博 士 ( 医 学 ) 牧 野 隆 雄
Effects of Angiotensin‑Converting Enzyme Inhibition and Angiotensin n Type l Receptor Blockade on ,8‑Adrenoceptor Signaling in Heart Failure Produced byMyocardial Infarction in Rabbits : Reversal of Altered Expression of )8‑Adrenoceptor Kinase and Gia
(ウサギ心筋梗塞後の心不全モデルにおける心筋アドレナリンp 受容体 情 報伝 達機 構の変 化に 対す るア ンジオ テン シン 変換 酵素阻 害薬 及び ア ン ジ オ テ ン シ ン n 夕 イ プ 1 受 容 体 拮 抗 薬 の 効 果 )
学位論文内容の要旨
I. 背 景
種々の原因による心不全時には低下した血行動態を維持するために交感神経活性が亢進 している。しかし、持続した交感神経刺激はp受容体密度の低下 (down‑regulation)、受容 体と促進生GTP結合蛋白(Gヨ)の親和性の低下(functional uncoupling)をもたらし、そ の結果、脱感作(desensitization)と呼ばれるp受容体シグナルの反応性の低下が認められ る。この過程にはp‑adrenergic receptor kinasel(pARKl)の発現増加、活性化が重要な役 割 を果たし ている。 更に抑制 性GTP結合蛋白 (Gi)の増加も反応性の低下に関与してい ると言われている。
また、心不全時にはrenin‑angiotensin(RA)系も活性化しているが、交感神経系とRA 系は相互に関係 ̄しているため、RA系を抑制する薬剤が交感神経系にも影響を及ぼすと考 えられる。実際、angiotensin converting enzyme(ACE)阻害薬による交感神経活性の低下 やp受容体down‑regulationの抑制などの報告がある。通常、ACE阻害薬の効果はangiotensin
II(Ang II)の生成を抑制することによると考えられるが、同時に分解が抑制され蓄積す
るbradykininによる心血管系保護効果も認め、angiotensin II typel受容体(ATI受容体)
拮抗薬との違いも指摘されている。しかしながら、慢性心不全患者に対する大規模臨床試 験では両薬剤は同等の有効性を示している。
IL 目 的
心不全時の心筋細胞のp 受容体情報伝達機構の変化に対するACE 阻害薬とATI 受容体 拮抗薬の影響、差違を検討すること。
III. 方 法
心不全モデルとして雄性ニュージーランド白色ウサギ(2‑2.5 kg)の左冠動脈回旋枝を 結紮し、心筋梗塞モデルを作成し、無治療群、塩酸テモカプリル群(0.5 mg/kg/day、p.o.)、
バルサルタン群(3 mg/kg/day、p.o.)に分け、コントロールとしてsham群を作成した(各
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群n 5)。3週間 後に 血行 動態 測定 及び 心エ コ ー評 価を 行い 、血 中ノ ルエ ピネ フリ ン値 測 定の ため 採血 した 後、心臓摘出。引き続き心室重量(左 室/体重比、右室/体重比)、梗塞 サ イ ズ を 測 定 し た 後 、 左 室 非 梗 塞 領域 の心 筋 細胞 膜蛋 白標 品を 作成 し、p受容 体binding assay、GTP結 合蛋 白(GSa丶Gi。)及びpARKlのWestern blotting、adenylate cyclase活性の 測定 を行 ない 、こ れら の変 化及 び薬 物 処置 の影 響を 検討 した 。
IV. 結 果
梗 塞 サ イ ズ は30% 前 後 で 梗 塞 モ デ ル3群 聞 で 差 は 認 め な か っ た 。 心 拍 数 は4群 間 で 有 意差 は 認め なか った 。梗塞無 治療群で対照と比較して収縮期血圧の有意な低下を認め たが、
拡張 期 ・平 均血 圧に 差は 認め なか った 。ま た、 両薬 剤投 与群 と も梗 塞無 治療群と比 較する と 有 意 な 血 圧 変化 は 認め なか った 。体 重は4群 間 で差 を認 めな かっ たが 、心 室重 量/ 体重 比 は 梗 塞 無 治 療群 で 左室26% 、右 室52%と とも に有 意な 増加 (pく0.01)を 認め 、薬 剤投 与群 で はい ずれ もそ の変 化は 有意 に抑 制さ れた 。心 エコ ーで は 梗塞 無治 療群で対照 と比較 してLVDd、LVDsの増 加(pく0.01) 、EFの低 下(pく0.05)を 認 めた が、 薬剤投与群 では心 内 径 増 加 は 有 意 に 抑 制 さ れ 、EFも 改 善 傾 向を 認 めた 。心 拍出 量は 有意 差は 認め なか った が 、EFと 同 様 の 傾 向 を 認 め た 。 下 大 静 脈 から 採 血し た血 漿ノ ルエ ピネ フリ ン値 は梗 塞無 治療 群 で対 照と 比較 して 約3倍と 有 意に 上昇 (pく0.0I) して い たが 、薬 剤投与群で は対照 とほほ同等程度まで低下してい た。
p受 容体binding assayでは 標識化合物としてl25l̲cyanopindololを用いた。結合飽 和実験 から 求 めたBmaーっ まり 最大結合能は梗塞無治療群で約30%の減少(pく0.05)を認め たが、
薬 剤 投 与 群 で は い ず れ も こ のdown‑regulationを 抑 制 し た 。 非 放 射 性 リ ガ ン ド と し て isoproterenolを用 いた 結合 阻害 実 験で はisoproterenolに対し異なる親和性を示す2つの結 合部 位 の存 在を 認め たが 、各 群の 平均 を求 める と梗 塞無 治療 群 で高 親和 性の割合の 有意な 低 下 (pく0.05)を 認 め 、 受 容 体‑G蛋 白 のuncouplingが示 唆さ れた 。薬 剤投 与群 では その 割合 の 低下 は対 照と 差の ない 程度 まで 抑制 され た。Adenylate cyclase活性は基礎活 性にお い て 梗I塞 無 治 療 群 で は 他 の3群 と 比 較 し て 低 下 し て い た 。 ま た 、pア ゴ ニ ス ト で あ る isoproterenol刺激 では 広い濃度範囲にわたり梗塞無治療 群でadenylate cyclase活性 は低下
(pく0.05)し てい た が、 薬剤 投与 群で は回 復し てい た。G蛋白 レベ ルを 刺激 するGppNHp、 adenyiate cyclaseを直接刺激するforskolin誘導体であるcolforsin daropate刺激では梗塞無 治療群で低下傾向を認めるもの の、有意差は認めなかった。
Westem blottingにお いてpARKlの発 現は 梗塞 無治療群 で約2.1倍の増加(pく0.01)を認 め、 薬 剤投 与群 では その増加 は有意に抑制された。Gヨ。 の発現は4群間で差は認めな かった が、Giaは 梗塞 無治 療群 で約2.3倍 に増 加(pく0.01)し、薬剤投与群ではその増加は 有意に 抑制された。
V. 考 察
本実 験で は心 筋梗 塞後 の心 肥大 ・ 心拡 大等 の心 室リ モデ リン グ及 びヒトの不全心と同様 のp受 容 体 情 報 伝 達 機 構 の 変 化 が 認 め ら れ た 。 ま た 、ACE阻 害 薬 及びAT1受 容体 拮抗 薬投 与 に よ ル リ モ デ ル ン グ の 抑 制 に 加 え て 、 上 記p受 容 体 情 報 伝 達 機構 の 異常 も改 善し た。
交 感 神 経 終 末 に お い てAng IIはAT1受 容 体 を 介 し て ノ ル エ ピ ネフ ル ン放 出を 促進 し、
交 感 神 経 活 性 の 亢 進 に 働 く と 言 わ れ てい る。 心不 全時 には 全身 性に 加 えて 組織RA系 も亢 進 し 、 交 感 神 経 活 性 化 に 寄 与 す る が 、ACE阻 害 薬 .AT1受 容 体 拮 抗 薬 に よ り そ の 活 性 化 が 抑制 され たと 考え られ る。 その た め本 実験 では 、一 般に 持続 した 交感神経刺激により生 じるp受容体desensitization(down‑regulation、functional uncoupling)が抑制されたと考え
以上より本実験においてACE 阻害薬及びAT1 受容体拮抗薬は同等に心不全における交 感神経活性亢進を抑制し、p 受容体情報伝達機構の異常を改善することが証明され、この
anti‑adrenergic作用が両薬剤の心機能・予後改善効果の一因であることが示唆された。
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学位論文審査の要旨
学位 論文題名
Effects of Angiotensln―COnVertingEnZymeInhibition andAngiotenSinnTypelReCeptorBlOCkade
Onp−AdrenOCeptorSignalinginHeartFailureProduCed byMyOCardia1工nfarCtioninRabbitS:ReVerSal 0fAlteredEXpreSSlonofp−AdrenoCeptorKinaSeandGiば
( ウ サ ギ 心 筋 梗 塞 後 の 心 不 全 モ デ ル に お け る 心 筋 ア ド レ ナ リ ンp受 容 体 情 報 伝 達 機 構 の 変 化 に 対 す る ア ン ジ オ テ ン シ ン 変 換 酵 素 阻 害 薬 及 ぴ ;ア ンジオテンシンH夕イプ1受容体拮抗薬の効果)
心不 全時 には 低 下し た血 行動 態を 維持 するため交感神経 活性が亢進しており、その結 果 、脱 感作 と呼 ば れるp受 容体 シグ ナル の反 応性の低下が認められる。この過程にはB・ adrencrgicreceptorkm総el(pARK1)の増加、抑制性G蛋白(Gi)の増加が関与してしゝる。
ま た、 心不 全時 に はrcmn‐ 孤餌otensm(RA)系も活性化し ているが、交感神経系とRA系 は 相 互 に 関 係 し て お り 、RA系 の 抑 制 が 交 感 神 経 系 に も 影 響 を 及 ぼ す と考 えら れる 。 An酉oめnsmconvcningcnZyme(ACE) 阻 害 薬に よる 交感 神経 活性 低下 やp受 容体down. regulation抑制 などの報告があ るが、この効果がATl受容体 を介した機構に基づくものか は 明確 には なっ ていない。本研 究では心不全時の心筋細胞のp受容体情報伝達機構の変化 に 対 す るACE阻害 薬とATl受 容体 拮抗 薬の 影響 及び 差違 を 検討 する こと を目 的と した 。 心 不全 モデ ルと し てウ サギ の心 筋梗 塞モ デルを作成し、無 治療群、テモカプリル群、パ ル サル タン 群に 分 け、 対照 とし てsham群 を作 成し た。3週間 後に 心エ コー評価、血行動 態 及び 血中 ノル エ ピネ フリ ン(NE) 値測 定をした。心臓摘 出後、心室重量、梗塞サイズ
秀 顕
哲
慶
田 畠
藤
安 北
丸
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
較レ 収縮 期 血圧 の有 意な 低下 を認 めた が、 拡張期・平均血圧に差はなかった。また 、両 薬剤投与群とも梗塞無治療群と比 較し有意な血圧変化はなかった。心室重量/体重比は梗 塞無 治療 群 で左 室、 右室 とも に有 意に 増加 し、薬剤投与群ではいずれもその変化は 抑制 された。心エコーでは梗塞無治療群でLVDd、LVDsの増加(pく0.01)、EFの低下(pく0.05) を認 めた が 、薬 剤投 与群 では 心内 径増 加は 有意に抑制され、EFも改善傾向を認めた 。心 拍 出 量 に 有 意差 はな かっ たが 、EFと同 様の 傾向 を 認め た。 血中NE値 は梗 塞無 治療 群で 約3倍に上昇(pく0.01)したが、薬剤投与群では対照と同程度であった。p受容体binding assay の結 合飽 和 実験 から求めた最大結合能は梗塞無治療群で 約30%の減少(pく0.05)を 認め たが、薬剤投与群ではこのdown‑regulationを抑制した。結合 阻害実験ではisoproterenol に対 し異 な る親 和性 を示 す2つの 結合 部 位が 存在 し、 梗塞 無治 療群 で高親和性の割 合の 低下 (pく0.05)を認め、受 容体‑G蛋白のuncouplingが示唆された。薬剤投与群では その 割合の低下は抑制された。̲Adenylate cyclase活性は梗塞無治療群で基礎活性の低下を認め た。Isoproterenol刺激では梗塞無治療群でadenylate cyclase活性は低下(pく0.05)してい たが 、薬 剤 投与 群で は回 復し てい た。G蛋白 を刺 激す るGppNHp、adenylatecyclascを直 接刺 激す るcolfbrsmdaropate刺激では有意差を認めなか った。Wbstemblo仕血gではBARK1 及びGi。は梗塞無治療群で有意な増加(pくO.Ol)を認め、薬剤投与群ではその増加は抑制 された。Gs。の発現に差は認めな かった。以上の結果より、ウサギ心筋梗塞モデルで認め ら れ たp受 容 体 シ ス テ ム の 変 化 はAT1受 容体 拮抗 薬治 療に てACE阻害 薬と 同等 に抑 制さ れ、 この 効 果はATl受容 体を 介し た交 感 神経 活性 亢進 の抑 制効 果に よるものと考え られ た。また、このami−adrenergic作用が両薬剤の心機能、予後改善効果の一因と考えられた。
口 頭発 表 に際 し、 副査 の丸 藤教 授か ら必MP以降のシグナルの変化、Gi。蛋白発現 増加 の機 序及 び 大規 模臨 床試 験の 結果 との 関連 について質問がなされた。次いで主査の 安田 教授 から 実 験で 用い た心 筋梗 塞モ デル の血 行動態、投与した薬剤の用量、両薬剤の 作用 機 序 の 違 い につ いて 質問 がな され た。 最後 に副 査 の北 畠教 授か らRA系と 交感 神経 系の cross‐talk部 位、血中NE濃 度低下の機序、両薬剤の併用療法の有用性について質問 がな され た。 い ずれ の質 問に 対し ても 、申 請者 は過去のデ一夕や関連論文を引用し、概 ね妥 当な回答を行った。
こ の論 文 は、RA系 を抑 制す る薬 剤の 交感 神経系に及ばす影響及びその機序を明ら かに したものとして意義のあるものと 評価され、審査員一同は、これらの成果を高く評価し、
大学 院課 程 にお ける 研鑚 や取 得単 位な ども 併せ申請者が博士(医学)の学位を受け るの に充分な資格を有するものと判定した。
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