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肺非結核性抗酸菌症概論

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特  集 呼吸器

肺非結核性抗酸菌症概論

公益財団法人結核予防会複十字病院呼吸器センター

  森本 耕三

国立病院機構茨城東病院胸部疾患・療育医療センター内科診療部呼吸器内科

  斎藤 武文

は じ め に

 肺非結核性抗酸菌症は 1990 年代から増加が顕著 である.しかし,①疫学データは世界的に統一した 手法で行うことは不可能であり,実施困難な地域・

国が多数であること,②簡易な診断方法がないこ と,③現行標準治療は陰性化率が充分でないうえ副 作用が多いこと,④再感染が稀ではない,等の問題 が山積している.本概論は同症をとりまく現状を把 握することによって,その解決に向けた取り組みの 一助となることを目的とする.

疫学(世界と本邦の疫学的動向

疫学調査手法と

 

地域多様性)

 肺非結核性抗酸菌症(肺 NTM 症)は,感染症と しての報告義務がないことから,正確な疫学データ を得ることは困難である.よってさまざまな手法によ り導かれたデータが,主に欧米より州,国レベルから 報告されている.最も重要なのは人口ベース(10 万 人あたり)であるか否かである.罹患率(Incidence:

一定期間に NTM を発症した人の単位人口に対する 割合),有病率(Prevalence:一点の時点で NTM にかかっている人の単位人口に対する割合),期間 有病率(Period prevalence:ある期間に NTM にか かっている人の単位人口に対する割合),または分 離頻度(Isolation incidence/prevalence)の情報に,

長期的な増減の有無,地理(海沿い,都市部など),

性別,年齢,病型などの情報の違いが,できる限り 付与されることが望まれる1)

 1.北米

 近年,疫学調査法の主流となっている調査法が,

北米から報告が相次いでいる抗酸菌データ分析およ

び保険(レセプト)データ分析である2‑4).オレゴ ン州のグループは,それまで菌の分離頻度(同一患 者から複数回同定されるために species/patient/

yearを求める)が主流であった抗酸菌データ分析に,

ATS/IDSA の菌の診断基準を満たす症例(喀痰 2 回,気管支洗浄液 1 回,組織培養 1 回)を抽出して,

期間有病率を求める手法を導入した2).これにより 2005 年から 2006 年の 2 年間のデータ分析から,期 間有病率 11.2/10 万,年有病率を 5.6/10 万とした.

さらに 2007 年以降に,前述の 2 年間で同定されて いない新規の症例(菌の基準)を抽出し,罹患率は 2007 年 4.8/10 万から 2012 年 5.6/10 万と増加した ことを明らかにした3).カナダ・オンタリオ州のグ ループは,それまで分離頻度の分析を行っていた が,オレゴン州と同様の手法を導入し,2010 年有 病率を 9.8/10 万と報告している5).NIH のグループ は,主に保険データ分析を行っている.メディケア という高齢者と身体障害者を対象とした健康保険制 度のデータを分析し,2007 年 65 歳以上人口で年有 病率 47/10 万とし,さらに国全体での分析が可能で あったことから,地域差(主に南部が高い)も明ら かにしている4).北米の菌種分布については,オン タリオ州において が 2 割を占めるという 例外があるが,MAC が 8 割を占め,

を中心とした迅速発育菌, が続くとい うのが共通した傾向である6)

 2.ヨーロッパ

 抗酸菌データ分析の手法は,菌データが州レベル で把握できる(全人口を分母にできる)メリットを 活かした手法である.しかし,州内に院内ラボを持 つ施設が多ければその把握は困難となる.この問題 をクリアしているのがフランスからの報告である.

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地域主幹病院の連携(Sentinel-site surveillance)に より,診断した結核患者数と国の罹患率から連携病 院がカバーする人口を求める(Sentinel-site の結核 診断数 / 国の結核罹患率)ことにより,NTM 罹患 率(0.73/10 万)を導いている7).他のヨーロッパか らの報告は,オランダを筆頭に,デンマーク,ギリ シア,イギリスの Leeds からがあるが,罹患率が 2 を超えたとする報告はない.菌種は MAC が主体で あるが,50%前後と北米や日本ほど比率が高くなく,

その他 , , ,

, が種々の割合で占める,

というのが大まかなところである6).  3.アジア

 アジアからは人口ベースの罹患率・有病率データ はないとされているが,ケースシリーズなどのレ ビューにより,菌種は MAC が多いが他地域よりも が目立つこと,肺結核後遺症が多いこ と,が指摘されている8).近年アジア・アフリカか らのデータで注目されるのが,結核(特に多剤耐性 結核)に占める NTM の割合である.これは,結核 高蔓延国が多いこれらの地域では,塗抹陽性のみで 結核診断し治療導入されるため,これまで NTM に ついて把握されていなかったためである(多剤耐性 結核として扱われていた).中国山東省からの報告 では,再発結核の 4%,多剤耐性結核疑いの実に 30.7%は NTM であったことが報告されている9).  4.日本

 本邦では国立療養所非定型抗酸菌症共同研究班に より,非結核性抗酸菌症・結核比と国の結核罹患率と の積から罹患率を推定する手法が,1970 年代より行 われ てきた(1971 年:0.89/10 万,1980 年:1.51)10). 2000 年以後は,非定型抗酸菌症研究協議会による 2001 年および 2007 年(5.7/10 万)の拡大アンケート 調査により,その増加傾向が確認されていた11).2014 年 AMED 支援により,7 年ぶりの調査(阿戸班)が 呼吸器専門病院を中心とした施設を対象に実施され,

罹患率は 14.7/10 万と菌陽性結核罹患率を超えたこと を明らかとした(Fig. 1)12).菌種は MAC が 88.8%を 占め, , がそれぞれ 4.3%,

3.3%であり, の増加傾向が疑われた.

また, は東日本に, は西

日本に多いことが再確認され,束村が 1970 年代に 指摘していた「NTM の菌種分布は国によって異な

り,また同一国内でも地域によっても異なる」こと が再確認された13).さらに同班は,上記欧米の手法 を応用した主要検査会社データの解析を行ってい る.113,000 検体(4,710 施設)のデータ分析により,

菌種分布,患者年齢分布,期間有病率などのデータ を明らかとしている(Fig. 2).これらにレセプト データ分析を加えた多角的疫学調査体制の確立が期 待されている.

呼吸器分離菌(遺伝子解析による分類学の発展)

 菌種の正確な同定は,臨床的な差異が明らかであ

Fig. 1 肺 NTM 症および菌陽性結核の罹患率推移       (1980 〜 2014)

2014 年の全国アンケート調査は,肺 NTM 症罹患率が 菌陽性結核を超えたことを明らかとした.1998 年まで が国療研究班調査,2001 年および 2007 年は研究協議会 のアンケート調査のデータより引用.

Fig. 2 地域毎の 症と

      (阿戸班 27 年度研究)

東日本で が,西日本で の割

合が大きい.

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るほど重要となる.近年欧米から,肺 MAC 症の起 炎菌として の重要性を示す報告が続い ている( は,PCR などの検査方法では 

と同定されている).米国からは,診 断基準を満たす症例は ,

のほうが より 3 倍近く高いこと,一方,

免疫抑制剤使用者からの分離が多いこと,再発は と同様に高いことが報告されている14). われわれの調査では,日本各地の

株(100 株)からは はみつからなかっ た(追試中).

   complex は,近年報告される論文の

多くが, ( ),

( ),

 ( ) の 3 つに分けて 分析されている15). , に比 して はマクロライド治療に反応が 良好であるが(菌陰性化 25% vs 88%)16),この違い

は ( )遺伝子

の活性の有無に因ることが分かっている.このため 亜種同定は必須の流れとなってきている.CLSI は,

感受性試験で 遺伝子活性の有無を確認するこ とを推奨しているが,本邦ではその標準感受性検査 ができないという状況にある.

宿主因子(多因子が報告されている)

 感染,再感染予防のための宿主因子の改善という ストラテジー確立には乗り越えるべき壁は多い.

 種々の肺疾患による局所免疫低下:環境菌である NTM が肺に感染症を来す原因として,肺基礎疾患 が重要となる.COPD:主に欧州における重要な背 景因子とされている.本邦における実態は分かって いない17).嚢胞性線維症:長期経過での NTM 分離 頻度は 10 〜 30%とされ問題となっている.塵肺:

塵肺患者数自体の減少から経験される頻度は減って いる.気管支拡張症:NTM は病変の進行から気管 支拡張の原因となる.一方,先行する気管支拡張に NTM はコロナイゼーション,発病する.緑膿菌,ア スペルギルスなどとの関連が注目されてきている18). 陳旧性肺結核:結核数の減少から頻度は減ってきて いるが,線維空洞型を呈する症例の主たる要因と なっている.間質性肺炎:間質性陰影に重なる病変 となることから,非典型的画像を呈する.線毛機能

不全:10%程度が感染するとされる.肺胞蛋白症:

主にマクロファージの機能低下によると考えられて いる.

 宿主免疫の低下:免疫能が極めて低い場合は播種 性病態となる19).HIV,悪性腫瘍,血液疾患.生物 学的製剤:抗 TNFα阻害剤が注目されていたが,

抗 IL-6 抗体など他の製剤でも報告されている.先 天性免疫不全:特に MSMD(メンデル遺伝型マイ コバクテリア易感染症),免疫抑制剤使用,マクロ ファージ機能低下20)

 その他:痩せ,CFTR 遺伝子変異,線毛機能に 関する遺伝子変異,咳の抑制,脂肪ホルモン,漏斗 胸,側弯21),逆流性食道炎22),膠原病(主には局所 免疫の低下)

環境原の同定(感染・再感染対策)

 1996 年に多剤併用化学療法を確立し,1997 年の ATSガイドラインの中心人物であったWallaceらは,

ガイドラインの妥当性検証のために標準治療(菌陰 性 1 年で治療を終了)を行った結節気管支拡張型 180 例(CAM:91 例,アジスロマイシン AZM:89 例)を報告している23).その結果,喀痰菌陰性化は 154/180 (86%)と高率であり,CAM と AZM 群で 差異はなかったとし,現行治療法の妥当性を示して いる.この論文で注目されたのが,投与中の再排菌 は 14%に起こり,そのうち 73%が再感染,27%が真 の再発であり,さらに治療終了後の再排菌は 71/155

(46%)例に起こり,うち 75%が再感染,25%が真 の再発であったというものである.この結果より著 者らは,投与中,終了後の再排菌の多くは再感染に よるものだと結論している.標準治療を行っても再 排菌が多いことが指摘されていたが,その多くは再 感染であるとすれば,感染源の調査は欠かせないも のといえる.

 NTM の環境調査は,米国の研究者が重要な研究 を続けている.著者らは,当初は自然環境に重点を 当 て て い た が,1980 年 代 の AIDS 患 者 の 播 種 性 MAC 症の経験から,家庭環境などの身近な環境に 重点を移してきたと述べている24).本邦からも感染 源に関する重要な報告が相次いでいる.西内らは家 庭環境調査を MAC 患者と健常人宅で比較検討して いる.MAC 患者宅では菌同定率が有意に高く,同 定された場所はキッチンやリビングルームではなく

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風呂場であったこと,また PFGE により患者由来 株と環境株が同一であったことから,風呂場が感染 源の一つであると報告した25).伊藤らは,結節気管 支拡張型の MAC 患者 106 例と MAC 症のない気管 支拡張患者 53 例を,NTM 症の危険因子について比 較し,患者群で有意に高頻度土壌暴露(2 回 / 週以 上)が高かったことを報告し,農業やガーデニング などの土壌暴露が感染の要因となっていると主張し ている26).これまでの報告から,風呂場や土壌暴露 が感染の原因となっている可能性は高いと考えられ るが,特定の環境介入(風呂場の掃除や取り換え)

が臨床経過に及ぼす影響はまだ分かっておらず,長 期的な検討が必要である27)

 一方,疫学的分析により,有病率には地域差が明 らかとなっており,NTM をより大きなエコロジー で捉える必要もある.前述のメディケアという健康 保険制度のデータ分析を行った NIH のグループは,

得られた疫学データを地理空間解析により,リスク 因子となる環境因子を分析した.これにより,患者 密度の高い地域は,有意に人口密度,蒸発散量,ま た土壌中の銅,マンガン,ナトリウムが高いことな どを報告している.今後は宿主因子と環境因子を複 合的に捉えた分析が必要と思われる.

診断(世界をリードする研究が続いている)

 本邦において,診断基準をはじめて提唱したのは 日比野・山本らで 1960 年代のことである28).この 当時は NTM 症の罹患率は 1%以下であり,結核専 門施設で同症の診療が行われていたこと,コロナイ ゼーションであるという疑念を払拭する必要があっ たことから厳密な基準となっている.その後,疫学 調査を行っていた束村が,検査回数によって菌同定 の臨床的意義が異なることを明確にすべく(4 回 行って 4 回陽性と 100 回行って 4 回では重みが違 う),1,098 例の菌同定パターンを解析して,月 1 回 検査ならば 10 回のうち 6 回,毎日の場合は 10 回の うち 3 回など簡便な基準を暫定的に提案した29).さ らに 1997 年には,背景出現率(検査回数あたりの 偶発性排菌の出現率)を用い,同様の臨床分析か ら,どの程度の NTM の排菌があれば「異常値」と なるのか,統計学的有意差を示す出現率陽性回数 / 検査回数を求め,検査頻度・集落数にかかわらず,

12 回検査中 2 回陽性(菌のみであれば 6 回(6 か月)

以内に 3 回)とした30).このデータを基に 1980 年

「非定型抗酸菌症(肺感染症)診断基準(国療研究 班)が発表された31).ATS/IDSA に引用されてい る CHEST の論文は,1997 年の研究内容を新たな 陰影出現時に絞り,明快に示したものである32).  ATS/IDSA の基準は MAC, ,

に限定したものであるが,本邦の肺非結核性抗酸菌 症診断に関する指針2008 年では,「稀な菌種や環 境から高頻度に分離される菌種の場合は,検体種類 を問わず 2 回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則 とし,専門家の見解を必要とする.」と記載してお り,註記には「細菌学的基準そのものは菌種の区別 なく適用」と記載している33).よって主要菌種以外の 弱毒菌に対する過剰診断への懸念からも,明確な基 準の確立が求められている.殆どがコンタミネーショ ンと認識される は, B 解析などから サブタイプに分けられる.菌の基準を,培養 3 回うち 塗抹陽性 1 回という基準を用いると,同定の約 99%

がコンタミネーションと判断されたが,基準を満たし た症例はすべて臨床的に 症と診断さ れていたこと,サブタイプ解析ではすべて typeC であったと報告されており,解決への糸口になる可 能性がある34)

 本邦では Glicopeptidolipid core への IgA 抗体が 開発され,その特異度の高さから臨床的貢献度が大 きい35).気管支拡張や細気管支炎などリウマチ性気 道疾患を呈する症例では,免疫抑制剤や抗 TNFα 阻害剤をはじめとする生物学的製剤使用前の診断が 重要となる.関節リウマチ症例 388 例での検討が行 われ,感度特異度は 80%,99%であり,レントゲン 所見有りに限った検討では感度 80%,特異度 100%,

PPV100%,NPV96%と良好な結果が報告されてい る36).抗 GLP-core 抗体は,線維空洞型が多く MAC 症比率の低い欧州を除けば,海外でも十分役立てら れるであろうと予想される.関節リウマチ症例以外 にも嚢胞性線維症患者( complex も陽 性となる前提で)におけるデータ集積が期待される.

治療(種々の問題点)

 1.標準治療法が十分に行われていない(低い医 師側の遵守率)

 米国から呼吸器・感染症医師が,ガイドラインを 遵守していないとするアンケート調査結果が報告さ

(5)

れた.内容は,米国で NTM を診療している医師 349 人よりアンケートの回答を得て,計 915 例の診 療内容を解析したものである.この結果,ATS ガ イドラインに順じて MAC 症治療の処方を行ってい たのはわずか 13%にすぎなかった.57%もの患者 はマクロライドを含まないレジメを処方されており,

残り 30%の処方内容は,マクロライド単剤投与

(16%),マクロライドと RFP(13%)などマクロライ ド耐性を誘導する危険の高い処方であった,という ものである37).続いて日本と欧州 5 か国(EU5:英国,

フランス,ドイツ,イタリア,スペイン)で同様の調 査が行われ,公表された米国のデータと比較された.

その結果ガイドラインで推奨されるマクロライドを 含む 3 剤併用療法を 6 か月以上に渡り受けている患 者の割合は,日本(42%)で最も高く,英国(17.8%)

とスペイン (8.4%)と続き,その他では 8%以下で あった38).われわれは,標準治療が十分に行えてい ないという事実を問題点として認識すべきである.

また,他国に比して日本の成績が良好ではあった が,最低でも 70%以上を目指すべく改善に向けた 方策を議論する必要があると考える.

 2.治療開始のタイミング(主治医毎の判断の乖 離が大きい)

 現在治療開始のタイミングを主治医の総合的な判 断に依存している事は(見解「・・一般論としては 早期診断,早期治療がより望ましいと思われるが,

副作用を考慮したうえで現行の化学療法をいつ開始 するのが妥当なのかは明確な根拠がいまだなく,臨 床医の総合的な判断に依存する.・・」)39),各医師 に大きな負担となるだけでなく,開始時期の大きな 乖離(たとえば早期病変から積極的な治療を行う医 師,病気の進行に関わらず治療消極派の医師)を生 んでいる.このため,学会で Pro-Con が行われ,

ある程度のコンセンサスが得られていることから,

それを(Fig. 3)参考に判断すべきである.

 3.CAM 耐性化の問題(EB 中止は治療上のピッ トフォールとなる)

 本邦における NTM 症死亡数は 2014 年,男性 460 例,女性 929 例の計 1,389 例と女性優位に増え 続けている(Fig. 4)40).この増加の一因に,CAM 耐性例があると考えられる.われわれは CAM 耐性 連続 90 例の分析を行い,5 年生存率は 71%と不良 であった.ステートメントには「CAM 耐性は CAM

の単剤使用もしくは CAM とフルオロキノロン(FQ)

剤の併用例,標準治療中の EB の中止が耐性化の原 因となる」とされ,これらの投与法を行わないように 周知していく必要がある.標準治療中には EB によ る副作用が高頻度で起こることが指摘されており,

ピットフォールとなっている可能性が高い.EB は 副作用を最小限にするためにも過剰投与(推奨:

15 mg/kg)とならないように注意が必要である41). 副作用頻度が低いとされる,隔日投与法(NB タイ プに限る)は今後の課題である.

 4.投与期間について(いつまで投与すべきか)

 投与期間について見解では「日米のガイドライン で記載されている「菌陰性化後約 1 年」はエビデン スではなく,従ってそこで終了しても良いとする根 拠はえられていない.」「わが国の長期観察報告では ATS ガイドラインの指示期間以降の継続投与のほ うが予後は良いとしており,最適化学療法期間は今 後の研究課題の一つである.」としている.よって 現状では ATS ガイドラインの定める期間を最低限 として,それより短い投与期間とならないように心 がけることが重要である.菌陰性化 1 年という指標 について正確に認識されないと,短期治療につなが るため注意が必要である(Fig. 5).治療開始後痰検 査を続け,培養が陰性化してから 1 年(陰性が維持 されている)を意味する.本邦からは,空洞例で標 準治療期間より長期投与例で有意に再発頻度が低い と報告されている42).米国からも空洞例が再発リス クとなっているとする報告があり,長期投与の参考 にできると思われる14)

Fig. 3 治療開始のタイミングに関する見解 注)経過観察と決めた場合も短期間で急速に増悪する 症例もあるので定期検査を継続する.レントゲン,喀 痰検査を基本として 1 〜 3 か月毎にチェックする.経 過中に咳痰の増加などを自覚したら早期受診するよう に指示しておく.以下著者追記)関節リウマチに合併 し,生物学的製剤などを導入する予定の症例はここに 該当しない.

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 5.リウマチ合併例に関する諸問題

 潜在性結核感染の治療により,TNFα阻害剤を  はじめとする生物学的製剤使用後の結核発病は減る 一方,NTM 症は禁忌とされたために,その対応に 注目が集まっている.関節リウマチの有病者数は 70 〜 80 万人とされており43)リウマチ罹患率,その 1 〜 2%が NTM 合併すると仮定すると 7,000 から 16,000 例の症例がいると推測される.これらの症例 は,生物学的製剤の使用可否に加えて,NTM 症と 画像が酷似するリウマチ性気道病変,NTM 症と患 者背景が重なること,また合併自体が予後を悪化さ せることなど検討課題が多い.呼吸器臨床医側から は,生物学的製剤を予定するリウマチ合併例には,

上記の治療開始のタイミング(経過観察)は参考に せず,積極的な介入が必要となる.PLS やタクロ リムスを使用している症例には,RFP の薬剤相互 作用などに注意を払う.軽症の結節気管支拡張型で あれば RFP を除いた CAM と EB の 2 剤治療44)で も病勢コントロール可能な場合が多い(私見).い ずれにしても症例の集積が重要である.

お わ り に

 現在,治療開始のタイミングに限らず,臨床医の 間で診療スタンス・知識の乖離があると思われる.

治療期間は,治療開始後に菌陰性がいつであったの か分からなければ(つまり,喀痰培養陰性化時期を

Fig. 4 本邦の非結核性抗酸菌症死亡の推移

非結核性抗酸菌症による死亡数は 1990 年代より増加が顕著となっており,2000 年代から は女性優位となっている.

Fig. 5 肺 NTM 症の治療期間

菌陰性化 1 年とは,喀痰陰性化を得て 12 か月間陰性が続く状態をいう.症例により 6 か月間(計 18 か 月間),12 か月(計 24 か月間)延長の判断をする.●:培養陽性,○:培養陰性,★:CT 検査は,開 始時必須だが 6 か月目は症例毎の判断でよい.治療開始 12 か月または終了時にも行うことが望ましい

(著者私見).

(7)

知るために治療開始後も 1 か月毎に痰検査を行う必 要がある),治療終了時期は定められない.しかし,

痰検査自体が十分に行われていないという指摘もあ る.EB の管理は眼科医と連携できているのか.患 者の心配(訴え)のみで EB を中止していないか.

NTM 診療で最も重要で難しいのがその「基本」で あることは明らかである.また,治療目標の設定 は,標準治療が困難である高齢者や他疾患合併例に は柔軟に設定する必要がある.つまり,標準療法に よる菌陰性化ではなく,生活の質を意識した病勢を 抑える(diseaes suppression)治療や,他疾患治療 の障害とならない治療である.これらを解決してい くためには,多数例の解析が必要であるため,一例 一例を地域を含め連携して取り組んでいく体制が必 要である思われる.

文  献

1) 森本耕三.肺非結核性抗酸菌症の日本と世界の 疫学的動向 本当に増えているの? 倉島篤行,

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