いがあることが示唆された。CyclosporinAに関しては100 ht,Mカルシウムの負荷 に よるMPTの誘導 を0.1‑10 }iMの濃 度で抑制 した。CyclosporinAによりMPTが 抑制され るのを確認した後、mitochondria膜にporeを形成するalamethicinを添加するとmitochondria の膨張 が確認 されたこ とから 、cyclosporinAはMPTにより 開放されるmegaporeを特異的 に 阻 害 す る こ と が 確 認 さ れ た 。 FK506で はMPTの 抑 制 は 認 め ら れ な か っ た 。 CyclosporinAの細胞保護効果はrat focal ischemia model,insulin‑induced hypoglycemic coma

model等 で検討されているが、効果に関しては各モデル間にばらっきがある。このモデル

間のばらっきについては、投与方法、投与量のほか細胞障害機序の違いのためと考えられ た。CyctosporinA10mg/kgを腹腔内投与する場合、あらかじめ注射針により脳を穿刺し、blood brain barrierを障 害して おいたほ うが効果 的であ るという 報告や 、insulin‑induced hypoglycemic coma modelでは20 mg/kgよりも50 mg/kgの投与量のほうが強い細胞保護効 果を示したとする報告があり、今回の実験ではgerbil transient forebrain ischemia modelを用 い、cyclosporinA50 mg/kgを虚血 前1回 、再灌 流後1回の計2回投与することにより検討 した。体重60ー70gの雄性gerbilを4群に分けそれぞれcontrol群(n 6)、CsA群(cyclosporin A50 mg/kgを虚血前30分及び虚血再灌流後24時間の計2回腹腔内に投与)、Vehicle群(CsA の基質であるpolyoxy ethylene castor oilを虚血前30分及び虚血再灌流後24時間の計2回腹 腔内に 投与)、non‑treated群に分けた。虚血再灌流7日後に灌流固定し、海馬CA1の神経 細胞数 をカウントした。Control群では229.7土19.9個/mm(mean土SD)、CsA群では109.9土 72.4個/mm vehicle群で は4.8土4個/mm.2、nonーtreated群では7.0土5.9個/mmでありCsA 群とvehicle、non‑treated群では有意に細胞保護効果が認められた。この結果から、一過性 前脳虚血では、cyclosporinAの腹腔内への大量投与のみで遅発性神経細胞死を抑制できる ことが 確認された。また遅発性神経細胞死にMPTが深く関与していることが示唆された。

  FK506との比較 において はfocal ischemia modelではcyclosporinAの効果はFK506と同 等以下の効果しか示さないものの、transient forebrain ischemia model、insulin‑induced hypoglycemic coma modelでは強い細胞保護効果が認められることが報告されている。FK506 がMPT抑制 効果を 示さない ことを 考慮する と、MPTと細胞 障害の程 度が必 ずしも相 関し ないと 考えられ、MPTの細胞障害における重要性が細胞侵襲違いにより異なることが示唆 される。

  これら のこと からMPTを抑制 すること により 、脳虚血 における神経細胞死を防止でき る こ と が 推 測 さ れ 、 脳 虚 血 性 疾 患 の 治 療 へ の 応 用 が 可 能 で あ る と 考 え ら れ る 。

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

The Role of Mitochondrial Permeability Transition     in brain ischemia

脳虚血におけるMitochondrial permeability transition      の役割に関する研究

   近年 脳虚 血においても一部の神経細胞死にアポトーシスの関与が指摘されており、この 機序にmitochondrial permeability transition(MPT) の関与が示唆されている。MPT は侵襲刺 激 によ り、 ミトコンドリア膜の透過性が亢進し、ミトコンドリアの膨化が生じる現象であ り、この現象によルミトコンドリアからcytochromc ,apoptoslsmducingfactor が放出される。

こ の結 果caSpaSefarnjly の活性化が引き起こされ、細胞死に至るとされている。本研究で は 脳 由 来 の ミ ト コン ドリ アにお ける MPT の種 々の 条件 下にお ける 動態 の検 討を 行っ た。

ま た cyclosporinA は MPT の 抑制 効果 をも っと され るが 、この 効果 を脳 由来 のミ トコ ンド リ アで 検討 し、さ らに 一過 性前 脳虚 血モ デルを用いて海馬CAl 領域に限局した遅発性神経 細胞死に対する効果を検討した。

  Mitochondnalpermeabilitytransition の検討はラット前脳から遠′い分離法にてミトコンド リ アを 単離 し、カルシウムイオン、フリ―ラジカルを加えた場合の吸光度変化を経時的に 測 定し た。 またcyclosporinA の ―過 性前 脳虚血モデルにおける効果の検討はcontr01 群、

cyclosporinA 投与群、vehicle 群、non ―treated 群の4 群において虚血作成30 分前と再濯流24 時 間 後に cyclosporinA も しく はvehicle を 投与し、虚血再濯流7 日後の海馬CAl 領域の残存神 経 細 胞 数 を 計 測 し た 。 そ の 後 統 計 処 理 を 行 い 各 群 間 で の 比 較 を 行 っ た 。    脳由 来の ミトコンドリアはアシドーシス、アルカローシス、低温によりカルシウムイオ ン 負荷 によ るMPT は抑 制さ れた 。ま たcyc10sporinA によりカルシウムイオンにより誘導さ れるMPT が強く抑制された。

  xanmine /xanmineoxidaSe 及びf ‐bu ぢlhydropero ぬde のフリーラジカル産生系を添加しても脳 由 来 の ミ ト コ ン ドリ アで はMPT は誘 導で きな かっ た。 さらに 吸光 度計 測時 、基 線の 吸光 度 が持 続的 に減少する現象が認められた。これらのことは肝臓、心臓由来のミトコンドリ ア の挙 動と は異なっており、脳由来のミトコンドリアの特異性が示唆された。また、一過

   

   

部 嶋

阿 長

授 授

教 教

査 査

主 副

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性前脳虚血モデルにおける検討では、cyclosporinA 群はvehicle 群、 non‑treated 群と比較し て統計学的に有意な神経細胞保護効果を示した(p く0 .1 )。このことから一過性前脳虚血に お ける 海 馬CA1 領 域 の遅 発 性神 経 細 胞死 に MPT が 深 く 関与 し て いる こ とが 示 唆 された。

   今 回 の結 果 か ら脳 虚 血お け る 神経 細 胞 死の 機 序のひ とつとし てMPT が関与 しており 、 こ れ を 抑 制 す る こ と で 神 経 細 胞 死 の 制 御 が 可 能 に な る と 考 え ら れ た 。    公開発 表において 長嶋和郎 教授よル ミトコン ドリアの臓器特異性について、遅発性神経 細 胞 死 の 機 序 に つ い て な ど の 質 問 が あ っ た 、 次 い で 劔 物 修 教 授 よ り mitochodrial permeability transition とapoptosis の関係について、cyclosporinA はどのようなタイプの脳 虚 血 に 有 効 か な ど の 質 問 が あ っ た 。 次 に 阿 部 弘 教 授 よ り 軽 度低 体 温で mitochodrial permeability transition の抑制は期待できるのかという質問があった。最後に、菅野盛夫教 授より 前脳虚血モ デルにお ける海馬 の血流に ついて、 cyclosporinA とFK506 の効果の違い につい ての質問が あった。 いずれの 質問に対 しても、申請者らは自らの研究に基づく経験 や 過 去 の 論 文 の 内 容 を 引 用 し 、 豊 富 な 知 識 に 基 づ い て 明 解 に 解 答 し た 。    この論文は脳由来のミトコンドリアにおけるmitochondrial permeability transition の動態 を明らかにし、脳虚血におけるmitochondrial permeability transition の重要性を明らかにし た点が 高く評価さ れ、今後 の脳虚血 による細 胞死の制御に応用できるものと期待される。

審査員 一同はこれ らの成果 を高く評 価し、大 学院課程における研鑚や単位取得なども併せ

申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。

参照

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