博 士 ( 医 学 ) 野 呂 浩 史
学位論文題名
非 観血 的連 続血 圧測 定 法( Finapres 法) を用いた 血 圧変動と脈拍数変動の呼吸性共振現象の検討
学位論文内容の要旨
I.はじめに
呼吸 反射検査は、呼吸器を入カとし心血管系(心拍、血圧)を出カとする反射系を測定する ものである。心拍および血圧の変動は呼吸周波数領域(O.14〜0. 40Hz)で共振する。この呼吸 性共 振現象は 迷走神 経を介す る圧受容 器反射 による迅 速な反応でありこの定量的評価は迷走 神経 反射の感 度の指 標となる 可能性が 高い。 今回、非 観血的に一拍毎の血圧、脈拍数を連続 測定 できる非 観血的 連続血圧 測定法(Finapres法) を利用 し、種々 の呼吸 の深さお よび呼吸 リズム形態に応じた脈拍と血圧の共振現象を検討した。
H.対象
健常 成人148例(男 性68例、女 性80例、20〜93歳、 平均年齢50.3土17.1歳)を対象とし た。糖尿病(弸)患者は、インスリン非依存型糖尿病患者75例(50〜86歳、平均年齢64.1土9.4 歳) を対象とした。聞患者全例に対して、網膜症、腎症、神経障害を検索し、これらのすべて の合 併症を有 する症 例を卜リ オパチー 群とし た。なお 、50歳以 上の健常 人79例(50〜93歳、
平均 年齢63.9土9.1歳)を 弸患者の 年齢に 対応させ た健常対照群とした。振動障害(vs)患者 は、 国有林作業者で林野庁より認定を受けた64例(47〜77歳、平均年齢61.5土6.3歳)を対象 と し た 。 検 査 時 のVS患 者 の 症 度 区 分 は 林 野 庁 分 類 のH度39例 、m度25例 で あ っ た 。 m.方法
1.方法および検討項目
フイ ンガーカ フを被 検者の第u指に 装着し 、臥位安 静呼吸 時、臥位 深呼吸 時、座位深呼吸 時の 各100拍間の脈拍数変動係数(CV―PR)、収縮期血圧変動係数(cv―sBP)、拡張期血圧変動係 数(CV―dBP)を算出して解析を行った。深呼吸は1分間に6回(5秒吸気,5秒呼気)の頻度で規則的 に 約2分 問 行 っ た 。 統 計 学 的 検 討 は 、 対 応 の な 。 、 Studenttーtestを 用 い た 。 2.VS患者の末梢循環機能検査
冷水 浸潰負荷 試験(15℃の冷水中に3分間浸漬による指尖皮膚温の冷水浸漬終了後から10分 目お よび15分目 の皮膚 温の回復 率を算 出)と皮 膚血流量 測定(常温下の指尖皮膚血流量を算 出)を行い前述した各cv値との相関を検討した。
IV.結果
1.健常人の検討
健常 人におけるcv−PRと各cv―BPの値は、臥位安静呼吸、臥位深呼吸、座位深呼吸の順に次
第に増加した。cv―PRとcvーBPとの相関をみると臥位安静呼吸時のcv―sBP以外は全てのCV―BP は、cv―PRとの間に有意(p<0.01)な正の相関を認めた。また、両者の相関係数は安静呼吸から 深呼吸にかけて増加し、座位深呼吸時のcv―PRとcv―dBP間の相関係数が0.75(p<0.Ol)と最も高 かった。cv−PRは血圧変動や呼吸の深さ等により値が変わり補正を要した。cv―PRを各cvーBPで 除した値cv―PR/CV―BPをCV―PRの補正値とした。この補正値は、健常人の安静呼吸時では約 O.8、座位深呼吸時では1.05土O. 21と極めて1.0に近似した。cv―PRは、各呼吸時すぺてにおぃ て年齢との間に有意(p<0.01)な負の相関を認め加齢とともに低下した。CV−BPは、座位深呼吸 時のCV‑・dBPのみ年齢との間に有意(p<0.Ol)な負の相関を認めた。一方、補正値は各呼吸時す べて年齢との間に有意(p〈O.Ol)な負の相関を認めた。深呼吸時の補正値は、50歳代でほば1.O を示し、若年層では1.0より大きく、高齢層では1.0未満であった。
2. DM患者の検討
cv−PRは臥位および座位深呼吸時におぃてDM患者群の方が健常群に比ペ有意(p<0. 001)の低 下を示した。各cv―BPは、臥位深呼吸のCV―dBP以外は両群問で有意差を認めなかった。一方、
補正値は臥位安静呼吸のcvーPR/CV dBP以外はDM患者群の方が健常群に比べ有意(p<0.001)の 低下を示した。座位深呼吸時における両群のCV―PRとcv―dBPの関係をみると健常群は、cvーPR とcv―dBPがほぽ等しい分布 を呈した。一方、DM患者ではcv―dBPは健常群とほば等しい分布を 呈したが、CV−PRはCV―dBPに対し相対的低下を認めた。CVーPRは、卜リオパチー群の方が、非 トリオパチー群に比べて有意(pくO.001)に低下していたが、cv―dBPは両群間に有意差を認め なかった。卜リオパチ一群のcv−PRは非卜リオパチー群よりも低く、cv−dBPに対するCVーPRの 低下がより顕著であった。
3. VS患者の検討
臥位深呼吸時におけるcv−PRおよび各cvーBPは、vs患者群では健常群に比ペ有意に低かった。
臥位深呼吸時における補正値cv―PR/CV―dBPと年齢との相関を検討するとVS群全体では両者間 に有意(P<O.01)な負の相関を認め高齢者での低下が示された。レイ丿ー現象陽性vs群も年齢 との間に有意(P<O.01)の負 の相関を認めたが、レイノー現象陰性VS群では有意の相関を認め なか った 。冷水浸漬負荷試験における10分、15分回復率および皮膚血流量と臥位深呼吸時の cv―PR値,cv一BP値との間には各々有意な負の相関を認めた。6週間当院における温泉療法を含 む各 種物 理療法、運動療法を主体とした複合治 療を行った入院vs患者36例におぃて、入院前 後 に お け る 各 種 パ ラ メ ー タ の 変 化 を 検 討 し た 結 果 、 臥 位 深 呼 吸 時 のCVーPRと 補 正 値 cv亠PR/CV−dBPは入院時に比ベ退院時には有意の増加を示した。
V‑考察およびまとめ
呼 吸性 共振現象の特徴は血圧変動が大きぃほ ど脈拍数変動も大きく共振性が増大すること にあ るた め、従来から用いられてきた脈拍数変 動単独で呼吸性共振現象を検討するのは不十 分で ある ことが示された。呼吸性共振現象から 迷走神経反射の感度の指標を得るには、脈拍 数変動と共振する血圧変動および呼吸の深度や規則性などを十分反映するパラヌータ、が必要 と 思 わ れ た 。 呼 吸 性 共 振 現 象 に お け るcvーPR、cv―dBPな どの 変動 係数 値と 共に 補 正値 cv―PR/CV←BPを加えた検討は、圧受容器反射を含む幾っかの心血管系迷走神経反射の感度をよ り正 確に 評価し得ると思われた。また、呼吸性 共振現象の検討は、DM患者では合併症の進展 度の 識別 に、vs患者ではレイノー現象の病態、 末梢循環機能や温泉療法の効果を判定するう えで有用であると思われた。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 阿岸祐幸 副査 教授 劔物 修 副査 教授 田代邦雄
学 位 論 文 題 名
非観血的 連続血圧測定法 (Finapres 法)を用いた 血圧変動と脈拍数変動の呼吸性共振現象の検討
今回、申請者は、非観血的連続血圧測定法のーつであるFinapres 法を 用いて、健常人における呼吸の深さおよぴりズム形態に応じた脈拍と血 圧の呼吸性共振現象の定量的評価が心血管系迷走神経反射の感度の指標 となるかを検討した。
その結果、
1 .健常人の検討では、
( 1 )健常人における脈拍数変動係数(以下CV ―PR) と血圧変動係数(以下 CV ーBP) は有意な正の相関を認めた。
( 2)CV ーPR は血圧変動や呼吸の深さやりズムにより値が変わり補正を要し たため、CV −PR をCV −BP で除した値をCV ―PR の補正値とした。この値は、健 常 人 の 安静 呼 吸時 では 約 O . 8 、座 位 深呼 吸 時で は 1 . O に近 似 した 。
( 3)CV −PR とその補正値は、年齢との間に有意な負の相関を認め加齢と共 に低下したが、 CV ーBP は加齢の影響を受けなかった。深呼吸時のCV ―PR の 補正値は、 50 歳代でほば 1 .O を示し、若年者では1 . 0 以上、高齢者では 1 . O 未満であった。
2 .糖尿病( Dlul) 患者の検討では、
深呼吸時のCV −PR は、健常群に比ベ有意の低下を示し、cv ―BP に対し相対 的低下を認めた。三大合併症を全て有するトリオパチー群ではCV ―BP に対 するCV − PR の低下がより顕著であった
3 .振動障害(VS) 患者の検討では、
( 1 )深呼吸時のCV ー PR およびCV ―BP は、健常群に比ベ有意に低かった。
(2) レイノー現象陽性 VS 群では、深呼吸時におけるcv −PR の補正値と年齢
との間には有意な負の相関を認めた。
(3) 末 梢 循 環 機 能 と 両 変 動 係 数 と の間 には 各々有 意な 負の 相関 を認 めた 。
(4)6週 間 、 当 院 に お け る温 泉 療 法 を 主 体 と し た 複 合 治 療 を 行 った 患者 の cv−PRと そ の 補 正 値 は 入 院 時 に 比 ベ 退 院 時 に は 有 意 の 増 加 を 示 し た 。
以 上 の 結 果 、
呼 吸 性 共 振 現 象 の 特 徴 は 血 圧 変 動 が 大 き い ほ ど 脈 拍 数 変 動 も 大 き く 共 振 性 が 増 大 す る こ と に あ り 、 血 圧 や 呼 吸 の 深 さ お よ ぴ り ズ ム の 影 響 を 受 け る 脈 拍 数 変 動 単 独 で 本 現 象 を 検 討 す る の は 不 十 分 で あ る 。 脈 拍 数 変 動 お よ び 血 圧 変 動 と 共 に 脈 拍 数 変 動 係 数 の 補 正 値 を 加 え た 本 現 象 の 定 量 的 評 価 は 、 心 血 管 系 迷 走 神 経 反 射 の 感 度 を 正 確 に 評 価 し た 。 ま た 、 本 現 象 の 検 討 は 、DM患 者 で は 合 併 症 の 進 展 度 の 識 別 に 、VS患 者 で は レ イ 丿 一 現 象 の 病 態 、 末 梢 循 環 機 能 や 温 泉 療 法 の 効 果 を 判 定 す る う え で 有 用 で あ っ た 。
試 問 に 際 し 、
劔 物 教 授 よ り 、 心 血 管 系 迷 走 神 経 反 射 の 感 度 の 指 標 に つ い て の 解 釈 、 周 波 数 解 析 施 行 の 有 無 、Finapres法 で の 測 定 上 の 注 意 点 、 相 関 係 数 の 検 定 方 法 に つ い て の 質 問 ・ 意 見 が 、 田 代 教 授 よ りDM患 者 の 神 経 障 害 の 診 断 基 準 、 神 経 変 性 疾 患 に 対 す る 自 律 神 経 機 能 評 価 法 と し て の本 法 の 有 用 性 、 呼 吸 性 共 振 現 象 と 迷 走 神 経 機 能 と の 関 連 性 に つ い て 質 問 ・ 意 見 が あ っ た が 申 請 者 は 概 ね 適 切 な 答 弁 を し た 。
以 上 に よ り 本 論 文 は 、 学 位 授 与 に 値 す る も の と 判 定 し た 。