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上顎前歯(臼歯)歯槽骨切り術のバリエーション:
問題解決のために
Variations of anterior (posterior) alveolar resection:
For resolving problems
須佐美隆史
東京大学医学部附属病院 顎口腔外科・歯科矯正歯科高 橋 哲
東北大学大学院歯学研究科 口腔病態外科学講座 上顎骨の過形成・劣形成の症例に対し,Le Fort Ⅰ型骨切り術(L︲Ⅰ)を用いた上顎前方移動術や 上顎骨骨延長法がしばしば行われる。しかし L︲Ⅰでは大きな後方移動は困難である一方,大きく前 方移動させると鼻咽腔閉鎖機能に影響し発音に支障を来すことがあり,唇顎口蓋裂症例ではしばしば 問題となる。さらに歯列・歯槽骨の連続性を保ったまま移動する L︲Ⅰでは,変形した歯槽骨形態の 改善は望めない。 こうした問題に対処するため,Wassmund 法,Wunderer 法に代表され,歯列・歯槽骨の中間部 に骨切りを行う前歯部・臼歯部の歯槽骨切り術(segmental osteotomy:SO)が行われてきた。しか し SO は,骨切り部の隣在歯・歯周組織の損傷や骨片への血流確保に対する細心の配慮が必要で,術 前後の処置も複雑となりがちであることから敬遠されることも多い。 近年こうした問題を解決するため,骨切り手術後徐々に骨片移動を行う骨延長法・骨短縮法を応用 して,SO を安全・確実に行い顎変形を改善する様々な方法が考案され,良好な結果が報告されてい る。こうした方法では,単に上顎歯列・歯槽骨の移動を行うだけでなく,歯槽形態の改善,外科的侵 襲や麻酔負担の軽減,口腔機能の温存などが可能で,手術後に行われる矯正歯科治療やデンタルイン プラントといった補綴処置にも有利に働くとされる。本シンポジウムでは,シンポジストの先生方に 術式の詳細をお示しいただいた上で,その利点,適応症,注意点,限界について討議し,SO の適用 についての知識を深めたいと考えている。相川 友直
Tomonao Aikawa
大阪大学大学院歯学研究科 口腔外科学第一教室 1st Department of Oral and Maxillofacial Surgery,
Osaka University Graduate School of Dentistry
古郷 幹彦
1),飯田 征二
2)Mikihiko Kogo₁︶,Seiji Iida2)
1)大阪大学大学院歯学研究科 口腔外科学第一教室 2)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔再建外科学講座 1)1st Department of Oral and Maxillofacial Surgery,
Osaka University Graduate School of Dentistry
2)Department of Oral and Maxillofacial Reconstructive Surgery,
Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry, and Pharmaceutical Science
上顎前歯部歯列弓形態の非対称は上顎発育異常,歯の欠損や歯列不正によって生じるが,口唇裂・ 口蓋裂症例においては劣成長を伴いしばしば認められる。そして,そのような口蓋裂症例での上顎前 方移動は,鼻咽腔閉鎖機能・言語機能を悪化させることが懸念される。そのため,鼻咽腔機能検査で ボーダーラインにある症例では,上顎骨後端の軟口蓋付着部の前後的位置を変化させずに上顎骨を前 方移動させることが言語機能上では最も望ましい。近年当科では,このような症例に対して上顎前方 部骨延長術(Maxillary anterior segmental distraction osteogenesis;MASDO)を行う機会が増え ている。
MASDO の手術術式・治療は,1)モデルサージェリーで骨切り・骨延長量の設計,2)上顎歯列 弓内で骨切り,多くは上顎第二小臼歯と第一大臼歯の間で行う,3)前方部セグメントと後方の上顎 骨を延長デバイス(ストライカー社製 Dynaform システム)で固定,4)前方セグメントの前方移動 のみを図る場合は経口蓋粘膜にスクリューを上顎骨に挿入してデバイスを固定,5)上顎前方セグメ
4 2002 年 12 月から現在まで大阪大学歯学部附属病院 第一口腔外科で施行した MASDO 症例は 31 例で,全例に術後の鼻咽腔閉鎖機能の悪化を認めず,予定の骨延長が可能であった。デバイスの装着 部位は,口蓋 18 例(経口蓋粘膜にスクリュー固定),頰側歯槽部 11 例(上顎骨にスクリュー固定お よび歯にワイヤー結紮固定),口蓋と頰側歯槽部の併用 2 例であった。前方移動量は平均 9.5mm(最 大 17mm),前方セグメント回転症例での左右デバイス間の延長量の差は平均 5.4mm(最大 8.5mm) であった。骨延長後に生じた歯列内のスペースは叢生の解消や,後方臼歯の前方移動に利用された。 4 例には骨延長スペースにインプラント補綴を行った。また,MASDO 治療後,11 例は術後矯正治 療のみ,20 例に二次的に顎矯正手術が計画された。計画された二次的な顎矯正手術の内訳は, SSRO/IVRO 11 例,2 jaw surgery 7 例,corticotomy 1 例,で,二次的に 2 jaw surgery を行うこと でさらなる上顎位の改善も可能であった。 MASDO は口唇裂・口蓋裂術後の成長障害に伴う複雑な顎歯槽形態を解消する有用な治療法であ る。そして,口唇裂・口蓋裂症例に限らず,非裂症例においても MASDO は適応されうる。本シン ポジウムでは術後安定性の評価も加えて術式・治療経過・適応症例を発表させていただく予定であ る。 略 歴 1990 年 3 月 広島大学歯学部 卒業 1990 年 4 月︲1994 年 3 月 大阪大学大学院歯学研究科 大学院(口腔外科学第一教室) 1994 年 4 月︲1997 年 3 月 日本学術振興会 特別研究員(口腔外科学第一教室) 1997 年 4 月︲1998 年 2 月 大阪大学歯学部附属病院 口腔外科 1(制御系) 医員 1998 年 2 月︲1999 年 4 月 八尾徳洲会総合病院 歯科口腔外科 医長 1999 年 4 月︲2001 年 3 月 米国マサチューセッツ総合病院 内分泌部門 研究員 2001 年 4 月︲2003 年 3 月 大阪大学歯学部附属病院 口腔外科 1(制御系) 医員 2003 年 3 月︲2009 年 10 月 大阪大学大学院歯学研究科 口腔外科学第一教室 助教 2009 年 11 月︲ 大阪大学歯学部附属病院 口腔外科 1(制御系) 講師
中嶋 正博
Masahiro Nakajima
大阪歯科大学 口腔外科学第二講座 Second Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Osaka Dental University
骨格性上顎前突症に対しては Wassmund-Wunderer 法に代表される上顎前歯部歯槽骨切り術が適 応され,通常 1 ~ 2 年の術前矯正治療の後に手術が行われる。上顎前歯部歯槽骨切り術は矯正学的な 問題点として,術前矯正における十分な切除空隙の確保と切除前後の歯列弓幅径の調和の必要性,正 確な予測模型の作成とそれに基づくアーチワイヤーなどの骨片固定装置の作成,犬歯部での咬合平面 の段差などの問題点があり,また,手術時の問題点として手術時の切除部の隣接歯の損傷,術後の切 除部隣接歯の歯周管理,その他に術後の鼻閉,鼻出血,歯髄の失活,またまれではあるが骨片の壊死 などが報告され,このうち歯髄の失活や骨壊死においては骨内の血流の重要性が指摘されている。 われわれは数年前より上顎前突症に対して,皮質骨切りを併用する圧迫骨短縮術を応用してきた。 本法は基本的には両側の第一小臼歯を抜歯し,上顎前歯部の唇側および口蓋側にコルチコトミーを行 い,頰側および口蓋側よりアンカレッジディバイスを用いて,上顎前歯歯槽部を一塊として後上方に 牽引する術式で,短期間に骨片を移動させる方法である。手術は 2 回法で行い,1 回目は両側上顎第 一小臼歯を抜歯し,同時に口蓋骨のコルチコトミーを行う。2 回目は唇側のコルチコトミーとアン カープレートの留置を行った後,術後 2 週目より後上方に牽引を開始する。本法の利点は 1)局所麻 酔下での手術が可能である。2)骨片の血流が温存される。3)治療期間が大幅に短縮できる。4)矯 正治療と平行して手術が可能である。5)術式が単純で手術侵襲が軽度である。6)歯髄壊死の可能性 が少ない。7)アンカレッジディバイスを用いることにより後方臼歯のアンカーロスを防止できる, 等が挙げられる。 従来の外科的矯正治療では術前矯正治療後に顎矯正手術さらに術後矯正治療が行われるのに対し て,圧迫骨短縮術では矯正治療と手術の同時進行が可能で,このことからも治療期間の短縮が可能で あり,現在まで経験した 17 例においては平均の動的治療期間は 12 か月であった。本法は手術侵襲が
4 略 歴 1979 年 大阪歯科大学 卒業 1986 年 大阪歯科大学 助手(口腔外科学第二講座) 1997 年 大阪歯科大学 講師(口腔外科学第二講座) 2003 年 大阪歯科大学 助教授(口腔外科学第二講座) 2004 年 大阪歯科大学大学院 助教授(口腔外科学第二講座) 2007 年 大阪歯科大学 准教授(口腔外科学第二講座) 2007 年 大阪歯科大学大学院 准教授(口腔外科学第二講座) 日本口腔外科学会 専門医 指導医 日本顎関節学会 顎関節症専門医 インフェクションコントロールドクター(ICD)
長谷川和樹
Kazuki Hasegawa
静岡市立静岡病院 口腔外科 Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Shizuoka City Hospital (Shizuoka Pref.)
目的:顎裂部に広範な骨欠損を有する口唇裂・口蓋裂症例では補綴治療がしばしば困難である。ま た前歯部の顎堤に著しい萎縮がみられる場合は,さらに様々な問題を伴ってくる。今回われわれは, 広範な顎裂部骨欠損と前歯部の著明な顎堤萎縮を伴う唇顎口蓋裂症例に骨延長術と骨移植を併用して 歯槽堤を形成した 1 症例を経験したので,外科的な観点を中心に報告する。 症例の概要:患者は 33 歳,男性。左唇顎口蓋裂にて数度の手術を受けている。 平成 13 年秋に上顎前歯の補綴処置のため近医(歯科)を受診したが前歯歯槽部の著明な萎縮を認め たため同年 12 月当科を紹介され受診した。前歯部は広範な顎裂のみならず重度の慢性辺縁性歯周炎 のため両側中切歯,側切歯は欠損し右側切歯部を除き歯槽堤はほぼ完全に欠損していた。また上唇部 の平坦化も著明であった。手術による一期的な修復は困難であると判断し,またリスクもあるため義 歯による治療を勧めたが,患者は固定式の補綴治療を強く希望した。そこで,数度の手術説明と話し 合いを行い,最終的に段階的に歯槽堤を形成する方針に決定した。まず,低位歯槽頂の改善と可及的 に顎裂部の狭小化を図るため平成 14 年 4 月より骨延長術を行い,次いで平成 15 年 1 月顎裂部への 2 次的骨移植,水平的骨造成術を施行した。最終的にインプラント治療を希望され,同年 5 月インプラ ントを埋入し,平成 16 年 3 月上部構造を作製した。 結果:骨延長ならびに骨移植の生着は良好であった。しかし以前行われた数度の手術による過度の 瘢痕形成のため,骨移植時の創閉鎖が非常に困難であった。 考察および結論:非常に広い顎裂や歯槽部が著明に萎縮した部位への一期的なボリュームのある骨 移植は極めて困難である。本症例では,まず骨延長にて顎裂部の狭小化や低位歯槽頂の改善,さらに 軟組織の延長を図った後に,顎裂部や歯槽部への骨移植を行った。数度の手術により過度な瘢痕形成 がある唇顎口蓋裂症例では,移植骨を軟組織で被覆することが困難であり,骨造成量にも限界がある
4 略 歴 静岡市立静岡病院 口腔外科 科長 1979 年 日本大学松戸歯学部 卒業 1979 年 東京医科歯科大学 第 1 口腔外科 専攻生 1981 年 埼玉県立がんセンター 口腔外科 レジデント 1982 年 東京医科歯科大学 第 1 口腔外科 医員 1986 年 北里大学 形成外科 助手 1987 年 東京医科歯科大学 第 1 口腔外科 医員 1989 年 静岡市立静岡病院 口腔外科 科長 東京医科歯科大学 非常勤講師 <資格,他> 歯学博士(東京医科歯科大学) 日本口腔外科学会専門医(1987 年) 日本口腔外科学会指導医(1994 年) がん治療認定医(2010 年)