博 士 ( 歯 学 ) 田 村 学 位 論 文 題 名
耐摩耗性を有する表面窒化チタンインプラントの 特性と生体適合性
学位論文内容の要旨
豊 聾
−Eえ
【緒言】
デンタルインブラントは様々な構成要素によって成り立っているが,インブラン トアバヅトメント部(粘膜貫通部)は口腔内に露出する部位であルプラークや歯石 が付着しやすく,それらの除去はインブラントの長期間にわたる良好な予後を得る ための必要不可欠な要件である.したがってアバヅトメント部は耐摩耗性が要求さ れる部位であるが,現在インプラント材料としてもっともよく使用されているチタ ンは,表面の硬さが低く,耐摩耗性に劣る問題点がある.生体適合性を有し,かつ 耐摩耗性を有する材料の開発が望まれる.
本研究では純チタンに比ベ表面の硬さが高く,化学的に安定な窒化チタンに着目し,
表面性状,ビッカース硬さ,マルテンス弓Iっかき試験機およぴ超音波スケーラーに よる耐摩耗性試験などの物性評価を行い,また,試料の表面に形成した窒化膜の同 定 ,耐食性 ,試料表 面のぬれ 性,S.mutans付着性などの表面特性およびラヅト腹 部皮下,大腿骨骨髄腔内における基礎的な生体適合性を評価し,さらに臨床におけ る デンタル インプラ ントと同 様な口腔 粘膜を貫通した状態においての口腔粘膜お よび骨に対する生体適合性の評価を行い,表面窒化処理したチタンのインプラント 特 に ア バ ヅ ト メ ン ト 用 材 料 と し て の 可 能 性 を 総 合 的 に 検 討 し た .
【材料および方法】
棒 状 (1 x7mm)の99.9% チ タン お よ ぴ板 状 (10 x10x0.5mm)のJIS1種チ タ ン を耐水紙 で#2000まで ,板状試 料の一部 について はさらに6岬 のダイヤモンド 研磨液を用いて研磨し試料とした.また,ラヅト抜歯窩インプラント試験用として,
1.7¢x 3rnmの純チタン製スクリューを用意した.清浄表面を得るためにこれらを 0.1%フツ化水素酸溶液に10秒間浸漬し,蒸留水,エタノール,アセトンでそれそ れ15分間 超 音 波洗 浄し た.窒化 処理を850℃ 窒素雰囲 気中で7時 間行い, 表面窒 化チタン試料とした.
チ タンおよ ぴ窒化チ タン試料 の表面性 状の確認 のため,原 子間力顕 微鏡(AFM) に て試料表 面を観察し,窒化層の確認のため試料表面の薄膜X線回折を行い,窒化 チ タン試料 の断面を 走査型電 子顕微鏡 (SEM)にて観察した.っぎに試料の表面粗 さ をAFMを用い 走査範囲50x50vIn,走査速 度51uun/minの条件下で測定し,中心線
平均 粗さ(Ra)を求めた.また,微小硬度計を用いてビッカース硬さを測定した.
耐摩耗性を評価するために,マルテンス引っかき試験機で引っかき試験を,また 歯科用超音波スケーラーで摩耗試験を行い,その痕跡をデジタルマイクロスコープ と表面粗さ形状測定機にて評価した.
耐食性を評価するために擬似体液と1%乳酸を用い,チタンの溶出試験を行った.
試料 表面 のぬれ性を評価するために,滴下法による接触角の測定を行い,また,
S.mutans付着量を比較するためにぷ.mutans付着試験を行い,試料の表面特性を評 価した.
っ ぎに 生体適合性を評価するために,棒状試料をラット腹部皮下およぴ大腿骨 骨髄 腔内 に4,8週間埋入し,摩耗粉の為害性を評価するために,微粒子試料をラ ット腹部皮下に1,4,8週間埋入し,さらにデンタルインブラント挿入時の評価の ため に, スクリュー試料をラット抜歯窩に1,4週間埋入し,光学顕微鏡による組 織観察を行った.さらに大腿骨骨髄腔内埋入試験では,試料表面に形成された新生 骨を定量的に評価するために組織計量を行い,新生骨面積比率と骨接触率を求めた・
【結果およぴ考察】
窒 化 チ タ ン 試 料 のX線 回 折 か らTiNとTi2Nが 同 定 され ,SEMから2ym前 後の 窒 化層が観察され,試料表面の窒化が確認された.Ra測定ではチタンのO.04tnnに対 し, 窒化 チタンでは0.08Wnと表面粗さが大きかった.また,ピヅカ―ス硬さは約 1300であり,チタンの約10倍の硬さであった.
マルテンス引っかき試験そは,痕跡深さは荷重1000gに対しチタンでは約23Fun, 窒化チタンでは約9Wnと小さく,窒化層は母材のチタンと強固に固着して形成され ていることが示唆された.また超音波スケーラーによる磨耗性試験において,窒化 チタ ンは チタンと比較し極めて高い耐磨耗性を有し,臨床使用時に想定される50 g程度の荷重では表面の摩耗痕は認められなかったことから,臨床使用条件下では ステンレス製チッブを使用しても材料表面に損傷はほぼ起こさないと予測された・
耐食性試験では,擬似体液中においてはチタン,窒化チタンともに10,30日後の チタン溶出量はO.3ng/mmz程度でバックグラウンドレベルであり,擬似体液中での 溶出 量はICPの検出限界程度であった.また,1%乳酸中における両試料のチタン 溶出 量は ,10日後で約30ng/mmz,30日後で約50ng/mm2であり有意差は認められな かった.
蒸 留水 を滴下して求めた接触角は約60°とチタンと窒化チタンの間に有意差は 認め られ ず, 試料 表面 のぬ れ性 は同 程度 であ った. また ,24,48,72時間後の ぷ.mutans付着量は,両試料ともに約0.17,0.23,0,28であり有意差が認められな かった.
生体適合性試験では,腹部皮下における組織反応は,棒状試料では菲薄な線維性 結合組織で被包化されており埋入部位周囲に強い炎症反応は認められなかった.微 粒子試料では,試料周囲に炎症性細胞浸潤を伴う肉芽組織が認められ,炎症性細胞 による微粒子の貪食像が観察された.微粒子の分布領域は経時的に縮小傾向であり,
高密度の集団にまとまりつっあるのが観察された.また,骨髄腔内においては4週
で は試 料表 面に 約30yun,8週で は約50Fnnの 新生 骨が 確 認さ れた .両 試料 の新 生骨 面 積 比率 は4週で 約22%,8週で 約42%, また 骨接 触率 は4週 で約49%,8週で約67%であ っ た . 上 記 , 皮 下 , 棒 状 , 微 粒子 ,骨 髄腔 内埋 入試 験 いず れに おい ても ,各 埋入 期 間 にお ける 両試 料の 結果 を比 較す ると ,炎 症反 応の 程 度お よび新生骨形成はチタン,
窒 化 チ タ ン の 間 に 有 意 差 は 認 めら れな かっ た. また , ラヅ ト抜 歯窩 イン ブラ ント 試 験 では ,口腔粘膜上皮の組織反応は,1,4週ともにチタン ,窒化チタン両試料とも強い 炎 症反 応は 観察 され なか った .ま たイ ンプ ラン ト先 端 部の 新生骨の形成状態は,埋入 後8週ではインプラント先端から埋入長さの3分の2付近まで,インプラント体表面に新生、
骨 が形 成され接触している部位が観察され,新生骨の量お よび接触の割合はともに埋入 後1週に比べ著しい増加の傾向を示した.
生 体 適 合 性 は , 軟 組 織 に お ける 組織 反応 およ び硬 組 織に おけ る骨 の形 成状 態に お い て , 窒 化 チ タ ン は チ タ ン と 同等 の結 果で あっ たこ と から ,窒 化チ タン の生 体適 合 性は十分に優れていること が示唆された.
以 上 か ら , 表 面 窒 化 チ タ ン は ,チ タン と比 較し 極め て 高い 耐摩 耗性 を有 し, 生体 適 合 性 に も 優 れ て い る こ と か ら ,イ ンブ ラン ト特 にア バ ヅト メン ト用 材料 とし て有 望 であることが示唆された.
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
耐摩耗性を有する表面窒化チタンインプラントの 特性と生体適合性
審 査 は , 亘 理 , 戸 塚 お よ び 川 崎 審 査 委 員 が 出 席 の も と に , 論 文 提 出 者 に 対 し 提 出 論 文 の 内 容 と そ れ に 関 連 す る 学 科 目 に っ い て 口 頭 試 問 に よ っ て 行 わ れ た ー 以 下 に , 提 出 論 文 の 要 旨 と 審 査 の 内 容 を 述 べ る .
論 文 提 出 者 は 、 表 面 窒 化 処 理 し た チ タ ン の イ ン プ ラ ン ト 特 に ア バ ッ ト メ ン ト 用 材 料 と し て の 可 能 性 を 総 合 的 に 検 討 す る こ と を 目 的 と し て 、 窒 化 チ タ ン の 物 性 評 価 、 表 面 特 性 お よ び 生 体 適 合 性 を 評 価 し た , :
表 面 性 状 確 認 の た め 原 子 間 力 顕 微 鏡(AFM)に て 試 料 表 面 を 観 察 し , 窒 化 層 の 確 認 の た め 試 料 表 面 の 薄 膜X線 回 折 を 行 い , 窒 化 チ タ ン 試 料 の 断 面 を 走 査 型 電 子 顕 微 鏡(SEM)に て 観 察 し た . っ ぎ に 試 料 の 表 面 粗 さ をAFMを 用 い 走 査 範 囲sox50ym, 走 査 速 度 5ym/minの 条 件 下 で 測 定 し , 中 心 線 平 均 粗 さ(Ra)を 求 め た . ま た , 微 小 硬 度 計 を 用 い て ビ ッ カ ー ス 硬 さ を 測 定 し た . 耐 摩 耗 性 を 評 価 す る た め に , マ ル テ ン ス 引 っ か き 試 験 機 で 引 っ か き 試 験 を , ま た 歯 科 用 超 音 波 ス ケ ー ラ ー で 摩 耗 試 験 を 行 い , そ の 痕 跡 を デ ジ タ ル マ イ ク 口 ス コ ー プ と 表 面 粗 さ 形 状 測 定 機 に て 評 価 し た .
耐 食 性 を 評 価 す る た め に 擬 似 体 液 と1% 乳 酸 を 用 い , チ タ ン イ オ ン の 溶 出 試 験 を 行 っ た . 試 料 表 面 の ぬ れ 性 を 評 価 す る た め に , 滴 下 法 に よ る 接 触 角 の 測 定 を 行 い , ま た ,S.mutans付 着 量 を 比 較 す る た め にS.mutans付 着 試 験 を 行 い , 試 料 の 表 面 特 性 を 評 価 し た .
っ ぎ に 生 体 適 合 性 を 評 価 す る た め に , 棒 状 試 料 を ラ ッ ト 腹 部 皮 下 お よ び 大 腿 骨 骨 髄 腔 内 に4,8週 間 埋 入 し , 摩 耗 粉 の 為 害 性 を 評 価 す る た め に , 微 粒 子 試 料 を ラ ッ ト 腹 部 皮 下 に1,4,8週 間 埋 入 し , 光 学 顕 微 鏡 に よ る 組 織観 察 を 行っ た . さ ら に 大 腿 骨 骨 髄 腔 内 埋 入 試 験 で は , 試 料 表 面 に 形 成 さ れ た 新 生 骨 を 定 量 的 に 評 価 す る た め に 組 織 計 量 を 行 い , 新 生 骨 面 積 比 率 と 骨 接 触 率 を 求 め た , 以 上 の 方 法 に よ り 得 ら れ た 結 果 お よ び 結 論 は 以 下 の 通 り で あ る .
生
夫
則
貴
文
靖
崎
理
塚
川
亘
戸
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
窒 化 チ タ ン 試 料 のX線 回 折 か らTiNとTi。Nが 同 定 さ れ ,SEMか ら21im前 後 の 窒 化 層 が 観 察 さ れ , 試 料 表 面 の 窒 化 が 確認 さ れ た . Ra測 定 では チタ ンの 0.04Umに 対 し , 窒 化 チ タ ン で は0.08ymと 表面 粗さ が大 きか った ,ま た, ビツ カ → ス 硬 さ は 約 1300で あ り , チ タ ン の 約 10倍 の 硬 さ で あ っ た , マル テン ス引 っか き試 験では ,痕 跡深 さお よび 痕跡幅はチタンと比較し窒化 チ タン では 小さ く, 窒化 層は母 材の チタ ンと 強固 に固着して形成されているこ と が示 唆さ れた .ま た超 音波ス ケー ラー によ る磨 耗性試験において,窒化チタ ン はチ タン と比 較し 極めて高い耐磨耗性を有し,臨床使用時に想定される50 g‑
程 度の 荷重 では 表面 の摩 耗痕は 認め られ なか った ことから,臨床使用条件下で は ステ ンレ ス製 チッ プを 使用し ても 材料 表面 に損 傷はほぼ起こさないと予測さ れた,
耐食 性試 験で は, 擬似 体液中 にお いて はチ タン ,窒化チタンともに10,30日 後 の チタ ン溶 出量 は0.3ng/mm2程 度で バッ クグ ラウ ンド レベ ルで あり ,擬 似体 液 中で の溶 出量 はICPの検 出限 界程 度で あっ た. また,1%乳酸中における両試 料 のチ タン 溶出 量は ,10日後で 約30ng/mm2,30日 後で約50ng/mm2であり有意差 は認められなかった.
蒸留 水を 滴下 して 求め た接触 角は 約60°と チタ ンと窒化チタンの間に有意差 は認められず,試料表面のぬれ性は同程度であった.また,24,48,72時間後の S.mutans付着量は,両試料ともに約0.17,0.23,O,28であり有意差が認められな かった.
生体適合性試験では,腹部皮下における組織反応は,棒状試料では菲薄な線維性 結合組織で被包化されており埋入部位周囲に強い炎症反応は認められなかった.微 粒子試料では,試料周囲に炎症性細胞浸潤を伴う肉芽組織が認められ,炎症性細胞 による微粒子の貪食像が観察された.微粒子の分布領域は経時的に縮小傾向であり,
高密度の集団にまとまりつっあるのが観察された.また,骨髄腔内においては4週では 試料表面に約30ym,8週では約50ymの新生骨が確認された.両試料の新生骨面積比 率は4週で約22%,8週で約42%,また骨接触率は4週で約49%,8週で約67%であった.
上記,皮下,棒状,微粒子,骨髄腔内埋入試験いずれにおいても′,各埋入期間にお ける両試料の結果を比較すると,炎症反応の程度および新生骨形成はチタン,窒化 チタンの問に有意差は認められなかった.
生体適合性は,軟組織における組織反応および硬組織における骨の形成状態にお いて,窒化チタンはチタンと同等の結果であったことから,窒化チタンの生体適合性は 十分に優れていることが示唆された.
これ らの 結果 から ,表 面窒化 チタ ンは ,チ タン と比較し極めて高い耐摩耗性 を 有し ,生 体適 合性 にも 優れて いる こと から ,イ ンプラント特にアバットメン ト用材料として有望であることが示唆された。
次いで,本論文提出者に対して本論文の内容に関連のある質問が行われたが,
こ れら の質 問に 対し てそ れぞれ 適切 な回 答が 得ら れた,また,本研究は,表面 窒化チタンのインプラン卜特にアノくットメン卜用材料としての可能性を総合的
に検討した研究であり,臨床応用の観点から興味深い成果を得ている.さらに,
本論文提出者は,臨床応用を想定し,歯槽骨内から骨外に貫通し口腔内に露出 するインブラントに近い状況下での生体適合性試験を進めており,将来の展望 も評価された.本論文は,インプラント材料を主たる研究課題とするものであ ったが,ニれらの領域の学識も十分であるとともに、将来の研究方向について の展望も,研究の発展を期待できるものであった.以上のことから,論文提出 者の学識は,博士(歯学)に値するものと判断し,主査ならびに副査は論文提 出者を合格と判定した.
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