博 士 ( 水 産 学 ) 星 野 浩 一
学 位 論 文 題 名
Phylogenetic relationships of the paralichthyid flat丘shes(Teleostei: PleuroneCtiformeS) andtheirpOSitionS WithintheSuborderPleuroneCtoidei
(ヒラメ科魚類の系統類縁関係およびカレイ亜目内における位置)
学位論文内容の要旨
ヒラメ科魚類Paralichthyidae (sensu Amaoka,1969; Ahlstrom et al., 1984; Hensley and Ahlstrom,1984)はカレ イ目 ・カ レイ亜 目に 属し、お も に 熱 帯 か ら 温 帯 沿 岸 域に 広 く 分 布 す る 底 棲 魚 類 で ある 。 本 科 に は 約 16属85種 が 知 ら れ(Nelson,1994)、 産 業 重 要 種 も 多 い。 ヒ ラ メ 科 は 、 通 常 体 側 の 左 側 に 両 眼 が あ る こ と 、 腹 鰭 基 底 長 が 左 右 と も に 短 い こ と 、 肉 間 骨 群 を 持 た な いこ と な ど で 特 徴 づ け ら れ る 。し か し 、 こ れ ら は 原 始 的 ま た は 進 化 的 な意 義 が 不 明 な 形 質 で あ り 、 ヒラ ヌ 科 の 単 系 統 性 を 示 す も の で は な い 。ま た 、 カ レ イ 亜 目 内 に お け る系 統 的 な 位 置 も 不 明 で あ る 。 こ の よ う な状 況 の も と 、 本 研 究 は 、 ヒ ラヌ 科 魚 類 の 単 系 統 性 を 検証 す る こ と 、 ヒ ラ メ 科 魚 類の カ レ イ 亜 目 内tご おける 系統 的な 位 置 お よ び 属 間 関 係 を 推定 す る こ と 、 お よ び 得 ら れ た系 統 関 係 と 整 合 する 分類 体系を 提唱 する ことを 目的 に行 われ た。
系 統 の 推 定 は 分 岐 分 類学 的 手 法(Hennig,1966)に より 、 形 質 の 極 性 は 外 群 比 較 法 で 決 定 し た。 ヒ ラ ヌ 科 魚 類 全 体 を 包 含 する 単 系 統 群 で あ る と 考 え ら れ る カ レ イ 亜目 を 内 群 、 ポ ウ ズ ガ レ イ 亜 目を 外 群 と し た 。 材 料 と し て 、 カ レ イ 目 魚類51種 を 、 骨 格 系 ・ 筋 肉 系 など の 比 較 形 態 学 的 な 観 察 に 用 い た 。 得 ら れ た142形 質 をPAUP ver. 3.Os (Swofford,
1991)を 用 い て 系 統 解 析 を 行 っ た 。 ま たACCTRAN( 変 換 促 進 ) で 形 質 を最適化した。
系 統 解 析 の 結 果 、6本 の 最 節 約 樹(TL=654,CI=0.397,RI=0.714)が 選 ば れ た 。 そ の 厳 密 合 意 樹 をFig.1に 示 す 。 こ れ よ り 、 ヒ ラ ヌ 科 Paralichthyidaeは 単 系 統群 で は ない と 結論 さ れた 。 しか し 、ヒ ラ メ科 は ダ ル マ ガ レ イ 科Bothidae( ク レ ー ドT)と あ わ せ て 、 鰓 弓 内 側 に 鰓 耙 を 持 た な い こ と な ど3形 質 で 支 持 さ れ る 単 系 統 群 ( ク レー ドJ) を 形 成する。
次 に 、 ク レ 亠 ドJ( ヒ ラ ヌ 科十 ダ ルマ ガ レイ 科 )の カ レイ 亜 目内 に お け る 系 統 的 位 置 に 関 し て は 、 こ の 単 系 統 群 は 姉 妹 群 の カ レ イ 科 「 ク レ ー ドI) と 無 眼 側 の 鼻 骨 が 小 さ い こ と な ど7形 質 を 共 有し 、 クレ ー ド Hを 構 成 す る 。 ク レ ー ドHは そ の 姉 妹 群 のScophthalmidae( ク レ ー ド G)と 第1と 第2、 第3と 第4下 尾 骨 が そ れ ぞ れ 癒 合 す る な ど8個 の 共 有 派 生 形 質 で ク レ ー ドFに 統 合 さ れ る 。 ク レ ー ドFの 姉 妹 群fク レ ー ドE)は カ ワ ラ ガ レ イ 科 、Rhombosoleidae、Achiropsettidae、べ 口 ガレ イ 科 、Achiridae、 サ サ ウ シ ノ シ 夕 科 お よ び ウ シ ノ シ 夕 科 の7科 を 含 み 、 第1神 経 弓 門 が 不 完 全 で あ る こ と な ど13形 質 で 支 持 さ れ る 。 ク レ ー ドEお よ びFか ら 成 る ク レ ー ド 。Dは 背 鰭 ・ 臀 鰭 にstayを 持 た な い な ど16形 質 で 支 持 さ れ 、 シ ナ ピ ラ ヌTephrinectes( ク レ ー ドC) と 姉 妹 群 で あ る 。 ク レ ー ドB( ク レ ー ドD十Tephrinectes)は 腹 鰭 棘 が な い こ と な ど13形 質 を 共 有 し 、 コ ケ ビ ラ ヌ 科 ( ク レ ー ドA)と と も に 、 カレイ亜目を構成する。
そ し て 、 ク レ ー ドJ( ヒ ラ ヌ科 十 ダル マ ガレ イ 科) 内 の属 間 関係 に つ い ては 、 この 単 系統 群 内に4つの 主 要 なク レ ードJl (Paralichthys)、J2 (Ancylopsetta)、J3 (Xystreurys十Verecundum)およびJ4が 見い出され た が 、 こ れ ら の 間 の 関 係 は 特 定 で き な か っ た 。 ク レ ー ドJ4内 で は 、 ダ ル マ ガ レ イ 科 ( ク レ ー ド T)に 最 も 近 緑 で あ る の は ヒ ラ メ 科 の4属 (Citharichthys,Etropus,CyclopsettaおよびSyacium)カミ形成するクレーー
ド Qで あ り 、 ク レ ー ・ ドO(Pseudorhombus十Tarphops)、Hippoglossina、 およびLiogLossinaの順でこれに次く゛。
従 来 の ヒ ラ ヌ 科Paralichthyidaeは 側 系 統 群 で あ る の で 、 こ れ を 分 類 群 と し て 残 す こ と は で き な い 。 ダ ル マ ガ レ イ 科 Bothidaeは 単 系 統 群 で あ る が 、 こ れ に 科 の ラ ン ク を 認 め る と ヒ ラ メ 科 を 多 数 の 新 た な 科 に 分 割 し な く て は な ら ず 、 分 類 学 的 な 混 乱 を 招 く 。 ゆ え に ク レ ー ド J全 体 に 科 の ラ ン ク を 与 え 、 新 た に ヒ ラ ヌ 科Bothidaeの 名 称 を 与 え る こ と が 妥当であると考えられた。クレードIおよびGにはそれぞれカレイ科
PleuronectidaeおよびScophthalmidaeの名を留めた。クレードEは7 科を含むので、クレードFおよびEに上科のランクを与え、それぞ れカレイ上科Pleuronectoideaおよびウシノシ夕上科Soleoideaとし
た 。 ク レ ー ド C( シ ナ ピ ラ ヌTephrinectes) お よ びA( コ ケ ビ ラ メ 科 ) に も そ れ ぞ れ 上 科 の ラ ン ク を 与 え 、 シ ナ ピ ラ ヌ 上 科 Tephrinectoideaお よ び コ ケ ピ ラ メ 上 科 Citharoideaと し た 。 以 上 よ り 、 次 の 新 た な カ レ イ 目 の分類体系を提唱する。
Order: Pleuronectiformesカレイ目 Family: Rhombosoleidae
Suborder: Psettodoideiボ ウ ズ ガ レ イ 亜 目 Family: Achiropsettidae Family: Psettodidaeボ ウ ズ ガ レ イ 科 Family: Samaridaeベ 口 ガ レ イ 科 Suborder: Pleuronectoideiカレイ亜目 Family: Achiridae
Superfamily: Citharoideaコケ ビラ メ上 科 Family: Soleidaeサ サウ シノ シタ 科 Family: Citharidaeコ ケ ピ ラ メ 科 Family: Cynoglossidaeウ シ ノ シ タ 科 Superfamily: Tephrinectoideaシナピラメ上科 Superfamily: Pleuronectoideaカレイ上科 Family: Tephrinectidaeシ ナ ピ ラ メ 科 Family: Scophthalmidae Superfamily: Soleoideaウ シ ノ シ タ 上 科 Family: Pleuronectidaeカ レ イ 科 Family: Poecilopsettidaeカワラガレイ科 Family: Bothidae (sensu nova)ヒラメ科
最後に、得られた分岐図上に稚魚形質および左右性の形質進化を マッピングしたところ、これらの形質は本研究の結果とよく整合し、
稚魚期における背鰭鰭条の伸長はヒラヌ科の共有派生形質であるこ と、カレイ上科内で右側眼はカレイ科の共有派生形質であることなど が推定された。
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LepidoWepharon Citharoidas macrotapis C. macrolepidotus Cltharus
arachypleura Tephrinecres Potacilopsetta Palotretis Mancopsatta Ptagiopsetta Achirus Synaptura Cynoglossus Scophthalmus thombus S. aquosus
Lepidorhombus Phrynorhombus Zeugopterus Atherasthes Reinhardtius Acanthopsstta Pla tichth ys Plauronactas platassa P. herzensteini Microstomus
* Paralichthyidae,★★ Bochidae (sensu Amaoka, 1969;
Ahlstrom et al., 1 984; Hensley and Ahlstrom, 1984)
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Fig.1. カ レ イ 亜 目 の 分 岐 図 (厳 密 合 意 樹)
お よ び 上 科 、 科 レ ベ ル の 分 類 。
学位論文審査の要旨 主 査 教授 尼岡邦夫 副 査 教授 中尾 繁 副査 助教授 仲谷一宏
学位論文題名
,Phylogenetic relationships of the paralichthyid flatfishes(Teleostei: Pleuronectiformes)and their positions within the suborder Pleuronectoidei
(ヒラメ科魚類の系統類縁関係およびカレイ亜目内における位置)
ヒラメ科魚類(Paralichthyidae)はカレイ目に属し、おもに熱帯から温帯沿岸域 に広く分布する底棲魚類で、約16属85種が知られ、産業重要種も数多く含まれ ている。本科魚類は体の左側に両眼があること、腹鰭基底長がともに短く、ほとん ど左右相称であること、および肉間骨を持たないことなどで特徴づけられている。
しかしながら、これらの形質の評価は十分なされていないため、ヒラメ科の単系統 性は疑われている。また、本科魚類の系統的位置と属間関係も不明のままである。
本研究はヒラメ科魚類の単系統性を検証すること、本科魚類の系統的位置を明ら かにして属間関係を推定すること、および得られた系統関係と整合する分類体系を 提唱することを目的として行われた。本研究はカレイ目魚類51種の骨格系、筋肉 系などを比較観察し、得られた142形質に基づき、分岐分類学的手法によって系 統解析を行い、カレイ亜目魚類の厳密合意樹(分岐図)を構築した。極性はカレイ 亜目を内群、ポウズガレイ亜目を外群として決定された。結果を要約すると次の通 りである。
1.単系統性について:従来のヒラメ科Paralichthyidaeは単系統群ではなく、
ダルマガレイ科と合わせることにより、単系統群のヒラメ群(クレードJ)を形成 す る 。本 群は鰓 弓の 内側 に鰓耙 を持 たな いこ となど の3形質 で支 持さ れる 。 2.ヒラメ群のカレイ亜目内での系統関係について:本群はカレイ科魚類と姉妹 群関係にあり、両者は無眼側の鼻骨が小さいことなどの7形質を共有するクレード Hを形 成す る。 クレ ードHは 第1と第2お よび 第3と第4下尾骨がそれそれ癒合す る など8形 質を 共有することでScophthalmidaeと姉妹群関係を築き、クレード
Fを形成 する。本クレードは第1神経弓門が不完全であるなど13形質で支持され るウ シノ シタ科 など の7科( クレ ードE)と姉 妹群 関係 を結 び、ク レードDを構 成す る。 クレー ドDは背 鰭と 瞥鰭 にstayを持たないなどの16形質で支持され、
シナ ビラメと共にクレードBを形成する。クレードBは腹鰭に棘が無いなどの13 形 質 を 共有 し 、 コ ケ ピ ラ メ 科 ( ク レ ードA)と 共 に カ レ イ 亜目を 構成 する 。 3.ヒラメ群(クレードJ)内の属間の関係について:本群内にJl (Paralichthys 属),J2(Ancy畑sefぬ属),J3(勵sむeUr.膠属十玖珊cu口d…属)およびJ4(その 他の属)の4本の主要なクレードが見られたが、これらの関係は特定できなかった。
J4内 では さらに 分岐 が生 じ、a曲adぬ 曲卩,属は目む叩Us属と、のdめsefぬ属 はめ偲du皿属とそれぞれ姉妹関係を有し、両者はクレードQを形成する。クレー ドQの姉妹群はダルマガレイ類(従来のダルマガレイ科)のクレードTで、両者は クレードPを形成する。クレードPの姉妹群はガンゾウビラメ属とアラメガレイ属 からなるクレードOである。両者をまとめるクレードNは胃Z即昭わ鯔t口a属のみ から なる クレー ドMと姉 妹群 であ る。 クレー ドNとMは クレ ードLを 形成する。
クレードLは己めど′DssZなa属からなるクレードKと姉妹関係を有し、クレードJ4 で支持される。
4.分類体系について:従来のヒラメ科は側系統群であることが判明したので、
これを科として残すことは不可能である。従来のダルマガレイ科を取り込んだクレ ードJにヒラメ科のランクを与えることが、もっとも妥当である。クレードIおよ びク レー ドGには それぞ れカ レイ 科お よびScophthalmidae科を置 き、これら3 科をまとめるクレードFに対し、カレイ上科P1euronectoideaを新設した。一方、
クレ ードEに カワ ラガレ イ科 、Rhombos01eidae科、テナシビラメ科、ツキノワ ガレイ科、Achiridae、ササウシノシ夕科およびウシノシ夕科の7科を含ませ、そ れら をまとめてウシノシタ上科Soleoideaとした。さらにクレードCにシナビラ メ上科Tephrinectoidea、クレードAにコケピラメ上科Citharoideaを新設した。
っまりカレイ亜目を4新上科にまとめ、それらに12科を配置する新分類体系を確 立した。
5.得られた分岐図の整合性について:稚魚形質および眼の位置の左右性の形質 進化から検討した結果、稚魚期の背鰭鰭条の伸長はヒラメ科の共有派生形質である こと、カレイ上科では右側眼がカレイ科の共有派生形質であることが推定され、本 研究結果とよく整合した。
以上により申請者の研究成果は魚類の系統分類学および水産学の分野において 大きく貢献したものと高く評価され、審査員一同は、本研究の申請者が博士(水産 学)の学位を授与される十分な資格を有すると判定した。