学童におけるHDLサブクラス構成と 内臓脂肪蓄積に関する研究
日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系小児科学専攻
大熊 洋美 2014 年
指導教員 岡田 知雄
学童におけるHDLサブクラス構成と 内臓脂肪蓄積に関する研究
日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系小児科学専攻
大熊 洋美 2014 年
指導教員 岡田 知雄
目次
ア) 概要 ... 1
イ) 緒言 ... 3
第1節 研究の背景 第
1項 日本人における心血管疾患 ... 3
第
2項 脂質代謝のメカニズム ... 4
第
3項 インスリン抵抗性と脂質代謝 ... 5
第
4項 内臓肥満と脂質代謝 ... 5
4-1
内臓肥満と高
TG血症 ... 6
4-2
内臓肥満と低
HDLC血症
... 7
第
5項 メタボリックシンドローム(MetS)と脂質代謝
... 8第
6項 研究の意義 ... 9
第
2節 脂質測定 ... 10
2-1 脂質測定法 ... 10
2-1-1 HPLC
法 ... 11
2-1-2 直接法(酵素法) ... 12
2-2 Non-high-density lipoprotein cholesterol
(non-HDLC) ... 13
第
3節 腹囲、腹囲身長比 ... 13
第
4節 研究の目的
... 15ウ) 対象と方法 ... 16
第
1節 対象 ... 16
第
2節 測定項目と方法 ... 17
2-1 身長と体重 ... 17
2-2 腹囲、腹囲身長比 ... 17
2-3 脂質測定 ... 17
2-4 インスリン抵抗性 ... 18
2-5 MetS ... 18
第
3節 インフォームドコンセント ... 19
第
4節 統計処理 ... 19
エ) 結果 ... 20
第
1節 対象の特徴 ... 20
第
2節
HPLC法による
HDLサブクラス特性
... 20第
3節 各
HDLサブクラスにおけるコレステロール濃度と 各測定値との関係 ... 21
第
4節
HDLサブクラスと
MetSの診断項目との関係 ... 23
オ) 考察 ... 23
カ) まとめ ... 28
謝辞 ... 29
表 ... 30
図 ... 34
図説 ... 42
文献 ... 44
1
ア) 概要
【背景】心血管疾患は動脈硬化を基盤とする疾患であり、我が国では死亡原因 の高い割合を占める。この動脈硬化を急速に進展させる原因の1つがメタボリ ックシンドローム(MetS)である。そして、
MetSに認められる内臓脂肪蓄積、
脂質異常症、耐糖能異常、高血圧はすでに学童期から始まっている。動脈硬化 性疾患の危険因子を学童期から是正することで、動脈硬化の進展を予防し、さ らには将来の心血管疾患の発症を予防できる可能性がある。
過剰な内臓脂肪蓄積においては、血中トリグリセリド(TG)値は上昇し、
HDLコレステロール(HDLC)値は低下する。また、近年、LDL サブクラス中の粒 子サイズが小さく比重の大きい
small dense LDLがさらに強い動脈硬化の危険 因子であり、内臓脂肪蓄積と関連することが指摘されている。一方成人では、
大粒子
HDLサブクラスは心血管病の防御因子であることが認識されている。従 って、血中の
TG値とコレステロール値だけでなく、LDL や
HDLサブクラス 特性は
MetSや動脈硬化の潜在的リスクの早期判定としての評価指標となりう ると考えられる。
【目的】学童においてリポ蛋白サブクラスでは、small dense LDL が強い動脈
硬化の危険因子であるという報告は散見されているが、
HDLサブクラスについ
ての報告は少なく、どのレベルで障害され低下しているのか、また内臓脂肪蓄
積により増加した
VLDL-TGなどの
TG-richリポ蛋白との関係について、未だ
明確に解明されていない。そこで、学童における
HDLサブクラスへの内臓脂肪
蓄積やインスリン抵抗性の影響について検討した。
2
【方法】対象は平成
21年
9月に小児生活習慣病健診に参加した学童
164名(男 児:女児=79 名:
85名、
10.9±1.6(平均±標準偏差)歳)である。腹囲身長比、
血清脂質、
HOMA-IRを測定した。男女とも腹囲身長比≧0.5 を内臓脂肪蓄積(内 臓肥満)と定義した。HDL サブクラス分画像は、HPLC 法を用いて解析し、5 つのサブクラス(very large、large、medium、small、very small)中のコレ ステロール濃度を測定した。
【結果】男女とも内臓肥満群において、very large、large、medium HDLC の 各値は低下し、
TGと
HOMA-IRは高値を示した。腹囲身長比は
very large(男 児: r=-0.5306, p<0.0001; 女児: r=-0.3483, p=0.0011)、
large(男児: r=-0.6168,
p<0.0001;女児: r=-0.4387, p<0.0001)、medium HDLC (男児: r=-0.4170,
p=0.0001;女児: r=-0.4116, p<0.0001)と逆相関した。重回帰分析にて腹囲身長 比は男児では
very large、large、small、very small HDLC値の、 女児では
large、medium HDLC
値の独立した説明因子であった。MetS の診断項目数が増加す
ると
very large HDLC、large HDLC、medium HDLCの各値は減少した。
【考察】学童において、内臓肥満は動脈硬化促進性の
HDLサブクラス特性に関
与することが示唆された。インスリン抵抗性や高
TG血症の直接作用ばかりで
なく、内臓肥満それ自体でも
HDLサブクラス特性に変化をおよぼす可能性があ
り、小児期から心血管病の予防と管理の重要な標的となると考えられた。
3
イ) 緒言 第1節 研究の背景
第1項 日本人における心血管疾患
心血管疾患は動脈硬化を基盤とする疾患であり、平成
24年の厚生労働省調査 による人口動態調査では、日本人の心疾患
27.9%と脳血管疾患9.7%を合わせた心血管病による死亡割合は悪性新生物による死亡割合
28.7%を上回っている。メタボリックシンドローム(MetS)に代表される、内臓脂肪蓄積、脂質異常症、
耐糖能異常、高血圧などの動脈硬化性疾患の危険因子を是正することで、動脈 硬化性疾患の発症や進展を予防し、粥状動脈硬化病変を退縮させることが多く 報告されている【1, 2】。小児の肥満は、成人の肥満のもととなり、特に年長児 の肥満は、成人の肥満に移行しやすい。幼児期で
25%,学童期で
40%,思春期
肥満で
70-80%が成人肥満に移行する【3】。思春期以降になると、成長が止まり、生活習慣が定着することから、進行した肥満をもとに戻すことは大変難しくな る。逆に、成長期には身長が伸びるため肥満が解消されやすい。つまり、学童 から徹底した肥満予防を開始することで、動脈硬化性疾患の危険因子を是正し、
さらには将来の心血管疾患を予防することになる。
4
第2項 脂質代謝のメカニズム
リポ蛋白とは、血中で水に不溶な脂質(トリグリセライドやコレステロール)
を吸収部位(小腸)と合成部位(肝臓)から末梢組織へ運搬するための複合体 粒子である。その構造は、コレステロールエステル(CE)とトリグリセライド
(TG)からなる中心部(コア)とアポリポ蛋白とリン脂質、遊離コレステロー ルからなる表層部をもったミセル様粒子である【4】 。
コレステロールはリポ蛋白と呼ばれる粒子に含まれており、リポ蛋白には由
来や機能の異なるいくつかのクラスが存在する。現在リポ蛋白分類の基本とさ
れている、比重による超低比重リポ蛋白(VLDL)
,低比重リポ蛋白(LDL)
,高
比重リポ蛋白(HDL)はおおまかに電気泳動の
preβ, β, α-リポ蛋白に対応
している【5】。リポ蛋白の主な機能は、脂質の運搬である。小腸から分泌され
たカイロミクロン(CM)はリポ蛋白リパーゼ(LPL)の作用で
TGが分解され
CMレムナントとなり、速やかに肝臓に取り込まれる。肝臓から分泌された
VLDLは、LPL の作用で
TGが分解されサイズが徐々に小型化し、VLDL から
中間比重リポ蛋白(IDL)から
LDLに変換され、最終的に
LDLレセプターに
より肝臓や全身の組織に取り込まれる(図
1)【6】。HDLは、肝臓や小腸から
分泌される原始
HDLや
TG richリポ蛋白(CM や
VLDL)にLPLが作用して
生じる分解産物を材料として血中で生成する。末梢組織から、肝臓へコレステ
ロールの逆転送に機能し、抗動脈効果作用があるとされている(図
2)【7】。5
第3項 インスリン抵抗性と脂質代謝
インスリン抵抗性を生じると、本来インスリン作用の少ない空腹時などに作 用するホルモン感受性リパーゼ(HSL)の活性が常に亢進する【8】。インスリ ン依存性の酵素である
LPL活性の低下を生じ、TG rich リポ蛋白の異化が停滞 し高
TG血症を呈するだけでなく、脂肪組織から遊離脂肪酸(FFA)の血中へ の放出を促進する【9】。そして、門脈中の高インスリン血症により脂肪組織か ら放出された
FFAと高血糖による高濃度のブドウ糖が肝臓での
TGの合成を促 進する。FFA は、肝臓に取り込まれると
acyl- CoA synthetase(ACS)の作用により
acyl-CoAに代謝され、
glycerol-3-phosphateと結合し
TGとなる【10】。
肝臓内の
TGは
microsomal triglyceride transfer protein(MTP)により粗面 小胞体に輸送され、 アポ
Bと会合し
VLDLとして肝臓から放出される 【10,11】 。 インスリン抵抗性があると、高インスリン血症による門脈中の
FFAの増加に加 え、
ACS活性の増加および
MTPの増加により
TGおよび
VLDL合成が亢進し、
TG rich VLDL
が増加する。
第4項 内臓肥満と脂質代謝
小児の場合、中等度以下の肥満では、脂質代謝異常は必ずしも明らかではな
い。しかし、近年の高脂肪食の摂取などの生活習慣の変化に伴い、小児肥満は
増加し、特に高度肥満において、成人の
MetSと同様に脂質代謝異常が顕著に
認められるようになった。
6
過去の検討で、静岡県伊東市における
9-16歳の肥満児と非肥満児の年代別で の脂質異常の検討結果から、小学校低学年から肥満と高
TG血症ならびに低
HDLコレステロール血症との関係を認め、肥満と高
LDL血症は高学年になっ て明らかになるという傾向を示した【12】。肥満になると、リポ蛋白代謝が活 性化され脂質合成がさかんになり、肥満の程度が進むと内臓脂肪の蓄積がおこ る。また、インスリン抵抗性を基盤とした脂質代謝異常が引き起こされる。
4-1 内臓肥満と高TG
血症
肥満で出現する血清脂質異常はコレステロールに富むリポ蛋白である
LDLの増加よりも、むしろ
TGに富むリポ蛋白であるレムナントリポ蛋白の増加が 主体となるため血清
TG値は増加する。
高
TG血症は、肝臓における
TG-richリポ蛋白の過剰産生、あるいはそれに
伴う
TG richリポ蛋白の血中からのクリアランス障害(血中におけるデグラデ
ーション、異化の傷害)によっておこる【9】。インスリン抵抗性存在下の脂質 代謝と同様、肥満による内臓脂肪蓄積により、内臓脂肪から多量の
FFAが門脈 中に放出される。
FFAが肝臓内に取り込まれると
acyl- CoAを触媒する
ACSの 活性が亢進し、TG の合成も促進され、肝臓から
TG-richリポ蛋白の
VLDL合 成分泌が亢進する【10】。また、肥満の場合摂取する糖質や炭水化物も多くな り、それらが小腸で吸収され、FFA と同様に門脈を介して肝臓に作用し、脂質 合成の転写因子で、栄養過多で活性化する
sterol regulatory element-bindingprotein 1c(SREBP-1c)を誘導し、脂肪酸や TG
の合成が促進される【13】。
7
また、肝臓での
stearoyl-CoA desaturase(SCD)活性も亢進している【14】。これにより
1価の不飽和脂肪酸のパルミトレイン酸やオレイン酸の産生が増加 し、VLDL 産生促進に貢献していると考えられる。
4-2 内臓肥満と低HDLC
血症
HDL
値に影響を与えているのは
TGであり、
HDLC値は
TG値に逆相関する。
TG
代謝に大きな影響を与える成因の一つとして、コレステロールエステル転送 蛋白(CETP)がある。
CETPにより
VLDL中の
TGと
HDL中のコレステロー ルエステル(CE)の脂質交換が行われ、この結果
HDLが
TG richとなる【7】。
HDL
に取り込まれた
TGの一部は、さらに
LDLに移されるが、多くの
TG rich HDLが直接肝臓に取り込まれるため
HDLCが減少する【15】。また、VLDL が増加するとその分解産物である
HDLは減少し、血管壁に蓄積したコレステロ ールが血管外へ搬送されにくくなる。インスリン抵抗性によって増加した
FFAの中で不飽和脂肪酸が
ATP binding cassette transporter A1(ABCA1)の分解 を促進することで、HDLC が低下する可能性が報告されている【16】。 また、
高
TG血症の存在下では
hepatic triglyceride lipase(HTGL)活性が
HDL低下
に重要である【17】。過去の研究結果からも、肥満小児の体重と
HTGLは有意
な正相関を示している【12】。
8
第5項
MetSと脂質代謝
MetS
は、インスリン抵抗性を背景とし、内臓脂肪蓄積、脂質異常症、耐糖能 異常、高血圧の危険因子が特定の個人に三つ以上集積した病態である。これま でに報告されている種々の地域のデータから、我が国の小児(6-15 歳)の
MetSの頻度は小児全体の
0.5-3%、肥満児の中の5-20%程度と推定される【18】。
MetSの基本病態は過剰な内臓脂肪蓄積であり、過剰に蓄積された内臓脂肪からは、
FFA
やインスリン抵抗性を惹起させる
Tumor Necrosis Factor-α( TNF-α)、 慢性炎症の原因となる
Interleukin-6(IL-6) 、高血圧を引き起こすアンジオテン シノーゲン、血栓傾向をきたす
Plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)などの動脈硬化促進性のアディポサイトカインが大量に分泌される。一方、抗動 脈硬化作用やインスリン増強作用を有するアディポネクチンの分泌量は低下す る。
前述のように、内臓肥満によりインスリン抵抗性を基盤とした脂質代謝異常 が出現し、高
TG血症、低
HDLC血症が出現する。また、VLDL にも変化が生 じる。VLDL には大型で
TG含有量が多い
VLDL1と小型で TG含有量が少な
い
VLDL2があり、肝臓から別々に分泌されている。通常
VLDL1は
LPLによ
って
VLDL2に変換され正常サイズの
LDLが生成される。しかし、MetS では
インスリン抵抗性によって
LPL活性が低下しているため、
VLDL1から
VLDL2への変換が阻害され、血中
VLDL1が増加する【19】 。また、VLDL1 のような
TGを大量に含むリポ蛋白の増加によって、HDLC 産生が障害される。
Spalding
らは、ヒトの脂肪細胞数は小児期に増加し、
20歳以降は肥満者も非
9
肥満者も細胞数は変化しないと報告している【20】 。心筋梗塞や脳梗塞は成人期 に発症するが、思春期の過体重と相関し、血管の初期病変が確認されている。
つまり、内臓脂肪蓄積は小児期より進行し、成人までに肥満の基礎が形成され る。MetS の危険因子を減らすために、学童期からの予防と管理が必要である。
第6項 研究の意義
現在までに多くの疫学的な研究で、HDLC 値はアテローム動脈硬化促進性心 血管疾患と強く逆相関するということが立証されてきた【21】。
5,371人の日本 の成人男性を対象に
12年間追跡したコホート研究で、低
HDLC値は、冠動脈 疾患を発症する重要な独立した危険因子であった【22】。さらに、思春期にお いても、低
HDLC値は、若年成人における総頸動脈内中膜肥厚の危険性を高め た【23】。つまり、HDLC 値は将来おこり得る心血管疾患の予測因子である。
肥満、特に内臓肥満では低
HDLC値となる【24】。小児においても、内臓 肥満は
HDLC値と強く関連している【25, 26】。長期縦断研究から、内臓脂肪 蓄積が認められると
TG値と
HDLC値が有意に変化する【27】。さらに、閉経 後の肥満女性の体重を減量し、内臓肥満の減少と長期管理を図ると
HDLC値と
TG値が改善する【28】。従って、HDLC 値は肥満と関係があるアテローム動 脈硬化促進性心血管疾患の一次予防の標的となる可能性がある。
HDL
粒子は、大きさ、密度、組成が均一ではなく、それぞれ異なった機能が
ある。HDL はコレステロール逆転送の役割を果たし、末梢組織のコレステロー
ルを引き抜く過程で産生され、肝臓へ余剰のコレステロールを逆転送する。さ
10
らに、抗酸化作用、抗炎症作用、抗血小板作用(血栓予防)、アポトーシスや 感染を防ぐなどアテローム形成抑制の特徴を持つ【21, 29】。
HDL
粒子は、超遠心分離法、電気泳動法や核磁気共鳴分光法(NMR)などによ る研究技術で分離することができる。電気泳動法では
HDL粒子を
pre-betaと
alpha
の
2つの主なサブクラスに分けることができる。末梢細胞からのコレス
テロールの引き抜きには、
HDLの中でも小粒子
HDL、すなわちpre-beta HDLが関わっている。alpha HDL は、大粒子で、コレステロールエステルを豊富に 含む粒子で、コレステロールエステルを肝臓に運搬する。過去の研究で、大粒 子
HDLサブクラスは心血管保護に関連すると報告されている【30】。従って、
HDL
サブクラス解析は、アテローム動脈硬化促進性心血管疾患の危険性をさら に正確に評価することにつながると考えられる。
第2節 脂質測定
2-1 脂質測定法
脂質測定法については超遠心法、電気泳動法、直接法(酵素法) 、結合沈殿法、
ホモジニアス法、リポ蛋白プロファイル法として、核磁気共鳴分光法(NMR) 、
HPLC法などがある。
11
2-1-1 HPLC
法
HPLC
法(high-performance liquid chromatography)は、1980 年に岡崎ら が開発した、血清リポ蛋白の分析法の一つである【31】 。さらに、1993 年にリ ポ蛋白専用のカラムと溶解液が開発され、少量の血清から短時間でリポ蛋白中 のコレステロールをサイズに基づいて定性的、定量的に測定することが可能と なった【32, 33, 34】 。この方法はリポ蛋白主要
4分画(カイロミクロン、
VLDL、LDL、HDL)それぞれに含まれるコレステロールとTG
の量を同時に定量し分
析する。迅速かつ正確な測定が可能であり、装置間変動が少なく、
1時間あたり
50検体以上の分析が可能で、45μl と少量の血漿で測定可能である。サンプル 中のリポ蛋白を
HPLCゲル濾過
HPLC法で大きいサイズのリポ蛋白から順番に 分離し、分離されたリポ蛋白中の
TG、TCをそれぞれの試薬反応により測定す る。装置はゲル濾過
HPLCカラム(aTSK gel Lipopropak XL/ 東ソー, 内径
7.8mm,長さ
30cm)2本を接続し、血清
5μlを注入し、流速
0.7ml/minで分 離後、コレステロールおよび
TGをオンライン酵素反応で検出する。さらに、
HPLC
パターンをサイズで定義した
20個の分画ピークにガウス近似法を用い、
主要
4分画(カイロミクロン、VLDL、LDL、HDL)および
3つの
VLDLサブ クラス(large、medium、small) 、4 つの
LDLサブクラス(large、medium、
small、very small)
、
5つの
HDLサブクラス (very large, large、
medium、small、very small)のコレステロールおよび中性脂肪量を求めることができる。同一装
置でのリポ蛋白クラスの粒子径の測定精度による再現性は
HDLCについて
0.29-0.70%、LDLCについて
0.20-0.61%、VLDLCについて
0.71-1.19%、CMC12
について
3.70-27.60%、HDLサブクラスについて
0.10-0.26%であったと報告がある。 【33】リポ蛋白の各主要クラス内にはサブクラスが存在するため、全体を 網羅的に把握できるクロマトグラフィー法が適していると考えられる(図
3)。
2-1-2 直接法(酵素法)
1.
トリグリセライド(TG)測定
酵素法による血清
TGの測定は、1962 年に
Kreutzらが報告し、今日
TG定 量法の主流を占める【35】。血清にアルカリを加えて脂質を加水分解した後、
MgSO4
を加えて蛋白と脂肪酸の除去と中和を行い、TG より生成したグリセロ
ールを
glycerokinase(GK)-pyruvate kinase(PK)-LD系の
3段階の酵素反 応によりニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の変化として測定 する方法が考案された【36】 。その後、血清にリポ蛋白リパーゼまたはリパーゼ とキモトリプシンを添加して
TGを水解し、生成するグリセロールを各種の酵 素法と組み合わせて、 反応過程での
NADHの変化を測定する紫外部法や
GK-PKによる生成ピルビン酸を発色する方法、比色法が用いられている【37】 。
2.
コレステロール測定
酵素法による血清コレステロールの測定は、
1973年に
Richmondらが報告し、
今日コレステロール定量法の主流を占める【38】 。測定原理は、コレステロール
エステル(CE)をコレステロール加水分解酵素でコレステロールに変え、さら
に界面活性剤の存在下で
3β位の水酸基を脱水素しコレステノンとH2O2を生成
13
し、何らかの方法でとらえ、コレステロール値を求める。
CEをコレステロール に変える方法の違いにより、コレステロールエステル加水分解酵素とリポ蛋白 リパーゼを用いる方法に大別される【39】 。Allain らは生成した
H2O2をペルオ キシダーゼ触媒で
4-アミノアンチピリンとフェノールを酸化的に縮合させる比較定量法を完成させ、
CEに対する加水分解酵素を用いた総コレステロールの比 色定量として現在実用されている【40】 。その後、使用する酵素類や色素体など の改良によって、血清成分の干渉の少ない精度の高い測定キットが開発されて いる。
2-2 Non-high-density lipoprotein cholesterol(non-HDLC)
Non-HDLC
は
2001年に
National Cholesterol Education Program- Adult Treatment PanelⅢ guidelines で提唱された脂質異常の治療の標的として明 確にされた指標である【41】。動脈硬化促進性のあるアポ
Bに結合しているリ
ポ蛋白
VLDL、IDL、LDL、lipoprotein(a)やカイロミクロン、カイロミクロ
ンレムナントから構成されているリポ蛋白の総和である。総コレステロールか ら
HDLCを引いた値であり、
LDLC単独よりも心血管危険因子を反映する【42】 。
第3節 腹囲、腹囲身長比
内臓脂肪蓄積評価のゴールデンスタンダードは腹部
CTで得られた内臓脂肪
面積であるが、簡易評価法として腹囲や腹囲身長比が有用である。
14
腹囲は、BMI や肥満度などの過体重の指標よりも、肥満に伴う健康障害が良 好に反映され、内臓脂肪蓄積の簡易評価法の中で、最も汎用されている。肥満 に伴う健康障害の早期診断や医学的管理を目的として体格評価を行う際には、
腹囲を測定すべきとされている。
我が国では、小児肥満症診断基準では、小児における腹囲を用いた内臓脂肪 型肥満診断の基準値は
80cm以上とされている。 この基準はその後、 小児の
MetSの診断基準に反映され、小学生の場合は
75cm以上にて内臓脂肪型肥満の基準 が加えられた【43】 。
10
歳から
21歳の肥満児の内臓脂肪量と腹部
CTの検討では、脂肪肝のない場 合平均
60cm2と報告がある【44】 。現在一般的に用いられている、日本人小児に おける内臓脂肪量と腹囲の基準値は、まず
6歳から
14歳の肥満外来に通院した
75例の男児に腹部
CTを行い、肝機能、血清
TG値、インスリン値のいずれか が高値であるものと、いずれも正常であるものを
ROC解析し、境界値が内臓脂 肪量で約
60cm2、腹囲が
80cmであることから決定された【45】 。次に国内の多 施設で内臓脂肪量と腹囲の妥当性を示している【46】 。
腹囲測定法は、我が国では、立位で両足をそろえて、呼気時に臍高レベルの 測定が勧められている。
腹囲身長比は、立位で、臍高で測定した腹囲(cm)を身長(cm)で除した指標で ある。成人における心血管病や
2型糖尿病リスクの簡易評価法としての腹囲身 長比の有用性はすでに証明されている【47】 。腹囲身長比は、内臓肥満を決定す る指標であり、非肥満児でも、肥満児でも、心血管代謝の危険因子に関係する
【48】 。小児における腹囲身長比の有用性は、Browning らによるメタアナリシ
15
スの報告があり、腹囲身長比は腹囲よりも肥満に伴う健康障害のスクリーニン グ指標として有用で、腹囲身長比のカットオフ値として
0.5が提案されている
【49】 。我が国では
MetS診断基準における診断法に腹囲以外に腹囲身長比が併 用されている。 小学
1年生から中学
3年生
20931人を対象とし腹囲測定を行い、
腹囲や腹囲身長比の性差、年齢差を示した報告がある【50】 。この結果をもとに スプライン関数を用いて平滑化すると腹囲身長比
0.5は、男女とも多くの年齢群 においておおむね+1.5SD 以上に相当している【51】 。また、我が国で幼児から 学童の肥満判定に用いられている肥満度との相関について、腹囲身長比と肥満 度は強い正相関が認められ、腹囲身長比
0.5は肥満度+30%(中等度肥満のカッ トオフ値)に相当している【51】 。肥満外来を受診した学童で腹囲が
80cm未満 であるが、他の
MetSの危険因子の集積を認める症例について検討した報告で は
122名中
16名(13.1%)の頻度で存在し、腹囲身長比
0.5以上を腹部肥満の 診断基準に導入することで、これらの症例の見落としを回避できることを証明 している【52】 。このように、小児では腹囲身長比
0.5以上は肥満に伴う健康障 害や
MetSの病態である内臓脂肪蓄積との関連性が強いと考えられる。以上よ り本研究では、内臓脂肪蓄積の指標として、男女ともに腹囲身長比のカットオ フ値を
0.5以上で内臓肥満と定義した。
第
4節 研究の目的
HPLC
法を用いた日本の成人の研究で、内臓脂肪は
body mass index(BMI)と同様に
large、medium HDLCに逆相関し、very large、small、very small
16
HDLC
とは相関しないという報告がある【53】 。しかしながら、この方法を用い て小児の
HDLサブクラスを検討した報告はほとんどない【54】 。さらに、日本 の小児における肥満と
HDLサブクラス像の関係に関する研究はわずかしかな い【55, 56】 。本研究では、HPLC 法を用いて、学童における
HDLサブクラス 特性を解析し、内臓脂肪蓄積、インスリン抵抗性と各
HDLサブクラス中コレス テロール濃度との関係について検討した。
ウ)対象と方法
第1節 対象
平成
21年9月に静岡県伊東市で実施された小児生活習慣病健診において、無
作為に選出した
2校に通っている学童
164名(79 名の男児と
85名の女児) 、平
均年齢は
10.9±1.6歳(mean± SD; 9 歳から
13歳)を対象とした。小児生活習
慣病健診は、各自治体が実施している健診で、血液検査や生活習慣調査の結果
をもとに、生活習慣病の実態を把握し、今後の改善策や予防策を検討すること
を目的としている。対象は無作為に選出しており日本の学童を反映していると
考えられた。肥満、脂質異常以外の基礎疾患を有する学童は除外した。
17
第
2節 測定項目と方法
2-1 身長と体重
立位で身長と体重を測定した。BMI は体重(kg)/身長(cm)
2で計算した。
2-2 腹囲、腹囲身長比
本研究では、腹囲は臍の高さで測定し、腹囲身長比を計算した。内臓脂肪蓄 積の指標として腹囲身長比(WHtR)
≧0.5を内臓肥満と定義した。
2-3 脂質測定
本研究では、検査前日の夕食後から禁食として、肘正中皮静脈から空腹時に 血液を採取した。総コレステロール(TC)と
TG値は酵素法を用いた。血清リ ポ蛋白分析は、ゲル濾過電気泳動法を用いた
HPLC法によって、
LDLコレステ ロール(LDLC)値、
HDLC値、
5つの
HDLサブクラス値(very large、
large、medium、small、very small)を測定した。
【32】 (Lipo SEARCH; Skylight-Biotec,
INC., Akita, JAPAN)18
2-4 インスリン抵抗性
インスリン抵抗性の測定として、
1回採血での代替指標となる空腹時インスリ ン濃度の測定がある。しかし、個人差が大きく、測定値自体が標準化されてい ないため、インスリン抵抗性の代用指標としては不十分である。そこで、同時 に測定した空腹時血糖値とインスリン濃度を数学的に指数化した
homeostasis model of assessment ratio(HOMA-IR)がしばしば使用されている。これは血
糖値が
140mg/dl以下のとき、インスリン抵抗性と相関し、
1.6以下で正常、
2.5以上のときはインスリン抵抗性の存在が示唆される。
本研究では空腹時血糖
140mg/dl以下の集団であり、血清インスリン値と血糖 値を測定し、Matthew's formula をもとに
HOMA-IRを算出し、インスリン抵 抗性の指標とした【57】 。
2-5 MetS
MetS
は小児においても、厚生労働省の班研究による基準が設けられている。
我が国のメタボリックシンドロームの診断基準は以下の通りである。①男女と もに腹囲≧80cm (小学生≧75cm)または腹囲身長比
0.5以上、②TG≧120mg/dL
または
HDL-C≦40mg/dL、③収縮期血圧≧125mmHgかつまたは拡張期血圧
≧70mmHg、④空腹時血糖≧100mg/dL。
本研究においても上記の診断基準を用いて検討した。
19
第
3節 インフォームドコンセント
対象児とその両親に記述によるインフォームドコンセントを実施し了承と署 名を得た。学校健康教育委員で構成されている地域の倫理委員会による承認を 受け、認可された研究手順を用いた。倫理委員会は地域の教育委員と日本大学 板橋病院の代表者によって構成されている。
第
4節 統計処理
全てのデータは、平均±標準偏差で表記した。グループ間の違いは
ANOVA with Scheffe’s post hoc testsで評価した。サンプルサイズは
power analysisで 評価し、
ANOVAによる
4 subgroup analysisにより妥当性を示した。表
1では
ANOVA with Scheffe’s post hoc testsを用いて多群間および、各群間における 相関関係を検討した。 表
2では総
HDLC値と主な説明変数との単相関を示した。
表
3では
HDLサブクラスと腹囲身長比、TG 値、HOMA-IR を説明変数とした
単相関解析を行った。表
4で、単相関分析と複数説明変数が関与すると考えら
れた場合に重回帰分析を用いた。p 値は
0.05未満を統計学的有意差があるとし
た。全ての統計解析は
JMP statictical package(v9.0; SAS Institute Inc., Cary,
NC, USA)を用いて行った。20
エ)結果
第1節 対象の特徴
対象の臨床的特徴と各測定結果を示す(表
1)。男児13人 (16.5%)と女児
9人 (10.6%)に内臓肥満を認めた。内臓肥満がない児と比較すると、内臓肥 満児は男女に関係なく有意に
TG値(p<0.05)、インスリン値(p<0.05)、
HOMA-IR(p<0.05)が高値であると同時に HDLC
値(p<0.05)が低値で あった。男児では、内臓肥満児は内臓肥満がない児と比較して
LDLC、non-HDLC
値は有意に(p<0.05)高値であった。しかし、女児では、内臓
肥満の有無で
LDLCと
non-HDLC値に有意な変化は認められなかった。
内臓肥満のない児において、女児は男児に比較し
non-HDLC値とインス リン濃度が有意に(p<0.05)高値であった。内臓肥満児では、女児が男児に 比較しインスリン濃度と
HOMA-IRが有意に(p<0.05)高値であった。
第2節
HPLC法による
HDLサブクラス特性
男女ともに内臓肥満児では、内臓肥満でない児に比較し
very large、large、medium HDLC
値は有意に(p<0.05)低値であった(表
1)。また、内臓肥満
の男児は、内臓肥満の女児に比べて、small、very small HDLC 値は有意に
(p<0.05)高値であった。
21
第3節 各
HDLサブクラスにおけるコレステロール濃度と 各測定値との関係
総
HDLC値(HPLC による
HDLサブクラス分画からの総和)は、
BMI (男児: r=-0.5612, p<0.0001; 女児: r=-0.5682, p<0.0001)、腹囲身長比 (男児:
r=-0.5138, p<0.0001;
女 児
: r=-0.4468, p<0.0001)、
HOMA-IR (男 児
: r=-0.5128, p<0.0001;女児: r=-0.4512, p<0.0001)、TG 値 (男児: r=-0.5446,
p<0.0001;女児: r=-0.4654, p<0.0001)と有意に逆相関を示した(表
2)。各
HDLサブクラスにおけるコレステロール値と主な説明変数との単相関 解析を示す(表 3、図
4)。腹囲身長比は
very large(男児: r=-0.5306, p<0.0001;女児: r=-0.3483,
p=0.0011)、large(男児: r=-0.6168, p<0.0001;女児: r=-0.4387, p<0.0001)、
medium HDLC (男児: r=-0.4170, p=0.0001;
女児: r=-0.4116, p<0.0001)と 有意に逆相関を示したが、
smallと
very small HDLCは男女ともに有意な相 関は認められなかった。
TG
値 は
very large(男 児
: r=-0.5095, p<0.0001;女 児
: r=-0.4054, p=0.0001)、large(男児: r=-0.5914, p<0.0001;女児: r=-0.4650, p<0.0001)、
medium HDLC (男児: r=-0.4598, p<0.0001;
女児: r=-0.4254, p<0.0001)と 有意に逆相関を示したが、
small HDLCは男女ともに有意な相関は認められ なかった。
TG値は女児で
very small HDLC (r=-0.2418, p=0.0258)と有意に逆相関を示したが、男児では有意な相関は認めなかった。
HOMA-IR
は
very large(男児: r=-0.4562, p<0.0001;女児: r=-0.3997,
22
p=0.0002)、large(男児: r=-0.5073, p<0.0001;
女児: r=-0.4475, p<0.0001)、
medium HDLC (男児: r=-0.4565, p<0.0001;
女児: r=-0.4125, p<0.0001)と 有意に逆相関を示したが、
smallと
very small HDLCは男女ともに有意な相 関は認められなかった。
重回帰分析で (表
4)、腹囲身長比は、男児ではvery large(r2=0.3576,β
=-9.2373, s.e.=3.7216, p=0.0153
)、
large(
r2=0.4753,β
=-42.2251, s.e.=12.7911, p=0.0014)、
small(
r2=0.0961,β
=10.2461, s.e.=4.2891, p=0.0194)、very small HDLC 値(r
2=0.1192,β=5.9803, s.e.=2.2052,
p=0.0083) の 、女児で は
large(
r2=0.3011,β
=-38.0897, s.e.=16.1819, p=0.0210)、
medium HDLC値 (
r2=0.2577,β
=-19.6736, s.e.=8.9472,p=0.0307)の独立した説明因子であった。TG
値は、男児では
very large(
r2=0.3576,β
=-0.0216, s.e.=0.0103, p=0.0396)、
large HDLC値
(r
2=0.4753,β=-0.0989, s.e.=0.0354, p=0.0066)の、女児では
very large(r
2=0.2163,β=-0.0165, s.e.=0.0082, p=0.0462)、large (r
2=0.3011,β
=-0.0756, s.e.=0.0292, p=0.0114
)、
medium HDLC値 (
r2=0.2577,β
=-0.0367, s.e.=0.0161, p=0.0254)の独立した説明因子であった。
また、HOMA-IR は男女ともに
very large、large、medium HDLCの有 意な説明因子ではなかった。しかしながら、男児では
HOMA-IRは
small(r
2=0.0961,β=-0.5223, s.e.=0.2583, p=0.0467)と
very small HDLC値
(r
2=0.1192,β=-0.3263, s.e.=0.1328, p=0.0163)の有意な独立した説明因
子であった。
23
第4節
HDLサブクラスと
MetSの診断項目との関係
MetS
の診断項目数が増加すると
very large(r=-0.335, p<0.0001)、large
(r=-0.424, p<0.0001) 、medium HDLC 値(r=-0.329, p=0.0034)は有意に 低下することが明らかとなった。small HDLC 値と
very small HDLC値と は有意な相関は認めなかった。 (図
5)オ)考察
日本の学童を対象とした本研究では、内臓肥満で、
very large、large、medium HDLC値が減少した。内臓肥満は
HDLサブクラス特性を決定する有意な独立 した因子であった。また、インスリン抵抗性は
HDLサブクラス特性の独立した 説明因子ではなく、
MetSコンポーネントの集積と
HDLサブクラスが関与する と考えられた。従って、小児の
HDLサブクラス特性は、内臓肥満、MetS、動 脈硬化の潜在的リスクの早期判定として有用であることが示唆された。
内臓肥満があると粥状動脈硬化をきたし、心血管病の危険性が増加する。成 人では、内臓脂肪を減らすことで、心血管病の危険因子を減少させる【58】 。つ まり、内臓肥満を診断し内臓脂肪を減らすことが心血管病の予防につながる。
さらに、体重が増加すると血清
HDLC値は低下し
HDL粒子サイズもまた減少
することが知られている【59】 。しかしながら、日本の肥満児において、内臓肥
満が
HDL粒子サイズへ与える影響について検討された研究は少ない 【54, 55】 。
一方で、他の人種における小児の
HDLサブクラス特性についての報告はある
24
【60-62】。正常体重、もしくは過体重の黒人と白人の小児における検討では内 臓脂肪量とインスリン感受性は、
HDL粒子サイズを決定する重要な説明因子で あった【60】 。2 型糖尿病、あるいはインスリン抵抗性を有するメキシコ人の過 体重小児では、
HDLサイズは小さくなる傾向があり、粒子サイズの大きい
HDL2b
と
HDL 2aの割合は減少し、 粒子サイズの小さい
HDL3bの割合は増加した。
また、
BMIは
HDLサイズを決定する独立した説明因子ではなかった【61】 。さ らに、正常耐糖能で肥満を認める白人、アフリカ系アメリカ人、ラテンアメリ カ人の青年における検討では、全ての人種において内臓脂肪量は
large HDL値 を決定する有意な因子であった。 【62】日本の小児における本研究では、内臓肥 満が増えると、very large、large、medium HDLC 値が減少することが証明さ れた。従って、小児の内臓肥満と
HDLサブクラス特性の関係は、人種特異性は みられず一律である可能性が示唆された。
TG
値とインスリン抵抗性もまた
HDLサブクラス特性と関連している。TG 値が上昇すると
HDLC値が低下するという関係について、TG-rich リポ蛋白は コレステロールエステル転送蛋白 (CETP)によって
TGと
HDL中のコレステロ ールエステル(CE)の脂質を交換し、
TG-rich HDLが上昇する。
TG-rich HDLは
hepatic triglyceride lipase(HTGL)、脂質分解性の酵素によって急速に異化され、HDL サイズが低下する【63】 。
内臓肥満の児の検討では、CETP が上昇し、HTGL 活性が増加することが
HDLC低下と関連することが報告されている。 【64, 65】さらに、MetS の成人 では、抗動脈硬化作用があるとされる
HDL2(very large、large HDL に相当)
と
HDL3(medium、small HDL に相当)の
TG含有が増加し、
TG-richでコレ
25
ステロールに乏しい
HDLとなる。また、CETP 活性が増加する。 【66】MetS の小児でも、粒子の大きい
HDL2b、2a、3a、3bサブクラスのコレステロール 濃度は低下し、粒子の小さい
HDL3b、3cサブクラスでの
TG濃度が上昇する。
【67】本研究結果も、これらの報告に矛盾しないものであった。重回帰分析で は、男児で
TG値は
very large、large HDLC値の有意な独立した説明因子とな り、女児では
very large, large, medium HDLC値の有意な独立した説明因子で あることが示された。
本研究では、インスリン抵抗性が増加すると
very large HDLC、large HDLC、medium HDLC
の各値は低下した。重回帰分析では、インスリン抵抗性は、男
児で
small、very small HDLCの独立した説明因子であったが、
very large、large、medium HDLC
は独立した説明因子ではなく、女児はどの
HDLサブクラスも
独立した説明因子ではなかった。これは、インスリン抵抗性は内臓肥満と
TG値に従属した説明因子であることが考えられた。過去の報告によると、黒人と 白人の
8-17歳の小児では、インスリン感受性が活性化すると
HDLサイズは大 きくなり、インスリン抵抗性の増加は男女ともに
small HDL値に影響し、男児 では
small HDL値が増加し、
large HDL値が減少したが、女児では
small HDL値が増加し、
large HDL値には有意差を認めなかった【60】 。思春期では、生理 的に一過性のインスリン抵抗性が出現する。この生理的インスリン抵抗性は、
思春期前から始まり思春期が終了するとともに正常化する【68】。思春期には、
男女で内臓脂肪蓄積分布が変化する。内臓脂肪蓄積が増加すると末梢のインス
リン感受性が減少し、代償的にインスリン分泌が増加する。思春期に内臓脂肪
蓄積が増加する女児が男児よりインスリン抵抗性が高くなる。 【69】従って、思
26
春期の小児におけるインスリン抵抗性の影響の評価は、性別によって異なった 解釈が必要となる。
HDL
サブクラス特性は、体脂肪の割合だけでなく、性別や年齢の影響を受け る。女児では
HDLC値は思春期を迎えると高値となり、粒子サイズの大きい
HDL2b
は年齢とともに増加し思春期以降も高値を示す。男児では
HDL2bは年
齢とともに増加するが、思春期以降低下する【70】。日本における過去の報告 では、HDL2-C は女児が男児に比較し高値を示し、この違いは
11-15歳で始ま る。女児では年齢とともに
HDL2-C値は高値となったが、男児では
6-10歳で増 加を示した後に減少した。また、HDL3-C 値は男女間の差はないことが示され た。【71】
Bogalusa Heart Studyでもまた、HDL3-C 値は男女間に差は認めら れていないが、HDL2-C は女児が男児に比較し高値を示した。また、女児では、
HDL2-C
値は
7-10歳の女児より
11-17歳が高値であった。【72】本研究では、
9-13
歳の内臓肥満のない日本の学童については、HDLC 分画を
HPLC法によっ て測定し検討した結果、各サブクラスに性差は認めなかった。しかし、内臓肥 満のある小児では
small、very small HDLC値に有意な性差を認め、その値は 女児より男児が高値であった。重回帰分析では、腹囲身長比と
HOMA-IRは、
男児の
small、very small HDLC値の重要な説明因子であることが示された、
一方女児では有意差を認めなかった。これらの結果から、内臓肥満のある女児
にみられた
smallと
very small HDLC値の減少には、腹囲身長比と
HOMA-IR以外の他の修飾因子(例えば、体脂肪蓄積に関する性差など)が寄与している可
能性も考えておかねばならない事を意味している。今後さらに、内臓肥満のあ
る小児における
HDLCサブクラス特性を検討し、今回の研究から得られた
27
HDLC
サブクラスの男女差に関して根底にあるメカニズムを明白にすること必 要がある。
本研究における限界として、対象症例数が十分大きいとは云えず、年齢、性 成熟度によって解析を層別化することができなかったことがある。年齢と性別 による検討では小学生の男女間で各脂質値、内臓脂肪(腹囲、腹囲身長比)、皮 下脂肪、HOMA-IR に有意差を認めなかった。中学生の男女間では、内臓脂肪 に有意差は認めなかったが、皮下脂肪と
TG値、HOMA-IR に有意差は認め、
その値は女児が高値であった。本研究において、小学生の女児で内臓肥満が
2名と少なく、小学生と中学生による年齢の層別化を行うことができなかった。
本研究においては無作為に抽出した学童を対象としている。さらに本研究は、
過去の報告で示されている日本の小児における血清脂質値の基準値と分布が近 似しており【73】 、肥満頻度においても日本の小児期、思春期の肥満頻度【74】
と近似しているため日本の学童を反映すると考えられた。本研究において食事
の影響のデータを含めることができなかった。
Siriと
Kraussは食事中の炭水化
物が増加すると
small HDL濃度が上昇することを示し、食事による脂肪酸組成
の変更が
HDL粒子分布を変化させると報告している【74】 。今後、小児期に内
臓肥満と
HDLサブクラス特性の根底にあるメカニズムを明白にするために性
成熟や食事による影響評価を組み合わせた研究を必要とする。さらに、長期的
なフォローアップ研究により、小児期の
HDLサブクラスの縦断的変化に及ぼす
影響を総合的に調査し、
HDLサブクラス測定が一般的な検査として認識される
ことで
HDLサブクラスの管理が可能となり、成人期の心血管病の一次予防に重
要な役割を演じることが証明されると考えられた。
28
本研究において、内臓肥満がある学童では、
very large、large、medium HDLC値が低下し、さらに、腹囲身長比、HOMA-IR、TG 値との関連性の検討より、
内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性、
TG値が、
very large、large、medium HDLC値と有意に相関した。さらに、重回帰分析から、HDL サブクラスの独立した説 明因子は内臓肥満と
TG濃度であることが示唆された。したがって、
MetSに認 められるインスリン抵抗性や高
TG血症のない小児においても、内臓肥満それ 自体が、HDL サブクラス特性を変化させている可能性が示唆された。
カ)まとめ
内臓肥満がある学童では、very large、large、medium HDLC 値が低下する
ことを明らかにした。さらに、腹囲身長比、HOMA-IR、TG 値との関連性の検
討より、内臓肥満とインスリン抵抗性、TG 値が、very large、large、medium
HDLC値と有意に相関した。さらに、重回帰分析から、
HDLサブクラスの独立
した説明因子は内臓肥満と
TG濃度であることが示唆された。したがって、
MetSに認められるインスリン抵抗性や高
TG血症のない小児においても、内臓肥満
それ自体が、HDL サブクラス特性を変化させている可能性がある。日本の学童
では、内臓脂肪蓄積から
MetS、動脈硬化進展へのリスク早期判定として、HDLサブクラス解析が有用であることが示唆された。
29
謝辞
本研究にあたり、研究全般において終始ご指導頂きました日本大学医学部小
児科学系小児科学分野、岡田知雄教授に心から深謝致します。そして、研究全
般を支えていただきました日本大学医学部小児科学系分野小児科学、麦島秀雄
前主任教授、高橋昌里主任教授に心から感謝致します。
30
31
32
33
34
図
1リポ蛋白代謝
引用:島野仁. 脂質代謝のメカニズム, 臨床栄養, 2008; vol. 113. no. 4: 395
35
図
2 HDL代謝とコレステロール逆転送
引用:中島英人. HDL結合蛋白とその作用, 医学のあゆみ, 2013; vol. 245. no.6: 497
36
図
3 HPLC法
引用:Lipo SEARCH; Skylight-Biotec, INC., Akita, JAPAN
37
図
4各
HDLサブクラスにおけるコレステロール濃度と各測定値との関係
38
39
40
図 5 HDL サブクラスと
MetS診断項目数との関係
41
42
図説
図
1リポ蛋白代謝
小腸から分泌されたカイロミクロン(CM)はリポ蛋白リパーゼ(LPL)の作用 で
TGが分解され
CMレムナントとなり、速やかに肝臓に取り込まれる。肝臓 から分泌された
VLDLは、
LPLの作用で
TGが分解され粒子サイズが徐々に小 型化し、VLDL から中間比重リポ蛋白(IDL)から
LDLに変換され、最終的に
LDLレセプターにより肝臓や全身の組織に取り込まれる。
図
2 HDL代謝とコレステロール逆転送
HDL
は、肝臓や小腸から分泌される原始
HDLや
TG richリポ蛋白(CM や
VLDL)にLPL
が作用して生じる分解産物を材料として血中で生成する。コレ
ステロールエステル転送蛋白(CETP)により
VLDL中の
TGと
HDL中のコレ ステロールエステル(CE)の脂質交換が行われ、この結果
HDLが
TG richと なる。HDL に取り込まれた
TGの一部は、さらに
LDLに移されるが、多くの
TG rich HDL
が直接肝臓に取り込まれ、末梢組織から、肝臓へコレステロール
の逆転送している。
43
図
3 HPLC法
ゲル濾過
HPLC法で検出された値は、HPLC パターンをサイズで定義した
20個の分画ピークにガウス近似法を用いて、主要
4分画(カイロミクロン、
VLDL、LDL、HDL)および3
つの
VLDLサブクラス(large、medium、small) 、4 つ の
LDLサブクラス(large、medium、small、very small) 、5 つの
HDLサブ クラス(very large, large、medium、small、very small)のコレステロールお よび中性脂肪量を求める。
図
4各
HDLサブクラスにおけるコレステロール濃度と各測定値との関係
腹囲身長比、
TG値、
HOMA-IRが増加すると
very large、large、medium HDLCは有意に低下した。
図
5 HDLサブクラスと
MetS診断項目数との関係
MetS
の診断項目数が増加すると
very large HDLC(r=-0.335, p<0.0001)
large HDLC(r=-0.424, p<0.0001)、medium HDLC(r=-0.329, p=0.0034)は有意
に低下した。
44
引用文献
1. Ralley WA, Freedman DS, Higgs NA. Decreased arterial elasticity associated with cardiovascular disease risk factors in the young- Bogalusa Heart Study. Atherosclerosis, 1986; 6: 4: 378-386.
2. Malcom GT, McMahan CA, McGill HC Jr. Associations of arterial tissue lipids with coronary heart disease risk factors in young people.
Atherosclerosis, 2009; 203: 2: 515-521.
3.
位田忍. 肥満に伴う疾患(合併症), 小児科学レクチャー, 2012; vol. 2.
no.5: 991-996.
4.
松島照彦. 脂質の種類と生体内存在様式, 日本臨床, 2013; vol. 71. Suppl
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上硲俊法
,小川博. リポ蛋白分画精密測定, 日本臨床
, 2013; vol 71.Supple 3: 390-393.
6.
島野仁. 脂質代謝のメカニズム コレステロール, 臨床栄養, 2008; vol.
113. no. 4: 394-399.