保険業規制と国際的調和:はじめに
平成26年度大会共通論題
総合司会 井 口 富 夫
1.本年度テーマの選定理由
日本保険学会平成26年度全国大会の共通論題は, 保険業規制と国際的調 和 となった。多くの保険研究者にとっては,必ずしも馴染み深い内容では ない本テーマが全国大会の共通論題に選ばれたのは,安井大会委員長が本テ ーマは,これからの保険研究において極めて重要な位置を占めると思われた からであると推察される。
2007年に発生した世界金融危機においては,システミック・リスクの弊害 が強く認識されるようになった。このような状況の中で,保険事業者への公 的規制も,それまでの規制および規制緩和とは,大きく異なったものとなっ た。今年の共通論題は,現在および将来の保険業そして保険研究において,
避けては通り過ぎることができない本テーマについて,当学会員および学会 の外に向けて,基礎知識として少しでもマスターしてもらいたいと願って実 施された。
2.保険業における従来の政府規制と規制緩和
保険業における従来の政府規制は,主権国家として,各国政府が国内で望 ましい公的規制および規制緩和を実施することを意味していた。MacAvoy
(1979)の分類にしたがえば,政府規制は経済的規制と社会的規制に区分さ れる。経済的規制とは,企業の価格,参入,品質,投資,合併,財務内容等 に対する競争制限的措置と,その代替的措置であり,社会的規制とは,環境,
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【平成26年日本保険学会大会】共通論題 保険業規制と国際的調和
安全,健康などに関する規制である。この区分に従えば,保険事業者に対す る規制は,経済的規制として行われている。
Kahn
(1970, p.
11) は,政府規制が,とりわけ経済的規制が正当化され るためには,次の2要件が必要であるという。第1の要件は,経済発展にと って不可欠なインフラストラクチャであること,第2の要件は,自然独占が 成立し,競争が有効に働かないことである。マクロ経済的にみて,また個別 経済主体からみて,将来の経済的支出に備えるために確保しておく資金量は,保険の制度がある場合と,そうでない場合とでは,確かに大きく異なるであ ろう。その意味で,保険業は資源配分の効率化に役立っているといえる。し かし,Kahnが言うような,経済発展にとって必要不可欠なインフラである とは言い難い。第2の要件は,いわゆる 市場の失敗 として広く論じられ ている議論の一部であるが,保険業には必ずしも妥当しない。その結果,周 知のように,保険業において規制緩和が急速に進展した。
3.保険事業者の活動範囲の拡大と保険業規制の国際的協調
近年になって,保険事業者の活動が,一方ではグローバル化するとともに,
他方では業務が多様化することによって,保険業における政府規制および規 制緩和のあり方が,大きく様変わりした。主要な保険会社が,中国,インド,
ブラジルといった新興国市場に進出することによって,保険会社の活動がグ ローバル化し,世界保険市場の寡占化が進むことになる。他方,主要な保険 会社は,保険以外のビジネスを展開し, 総合金融サービス業 への道を突 き進むことになる。
保険事業者の活動がグローバル化するにつれて,保険業への政府規制にお いて共通言語が必要とされるようになる。それとともに,保険業への新たな 政府規制の必要性が認識されるようになった。とりわけ,世界金融危機の後,
金融安定理事会(FSB)がグローバルな金融機関を特定し,監督強化と新 たな規制導入の検討を始めたことを契機として,保険業規制は新たな段階に 移ることとなる。
保険業規制と国際的調和:はじめに
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マクロ経済の動きと保険規制への影響について,これまでの歴史的経緯を まとめると第1表のようになる。1929年の大恐慌と1973年の石油危機に際し ては,保険会社のは株価暴落により多額の損失を被ったが,保険規制への影 響はほとんど見られなかった。しかし,2007年の世界金融危機の結果,保険 規制の国際的調和が強く叫ばれるようになり,保険規制のあり方が大きく変 化することになった。
4.共通論題 保険業規制と国際的調和
以上のような動きが背景となり,平成26年度全国大会の共通論題として,
保険業規制と国際的調和 が選ばれることとなった。報告者とその論題は,
次のとおりである。(敬称略)
溝渕 彰(香川大学): 金融危機後の保険監督・規制 背景事情と考え 方を中心に
浅見俊雄(日本損害保険協会):
IAIS
におけるG‑ SIIsの検討状況と本
邦保険業界に与える影響上野雄史(静岡県立大学): 金融規制と企業会計の調和化が保険業に与え る影響
諏澤吉彦(京都産業大学): 保険業規制の国際協調のあり方に関する考察
―保険のリスク移転と金融仲介機能に焦点をあてて―
これら4報告を通じて,技術的な詳細の内容はともかくとして,保険業規
保険学雑誌 第 629号
第1表 マクロ経済の動きと保険業・保険規制への影響
歴史的出来事 マクロの動き 保険業・保険規制への影響 株価暴落の影響
株価暴落の影響
規制の国際的調和 大きな政府へ
科学技術政策の強化
(サプライサイド)
金融政策の国際協調体 制の強化
1929年 大恐慌
1973年 石油危機
2007年 世界金融危機
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制の国際的調和が,①保険契約者に対して,②保険会社経営に対して,③各 国の保険業規制に対して,どのような影響を与えているのか,さらに今後の 保険業規制はどうあるべきかを考える一つのステップになることを願ってい る。
(筆者は龍谷大学経済学部教授)
参考 献
植田和男編著(2010) 世界金融・経済危機の全貌原因・波及・政策対応 慶應義 塾大学出版会。
上野雄史(2013) 生命保険業における規制監督と企業会計の国際的調和化 生 命保険論集 第182号。
KPMG
インターナショナル(2013) 保険規制の進化:新たな夜明け…KPMG
ファイナシャルサービス・ジャパン。菅野正泰(2013) グローバル金融危機における損害保険会社のシステミック・リ スクの影響度分析:銀行との対比検証 損害保険研究 第74巻第4号。
中浜隆(座長)(2013) 国際的保険グループの監督規制 生命保険文化センター。
Kahn, A.E.
(1970)The Economics of Regulation : Principles and Institu- tions , Vol.1 , John Wiley & Sons.
MacAvoy, P.W.
(1979)The Regulated industries and the Economy , W.W.
Norton & Co.
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