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乱数の原器としての円周率

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乱数の原器としての円周率

三好和憲

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はじめに

真の乱数,すなわちあらゆるパターンが等しい確率で かつ独立に出現し得るような無限数列を得ることが可能 であろうか.人間がこれを自ら生成すること,たとえば サイコロを完全に均等に作りまた均等な配位で同等の条 件で(すなわち重力ポテンシャルなどを全く同じにして) 振ることなどは原理的に不可能である. 自分で作り出さなくても世の中に真に確率的な現象が 存在するならば,これを目に見える形に取り出すことを 考えればよい.放射性物質の崩療やツェナーダイオード の熱雑音を利用する物理乱数はこの思想にしたがったも のである.しかし仮に現象そのものが確率的であったと してもこれを取り出す電気回路への環境の影響を完全に 排除することは難しく,得られた出力が本当に確率的で あるかどうかはわからない. 物理法則とならんで宇宙の創世者から与えられたもの として数がある.無理数の無限小数による表現では数字 が循環しな L 、から O. 10011000111000011110000011111000000111111... _..."--t--''''--r-'~'''--v--''一一一一

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2 コ 3 コ 4 :z 5:z 6 コ のような意図的に構成したものでな L 、かぎり数字の列の 中にはあらゆるパターンが等しい確率で出現するものと 期待できる. 数を(たとえば、12 と)特定し基数を(たとえば通常 用いている 10 と)指定すれば数字の列は(現実に計算で 表 1 は.f2の値の小数部分における各数字の出現頻度 を 10進 3000万桁までの範囲でまとめたものである .χ2 値 は 3.19 (1 000万桁まで)を除けばすべて 5%から 95% の 範囲に分布しており乱数的であるといってよい.しかし 基数を 10以外の任意の数に選んでも同じことが L 、える保 証はない. 、12を正則違分数で表現すると,

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とすべての部分商が 2 である. 、/すにかぎらず 2 次の無 理数はすべて正則違分数の部分商が循環することが知ら れており,はっきりした規則性をもっている.連分数表 現における規則性と数値表現における数字分布との関係 は不明であるが,明白な規則性をもっ数の方が数値表現 の『かき混ぜ方』が不足していると言えそうである. 、/互のような単純な無理数よりも高尚な数として思い 浮かぶのは超越数である.世界初の電子計算機 ENIAC によって 1949年円周率 π と自然対数の底 e の値がそれぞ れ 2, 000桁以上計算されたのも {Reitwiesner'50} 超越 数の乱数性に着目した J.von Neumann の示唆による ものであった.ところで同じ超越数でも自然対数の底は 正則連分数で表わすと e =[2 : 1 , 2, 1 , 1 , 4, 1 , 1 ,.・ .2n , I , I , 2{n+1} , I , 1 …] とごく単純な規則性を示している.これに対して円周率 の方は きるかは別として)直ちに無限の先まで確定するわけで, と全く不規則である. 司 EE 」 q 4

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円周率の計算

円周率の値を高精度に計算することは乱数とは離れ でも計算機の性能の検証,誇示の目的で ENIAC 以 来行なわれてきた.手計算の時代から記録レースが続 いていたことからも明らかなように円周率には数の世 界の中で独特の地位が与えられている. 100-200桁程 度なら円周率の値を暗唱している人は多いが e や 、12:を 100 桁といわず50桁で、も暗唱している人が何人

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-」F 岡田 Ha のような π/4 を与える逆正接加法公式と組み合せて 計算するものであった.

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JTを代入して 1699年に72桁を計算し

たが,彼に Gregory の級数展開を利用して円周率を 計算するよう示唆したのはハレ一等星で有名な英国王 立天文台長 Edmund Halley である.また上記の巧 妙な逆正援の加法公式を発見し自身でも 100 桁を計算 した John Machin は London 大学の天文学の教授 であった.別段天文学で特に高精度の円周率の値を必 要としているわけではない.円周率のロマンと天文学 者のロマンとに何らかの接点があったのであろうか. 逆正接加法公式を利用する場合,計算する桁数を 2 倍にすると必要な演算行程はその自乗の 4 倍になり計 算時間も 4 倍かかる.これは手計算でも機械計算でも 事情は同じであるが,計算機では桁数を増すと多倍長 計算の基数をより大きくとる必要が生じるので計算時 間は自乗よりもう少し余分にかかる. ところが近年のスーパーコンピュータではベクトル の高速演算が可能になると同時に実装される記憶装置 の容量も飛躍的に増大し,これにより高速フーリエ変 換を用いて多倍長の乗算が高速に行なえるようになっ た. Gauss-Legendre の公式によれば円周率は次のよ うに得られる. l!'

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表 2 円周率計算の歴史(最近のものは代表的なもののみ掲載)

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古典的統計検定

円周率の値がどの程度乱数らしいのか,特に擬似乱数 と比べてどのくらい質的に異なるのかは興味深い.超越 数の数字列は周期を持たないので擬似乱数発生器の検定 に用いられるスベクトル検定 (Coveyou他 '67) を適用 することはできない.ここでは古典的な検定として 1 万 桁の π の値の検定 (Pathria'62) と同様に数字の頻度, 系列相関, ラ個ずつ区切ったポーカ一手の検定を行なっ た. 表 l と何様にして円周率の小数部分における各数字の 出現頻度を 10進 10億桁までの範囲でまとめたものが表 3 である. 32 レンジのうち f 値がその期待値である 9を越 えるものはわずか 2 個しかなく全体に小さいほうに偏っ ており、/互に比べてややお行儀が良すぎるきらいはあ る.近年の円周率記録レースの発端となった 200 万桁ま ででは偶然 f 値が期待値に一致している. 表 41土 5 億桁, 10億桁の範囲それぞれを 10 のプロック に分け全体および各プロック内でそれぞれ数字の頻度, 系列相関, 5 個ずつ区切ったポーカ一手検定を行ない f 値をまとめたものである.頻度検定(自由度 9 )では全

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(5)

体に χq砲が小さく, 2 項系列相関(自由度如)や ポーカー手検定(自由度 6 }では x2値のばらつき が大きい.この傾向は2∞万桁, 8∞万桁の検定で も見られたものである.

4

.

ポテンシャル検定

表 4 円周率の古典統計の f 値

(

)内の数値は上側確率 ふ v

-,

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6

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1

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1

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.

1

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(

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.

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1

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.

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1 1

0

1 12.68

1

1

1

1

.

24(<.10) 1 5.93

シミュレーションを行なううえで常に真の乱数 が求められていると L 、うわけではなく,それぞれ の目的に応じた検定を行なって棄却されなければ 合格とするのでかまわない. 擬似乱数の格子構造 (Marsaglia '68) は多く のシミュレーションで有害と考えられる.これを 検出する理論的な検定法としてはスベクトル検定 法があるが,前述のように超越数の数字の列のよ うな周期を持たない標本には適用できないため阿 ←一一←一一一一一ート一一一一一ート一一一一一一+

周率を疑似乱数と直接比較することができない (1)

First

500 冊 il1ion

decima1 digits

筆者の提唱したポテンシャル検定法(三三好 '83, '87)は乱数列を用いて同等な粒子を 3 次元空間内 に配置するとき,粒子系の 2 体相関によるポテン シャルエネルギーが格子構造を鋭敏に検出するこ とならびに近傍および途方の寄与が均衡している ことを用いた統計的検定法であり,乱数発生器の 周期と無関係に行なえる利点がある. N個の同等な粒子を 1 辺2Lの単位立方体の内部 に配置しこの立方体が無限に周期構造をなすもの とするとき,粒子系の 2 体相関によるポテンシャ ルエネルギーは単位立方体当たり,無次元化して 次のように書かれる. ここで Xi は i 番目の粒子 の 3 次元座標を意味する. Lr ・ 4 ・ m m 司 EFIz' F-nHM 向HU -J u -A n 3 -nH 、.,,--- -aE-く〉 側冒 HH---ft ,・ 1 ---nqd 勾,・ nHU'EAnHU' ・ An 拠υnqJV 勾 'h 勾,, mud -rrA-FUrBn303pbqa 内 dnEaqa4qa -alv ・---'ua ・ du-qtuvphunHV-aA 勾'uFnuvan 岨zan 噌 phdq'han 唱 -nυ ,,‘、 -'aA -n y --T ・ 'lEEl-?BEa--EISE--laaBEt ・ 'EE--' ・・ l'lIBEt--'l 問、,』'­ m n H u w ュ 『 nwd ・-m-EAm 一四 an 守内‘ uwn4u'EA 内JLHawd 勾, en ,・ nHvnudwO 拠υ 』笥 u ・ -FhAw--AOAunhuFhd 勾,.句、 u'gA 勾''nHu-EA ---AF'A 一---P ・A ・ -nqunHuan 崎zphd ・, A 司 ''q ‘ uwphd 向 wdnwd 。, h -eJu-勾 tod 買 U7sRuqdaonuqJvaonu -B I t -4IBI--+l'l

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(v=(2L)8=N) で与えられるので,厳密にはN(Nー 1)/2個の I/r は 一 3 ~明 I 6log(2+ イす)ー π九 一五七れ雨戸可T

-

4L } 距離の逆数の単位立方体内での期待値は (61og

(2+

、IT- 1t" )/4L に等しく,分散は

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7-Fjω+

=Arctan----l

1---.; z2+ 1

一戸

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2

3

3

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9

x

1991 年12月号 互いに独立ではないが粒子数Nを大きくしたときUNは 漸近的に正規分布N (0, σ刊にしたがうとしてよい. ここで、σ02,主

σ0

2 =

(J-

Y

N-I)

σ2(

斗与

(1.

9143xL叩と

l

lπf 辺、rI 1V である. U

N

を計算するとき,粒子簡の距離 !x;-xJ! は 着目した粒子を中心とする単位立方体内部で考える. 粒子数Nを 108

=

1000

,

1

6

8

=

4096

,

2

5

8

=

15625の 3 通 りに選び円周率 5 億桁の小数部の数字を上位から8桁ず つ区切って粒子の座標とし,それぞれ 17500, 41∞,

5

0

0

(9)

5

7

7

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(6)

個の標本を得た .(24Nx 標本数が 5 億 桁に達していないのはディスク上に保 存できるデータセット容量の上限値と CPU時間の関係である.

)

標本全体とこれを 10個に分割したプ ロッグの各々について,標本平均

U

=μ (U

N

) および標本標準偏差 s.d.= σ (U

N

) を検定した結果を表 5 に掲げ る.表で z は標本平均÷標本標準偏差 ×イ房王子才ヌ, prob. は標準正規分 布の確率密度関数を Ixl から∞まで積 分したものの 2 倍, chi.sq. は標本分 散 ÷σ。2X 標本サイズである. 乱数が少数の超平面上に落ちる格子 構造があると U

N

は負の値をとり,ま た粒子がすべて相異なる格子点上に配 置されると UNは正の値をとる.後者 はU

N

の患大値を与えNが奇数の 3乗 のときはほぼ0.53N また偶数の 3 乗の ときはほぼ0.90N となる, 粒子数N を大きくするほど格子構造 の検出能力は高くなるが, 32 ビット機 で悪名高い乗数 65539 による乗算合同 法擬似乱数から粒子系を構成すると N =1000でも μ (UN) がー 190にもなり正 規分布N (0, σ ぷ)からほど遠いこと がはっきりする. 5. まとめ 円周率の数字列は種々の検定で良好 な結果を示している.また厳密な検定 ではないが円周率の値を整数部の 3 も 含めて頭から I1贋に数字をとって整数を {乍るときこれが素数になるのは 160 桁 までの範囲では 1 桁( 3)

,

2 桁 (31

),

6 桁 (314159) , 38桁(略) だけであ る.これも素数定理から導かれる素数 の分布とよく合致している. 現時点では,乱数の原器として 1 つ だけ選ぶとすれば類似品がないこと, 再現性があること,などから円周率で あろう.凝似乱数や物理乱数との比較 表 S 円周率のポテンシャル検定 +1+ItEI--l

,

EIF+ --曲中- -・『*-FqF5574q46??ZTュ ---・・・・・・ E ---・・・・ヲ 'RV-J-avhu 『, h4 ・ av 噌・" -・・-反 uvau--。, av' 句句'』 'e-・ τdAv- -h-56778777777-

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(7)

に利用するのに最適であり,実際のシミュレーションを 多数個の擬似乱数を用いて行なう場合でも円周率の数字 列を用いたテスト結果と照合することで結果の信頼性を 高めることができょう.

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表 2 円周率計算の歴史(最近のものは代表的なもののみ掲載) c a l c u l a t e d  b y  m a c h i n e  u s e d  d a t e   p r e c i s i o n  ti回e f O r l D u l a  R e i t w i e s n e r  e t  a 1  E N I A C  1 9 4 9  2 0 3 7  7 0 h   M a c h i n  Nicho1son 量 Jeene1 N O R C  1 9 5 4  3 0

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