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絵画史料を活用した中学校歴史授業開発 : 「南蛮屏風」の読み解きをとおして

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(1)

絵画史料 を活用 した中学校歴史授業開発

―「南蛮屏風」の読み解 きをとお して ―

兵庫教育大学大学院

学校教育研究科

教育内容 0方 法開発専攻

認識形成系教育コース

社会系教育分野

M12135H

藤原

砂織

(2)

目次 序章

問題 の所在 と研究の方法 ・………・,… 1

1章

歴史学習 にお ける絵画史料活用の意義 と課題 第

1節

絵画史料活用 の意義

1

絵画史料 の定義 。………・・……… 4

2

絵画史料活用 に関す る先行研究 ・……… 9 第

2節

歴史学習 における絵画史料活用 の課題

1

絵画史料 を活用 した歴史学習の授業事例分析 。………‥……… 15

2

授業事例分析 を踏 まえた絵画史料活用 の課題 ・……… 30 第

2章

南蛮屏風の意義 と特性 第

1節

南蛮屏風 の歴史的意義 と特性

1

南蛮屏風 の研 究 と絵画構成 。………・・・・…… 35

2

絵画史料 としての南蛮屏風 の意義 。……… 42 第

2節

南蛮屏風の教育的意義 と特性

1

南蛮屏風活用 の意義 ・…………・・……… 47

2

南蛮屏風 か ら読み解 く

16世

紀 の 日本 ・………・ 50 第

3章

南蛮屏風 を活用 した歴史授業 開発 第

1節

絵画史料 を活用 した歴史授業開発 の原理 と方 法

1

中学校歴史的分野 にお ける絵画史料 の活用原理 ・……… 60

2

中学校歴史的分野 にお ける南蛮屏風の活用方法 ・…………・・………・・…… 62 第

2節

南蛮屏風 を活用 した歴史授業モデル の開発

1

南蛮屏風 を活用 した歴史授業 の単元計画 。………‥………・・……… 68

2

南蛮屏風 を活用 した歴史授業計画 ・……… 72 終章

研究の成果 と今後 の課題 ・………・・…… 96

(3)

序 章 問題 の所 在 と研 究 の方 法

1

問題 の所在 社会科 は暗記科 目だ、とい うイ メー ジを持つ子 どもは多い。教科書に記載 され ている 語句や ある歴史事象だけを問 う一問一答式の評価 問題 が多い こ とが、子 どもに社 会科 を 暗記科 目だ と認識 させ る一つの要因 とな り、これ と関連 して教科書 を中心 とした講義形 式 の授業が このイ メージを増幅 してい る と考 え られ る。社会科 は市民を育成す る場であ る。受 け身の学習ではな く、子 ども自らが考 え行動でき る力 を育まなければな らない。 中学校 では平成

24年

4月か ら新学習指導要領 が実施 され、思考力・判断力・表現力 の育成や言語活動 の充実が挙 げ られている。そ うした子 どもの能力 を歴史学習において 育成す るためには、子 ども自らが歴史家 と同様 の視点に立って、歴史 を再構成 してみる ことが重要ではないか。 土屋武志氏は、「歴史家」 としての科学的・論理的な歴 史解釈 の機会 を与 える学習方法 を「解釈型歴史学習」と呼び、歴史家 と同様の視′点に立 って歴 史 を解釈す ることの重要性 を述べてい る1。 また、土屋氏 は、

OECDに

よる国際的な学 習到達度調査の結果 を うけて 日本 にお ける従来の学習方法の問題 点を指摘 してい る。そ して、学習者 の思考活動 を重視す る問題解決的な学習が再評価 されてい ることに着 目し、 解釈 の多様性 を前提 とす る解釈型歴史学習の有効性 を述 べてい る。また、原 田智仁 氏は、 イ ギ リスの歴史解釈学習 をもとに、日本 にお ける通時的な学習か らの脱却 を図るために は歴史学習 において史料 を活用す ることが求め られ、史料 を根拠 として歴史を探究する こ とによって歴史的思考力 を育成す ることができることを明 らかに している2。 歴史家 は、史料 か ら限 られ た情報 を読み解 き、それ らを もとに歴史を構成 し過 去を再 現す る。それ と同様 に、市民 もまた与 え られた資料 (情報

)か

ら自分な りに事象 を読み 解 き、それ らをもとに意思決定 を して社会生活 を送 ってい る。土屋氏や原 田氏が示す よ うに、史料 を活用 して歴史 を再構成す る といった歴史学 の方法 を歴史学習に活用す るこ とによって、子 どもたちに市民 としての生 き方や技能 を育てることができ、社会科の日 標 で もある「市民的資質の育成」に寄与す ることができると考 える。そのためには、歴 史学習 において一次史料 を扱 うことが求 め られ、子 ども自らがそれ らの史料 を読み解い てい く活動 を授業 に組み込む必要があろ う。 また、両氏は、歴史解釈学習にお ける重要な要素 として、歴史の探究過程に 「対話」 や 「議論」 といつた活動 を取 り入れ ることを勧 めてい る。土屋氏 は 「対話」を取 り入れ ることに よって多様 な解釈 を知 ることができ、「歴史解釈 の精度 を高めるために も、民 主的な市民 としての資質育成 とい う社会科教育の 目的か らみて も、対話 は、解釈型歴史 学習 の基本的な学習活動 として継続的 に繰 り返 して用 い られ るべ き学習活動であ る。」3 と述べてい る。同様 に、原 田氏 も「議論」を とお して、無意識の うちに主観や偏見を含 む解釈へ と陥つて しま うことを防ぎ、歴史解釈 を間主観 的に吟味す ることに公教 育 とし ての歴史学習の意義 を見出 している。史料の読解 を通 して、主体的に過去 を再構成す る。

(4)

その過程 に生徒 同士の議論や意見交換 を位置づ ければ、物事 を多角的・多面的に捉 えさ せ ることに繋が り、間主観 的な認識 を保証す ることがで きる。 しか し、一次史料であれ ば何 で もよい とい うわけではない。中学生に古文書や 古記録 な どの文字史料 を与 えて も読み解 きに くく、歴史 を 自ら再構成 しよ うとい う意欲 にも繋 が りに くい と考 え られ る。その点で、既習知識や能力 の如何 にかかわ らず読み解 きを行 うことができる史料 として、絵画史料 を挙げることがで きる。実 際に、「蒙古襲来絵詞」 や「一遍上人絵伝」な どの読み解 きを とお して歴 史の理解 を図 る授業は数多 く報 告 され てお り、絵画史料 の有効性 を示す事例 は少 な くない。また、歴史学者である黒 田 日出男 氏 は、絵画史料 を「歴史 を豊 かなイ メー ジをもつた世界 」として捉 え、文字史料 だけで はわか らない これまで見落 とされてきた歴史 を、絵画史料 を活用す るこ とによつて探究 す るこ とができる とし、歴史学 にお ける絵画史料 の活用意義 を述べてい るち これ らの ことか ら、歴史学や歴史教育 における絵画史料 の活用意義 を見 出す ことができる。 本研究では、絵画史料 の中で も神戸市立博物館 に所蔵 されてい る「南蛮屏風」に着 目す る。「南蛮屏風」には異国の人 々や動物 、色彩豊 かな衣月艮や背景 な どが描 かれてお り、子 どもが興味、関心 をもつて楽 しみなが ら歴史 を探究す ることがで きる史料である。また、 地域 の文化財 としての価値 を育成 させ ることに もつなが ろ う。本研究は、この 「南蛮屏 風」の読み解 きを とお して

16世

紀の時代像 を 日本 と世界の視点か ら探究す る中学校の 歴史授業モデル を開発す ることをね らい とす る。 研究 の方法 本研究 における研究方法 は、基本的に以下の

3点

に集約 され る。 主 に歴史学習 にお ける絵画史料活用 に関す る先行研 究、お よび絵 画史料 を活用 し た先行授業事例の分析 を通 してその意義 と課題 を明 らかにす る。 主 に「南蛮屏風」に関す る歴史学の先行研 究の分析 を通 して、南蛮屏風の歴 史的意 義 と教育的意義 を明 らかにす る。 絵画史料 を活用 した歴史授業開発 の原理 と方法 を仮説的に提示 し、「南蛮屏風」を 活用す る授業モデル を開発す る。 (1) (2) (3)

(5)

註】

1土

屋武志『 解釈型歴史学習のすすめ 対話を重視 した社会歴史』梓出版、

2011年

2原

田智仁「中等教育における角峯釈学習の可能性 ―マカ レヴィ、バナムの歴史学習論 を手が か りに ―」『 社会科教育』第

70号

, 2009午, pp。1‐10

3前

掲書1

4例

えば『絵画史料で歴史を読む』(筑摩書房、

2004年

)や

『 姿 としぐさの中世史』(平凡 社 、

1986年

)。

(6)

1章

歴 史 学 習 にお け る絵 画 史料 活 用 の意 義 と課 題 第

1節

絵画史料活用 の意義

1

絵画史料の定義 ある事象 を考察 し、結論 を導 き出す ためには、どの よ うな場合 において も根拠 となる ものが必要である。これ は諸分野 にお ける専門家だけで な く一般 の人々において も共通 していえることであ り、その根拠 となるもの として史資料 (または情報

)は

活用 され る と考 える。同様 に、歴史学習 において も、ある歴史事実 を探究す る際には さま ざまな史 資料が活用 され る。歴史学習 において、歴史家 と同様 の視点に立 って歴史 を再構成す る ことの重要性 については序章で述べた とお りである。歴 史家はあ らゆる史資料 を もとに 過去 を再構成す るが、歴史家 と同様 の視点 に立つ とい うことは、歴史学習 において歴史 家 と同様 に史資料 を分析 し考察す るとい うことである。つま り、歴史学 において活用 さ れ る史資料は歴史学習 において も活用す ることができる とい え、その対象 となる史資料 は多様 に存在す ることになる。では、史資料 には一体 どの よ うな ものがあるのか。福井 憲彦氏の先行研究 よ り史資料 とは どの よ うな ものを指す のかを明 らかにす るとともに、 本研究では絵画史料 を取 り上 げてい ることか ら、歴史学 における史資料 の中で絵画史料 は どの よ うに位置づけ られてい るのかを明 らかにす る。 福井氏 は、歴史学にお ける史資料 について次 の よ うに述べてい る。 史料 と資料、同 じ発音の違った単語であるが、ここでい う史料 とは、一般に文字で記 された情 報源、文献史料ない し文書史料の ことをさしている。あるいは、文書 とはいえない断片的な文字 表現を考慮すれば、文字資料 といつた方が よいかもしれない。それに対 して資料 とは、もつとひ ろい概念 として、文字ではない物体や景観のようなものまで包含する。非文献資料、非文字資料 を含む1。 この よ うに、史資料 は文献資 料 だ けで な く物体や 景観 の よ うな ものまで含 んで い るこ とか ら、史料 も しくは資料 に成 り得 る ものは広範 囲 に及 ぶ こ とが わか る。 さらに福井氏 は 、問い の対象や性格 が多様 化す るの に伴 つて、そ の手 掛 か りとな る史資料 もま た多様 化 せ ざるを えない こ とを指 摘 して い る。で は、そ の よ うな広範 囲 かつ多様 化す る史資料 にお い て 、絵画史料 は どの よ うに位 置 づ け られ てい るのか。 福 井 氏 は、先 行 研 究 にお い て史 資料 の性 格分類 を行 つ てお り、図

1は

福 井氏 に よつて 作成 され た もの で あ る2。 まず 、史資料 は大 き く二つ に分 け られ てい る。一つは「自然や 自然 にかかわるもの」、も う一つ は「人 間がなん らかの手 をカロえた結果 として生み 出 され、 残 されて きた もの」である。 この図をみ る と、「自然・ 自然物」に分類 され る史資料 は限 られてお り、その大半は「なん らかの人為が加 わってい るもの」に分類 され ている ことが

(7)

自然 。自然物 宇宙・地球 。大気 海洋 。地形・気候 生物・非生物 史資料 環境 。風 土 。人 間・家畜・農作物・微生物 「もの」 とし て あるもの 都 市・集 落 。町並 森 林・ 山野・海浜 湖 沼・農地・牧地 港湾 。道路・空港 橋梁 。運河 。城塞 寺社・ 家屋 石器・農具 工具・機 会 車 。馬具・ 舟 権 。自動 車 飛 行機・列 車 衣類 。加 工食料 什器・家具 なん らか の人為 が 加 わって いるもの 生産用具 ―一―一 運搬・ ― 移動用具 生活用具 ―一一― 非文献 資料 戦 具 ― 各種兵器 通信機器 ‐―一― 電話・無線 ・

TV

端 末モニ ター コンピュー タ本体 形 の い もの

な 音 声資料 ――一一 記 憶 一一一一一 意識 。聡 ― 音 楽 ・ 歌 謡 (レコー ドテ ー プ ・

CD)

聞 き取 り 国家 。社 会 ・組 織 人 間 に よ る 表 象 と して あ る もの ・行事   ・技能 瀦     。写真 ・図面 対   。碑文 ・帳簿

F L I I I ﹂ ︲ ︲ ︲ ﹁ L 形 の あ るもの 1 1 準 文 献 資料 文献 資料 図 1 史資料の性格分類 (福 (2006)3ょ り引用) 5

(8)

わか る。「なん らかの人為 がカロわってい るもの」は、 さ らに「「もの」 と してある もの」 と 「人 間による表象 としてあ るもの」 に分類 され てい る。「「もの」 と してある もの」 に分類 され る史資料 は考古史料 に区分 され るものが多 く、「人間による表象 としてある もの」は考古史料以外 の もの と考 える。「人間による表象 として あるもの」は、 さらに 「形 のない もの」 と「形のあるもの」に分類 されてお り、前者 は非文献資料、後者 は文 献史料(準文献資料 を含 む)と に区別 されている。その うち、絵画史料は準文献史料 に分 類 されてお り「画像 。映像・図像資料」に含 まれ てい るこ とが読 み取れ る。この「画像・ 映像 。図像資料」には絵画史料 とともに映画や ヴィデオ も含 まれ てお り、それ らの史料 は 「準文献資料」 として扱 われ てい る。 これ まで福井氏の史資料 の性格分類 をもとに、歴史学 における史資料 について、また 史資料 に含 まれ る絵画史料 の位置づ けについてみてきた。次に、そ こか らさらに絵画史 料 に着 日し、吉川幸男氏や黒 田 日出男氏 の先行研究か ら、歴史学習において どの よ うな 絵画史料が読解 に適 してい るのか、また「南蛮屏風」以外 に一体 どのよ うな史料 が絵画 史料 の中に含 まれ るのかを明 らかにす ることに よつて、本研究で取 り上 げる絵画 史料の 定義 を示す。 吉り│1氏は、絵画史料 を「図像資料」と表現 してお り、図像資料 とそ うでない資料 を区別 す るため二つの指標 を提示 してい る。 まず一つの指標 は、「その資料の さまざまな部分 の意味 を、学習者 自ら創造的に解読で きる資料 か どうか」4と ぃ ぅことで ある。倉り造的な 解読 ができる資料 を「意味流動的な資料」とし、文字資料 の よ うに独創的な解釈 が許 され ない資料 を「意 味固定的な資料」としてい る。これ らの うち、図像資料 は前者 の「意味流 動 的な資料」に含 まれ てお り、創造的な解読 を促す ことができる資料 として捉 え られて い る。そ して も う一つの指標 は、「生の原史料 に対す る現代人のカロエや創作の手 がより 少 ないか、よ り多 く入 つてい るか」5と ぃ ぅことである。吉川氏は、図像資料 と文字資料 の違 いを 「意味流動的」か 「意 味固定的」かに区別 し、 さらにそ こか ら「原典資料」で あるか 晴J作資料」であるかを判断す ることによって図像資料 の概念 を捉 えるこ とがで きる と述べてお り、この二つの指標か ら四つの典型 に分類 してい る。吉川氏の考 察を整 理 した ものを表

1に

示 した。 表

1

文字資料 と図像資料における四つの典型 原典資料 (歴史学 の研究対象) 創 作 資料 (歴史学 の研 究成果) 意 味固定的・ 。・文字資料 (多様 な解釈 の余地 がない)

A

意 味固定的な原典資料 → 古文書な ど

B

意 味固定的 な創作資料 → 歴史物語 の本な ど 意 味流動 的・・・ 図像資料 (多様 な解釈 の余地がある)

C

意味流動的 な原典資料 → 絵巻物や版画な ど

D

意 味流動 的 な創作資料 → 想像画や復元模型など (吉川

(1991)6ょ

り筆者作成) 6

(9)

本研究 の 目的は、歴史家 と同様 の視点 に立って史料 を読み解 き主体的 に歴史 を再構成 す ることである

`吉

川 氏が提示す る「原典資料」が歴史学の研究対象 と位置づ け られて い ることか ら、本研究にお ける 目的に適 してい る史料 は

Cの

「意 味流動的な原典資料」 であるといえ、授業モデル の事例 として取 り上 げてい る「南蛮屏風」は この「意 味流動 的な原典資料」 に含 まれ ると考 える。 それでは、「意味流動的な原典資料」には 「南蛮 屏風」の他 に どの よ うな史料 が含 まれ るのか、黒 田氏 に よる絵画史料の分類 をも とに明 らかにす る。 黒 田氏 は、ベル ンハイムや太 田秀通氏の先行研究を踏 まえて、歴史学 における研究材 料 の分類 を行 つてい る。研究材料 を「自然」と「遺物」とに三分 し、そ こか らさらに「遺 物」を「人間の遺物」。「沈黙史料」。「発言史料」の三つ に分類 している。 この三つの枠 組み において絵画史料 は 「発言史料」に含まれ てお り、黒 田氏 は絵画のみの史料 を「ア ナ ログ史料」、絵画史料 に文字列史料がみ られ る ものを 「アナ ログ・デ ジタル史料」 と して区別 してい る7。 どの よ うな史料が 「アナ ログ史料」 また 「アナ ログ・デジ タル史 料」に分類 され ているのかを、黒 田氏の提示す る研究材料 の資料 をもとに表

2に

整理 し た。 表

2

アナログ史料 とアナログ・デジタル史料 に含まれ る研究材料 アナ ログ史料 (画像 史 料)

a

壁画 (高松塚古墳・ 法隆寺

) i

初期風俗画 (洛中洛外 図屏風 。南 蛮図

b

模様・紋様

屏風 な どを含む

)な

c

織物 の紋様 。柄・絵

j

風景画・ 静物画・ 写生画・細密画 など

d

陶磁器 の形・絵柄 な ど

k

写真 (さま ざまな写真)。 無声映画など

e

その他 の家具 。調度品な どの絵柄 な ど

1

絵 図・絵 地図 (境内図な どを含む

)な

f仏

画 (曼茶羅 な どを含 む)・ 垂述画 (神像

m

建築指 図・設計 図・想像 図など な どを含む)。 写経絵 な ど

n

案 内図 。道 中図・観光図な ど

g

肖像画・頂相

0

地形 図・ 日本 図・世界 図・天文図な ど

h

山水画 。花鳥風月画 な ど アナログ・デジタル史料 (画像・文字列史料)

a

絵巻物 (縁起絵巻・ 物語絵巻・御伽草子・職人歌合絵巻 。年 中行事絵巻 な ど)

b

絵解 きの行われた絵画 (参詣 曼陀羅 。十界図・ 地獄極楽 図その他)

c

小説 の挿絵 。図版 な ど

d

映画・漫画・劇画

e

広告 な ど (黒田

(1988)8ょ

り弓1用)

(10)

黒 田氏 によつて 「アナ ログ史料」や 「アナ ログ・デジタル史料」 として示 され ている 研究材料 の中か ら、吉り│1氏が示す 「意味流動的な原典資料」にあてはま るものを抽 出す る と、「

d

陶磁器 の形・絵柄 な ど」か ら「陶磁器 の形 」 を除外 し、「

k

写真 (さまざ まな写真)・ 無声映画 な ど」や 「

c

ガヽ説 の挿絵・ 図版 な ど」、「

d

映画・漫画

0劇

画」、 「

e

広告 な ど」 を除外す ることができると考 える。 それ らの資料 を除外 した理 由は、 「陶磁器 の形」は図像資料 に含 まれず、写真や無声映画 、小説 の挿絵や映画や広告 など は原典資料 とい うよ りも創 作資料 に近 い と考 えたか らで ある。「

m

建築指図・設計図・ 想像図な ど」 にお ける 「想像 図」に関 しては、「意味流動的な捨J作資料」 に含 まれ るの ではないか とい う解釈 も可能 である。 しか し、 どのよ うな研究材料が「想像図」に含ま れ るのかが示 され ていないため、黒 田氏が示す 「想像図」は一概 に創作資料 と断言す る ことができない。そのため、本研 究では 「

m

建築指図・設計図・想像図な ど」 も「意 味流動的な原典資料」に含 む こととす る。 福井氏 による史資料 の性格分類、吉り│1氏による史料の固有性 を含む先行研 究、そ して 黒 田氏に よる研究材料 の分類 を踏 まえると、絵画史料 は歴史学 において準文献資料 とし て位置づ け られてお り、その中で も読み解 きに適 してい ると考 え られ る史料は、吉り│1氏 の先行研究 に依拠す る と「意味流動的な原典資料」に含 まれ る史料 とい える。そ こか ら 黒 田氏 に よつて提示 され ている研究教材 をもとに、「意 味流動 的な原典資料」 に含 まれ る と考 え られ る史料 を次 の よ うに整理 した。よって、本研 究で取 り上げる絵画史料は以 下の ものを指す ことを明 らかに してお く。 表

3

「意味流動的な原典資料」に含まれる絵画資料 アナ ログ史料 (画像史料)

a

壁画 (高松塚古墳・法 隆寺

) i

初期風俗 画 (洛中洛外 図屏風・ 南 蛮図

b

模様 。紋様

屏風 な どを含 む

)な

c

織物 の紋様・柄・絵

j

風景画・ 静物画・ 写生画・細密画 など

d

陶磁器 の絵柄 な ど

e

そ の他 の家具 。調度品 な どの絵柄 な ど

1

絵 図・絵 地図 (境内図な どを含 む

)な

m

建築指 図 。設計 図・想像 図な ど

f仏

画 (曼茶羅 な どを含 む)・ 垂述画 (神像

n

案 内図 。道 中図・観光図 な ど な どを含む)。 写経絵 な ど

0

地形 図 。日本 図・世界図・天文 図な ど

g

肖像画・頂相

h

山水画・花鳥風月画 な ど アナ ログ・ デジ タル史料 (画像 。文字列史料)

a

絵巻物 (縁起絵巻 。物語絵巻 。御伽 草子・職人歌合絵巻 。年 中行事絵巻 な ど)

b

絵解 きの行 われた絵画 (参詣 曼陀羅 。十界図・地獄極楽 図その他) (表

2を

も とに筆者 作成) 8

(11)

2

絵画史料活用 に関す る先行研究

1970年

代以前 は文字・言語史料が重視 され、絵巻物 な どの絵 画史料 は概説書や教科 書 の挿絵 として禾J用 され ることが多 く二次的な位置づ けがな され ていた9。 しか し、近 年、絵画史料の有用性 が見直 され るよ うにな り、歴史家 の中には絵画史料 を研究対象 と す る者 もみ られ、歴史学習 においても絵画史料の活用に関す る多 くの先行研究が報告 され ている。本項では絵画史料 の活用 に関わ る先行研 究 を踏 まえて、歴史学習 において絵画 史料 を活用す る意義 を明 らかにす る。 まず、原 田智仁 氏の先行研究 よ り、史料 と学習者 との位置づ けや、史料読解 に関する 課題 を明 らかにす る。原 田氏は、歴史学習にお ける史資料 と学習者 の関係 の変容 につい て、吉川氏 の先行研 究か ら次 の二つの図を用いてその内容 を述べている10。 確 定 され た歴 史 図

2-1

伝統的 な歴史学習 にお ける資料活用 (吉ノ

II(2008)11よ

り引用) 研究者 の歴史研 究

□ 匡

休 ・教科書・

m ll'Jこ

L報

人の歴史学習 学習者 の歴史 図

2-2

近年 の歴 史 学習 にお け る資料 活 用 (吉川

(2008)12ょ

り引用) 原 田氏 は「史料」。「資料」。「学習者」の中で も特に学習者の位置に着 目し、伝統的な 歴史学習では史料 か ら資料 を介 して歴史理解 を行 う「二段 階直線型」の歴史学習が行わ れ てい るのに対 し、近年 の歴史学習では史料か ら資料 とい う流れ ではな く、史料か ら直 接学習者 が歴史理解 を行 う「三角型」 の歴史学習へ と変容 してい ることを示 している。 さらに原 田氏は、学習者 の位 置づ けが異 なった こ とによって 「資料活用」か ら「史料活

(12)

用 」へ と変化 した こ とを述 べ て お り、吉川 氏 が提示 す る近 年 の歴 史 学習 にお け る資料活 用 の方 法 を歴 史 学 習 に適 切 な 「史料 読解 」 と捉 えてい る。 この 「史料読 解 」を歴 史 学習 に組 み込 む こ とに よつて、「従前 のル ーテ ィー ン化 した資料活 用 」 13か らの脱却 を図 る こ とがで きる と考 え る。 さ らに、原 田氏 は史料読解 を行 う上 で三つ の課題 を提 示 して い る14。 ①史料読解のね らいを明確に し、教師 と生徒がそのね らいを共有す る。 ②史料の読解 を狭義の習得・活用論の 「習得」 と捉 え、「活用」のための課題 を無理に設定し て追究 させ るのではな く、史料の読解そのものを活用 と捉 える。 ③追究課題 を設定す るな らば、なぜ型の問いを中心に単元 を構成 し、その探究の過程 に不可 欠な活動 として史料読解を位置づける。 これ ら二つ の課 題 をみ る と、た だ歴 史学習 にお いて史料 の読解 を行 えば よい とい うわ けで は ない こ とが読 み 取れ る。史料 を活 用す るこ とを 目的 として史料読解 を行 うこ とが 歴 史 学習 に求 め られ る資料 活用 なので はな く、歴 史 を探 究す る手段 として史料読解 を歴 史 学習 に組 み込 み、史料 を読 み解 くこ とに よって歴 史理解 を深 め る こ とが資料活 用 とい え る こ とが述べ られ てい る。 以上 、原 田氏 の先 行研 究 よ り、学習者 と史資料 との位 置 づ けや 、史料読 解 を取 り入れ た歴 史 学習 にお け る三つ の課題 を明 らか に した。これ まで述 べ て きた学習者 と史 資料 と の位 置 づ けや 、史料読解 に関す る課題 を念頭 に置 いてお くこ とは史料 を扱 う上で重 要 な こ とで あ ろ う。 史料 の 中には もちろん絵画史料 も含 まれ る。 で は次 に、歴 史理解 と絵 画 史料 の役 割 につい て 、池野範 男氏 と官原武 夫 氏 の先 行研 究 を も とに述 べ て い く。 池 野範 男 氏 は、歴 史学習 にお け る歴 史理解 について次 の よ うに述べ て い る。 歴史教室には過去の歴史事象 も出来事 も存在 しない。それにもかかわ らず、子 どもたちは現 在生起 したごとく、歴史事象や出来事を理解する。なぜ このような歴史理解が可能なのだろ うか。 それは、現存す るもの、現前す るものを手がか りにして、子 どもたちが過去の歴史事象や出来 事 を構成 しているか らではないだろ うか。(中略 :藤 原

)こ

の ような能動的構成論の立場か ら、 子 どもの歴史理解 をとらえることによって、歴史授業における歴史理解 は子 どもたちがつ くるも のであると主張する15。 池 野 氏 は歴 史 学習 にお け る歴 史理解 は子 ども 自 らがつ くるもの で ある と し、それ を可 能 にす る もの と して 、「現 存 す る もの、現前す る もの」 とい う言葉 を用 い史資料 の重要 性 を示 唆 してい る。 この史 資料 の 中には、教科 書や資料集 な ども含 まれ るで あろ う。こ の よ うな史 資料 を手 がか りに して過去 の歴 史事 象や 出来 事 を子 どもた ち 自身が構 成す 10

(13)

ることで、主体的な歴史理解 の形成が可能 となることが述べ られている。 宮原氏 も同様 に、歴史学習 において史料 を扱 うことを次 のよ うに述べている。 歴史研究は、史料を分析・推理・判断・解釈して、歴史的事実 。概念、理論を明らかにする。 歴史学習も、史料を分析・推理・判断 。解釈 して、歴史的事実や概念を獲得するものである16。 宮原氏 は、子 ども自らに歴史認識 を形成 させ るためには史料 の 「分析・推理・判断・ 解釈」が重要であることを述べてお り、両氏は子 どもが主体的に歴史像 を構成 し、自ら の力 で歴史理解 を可能にす る手段 として、歴史学習における史料 の中で もとりわけ絵画 史料 の活用 に着 目してい る。主体的に歴史像 を構成す る力 を身に付 けることができれば、 その後の歴史学習 にも応用す ることができ、その よ うな手法は歴史学習に限 らず他 の分 野 において も資料 か ら情報 を読み解 いて主体的にある事象 を構成す る力 として活用す ることができると考 え られ る。それでは次 に、歴史理解 に活用す る絵画史料の特性 につ いて、佐藤廣氏 と加藤公 明氏の先行研究 よ り明 らかにす る。 佐藤氏は、吉川氏や加藤 氏の先行研 究 を踏 まえて、絵画史料が持つ特性 をまず大 きく 四つ に整理 し、四つの枠組 みの中で六つ の特性 (特性 a∼

oを

提示 してい る。その中か ら、絵画史料 を活用す る意義 に関連す る特性 として特性 a・c・

dOfの

四つ を抽出 した。 表

4

絵画史料活用の意義 に関連す る四つの特性 (特性 aoc・

d00

佐藤氏は、四つの特性の うちa・

cを

「子 どもたちに絵画史料を親 しみやすく取 り組 みやすい資料だ と感 じさせ、学習効果を促す効果を持つ もの」 と捉 え、特性の d・ fに ついては「歴史学習を、単に歴史学習や教師の歴史観を伝達する場ではなく、子 どもた ちが 自分な りの歴史観 を主体的に構築 していく場 とする効果を生み出すもの」と捉 えて (1)伝達 され る情報 の質・ 内容 に関す る特性 。人物や器物、あるいはそれ らの集合体 として描 かれた社会事象のある場面の視覚的特徴に ついては、非常に具体的な情報 を提供す る。(特性a) (2)情報 の読み取 りの方法 に関す る特性 ・ 言語 の習得が読解 の前提 とはな らず、他 国で作成 されたものか らで も、古い時代の ものか らで も、ある程度 の基本 的 な情報の読み取 りが可能である。(特性c) 。読み取 りの進 め方 な どに、文章の読解 の場合のよ うな特定の手l頁が な く、読 み手の独 自の 関心や思考法 な どに応 じた工夫 を取 り入れ る余地が多い。(特性d) (3)非光学的な画像資料で あるこ とに由来す る特性 (4)原典資料 であ ることに由来す る特性 。他人の行 った解釈の理解ではな く、読み手 自身による解釈 を可能にす る。(特性

0

(佐藤

(1994)17ょ

り筆者作成) 11

(14)

い る18。 これ らの特性 を踏 ま えた上 で歴史学習 に絵画史料 の活 用 を図 つてい くこ とが 重要であると佐藤氏は述べてい る。 佐藤氏 が提示す る四つの枠組みの うち、

(3)の

「非光学的な画像資料であることに由 来す る特性」には、上記 では省 略 しているが特性

eに

ついて述べ られてお り、特性

eに

は「描 かれてい るものは必ず しも歴史的な事実ではな く、事実の象徴であ る」とい うこと が記 され ている。 これ に関連す る内容 として、歴 史学者 である福井氏は「図像資料 の活 用」として次のよ うに述べてい る。 とくに絵画の場合、抽象画を誰も現実描写 とは思わないであろうが、描かれたものが写実性を もつていて、しかも具体的な姿を再現 しているように見えるものであればあるほど、注意が必要 となる。時代の雰囲気をいかにも見事に伝えている、と思われ る絵画は、歴史的過去を想像する のにたいへん貴重なのであるが、うっかりすると、絵画が画家の手によって二次元空間に表象さ れたもの以上ではない、とい うことを忘れがちになる■9。 この よ うに、絵画史料 を扱 う上で注意 しなけれ ばな らない ことは、詳細 に描かれてい る絵画 をみ ると事実 をそのまま描いた よ うに認識 して しま う。しか しそれ はあ くまでも 画家 によって描 かれた絵画 であ り、見た ものをそのまま表現 してい るとは限 らない とい うことである。特 に、歴史学習 において取 り扱 う史料 については気 をつ けなけれ ばな ら ない。描 かれてい る事象 が歴史的事実 を如実 に表現 した ものであると解釈 して歴史理解 を行 うと、事実 とは異 なる結論 に至 る可能性 を含 んでい る。絵画史料はあ くまで も歴史 を探究す る一つの手掛か りであ り、「南蛮屏風」を読み解 く際にも同様の ことがいえるだ ろ う。もちろん文字史料 において も、真実 のみが記述 され てい る とは限 らない。 さまざ まな史料 を照 らし合 わせ て一つ の事実 を導 き出す とい うことを忘れず、一つの史料だけ に固執 して歴史理解 を行 うよ うなことは避 けねばな らない。これ らは、絵画史料 を活用 す る上で留意 しなければな らない点である。 次 に、加藤氏の研 究をみてい く。加藤氏 は、絵画史料 が持つ二つの特性 に着 目してい る。まず一つは、事実確認 が容易 とい うことである。これ は、佐藤氏が述べてい る特性

aocと

同様 の解釈 と考 え られ る。事実確認 の容易 さについては、歴史学 の黒 田 日出男 氏 をは じめ、多 くの研究者 によって述べ られてきた絵画史料が持つ魅力的な特性 の一つ といえる。この よ うな特性 を持つ絵画史料 は、既習知識や特別 な能力 を必要 とせず視覚 的に歴史 を提 えることができるため、歴史 を苦手 とす る子 どもであつて も抵抗 な く歴史 像 を描 くことができると考 え られ る。 そ して も う一つの特性 は、「無定型 ともい える自 由 さ」20でぁる。文献史料 では文字に よって記 された情報 がすべ てで あ り、多様 な解 釈 が入 り込む余地 はない。しか し、提示 された史料が絵画史料であれば読 み手の思考や 視点 によって多様 な解釈ができ、一つの史料か らい くつ もの解釈 を引き出す ことができ る。加藤氏 は、絵画史料 を 「子 どもの個性 に応 じて 自由に歴史認識 を作 つてい く素材」 12

(15)

21と位 置 づ け、歴 史認 識 と史料 の 関係 につ いて次 の よ うに述 べ て い る。 歴史認識 は、なん といつて も史料 に基づいて論理的に組み立て られ たものでなけれ ばな ら ない。それが科学的である第一の条件だか らである。(中略 :藤原

)そ

して従来の文献史料 と 異な り絵画史料の利点は、少 な くともそ こに何が描 かれてい るかは、視覚を通 して多 く生徒 にでも理解することができるとい うことである。だか らその史料のもつ歴史的な意義 も各 自 が今もつている知識や論理、感性で比較的 自由に考えることができるのである22。 これ は、池野氏や 宮原 氏 と同様 に、歴 史認識 を構 成す る過 程 にお いて史料 が重要 な役 割 を果 た してお り、史料 の 中で も絵 画 史料 を活 用 す る こ との有効 性 を示 して い る。 これ らの こ とか ら、絵 画史料 は事実確認 が容 易 で あ り、生徒 の歴 史 的思考力 の育成や 主 体 的 な歴 史像 の構成 、つ ま り、生徒各 自の個性 を生 か した多面的 で多角 的 な解釈 を引 き 出す こ とが で き る史料 とい え る。この よ うな意 義 を持 つ 絵 画 史料 を歴史 学 習 に組 み込 む こ とに よつて 、池 野氏 や 宮原 氏 が述 べ る よ うな 主体 的 な歴 史理 解 を促 す こ とが で き、 子 ども一人 ひ と りが積 極 的 に歴 史 学習 に参加 す る こ とがで き る と考 える。 それ で は、絵画 史料 を どの よ うに活用す れ ば子 どもた ちの主体 的 な歴 史理解 がで きる の か。次 に、絵画 史料 を活 用 した授 業事例 の分析 を とお して考察す る。 13

(16)

註】

1福

井憲彦『 歴史学入 門』岩波書店、

2006年

、p.13

2同

上書 p.14

3前

掲書 p.17

4吉

川幸男 「歴史学習における図像資料の活用」『 現代社会科教育実践講座

10巻

本の歴史学習② 歴史的内容の授業 Ⅱ』現代社会科教育実践講座干J行会、

1991年

、p.62

5同

上書 p.63

6同

上書 p.67

7黒

田日出男「史科学 と絵画史料J『週刊朝 日百科 日本の歴史・別冊 1』 朝 日新聞社、1988 年 、 pp.2‐6

8同

上書 p.4

9保

立道之「絵画史料の歴史学的読み方」若杉準治『絵巻物の鑑賞基礎知識』至文堂、1995 4三、 pp.176‐198

10原

田智仁「史料読解に基づ く歴史学習の指導法 と課題 ―高校 日本史B「政党内閣の成立」 の授業分析 を手がか りに 」『 社会系教科教育学研究』第

22号 2010年

、社会系教科教育 学 会 、 pp.1‐10

H吉

川幸男

(研

究代表

)『

歴史学習指導における「史料活用」と「資料活用」の関連化方

略開発研究』

(平

18∼

19年

度科学研究費補助金

基礎研究

(C)研

究成果報告書

)2008

年 、p.5

12同

上書 p.5

13前

掲 書

10 p.1

14 前掲 書 10 pp.8‐9

15池

野範男 「歴史理解 における視点の機能 (1)一 絵画資料理解の分析を通 して 」全国 社会科教育学会『 社会科研究』第

40号

1992年

、p.23

16宮

原武夫 「歴史教育における絵画史料 一生徒のイ メージ リーディング ー」千葉県歴史教 育協議会 日本史部『 絵画史料 を読む 日本史の授業』国土社、

1993年

、pp.213‐221 17佐藤廣『歴史教育における絵画史料の活用に関する研究』兵庫教育大学大学院修士課程 学小L論文、

1994年

、 pp.13‐14

18同

上書 p.14 19 前 素:書 l pp.20‐22

20加

藤 公 明『 わ くわ く論 争!考え る 日本 史授 業』 地歴 社 、

1991年

、p.126

21同

上書p.126 22 前 掲早蒙16p.125 14

(17)

2節

歴史学習 にお ける絵画史料活用 の課題

1

絵画史料 を活用 した歴史学習 の授業事例分析 歴史学習にお ける絵画史料活用 の課題 を明 らかにす るため、絵画史料 を活用す る授業 事例 の分析 を行 う。分析 を行 うにあたってすでに佐藤廣氏 が

200例

もの事例 を詳細に 分析 していることか ら、本研 究では佐藤氏が分析 を行 つていない

1995年

以降に刊行 さ れた雑誌『 歴史地理教育』か ら

24例

の授業事例 と、南蛮屏風 を活用す る授業事例

2例

の計

26例

を収集 し分析 を行 った。

(1)分

析 の視′点 分析 の視′点として、絵画史料 の活用 目的、読み解 きの視′点、読み解 き活動の射程 (範 囲

)の

二つに着 目す る。 絵画史料 の活用 目的では、「導入 的役割」、「歴 史事実 のイメー ジ化」、「歴史事実 の探 究」、「時代像の構成」の四つの視点 を設 定 し、どのよ うな 目的 をもつて絵画史料 を歴史 学習 に活用 してい るのかを明 らかにす る。 読み解 きの視 点 とは、絵画史料 を読み解 く際に生徒 に よる自由な視点での読み解 きが 行 われているのか、教師 によつて設定 された枠組み、つ ま り教師 によつて固定 された視 点での読み解 きが行 われてい るのか とい うものである。読み角早きの視点 を分析視 点の一 つ に設定 した理 由は、誰 にで も読み解 くことができ、多様 な解釈 の余地があるとい う絵 画史料 固有の特性 を歴史学習 に生か している事例 は、どの程度み られ るのかを調べ るた めである。 読み解 き活動 の射程 (範囲

)に

ついては、描 かれてい るものを読み解 く「事象 の読み 解 き」、読み解 いた事象 が何 を表 してい るものか を把握す る「構 図の読み解 き」、事象・ 構 図の読み解 きを踏まえて描 かれてい る個々の事象 に関す る歴史的背景 を提える「背景 (意味

)の

読み解 き」の三つの活動 を設定す る。 ≪分析の視点≫ ①絵画史料の活用 目的は何か。

i.導

入的役割 五

.歴

史事実のイメージ化 五

.歴

史事実の探究 市

.時

代像 の構成 ②読み解 きの視点は設定 されているか。 i。 自由な視点 五

.固

定的な視点 ③ どの程度の読み解 き活動が行われているか。

i.事

象の読み解 き 五

.構

図の読み解 き 血

.背

景 (意味

)の

読み解 き 15

(18)

② 絵画史料 を活用 した授業事例 の分析 0考察 前項 の分析 の視点 を踏 まえつつ、本研 究にお ける歴史授業開発 に生か したい と考 える 二つの授業事例 の分析 について述べ る。 ア

)関

東朋之 「中世 の民衆史 ―洛 中洛外図屏風 を手がか りに 」1の分析 対象 は中学生であ り、授業 は中世のま とめの時間 として位置づ け られ ている。活用す る史料 は、「上杉本洛 中洛外 図屏風」 と「年 中行事絵巻」 の二つである。 以下に、その 内容 を述べ る。 I。 学習 目標 二つの絵画史料 を比較す ることによって、祭 りの担い手が貴族 か ら一般 の民衆 に変わ り、祭 りその ものが豪華 になってい ることを読み取 り、中世のは じま りか ら終わ りまで の変化 を史料の比較や読み解 きを とお して導 き出す こと。 Ⅱ

.授

業 の展開 (○…指示、 ≪展開

1(導

)≫

04人

グループに 「洛 中洛外図屏風」(祗園祭 の様子 と室町通 りの様子 が描かれてい る部分 をカ ラー コピー した もの

)を

配布す る。 ◆ 「この絵 は、いつ ごろ、 どこで、何 を してい るところを描 いた ものだろ う」 (生徒 の反応) ・馬宿のような人がい るし、床屋 さん もいる。職業がいろい ろあるか ら、室町時代頃 だろ う。 ・お店屋 さんが並んでいる。市がたつのは、鎌倉 時代 ぐらいか らだよね。 ・南禅寺って書いてあるよ。南禅寺って どこにある

?地

図帳で探 してみ よ う。 ・発達 してい るみたいだか ら、京都かな、堺かな。 ≪展開

2(展

)≫

○「上杉本洛 中洛外 図屏風」と祗 園祭 の説 明を行 った後 に、同 じく

4人

グループ に「年 中行事」を コピー した ものを酉己布す る。 △史料 の 「上杉洛 中洛外図屏風」 と「年 中行事」 を比較 し、双方の違 いを見つ ける。 (生徒 の反応) 。おみ こしが立派 になっている。 ・ まちがにぎや かになつてい るよ うにみえる。 ・み こしをかついでい る人が、貴族 つぱい人か ら普通 の人になっている。 《展開

3(終

)≫

◆ 「今 日の学習か ら、中世社会 は どの よ うに変化 した といえる と思 うか」 16

(19)

(生徒 の反応) ・貴族 の時代か ら、武士や民衆の時代 になった。 ・民衆 に力がつ いてきた。 ・わか らない (と ま ど う生徒 が多い) Ⅲ

.分

析・考察 ①絵画史料 の活用手段 ・・・ 時代像の構成 ②読み解 きの視点 ・・・ 固定的な視点 ③読み解 きの活動・・・事象 の読み解 き→構 図の読み解 き 展 開

1で

は、「洛 中洛外 図屏風」 をカ ラー コピー して配布す ることによつて生徒 に興 味・関心 を持たせ ることができる と考 え られ るが、教師があ らか じめ読み解 きの視点を 提示 してい るため、「なぜ ∼なのか」 とい う疑 間に至 らず 、描 かれてい る事象 を肯定的 に読み解 く活動 に留 まってお り、 これでは課題 の抽 出に もつなが りに くいであろ う。 展開

2で

は、二つの史料 の違いに着 日して読 み解 けば よいため、歴史 を苦手 とす る生 徒 で も積極的に授業 に参加す ることができると考 え られ るが、展 開

2で

は事象の読み解 きのみの読解活動 が行われ、読み解いた事象が構 図の読 み解 きへ と深化 されてい ない状 態で展 開

3に

おいて時代像 を提 えさせ よ うとしたため、展 開

3に

お ける問いの場 面で戸 惑 う生徒が多い とい う結果 になって しまった と考 えられ る。 関東氏の授業事例では、「洛 中洛外 図屏風」 を読み解 く枠組みがあ らか じめ設 定 され てお り、中世のま とめの授業 として位置づ け られてい るため、既習知識 を生か した読み 解 きが生徒 に求 め られてい る。また、時代像 を構成す る手段 として絵画史料は活用 され てい るが、関東 氏が示す 内容 か らもわか るよ うに生徒 の多 くは展 開

1や 2で

読み解 いた 事象 を、時代像 を描 く手掛か りとして うま く活用す るこ とがで きていない。 これ では、 生徒 の思考が深 まった とはいえないだろ う。 イ

)宮

原武夫「歴史教育 における思考力 の育成 ―模擬授業 「鎖国時代のアイヌ」 ―」2の 分析 この授業事例 は、教育学部 の大学生

40名

を中学生 と仮 定 した模擬授業 である。 宮原 氏 は、「研 究者の研究の過程 を生徒 が模擬的に追体験す ることは、歴史学習の本来のあ り方 である。」とし、従来 の系統的な知識 を暗記 させ る授業方法 を批判 している。また、 宮原氏 は、歴史研 究の過程 は 「事実認識、関係認識 、価値認識」の段階が想定 され るこ とを示 している。それぞれ の段 階を次 のよ うに整理 した。 17

(20)

I

事実認識 …

1研

究主体 は、 日常の生活体験・人間観 察 を生か して、研 究材料 の一つ 一つが一体何 であるのか、事実 の理解・確認 を行 う。 Ⅱ 関係認識 … 研究主体は、事実 と事実相互 の関係 を説 明す るため、研 究手段 を駆使 して認識す る価値のある問題 を解決す る。 (前段 :主観 的な推理 による仮説 の定立 後段 :概念や帰納的推論・演繹的推論 な どを駆使 して仮説 を検証) Ⅲ 価値認識 … 事実認識 と関係認識 を総合 して、現象 か ら本質 を説明す る段階であ り、 研究主体 に とって価値 ある歴史認識 を獲得す る。 この方法が「実証性 と論理性 を備 えた主体的な知識 を獲得 させ る道」で あるとし、「歴 史教育 とは、生徒 の知的な体験学習 を組織す ることであ る」とい う主張 を検証す るため、 宮原氏は絵画史料 を活用 した模擬授業 を行 つてい る。以下にその内容 を述べてい く。

I.学

習 目標 あいまいな事実か ら仮説的推論 の方法 を使 って、自分 たちの力 で関係認識・価値認識 (鎖国や アイヌの見直 し

)に

到達す る。 Ⅱ

.授

業 の展開

(6時

)(○

…教授活動、◆…発 間、△…学習活動・ 学習内容)

(1)「

変だなあ探 し」(主体的な事実認識の段階)

01枚

の肖像画 を示す。 ◆ 「この絵は、

18世

紀末の 日本 に来たある外国人の肖像画です。絵 を見て気付いた こと、変だな と思つた ことを班で話合い、学習ノー トに書いて、発表 してくだ さい。」 (生徒の反応) ①班 河野ブーツをはいている。 ②班 体の割に頭が小 さい。 ③班 爪が長い。洒落つ気がある。爪切がないのか。 ④班 服装が立派で、 目つきが鋭 く、権力 をもつていそ う。 ⑤班 髪が黒 く、毛深いか ら、寒い ところの人。 ⑥班 上着が変。膝が出て、割れているか ら。 ⑦班 厚着で、肌が出ていないか ら、寒い ところか ら来た。 ③班 ヒゲが長い。寒い ところから来た。 ⑨班 眉毛がつながっている。敵 を威嚇 している。 ⑩班 熊の毛皮の上に座 っている。 18

(21)

(2)個

性的な仮説的推論 (事実認識 か ら関係認識へ) ◆「武士が描 いた肖像画 の人物 は どこか ら来た人 (何人

)だ

と思いますか。班 で話 し 合 って “○○だか ら、△△である

"と

い う風 に理 由を付 けて答 えて くだ さい。」 (生徒 の反応) ―アイヌ人 一 ⑩班 毛皮 をもつていて、服装か ら寒 い ところの人だか ら、アイヌ人。 ③班 寒い ところか ら来た人で、鎖国時代だが、北は地続 きだか ら、アイヌ。 ①班 髪 が黒 く、肌 が黄色で、厚着だか ら、北海道 アイヌ。 一ロシア人 ― ⑦班 着物 を東洋 的だが、ブーツ 。マ ン トは寒 さに強い西洋風の服装なので、ロ シア人。 ③班 上着 の肩の模様 は ヨー ロッパ系で厚着、他 国 と交易 してるか ら、ロシア人。 日本人の常識 で (実物 よ りも

)東

洋 的に描 かれてい る。 ④班 月艮装、寒い国、ス ラブ系 に見 えるか ら、 ロシア人。 ―モ ンゴル人 一 ⑥IJI 月及装 の色、形 、柄 か らモ ンゴル人。 ②班 体格・黒髪 。ブーツか らみて、モ ンゴル人。 一その他 ― ⑤班 龍 の模様、服の色 な どか ら、中国の北方民族。 ⑨班 ベー トーベ ンのよ うなパーマの技術が優れてい るか ら、グルマン系 の人。

(3)集

団的思考 による仮説 の検討 (関係認識 の後段) △討論 1「アイヌ人 、ゲルマ ン人、ロシア人、モ ンゴル人 、中国人、五つの説 の う ち どれが正 しいか、間違 った仮説 を批判 し正 しい説 を残すために、各班 に質問の権利 を与 えます。どんな質問をす るか班 で話 し合 った後 、発表 して くだ さい。」 (生徒 の反応) ・②班の質問 「差別 されていたアイヌに、こんな立派な服があるのか。」 → ①班の回答 「これがアイヌの民族衣装だ。」 ・②班の質 問「身分 の高い武士が、差別 されてい るアイヌの肖像画 な どを描 く価 値 があるのか。」 → ⑩班の回答 「アイヌは、松前藩 と商売 を してたか ら描いたのだ。」 ・④班の質問「私が北海道で見た現代のアイヌ部落は、竪穴住居の発展 したよう 19

(22)

な もので、 こんな立派な服 を着れ る人ではない。」 → ①班の回答 「これは階級的に高い人の正装だ。」 ・⑤班の質問「アイヌは少数民族 で、人 口は少な く、階級 をつ くると民族 が成 り 立たない。」 ・②班の質 問 「日本人 ばなれの体格 を してい るか ら、アイ ヌではないのではない か 。」 → ①班の回答 「首や足 を見 ると大 き くない。十二単衣 を着た ような着太 り だか らだ。」 △各班の説 に対す る支持投票 を行 う。 (結果

)ロ

シア人

11人

、モ ンゴル・清・ 中国人 11名、アイヌ

8名

、ゲルマ ン人4名

(4)「

隠す技術」か ら 「顕す技術」 と仮説的推論 第

2時

の冒頭 に少数派 となったアイヌ説 の①班 の学生 が、図書館 にある『 北方民族』 に掲載 されていた 「夷曾列像」を発見 し、教材 との共通点 を指摘 してアイヌ説が正 しい ことを発表 してい る。 ○前時に示 した 肖像画 が、クナ シ リ・メナシの戦いの後 に松前 に来たアイヌの首長 ツ キノエであ ること、肖像画 に元 々書かれていた 「屈捺失律 総部曾長 貨吉諾謁」 の部分 を隠 していた ことを説 明す る。 ○ 肖像画 の作者 は、後 の松前藩家老 の蠣崎波響 であること、雲龍紋の服 は元や清 の天 子 の朝服で、龍 の五つの爪 は最高級 の錦織 の印であ ることを説 明す る。

(5)推

論の条件 ◆ 「鎖 国時代、 中国の錦織がアイヌに伝わったルー トとして最 も正 しいのは どれか」 ○各班で話 し合 つた後、発表 させ る。(地図は省 略 され ている)

A (長

崎 。江戸

)ル

ー ト

1班

B (日

本海沿岸

)ル

ー ト

2班

C (シ

ベ リア沿岸

)ル

ー ト

1班

D (シ

ベ リア

)ル

ー ト

4班

(各班の理 由づけは省略 :藤 原) △討論 2「中国の錦織 がアイヌに伝 わったルー トとして、正 しい説 を残 し、間違 つた 説 を批判す る質問を考 えて くだ さい。」 (生徒 の反応) 。

Dに

質問 「高級品が辺部 な ロシア経 由で手 に入 つたのか。」 → ②班 「高級 品 といつて も、北京 と交渉があ り (沿岸 州 の

)デ

レンも栄 えて 20

(23)

いたのでそ こを通 つた。」 ③班「長崎 。江戸経 由では高級品は、江戸で取 られてス トップ して しま う。」 ・

Dに

質問 「陸路 よ り船旅 のほ うが便利 だつたのではないか。」 → ⑩班 「船旅 は嵐な どの災害がある。」 ・

ABに

質 問 「松前 か らアイ ヌに高級品を流すはず がない。」 → ③班 「松前 は利益 目当てなので高級 品もアイヌヘ流す。 中国か らはアイヌ に売 る 目的で商品が きてい るか ら。」

(6)分

析 か ら総合ヘ ◆ 「アイヌは、なぜ 中国 。ロシアの服 を着て松前 に来 たのか。」 (生徒の学習 ノー トよ り)

i

中国 。ロシアがバ ックにい る と松前藩 を威嚇す るた め・ 。・11名 五 立派 な服装で権力・財力・文化 を示す ため・ ・・

12名

血 アイヌ・外 国人であることを誇示す るため・ ・・

1名

市 威圧感 を与 え対等の立場で貿易 を拡大す るた め・ 0・ 2名

v

アイヌの衣装 を棄 て戦 う意志がない ことを示す 。・・2名 宙 正式 な対外衣装 であるか ら・・・

1名

前 その他・・・

2名

.分

析・考察 ①絵画史料の活用手段 。・

0歴

史事実 の探究 自由な視点 (「変だな探 し」)

②読み解きの視′

③読み解きの活動

。・・事象の読み解 き→構図の読み解 き→背景 (意味

)の

読み解 き 一つ 目の学習 として、肖像画 を提示 し「変だなあ探 し」を行 うことに よつて、生徒の 生活体験 と興味・ 関心 に見合 つた常識 的な事実認識 を抽 出す るこ とをね らい と してお り、自由な視点での読み解 きが行 われてい る。二つ 目の問いでは、事実認識か ら関係認 識へ と発展す る段階であ り、肖像 画の人物が どこか ら来 た人物で あるのかを、読 み解い た事象 を もとに考察 してい る (関係認識①)。 ここでは、配布 され た絵画史料のみ を手 掛 か りに して考察 しなけれ ばな らず、各班 の回答 をみ る と生徒 は これまでの経験や既習 知識 を活用 しなが ら「事実認識」 と関連 させて考察 しているこ とがわか る。 また、討論

1以

降の展 開では、肖像画 の人物が身 に着 けてい る衣服に着 目す る ことに よって、鎖国 と称 され る時代 の交易が どのよ うな もので あったのかを考察 させ てお り、 ここで も 「関係認識」の前段・後段 の活動が行 われてい る (関係認識②)。 最後 の 「分 21

(24)

析か ら総合」にお けるま とめでは、「アイヌは、なぜ 中国 。ロシアの服 を着て松前 に来 たのか」が問われ 、これ までの活動 の中か ら得た知識 を活用 して考察す る者が多 く、鎖 国化 の対外 関係 の中でアイヌが どの よ うに位置づ け られ ていたのかを踏 まえて回答 し ている生徒 が大半である。 肖像画 は、事実認識 、関係認識①の段 階において活用 されてお り、肖像画に描 かれて い る人物 を明 らかにす ることに よつて「アイヌ」とい うキー ワー ドを生徒 自身に導 き出 させてい る。また、絵画史料 に描 かれてい る錦織 に着 目させ、鎖 国時代 の交易について 一通 り学習 した上で再度 肖像画 に立 ち返 り、これ まで読み解いて きた事象や既習知識 を 活用 して歴史事実 を明 らかにす るよ うな授業構成 となっているため、事象 か ら構 図の読 み解 きへ と展開 し、最終的には肖像画 には描 かれていない歴史的背景 を読み解 く活動が 行 われてい ることがわか る。

(D

南蛮屏風を活用 した授業事例 の分析・考察 ここでは、南蛮屏風 を活用 してい る二つの授業事例の分析 につ いて述べ る。授業事例

2例

の うち

1例

は、神戸市立博物館 と学校 による連携授業 であるため特異 な事例ではあ るが、南蛮屏風 を活用す る先行実践は非常に少ないため貴重 な資料 の一つであ り、また 博物館 に よる出張授業で は南蛮屏風 を どの よ うに読み解 いてい るのか を明 らか にす る こ とによつて、本研究にお ける授業モデル に活用す るこ とができると考 える。 ア

)東

京都教職研修セ ンターの事例分析 一つ 目の事例 は、東京都教職研修セ ンターの F平成

15年

度教育研究員研究報告書』3 に記載 されてい る中学生 を対象 とした検証授業である。絵画史料 を活用 して課題解決型 の学習活動 を行 うことに よつて、「生徒 が学習意欲 を高め、時代や社会 の特色 と地域の 関連性 について多角的・多面的に考察 し、自らの課題 を発 見・追究 しなが ら解決 してい く力 を育成 できる」 とし、「グループ学習 の中で世界の歴史 との関連 をもたせ なが ら考 察で きる絵画史料」 として 「南蛮屏風」に着 日している。授業内容 は、絵画 に描 かれた 人物や事物か ら時代背景や時代 の特色 を考察 し、考察 した事柄 を も とにシナ リオを作成 し劇化す る学習 を行 つてい る。 では、検証授業の内容 を以下に述べてい く。 単元名 を「戦乱 か ら天下統一へ」とし、学習指導要領 の「

(4)近

世 の 日本」にあた る。 単元設 定の理 由は、「歴史 の大きな流れ を世界の歴史や 国際関係 を背景 として とらえた 学習展開が図ることができ、生徒 が多角的 。多面的な視野 を持 って考察す ることができ る」 こと、また 「「南蛮屏風」 は登場す る人物や事物が写実的に描 かれてお り、絵 図か ら歴史的・地理 的事象 を比較 的容易 に読み取 るこ とがで きるこ と」が述べ られ、「南蛮 屏風」を活用す ることに よつて 「生徒が興味や関心をもつて多面的 。多角 的な考察 を行 い、問題意識 をもつ よ うな課題 を設定す ることが期待で きる」としてい る。学習指導計 22

(25)

画 については、報告書 に示 され てい る資料 をもとに次の よ うに整理 した。 表

5

学習指導計画

(5時

間構成) 学習 内容 学習活動 教師 の指導・ 助言活動 第   1   時 絵 画 史 料 か ら グル ー プ 内 で 課題 を発 見・追 究す る。 「南蛮屏風」を観察 して関心を持 った人物 や事 物 を探 し、気付いた ことな どを付箋 に書 きこみ拡大絵図に貼 る。 付箋 に書かれ た気付いた こ とや疑 間 に思 った ことをグループで話 し合 う。 発表 し合 つてわ か つた こ とな どをプ リン トにま とめ、シナ リオ作 りの準備 を行 う。 絵 を見 て

5WlHに

配慮 しな が ら時 代 背景 を読 み取 る よ う適 宜 助 言す る 発表 され た内容 につ いて基本 的 なこ とは補足説 明 し整理す る。 イ ンタ ビュー形式 のシナ リオづ くり の手順 を説明す る。 第   2 3   時 グ ル ー プ で 絵 画 資 料 を も と に シ ナ リオ を 作成 す る。 シナ リオづ く りを行 う。 (舞台設 定 。時代背景 。テ ーマ を決 め る、 南蛮屏風 を見 てシナ リオ を作 る、な ど) 5 WlHを踏まえ、インタビュー項 目の中に世界 と 日本 とのかかわ り を示す ものを必ず取 り入れ るよう 指示す る。 第   4   時 グ ル ー プ で 絵 画 資 料 を も と に劇化 を行 う。 班 ご とにシナ リオ の最 終確認 と リハーサ ル を行 う。 班 ご とに発表す る。 他班 は相互評価 用紙 に伝 えよ うとした こ と疑 間に思 つた こと、特 に印象 に残 った こ と等 を記入す る。 発 表 が 終 わ るご とに コメ ン トを行 つ。 教師用 の評価表 に も記入 して い く。 相互用紙 は回収 し、教 師が 目を通 し てお く。 第   5   時 相 互 評 価 の発 表 と 自 己評 価 を行 う。 。前回記入 した相互評価用紙 をもとに、他 グル ー プの発表 で良か つた点や質 問 した い こ とを発表す る。 。他 グループの発表 を受 けて、 自己評価表 を記入す る。 く記入上の留意 点

>

。疑間を解決できたか。 ・南蛮人渡来の背景 と影響 ・役 に立 った こ と 。うま くできなかった理 由 。自己評価表の質問項 目は、研 究主題 に沿つた内容にす る。 i自 ら課 題 を発 見・追究 し、解決 す る力 五多面的 。多角的 な視点 m学習 意欲 の高 ま り (東京都教職研修セ ンター

(2004)4ょ

り筆者 作成) 23

(26)

次 に、本時の展 開 として提示 されてい る第

3時

の指導案 をもとに分析 を行 う。 Ⅱ

.授

業の展開 (第

3時

) 第

3時

における授業 の展 開を以下に示す。 表

6

3時

にお ける授業展開 学習 内容 学習活動 学 習活 動 の留意 点及 び形 成 的 評価 のための評価基準 教師 の指導 。助言活動 導   入 ・ガレオン船につい ての発問・説朗 ・南蛮屏風を見なが らガ レ オ ン船 に対 す る教 師 の 質問について考 える。 。この船はどこか らきた /Jヽ? 。どんな人が乗つている か? ・船体の色は? 。日本の船ではないこと に気付力せ る。 。外国 と日本 との交流に 関心をもたせ るきつか けとする。 展   開 ◎イ ンタ ビュー形 式 で行 う劇化 の 輸 押 (ワー クシー トの ′瑚 ※各 グループに配 布するもの 。別 のコピー 4場面 。前時のワーク シー ト ・本時のワーク シー ト ・前時のワークシー ト (付箋に書いた内勾 や南蛮屏風を見ながら ワークシー トの必要事 項 を考え記入する。 ・登場人物のだれを主人 公 にす るか、本目談 して 決 める。登場人物の欄 を○で囲む。 。舞台設定や時代背景、テーマは 絵画 の 中か ら場面 を どこに設 定するか、また中心になる事柄 は何か をポイ ン トに して考 え る。また、テーマの中にヨー ロ ッパ人の来航、キ リス ト教の伝 来、新航路の開拓、 日本の貿易 の発展 の内容 を必ず一つ は取 り入れ る。 ○イ ンタ ビュー項 目の中にキ リ ス ト教 な ど世界 と 日本の関わ りを示す内容 を取 り入れ てい る力Ъ

幅考 ・判断) ・登場人物 の誰 を主人公 にす る か、舞台設定やテーマを踏まえ て考え決定する。 ○舞台設定やテーマ を踏ま えて 主人公を決定 した力、 。南蛮屏風を見ながらワ ークシー トを作成する ように強調する。 ・グルレー プの中で、班長 などに司会をさせて、 話 し合いを進めるよう 助言する。 。作業の進まないグノ プには、「南蛮屏風を見 るポイン ト(参考)」 や付箋に書いた事柄に 着 日して考えるよう助 言する。 ・インタビュー項 目と答 えがわかりやす くなっ ているか、いつ・どこ で 。誰が・何の理由で 。 どうやつて 。何 を行つ たのかをポイン トにし て仰 裁するよう指導す

I.学

習 目標 。前時に生徒が書いた付箋の内容 に関連 させなが ら、イ ンタビュー形式で行 う劇化用 のワー クシー トをグループ活動 によ り作成す ることを通 し、資料活用 について の技 能や表現力 を養 う。 ・ ヨー ロッパ人 の渡来 。キ リス ト教の伝来・南蛮貿易 といつた出来事 を、南蛮屏風を 通 して着 目させ、世界 と日本 との関わ りをシナ リオづ くりに取 り入れ ることで、ヨ ニ ロッパ人の来航についての時代や社会背景などを考察 させ る。 24

(27)

・前時に書いた付箋の内容 (南蛮 屏風を見て気付いた こと、疑問 に思つたこと)を参考にしてイ ンタビュ‐項目と答えを考え、 記入す る。 ○イ ンタビュー項 目と答 えにつ いて、いつ 。どこで 。だれが・ 何の理 由で 。どうやつて ,何 を 行 つたか を踏 ま えて作成 した 力ゝ

(思

考・判断) ○班の中で相談 し、協力 してワー クシー トが作成できた力、 (関心・意欲 。1豊

0

0世界 と 日本 の関 わ りな ど南蛮 屏風 の内容 を踏 ま えて発表 で きたか、また、わか りやす く表 現できた力、 鑽 料活用・表現) る。 (夕D)宣教師の場合 Q.あなたは、 日本に何 をしに来たのか? A.キリス ト教 を伝える た めにスペイ ンから 船で来た 。イ ンタビュ‐項 目は三 つまでと助言する。 ・ィンタビューに対する 答 えは、教科書、飢 集等を参照す るよう助 討 る。 。現場調争には、議 をは っきりとさせ、 自信を もつて答えるよ うに助 討 る。 ・ イ ンタビュー項 目と答 えを グル ープ ご とに発 封 る。 例

)A→

1班 B→2班・ … ・ ・ワークシー トの内 容の発表

(鋤

(参考

)南

蛮屏風 を見 るポイ ン ト この頃の世界の様子 キ リス ト教 の伝 来 戦国大名 と南蛮貿易 武士 日本の商人 ワー クシー トに記入 した内容が「評価基 準 」に沿つて いるか を開 硼 する。 。ワークシー トの提 出と自己評価用紙 の配布 。自己評価用紙 の提出 ・次の授業内容 の予告 。各グループごとにワー クシー トを提出 し、 自 己評価の用紙 に記入す る。 ・登場人物のセ リフ・シ ナ リオを作成する。 ・小道具の内容について 検討す る。 (東京都教職研修セ ンター

(2004)5ょ

り引用) Ш

.分

析・ 考察 ①絵画史料の活用手段 。・・時代像の構成 ②読み解 きの視点 。・ 。自由な視点 ③読み解 きの活動 。・・事象の読み解 き→構図の読み解 き→背景 (意味

)の

読み解き

導入では、ガレォン船に着日しており、船がどこから来たか、どんな人が乗っている

のかを明らかにすることによつて、ガレオン船が日本の船ではなく外国の船であること

に気づかせている。そうすることで外国と日本の交流に関心をもたせることをねらいと

しており、導入における学習活動は、展開において生徒がシナリオ作りを行 うにあたつ

25

表 8  早期 に制作 され た 四つの 「南蛮屏風」 i狩 野内膳筆 「南蛮屏風」 0申 戸市立博物館蔵 )・ ・・・・ 16世 紀末〜 17世 紀初頭 五 無落款 「南蛮屏風」 (大 阪城天守閣蔵 )。 ・・・・・・ 。・ 16世 紀末〜 17世 紀初頭 (様 式か ら狩野光信・孝信周辺 ) 血 無落款 「南蛮屏風」 (九 州国立博物館蔵 )。 ・・・・・・ 。 17世 紀前半 (様 式か ら狩野孝信 とその工房 ) 市 無落款 「南蛮屏風断簡 」 (個 人蔵 )・ ・・・・・・・・・・ 詳細な制作年代

参照

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