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犯罪の終了時期に関する若干の考察

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(1)

犯罪の終了時期に関する若干の考察

著者名(日) 伊藤 渉

雑誌名 東洋法学

巻 54

号 2

ページ 61‑78

発行年 2010‑12‑20

URL http://id.nii.ac.jp/1060/00000787/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止

(2)

一.問題領域   およそ犯罪は、その構成要件要素のすべてを充足することによって既遂となるとともに、その解消をもって終了

する。したがって、犯罪の成立要件を論ずるに当たっては、既遂時期とともに、終了時期が重要な意味を有するこ

とになる。

  すなわち、伝統的な見解においては、犯罪の終了時期は、主として公訴時効の進行の起算点(刑訴法二五三条)、

共犯(刑法六〇条~六二条)の成立時期の限界をはじめとして、さまざまな形で問題とされてきた。そして、それ

によれば、犯罪は、その終了時期に応じて、以下のように即成犯・状態犯・継続犯の三つのカテゴリーに分けられ

るものとされてきたのである。

①即成犯においては、構成要件の充足により侵害された法益がそのまま消失し、それにより直ちに犯罪が終了す 《論   説》

犯罪の終了時期に関する若干の考察

伊   藤      渉

(3)

る。殺人罪がその例である。この場合、犯罪の既遂時期と終了時期は一致することになる。

②状態犯においては、構成要件の充足により法益侵害状態が生じ、それが確定することにより犯罪が終了する。窃

盗罪・傷害罪がその例である。この場合、犯罪の既遂時期と終了時期は概ね一致することになる。

③継続犯においては、構成要件の充足によって生じた法益侵害状態が継続する限り犯罪自体が継続し、その解消に

よって初めて犯罪が終了する。監禁罪・薬物等の不法所持罪がその例である。この場合、犯罪の既遂時期と終了

時期は基本的に一致しない。

  しかしながら、以上のような犯罪の終了時期をめぐる議論は、これまで必ずしも十分でなかったように思われ

る。すなわち、第一に、これらのカテゴリーの区別のあり方や、個々の犯罪がどれに属するか、という点につい

て、必ずしも明確にされてきたとは言い難いこと、第二に、そもそも犯罪の終了時期を論ずることの実益はどの限

度で認められるのか、という点の解明が必ずしも十分ではないように思われるのである。

  それに加えて、近年新たに問題とされるようになった犯罪類型につき、終了時期をめぐって争われた判例がいく

つか出されている。このような状況の下で、改めて犯罪の終了時期についての議論を整理する必要があるように思

われる。

  本稿は、犯罪の終了時期をめぐる近年の判例を検討するとともに、学説の動向をふまえて、これに関連する問題

点につき若干の考察を加えたい。

(4)

二.従来の議論   犯罪の終了時期をめぐる従来の議論においては、上述のようにそれぞれの犯罪類型を即成犯・状態犯・継続犯に

分類した上で、終了時期を論ずるとともに、その帰結として公訴時効期間の算定、共犯の成否等の様々な効果を導

き出す、というものであった。そこでは、とりわけ以下のような議論がなされてき

た。 1

①即成犯・状態犯・継続犯の意義をめぐる議論

  第一に、継続犯とそれ以外の犯罪、とりわけ状態犯との区別の基準である。これは言い換えると、監禁罪は何故

に継続犯で、窃盗罪や傷害罪は何故に状態犯なのか、という問題でもある。この点をめぐっては、大別すると、実

行行為自体が継続しているのが継続犯、法益侵害状態のみが残存し、実行行為は終了しているのが状態犯、とする

解と、法益侵害の性質に照らし、その一瞬一瞬が新たな法益侵害と認められる場合が継続犯、当初の法益状態の 2

悪化と比較して、その後の侵害状態の継続は違法性が弱いと認められる場合が状態犯、とする見

解が対立してい 3

る。前者の見解によれば、監禁罪の場合は、監禁の継続中は、脱出を妨げるための作為による手段行為がとられて

いるか、あるいは脱出不可能な状態を解消しないという不作為による手段行為が継続しているのに対して、窃盗罪

や傷害罪においては、財物の占有の喪失ないし負傷後は、行為者において何らの手段行為もとられていない、とい

うように説明される。後者の見解によれば、監禁罪の場合、身体の拘束という不利益は、その一瞬一瞬に当罰性が

認められるのに対し、窃盗罪や傷害罪の場合は占有の喪失や身体機能の悪化と比較して、その後の財物の利用不可

能性や症状の継続については、それ自体としては当罰性が認められない、ということになる。

  もっとも、いずれの見解によるにせよ、具体的な犯罪類型についていずれに属するか、という点に関しては、必

(5)

ずしも決定的ではないように思われる。例えば略取・誘拐

罪や住居侵入 4

罪、あるいは各種登録義務違反の 5

罪につい 6

ては、これらの基準によっても、それが継続犯か状態犯かについては、必ずしも一義的に定まるものではない。

  第二に、状態犯において、既遂時期と終了時期とが一致しない場合が認められるか、という点である。例えば、

傷害罪においては、たしかに相手方に一撃を加えて傷害を負わせた場合には、相手が負傷するとともに直ちに犯罪

は終了するとすべきであるが、相手方に継続して有害物質を摂取させ、それに従い相手方の症状が悪化するような

場合には、発症により既遂となるが、症状の悪化が続く限り終了しないのではないか、ということが指摘されて

る。さらに、相手の身体に対する加害自体が終了している場合においても、症状自体の悪化が認められる場合 7

は、犯罪の終了を認めるべきでないとの見

解もある。 8

  同様の議論は、窃盗罪や不動産侵奪罪等の領得罪においても見られる。すなわち、窃盗罪については、相手方の

占有を奪うことにより既遂になっても、目的物の占有を確保するまでは終了しない、あるいは、不動産侵奪罪につ

いては、侵奪にかかる不動産に建物を構築する場合、その進行により侵害の程度が高まるから、その間犯罪は終了

しない、といった見

解である。 9

  第三に、即成犯においては、その性質上既遂時期と終了時期は一致するとされてきたが、ここでも、犯罪の種類

によっては、既遂時期と終了時期が異なりうるのではないか、ということが指摘されている。例えば、放火罪にお

いては、焼損にかかる目的物自体は、焼失により法益性を失い、それによって犯罪も終了するのであるから、即成

犯だと言わざるを得な

いが、しかしその既遂は判例によれば独立燃焼の時点である一方、ほかの物件に延焼しまた 10

はそのおそれが生じている場合は、焼損に起因する公共の危険(抽象的危険にせよ具体的危険にせよ)が継続してい

ることから、結局鎮火するまでは犯罪は終了しない、という指摘もあ

る。 11

(6)

  以上のように、即成犯・状態犯・継続犯相互の区別基準は必ずしも明確でないだけでなく、同一の種類の犯罪で

あっても遂行態様によっては異なる扱いがなされうるのではないか、さらに、既遂時期と終了時期の不一致を広く

認めるのであれば、そもそもこのような区別には意味があるのか、という問題が生じることになる。

②犯罪の終了時期の実益をめぐる議論

  従来、犯罪の終了時期については、以下のような実益があるとされてきた。第一に、犯罪の終了とともに公訴時 効の期間が進行を開始す

る。第二に、犯罪の終了に至るまでに当該犯罪に関与した者には、共犯の成立が認めら 12

る。第三に、犯罪の成立が問題となる行為の開始後に犯意を生じた場合は、それが犯罪の終了以前であれば当該 13

犯罪の成立が認められ

る。第四に、犯罪の終了に至るまでに刑罰法令の変更がなされた場合、それが行為者に不利 14

な変更の場合であっても変更後の規定が適用され

る。第五に、犯罪の終了後においては、同一の法益に対する侵害 15

行為が重ねてなされたとしても、不可罰的事後行為となり別罪を構成しな

い。第六に、当該犯罪行為に対する防衛 16

行為は、その終了時点までは認められる。

  しかしながら、これらの問題点を統一的に解決する必要はあるのか、という疑問が提起されてきている。まず、

共犯の成立は、関与の対象となる正犯行為の存在が前提となるのであるから、犯罪が終了していないからといって

共犯の成立が可能になるわけではな

い。事後に犯意を生じた場合であっても、その後に当該事態を維持・強化する 17

行為がなされたといえなければ、当該犯罪が継続犯だとしてもその罪の成立が認められるわけではな

い。刑罰法令 18

の変更についても同じことが言え

る。ある行為について刑罰法令を適用するためには、その法令は行為時に存在し 19

なければならないとされる趣旨は、行為者の予測可能性を保障することにあるのだから、改正後の法令を適用する

ためには、改正後において行為者が構成要件所定の行為に出たといえるのでなければならず、単に犯罪が終了して

(7)

いないというだけでは足りない。

  また、既遂後の行為が不可罰的事後行為となるかは、当該構成要件と事後の行為との関係や、両者の法益の関係 によって定まるものであって、それが継続犯ではなく状態犯だからそうなるのではな

い。そもそも不可罰的事後行 20

為といわれる場合の中には、当該行為の構成要件該当性自体は否定できず、ただ、主たる犯罪と包括一罪の関係に

立つがゆえに、独立に犯罪の成立を認めるべきでない、という場合(むしろ「共罰的事後行為」というべきである)

もあろ

う。 21

  さらに、防衛行為の要件としての「不正の侵害」は、そもそも構成要件該当行為である必要はないのだから、犯 罪行為の終了をもって防衛行為の時期的限界とすることはできな

い。 22

  このように、従来犯罪の終了時期と結び付けて論じられてきた諸問題については、それが必ずしも終了時期の問

題と連動していないのではないか、という疑問が提起されてきている。

(1) 古田佑紀「犯罪の既遂と終了」判例タイムズ五五〇号九〇頁、林幹人「即成犯・状態犯・継続犯」刑法の争点(第三版)三〇

頁、松原芳博「継続犯と状態犯」刑法の争点二八頁、林美月子「状態犯と継続犯」神奈川法学二四巻二=三号一頁、佐伯仁志「犯

罪の終了時期について」研修五五六号一五頁。

(2) 町野朔・刑法総論講義案Ⅰ(第二版)(一九九五)一四八頁、西田典之・刑法総論(第二版)(二〇一〇)八六頁、佐伯・前出

(1)一七頁。

(3) 平野龍一・刑法総論Ⅰ(一九七五)一三二頁、林(幹)・前出(1)三〇頁、松原・前出(1)二八頁、林美月子・平成一九

年度重要判例解説一六五頁。

(4) 大判大正一三・一二・一二刑集三巻八七一頁、大判昭和四・一二・二四刑集八巻六八八頁、大阪高判昭和五三・七・二八高刑集三一

(8)

巻二号一一八頁はこれを継続犯とする。本罪を継続犯と解する見解として、大谷實・刑法講義各論(新版第三版)(二〇〇九)

九五頁、中森喜彦・刑法各論(第二版)(一九九六)五五頁、曽根威彦・刑法各論(第四版)(二〇〇八)五七頁、林幹人・刑法各

論(第二版)(二〇〇七)八二頁。これに対し、被拐取者を収受する行為が二二七条において別個に処罰されていることを理由

に、本罪を状態犯だと解する見解として、平野・前出(3)一三二頁、西田典之・刑法各論(第五版)(二〇一〇)七五頁、山口

厚・刑法各論(第二版)(二〇一〇)九一頁、松宮孝明・刑法各論講義(第二版)(二〇〇八)九七頁。

(5) 最決昭和三一・八・二二刑集一〇巻八号一二三七頁はこれを継続犯とする。本罪を継続犯と解する見解として、大谷・前出(4)

一三一頁、中森・前出(4)七九頁、曽根・前出(4)八〇頁、西田・前出(4)九九頁、林(幹)・前出(4)一〇一頁、松

宮・前出(4)一三〇頁。これに対し、一三〇条後段における不退去罪の処罰を理由に、本罪を状態犯だと解する見解として、平

野・前出(3)一三三頁、山口・前出(4)一一九頁。

(6) 外国人登録義務を怠った場合につき、最判昭和二八・五・四刑集七巻五号一〇二六頁は継続犯とする。これを支持する見解とし

て、佐伯・前出(1)一八頁。これに対し、一定の期限までに作為を命ずる場合については状態犯だと解する見解として、平野・

前出(3)一三三頁。

(7) 林(幹)・前出(1)三一頁。

(8) 佐伯・前出(1)二一頁。これに対して、林(幹)・前出(1)三一頁は、症状の悪化だけでは継続犯を認めるには足りない

とする。

(9) 古田・前出(1)九二頁以下、林(幹)・前出(1)三〇頁。

10) 大谷實・刑法講義総論(新版第三版)(二〇〇九)一二八頁。これに対して、本罪を継続犯だと解する見解として、町野・前

出(2)一四八頁。

11) 松原・前出(1)二九頁、佐伯・前出(1)二二頁。

12) 判例(最決昭和六三・二・二九刑集四二巻二号三一四頁)によれば、ここにいう犯罪行為の終了が認められるためには、構成要

件的結果が発生していることが必要であって、実行行為の終了では足りないとされる。なお、刑訴法二三五条は親告罪につき告訴

(9)

期間を規定しているところ、その起算点は犯人を知った時とするが、犯罪の終了以前に犯人を知った場合においては、終了により

初めて期間の進行が開始するものとされる。

13) この場合において、いわゆる承継的共犯の成立を認めるべきか否かについては対立がみられるが、少なくとも関与後の部分に

ついては共犯が成立することになる。

14) 最決昭和五〇・六・一三刑集二九巻六号三六五頁、札幌高判昭和二七・一二・二七高刑集五巻一二号二三四頁。

15) 最決昭和二七・九・二五刑集六巻八号一〇九三頁。

16) 例えば窃取にかかる財物を処分し、あるいは損壊する行為がこれに当たるとされている。

17) 松原・前出(1)二九頁(ただし、共犯の成立には、正犯の行為を通して結果が発生することを必要とせず、正犯との意思連

絡により自ら法益侵害状況に影響を与えた場合にも共犯を認めるのであれば、正犯の行為が終了していた場合でもなお共犯は成立

しうるとする)、林(美)・前出(1)一六頁以下。

18) 松原・前出(1)二九頁。

19) 林(幹)・前出(1)三一頁、松原・前出(1)二九頁、林(美)前出(1)二一頁。

20) 林(幹)・前出(1)三一頁。

21) いわゆる不可罰的事後行為の法的性格をめぐる議論については、拙稿「不可罰的(共罰的)事後行為の法的性格について」刑

事法ジャーナル一四号二七頁参照。

22) 林(幹)・前出(1)三一頁、松原・前出(1)二九頁、林(美)・前出(1)二〇頁。

三.近時の判例

  以上のような議論の動きに加えて、新たな犯罪現象との関係で、犯罪の終了時期をめぐるいくつかの判例が出さ

(10)

れるに至った。以下にそれを紹介する。

①入札をめぐる不当な取引制限(東京高判平成九・一二・二四高刑集五〇巻三号一八一

頁) 23

  水道メーターの販売業者二五社における営業実務責任者三四名が、平成六年四月に会合を開き、東京都における

水道メーターの発注に当たっては、従来の受注実績に応じた受注を行うこと、および、これを実施するために、入

札の都度、幹事において受注予定社と入札予定価格を連絡して、各社においてはその通りになるよう入札・見積も

りを行うことを合意した。さらに、平成七年四月と平成八年四月にも、内容を多少修正しながらも同様の合意を

行った。以上の行為につき、独占禁止法八九条・三条違反に当たるとして起訴された。

  本判決は、不当な取引制限の罪を継続犯であるとした。すなわち、各年度の当初に行った相互拘束行為によりそ

れぞれ既遂に達する(個別の入札ごとの受注者の決定までは必要ではない)一方、これによる競争の実質的制限が継

続している以上は、本罪は終了しない、としている。なお、本罪は各年度ごとに成立するのであって、平成七年度

以降についての合意は不可罰的事後行為ではなく、併合罪として処罰すべきものであるとされた。

  本判決においては、時効の完成や共犯の成否といった具体的問題が争われたわけではなく、単に各年度当初にな

された基本合意により本罪は成立し、かつそれが拘束力を有する限り本罪は継続する、それ故に個別の入札をめぐ

る行為を実行行為として取り上げることを要しない、とするものと思われる。

  学説は、本判決と同様に、基本合意にもとづく相互拘束状態自体を構成要件的結果ととらえ、本罪を継続犯とす

る見

解と、本罪を状態犯と解した上で、基本合意と個別の入札をめぐる行為の双方を実行行為とする見 24

解とが対立 25

している。

②インターネット上における名誉毀損(大阪高判平成一六・四・二二判タ一一六九号三一六

頁) 26

(11)

  行為者は、平成一三年七月にインターネット上のホームページの掲示板に、被害者の名誉を毀損する内容の書き

込みを行ったところ、被害者は平成一三年一〇月に本件書き込みを知り、それが行為者によるものであることを

知ったが、告訴を行ったのは平成一五年四月であった。なお、平成一五年三月、行為者において、警察署を通して

ホームページの管理者に対する削除依頼を行っていたが、同年六月末ころまでは本件記事は削除されていなかっ

た。

  本判決は、本件記事が利用者の閲覧可能な状態に置かれるとともに本罪は既遂に達し、かつその状態が継続して

いる限り終了しないとした。ただし、本件においては、行為者が本件記事の削除を申し入れることにより、自己の

生じさせた名誉侵害の危険を解消させるための作為義務を果たしたとして、この時点で本件犯罪は終了した、と判

示した。

  本判決は、名誉毀損罪が状態犯か継続犯か、という点は何ら判示しておらず、インターネットのホームページに

おける名誉毀損という具体的な遂行の態様について、その終了時期を判断したものといえよう。

  学説は、本罪を継続犯と解し、あるいは状態犯だとしても削除要請に至るまでは侵害行為は継続していたとして 本判決を支持する見

解と、本罪は状態犯であって、記事の掲示により犯罪が終了するとして本判決に反対する見 27

28

とが対立している。

③現況調査時の虚偽申立てによる競売入札妨害(最決平成一八・一二・一三刑集六〇巻一〇号八五七

頁) 29

  経営難に陥った会社の経営者が、平成七年一二月、強制執行にかかる不動産について現況調査がなされた際、執

行官に対して虚偽の賃貸借契約の存在を申し立てた。これを受けて、平成九年三月、上記内容虚偽の事実が記載さ

れた現況調査報告書が、入札参加希望者の閲覧に供されるべき状態におかれた。以上の事実関係につき、本件経営

(12)

者は平成一二月一月、競売入札妨害の罪で起訴された。

  被告人は公訴時効の完成を主張したが、第一審判決は、上記現況調査の後に、評価人による不当に廉価な評価書

の記載、裁判官による不当に廉価な最低売却価格の決定及び、裁判所職員による上記現況調査報告書の備え付けを

なさしめたものとして、被告人の実行行為が継続していたことを理由に公訴時効の成立を否定した。これに対し

て、控訴審判決は、競売入札妨害罪は現況調査に際して虚偽の申立てを行った時点で既遂に達するが、それに基づ

く売却手続きが続く限り、競売入札の公正が害される状態は継続しているのであるから、犯罪は終了せず、被告人

において虚偽申立ての撤回等により競売手続きの公正を害する危険を解消しない以上、公訴時効は進行しないとし

た。本決定もこれを支持した。

  本決定も、本罪が即成犯・状態犯・継続犯のいずれに属するかは何ら判示していない。ただ、虚偽の申し立てに

基づく売却手続きが進行する間は、本罪は終了しない、とするに止まる。学説も、本決定の判断を概ね支持してい

るといえよう。その論拠としては、虚偽の申立て後において、売却手続きの公正を害する危険が拡大していくとす

る構

成、虚偽情報を反映した現況調査報告書の備え付けをも含めて、本罪の構成要件該当性が認められるとする 30

成、競売入札の公正が害されていること自体を継続犯として処罰しているとする構成などがあ 31

る。 32

23) 本判決についての評釈として、芝原邦爾・ジュリスト一一四三号九五頁、佐伯仁志・法学教室二二〇号一二八頁、深津健二・

平成九年度重要判例解説二四二頁、大橋敏道・ジュリスト一一四九号一二六頁、田中利幸・経済法判例・審決百選二六二頁、島田

聡一郎・経済法判例・審決百選二五八頁。

24) 大橋・前出(

23)一二七頁。

25) 芝原・前出(

23)一〇〇頁、佐伯・前出(

23)一二九頁。なお、西田典之「独占禁止法と刑事罰」岩波講座現代の法6・現代

(13)

社会と刑事法(一九九八)二二八頁以下は、本判決のような入札談合の事案についてはこのような構成によるべきだとする一方、

価格値上げカルテルの場合は、日々の販売活動自体が構成要件に該当するとして、これを継続犯とする。

26) 本判決についての評釈として、山口厚・平成一七年度重要判例解説一五八頁。

27) 西田典之・刑法各論(第五版)一二〇頁。

28) 山口・前出(

26)一五九頁。

29) 本判決についての評釈として、松田俊哉・法曹時報六〇巻一〇号二九〇頁、林幹人・刑事法ジャーナル九号六六頁、松宮孝

明・法学セミナー六三一号一一九頁、林美月子・前出(3)一六五頁、清水真・平成一九年度重要判例解説二〇三頁、樋口亮介・

ジュリスト一三七七号一五六頁、本圧武・判例セレクト二〇〇七(法学教室三三〇号別冊付録)二五頁。

30) 松田・前出(

29)二九二頁、西田・前出(2)八八頁、林(美)・前出(

29)一六六頁、清水・前出(

29)二〇五頁。

31) 松宮・前出(

29)一一九頁、本圧・前出(

29)二五頁。

32) 林(幹)・前出(

29)七〇頁、樋口・前出(

29)一六〇頁。

四.検討

  前述のように、近時の判例及び学説においては、犯罪の終了時期を論ずるに当たり、およそある罪が即成犯・継

続犯・状態犯のいずれに属する、だから、その帰結として例えば公訴時効の期間についてはこう解すべきだ、共犯

の成立はこの範囲で認めるべきだといった、概念的・演繹的議論は行わず、むしろ具体的問題の解決と関連付けた

上で、犯罪の既遂時期と終了時期の関係を論じているといってよい。即成犯・状態犯・継続犯という分類は、必ず

しも決定的な意義を有するわけではないのである。

(14)

  しかし、だからといって、犯罪の終了時期をめぐる上述の区別をめぐる議論が無意味だ、ということにはならな

いように思われる。犯罪の終了時期が既遂時期と一致しない場合においても、どの時点をもって犯罪の終了とすべ

きか、ということを考えるに当たっては、何らかの基準が定立されることが望ましいからである。

  そこで、犯罪の終了時期を画する基準及び、その効果の限界につき、若干の私見を述べたい。

①まず、侵害法益の性質上、法益侵害状態が時間的に継続すること自体が、その量的拡大を意味するものと認めら

れる場合は、当該侵害状態の解消をもって初めて犯罪は終了するものと解すべきであろう。監禁罪や薬物の不法

所持罪が継続犯とされ、被害者の脱出・解放や、薬物所持の喪失・手放しをもって終了とする従来の通説は、こ

の意味において正当と思われる。ここでは、例えば行為者が監禁場所・保管場所を離れているため、実行行為自

体が中断していることは、終了時期自体には影響せず、ただ、後述するところの共犯の成否・刑罰法令の変更等

の場面において結論を左右しうるに止まる。

②これに対して、傷害罪における被害者の負傷、窃盗罪における財物の利用不可能性、名誉毀損罪における名誉侵

害の危険性自体は、そのような状態が時間的に継続したからといって、法益侵害の量的拡大を意味するものでは

ない。従来、これらの犯罪が状態犯として、法益侵害の発生により犯罪は終了するものとされてきたのは、法益

侵害状態がそのまま拡大せずに継続するだけの場合については正当である、といってよい。しかし、これらの罪

においても、行為者のもたらした法益への悪影響自体が継続し、それによって法益侵害の質的・量的拡大が認め

られるのであれば、犯罪の終了を認めるべきではあるまい。ここでは、行為者による法益への悪影響自体が終了

し、法益侵害の質的・量的内容が確定することにより、犯罪が終了するものと解される。そこで、一撃で相手を

負傷させた場合、相手の所持する金品をすり取って直ちに逃亡した場合、人の名誉を害するような事実を、演説

(15)

というその場限りの形で摘示した場合においては、それぞれ既遂の時点で犯罪は終了するが、有害物質を継続的

に体内に摂取させることにより発症させた場合、相手の金品を一旦所在場所内に隠匿した後、改めてこれを取り

去った場

合、人の名誉を害するような出版物を刊行した場合においては、それぞれ有害物質の摂取の終了、目的 33

物の最終的持ち去り、出版物の絶版をもって、初めてこれらの犯罪は終了することになる。さらに、法益に悪影

響を与える行為自体は終了していても、法益侵害の拡大・悪化が進行する場合は、その停止をもって犯罪の終了

とすべきであろう。例えば、すでに体内に取り込まれた有害物質の継続的影響により症状が拡大し、あるいは当

初与えた傷害が被害者の身体にさらなる悪影響を与え、これにより症状の悪化・拡大を招いた場合には、当該症

状の悪化・拡大の停止をもって終了を認めるべきである。

③他方、法益侵害が発生した結果、当該法益自体が消失する場合においては、その消失をもって犯罪の終了とすべ

きである。従来、即成犯の典型とされてきた殺人罪が、被害者の死亡により(既遂となるとともに)終了する、

と考えられてきたのはその意味において当然であろう。しかし、最終的には法益が消失する場合であっても、法

益侵害による既遂結果の発生の後、それが法益の消失に至るまでの間に、時間的なへだたりが認められる場合に

おいては、既遂時期と終了時期は一致しないことになる。例えば放火罪の場合、判例によれば独立燃焼に至った

時点で既遂となるが、終了は目的物が焼失するに至った時点となる。ただし、当初の放火行為の目的物以外に延

焼している場合は、法益侵害自体が拡大しているのであるから、なお終了を認めるべきではあるまい。他方、焼

失以前に鎮火するに至った場合は、法益侵害の拡大が終了したものとして、犯罪の終了を認めるべきであろう。

④犯罪の終了時期を決定することにより、これをもって公訴時効の起算点とすることには基本的に問題はない。公

訴時効制度の趣旨に照らせば、時効期間の進行が開始するためには、行為者の行為が終了しただけでは足りず、

(16)

結果が発生することが必要なことは疑いない。もっとも、ある行為について犯罪が終了した後に、これと包括一

罪(いわゆる不可罰的事後行為とされる場合であっても、それが主たる罪と一体的に処罰する趣旨であるならば同様に考

えるべきであろう)、あるいは科刑上一罪の関係に立つ行為がなされた場合、判例の理論によれば、後の行為が先

の行為の時効完成前になされたのであれば、全体について後の行為の時効期間経過を待って初めて時効が完成す

る、ということに注意する必要があろう。

⑤これに対して、既遂後に関与した者について、刑法総則上の共犯が成立するためには、主たる行為者において犯

罪が終了していないことが必要ではあるが、それだけでは足りない。共同正犯を含む共犯は、正犯の行為を通し

て法益侵害の発生に何らかの影響を与えることが必要なのであるから、犯罪の終了以前において、関与者が主た

る行為者の行為に影響を与え、それが最終的に法益侵害につながっている必要があ

る。また、既遂後に刑罰法令 34

が行為者の不利に変更された場合においては、犯罪が終了していないことに加えて、当該法益侵害の継続自体が

その量的拡大を意味する場合(薬物所持等)においてはこれを継続させる行為(引き続き保管する行為等)、法益侵

害の質的・量的悪化が進行している場合(有害物質による症状の進行等)においては、そのような法益への悪影響

を継続する行為(引き続き有害物質を摂取させる行為等)が必要であろう。事後に情を知った場合において、その

後の行為につき犯罪の成立を認めるべき場合においても同じことがいえよ

う。 35

⑥なお、不可罰的(共罰的)事後行為は、当該行為自体の構成要件評価、あるいは主たる犯罪の法益侵害の内容と

の一体性を問題にすべきであって、主たる罪の終了時期とは必ずしも関係しない。また、当該行為に対する防衛

行為は、「侵害の急迫性」が認められるといえれば可能なのであって、侵害行為につき犯罪の終了時期を論ずる

ことを要しない。

(17)

  次に、以上の基準に基づき、本稿で取り上げた判例の事案について検討したい。

①入札談合の事案においては、年度ごとの基本合意により競争の排除という結果が生ずるが、それ自体の継続によ

り法益侵害の量的増大をもたらすものではない。しかし、個別の入札行為がなされることにより、基本合意によ

る競争の排除が具体的な実害として現実化するのであるから、その都度法益侵害が拡大することになり、当該年

度における入札の終了に至るまでは、不当な取引制限の罪は終了しない。

②インターネット上における名誉毀損の事案においては、ホームページに当該記事を掲示し続けている以上、相手

方の名誉に対して悪影響を与え続けているものであって、法益侵害の拡大が認められるといえるから、名誉毀損

罪の終了は認められない。ただし、削除の依頼により、行為者による影響力は除去されたとみるべきであるか

ら、それによって本罪は終了したといえる。この場合、記事内容を見る可能性がある以上対象者の名誉に対する

危険は除去されていないのではないか、という疑問はありうるが、それは摘示された内容が第三者を通して伝播

していく危険と同じであって、本罪所定の構成要件的結果の拡大とは言えないように思われる。

③虚偽申立てによる競売入札妨害の事案においては、競売手続きの目的が物件の適正価格による売却という点にあ

る以上、不適正な価格により目的物が売却される危険は、手続きの進行に従って拡大していくのであるか

ら、本 36

罪の終了が認められるには、売却自体が終了するか、手続きの途中で虚偽の申立てが撤回される必要があろう。

33) 大判大正一二・七・三刑集二巻六二四頁によれば、隠匿した時点で窃盗は既遂に達するとされる。

34) 既遂後に関与した者が、法益侵害の拡大に直接影響を与えた場合(例えば、焼損中の建物にガソリンをかけて火勢を強める場

合)は、むしろ単独正犯として評価すべきであろう。この場合、それが主たる行為者と意思を通じてなされたのであれば、その限

(18)

度で共同正犯の成立が認められうるが、それはまさに主たる行為者の指示・依頼にもとづくものであって、主たる行為者の行為自

体が終了していないと認められる場合といえよう。

35) したがって、放火罪のように当初発生させた火気による公共の危険が拡大していく場合や、傷害罪の場合であっても、すでに

被害者の体内に取り込まれた有害物質の継続的影響により症状が拡大する場合のように、行為者の実行行為自体が終了している場

合においては、犯罪の終了が認められる場合と同様、共犯の成立や不利な改正後の法令の適用等は、問題とはならないものと考え

られる。さらに、胎児段階で体内に取り込まれた有害物質が、出生後引き続き症状の拡大をもたらした場合も、行為者による実行

行為が専ら出生前の胎児に対して向けられているのであるから、人に対する罪としての傷害罪の成立は認められないことになる。

36) この点に関して、樋口・前出(

29)一五九頁以下は、虚偽の申立から売却に至るまでの期間が数年にも及ぶことに鑑みると、

このような危険の拡大を理由として本罪が継続しているとするのは無理があるとする一方で、本罪は公務のうち、競売又は入札を

特別に類型化して手厚い保護を与えるものであって、このような手続が全体を通して公正を保つことを図るものであることを理由

に、本罪を継続犯と位置づける。たしかに、本罪により競売・入札手続が特別扱いを受けていることは否定できないが、そのよう

な特別扱いの内実が、目的物の売却手続自体は外形上進行していても、それが最終的に不適正な価格での売却をきたすことになる

のであれば、これを本罪により処罰するということに他ならないのであるから、それに向けて手続が進行していくのは、たとえ数

年の期間に及ぶものであっても、このような不当な売却にむけた危険の拡大と見るべきであり、この点にこそ本罪の継続を認める

べき根拠を見出すべきものと思われる。なお、以上のように考えるならば、同じく競売手続等に対する特別の妨害類型たる封印破

棄罪・強制執行妨害罪にあっては、競売入札妨害罪の場合と異なり、目的物の差押の効力を失わせ、あるいは差押を免れることに

より、競売手続を開始・進行させないことを処罰するものであるから、差押の効力の喪失ないし目的物の隠匿等により、犯罪は終

了すると解することができよう。

(19)

五.結語   犯罪現象は、社会の変化とともにさまざまな形で発現する。従来さほど取り上げられてこなかった犯罪類型が注

目されるようになり、あるいは同一の罪名であっても、従来とは異なった態様の犯罪が出現している。本稿で取り

上げた犯罪の終了時期をめぐる問題に限らず、刑法の理論的問題に関しては、犯罪と社会の変化に対応し、それを

反映したものにしていく必要があろう。

―いとう  わたる・法学部准教授―

参照

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