は じ め に
近年,MALTリンパ腫を始めとする肺リンパ増殖性 疾患は,CTなどの画像診断の普及とその解析能力の 向上,加えて疾患概念の浸透に伴い,報告例が増加し ている.今回,多発結節影を呈した結節性リンパ組織 過形成(nodularlymphoidhyperplasia:NLH)の1例 を経験したので報告する. 症 例 症 例:65歳,女性. 主 訴:胸痛. 既往歴:高血圧で内服加療中,31歳時扁桃摘出,58 歳時ラクナ梗塞. 喫煙歴:2本/日×12年. 飲酒歴:ビール350 ml/日. 粉塵曝露歴:なし. 家族歴:特記すべきことなし. 現病歴:2006年7月,近医で胸部異常陰影を指摘さ れ,当院呼吸器科に紹介となった.胸部 CTで数 mm 大の両側多発結節影を指摘され諸検査施行したが,確 定診断には至らず経過観察となった.2007年2月,胸 部 CT上結節影の増大を認めたため,悪性腫瘍を疑い, PET-CT検査を施行したが,集積像はなかった.その 後,結節影に変化はなかったが悪性病変を否定できず, 2007年10月,確定診断目的に当科紹介となった. 入院時現症:身長154.7 cm,体重65.3 kg,意識清 明.体温36.1℃,脈拍61回/分・整,血圧134/78 mm Hg,胸部聴診上異常所見はなく,その他身体所見に異 常を認めなかった. 検査所見(Table1):明らかな異常値はなく,腫瘍 マーカーも正常範囲内であった.抗核抗体が160倍で あったが,リウマチ因子,抗 SS-A抗体は陰性であった. 喀痰培養検査で抗酸菌,真菌とも陰性,ツ反検査は陽 性であった.Ca9.8 mg/dl,ACE10.4 IU/lと正常範 囲内,抗 TBGL抗体,クリプトコッカス抗体はともに 症 例
多発結節影を呈した結節性リンパ
組織過形成(NLH)の1例
吉川 拓磨
*1*2,神崎 正人
*1*2,小原 徹也
*1,大貫 恭正
*2 要 旨 症例は65歳女性.近医で胸部異常陰影指摘され,当院呼吸器内科を受診した.胸部 CT上両側に数 mm大の多発結 節影を認めた.身体所見,血液検査所見に異常なく,喀痰培養検査,ツ反検査等から結核,真菌症,サルコイドーシ スは否定的であった.PET検査でも,集積はなかったが,増大傾向を認めたため,確定診断をつけるため胸腔鏡下肺 部分切除術を施行した.病理検査では,結節性リンパ組織過形成(NHL)と診断された.NLHは MALTリンパ腫と 鑑別すべき疾患の1つであり,今後報告例はさらに増加すると思われる.NLHの中でも多発結節を呈する症例はいま だ報告例が少なく,病態,予後,治療方針に関し不明な点が多いことから,今後の症例の蓄積が必要と思われる. 索引用語:結節性リンパ組織過形成,肺リンパ増殖性疾患,多発結節陰影,胸腔鏡下手術nodularlymphoidhyperplasia(NLH),lymphoproliferativedisorder,multiplenodularlesions video-assistedthoracoscopicsurgery(VATS)
*1都立府中病院 胸部外科 *2東京女子医科大学 第1外科 原稿受付 2008年4月3日 原稿採択 2008年8月28日
陰性であった. 胸部 X線所見(Fig.1):両肺野に多数の粒状陰影を 認めた. 胸部 CT所見(Fig.2):やや右側優位の両肺野に小 結節陰影を多数認めた.結節の大きさは多くは数 mm 大で,最大径は12 mmであった.辺縁は比較的明瞭 で,石灰化は認めなかった. PET-CT所見(Fig.3):FDGの集積を認めず,中 葉に存在する最大径の腫瘤の SUVmaxは1.23だった. 以上より結核,真菌症,サルコイドーシスは否定的 であり,確定診断のために胸腔鏡下肺生検を施行する 方針とした. 手術および術中所見:術前に右中葉の腫瘤に対し CT下にマーキングを行い,全身麻酔,分離肺換気下に 手術を行った.3ヵ所にポートを挿入し,内腔を観察 すると,肺の分葉は良好で,癒着はなく,胸水貯留も 認めなかった.表面からは腫瘤を確認できず,マーキ ングの糸を目標とし自動縫合器で中葉部分切除を行っ た.腫瘍を触知するとやや弾性軟であった. 摘出標本(Fig.4):割面では境界明瞭な白色結節を 多数認め,最大のものは長径8 mmであった. 病理組織所見(Fig.5):細気管支中心性に胚中心を 伴うリンパ濾胞の増生を認めた.免疫染色では胚中心 付近に抗汎 B細胞抗体である CD20(L26),CD79aが 陽性,濾胞辺縁には抗汎 T細胞抗体である CD3, CD45RO(UCHL-1)が陽性であり,ポリクローナル なパターンを示していた.形質細胞も混在していたが, 著明な浸潤像は目立たず,MALTを疑う細胞の異型や リンパ上皮性病変(lymphoepitheliallesion)は認めな かった.病変周囲の肺胞は虚脱し,内腔に泡沫細胞が 多数認められ,閉塞性肺炎を呈していた.以上より, MALTリンパ腫は否定的で結節性リンパ組織過形成と 診断した. 術後経過:術後経過は良好で,術後2日目にドレー ン抜去し,術後5日目に退院した.後療法は行わず, 外来経過観察中である. 考 察 肺では,結節状あるいはびまん性にリンパ球系細胞 が浸潤増生し,組織学的に反応性病変か腫瘍性病変か の鑑別が困難なものをリンパ増殖性疾患と呼んできた.
結節性リンパ組織過形成(nodularlymphoi dhyper-plasia:NLH)は,胚中心を伴ったリンパ濾胞形成の 目立つ豊富なリンパ組織の増生から成る限局性反応性 病変で,肺の気管支血管束沿いに分布する節外性のリ ン パ 網 で あ る mucosa-associated lymphoid tissue (MALT)1)の結節性過形成病変とみなされている2,3).
また,NLHは以前 Saltzstein4)により提唱された偽リン
Table1 LaboratoryData Hematology&Biochemistry
nl 428×104 RBC /nl 4700 WBC % 40.9 Ht g/dl 13.3 Hb g/dl 4.3 Alb g/dl 8.1 TP U/l 16 ALT U/l 23 AST mg/dl 0.4 T-Bil U/l 188 LD mg/dl 0.7 Cre mg/dl 22.9 BUN mEq/l 4.7 K mEq/l 141 Na mg/dl 0.1 CRP mg/dl 9.8 Ca IU/l 10.4 ACE Immunology 497 sIL-2ReAb CryptcoccusAb(-) 1.8 TBGLAb
Rheumatoidfactor<×40 ×160
ANA
antiSS-AAb(-) Tumormakers /ml 24.1 SLX ng/ml 2.0 CEA U/ml 7.6 CA125 ng/ml 0.9 SCC ng/ml 4.1 AFP
Antiacidbacteria
TbDNAPCR(-)MACDNAPCR(-)
Fig.1 Chestradiographshowedmultiplenodular shadowsinbothlungfields.
パ腫(pseudolymphoma)と同意語と認識されていた. しかし,免疫組織化学的および分子生物学的検索法の 発達により,現在では偽リンパ腫のうちポリクローナ ルな反応性病変を結節性リンパ組織過形成(NLH),モ ノクローナルな病変は腫瘍性病変として肺 MALTリ ンパ腫と認識されている5). NLHは稀な疾患であり,Abdondanzoら6)の報告に よると,やや女性に多く,中高年に発生する.多くの 症例は無症状で,胸部 X線で孤立性結節陰影を示すも のが多いが,稀に多結節性のものも認められるとされ ている. 肉眼的には,胸膜下の肺組織内に境界明瞭な2~4 cm大の灰白色ないし黄褐色調の結節が単発ないしは 多発性にみられるとされ,組織学的には,既存の気管 支,肺構造を置換して胚中心を有する多数のリンパ濾 胞形成を伴い,成熟したリンパ球,形質細胞が結節性 に増殖し,病変の中心部に密な膠原線維からなる線維 痕跡が認められる.MALTリンパ腫に特徴的なリンパ 球の気管支上皮浸潤である lymphoepitheliallesionの 像はみられないとされている.免疫組織化学的には, 浸潤するリンパ球は T細胞と B細胞が混在して反応性 の性格を呈し,また免疫グロブリン L鎖では明らかな バンドはみられず,数本のバンドを認めるポリクロー ナルのパターンを示すとされている.遺伝子解析では 免疫グロブリン H鎖の再構成バンドを示さないとさ れている.所属リンパ節の腫大をみる場合があるが, 組織学的には benignfollicularhyperplasiaの像を示す. 少量の好中球や好酸球を含むことや病変周囲に器質化 Fig.2 ChestCTscanrevealedmultiplenodulesinbothlungfields.
肺炎を伴うこともあるとされている6,7). 鑑別診断には MALTリンパ腫,リンパ球間質性肺炎 (LIP),濾胞性気管支炎・細気管支炎(FB),炎症性 偽腫瘍などがある.MALTリンパ腫とは組織学的所見 が類似しているので,組織学的鑑別が困難な場合には 免疫組織化学的および遺伝子学的検索が必要となると されている. 今回の症例では浸潤したリンパ球は免疫染色で T細 胞,B細胞が混在したポリクローナルなパターンを示 し て お り,MALTに 特 徴 的 な リ ン パ 上 皮 性 病 変 (lymphoepitheliallesion)も 認 め な い こ と か ら, MALTリンパ腫は否定的と判断し,遺伝子解析による 免疫グロブリン軽鎖制限や遺伝子可変領域の再構成の 確認は行わず,NLHと診断した. いくつかの報告では,NLHの多くは術前未確診のま ま,外科的生検ではじめて確定診断が得られている. 単発例に関しては外科的切除のみで,その後再発の報 告はない8).本症例のように多発例の場合,術後も多 くの結節が残存することや経過中増大傾向を認めた経 緯などから慎重な観察を要すると思われる.ただ,い まだ報告例が少なく,長期経過観察された例もないこ とから,適切な治療方針を決定するためにもさらなる 今後の症例の蓄積が必要と思われた. 結 語 NLHは MALTリンパ腫と鑑別すべきリンパ増殖性 疾患の1つであり,画像診断の普及と解析能力の向上 に伴い,報告例はさらに増加すると思われる. NLH,特に多発結節を呈する症例はいまだ報告例が Fig.4 Specimen obtained bythoracoscopiclung
biopsy(from rightS4).Thereweremany white nodulesin the cutsurface ofthe specimen.
Fig.3 PET-CTshowednoFDGaccumulation.
Fig.5 Histologicalfindingsofthe thoracoscopic lung biopsy specimen (H.E.staining) showingnumeroushypertrophiclymphoid follicles and prominentbenign lymphoid aggregates.
少なく,病態,予後,治療方針に関し不明な点が多い ことから,今後の症例の蓄積が必要と思われる.
文 献
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Acaseofmultiplenodularlymphoidhyperplasia(NLH)
TakumaKikkawa,MasatoKanzaki,TetsuyaObara,TakamasaOonukiThoracicSurgery,TokyoMetropolitanFuchuHospital
Wereportararecaseofmultiplenodularlymphoidhyperplasia(NLH).A65-year-oldfemalewhohadhypertension wasadmittedtoourhospitalbecauseofabnormalshadowsonchestX-ray.Chestcomputedtomography(CT)scan revealedmultiplenodulesinbothlungfields.Thephysicalfindingsandlaboratorydatawerealmostallwithinnormal limits,andweconsideredthepatienttobenegativefortuberculosis,mycosis,andsarcoidosis.Wesuspectedprimary lung cancerormetastatic lung tumors.PET-CT showed no FDG accumulation.Biopsy by video-assisted thoracoscopicsurgery(VATS)yieldedadiagnosisofmultiplenodularlymphoidhyperplasia(NLH).MultipleNLHis rareandnon-elucidatedentity,anddifficulttodifferentiateitfrom MALTlymphoma.Furtherinvestigationwith accumulatedcaseswillberequired.